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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第三十話 ユウヒのうっかり

 どうもHekutoです。


 加筆減筆修正等完了しましたので投稿させていただきます。最近ドラマにもなってますが、この作業は終わりが見えませんね。まぁそんなことは良いとして、皆様にはただ思うように楽しんで頂ければ幸いです。



『ユウヒのうっかり』


 皆さんは『うっかり』と言う言葉を知っているだろうか、これは不注意などを意味する言葉なのだが、人はどんなに注意していてもこの『うっかり』をしてしまう時がある。


「・・・うん」

 それは一仕事終えて気の緩んだ時などに起きることが多く、またいろいろと考えすぎた時に気が回らなくなって引き起こされることも多い。そしてそんなうっかりをやらかした後、現実逃避を行う人は少なくはない、それは地面に座りどこか遠くを仰ぎ見る、今のユウヒのように・・・。


「大きいのはいいことだな」

 とある大きな存在をその青と金の濁った瞳いっぱいに映すユウヒは、膝を抱えて地面に座り込んだまま力なくつぶやく。


「お父様どうしたの?」


「・・・あぁうん、ちょっと現実逃避をな」

 後悔と言う言葉がよく似合いそうな顔のユウヒは、どうやら一人ではなかったようで、彼の表情を見て心配そうに声をかけた人物に、ユウヒは錆びついた機械のような動きで振り返ると目の前の人物にそんな声を洩らした。


「お疲れでしょうか? でもこんな奇跡を起こした後では仕方ないですよね」

 ユウヒの視線の先には、きれいな若草色の瞳を心配そうに細める大人びた少女が、同じく若草色をした艶やかな長い髪を揺らし、ユウヒの濁った瞳を覗き込むように見つめている。


「疲れは・・・微妙にあるけどそれ以上にやっちまった感が、あの白い壁は飲み込まないでくれるか?」


「はい、全て心得ています!」

 中学生か高校生くらいに見える少女は、疲れた表情で引き攣った笑みを浮かべるユウヒを不思議そうに見詰めるも、ユウヒのお願いを聞き届けると幼さを感じる無邪気な笑みを浮かべて見せた。


「・・・それで、お疲れならその、お膝をお使いになりますか?」

 そんな少女は浮かべていた笑顔をすぐに真剣なものに変えると、今度は頬を僅かに赤らめながら照れたようにユウヒの前で正座しはじめ、自らの太ももを軽く撫でながらユウヒに問いかける。


「それは、駄目な気がする・・・」


「そうですか・・・しゅん」

 ユウヒの目の前で即答されたことに落ち込む姿が、エルフ達の里に住む世界樹の精霊とよく似ている少女に、ユウヒは思わず苦笑いを洩らしてしまい、視線を空に向けると疲れたように肩を落としてため息を漏らすのだった。


 彼が疲れた表情を浮かべる事態になった事件は、数十分ほど前に遡る。





 あぁ・・・やる気が起きない。


「はぁのどかだなぁ・・・見晴らしもよくなったし気候は穏やかだし、何もしたくなくなるな」

 ちょっとした手違いだったけど、鬱蒼とした樹が無くなって見晴らしもよくなって空気もよく通り、ついでに日差しは強すぎず弱すぎず。こんな昼寝に適した気候では、そこそこ疲れもあってかヤル気が一向に湧いてこない。


「と言っても、やることやって早く流華を探してやらないといけないか」

 しかしいくら悪い予感がしないからと言って、いつまで流華とお馬鹿共を放置しておくわけにも行かず、そのことを考えるとようやく俺の重い腰が軽くなり始めるのを感じた。


「まだ大丈夫な気はするけど、早いに越したことはないしな・・・親父殿が荒ぶってまたへこまされてそうだし、物理的に」

 流華救出はもちろんだが、親父殿の荒ぶり様を思い出すに、早めに対処しなければ何度母上に鎮圧されることやら・・・いくら丈夫とは言え、うちの両親のスキンシップは度が過ぎることが多いからな。


「ん? 苗木が反応したような? まぁいいか」

 そんなことを考えながら目の前の苗木に目を向けると、気のせいか、それとも風に揺らされただけか、苗木の葉が意志を持って動いたように見える。異世界の樹、それも世界樹なので何が起きても変ではない気がした俺は、その思考をいったんおいて立ち上がると地面に植えた苗木へと近づく。


「それじゃさくっと成長魔法を使ってしまうか」

 母樹に確認をとったが聞いたことが無いと言うことで、成長魔法の効果がどう出るか若干の不安があるものの、話を聞く限りでは少しでも早く大きくなることに悪いことはないらしい。


「でも・・・この世界と言い地球と言い、魔法が思ったように発動しないんだよなぁ」

 そのため、成長魔法を使うことはすでに決定事項なのだが、どうも以前と違い魔法の効果に不安が残る今日この頃、世界が違うと魔法にもいろいろ影響があるのかもしれない。


「大気中の魔力が希薄なのと関係あるんだろうか? その辺はまだ詳しく検証してないし強めにいくかな?」

 右目の力でいろいろ調べた結果、やはりアミールの世界と違ってこの世界は魔力、特に魔法の直接的な燃料となる活性魔力と言うのが極端に少ないようで、地球に限っては魔力の『ま』の字も無い始末。これが直接的な原因かまでは調べていないが、無くはないだろうというのが俺の予想であった。


「持続の石柱に付与するのも悪くないけど、何もしないと範囲魔法のままだったよな? それだと雑草まで復活するか」

 今までのと違い、安定しない魔法を使うのであれば妄想や使い方をよく考えないと、予想外の結果を引き起こしかねない。特に今は一仕事終えて疲れもあるので、なるべく慎重に行動したい。


「・・・ふむ、試したことはないけど直接かけて単体化も追加して」

 魔法の原型はクロモリオンライン、特にファーマー職やドルイド系の魔法を参考にしようと思う。あとはゲーム特有の補助システムを魔法で再現するのもいいかもしれない。


「あとは? メロンさん他にどんな魔法使ってたかな? 課金の高速化もつけるか?」

 ヤメロンのメンバーには、その辺を得意としていたリアル元農家な女性もいたことだし、参考にする相手に困ることはないけど、課金と言う名の魔法である高速化のほかには精霊の補助的なものも使っていた気がする。


「よし、これでいこう。魔力をいつもより込めて・・・まずは【魔法単体化】【効果高速化】それに【水精の補助】【地精の補助】これだけ積めばいいか」

 想像も妄想も完了し、なるべく安定するようにいつもより魔力を少しだけ多めに込め、片膝立ちになった俺は妄想した魔法を正しく導くためのキーワードを、


「それでは【ハイグローアップ】」

 小さく若葉を揺らす苗木に向かって思わず笑みを浮かべて口にした。


 ・・・あれ?


「・・・ん? ハイは要らなくね?」

 いろいろと考えすぎたのとそこへ疲れが影響したのか、俺はここで僅かなミスをしてしまったようだ。本来なら【グローアップ】と唱えるところを、間違って【ハイグローアップ】と口にしてしまっていたのだが、これは当初予定していた魔法の完全上位互換の魔法名である。


「お、おお!? おおおおお!!」

 キーワードを間違えたことで、どっと嫌な予感が俺を襲い、その予感に導かれるように目の前の苗木に目を向けた俺は、目の前で急成長を始めた苗木に驚き、言葉にならない声を洩らしてしまう。


「たた、たいひぃ!? ノオォォォォ!?」

 しかしあっけにとられたのも束の間、心が、いや魂が危険を感じとったおかげで俺の意識は強制的に現実に戻され、かつてあの世界で世界樹と対峙した時に匹敵する反応速度で逃げ出した。


「オウッ! あべし!? ぐぐ・・・これは、あれかな? 妄想の元が某アニメーション制作会社の顔なのが駄目だったか? でもあれ団栗の樹だし関係ないか?」

 のだが、時すでに遅く、大地からうねる様に飛び出してきた元気な木の根に跳ね飛ばされると、そのまま放物線を描いて白い壁の目の前に自由落下する。妄想の元にした名作映画が著作権的なあれでダメだったのか、キーワードが駄目だったのか、それとも根本的に何かいけなかったのかは、わからない。


「にしても危なかった。もう少しで白い壁まで巻き込まれるところだった」

 だが下手したら白く光る壁まで被害を受けて未帰還者になる可能性があったことに、目の前まで迫ってきた樹の根と、すぐ後ろで変わらず光っている壁に目を向け思わず冷や汗が流れるのを感じる。


「ある程度離れた場所に植えたのは正解だったが、ハイを付けたのが悪かったのかそれとも他の要因か・・・まぁ結果オーライ? これだけ成長すりゃ枯れる心配もないだろ」


「はい」

 ドキドキとうるさい心音に色々な汗を流しながら、少しでも前向きに考えようと独り言を口にした俺なのだが、そんな俺の言葉に同意するような声が、耳元で鈴を鳴らす様に聞こえてきた。


「はい?」

 幻聴ではない明らかにリアリティを感じるサウンドに、俺は思わず声のした方に顔を向けて気の抜けた声を洩らしてしまう。


「こんなに早くお会いできるなんて、私は幸せ者です!」


「ぬお!? 誰・・・世界樹の精霊!?」

 そこに居たのは、アイドル顔負けの美しくも幼い顔に満面の笑顔を浮かべた天使、ではなく。明らかに見覚えのあるカラーリングの少女であり、その予想は俺の右目が即座に肯定してくれた。


「はい! 私はお父様ユウヒお母様ぼじゅの娘です!」


「あ、あるえぇぇえ?」

 そう、彼女は世界樹の精霊、俺の魔力と母樹の用意した種から生まれたこの世界の新しい世界樹の、精霊なのである。この時、聞いていた話しを圧倒的に上回るスピードで出会った彼女に、俺は只々疑問の声を上げる事しか出来ないのであった。





 ユウヒがパッシブスキル【うっかり】を発動し、その結果に困惑の声を上げている頃、


「はっ!? お兄ちゃん?」

 そのユウヒの困惑を受信したらしいルカは、目を見開いたかと思うと急に頭を上げて大きな声を上げる。


「うおう、どうしたルカちゃん?」


「あ、ごめんなさい。なんだか変な感じが」

 すぐ後ろを歩いていたルカが急に叫んだことで、前方の警戒に意識を集中させていたクマは、驚き肩を跳ねさせて奇妙な声を洩らす。驚いたのは他の女性陣も同様で、メロンに至っては普段開いてるのかわからない目を僅かに見開いてルカを見詰めており、周りからの視線に気が付いたルカは顔を赤くして謝ると、叫んでしまった理由を口にする。


「変な感じか、ルカちゃんもやっぱユウヒの妹だけあって感がいいのかね?」


「へ?」

 ルカが口にした理由に女性陣が首を傾げる中、クマはどこか感心したように話し出し、その言葉にルカも含めた女性陣全員が不思議そうにクマを見詰めた。


「どうもさっきから監視されてるような視線を感じててな、姿は全く見えないんだが・・・」

 女性陣に見詰められたクマは、困ったように眉を寄せると周囲を見回しながら誰かに見られている気がすると言い、ルカの言う変な感じと言うのも、その視線が原因なのではないかと考えたようだ。


「なんだと?」


「あら、ストーカーかしら?」

 そんなクマの説明に、ルカはきょとんとした表情を浮かべたかと思うと、眉を寄せるパフェの隣で周囲をきょろきょろと見回し始め、メロンは困ってるのかそれとも面白がっているのか、いつもの笑みを浮かべながら頬に手を添える。


「異世界に来て早々にストーカーとか、ふぅ・・・美人は罪ね」


「・・・まぁ相当優秀な斥候なのか、それとも野生生物なのかわからんが何かいるっぽいな」

 一方クマの話に何か考え込んでいたリンゴは、顔を上げるとわざとらしく困った様に科をつくり、にやけとすまし顔が混在したような表情でため息交じりの声を洩らすも、またもやチベットスナギツネの様な表情でクマに見詰められそのままスルーされてしまう。


「ふむ、敵じゃなければいいのだが」

 蔑むような目のクマと睨み合うリンゴの隣では、パフェが下唇を人差し指の甲で押さえながら真剣な表情を浮かべて思案している。


「んーそうだなぁユウヒならその辺も感じ取ってくれるんだろうけど・・・ルカちゃん何かわからないかな?」

 パフェの声に表情を元に戻したクマは、彼女に視線を向けながら困った言うに唸ると、ユウヒの異常な勘の良さ知っていることもあり、その妹であるルカにも同じような勘があるのではないかと期待したようだ。


「え? 私そういう勘とかないですよ? その、家でも一番勘が鈍いって言われてるし・・・あはは」


「え、そうなの?」

 しかし話を振られたルカにはそんなもの無いらしく、むしろ家族の中では一番勘が鈍いようで、きょとんとした表情でクマを見詰めると、困ったように苦笑を浮かべて見せる。一方クマと同じ考えであったらしいリンゴは、問いかけにコクコクと頷いて見せるルカを不思議そうに見詰めた。


「はい、一番感がいいのはお母さんで、その次がお兄ちゃんかな? お父さんは殺気には鋭いって自慢してました」

 リンゴに頷いて見せたルカは、周囲からの視線に気がつくと、少し照れたような表情で家族について話を始める。


「・・・なぁクマ、ユウヒの家って戦闘民族か何かの血筋なん?」


「しらねぇよ、まぁリアルでユウヒ見てるとそう思えてくる節はあるけどな」

 ルカの説明を聞いたリンゴは怪訝な表情でクマを見詰めると、視線に気が付いて振り向いたクマに問いかけるも、その問いかけは何とも言えない表情のクマに切って捨てられ、しかしクマもその問いを全否定することが困難な様子であった。


「そうなんですか?」


「あぁあいつ昔から運動部でもないくせにえらく運動神経良いから・・・この話はまた今度だな」

 クマの悩ましげな表情を見て首を傾げたルカに、自称ユウヒの親友であるクマは、その表情を変えないまま困ったように答えるも、話の途中で目を見開き真剣な表情で顔を上げると、静かにするように自分の口元に指をあてて女性陣に移動を促す。


「え?」


「どうやら追跡者はバカみたいだな、風上から接近するのは悪手だぜ」

 急激に変わったクマの雰囲気に小さく声を洩らしたルカの前で、クマは誰に言うでもなくそう呟くと、野性味を感じる男臭い笑みを浮かべて見せる。


「来たのか?」


「ああ、回り込まれていなければいいけど、とりあえず急ぐぞ!」

 クマの急激な変化にパフェが目を細めて問いかけると、メロンもリンゴも背筋を伸ばし、それまでのどこかふざけた雰囲気が嘘のように消えた二人は、先を進み始めたクマに続いて歩きだす。


「え、あ、はい!」

 彼女たちに背中を押されて歩き出したルカは、若干慌てながらも肩に感じるメロンの手のぬくもりと、振り返った視線の先で微笑む彼女の表情に冷静さを取り戻し、抑え気味の返事を返すとしっかりとした足取りで、前を歩くクマとパフェに続いて森の中を歩き始めるのであった。


 刻一刻とルカに迫る不穏な気配、果たしてユウヒは妹を無事救出できるのか、それとも間に合わないのであろうか、少なくとも、それを知る者はここにはいない。



 いかがでしたでしょうか?


 と、言うわけでユウヒのうっかりが発動しました。ユウヒが、母樹やエルフや獣人が願う斜め上の結果を出して、名も無き世界に新たな世界樹と新たなユウヒの娘が生まれ、この先が実に楽しみですね。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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