第二百九十五話 ヒーター3……号機
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『ヒーター3……号機』
夜の公園で警察に追いかけられることとなったユウヒは、面倒事を避ける意味もあってその夜以降家に引きこもっていた。
「くくくっ……すばらしい、すばらしい出来だよ」
その甲斐もあってか、ユウヒが求める性能を達成した精霊用ヒーターは数日で出来上がったようだ。
「凄い力を感じる」
「ちょっと大きくなったけど、テーブルに乗るからまだセーフ? 部屋はずいぶん狭くなったけど……」
一人用のテーブルより一回り大きな装置を囲む精霊達は、そこから感じとれる力の強さに目を輝かせ、ユウヒの魔法で滑らかに仕上げられた装置を撫でている。大人数用のホットプレートほどある直径の装置はずいぶんと分厚く、表面は凹凸が無くまるで正月の鏡餅のようで、テーブルはその重さに軋んでいる様にも見えた。
「いっぱい魔方陣がある。細かい……」
「これは厳重」
そんな装置の上に火の精霊を運ぶ土の精霊と闇の精霊は、表面に掘られ異世界の金属を流し込まれた魔法の回路の細かさに目を瞠り、表面を撫でながら感心したよ言うに唸る。
「流石に熱が洩れたらやばいからな? 断熱はしっかりやりたいところだが、大きさがちょっと足りないよな」
表面に見える回路の大半が断熱の魔法に必要な物であるらしく、当初よりずっと細かく多くなった回路に目を向けるユウヒは、それでもまだ足りないと言った様子で目を細めた。
「これ以上はもう大きな部屋一つが必要になってしまいますね」
「だよなぁ」
しかし、今以上の断熱魔法を起動する回路を用意するとなると、光の精霊が苦笑を浮かべて話す通り大きな部屋丸ごと使うくらいの装置が必要である。なぜならすでにユウヒの部屋は目の前に置かれた鏡餅だけではなく、装置に魔力を供給する為の装置が所狭しと並べられており、周りを見回したユウヒの視界には人一人と変わらない大きさの装置が並ぶ所為で、それ以外の家具を目にする事すら出来なくなっているのだ。
「早く動かそうよ!」
「我も気になる、そこはかとなく闇の気配も感じる」
縦に長い魔力供給装置からは青い光が洩れており、そんな装置に目を向けていたユウヒに風の精霊は精霊用ヒーターの起動を催促し、闇の精霊は以前の装置と違って興味があるのか、闇の気配を感じると言う装置の表面を撫でながらユウヒの顔を見上げる。
「そうだな、それじゃさっそく……活性魔力吸収器起動」
「おお?」
期待の眼差しを浴びて気持ち良く笑みを浮かべたユウヒは、窓の外からも精霊の気配を感じながら精霊用ヒーターの側面を撫でて機能を一つずつ動かしていく。最初に起動したのは魔力吸収を行う機能であり、電源ボタンのようなものである。僅かに震えるような音を発した装置は回路に淡い青色を浮かび上がらせた。
「魔力供給機の魔晶石を解放、続いて魔力過給機起動」
次に触ったのは床に置いていたコードが多数伸びた四角いシンプルな見た目のスイッチ、ユウヒが【開】と書かれたボタンを押すと、周囲を囲む縦長の柱のような装置が真ん中から割れて上にずれる様に開き、【運転】と書かれたスイッチを押すと唸るような音と風を起こして木製の装置全体から青白い光の靄が溢れ始める。
「ひえ!?」
「ひゃ!?」
魔力供給機と呼ばれた装置が起動すると周囲の精霊達は驚いたような声を上げ、僅かに頬を高揚させるが、すぐにその視線を供給装置から真っすぐヒーターに伸びる青白い魔力の道へと向けた。
「断熱魔法を全て起動、吸収器出力MAX、加熱魔法1番から5番まで全て起動……さてどうだ?」
周囲から魔力をゆっくり吸っていたヒーターは、ユウヒの操作を受ける度に吸収速度を上げて行き、全ての操作が終了する頃には、掃除機に吸い込まれる煙のように青白く光る魔力を吸い上げていた。
その装置の動きに満足げな表情を浮かべるユウヒは、両目を僅かに輝かせると思わず確認する様な言葉を呟いてしまう。
「あわわわ」
それは、フラグを建てる時のセリフと似ていた。
「ユウヒ! 水と風の力が足りてないよ!」
「火の力が強すぎる」
さてどうだ、と言う不安の混ざった声をユウヒが洩らした瞬間慌てだす水の精霊。いつも落ち着いた印象のある彼女の慌てる姿に驚くユウヒに、風の精霊は大きな声で注意を促し、闇の精霊は急激に赤く光り始めた装置に目を向けたまま小さく呟く。
「なに? ……やべ!? 停止!」
「ユウヒ!」
「早く止めて!」
ユウヒが彼女たちの声に異常を察した時にはすでに遅く、ヒーターに搭載された断熱の魔法は強すぎる火の力に負けて熱気を周囲に放ち始めており、魔力を吸収することで起きているヒーターに向かう風に抗う様に周囲へ拡散する熱気を受ける精霊達は、必死にユウヒへ呼びかけるが装置は止まらない。
「いかん! 暴走しとる!」
『えええ!!?』
何故ならすでに精霊用ヒーターと言う装置は暴走を始めており、すぐに緊急停止スイッチを押し込んでいたユウヒの驚く声に精霊達は声を揃えて驚愕の声を上げる。
「……仕方ない、これだけはやりたくなかったが」
「ユウヒ逃げよう!」
しかめっ面でじっと装置を見詰めるユウヒであるが、その間にも装置から感じる熱はオーブンや焚火の前で感じる暑さから溶鉱炉のような熱に変わっており、彼を守るために必死に呼びかける精霊達に対してユウヒは無言を貫き、そして目を瞑った。
「いや……我が所業を尽く破壊せよ【フリーズデストラクション】」
目を瞑り苦悶の表情を浮かべたユウヒは、今にも爆発しそうなほど輝き始める装置を見詰め直すと、金色に光る目を逸らしながら精霊達が慌てる前で手を突き出し、破壊の言葉と共に周囲に溢れる活性魔力が霞むほどの魔力を体の内から引き出す。
『うぅわぁ……』
精霊もドン引きするほどの力は、火の精霊を避けて脅威全てを飲み込み凍てつかせると、乾いた破壊音を響き渡らせる。先ほどまで断熱魔法を突き抜けて感じていた熱はどこにも無く、真冬の夜道の様に冷え切った部屋には静寂が満ちる。
「……」
「……ユウヒ?」
ハンマーでたたき割った様に割れた装置を見詰めたユウヒは、静かに深く冷たい空気を鼻から吸い込むと、天井を見上げて目を瞑った。その姿に深い悲しみを感じた精霊達は不安そうに彼を見上げ、しかし妙な気配に首を傾げる。
「……作り直しだ」
「元気出して?」
ゆっくり目を見開いたユウヒは、まだブラックな会社で働いていたころに買い替えたLED照明を睨みつけ小さな声で呟き、不穏な空気を感じた土の精霊はユウヒの足にそっと手を置く。
「ほ、ほら! 火の精霊も少し元気になってるよ?」
「そうだな、でもまだ目を覚まさないか」
「一瞬でしたからね……」
彼の内から感じる静かな気配に不安を感じる風の精霊は、割れた装置の真ん中から火の精霊を抱き起すと、いくぶん顔色が良くなり安らかな寝息を立てている事をユウヒに伝えるも、まだまだ目を覚ます気配は無い。断熱の魔法を貫通するほどの熱量と言っても一瞬ではまだまだ火の精霊を起こすには足りないらしく、ユウヒの呟きに水の精霊は火の精霊の頭を撫でながら頷く。
「……少し自重を止めよう」
「ん?」
水の精霊に撫でられ気持ちよさそうな笑みを浮かべる火の精霊を見詰めていたユウヒは、目を細めると僅かに俯き、暗くなった目元に目を向けた闇の精霊は、彼の小さな呟きを聞き不思議そうな声を洩らす。
「……あ、もしもし石木さん? 今大丈夫です?」
「どうした? 何かあったか?」
床に置いていた魔力供給装置の停止ボタンを押したユウヒは徐に立ち上がると、停止した供給装置を退かして隠れていた机の上からスマホを手に取り電話を掛ける。スピーカー部分を耳につけてしばらく待ったユウヒは、相手の応答よりも早く声を掛け、電話の向こうの石木は少し驚いたように声を返す。
「ちょっと今の異常気象を元に戻すためにどこか人目の付かない丈夫な倉庫を借りたいんですけど?」
「あ? ……そっち絡みなのか?」
少し引いているような印象もある電話の向こうの声に、ユウヒは用件を一息で話し終えると静かに返事を待ち、若干の間をおいて疑問の声を洩らした石木は真剣な声で話し始める。どうやらちょっとした内容ではないと言う事を感じ取った彼は、話をよく聞くために座り直したのか、電話の向こうからは布ずれの音と椅子の軋む音が聞こえて来た。
「ええ、まぁ自然災害みたいなものです」
「……あれか、急ぎだな。わかったすぐに手配する」
普段と違うニコニコとした表情を浮かべるユウヒが頷き自然災害と言う言葉を使うと、電話の向こうの石木は面倒事を思い出したような疲れた声を洩らすと、自然災害と言う言葉の本質を理解して素早い対応を約束する。
その対応の早さはある意味当然と言えば当然で、日本中の火力発電をダメにした原因である精霊と言う存在は、石木もユウヒから発電所の件でよく聞いており、そんな存在がまた原因であると言外に言われれば動かざるを得ない。
「ありがとうございます」
「車寄こすから家に居ろよ?」
笑顔、所謂ビジネススマイルを深くするユウヒの口からするりと出てくる感謝の言葉に、石木は苦笑を洩らすと家に居るように促し、それは彼への対応が何よりも優先されるであろうことを現している。
「はい……よし」
「……」
笑みを浮かべて返事を返したユウヒは、電話が切れると表情を素に戻して満足そうに頷き、一瞬で変わる表情を見上げていた精霊たちは互いに見詰め合うと笑顔と無の表情を作り合う。どうやら彼のビジネススマイルは彼女たち心の何かに触れた様だ。
「ん? もしもし?」
精霊たちの行動に小首を傾げるユウヒが、出掛ける準備の為に部屋に並べられた装置を退かし必要な物を纏めているとスマホの着信音が鳴る。スマホをすぐに取りチラリと相手を確認したユウヒは、応答のボタンを押して軽い調子で話し始めた。
「ブラザー今からちょっと時間ある? ちょっとお願いがあるんだけど」
「すまんなブラザー、俺は今から全力で作らなくちゃいけないものがあるんだ」
相手は育兎らしく、スマホから漏れ聞こえてくる彼の声はとても楽し気で、今から何か楽しい事でもあるのではないかと相手に思わせる声色である。しかし、いくら楽しそうでも今のユウヒはやるべきことがある為、少しも相手をする暇はない。そんな感情が良く伝わる固くどこかカッコつけたような声に電話の向こうの育兎は口を閉ざす。
「……よし分かったすぐにそっち行くね!」
「え?」
そしてゆっくり息を吸うと今から家に向かうと言い出し、キメ顔を作っていたユウヒは少し驚いたように目を見開くと眉を顰める。
「君が全力とか絶対面白いものじゃん! イクイク!」
「ええー……まぁいいけど、ただの暖房器具だぞ?」
当初の倍、いや三倍ほど楽しく興奮した声を上げてしゃべりだす育兎曰く、ユウヒが全力で作る物が面白くないわけがないと、それは彼がユウヒの回転盤を見て確信したものであるが、異常な人間による異常な人間への称賛ほど一般人にとって恐ろしいものはないだろう。そんなユウヒも自分の作っている物を未だに暖房器具と言っている辺り始末に負えない。
「嘘だね! 僕には解るんだ! 絶対また馬鹿みたいなもの作るって! あ、褒め言葉だよ?」
実際ユウヒの箍は以前にも増して外れた状態であり、そんな彼が作ろうとしている物は計画の段階ですでに異常である。そんな匂いを嗅ぎ取った育兎の声は実に楽しそうで、スマホから聞こえてくる声にユウヒは苦笑を洩らす。
「それじゃ家においで、石木さんに場所の確保お願いしたから」
「場所……これは大物の予感!」
馬鹿と言われてもそれが誉め言葉であると言われれば悪い気もしないらしいユウヒは、肩を竦めると家に来ることを了承し、了承された育兎は石木の名前と場所の確保と言う言葉に期待を膨らませるのであった。
それから小一時間後、ユウヒの居なくなった天野家のリビングにはソファーの上に明華が一人うつ伏せに寝転び、寝てはいないのか時折足を上げると重力に任せてソファーに振り下ろしている。
「ねぇお母さん、お兄ちゃん知らない?」
「でかけたわよー」
そんなリビングに現れたのは流華、姿の見えない兄を探して家の中をフラフラしていたようだが、自分で探すのを諦めたらしい彼女は母親に兄の所在を聞くも返ってきた言葉に肩を落とす。
「どこに?」
「白いオス猫と自衛隊の輸送車でどこか行っちゃったわぁ。……ふふふ」
間延びした返事を聞いて残念そうな表情を浮かべる流華に、明華は妙な返事を返すと急に笑い出した。一見不機嫌そうにも見える明華であるが、うつ伏せになって淡いオレンジ色の光に顔を向ける彼女の機嫌は良いようだ。
「ふぅん? なんだか楽しそう、お兄ちゃんから貰ったそれ温かいもんね」
そんな彼女の解りにくい機嫌の良さが流華には分かるのか、ユウヒに関しては仕事の関係で居ない事しか分からないものの、顔を上げた明華の機嫌はすぐわかるらしく、ソファーの近くに置かれたオレンジ色の柔らかな光を放つ少し太めの結晶質なポールにすっと目を向ける。よく見ればそのポールは重力に反して少し床から浮いており、ただのインテリアじゃない様だ。
「これもいいけどぉ……ユウちゃんが漢の顔してたからうれしくてぇ」
「え? ……珍しいね」
どうやらオレンジ色の光と共に暖かな熱を振りまくそれは、ユウヒが作った家族用の暖房器具であるらしく、微笑みながらオレンジの光を見詰めた明華はソファーに座り直すと、少し前に見たユウヒの姿を思い出して笑みを深めると、流華の方を振り向いてくすくす笑う。どうやらその時に見たユウヒの顔には、いつもの無気力な表情はどこにも見受けられず、男らしい、いや漢らしい表情をしていたと言う明華の言葉に、流華は驚いた様に目を見開く。
「見たかった?」
「………………すこし」
稀にユウヒがそう言った表情を浮かべる事があるらしく、母親の挑発的な笑みに眉をピクリと動かした流華は、険しい表情で長考したのちに小さな声で呟いた。どうやらユウヒのそう言った珍しい表情は、彼女にとって好ましいものの様だ。
「じゃーん!」
「え、うわ! いつもよりやる気がすごいね」
思春期を卒業し始めたらしい最近の流華は素直になり始め、そんな正直な彼女の姿に目を細めた明華は、お道化た様に大きな声を上げ、手を広げ上げるとスマホの画面を流華に向ける。そこには明らかに隠し撮りであるユウヒの姿が映し出されており、引き締められた表情筋によって幾分細く顰められた眼光を見た流華は、驚いた様に目を見開き明るい声を上げた。
「何するのかしら、楽しみねぇ」
スマホを受け取り何十枚もある連続写真をスワイプしている娘の姿にクスクスと笑う明華は、出掛けたユウヒに感じた気配に面白いものを感じたのか、ソファーに座り直した彼女はオレンジ色に光る玉が埋め込まれたポールを指先でつついて楽しそうな表情を浮かべるのであった。
一方、明華に連続写真を撮られ最後のカットでは盛大に溜息を洩らしていたユウヒは、自衛隊の輸送トラックに乗ってとある施設の中にやって来ていた。
「またすごいとこ借りたねぇ?」
「凄く、頑丈そうです」
きょろきょろと興味深そうな視線を周囲に向ける育兎の隣で、ユウヒは劇画調に細められた目で天井を見上げ呆気にとられた様な声で呟いている。
「こちらの地下倉庫は有事の際にシェルターとしてもある程度機能します。上から万が一爆発が起きても大丈夫な秘匿出来る場所とのことでしたので……」
ユウヒの視界に広がるのは床も壁も天井も全て頑丈そうなコンクリートで作られた広い倉庫で、車両ごと乗れるエレベーターで地下に降りた場所にある空間は、有事の際にはシェルターとして利用できるらしい。明らかに単純な避難所と言う意味とは違うシェルターと言う言葉に乾いた笑いが洩れるユウヒに、自衛隊の案内役である男性はちらりと視線を向けてすごく不安そうな声を洩らす。
「……ダイジョブですよ?」
「……了解しました」
どうやら上官から相当脅された様で、視線の泳ぐユウヒの言葉にまったく了解したくないが、余計な事を言わず彼は静かに了解するのであった。
「あはははは、どこにも安心できる要素の無い返事だね」
「いえ、それは……」
そんな男性の心中を理解する育兎は、楽しそうに笑い声を上げると男性自衛隊員の心の声を代弁して相手を困惑させる。
「最悪自分で始末するので」
申し訳なさそうにチラチラ視線を向けてくる男性に苦笑を浮かべるユウヒは、万が一の場合は自分で対応できると言い、
「そうだね! 最悪僕が宇宙にポイしてあげるよ」
「は、はぁ?」
美少女にしか見えない育兎は白いワンピースの裾を揺らし手を広げると、最悪の場合は宇宙に捨てると言い出す。あまりに突拍子の無いことを言い始める育兎にキョトンとした表情浮かべる男性であるが、事前に政府に協力する重要人物だと聞かされていた為、疑問に思うだけで何か口に出すことは無かった。
「さぁ始めようか! ところで何を作るんだい?」
男性自衛隊員の反応にクスクス笑う育兎は、くるりと回ってユウヒを向き直ると腰に両手を当てて早速作業を始めようと声を上げるが、彼はまだ何を作るかすら聞いていない。すでに石木により大量の資材が運び込まれた倉庫を見渡しつつ、車両から荷物を下ろす自衛隊員に目を向け小首を傾げる育兎は、ユウヒから向けられた視線に表情を引き締める。
「ん? 一億℃以上の熱を発生させる精霊用ヒーターだよ」
「……は?」
これから作られるのはユウヒの部屋で暴走した精霊用ヒーターの耐久力強化版である、安全に一億℃の熱量を発生させる装置。予想もしない言葉に頭のついて行かない案内役の男性は声を失い、荷物を下ろしていた自衛隊員達は思わず動きを止めて言葉の発生源であるユウヒに目を向けた。
「…………夕陽君? 核融合炉でも作るの? まだちょっとこの世界には早すぎるし、この広さで足りる?」
一方、宇宙に放棄された猫のような表情を浮かべて固まっていた育兎は、魂を体に戻すと目を瞑りユウヒに呼びかけ、これから作る物の正確な認識を問う。どう考えても電話した時に聞いていた暖房器具と言うカテゴリーに合わない性能説明に、流石の育兎も困惑を禁じ得ない様だ。
「……大丈夫じゃない?」
「……(娘よ、父はとんでもない場所に居ます。もしもの時は母さんを頼んだぞ)」
周囲から視線が集まり奇妙な静寂が満ちる大きな倉庫の中、どこまでも不安しか感じないユウヒの返事は、案内役の男性自衛官を筆頭に、その場に居合わせた大半の人間の心に大きなストレスを与える事となるのであった。
いかがでしたでしょうか?
箍の外れたユウヒはさらに自ら自重の鎧を投げ捨てチートをお供に旅に出る。明らかに危険な香りしかしないが彼は無事ただの暖房器具を作ることが出来るのであろうか、次回もお楽しみに。
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




