第三百三話 遠征準備
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『遠征準備』
ユウヒが育兎と一日をかけ僅かばかり進んで最初のドームから帰って来た翌日、朝の仕事を終えた人々が近づく昼食の時間に心躍らせ始めるような時間、彼の姿は調査用ドームの中にあった。
「というわけで、完全に音信不通になるからこれ」
異世界専門家と言う事でドーム関連の施設ではほぼ顔パスとなっているユウヒは、調査ドームで三人の忍者を前にパイプ椅子に背中を預けながら近況を伝え、必要になるだろうと彼らに大きな紙袋一杯のお土産持って来ていた。
「やばい惚れる」
「ユウヒ、おまえ……」
「流石、生産者の鏡でござるな」
「え、きもい」
ユウヒから率直に気持ち悪いと感想を返されている三人の前に置かれた紙袋の中身は、忍術用の触媒や魔法で加工された切れ味抜群の刃物などである。忍者用の武装の運搬に関しては、石木経由で特別に許可が出ている為、法に触れることは無いが警察に見つかると一度事情を聞かれそうな物が多い。
「ひど!?」
「別にそんなんじゃないからね!」
「確かにきもいでござる」
ユウヒの嫌そうな表情にショックを受けた様な反応を見せるヒゾウとジライダであるがそれらはすべて様式美、彼らの手は紙袋の中身に伸ばされあっと言う間に応接用の少し大きな机いっぱいに広げられる。
「新作に関しては説明書も同封しておいたので試してみてくれ」
三人に頼まれて色々作り始めた頃は、魔力、魔法、付与に伴う特殊な文字で作られた護符であったが、今は忍術に合わせて変えており、一回限りの使い捨てから何回か使える耐久性の高いものへと変わっていた。
「今回は長くなりそうなのか?」
緑色の小枝や赤銅のナイフ、薄っすら紫電の走るアメジスなどを手に取り説明書を読んでいたジライダは、目の前の物資とユウヒの話から次回会えるのはそうと先になる可能性を感じて顔を上げる。何故なら目の前に置かれた物は耐久性の高い触媒が大半で、使い勝手のいい護符はいつもより少ないのだ。
「それも含めて分からん。一歩踏み出したら突然真空の空間だったり部分的に重力が逆転してたり、もう訳が分からん世界だからな」
「こわ……死ぬんじゃねぇぞ?」
明らかに長期間物資の供給が出来ない事前準備の様な支給品の数々、ジライダの予想通りユウヒの次の仕事は長期が前提となている。さわり程度に説明されただけでも危険しか感じない世界にヒゾウは恐怖を感じ、そんな世界に行かなければならないユウヒの事を素直に心配して顔を顰めた。
「まぁ何とかなるだろ」
「ユウヒ殿は肝が据わり過ぎでござるよ……」
心配そうなヒゾウの顔を見て眉を上げたユウヒは、小さく笑うと大げさに肩を竦めて何とかなると息を吐く。そのいつもと変わらぬ飄々とした姿にジト目を浮かべる三人と遠い目をして呟くゴエンモ、呆れと感心と心配が混ざった彼らの視線にくつくつと笑うユウヒは、パイプ椅子からゆっくり腰を上げる。
「心配し過ぎて体が動かなくなるよりマシだよ、戦場ではとりあえず動かないと死ぬからな」
『……』
用件は済んだとばかり荷物を手に取ったユウヒは、じっと見上げてくる三人に目を向けると男臭い笑みを浮かべて自分の心構えを話す。その言葉の裏に明確な経験に裏付けされたものを忍者としての勘で感じ取った三人は、その経験を彼がどこで手にしたのかという疑問を感じながら、去り行くユウヒの大きく感じる背中を無言で見送るのだった。
長期のドーム内探索に向けて事前の準備や根回しを進めるユウヒ、一方で育兎もドーム内で調査収集したデータを整理して必要な機材などを選定していた。
「まさかあんなに異常な世界とは思わなかったな」
とても大きな窓が特徴的な一室で機械を操作している育兎は、ぶつぶつと独り言を呟き、大きなケースの中で形作られる道具に真剣な眼差しを向けている。どうやら彼が操作している大きなケースと一体になった装置は、所謂3Dプリンターと呼ばれる物のであるらしく、一般に普及してきたプリンターと違う所は、現在進行形で精密機器もまるごとプリントしているところだろうか。
「大体あそこまで可笑しなことになってたら滅ぶでしょ普通」
窓の外を巨大な岩が通り過ぎる影に振り返った彼の口から愚痴の様に零れ出る独り言は、まったく留まることを知らず、窓に向かって直進してきた岩が突然何か目に見えない壁に遮られ方向を変えたのを満足そうに見詰めた育兎は、装置の脇に置いていた水筒を手に取る。
「ま! そんな状態でも世界を維持できるのは流石僕の作った装置ってところだね!!」
水筒の先端からチューブを取り出し一気に吸い上げた彼は、満足気に息を吐くと蓋を閉めて水筒の底を鉄の部分に張り付け、自らの作った異世界補完装置が示した完成度に自ら賛美を贈り始めた。何せこの場には彼しかいないのだから自分で褒めねば誰も褒めてくれない。
「そう思わない?」
そのはずなのだが、3Dプリンターの停止を確認した育兎は背後の小惑星帯を見渡せる窓に向かって同意を求めるような声を上げる。
「気が付いていたのね……今度はどんなことを仕出かすのかしら?」
3Dプリンターの大きなケースに映った窓、そこにはただ窓とその外に小惑星が見えるだけであったが、大きな小惑星が通り過ぎる間に出来た影が消えると、一人の人物が窓に背を預ける様に立っていた。
「仕出かすだなんて……うーん、言い返したいけど言い返せないな」
「……自覚があるなら貴方ねぇ」
挑発的な視線に振り返った育兎は、仕出かすなどと言われて反論するのかと思えば何も言い返せず、困った表情で小首を傾げる彼に、窓辺から離れ歩いてきた女性はよく括れた腰に両手を添えると、上半身を屈みこませる様に育兎の顔を覗き込み水色の瞳で睨む。
「そんな無駄話いらないだろ?」
「っ……そうですね。まぁ今回は良き行いを成そうとしているようですし、あまりうるさく言わないでおきましょう」
ユウヒよりも身長の高そうな女性に、視線の高さを合わせられて向けられるジト目に肩を竦めた育兎は、余計な話はいらないだろと溜息を洩らし、そんな彼の不遜な態度に女性も溜息を一つ吐くと、腕を大きな胸の下で組みながら育兎の行動を軽く窘める。
「それで?」
「今回は助力よ、お仕事のついでに頼まれたの」
二人はずいぶんと気心が知れた間のようで遠慮のない言葉を投げ合い、女性の助力と言う言葉に育兎は怪訝な表情をこれでもかと見せて後退り始めた。
「頼まれた? 誰に? まさか管理神の誰か? そんな奇特な神なんて、だれだろ? いたかな?」
育兎にとって目の前の女性も含めて管理神とは一方的に助力してくれるような相手ではないらしく、必死に彼女の言葉を肯定的に捉えようとするも感情がそれを許してくれない。
「割と助けてくれる神はいるわよ? まぁ今回は少し違うけど……少しは労ってほしいものだわ? 曲りなりにも私のフィアンセなんですから」
「僕は認めてないけど、そんなに大変だったの?」
そんな管理神の一柱であり育兎のフィアンセであると言う女性は、呆れた様にそれでいて少し傷ついたように顔を顰め、そんな彼女の労ってほしいと言う本音から随分苦労したことを察した育兎は、後退っていた足を止めるとじっと目を細めて女性の顔を下から覗き込む。
「はいコレ、万が一の場合はこれで封印してだって」
「何これ?」
僅かに心配する様な視線を向けられた女性は、頬を赤くしながら黒く何かの文字が帯状に書かれた球体を育兎に投げ渡す。女性の手から離れた球体は重力に逆らう様に真っすぐゆっくり育兎に手の中に納まり、その禍々しい見た目に彼は眉を顰める。
「神具封印用の封具よ、異常を感知したら起動状態になるから投げるなりぶつけるなり好きにして?」
「むむむ、後で夕陽君に視てもらうか」
「……信じなさいよ」
禍々しい黒い塊に金色の文字が帯状に伸びる球体は、管理神の使う強力な封印道具であるらしく、使用方法も簡単なようだが、管理神の事を心底信用できない育兎はじっと球体を見詰めると、何も映さない球体の先にユウヒの顔を思い浮かべ一度調べてもらう事を固く誓い、そんな彼の言い草に女性は呆れを禁じ得ない様だ。
「で、誰が?」
「聞きたいの? 止めとけば?」
「僕の性格知ってるでしょ?」
そんな怪しい球体を一通り見まわした育兎は、管理神の扱う特殊なエネルギーを調べることが出来ず断念すると、今度は封具を提供した相手の事に興味が移ったようであるが、女性は嫌そうな表情を浮かべると知ること自体お勧めしない。しかし育兎は一度興味を持てばどうしても解明したくなる質であり、答えがすぐ目の前にあるにもかかわらず知らずでいることが出来るほど大人ではない。
「だからいつも怪我するのよ…………乙女様よ」
深くため息を吐き心底呆れた目で育兎を見詰める女性の口から小さく、しかしはっきりと伝えられたのは、乙女と言う名前である。
「スゥーー……なんで?」
その名前を聞いた瞬間、好奇心で輝いていた育兎の瞳から一切の光が消えてくすんだ赤と黒だけが残され、白い肌は真っ蒼になり、声を忘れたかのように口から息が洩れ、酸素を求める様に深く息を吸い込むと絞り出す様に疑問の声が出てきた。
「夕陽君がお気に入りなんですって、将来の息子だからって」
「やばくない? やばいよね? うわぁ……」
乙女、それは以前にユウヒも出会ったことがある女性の事であろうことは、乙女と言う人物がユウヒを気に入っていると言う事実や、彼女が告げたのであろう言葉からも察することが出来き、そんな乙女に興味を持たれることは非常に危険な状況であるらしく、それはいつも面白おかしく騒いでも狼狽える事の少ない育兎の狼狽する姿からも良くわかる。
「そうね、ヤヴァイわね……でも、あの子なら大丈夫な気がする」
「そうかなぁ……」
それは育兎だけの認識ではなく、管理神である女性も同様の認識であるが、ユウヒと乙女の関係性をある程度聞かされた彼女曰く、ユウヒであれば問題ないと思われるようだ。しかしどうしても育兎は不安が拭えず、乙女と言う女性に触られて弾け飛びバラバラにされるユウヒの姿が脳裏をよぎってしまう。
「それに、力加減の問題なら解決したみたいよ?」
「え!? ほんと! なにがあったの?」
脳裏によぎると言う事は、そう言った光景を実際に見たのであろう育兎を見詰める女性は、彼が何を考えているのか見透かすと、その不安を和らげるように少し柔らかな声で話す。
「さぁ? でも封印された心を取り戻したみたいだから、そのおかげかも」
「うぇ……あれ以上強くなったのか、やだなぁ」
力加減と言う言葉とその問題が解決したと言う事実に驚きの声を上げる育兎は、乙女が封印された心を取り戻したと言う説明に苦み走った表情を浮かべ、めまいを感じたかのように額を押さえ3Dプリンターの操作盤に手を着く。
「貴方が何もしなければいんじゃなくて?」
「そうかなー? 夕陽君大丈夫かなぁ」
だが、少し呆れた表情を浮かべて肩を竦める女性曰く、育兎が恐れる理由は大半が彼にも原因があるようで、そう言った問題を起こしていないユウヒに対して乙女が危険な行為を行うとは思えない様だ。それでも尚、育兎は不安を感じているらしく、彼が知る以上に強力な存在となった乙女の脅威がユウヒに及ばない様に心の中で祈るのであった。
そんな祈られているユウヒはと言うと、まるで夜空に浮かぶ星々の様な和菓子を前に険しい表情を浮かべていた。
「大丈夫なのか? 今お前さんに何かあれば、どうなるか……」
「大丈夫だと思いますけど、何の心配です?」
羊羹だと言って出されたがあまりに綺麗すぎて食べる事を躊躇しているユウヒは、テーブルを挟んで向かいに座る石木の問いかけに顔を上げると、考えるよりも早く大丈夫だと返答し、何についての心配なのか首を傾げて見せる。
「そりゃお前、最近同盟関係になった二大勢力の動きだろ」
「俺が居なくなるとどうなると?」
何について心配されているのか理解するよりも早く勘で大丈夫だと言うユウヒの姿に、明華の姿が重なって見えた石木は、ジト目を浮かべると異世界二大勢力について触れた。石木と同じ懸念を持つ者は多く、しかしユウヒにはその懸念が何なのか良くわからず不思議そうな表情を浮かべると、温かいお茶に口を付ける。
「うちの大半も各国政府も侵略の可能性を考えている。お前さんが楔になっているともな」
「うーん、どうなんだろう」
危険な道のドームの先でユウヒの身に万が一の事態が起きた場合に考えられている懸念、それは強力な力を持った異世界二大勢力である浮遊島の龍と深き者による地球侵略であった。世界各国は大まじめに侵略行為が発生した場合のシミュレーションを行っており、その際に出る被害は世界大戦の比ではないと考えられているが、ユウヒは気怠そうに眉を非対称に歪めると、手に取っていた和菓子用のナイフで自らの頬をつつきながら考える。
「少なくともそう考える人間は少なくない。アメリカは特に気にしているな」
悩むような仕草を見せるユウヒに、石木はそう言った考えをする者は少なく無く、またアメリカでは深き者に対する恐怖心からか日本との協力関係を考え直す動きもあるほどだ。
「わざわざ戦う必要もないだろうし、気にし過ぎだと思うけど? 俺にも予定があるからそんな楔ごめんですよ?」
だが勘と知り得た様々な情報から、深き者が積極的に侵略などを行うとは考えられないユウヒは、楔と言う言葉に顔を顰めると勝手にそんな役割に縛り付けるなと不快感をあらわにする。
「そうか、俺もそんな役割ごめんだしやらせたくねぇ、だがどこにでも相手の力量がわからん馬鹿が居るんだ。俺も手を尽くすが気をつけろ? そして被害は控えめにな?」
不機嫌そうに顔を顰めるユウヒに石木も理解を示す様に頷くと、ため息交じりにぼやきながらお猪口の中で揺れるお酒を一気に飲み干す。何処にでも軽率な行動を起こす人間はいる様で、そういった者達は何を仕出かすか解らず、万が一ユウヒに直接手を出せばその被害は計り知れないだろう。
「わかった! フリだね!」
「ちげぇよ!」
主に手を出した側に出る被害に頭を悩ませる石木は、目を輝かせて切れの良い笑顔を浮かべ、さらに親指まで立てるユウヒにツッコミを入れると、深い溜息を吐き出して手酌で酒を注ぎお酒を飲むペースを上げていく。
「降りかかる火の粉は払うだけだよ?」
「お前らの払うはそんなかわいいもんじゃねぇんだよなぁ……」
降りかかる火の粉は払うだけと言って普段と違う暗い笑みを浮かべたユウヒは、息を吐くと意を決して羊羹を一口で食べる。大きな口を開けてモグモグと羊羹を咀嚼するユウヒの一瞬見せた暗い表情に冷や汗を流す石木は、頬杖をついて溜息を洩らすと反対の手で不味そうに酒を呑んでまた溜息を洩らす。
互いの近況報告を終えた酒飲みとスイーツ男子が愚痴を洩らしている頃、天野家の庭先では小さな山が出来ていた。
「!? ……くちゅん!」
「お? なんだ噂か?」
大きな倉庫からあふれ出すアウトドア用の道具やBBQ用のオーブン、アンモボックスやその中から零れ出る弾薬……。そんな山の中から突然可愛いクシャミが聞こえてくると、倉庫から勇治が顔を出し山の中を覗き込む。
「不敬な噂ねきっと! よいしょっと」
勇治が声を掛けた先から現れたのはクシャミの主である明華、彼女は両手いっぱいに手榴弾を抱えて勢いよく山から生えてくると、鼻を啜りながら悪態を吐いて空のアンモボックスに手榴弾を放り込む。
「お、あったあった!」
「意外と大丈夫そうね? 何時ぶりかしら」
悪態もそこそこに足下に転がっている手榴弾を拾い集めてはアンモボックスに投げ入れる明華、そんな彼女の背後から嬉しそうな声が上がり、倉庫から出てきた勇治はニコニコとした表情を浮かべながら、丸められた布の塊と小さく折り畳まれた金属のポールを抱え、顔を上げた明華に笑いかける。
「あー……雪山登山の時に使ったのが最後かな?」
「あぁテロリストの落とし物回収の依頼ね、懐かしいわ」
丸められた布を無造作に広げて確認する明華とポールの可動部を確認する勇治、どうやら彼らが捜していたのはコンパクトに折り畳めるテントのようで、それは彼らが雪山で使用したあと倉庫で眠っていたようだ。
「あの時は肌と肌で温め合ったな……」
「……うふふ、最近あったかいけど、今日は午後から寒波が来るらしいわよ?」
当時の事を思い出す二人はどちらからともなく手に持ったテント用具を手放しそっと体を寄り添わせ始める。火の精霊が復活したことにより異常な寒さは過ぎ去ったものの、季節は冬へと近づきそれなりに気温が下がる今日この頃、この日は午後から寒波が流れこみ冷え込む予報の様だ。
「それは大変だ、凍えてしまうなぁ」
「あら大変! しっかり温めてあげる」
そんな冷え込む夜は互いの人肌で温め合うべきだと体を寄せ抱き合う二人、彼らの脳裏には吹雪の中二人でテントを張り温め合った記憶が鮮明に思い出され、当時感じた危機的状況による興奮もまたその身によみがえっていた。
「そいつぁ嬉し、い……あーんー……流華ちゃんその凍える様な視線はやめてほしいなぁ?」
互いの温もりを求める様に抱きしめ合い、摩り合い、生きている事を確認し合った。そんな温もりにあふれた記憶は、瞼を開いた勇治の中から急激に抜けて冷めていく。
「そう言うのはうちの中でやってね?」
なぜなら彼が視線を向けた先にはゴミでも見るような寒々しい目をした流華が立っており、その口から普段口酸っぱくなるほど注意されている言葉が聞こえて来たからだ。天野家の倉庫がある庭先は柵があるとは言え外から良く見え、微妙に隠れた二人の抱擁は見様によって男女の情事にも見えなくはないのだ。
「あらやだ、おほほほほ」
「はぁ、非常米の詰め替え終わったから……」
勇治の反応で初めて背後に流華が近づいていたことに気が付いたらしい明華は、恥ずかしそうに頬を染めながら口元を手で隠し笑うと、着崩れていた服を整え始める。どうやら流華が止めなかったら何かが始まっていたようだ。そんな二人に深い溜息を吐いた流華は一言残して興味無さげに踵を返す。
「流華!」
「わ!? なに? どうしたのお母さん」
スリッパの軽い音を鳴らしながら部屋の中に戻ろうとする流華であったが、窓に手をかけたところで突然後ろから抱きしめられ、驚きの声を洩らした彼女は背中から胸の前に回された腕に手を添えると、突然どうしたのかと右肩に乗った明華の顔を横目で見詰める。
「大丈夫、心配しなくてもちゃんと帰って来るから」
「別に、そんな心配なわけじゃ……」
明華達が準備していた物は、これまで以上に危険なドームの奥へと調査に向かうユウヒが持っていくテントやリュック、簡単に食べられる非常用食品などであった。
ユウヒから今後の予定を聞かされた両親は笑顔で応援していたが、率先してユウヒの持っていく物を用意している流華はずっと表情が優れない。どんなに信じてもぬぐえない不安と言うものはあるもので、そんな不安を誤魔化す彼女は優しく抱きしめる母の腕を振りほどくことなく受け入れるのであった。
いかがでしたでしょうか?
予想以上に危険なドームから戻って来たユウヒ達はしっかりとした準備を整えて再度中央ドームに挑む。果たして彼らは無事目的を達成できるのか、この先も楽しんで貰えたら幸いです。
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




