三百二十六話 妙な事故と海外ドームの今後
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『雲の上の事故と海外ドーム』
人工天体から帰還したユウヒと育兎は、その足で中央ドームの内部に向かうとすれ違った忍者を三人ほどひき逃げしたあとすぐにドームのゲート化に取り掛かった。その迅速な行動により現在都心の廃墟の中央には大きなゲートが聳え立ち、周囲では倒壊した建物の撤去とインフラの復旧が行われている。
「なぜこんなことに」
大きなニュースとなって然るべき出来事である中央ドームのゲート化、しかし世間はそれ以上のニュースによって騒がしく、ゲート化のニュースは故意か偶然か随分小さく報道されていた。
「スズランも三割壊れた様ですね」
「それで、故障なのか?」
中央ドームのニュース以上に世間を騒がせたのは、ユウヒと育兎も確認していた人工衛星の墜落。どうやら二人が見たのは氷山の一角であったようで、世界各国の所有する人工衛星が官民関係なく無数に墜落しており、現在地球全体で衛星を介した通信の状況が劣悪となっている。墜落した衛星の中には日本の最新衛星であるスズランも含まれ、複数の衛星リンクによる情報解析能力は大きく低下してしまっていた。
「突然壊れたと言う話ですね……」
「ん? あぁユウヒ達は無関係らしい」
同時多発的に引き起こされた衛星の墜落事故は、一部でテロなのではないかと噂され、またユウヒ達の動向を知っている者達の中には、彼らが何か仕出かしたのではないかと囁く声尾も聞こえてくるが本当に彼らは関係ない。
「本当ですか?」
「大気圏に突入する時にユウヒ達も落ちる衛星を見たらしい、その時念のために確認してが影響する様な何かは無かったそうだ」
「衝突したわけではなく?」
「どんだけでかい宇宙船なんだよ」
ユウヒと育兎が宇宙船で地球に帰還したと言う話を知る政治家は、途中で衛星にぶつかったのではないかと呟き、その何気ない呟きが拡散したのが原因の噂話であるが、衛星軌道上はとても広く大半の人工衛星は小さい、どれだけ大きな宇宙船をもってすれば広範囲で同時に人工衛星を落とせるのか、よく考えれば無理であることは誰しもわかる。それでも尚彼らに責任を押し付けたい者は少なくないようだ。
「ですよね、すみません」
呆れた様に呟く石木に苦笑を洩らす若い男性は、周囲から聞こえてくる溜息に気が付くと恥ずかしそうに頭を掻くのであった。
一方そんな疑いを掛けられてるなど知りもしない本人たちは、予定より大きくなってしまった都心の中央ゲート脇にコンテナハウスを再設置し、これまでの取得データを整理しながら今起きている同時多発人工衛星墜落事故についても調べている。
「なんかすごいことになったね」
「なんで衛星が一斉に落ちたんだ?」
どこからか拾ってきたのか、それとも自前なのか赤い尾を引き地球へと墜落していく衛星の映像をいくつも広げて見詰める育兎は、ゆっくり首を傾げながらつぶやき、隣で一緒に映像を眺めているユウヒは地球側から撮られた複数の流れ星の映像を見て不思議そうに呟く。
「それが全然わからないんだよね」
「ブラザーでもわからないのか?」
最初に自分たちの宇宙船による影響を考えたが肯定できるデータは見当たらず、次に人工天体要塞の出現による影響を考えた育兎であるが、どんなに最悪のケースで計算しても目の前の映像の様な現象には繋がらなかった。
「ふふふ、そう言ってもらえるのはうれしいけど、僕だって万能ではないから」
「そうなのか……でもなんとなく嫌な感じがするな」
少女にしか見えない白髪赤目老人なら、すぐにでも原因を突き止めるんじゃないかと思っていたユウヒの呟きに、ニッコリと笑みを浮かべる育兎はどこかむず痒そうに体を横に揺すると笑い声を洩らす。大半の男ならハートを撃ち抜かれそうな仕草を前に眉を顰めたユウヒは、人工衛星が落ちる直前の映像に目を向けると唸るの様に呟く。
「そうだねぇ……ん? あ! 異世界のネットワークが繋がったよ、これで世界中のドームのゲート化が進むね」
ユウヒに目を向けその嫌な予感に賛同する育兎、彼が何か伝えようと口を開いた瞬間、二人が見ていた大きなモニターに新しウィンドが開きアラームが鳴る。どうやらそれはドームに関係する作業の完了を伝えるものだったようで、それによりドームのゲート化が進むと育兎は嬉しそうに笑みをユウヒに向けた。
「そうか、俺の作ったものはもういらない子か」
世界補完装置を使った異世界のネットワークによってゲート化が加速すると聞いたユウヒは、つい最近自衛隊に受け渡した製作物に思いを馳せるとすこし残念そうな、それでいてほっとしたように呟くと肩を竦める。
「いやいや、現地測定は大事だから使うからね? 移動準備には必ず必要なんだからむしろ増産してもらえる?」
「……キリンさんがいいな」
しかし、彼の作った調査機の需要はこれからさらに拡大すると言う育兎の言葉に、げんなりとした表情を浮かべるユウヒは、嫌そうに可笑しなことを呟く。
「なんでだよ、そんな大きさで作らないでコンパクトに頼むよ」
「それじゃアリさんか、大変だな」
増産と象さんを掛けたボケに気が付きつつ呆れた様に突っ込む育兎、そのクスクスと笑い声を洩らす彼にユウヒはちらりとコンテナハウスの入り口に目を向けると今度は蟻だと呟き、極小機器の製作難度に妙に真面目な表情を浮かべる。
「それはそれで使い辛いな……あ! ゲートの移動を引っ越しにかけたんだな!」
すっかりやる気をなくしているらしいユウヒに肩を竦めた育兎は、彼の視線の行方を追うと何かに気が付く。
「ボケを説明せんでもろて?」
二人の作業するコンテナハウスには荷物搬入のために使われたダンボール箱が転がっており、その一つには蟻のイラストが描かれた引越センターのダンボールも混ざっていた。そんなダンボールからインスピレーションを得たユウヒのボケに理解を示した育兎を見るに、彼の世界にも似たような引っ越し業者が存在する様だ。
朝からドーム内のデータ整理や散らかったコンテナハウス内の整理に動き回る二人が昼食の相談をしている頃、石木はとある会議室で険しい表情の総理大臣と見詰め合っていた。
「お隣さんから苦情が来ているわけだが」
特に薔薇が咲き乱れることもない見詰め合いは、阿賀野の言葉によって中断される。どうやら隣国からの苦情を受けてウンザリしている総理大臣の愚痴を聞かされていた様だ。
「海外協力と言う事であのあたりの国と纏めて契約したからな、その関係でついでとばかりに向こうさんが受注間近だった工事を奪ってしまったわけだから、まぁ噛みついてくるわな」
「そんなことより国内の整備に集中してほしいものですね」
どこの話をしているのか傍から見たらよく解らない会話でも、二人の間では分かっているのか溜息を吐き合う大臣二人。どうやら日本が何かをやり過ぎた結果他国の利益をかすめ取る様な形になったようで、海外に手を回すより先に国内の現状を何とかしてほしいと肩を落とす阿賀野。
「そのためにも海外受注を加速させてたんだろ?」
「ふむ……しかし皆さん厄介払いと言った感じですね。ドームも嫌われちゃってまぁ」
実際のところ、現在のような状況に至る最終的な許可は総理大臣である彼が出したものであり、それは阿賀野の願いにも即したものである。国際情勢や貿易状況の悪化から国を守るため、その行動が引き起こした状況から目を逸らす様に声を漏らす彼は、テーブルの上の書類束を手に持つと話を逸らす様に話し始めた。
「街が平気で半壊するような事件が起きてるからな、危険物以外のなにものでもないだろ」
「ですがずいぶん稼いだ国もあるみたいですよ? 金の価格が一気に落ちましたし」
阿賀野が手に取った書類には世界各国から日本に寄せられた要望がまとめられており、それらはすべてドームに関するものである。ドーム被害国の実に9割以上の国が日本にドームの撤去及び回収を依頼しており、それにより発生する日本の利益は計り知れない。いくら富を生み出す可能性があるとは言え、ドームからの流出による被害は世論に小さくない恐怖を植え付けており、少しでも早く国土から排除したいと言うのが日本に依頼する国の共通認識の様だ。
「レアメタル関連も結構下がったよな、需要が増えてすぐに戻ったけど」
「ええ、ところで国外のドームを回収したとして管理の目途はどうなんでしょうか?」
単純な脅威以外にも様々な影響を与えるドーム、大きなリスクとリターンを抱えるドームの回収を前提に動いている日本であるが、まだまだ解決しないといけない問題が残っている。ほぼ決まっていると言っても良いドームの回収と管理に関する法案に反対する野党はその問題となっている場所について執拗に突いていた。
「海上都市が出来るまではあちこちに分散するしかないだろ」
様々な事実と憶測を吹聴する野党の言葉がメディアにより拡散され、ゲートの仮設置場所では市民団体による抗議集会が度々開かれている。
「またよく解らない苦情がきそうですね」
「地域活性化に一躍って構想らしいがどうだろうな」
インフラの復旧がなかなか進まず、魔力による体調不良者が減らない世の中で、常に足を引っ張り合う人々にため息を漏らす阿賀野は、幸か不幸か地方のゲート設置場所の住民の中に肯定的な意見が多い事で希望を見るも、その原動力が何なのか今一つ理解できず、苦笑を洩らす石木の言葉に対しても手放しで喜べないのであった。
日本の外交官が嬉々として受けて来た各国からの要望書に大臣二人が頭を悩めている一方で、最もドームの管理について知見を持っている育兎の下にも当然その資料は送られてきていた。
「思っていたより多いね。早く厄介払いしたいのかな? ちょっとこれは整理に時間がかかりそうだよ」
「我々にできるのはこのくらいで、後は現地のスタッフからの報告書待ちです」
重要な機密文書である為、いつでも燃やして破棄できる紙媒体の形で政府の役人から直接手渡された育兎は、コンテナハウスの外に増設したテント付きウッドデッキスペースに広げられたダイニングセットに腰かけ、対面に座る役人と書類の内容について話し合っている。どうやら書類には要望とちょっとしたドームの状況について書かれているだけで、今後の計画に必要な詳細情報は現地のスタッフから届くのを待っている状況の様だ。
「ふーん、結構未帰還者が多いけど、もしかして放置してる感じ?」
ドームに関する情報が少ないとは言え結構な数の国から国内すべてのドーム回収を要請されている為、よく読む必要がある内容も多く書類の枚数も多い。そんな書類を捲っていく育兎は次第に表情を険しくしていく。その理由はドームの未帰還者割合である。
「ええ、人道的な配慮から救出するとは言っていますが……」
各国政府も全力を挙げて取り込まれた人間の安否確認を行っているが、先進国の様に規制を掛けられる国ばかりではなく、一部の国では毎日の様に不正な出入りが繰り返され、ドーム内に入った人間がどれだけいるのかわからない国も少なくない。
「流石にその人たちが入ったまま日本に持ってくるのは無理だよ、絶対に後から問題になる」
「確かにそうですが」
そんな国のドームをゲート化したとして、未帰還者がいる状態で日本国内にゲートを移設するなど考えられず、完全な援助には不適切として現在も調整が難航している部分である。日本に移設後ドームから出てきた場合は密入国になり、ましてや移設作業中に出てこられたらどんな事故に発展するかわからない。
「ゲート化してすべての救出か、せめて安否確認が完了するまで持ってきたくないね」
「上に伝えておきます」
そう言った危険性を考えると育兎の言う事は至極当然であり、書類を持ってきた男性も理解を示す様に頷く。
「まぁ中央ドームも一応ゲート化完了したから焦る必要は無いし、日本国内の処置を進めた後の話だね……ただちょっと問題があってね?」
「問題ですか?」
回収予定のドーム全てが育兎の示す条件をクリアするにはどれだけの時間が必要なのか、聞き耳を立てていたユウヒはまた時間がかかりそうだと肩を竦めそっと顔を引っ込める。そんな背後の気配に苦笑を浮かべた育兎は、本格的に海外ドームのゲート化作業に着手するにもまだ時間が必要と話す。
「当初想定していたより国内の安定化に時間がかかりそうなんだ」
「それは、理由を聞いても?」
どうやら中央ドームのゲート化と異世界間のネットワーク構築は完了したが問題も同時に発生している様だ。そんな育兎の言葉に少し驚いた表情を浮かべた男性は、少し身を乗り出す様にして問いかける。
「んー……話したくないわけじゃないんだけど、邪魔している要素が不明でね」
「不明ですか」
「そんな驚かないでよ、僕だってすべてを把握してるわけじゃないんだ。ただまぁ、これは勘だけどね? 原因は人が知覚出来る事や手を出せる外側からだと思う。夕陽君もそんな気がするって言ってるし」
身を乗り出してくる男性に眉を上げた育兎は困った様に原因が不明だと言うと、驚いた声をで呟く男性にユウヒの姿を思い出してクスクス笑うと、原因がわからないがしかしそこに感じる違和感から人や自然現象などではないと話す。
「夕陽さんもですか……そちらも合わせて至急連絡しておきます」
ユウヒの勘も育兎の予想に賛同しているらしく、男性は彼の異常な勘について聞いているのか真剣な表情でメモを取ると、スーツのポケットからスマホを取り出した。
「まぁ石木大臣の事だから連絡が行ったら直で連絡してきそうだけどね、別に急いで連絡する内容でもないしお願いね」
「了解しました」
ユウヒの勘と言う言葉だけで過剰に反応する男性に苦笑いを浮かべる育兎は、一体どんな風に脅されたのか気にしつつも、今慌てたところで意味がない話だと諭すように話すと、少し恥ずかしそうに返事を返す男性に肩を竦めるのであった。
その後、話が一段落したのを確認したユウヒがお茶を出しに現れると、男性はひどく恐縮した様に頭を下げ、そんな様子に育兎とユウヒは揃って頭を傾げる。誰から何を聞かされたのかと声を出さずに鼻から息を吐くユウヒは、彼がまだ歴の短い石木の秘書だと聞くと全てを察した様にため息を洩らすのであった。
いかがでしたでしょうか?
ユウヒと一緒に多数の人工衛星が降った地球でいったい何が起きているのか、ドームの安定化が進む中に感じる不穏な気配はユウヒにどう関わって来るのか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




