表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
適応と摘出

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

280/356

第二百七十九話 ドーム縮小計画本格始動

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『ドーム縮小計画本格始動』



 異世界移民キャンプ内で翻訳機のテストを行ったユウヒは、自衛隊員を急かし早々に帰宅後しばらく休むことを伝え引きこもり、異世界移民の間で新たなうわさが流れていることなど知る由もなく思いついたままに魔力と素材を溶かすこと数日。


「以上のことから次の計画に進める準備が整ったものと思われます」


「うん、どうですか夕陽さん」

 ユウヒの姿は政府施設の会議室にあった。今回は前回の様に嘲笑を洩らす人間もいなければ高圧的な態度をとる人間も居らず、ドームに関する今後の対応に関する決定事項が説明されている様だ。


「え? あ、はい……。とりあえずは各ドーム内に調査ドームで作った装置の小型版を置いてもらって、その結果次第で順次縮小で構わないと思います。縮小作業は遠隔からも出来ますが、お伝えしていた連絡先には最低でも一週間前には正確なスケジュールを連絡してください」

 いつもの覇気の無い表情で会議を眺めていたユウヒは、水を向けられると背中を少し伸ばして目を見開くと、言葉を探す様に視線を彷徨わせて口を開く。


 ドーム発生時に生じた混乱は収まり、その後続く混乱も多少の被害を残しながらも沈静化した今、ユウヒの助力の下で二つのドーム縮小に成功した日本は、本格的なドーム縮小作戦と移設作戦を予定している。その最初の仕事は、各地のドームを縮小可能段階に調整することで、兎夏とユウヒの負担が大きく進まなかった作業を、自衛隊にも判断を可能にする道具を用意することで、飛躍的に計画を前に進めるつもりの様だ。


「わかりました。それで装置と言うのは?」


「測定専用の物を作ってきましたので、よいしょっと」


「ほう、それが魔力の測定器か」

 ユウヒ達の仕事を減らすために作られた物とは魔力測定装置、異世界側にあるゲート周辺の活性化魔力枯渇を改善することで縮小化が可能と判明している現在において、可否を確認する為にはユウヒか、ユウヒによって調査ドームに設置された測定装置が必要である。そんな測定装置の小型版だと取り出したのは木製の箱、よく見ると上には丸い穴がいくつか空いているようだ。


「ええ、周囲の空気を取り込んでそこに含まれる活性化魔力量をこのシリンダーに表示します。詳しくは説明書に書いてますので読んでください」

 少し訝し気にも見える驚いた表情で腰を浮かし目を凝らす石木に目を向けたユウヒは、彼に見える様に箱を回し、ガラスの菅に目盛りが打たれた部分を見せながら薄い説明書を取り出す。すでに装置は起動状態にあるらしく、石木や周囲の人々が見詰める目盛りは下の部分がほんのわずかに青く光っていた。


「しかしずいぶん小さくなったな? 実際に調査ドームのやつは俺も見たがよ、ありゃ見上げるほど大きかったぞ?」

 会議机の上に載せられた測定装置の大きさは一抱えほどはある木の箱、それなりに大きな測定装置であるが、石木の比較対象は同じ様な理由で作られた調査ドームの測定施設のようで、装置と施設では大きさに差がありすぎ、その差は石木に訝しげな表情を浮かべさせる。


「あれは試作で色々と作りやすいように作りましたし、無駄な機能をいっぱい突っ込みましたから」


「なるほどな」

 すでに役目を終えた後も周囲の魔力を監視し続けている調査ドーム内の監視装置、周囲の活性化魔力を解り易くするほかにも、魔力の質や脅威も監視する為にいくつも魔法が付与されていた大きな装置は、機能のぶんだけ巨大になった様だ。


「その装置はいくつ用意してもらえるのでしょうか?」


「今のところ縮小作業用くらいにしか使い道が無いので、こっちの負担も考えて10個くらいあればいいですかね?」

 説明しながら僅かに視線を泳がせる辺り何か隠してそうなユウヒであるが、彼の僅かな変化に気が付かない会議室の人々は、すでに役目を終えた装置より今から必要になる目の前の箱の方が気になるようだ。


「それだけ借りられたら十分かと、何か注意事項など有りますか?」

 十個ほど用意できると言う言葉に少し驚いた表情を浮かべながらも、満足そうな声で話し始める自衛隊員は、石木の浮かべるどこか不安そうな表情をちらりと見ると注意事項についてユウヒに問いかける。


「燃料が魔力なんでいつも通り分解しなければ大丈夫ですよ、ただ不活性魔力も使ってあるので、もし破損したり動かなくなった場合は修理を試みず家に送ってください」


「そいつも危険物入りか……」

 ユウヒの作る物は基本手荒に扱わなければ問題ない、問題ないのだが問題が出るのが現実で、ユウヒ曰く装置内部には魔力由来と言うより不活性魔力も使われているらしく、嫌そうに引き攣った表情を浮かべる石木に彼は眉を寄せてみせた。二人の頭の中にあるのはアメリカでの嫌な事件である。


「まぁなんだって危険な部分はありますよ、一応新素材使ってシールドしてあるんで、壊れてすぐにどうこうは無いと思います。まぁ……真っ二つ切断されたら別ですけど」


「新素材?」

 死者こそ出なかったが重症者を多数出した不活性魔力の流出事件は、アメリカだけでなく世界的に広く報道され、魔力やそれを扱う者に対するヘイトにも繋がっており、現状魔法を使ったり魔力由来の技術を有する異世界人を受け入れている国は日本以外にはない。


 そんな事件を引き起こさない為にもユウヒ自身、自ら作る物には常に安全のための工夫を凝らしている。その一つが最近思いついた新素材で、どうやら思った方向性の素材が出来たらしくユウヒの表情は満足そうだ。


「深き者達から少し素材を分けてもらって作ったんですけどね、思いのほか効果が高くて向こうでも研究するそうです」


「おま、いつの間に……」

 一方、新素材と言う言葉に眉を上げた石木は、その開発経緯を聞くと驚いたように目を見開いて絞り出す様にいつの間に接触したのかと、問い質したい気持ちを抑えながら声を洩らす。本来許可が無ければ進入出来ない場所にしか深き者と接触できる場はない。


「……場所さえわかっていれば、会いに行けますから?」

 だが接触自体を禁止しているわけではなく、またユウヒの怪しく光る眼とその顔を見ただけでもわかる彼の暗い感情に閉口してしまう石木は、周囲で同じように驚いた表情や蒼い表情を浮かべる人々と共にユウヒの言葉を待ち、ゆっくりと解き放たれた彼の言葉にとある政府関係者の男性が起こした事態の深刻さを思い知るのであった。





 元々政府や国の協力など期待しないで独力で事件を解決していたユウヒが気を使って協力していた政府、色々とあってその政府から心を離している事を政府関係者や自衛隊関係者が察した数日後、関東にあるドームの一つに頑丈そうな見た目の大きな自衛隊車輛が到着していた。


「測定器持ち込み確認!」


「丁寧に扱うんだぞ、専門家が割と頑丈に作ってくれているらしいが、破損すると内部の危険物が洩れる可能性があるからな」


「「了解!」」


 その車両にはユウヒから納入された測定器が厳重に梱包のうえ載せされており、重量制限の為に取り出された測定器は自衛隊員の両手にしっかり抱えられてドームの中に運び込まれたところの様だ。手元にしっかり測定器が抱えられている事を確認した自衛隊員に、ドーム内で待っていた上官はその木箱を確認すると頷き注意を促す。


「ケース施錠確認!」

 返事を返した自衛隊員達は、事前に用意されていた運搬用の特殊なケースに測定器を入れて施錠すると、複数人で施錠が問題ないと指差し確認を行う。馬鹿らしいと思う人間もいる確認作業であるが、こういった厳密な確認行動が事故を未然に防ぐのである。


「よし、所定の位置まで運搬後設置作業に移れ」


『はい!』


 万が一重大な事故を起こせば自分たちだけでは無く無関係な人間まで被害を受けると言う事は、すでにアメリカで証明されており、その事を情報と知っている自衛隊員の表情は真剣そのものであった。


「ふぅ……未知の道具は何度扱っても緊張するな」


「そうだな、だがあれに関しては比較的安心だろ? なんでも専門家が完成品だと言っていたからな、試作品じゃないだけずっとマシだ」

 実際に運搬を行う者が真剣なのは当然であり、この後測定器の監視を行う者も真剣に装置の到着を待っている。そんな部下に指示を出していた上司も緊張していたらしく、噂ばかり先行しているユウヒ謹製の謎装置の運搬作業が順調に進んだことでほっと息を吐き、彼のさらに上司もまた同じ心境の様だ。


「そうだな、試作品を乱暴に扱って色々やらかしたらしいからな」

 上司と言っても同期に近い仲なのか、指示を出していた男性は周囲を見渡すと苦笑を洩らしながら談笑を始める。





 これから縮小の前準備が始まるドームもあれば、すでに準備が整ったことで縮小を開始するドームもあるようで、残暑の日が落ち始めた時間帯から開始されたある地方のドーム縮小作戦は、投光器を搭載した車両のエンジン音をBGMに始まろうとしていた。


「配置の最終確認問題ありません」


「了解した。もうすぐだな……」

 仮設テントに機材を詰め込んだ簡易の指揮所では、作戦責任者が準備完了の連絡を受けて少し緊張した様に鼻息を洩らす。


「ちょっと、わくわくします」


「俺もだ、縮小を直に見るのは初めてだからな」

 責任者の男性は緊張と共にドーム縮小に対して興奮もしているらしく、傍らで小さく声をかけてくる女性自衛隊員に笑みを浮かべて答える。


『……』


 また周囲の人間も彼と同じような心持ちのようで、二人の会話を聞いて似たような緊張と興奮を感じる笑みを浮かべ、作戦開始時間へと近づく時計を見詰めていた。


「縮小作戦開始までカウント5・4・3」


「……」

 熱を蓄えた地面からの熱気に一筋の汗を流す責任者の耳に作戦開始のカウントが聞こえてくる。あと数秒で始まるドーム縮小は、事前にメールで依頼して決められた時刻に始まり、依頼を受けたのは冷房を効かせた部屋でパソコンのディスプレイに囲まれる兎夏。


「2・1・開始!」


「……縮小を確認!」

 彼女の指先一つで始まる縮小は、事前に決められた時刻ぴったりに始まり、通信機から聞こえて来た縮小開始の報告で指揮所はざわめく様に声が上がる。


「各班予定通り異常確認しながら微速前進!」

 じわりと縮小を開始したドームは歩くより遅い速度で縮み始め、責任者の男性の指示によって自衛隊員達は投光器を抱えた車両と共にゆっくりと歩き出す。少しずつ縮小速度を上げるドームであるが、そのスピードは歩く速度ほどにしかならず、警戒する人々は緊張と暑さに汗を流すのであった。





 一方、縮小を開始したドームの異世界側では、作戦開始の一時間ほど前から厳戒態勢が続いている。縮小作業中は世界と世界の境界線が非常に不安定な状態となる為、人の出入りは禁止されており、下手に通り抜けようものなら不活性魔力の噴出などと言った事故が起こりかねない。


「南方面異常なし、送れ」


「了解、そのまま監視は継続、以上」

 その為、異世界の小高い丘の上に突き刺さるように存在する真っ白なゲートの周りには、広く幾重にも侵入防止の壁やフェンス、木組みの櫓が組まれ、大勢の自衛隊員が銃火器を手に周囲を警戒している。


「東方面監視台より大型の鳥を確認、現在こちらに接近中。送れ」

 定期的に連絡が来る各方面の報告は作戦開始直後まで何の問題もなかったが、特別な作戦時と言うのは何かしらトラブルが起きやすいのか、東側を警戒していた櫓から届いた大型鳥類が接近していると言う報告に指揮所をざわつく。


「攻撃の危険はあるか? 送れ」


「何か様子を見ている模様、基地を中心に旋回を開始、監視を継続……送れ」

 遠く、また日の角度でシルエットしか見えない大型の鳥らしき影は、基地から一定の距離を保ちゆっくりと旋回を開始した様で、今すぐ何か起きる様な危険は感じられないと判断され、現状のまま監視を続ける様だ。


「変化があったら伝えろ、以上」


「こちら北門、現地民の一団が接近、警告を無視しています。送れ」

 緊急事態ではなさそうな報告に、通信担当がほっと息を吐いたのも束の間、今度は北側から複数の人影が近づいてくると言う。小高い丘の周りは見通しをよくするために広く切り開かれており、切り開いた森との境界線からその一団は現れた様である。


「くそ、こんな時に……」


「こちら北門、接近する一団は女子供ばかりの集団であると確認しました。ど、どうしましょう?」

 ドーム縮小作業に移るまで何度となく危険な目にあってきた指揮所の責任者は思わず悪態をつく。危険な目の中には夜盗や山賊と言った異世界人による襲撃などがあり、周辺国との外交成立で少しはその頻度が減った今でも、一般人に扮した襲撃は時折発生している。


「ちゃんと通信しろ! 今は重要な作戦中だ。基地内部に侵入しなければ問題ないので、詳しい話を聞いておいてくれ、以上!」


「そ、そんなぁ……」

 どこか拙い言葉使いで報告を入れる自衛隊員に怒鳴る責任者は、通信担当者の肩に手を置きながらマイクに顔を近付けると、簡単な対応と指示を伝えて有無を言わせず通信を終わらせ、通信機のスイッチを切る瞬間聞こえて来た返信の声に思わず肩を落とす。


「大丈夫でしょうか?」


「上に相談してみよう、誰か派遣してもらえると良いんだが」

 まだまだ新人の隊員なのかあまりに酷い受け答えを聞いた指揮所の人間達は苦笑いと乾いた笑い声を洩らし、疲れた様に頭を抱える責任者に通信担当の男性は少し不安そうに問い掛ける。


「専門家ですか?」

 一部でユウヒの翻訳器が出回る一方、大半のドームは言語も手探り状態であり、突発的な現地民との接触によって度々自衛隊員達は言葉の壁で苦労していた。それでも何とかなっているのは、一部の異世界言語が理解できる人間のおかげである。


「せめて忍者君たちだな、彼らならなんだかんだ上手くやってくれるだろう」


「そうですね……」

 一人は当然翻訳魔法を使えるユウヒ、そして何故か異世界人とであっても会話が成立するらしい忍者の三人。彼らが神から与えられた力は不明点が多く、しかし便利だからと言うだけで本人たちは気にしないことにした力は、本人たちの気質も相まってかドーム内で行われる外交交渉や各種協議の場においてに非常に役立っている様だ。


「騒がしいがな」


「……そうですね」

 全国のドームで高い評価を受ける忍者達であるが、欠点として騒がしいと言うものがある。一言に騒がしいと言う言葉で纏めているが、彼らが各地で起こしてきた騒動はその一言では表現できない余りあるものがあるようで、忍者の話をする二人の表情は悪感情こそ無いが困った様に歪むのであった。





 日本各地でドームに対する様々な対処が活発に行われている裏で、その処理を担当している兎夏は寒いほどに冷房が効いた部屋で額に汗を流していた。


「さ、流石に複数個所は忙しいよぉ」

 ちょっと人には見せられない様な薄着を汗で濡らす兎夏は、卓上扇風機で真っ白な髪を揺らしながら忙しなくいキーボードとマウスのクリック音と摩擦音を鳴らす。いつもより増えたディプレイには一台に付き一つのドームが映し出されており、サブキーボードを操作するたびにマウスのカーソルが各ディスプレイに飛んでいく。


「あ、こっちまた数値がおかしくなってる」

 ドームの縮小作業とその準備に関して詳しい内情を知らない自衛隊が、一斉に作業を開始したため、現在兎夏の仕事が瞬間的にオーバーワークとなっていた。自衛隊の本格的な作戦が始まった十カ所のドームを同時に調整する兎夏は、思った以上に安定しないドームの影響もあって汗を流し作業を続ける。


「やっぱりまだ安定しないなぁ? なんでだろう……」

 それでも麦茶を飲む暇くらいはあるらしく、残像を残すような速さでタイピングを終えた兎夏は、以前に比べてだいぶ改善されてはいるが未だに予測不可能な動きを見せるドームの数値に小首を傾げると、大きな背凭れに体を預けながら保冷マグカップを口に付けて喉を潤す。


「……うん、後でおじいちゃんに見てもらおう」

 強すぎるエアコンの影響のため乾燥する室内で、麦茶を飲みながら天井を静かに見上げる兎夏は、どこで何をしているのか分からないが定期的に連絡をくれる珍しい祖父を思い浮かべると、彼を頼ることにして頭を切り替えるのであった。


 尚、祖父の珍しい行動の原因はユウヒであり、後にその事を知った兎夏は感謝するより早く違和感と複雑な嫉妬を覚えるのだが、それはまた別の話しである。

 いかがでしたでしょうか?


 世界で唯一ドーム対策が加速する日本、一時はどうなるか分からなかったドーム災害も明るい兆しが見えて来たようです。しかしそれも一部の特殊な人々の助けがあってこそ、果たして日本はこの先どうなっていくのか、そんなユウヒの物語を次回もお楽しみに。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ