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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
適応と摘出

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第三百十二話 わからないが解る

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『わからないが解る』


 ここは中央ドームの目の前、ドーム縮小に合わせて取り込まれていたビルが一部倒壊を始め、監視のために駐留していた自衛隊は、部隊を増員して瓦礫の撤去作業を行っている。ホースで水を撒きながらの解体作業でも土埃は発生するもので、しかしとある二人が陣取る場所は円形状に一切の埃を通さない空間が出来上がっていた。


「解析の結果! わからないが解りました!」


「……なるほど?」

 そこに居たのは育兎とユウヒの二人、成人男性三人分ほどありそうな仰々しい機械の前に立つ育兎は、機械の突起に引っ掛けたホワイトボードを背に大きな声を張り上げる。どうやら中央ドームで収集したデータの解析が完了したようだが、その結果はわからないことが解ったとのことで、身動ぎ一つせず見詰めてくる育兎の視線を受け止めたユウヒはにっこりと笑みを浮かべた。


「えっと……そこはツッコミがもらえると気持ちが楽なんですが?」

 怒るわけでもなくツッコミを入れるわけでもなく、ただ静かに微笑むユウヒを前に後退る育兎は、不明と書かれたホワイトボードを背中で揺らすと両手を口の前で合わせ、怯え震える様に肩を窄めてユウヒを上目遣いで見詰める。


「人間は万能じゃないんだ。大丈夫、怒ってないよ?」

 優しく微笑むユウヒは、元はビルの柱か梁だったのであろう角張った瓦礫の上に座って育兎の視線を受け止めると、不思議そうに目を瞬かせながら特に怒ってはいないと話す。実際に彼は何一つ今回の報告に対して不満を感じておらず、不安そうにする育兎が思うような批判など欠片も抱いていない。


「優しさが逆につらい!?」


「それで? 何が解らないんだ?」

 しかし、世の中には叱ってもらったり批判してもらった方が楽な場合も存在し、優しさしかないユウヒの言葉を真正面から受けた育兎は、今にも吐血しそうな表情で胸を押さえるとその場に蹲る。


 育兎の設置した機械によってクリーンな空気で満たされた簡易的な青空会議場となっている地面は、ある程度均されてはあるが、その地肌は凸凹としたコンクリートの地面で膝をつくにはあまり向かず、地味な痛みに表情を歪める育兎はユウヒに手を取られ立ち上がると彼の疑問に眉を寄せて見せた。


「うん、中央ドームの核になる物は必ずあるはずなんだけど、何が核になっているかがわからない。明らかに向こう由来の物質で僕のデータベースにはないものだと思う」


「管理神か……でも核って装置なんじゃないの? あの箱弄ってたら襲われたわけだし、作り変えられていたりしない?」

 育兎曰く、わからない物とは特殊な中央ドームと言う異世界を成立させている核であると言う。


 手に入れたデータが足りないのもそうであるが、わかる範囲で想定しようにも、核の一部であろうと思われる装置を囲うケースの素材は、彼の持つデータベースには存在しない物質で構成されている。そんな未知の物質で封印されているのであれば核は装置自体なのではないかと、妙な物質に浸食でもされているんじゃないかと首を傾げるユウヒ。


「どんなにバグがあっても装置は異世界をあんな風に変質させることはないよ、調べてみて分かったけどあの世界は玉ねぎみたいな構造になってるんだ」


「玉ねぎ?」

 しかし、どんなに装置が異変を起こしたしても今のような状況にはなりえない、それは制作者本人であるからこそ断言できることのようで、一方で異世界を調べて分かった事もあるらしく、玉ねぎと言う例えにユウヒはキョトンとした表情を浮かべる。


「装置を包むドームの壁が何層にもなっていて、一定の負荷がかかると維持出来なくて拡大霧散、ドームが少し縮小して内部空間で融合が起きる。ゲート付近の様相が変わっていたのは荒廃した世界に別の世界が混ざった結果だね」

 どうやら急拡大しながらユウヒ達を襲った装置を格納するケースの実態は、何層にも折り重なったドームであるらしく、現在彼らの目の前で少し小さくなった姿を見せるドームは、装置を包むドームが一層破壊された結果であるらしい。


「玉ねぎってことは、全部剥けば?」


「本体が顔を出すはずだ、それが核で装置はそこに取り込まれているはずだよ」

 そんな折り重なったドームも無限ではないらしく、玉ねぎを一層ずつ向いて行くと何れ中心部に到達するように、ドームを全て引きはがす事で装置へ到達するであろうが、その前に核となっている何かが現れるはずだと話す育兎。


「装置と核を分離して装置を回収すればミッションコンプリート?」


「そのはずだね。通常どんなに頑張ってもドームの中にドームを入れられるのは一つ二つが関の山だけど、解らないなりに計測したら十個以上は内包してるよあの中央ドーム」

 そして現れるであろう核から装置を引きはがせば中央ドームにおける作戦はすべて完了となり、あとは育兎の手で再調整された装置でドームを安定化させれば最悪の事態は免れるはずだ。しかしそんな玉ねぎを剥く作業は、当初育兎が想定した以上に困難な作業となりそうである。


「するってぇと、あの戦いを十回以上繰り返せと?」


「いや、負荷量は計算できたけどそんなに強い刺激が必要なわけじゃなさそうなんだ

だから今度は特攻型の無人機でケース型ドームを破壊していこうかと、大量に投入して調査と攻撃を同時にやってこう思う」

 閉じたドアを開けようとしたら突然襲われたユウヒと育兎は、一歩間違えれば死んでもおかしくない逃走劇を繰り広げており、そんな事が後十回以上起きるなど考えたくないと表情を歪めるユウヒ。さらに、最悪道中で出会ったロボットの襲撃だってあり得ないとは言えない中央ドームと言う異世界、そんな世界を攻略するのは大変だが育兎には秘策があるらしく、無人機の説明をしながら笑みを浮かべる。


「最初からそれでよくない?」


「いやいや、これも一次二次調査が出来たから可能なだけで、こっちで把握できてない状況になればまた突入する必要があるよ? それにあのドーム、ジャミング能力が高いから無人機の操作は中でしないといけないし」

 無人機、人が遠隔操作したり自動で目的を達成する車やロボット、そんな機械で問題ないのなら最初から使えばよかったのではないかと眉を寄せジト目を浮かべるユウヒ。しかしそれらが可能なのも実際に現地を歩き様々なデータを蒐集したからであり、決して二人の珍道中が無駄だったわけではない。


「なるほど、どの道あの世界にはいかないとダメなわけだ」

 また、育兎が用意する高性能な無人機とは言え、すべて自動で行えるわけでもなく、また地球からの遠隔操作は中央ドームの特性上不可能であり、二人がドーム内に入る必要はある様で、楽が出来るかもと淡い期待を抱いたユウヒは、残念そうに背中を丸めて呟くとため息を漏らす。


「一緒に来てくれるかな?」


「そりゃ行くけど」

 見るからにやる気が減衰していくユウヒを不安そうに見詰める育兎の問いかけに、ユウヒは少し不思議そうな表情を浮かべると小首をかしげ呟く、どうやら彼に途中棄権と言う選択は最初から無い様だ。


「そこはいいともー! って言ってほしかった」


「またずいぶんと古い」


「くっ!? これがジェネレーションギャップか!!?」

 そんなユウヒの返事にほっと息を吐く育兎はぱっと表情を明るいものに変えると、いつもの調子で笑いながら返答の仕方について要求をぶつけるも、帰ってきた鋭い切り返し胸を押さえるとまたもガタガタの床に膝をついてしまう。


「おお、ゆうしゃよ死んでしまうとは情けない」


「なんでそっちは分かるんだよぉ……」

 テレビから聞こえてこない日は無いと言っても良かったフレーズも今は昔、今度は助け起こす気が無いらしいユウヒは、固いコンクリートの床に横たわる育兎を見下ろすと、瓦礫の玉座でふんぞり返るような姿勢で彼を呷り、ジェネレーションギャップと言う思わぬ口撃に崩れ去った育兎は、同じくらい古いネタを平気で使うユウヒに納得のいかない表情を浮かべる。


「鉄板ネタだから? それで、とりあえず核とか言う本体引っ張りだしてそれも壊せばいいわけ?」

 一般的な話題よりもゲーム方面に造詣が深くなるのは、彼の趣味からして仕方ない事であるが、それでも納得いかない表情でのろのろ起き上がる育兎にユウヒは話題の路線を元に戻してこれからやるべき事について問いかけた。


「どうだろ、核が何かにもよるから、剥いてみないと中身がわからないし」


「とりあえず、出たとこ勝負かな?」

 割と乱暴な事を言っているが、核となっているもの次第では間違っていない。万が一核となっている何かが爆発物や毒物であるなど危険物である場合は簡単に壊せばいいものでもなく、そう言ったことを調べる為にもまずは何重にも折り重なった異世界であるドームを引きはがさないといけない。


「……やっぱりそれ使う感じだと思う?」

 育兎の言葉に肩を竦めて見せたユウヒは、腰のバッグに手を突っ込むと何やら取り出し、その取り出された物に目を向けた育兎は一瞬目を見開くと嫌そうな表情を浮かべて絞り出すように呟く。


 彼が見詰める先にあるのは金色の細かな文字が帯状に絡みつく真っ黒な球体、管理神から渡されて早々に育兎の手から離れた見ているだけで不安になる様な危険物を手に取ったユウヒは、何か考えがあるのかここ最近常にバッグに入れて携帯している様だ。


「じゃないか? キーアイテム使わないでクリアできるゲームなんてないだろ」


「そうなると少なくとも……もう一回は中心にアタックする必要がありそうだね」

 ユウヒの勘は必ず必要な場面が訪れると言っている様で、すでに彼の中ではゲームで言う所の重要なキーアイテムと言った扱いのようで、管理神から渡された封具の使用方法を考える以上、少なくともあと一回は中央ドームの奥に広がる異世界のさらに奥まで行く必要がありそうである。


「やだなぁこわいなー」


「そんな平坦な声で言われても全然説得力無いよね」

 そんな未来が訪れるかもしれないという可能性に、わざとらしく声を平たんにしたユウヒは、ツッコミを入れてくる育兎に笑みで答えると左手に持っていた管理神の置き土産をバッグに捻じ込む。


「しかし核かぁ何だろうな?」


「管理神が関わってるんだからどうせろくでもないよ」

 今日は説明会だけで終わりのようで、ユウヒはドームに目を向けるとそこで大型ゲートの撤去と再建のために忙しく働く無人重機を見詰めながら、管理神が仕込んだであろう異世界補完装置のバグとも言える核に思いを馳せ、無人重機の状況をタブレット端末で確認する育兎は吐き捨てるように呟くのであった。





 一方丁度その頃、育兎の吐き捨てる様な呟きに同意するように頷く女性が一人黒い空間に手を突っ込んでいた。


「ろくでもないわね、まったく。でも未来の息子ならきっと解決してくれるわ」

 何かをこねくり回す様に闇の中で手を動かす女性である乙女は、育兎と同じような言葉であるが確信をもってろくでもないと呟くと、僅かに視線を横にずらし柔らかくしかしどこか闇の深い微笑みを浮かべる。


「んー? 何かわかったのか?」

 そんな彼女がクスクス笑っていると、キッチンから出て来たのか手に湯気を上げるマグカップを持つ男性が不思議そうな顔して現れ、ニッコリ笑みを浮かべて振り返る女性を見詰めながらソファーに腰を下ろす。


「ええ、世界の修復目的で用意したものにあんなもの入れてるなんてね」


「あんなもの? 危ないなら教えてあげればいんじゃね? てか神様たちにやってもらえばいいんじゃないか?」

 宙に浮かぶ闇から両手を引き抜いた乙女は、男性に笑みを浮かべ振り返ると今しがた見ていた物について話す。世界の修復目的で用意していたと言う物は十中八九ユウヒと育兎が目指している装置の事であり、彼女がろくでもないと言っていた物も二人の目的の一つである核の事であろう。


 何が目的で彼女がそれを調べていたのかわからないものの、男性は彼女の目的を理解しているのか気軽に教えてあげればと話し、いっそ管理神に頼んで気になっているのであろうユウヒを助けてあげればいいのにと不思議そうに呟く。


「あの子達って割と不器用だから、力が強すぎて世界が滅んじゃうんじゃないかしら……」


「それはだめだな、未来の息子が不憫だ」

 しかし、彼の提案は非常に難しいようで、乙女は困ったように胸の前で腕を組むとあの子達と言ってため息を漏らす。彼女の頭の中に浮かんだのは世界に数多存在する管理神達、力は強いが不器用だと言う乙女の言葉に、男性は目を瞑るほど細めて眉を寄せると何かを理解した様に小さく肩を竦め呟く。どうやら彼にとってもユウヒは未来の息子と言う認識のようで、守るべき対象になっている様だ。


「そんなことになったら……アミールちゃんに嫌われちゃう。ただでさえこの間から余所余所しいのに」

 万が一にもユウヒの世界が滅べば、当然彼の事を日々思い続けるアミールからの批判は拭えず、ましてやそれが乙女の情報提供と圧力によって引き起こされたと分れば、親子のような二人であっても関係の悪化につながるのは必至、ただでさえ話しかければ構えられる様な関係である、疎遠になってもおかしくは無く最悪関係を切られてしまいかねない。


「距離の詰め方が下手なんだよ、もう少しゆっくり距離縮めないと猫だって逃げるだろ?」


「なるほど、そうよね……泥棒猫はみんなすぐ貴方に擦り寄るものね」

 最悪の想像を思い浮かべた乙女が冷静に顔を蒼くしていく姿を見て、男性は呆れた様に肩を竦めるとマグカップの中身を一口含み、彼女の悪いところを指摘する。距離の詰め方、要はコミュニケーション能力に問題があると言われた乙女は、一方で高いコミュニケーション能力を有しているらしい男性に冷たい視線を向けた。


「お、おれは悪くないぞ?」


「そうかしら? すぐ思わせぶりな態度をとって……なるほどそうやって距離を詰めればいいのね! 行ってくる!」

 どうやら男性は異性から擦り寄られることが多いらしく、しかしそれは彼の責任ではないらしい。だがそんな男性の言葉など信じないと言う表情で愚痴を漏らし始める乙女は、急に何か閃いたように顔を上げると、一人納得した様に頷きすぐに駆け出す。


「いやおま……絶対失敗して帰って来るな」

 あっと言う間に玄関を開け放ち飛び出す妻の姿を前に、呆気にとられた表情を浮かべた男性は、手招きするように空を掻く手を静かに降ろすとソファーに身体を沈めながらめんどくさそうに呟く。


「何か美味しいものでも作って待ってるか」

 どう考えても失敗して帰って来るであろう女性が、帰宅一番どんな言葉を吐くのか想像した男性は、その鮮明な予想にため息を漏らすとすっくと立ちあがり、想像の中の泣きべそかく乙女の為に美味しいものを用意するべくキッチンに向かうのであった。


 尚、彼の予想は全て当たるのだがそれは別のお話しである。



 いかがでしたでしょうか?


 様々な被害を受けて本格的な攻略を始められないユウヒ、わからないことだらけな中央ドームを、彼らは無事攻略できるのであろうか、引き続き楽しんで貰えたら幸いです。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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