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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第三十一話 悪い報せ

 どうもHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させていただきます。皆様のお好きな時間のお供に楽しんで頂ければ幸いです。



『悪い報せ』


 名も無き異世界の森の中、風に乗って流れてきた僅かな異臭にクマが気が付き、彼を先頭にルカ達が移動速度を速めてから数分後、彼女たちを探すネムの下には予想もしない凶報が届いていた。


「な、それは本当かにゃ!」

 その報告を聞いたネムは、あまりの驚きに目を見開いて思わず大きな声を上げてしまう。


「はい、ユウヒ殿と似た服を着た捜索対象と思われる人物の後方に、300以上のゴブル族とオーク族の混成部隊を確かに確認しました」


「なんだと!?」

 彼女が聞いた部下からの報告は、極めて最悪と言っていいものであり、聞き耳を立てていたネシュ族の男性に至っては、驚きの声を上げるとその顔を真っ蒼に染める。それほどまでに300以上のゴブル族とオーク族の混成部隊と言うのは、危険な相手の様であった。


「・・・遠目でしっかりと確認できていませんが、装備の統一性から十中八九魔王の兵士ではないかと」


「・・・」

 聞き耳を立てていた男性を、鋭く細めた目で睨みつけた黒毛のネシュ族女性は、視線を戻すと報告の続きを話し始め、その報告に苦虫を嚙み潰した様な表情を浮かべるネム。


「な、何てことだ・・・ぼぼ、僕はすぐに周辺の集落に行って知らせる! お前たちはそのまま監視して逐一報告するんだ!」

 苦々しい表情を浮かべながら真剣に何かを考えるネムに対し、聞き耳を立てていた男性は恐怖に震えて狼狽えると、恐怖が伝染したように顔を蒼くするネシュ族男性と共にその場を離れようと動き始める。


「・・・どこに報告するのかにゃ? 獣人の方かエルフの方か」


「え? あっと・・・両方だ! わかったな! お前たち行くぞ!」

 今にも走り出しそうな男性に、スッと目を細めたネムは目に見えて下がる機嫌のまま冷たく問いかけ、ネムに呼び止められるように問いかけられた男性はしどろもどろになりながらそう吐き捨てると、自分の部下を引き連れ来た道を走って戻り始めるのだった。


「・・・私達は今グランシャに頼まれて動いているから、まずは騎士団の人か母樹の社に向かうべきなんだけどにゃ」


「彼にそれを言うのは酷ではないかと・・・」

 まさに尻尾を巻いて逃げるという言葉がよく似合う光景に、ネムはうんざりした表情を隠すこともなく浮かべると、頭を掻きながら呆れた声を洩らす。現在彼女たちの指揮はリーヴェンが受け持っているため、何かあれば一度リーヴェンの居る母樹の社と言われる例の遺跡に報告しなければいけない。


 だが、急遽ネムについてくることになった。正確にはなった・・・ではなくした・・であるが、走り去っていくネシュ族の男性たちはその命令系統に属しておらず、また彼女たちに命令を出す権限も本来はないのだ。


「だから言わなかったのにゃ」


「ネム様はお優しいですね」

 勝手についてきて、終始愚痴をもらし、さらには近づいてくる脅威を恐れて一目散に逃げる。何をしたかったのか全く分からない彼らの行動に、いい加減辟易していたネムはこれ幸いと、去っていく男性陣を見送ったのであった。


「そんなことはどうでもいいのにゃ、それよりまだ接触はしてないにゃ?」

 今にも塩を撒き始めそうなネムの表情に思わず苦笑を洩らした黒毛の少女に、ネムは彼女をジト目で見つめると報告の続きを促す。


「はい、相当感がいいのか、こちらが魔族の群れを感知してから程なく移動速度を上げたそうです」


「・・・私は急いでユウヒに伝えてくるにゃ。それまでは母樹の社・・・いやここからだとハラリアが近いからそっちに誘導するのにゃ」

 部下の報告に真剣な表情で思案したネムは、保護対象と思われる人間の能力と、魔族の能力を簡単に計算すると指示を出し、すぐに腰や背中に身に着けていた荷物を外して目の前で手を差し出す黒毛の少女に手渡す。


「さりげなく、ですね?」


「うにゃ、でも接敵の可能性があれば援護していいにゃ。対象かどうかわからないけど何もしないよりにゃ・・・」


「ユウヒ殿を敵に回す方が問題ですか、了解しました」

 身軽になったネムは、笑みを浮かべて確認してくる少女の言葉に頷くと、鞣された革と毛皮で作られた服の帯を締め直し、困った様な笑みを浮かべる。その言葉と表情に、黒毛の少女は苦笑を洩らすとそう口にし、無言でうなずくネムにむかって自信の感じられる笑みを浮かべるのだった。


「あとは騎士様たちにも知らせたいところだけどにゃぁ」


「手が足りれば、ですかね」

 そんな少女から視線を外し森を眺めながら、その場で軽く跳んで愚痴を零すネム。どうやら彼女の部下はまだまだ人数が少ないようで、彼女が手を回すことが出来る範囲にはいろいろと制限が多いようである。


「うちの部隊も、もう少し増強したいところだけど手が回らないしね・・・それじゃ行ってくるにゃ!」


「はっ! ご武運を!」


「むしろそっちがにゃ!」

 愚痴を零すネムに、申し訳なさそうな表情を浮かべる獣人族の少女達は、一度振り返り笑みを浮かべ走り出すネムの背中と、彼女が残していった言葉に表情を引き締め、お互いに無言でうなずき合って移動を開始するのであった。





 一方その頃、世界樹の苗木の運搬任務を終えたエルフの騎士たちは、苗木を植える予定の里を後にし、半自主的にユウヒの妹捜索の手伝いをするべく、樹木が生い茂る森の中を5人で歩いていた。


「隊長、この先はだいぶ奥までネシュ族が調べた後のようです」

 そんな一見何の変哲もない森の中には、森の住人にしかわからない変化があるらしく、ここがすでにネム達によって調査済みであることを、その変化から読み取ったらしい逞しい腕の男性エルフが、隊長と呼ばれた男性エルフに振り返って報告する。


「ふむ、ネム殿は相当張り切っているようだな」


「珍しいですね、あの方は有能ですが気まぐれと言った感じなのに」

 先頭を歩く袖のない軽装鎧を着た男性の言葉に、隊長のエルフ男性は少し驚いたように目を見開き小さく声を洩らすと、今度は微笑みながら可笑しそうに感想をもらした。そんな隊長の言葉に首を傾げたのはまだ幼さの残るエルフで、きっちりと軽装鎧を着ている姿は、どこかリクルートスーツを着せられた新入社員を髣髴とさせる。


「ははは、あまりそんなこと言っていると後が怖いぞ? ネム殿も立場上いろいろと大変なのだ」


「まぁ確かに御孫さまですからねっと、この言い方も嫌がるんでしたっけ?」

 彼のネムに対する辛辣とも取れる感想に、思わず笑い声を洩らしてしまう隊長は、首だけで振り返りながら柔らかく注意を促し、注意された青年エルフは眉を寄せながら言葉を選ぶも、その選択は以前に注意されていたのかさらに眉を寄せて困ったように首を傾げる。


「ふふ、アブルならよく解っているんじゃないか?」


「勘弁してください隊長、引掻かれた傷が疼き出しちまう・・・」

 エルフの中ではまだまだ若い青年エルフの表情に笑みを浮かべた隊長は、ニヤリとした笑みを浮かべると、青年エルフの左隣を歩いている短髪の男性エルフに話を振り、話を振られたどこか不真面目さを感じるアブルと言う男性エルフは、本気で嫌そうに表情を歪めると、まだ治り切っていない頬の引掻き傷を撫でるのだった。


「自分気を付けるっス!」


「うっせ!」


「うわぁやめるっス!?」

 そんなアブルの後ろには五人目のエルフであり、まだまだ少年と言った雰囲気の抜けきらないやんちゃそうなエルフの少年が居り、そんな少年の言葉に苛立ちを感じたアブルは、短く怒鳴ると少年の頭を小脇に掴んで締付け、しかし少年もアブルも表情は笑顔に溢れており、その行為がただのじゃれ合いであることは明確である。


「じゃれあいもほどほどに・・・ん? あれは」

 そんなじゃれ合いはいつもの事なのか、皆が皆笑みを浮かべ、先頭を歩く逞しい男性エルフが苦笑を浮かべる中、その男性は進行方向やや右側下方に妙な集団を発見して足を止めた。


「んーありゃネム殿について行ったやつらですかね? なにかやらかしたか?」


「・・・ふむ、何かあったようだな、ちょっと聞いてくるから待っていろ」


『はっ!』

 アブルが目を凝らし見下ろした先に居たのは、ネムと一緒に世界樹の里を出たネシュ族の男性達である。その男性達がなぜかすでに捜索済みであるはずのこの場に存在し、その雰囲気も異様であったことから、目を細めた隊長は部下に指示を出すと、声をそろえて返事をする部下に見送られながら、一人樹の上に飛び上がってネシュ族男性達の下へと移動を開始するのだった。





 一方、精霊騎士であるエルフの男性が近づいてきていることなど、気が付きもしていないネシュ族の男性達。本来なら彼らの鋭敏な五感を駆使することで、その接近に気が付くとことが出来るのだが、今の彼らにはそんな余裕はなかった。


「はぁはぁっ! 急げ! 里につけば安心だ」


「了解です! ・・・しかしよいのですか?」


「300だぞ! やってられるか!」

 なぜなら彼らの後方からは今も魔族、しかも魔王軍と思われる混成部隊が300以上も近づいてきているのだ。十数人程度の獣人族が正面から立ち向かったところで、数の暴力によって一蹴されるのが関の山である。


 彼らが逃げに徹すること自体は責められるものでもないのだが、しかし彼らの会話を聞いていて咎めるところが無いかというとそうでもなく、そのことが気になった者が一人、樹の上から彼らの目の前へと降り立った。


「ほう、何がやってられないのか教えてもらえないだろうか?」


「な!? 精霊騎士団長!」

 それは当然、ユウヒを世界樹の社に案内し、今もユウヒの妹捜索を手伝っていた精霊騎士団の隊長である。彼はネシュ族男性達の進行方向にひらりと飛び降りると、急停止した彼らに向かって薄く微笑み、彼らが先ほどまで話していた内容に関して問いかけるのだった。


「うむ、それで何がやってられないのかな?」


「あ、その・・・なんでも」


「なんでもないわけがないと思うのだが? ふむ、あなたの部下は揃っているようですが、ネム殿の部下は見当たらないようですな」


「それは・・・」

 自らの役職を怯えたように叫ばれた男性は、特に表情を変えることなく一つ頷いて見せると、目を泳がせて挙動不審な動きを見せるネシュ族の男性に優しく問いかける。しかしその目は一切笑っておらず、相手に感情を読ませない色をしており、そのことがより一層目の前の男性を怯えさせていた。


「代わりに私が説明いたします」


「おま!?」


「うむ、頼む」

 特に威圧する気もない隊長の問いかけに対して、逃げてきた後ろめたさから言葉が出てこない、ネムの行動に終始噛みついていたネシュ族男性。そんな男性に代わって、後ろに控えていた一人のネシュ族男性は前に出ると、男性エルフから視線を逸らさず話し始める。


「現在、捜索対象と思われる者たちの後方からゴブル族とオーク族の混成部隊、約300が接近中であります」


「なに?」

 リーダーである怯えた目の男性には、まるでしゃしゃり出てきたように見えたが、彼の前で男性エルフの目を見詰めながら話す側近の男の尻尾は、緊張と恐怖で膨らみ震えており、そのことが怯えた目の男性の口を閉じさせていた。


「我々はこのことを少しでも早く皆に伝えるために移動していた次第です」


「・・・ふむ、なるほどよくわかった。それでは君は「カスルです」うむ、カスルはグランシャに連絡を、残りは分担して各集落に連絡・・・君は、予定通りハラリアに連絡に行くといい」


 カスルと言う男性の説明を聞いた男性エルフは、手を顎に添えながら熟考すると、すぐに顔を上げて彼らに指示を行きわたらせる。


『はい!』


「は、はい」


「報告後はハラリアにて指示を仰ぐといいだろう」

 本来なら命令系統の違いから断ることもできるのだが、指示の内容は彼らの建前とも一致し、さらに精霊騎士団と言うのは男の子にとって憧れの対象であることもあり、その隊長から指示を出された一部のネシュ族男性は、その目を少年のように輝かせながら背筋を伸ばすと、顔を蒼くさせ怯えた目の男性を一人男性エルフの前に残し、指示を逸早く遂行するためにそれまでと違うきびきびとした動きで走り出すのであった。


「それは・・・」


「なに、気概の無い者は邪魔なだけだからね」


「・・・了解しました」

 一方一人残された男性は、遠回しに里から出るなと言われたことに気が付くと、疑問と僅かなプライドで口を開くも、まるで子供に言い聞かせるような表情の男性エルフを前に何も言えなくなり、しぼりだすように返事返すと走り出す。


「・・・まったく」

 そんなネシュ族男性の後ろ姿を見送った隊長が、小さくため息混じりの声を洩らすと、


「はぁ・・・あれがネシュ族男の本質ってやつですかい、そりゃ少子化で悩むわけですね」


「・・・待てと言ったのだがな」

 背後からよく覚えのある声が聞こえてきたことでさらに肩を落とし、背後の人物達にジト目を向ける。


「そんな呆れないで下さいよ、兵は迅速を尊ぶって言うじゃないですか」


「なら指示しなくてもわかるな」

 そこにあったのは、悪びれた様子が全くないアブルの明るい笑みと、苦笑を浮かべる三人の部下の姿であった。指示を無視してやってきた部下の姿に頭を抱えたくなりはしたものの、こと現状においてはアブルの言うことも一理あるため、頭を掻きながらジト目でアブルを睨むだけにとどめた隊長。


「はっ! これより我々は森に侵入してきた混成魔族に対し遅滞攻撃を行い、道中で困っている人がいればこれを救助します!」


「うむ、では急ぐとしよう」

 そんな問いかけに対し、十分合格点を与えることが出来る返答を返したアブルに、困った様な表情で小さく苦笑を洩らした隊長は、表情を引き締めるとそれまでの探索の為の歩きではなく、明確な目標をもって一直線に森を走り抜け、その後ろを四人の部下が遅れることなく追順するのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ルカを取り巻く状況は悪くなって行き、同時にその助けとなりそうな者たちが動き出しているようです。この先の状況がどう変わっていくのかどうぞお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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