第二百八十五話 電力不足で賑わう日本
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『電力不足で賑わう日本』
何が原因で起こったのか、ユウヒに怒られるのが怖くて未だに動けない精霊たちの暴走、そしてそれにより引き起こされた大停電。火力発電所の致命的な損壊による被害は日本各地に大きな被害を与え続けている。
それでも人々が生活を最低限維持出来ているのは、数年前に起きた未曽有の危機により、日本人の心に植え付けられた危機感によるものか、今日も停電と戦いながらも電子の世界では活発に交流がなされている様だ。
【計画停電が】電力難民が助け合うスレ2【来る】
13:名無しの電力難民
スレの加速が止まらないけどおまいらスマホのバッテリー大丈夫なのか?
14:名無しの電力難民
2スレ目がもう立ったのか取り合えず緊急時用の充電場所は増えていってる。学校も緊急事態で休みになって一部避難施設になってるみたいだ
15:名無しの電力難民
近所の小学校が避難場所になってる! やったぜクンカクンカ!!
21:名無しの電力難民
ロリショタは滅せられた。もっと有益な情報カモン! 山の上に太陽発電の施設あったけど曇り続きで役立たずワロエン
22:名無しの電力難民
東京にすごい店が出来てた。ここ連日行列が絶えないし24時間営業だし店内が未来みたいだった。URL張っとくわ
25:名無しの電力難民
グロ画像と思ったらマジ優良情報でぐう有能
26:名無しの電力難民
すげぇこれ全部人入ってるのか? 遠隔接客とか今の状況に逆らい過ぎだろ
27:名無しの電力難民
デマ過ぎて草も生えねぇよ
28:名無しの電力難民
何でこのサイズで1週間持つんだよ電動自転車だったら半日持たねぇよ
29:名無しの電力難民
非常事態にデマ流す奴マジ死ね
30:名無しの電力難民
こっちは必死なんだけど意味ねぇ情報流すなよ
31:名無しの電力難民
充電屋行ってきた! マジ行列辛かったけど中型ゲット! これで昼間も冷房使える
32:名無しの電力難民
延長コードは買ったか? 延長コードなかったらエアコン使えないぞ
33:名無しの電力難民
お前らもっとネットリテラシーを覚えろよ、あぁ難癖付けてる奴らな? 俺は今から千葉の友人宅に避難する。行きがけにバッテリーも契約する予定
34:名無しの電力難民
詳しい情報を誰か纏めてくれ
54:名無しの電力難民
何で充電屋東京の一軒だけなんだよ!
55:名無しの電力難民
人手が足りないしこんな状況になるとは思ってなかったと受付の人が言ってた
56:名無しの電力難民
受付の人ってAIだろ? 人扱いキモいんだけど
57:名無しの電力難民
あれを唯のAIとか言ってる奴ら頭大丈夫か? あそこまで受け答えできるAIとか見たことないんだがどこの企業が関わってるんだよ
58:名無しの電力難民
株式会社白兎カンパニーって書いてあるけど聞いたことない
59:名無しの電力難民
とりあえず店長が美少女過ぎてムラムラを持て余す。ボタンの隙間からチラチラ見える胸元に我大興奮!!
60:名無しの電力難民
通報しました。
61:名無しの電力難民
逮捕しました。
計画停電により定期的にやって来る停電の度に光を求める人々は、避難所以外の場所に新たな光を見て東京へと大挙して向かっている様だ。そんな東京では政府の電力不足対策本部が設けられ、電力復興大臣と言う役職まで任された石木によって指示された職員は、日々寄せられる報告に頭を悩めていた。
「一部地域で苦情が激減した理由がこれか」
そんな悩ましい報告の中に、良いとも悪いとも判断し辛い報告が一つ混ざっているのに気が付いた職員たちは、より詳しい情報を求めて調査を行ったようだ。
「ええ、非常用バッテリーのレンタルらしいんですけど……内容がちょっと信じられなくて」
「だが好評なんだろ?」
その報告によると、一部地域で電力不足に伴う計画停電に対する苦情が激減しているとあり、詳細に調べた情報によると開業したての店がレンタルしている非常用バッテリーにたどり着いたようで、その調査報告を流し見る男性は部下の言葉に小首を傾げる。
「はい、SNSやネット掲示板を中心に情報が広がっている様で」
「ふむ……バッテリーと言うものはこんなに小型で何日も持つものなのか?」
電力不足の復興に携わる責任者とは言え電気の専門家ではない男性は、SNSを中心に広がっていると部下の説明によくわかってなさそうな表情で頷くと、こちらも今一つ理解が及んでないバッテリーについても問いかけた。彼の認識ではバッテリーと言うものは長時間使えるものではなく、しかしそのことを専門に扱っているわけではない為、最近の開発状況については分からないのだ。
「いえ、一般的に考えて不可能ではないかと」
「そうすると、詳しい調査の必要があるな」
だがおかしいのは彼の認識ではなく、実際に数日もの時間を問題なく使えているバッテリーの方であり、ドーム発生以来そこかしこで起きている異常事態の関係上、少しでもおかしなことが起きればすぐに調査が行われる様になっているが、今回の事案は完全に要調査対象である。
「店員に聞いたところ企業秘密だとの事で、分解した場合は違約金が発生する契約になってます」
既にその怪しい店舗には政府の調査員が密かに派遣されたようだが、店員に聞いただけではそのバッテリーの詳細などわかるわけもなく、実物を確保して研究所で調査を進めるも、分解した際のリスクを考えるとそれほど詳しく調査できないようだ。
「特許は?」
「とってないようです」
また、明らかにこれまでのバッテリー技術と異なるであろうそれは、特に特許を取った形跡がなく、万が一バッテリーを調べ上げられれば、複製し特許を取られた後に店が潰される可能性がある。
「すぐにどこかが特許を取りそうなものだが……」
「それが出来るならやったら良いと……店長だと言う少女、いえ女性が言っておりまして」
そんな疑問に対して、店の店長と話すことの出来た調査員曰く、彼女は相当バッテリー技術の秘匿に自信がある様で、複製と特許申請が出来るならどうぞと言った様子の様だ。
「それだけの自信があると言う事か?」
突然現れ電力不足に喘ぐ人々に光明を齎した怪しい店【充電屋】、その都合のよさに気持ち悪い気配を感じる男性は、齎された報告の内容をもう一度読み始めると呻くようにごちるのであった。
大停電から数日、少しは落ち着きを取り戻し始めたとある避難所。当初は突然の状況に事態を把握するため様々な声が上がっていたものの、自然災害による避難とは違う為、落ち着いてしまうと妙に温い空気が避難所を支配している。
「以上の地域で本日午後から計画停電が始まります。事前の準備を忘れず行ってください」
「もうすぐここも計画停電か」
大半の人間は自宅でそれぞれの対策に動き、現状避難所は一人では何もできずやってきた独り身の老人や、スマホなどの携帯の充電の為にやって来た人ばかりのようだ。そんな避難所と言うより充電所となっている一角に、ラジオから聞こえてくる声に耳を傾けながら屯する学生たちの姿があった。
「自衛隊の発電機で最低限は電気が確保されてるだけ家よりマシよ」
「急に涼しくなったのは不幸中の幸いだったな」
電力の消費を抑えるため計画的に停電が行われ、次の順番は現在受電し蓄電池に電力を蓄えている避難所となった小学校を含めた一帯と言う放送にため息を洩らす少年に対して、学生服を着た少女は溜息を洩らす少年にジト目を向け、大型扇風機の風に目を細めた隣の少年は曇った空を見ながら苦笑する。
「はぁもう最近の日本はどうなってるんだよ、マジ国の奴ら使えなさすぎだろ」
「どうせ自分たちはたっぷり電気使ってんだろ?」
パイプ椅子に座って屯する三人の足元には、床でだらしなく足を延ばす少年が国に悪態を吐き、溜め息の止まらない少年の言葉に振り返ると目を見開く。地べたに座り服を着崩す少年はその視線を三人に向けながらため息少年の言葉の真意を訪ねる。
「知らないわよ」
「絶対そうだって、さっさと発電所直せよな」
三人より幾分幼く見える少年の視線に、少女はめんどくさそうに表情を歪めると御座なりに返事を返し、ため息少年は絶対そうだと言って溜まり続けるストレスを悪態と言う形で吐き出し続け、そんな彼の姿に向かいに座る少年は隣の少女と視線を合わせて肩を竦めた。
「それは無理だろ、ニュースで見たけどめちゃくちゃだったぞ?」
「なんで全国一斉に壊れるんだよ、どう考えてもテロじゃん」
「テロじゃないって言ってただろ? 大体こんなのやった人間が居たら唯の破壊魔だろ? 別に声明も出てないんだし」
さっさと直せと言われて直せるならば計画停電など起きてはいない、それはニュースで大々的に報道されている爆発現場を見た彼等ならわかっているはずで、解っていても尚悪態の洩れる少年に周囲の大人は何とも言えない表情を浮かべる。
「じゃあ誰がやったんだよ、はぁもうゲームできないしむかつくなぁ……あ! あれだろ」
「なにが?」
もしこれが何か発言や意思表示の下に行われたのであれば、誰かしらのアクションがありそうなものだが、そう言った反応は特になく、故に人々の心に対して言いし得ぬ恐怖を感じさせていた。その恐怖を誤魔化すために悪態をつく少年の思考は思わぬ方向へ向かっていく。
「異世界人とは異星人とかいたじゃん! きっとあいつらが日本征服しようとしてるんだよ!」
「……」
彼は突然起きた火力発電所での爆発を異世界や異星の人々の企てだと述べ、その最終的な目標を日本征服だと考えたようだ。そんな彼の考えに対して周囲人間は苦笑いを浮かべ、友人である少年は頭を抱える。
「絶対そうだって! きっとこんなことしてる間にも!」
「厨二病ね……」
「そんな回りくどいことしなくてもさ?」
「……しなくても?」
現在日本政府はドームの向こうからやって来た人々との融和を前面に押し出している一方、その考えに批判的な考えがテレビなどから拡散されており、それらの影響を受けて想像の話を真に受ける人も増えて来ているようだ。しかし、現代社会において情報源と言うものは多角化しており、情報同士の矛盾から真実を推し量ることが出来る様になってきている。
それ故に、悪態を洩らす友人の言葉に矛盾を感じた少年は、隣で呆れた表情で呟く少女に苦笑を洩らしながら回りくどいと言って話し始めた。
「ミサイル撃ち落としたレーザーを空から大量に打ち込めば終わりじゃん? 龍だって現代兵器全く効いてないんだろ? 勝てるわけないじゃん。お隣の国もそれでもボコボコにやられたのに」
そう、異星人と地球の間には途轍もない技術格差があり、その威容をまざまざと見せつけられているのだ。彼らが本気で日本征服を企てるのならば、宇宙戦艦に多数備え付けられている武器で大地を焦土に変えてしまえば良いだけで、現代兵器で反撃されても全く意に返さないだろう。
「………………じゃぁ、なんで攻撃してこないんだよ? 日本は格下なんだろ? むしろ地球レベルで格下なんじゃね? 仲良くとか無理だろ」
知っていれば当然誰だってそう思うであろう言葉を突き付けられた少年は、何も言えなくなって異星人の攻撃を想像したのか顔を蒼くすると、ならなんでしないのだと不機嫌そうに口を窄め問いかける。
「さぁ? でも記者会見で言ってなかったか? 異世界専門家が仲介したって、なぁ?」
力があるのに何故振るわないのか、平和な日本でそう問いかけられてすぐに理由を答えられる者は少ないだろう。ましてや相手は宇宙人や異世界人であり、彼らの考えが分かる者など地球には存在しない。存在しないが国の発表やネットを飛び交う情報を信じるならば、異世界専門家と言う謎の人物のおかげと言う事になる。
「一人で?」
「一人で」
その人物の詳細は保護の観点から秘匿されているが、ただ一人で異世界を渡り歩き、ただ一人で異星人と和解していると言う話は、少し調べるだけですぐに出てくる情報だ。
「……異世界専門家ぱねぇな」
その情報を再認識させられた少年は、悪態をつくのを止めると異世界専門家に畏怖の念を感じ、真剣な表情で呟くのであった。
少年の呟きに周囲の大人が肯定するように頷き、様々な方向へと思考を巡らせている頃、
「えっぷし!!」
当の異世界専門家は、バッテリーから伸びたコンセントの先にあるエアコンから吹き出す冷気を浴びてクシャミを放っていた。
「風邪か?」
「……いえ、体調は問題ないんですけどね?」
現在の日本において非常に贅沢な生活をおくることに成功したユウヒは、口元から放していたスマホを耳に寄せると、通話中の石木から訝し気に問われて小首を傾げる。
「そうか、明日の会議は大丈夫そうか?」
どうやらユウヒは明日何かの会議を控えているらしく、その会議にはユウヒの出席が絶対条件となっているのか、石木の問いかける声は幾分真剣なものだ。
「ええ、特に問題はないです。でも何の会議ですか? ゲートの方は問題出てなさそうですけど」
「ゲートの方はまだ問題らしい問題は出てない。小さなものならいくつか出ているが、一応翻訳の魔道具でどうにかなっている」
そんな会議の主題をまだ聞かされていないユウヒは、ティッシュで口元や鼻を拭うと問題ないと返事をして、しかし突然会議に出席させる理由が思い当たらないと不思議そうな表情を浮かべる。実際ここのとこ問題が急に出てくることが多いが、そのどれもが電話やメール、またはユウヒが実際に現場で動けば問題ないもので、態々会議を開く様なものはない。石木もユウヒの疑問に対して肯定すると、彼が気にしている内容での問題は起きてないと言う。
「追加必要そうですか?」
「いや、忍者の三人がその穴埋めをやってくれているから大丈夫だろう」
「三人はちゃんと働いてるんですね」
また小さな問題は常に起きている様だが、そこは本職である忍者達が対応している為、ユウヒが出張る事態には至っていないと、石木はどこか満足そうに話し、ユウヒは不思議と感慨深い感情が湧き出るのを感じてしみじみと呟き目を閉じる。
「ちゃんとか……もう少し真面目に働いてほしいが、昔から有能な人間ほど性格に難があるのはお約束だからな」
異世界ワールズダストでの彼らを思い出し話すユウヒに、石木は苦笑いを浮かべるともう少し真面目に働いてほしいと呟く。しかし、彼の経験上一定水準以上の業績や結果を生みだす人間と言うものは、得てして性格に難があったり破綻している者が多く。その脳裏に思わず一人の女性を描いてしまう。
「なるほど、母に言っておきます」
「やめろください」
軽やかに笑い熾烈な戦場を駆け巡る美女の姿、そんな思考を彼の言葉から読み取ったユウヒは、石木の言葉を本人に伝えておくと楽し気に笑い、その言葉一つで石木の肝は縮み上がる。
「冗談です」
「はぁ……とりあえず詳しい資料は明日来たら渡す。会議自体は午後一だから午前中早めの時間に来て読み込んでおいてほしい」
何気ない冗談であるが、その冗談一つで肝が縮み上がるほどの現実を知っている石木は、楽しげに笑うユウヒの声に対して力が抜ける様に肩を落とすと、弱々しげな声で明日の予定を伝え始めた。
「データでもらえたりは?」
「機密だからあきらめてくれ」
「了解です」
疲れからさっさと話を切り上げたい、と言うより余計な地雷をこれ以上踏みたくないと言う意思が見え隠れする声に、何とも申し訳ない気持ちを感じなくはないユウヒは、その意思に乗っかり最低限の質問と最低限の返事を返し、そのまま一言二言話して通話を終える。
ユウヒが呼ばれた会議では何が話されるのか、そして彼の行動はこの先の日本にどういった影響を与えるのか、それを知る者はまだどこにもいない。
いかがでしたでしょうか?
大停電を機に様々なところで騒動が起き、またネットの世界では情報を求めて良くも悪くも活発にやり取りが行われる。そんな中でユウヒの関わる事柄も密かに確実に広まる世の中で、次は何が起きると言うのか、次回もお楽しみに。
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




