第二話 消えた妹、そして勤め先
どうもHekutoです。
修正作業完了いたしましたので投稿させて頂きます。お暇のお供にでも楽しんで頂ければ幸いです。
『消えた妹、そして勤め先』
ユウヒにとっては久しぶりとなる母の味に舌鼓を打ち、いつの間にか体と心に張っていた緊張の糸がホッとほぐれたところで聞かされた驚きの事実。それから数分後、ユウヒは両親から詳しい説明を受けながら、御代りした白米を佃煮と共にちびちび食べていた。
「・・・どこに外泊したか分からないまま連絡なし、ね?」
今用意できる白米が今食べている分だけと言うことも有り、ゆっくりと口にしているユウヒは、両親から説明された妹の状況について、驚き半分不思議さ半分と言った微妙な表情を浮かべていた。
元々ユウヒの妹である天野 流華は、それほど交友関係が広いわけでは無い。大体は学校の友達、両親経由の知り合い、そして兄の少ない友人の一部と言った具合である。
「ふぅむ・・・確かに珍しいか」
その為、友達の家に泊まると言ったところで、探すことが出来なくなることなど今までなかったのだが、今回は未だ何処に居るのかすら掴めて無いと言うのだから、ユウヒの反応もうなずけるだろう。
「お母さん的には問題無いんだけど・・・」
そんなユウヒの反応もだが、この両親の反応もどうなのであろうかと傍から見たら思われるかもしれない。
「相手が男なら・・・ギルティ! 考え付く限り痛々しく去勢してくれる!」
勇治の場合は単なる過剰な親馬鹿で済むが、明華からはある意味無関心と取られかねないほどに心配と言う感情が感じられない。
「だそうよ? それは無いって言っても聞かないのよ」
その理由は、彼女の持つユウヒ以上に異常な勘の良さが理由であった。
「・・・それで探せって言う事?」
「端的に言えばそうね、だいじょうぶそうなんだけど、なんだかいつもより危ない事に首つっこんでそうだから、助けてあげてくれるかしら?」
勘が良いだけでは説明できない未来予測にも近い勘のおかげで、明華は流華の安全が解っていた。しかし彼女も心配していないわけでは無いのは、苦笑を浮かべてユウヒにお願いする姿から少しだけ伝わってくる。元々明るく天真爛漫な彼女は、その言動に反してその内面をあまり人に悟らせない所があるのだった。
「と・・・うん、とりあえず聞いてまわってみるよ」
「ユウちゃんが動いてくれるなら安心ね!」
静かに勇治が不届き者を排除するイメージトレーニングをする姿に、ユウヒは話しかけようとした言葉を飲み込み、視線を明華に戻すと妹の足取り調査を了承する。その返事を聞いて明華がパッと笑みを咲かせたのを確認すると、ユウヒは瓶に入った海苔の佃煮を箸でつまんでご飯の上にのせるのだった。
「・・・それで、ユウちゃん」
「ん?」
しかし、笑顔でユウヒを見詰めていた明華であったが、妙な間を一度置くと今度は真剣な表情で話しかけ始め、そんな母親の声と姿にユウヒはお箸を咥えたまま視線を上げる。
「その両目はどうしたの? カラコン?」
「ば!? おま、そこはデリケートだから触れちゃダメな「あ?」いやいやいや! お父さんはまたユウヒが厨二に目覚めたなんておも・・・」
その真剣な表情の明華の口から飛びだしたのは、そう・・・ユウヒの両目に関してであった。
右目は女神から、左目は精霊からの祝福と言って良いのか怪しいものを受けて、両目が金と深い青に変色してしまったユウヒ、こんなあからさまな変化に実の両親である二人が気付かないわけがない。
しかし過去とある病を患っていたユウヒの事を覚えている父親の勇治は、男親として敢えて気付かないフリをしており、聞かない優しさを貫こうとしていたのだが、その優しさは空気を読んでも敢えて切り込む明華の一言によって、脆くも瓦解してしまったのである。
「・・・何に、目覚めたって?」
そのうえ、慌てた為か余計な事まで口走った勇治は、先ほどまでより冷気が三割増したユウヒの視線に、考えるより本能が先に反応し震えるのであった。
「あぁ、ユウちゃんの冷たい目・・・ステキ!」
「何もつけてないよ・・・てか言っとくけど不可抗力だからなこれ、アレはもう再発なんかしないから!」
冷たい視線を注がれ弁明の言葉を封じられた勇治は、それでもあらがう様に身振り手振りで何かを伝えようとし、その隣では頬を朱に染めた明華が鼻息を荒くする。その姿に肩を落としたユウヒは、声を荒げながら佃煮をご飯の上に追加していく。
「そうなの? あらあら? まあまあ! 何もつけてないのね、色が変わったの? 何か辛い事でもあったの?」
「なぬ?」
ユウヒの言葉にきょとんと小首を傾げた明華は、勢いよく体をテーブルの上に乗り出してびっくりするユウヒの瞳を間近で見詰め始める。そしてその瞳に何も入っていない事を確認すると、今度は驚きと歓喜の混ざった声を上げてユウヒの顔を両手でつかんで観察を始め、明華の声に勇治が心配そうな声を洩らす。
「うーん、なんと説明したらいいやら・・・物理的なストレスでも変色とかするのかな?」
「お母さんわかんないわ、そっち専門じゃないもの。・・・知り合いに聞いておこうか?」
両目の色が違う事を、医学用語ではヘテロクロミアや虹彩異色症などと言い、これは人にも動物にも存在する。
「いや、原因も症状も解ってるからいいや、戻りそうもないし目は見えるし」
一般的に遺伝的な要因が主の様だが、事故などにより後天的に変わることも有るらしい、と言ってもユウヒが住む地球上において、ユウヒと同じ要因で瞳が変色した者は、先ず存在しないであろう。
「あらそうなの? なら良いけど・・・綺麗な金色よね」
「青か・・・ふぅむ」
ユウヒの表情と言葉で安心した明華と勇治は、その後ユウヒがリビングを離れるまで、ずっとユウヒの目を至近距離から見つめ続けるのだった。どうやらこの二人、触れて良い話題なのかどうか測り兼ねていただけで、その綺麗な金と青の瞳が気になってしょうがなかったようである。
「いや顔近いから、飯を食わせてくれよ・・・」
子供心を片時も忘れない両親からのキラキラとした熱い視線に、顔を赤くして照れたユウヒが耐えられなくなりご飯をかきこむまで残り五分三十秒、そして部屋に逃げ込むまで残り五分四十・・・三十九秒。
なんとも仲の良い親子である。
久しぶりの白米と味噌汁の味に、不覚にも涙腺が緩んでしまったユウヒです。終始見詰め続けてくる両親が鬱陶しかったけど、急に居なくなった身としては少しは甘んじて受け止める他なかった。
と言うか見過ぎだ・・・流石に恥ずかしい。
そんな気恥ずかしい気分で蒸し暑い自室に戻って来たのはいいのだが、俺は部屋で充電器に差したままのスマホを見た瞬間、嫌な予感が過るのを感じた。何故ならそこにはこの部屋を最後に出た時と微妙に位置が違う場所で、なんらかの通知を示す青色の点滅を繰り替えしているスマホの姿があったからだ。
「まぁ一応かけ直しておいた方が良いよな・・・・・・お、もしもし社長ですか? 夕陽ですが今おじか―――」
しかもその中には俺が勤める会社の社長から、俺が居なくなった次の日から何度も電話がかかって来ていた。
普段から世界を股にかけて飛び回り商談を取付け廻る社長は、こちらからの連絡はほとんどつかない為、急に電話をよこしても繋がるとは思っていなかったのだが、ほんの数秒で呼び出し音が切れて通話を始めた事に少し驚きを覚えながら、俺はスマホの向こうに居るのであろう社長に話しかける。
「おお!! 夕陽君無事だったかね!」
「ん・・・え? あ、はい無事です」
普段からハイテンションな社長だが、今スマホの向こうから聞こえて来る声は普段の何倍も声が張っているように感じた。まるでそれは生き別れの友と感動の再会を果たした人のような歓喜に満ちた声にも聞こえ、思わず返事が吃ってしまう。
「いやぁ君が行方不明と聞いて気が気じゃなくてね、あの日あの時間に出勤してビル内に居たのは君だけだと言うじゃないか」
「はぁそうなんですか? (出勤? むしろ無断欠勤なのでは?)」
どこか安堵した様な声でそんな事を話し始める社長に合わせつつ、俺の心は中も外も困惑に満ちていた。何故なら俺の出勤日と言えば俺が異世界に旅立った次の日、本来なら同じ日に戻れると言う事だったのが六日ほど経過しており、その場合無断欠勤を何度も行ったことになる。
「ああ、他の連中は偶然昼頃出勤したらしくてね・・・朝出勤は君だけだろうって話でさ、それで行方不明ってもう死んだと思ったね僕は」
「そんな勝手に殺さんでください・・・(どういうことだ?)」
俺はこの電話を怒られる事を覚悟でかけたのだが、いったいどうなっているのか、スピーカーの向こうから聞こえてくる声から伝わる感情はまさに真逆、さらに死んだと思われていたなど只事では無い。と言うか朝出勤しているのは何時も俺だけなのだが、その辺の事は社長も知っている事の筈では無いのだろうか・・・。
「すまんすまん、まっさか噂のドームがうちのビルを飲み込むとは思わなかったからね、はっはっは! まいったまいった!」
「はぁ・・・(うん、理解した。俺出勤してそのまま行方不明と思われてるんですね)」
明るい声で軽い謝罪を入れながらも社長が口から飛び出させる恐るべき事実に、俺は少しでも声が出せた事を褒めてやりたい。どうやら俺はあのままアミールに連れられて異世界に旅立ち、さらにアミールの転送がずれて無ければ、今頃世界各地で発生している行方不明者と同じ運命をたどっていたという事の様だ。
「それで、いままでどうしてたのかね?」
「私も気が付いたら数日後でしたから何が何だか?(うん、黙っとくのが正解ですね解ります!)」
そんな真実を知った今、誤解は誤解のままにしていることが最善と考えた俺は、異世界で鍛えられた? 精神で嘘を吐きとおすことにするのだった。実際真実を語ったところで誰も信じてはくれないだろう。
「神隠しか! なんと貴重な経験を・・・いやしかし記憶が無いんじゃなぁ、もしかしたら異世界に言っていたのかも・・・羨ましい!」
いや、訂正しよう・・・この人なら信じてくれそうである。
小さな総合商社などと言われるうちの会社は、この社長無しでは語れず、またこの社長だから真面に運営出来てると言ってもいい上と下のバランスが悪い会社なのだが、この社長、重度のファンタジーオタクなのだ。
その辺の趣味もあってか俺はそこそこ社長と仲良くしてもらっている、と言うかサブカルチャー関係で相談できるのが俺ぐらいらしく、偶に社長から直に俺宛ての発注書が直接届き、その購入地域が秋葉原な辺り、内容は・・・御察しである。
「羨ましいって・・・と言うか元々朝出勤って私だけでは? 皆さんに聞いたら普通は直接外回りして昼出勤だと言っていましたけど・・・あ、他に被害者とかいなかったんですか?」
中身が大半書籍である発注書を片手に秋葉原巡りをしていた影響で、割とその辺の知識も詳しくなってしまったのは良い事なのだろうかと、頭の片隅で考えつつ当たり障りのない会話を社長と交わす。
このやりとりは何時もの事であり、逆に自分が帰って来たのだと思える辺り、俺はこの人に大分毒されてる気がする。
「・・・・・・ほぅ、そうだね。あのビルにいたと思われるのは夕陽君だけだそうだけど、その話・・・詳しく教えてくれるかな?」
「へ?」
今までの陽気とも言える声が一転、怒気を隠す様な低い声で問いかけて来た社長曰く、どうやら昼出勤なんて制度はうちの会社になかったらしい。ついでに本社ビルごと消失してしまっているので、社は最低限の人員を残す形で他は退職とし、俺もそこから漏れる事無く退職となったようで、無事? 無職と相成ったのであった。
「―――殺すのも生温い・・・ゴホン! それじゃこちらで夕陽君の事もドーム被害者に登録しておくから、少し時間はかかるかもしれんが救済金が支給されると思う。本当にすまない、出来るなら私が救済金を払ってやりたい所なのだが・・・」
あの後、洗いざらい? 俺の勤務内容や先輩や上司の勤務状況などを吐かされた俺は、腹の奥で怒りを濃縮している様な声の社長に抵抗することなく全て語ったのだが、そんな俺は悪くないと思いマス。
「いえいえ、本社丸ごと消失じゃしょうがないですよ。俺は、あぁっとわたしは私でなんとかしますので・・・社長もがんばってください」
その結果、社長は何やら黒い事を呟きながら俺に謝罪すると、出来るだけの便宜を図ってくれることになったのだが、俺はその時呟いていた社長の声を聞こえなかった事にする事に必死で、思わず言葉使いが乱れてしまったが、仕方ないと思うのデス。
「くぅっ! あのバカ共に夕陽君の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい!」
「あ、あはは・・・それじゃ用事があるのでこれで」
何やら声で向こうの状況が解ってしまうのだが、泣くほどの事であろうか? そんなに色々と酷かったのかと、この会社に入社した自分の運を呪いそうになりながら、これ以上ボロが出たり黒いものと接触したくないので、電話を切る為にスマホの向こうの社長に声をかける。
「おお! すまなかったね。もし、神隠しの記憶が戻ったらいつでも教えてくれよ!」
「はい、わかりました。失礼します」
どうやらうちの会社でブラックだったのは一部の上司と先輩社員だったようです。社長は全国を飛び回ってるし、上層部の偉い人はそれについて行ったり海外行ったりしてるらしいからなぁ・・・円満に退職出来て良かったな、うん、よかった・・・。
いかがでしたでしょうか?
妹の流華失踪に続き予想外の会社消滅により職を失ったユウヒでした。不幸中の幸いと言えるのか分からない状況の彼は、この先どうなるのでしょうか?
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー