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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
適応と摘出

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第二百七十四話 力持つ者の実態

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『力持つ者の実態』


 東京某所で行われた異世界移民相談会、その一日目から武装した異世界人による事件が発生し、あっという間に鎮圧された翌日、この日も朝から始まった相談会は前日の経験を元に午前午後の二部構成で人を分けて集めていた。


「大丈夫か?」


「ええ、だいじょぶよ……」

 午前中の相談会が無事終わった会場には、お昼休みなのにもかかわらず午後の順番を待つ人々で空席が無くなっていた。そんな会場に集まった人々の中には何故か苦悶の表情を浮かべた者達の姿があり、付き添いや近くの人々がそんな顔色の悪い者達を心配そうに介抱している。


「いったいどうしたんだ。他の連中も同じような反応をしてる奴がいるし」

 その中で、窓際に居る魔女然とした大きなとんがり帽子の女性は顔色を悪くしながらも口元に笑みを浮かべており、介抱する鎧のような筋肉を纏った男性に向かって可笑しそうに話す。


「ふふ、異世界の種族がこれだけたくさん集まるのもすごいけど、それすら霞む衝撃なんて、人生長生きするものね」


「衝撃?」

 女性は周囲を見回し一堂に集まった異世界の様々な種族の姿に関心を示しながらも、その事が小さなものに感じる衝撃を感じたと言ってカーテンと衝立で遮られた相談室に目を向ける。


「精霊の導きはそれに足る人物だったと言う事よ、きっとみんな魔力に対する感受性が高いのね」


「魔力か、それだと俺にはわからないな」

 衝撃と言う言葉に首を傾げる男性は、魔力と言うものに対する感受性と言うものが全くないのか、女性が感じている魔力の衝撃と言うものを全く理解出来ず、魔女の辛さのひとかけらも解ってやれないと申し訳なさそうに頭を掻く。


「奥の部屋から感じられる魔力、とんでもないわよ? 魔力の量もそうだけど質が異常ね、まるで神を前にしているみたい」


「神なのか?」

 どうやら、またぞろユウヒが魔法で物作りでもしているのか、周囲に余剰な魔力を撒き散らしているらしく、魔力を敏感に感じ取ることの出来る人々がその力の大きさに様々な反応を示している様だ。魔女然とした女性曰く、その力は神を前にした時の様だと話し、彼女の言葉に男性は真っすぐな瞳を驚きで見開く。


「わからないわよ、でも害意は無いはずよ? こちらに気遣う様な優しい力を感じるもの、これが攻撃的なものなら、今頃ここに居る人たちの半数以上は……」

 神と言う存在が割と身近なのか、神と言う存在自体には驚いた様子の無い男性に、女性は首を横に振って見せると、少なくともカーテンの奥の人物に害意は無いと言って虚空を手で撫でる。僅かに魔力の光が灯る瞳を瞬かせた女性は何かを虚空で掴むと、一瞬微笑むもすぐにまじめな表情で押し黙ってしまう。


「……攻撃されているのか?」

 攻撃と言う言葉の後に押し黙る女性に思わず立ち上がり心配そうな声を洩らす男性は、すぐにその額を女性の長く大きく開いた長袖の端で叩かれる。


「違うってば、攻撃とかそう言う括りの次元じゃないの、そこにあるだけ……まさに神の如き力ね。精霊が頼れと言うのもわかるわ。お話しするのが今から楽しみね、個人的に色々お話しできないかしら? 同じ人だと言うし何とかならないかしらね……」


「人か……世界が違っても人は人なのか」

 直情的で単純、そんな印象のある男性は柔らかい布で叩かれると不思議そうな表情を浮かべ、小さく見えるパイプ椅子に座り、女性の説明に険しい表情を浮かべた。精霊の言葉に耳を傾けやってきたのは彼女達も周囲の多種族も変わらず、魔女然としたとんがり帽子の鍔を掴み弄る女性が楽しそうな声で呟くと、男性は逆に不安を感じる声で呟く。


「さぁどうかしらね?」

 人と言うものにあまり良い印象のなさそうな二人は、しかし対照的な表情を浮かべるとパーティションとカーテンで分けられた一室に目を向けて小さくため息を洩らすのであった。





 一方そんなユウヒはと言うと、一日目と違い色々な物を持ち込んだようで、与えられた長机の上を小さな模型の様なもので散らかしていた。


「夕陽さんお昼は摂られましたか?」


「食べましたよこれ」

 手の中で細長い石柱を転がしていたユウヒは、呼びかけに顔を上げると少し屈む様にして問いかけて来る女性に笑顔を浮かべ、手のひらに乗るくらいの黄色く薄い箱を持ち上げ笑う。


「え、それだけで足りるんですか……?」


「あまり食べると眠たくなるので、割と精密な作業なんですよコレ」

 彼が持ち上げた箱は、日本人なら大体の人が見たことあるであろうバランス栄養食の箱である。どうやらユウヒの昼食はブロック型の栄養食だけだったらしく、女性の心配そうな声に肩を竦めると、手のひらで転がす10㎝ほどの石柱に目を向け両目に光を灯す。


「それは何を作っているのですか? 色々置いてありますけど」


「今作ってるのは翻訳装置の試作パーツですね。そっちの模型は全部ゲート固定化装置の試作品、の試作品かな」

 不思議そうな女性の声に顔を上げたユウヒは、目から光を落として笑みを浮かべると、手に載せた石柱は翻訳機のパーツで、机の上に転がっている小さな模型群はゲートを固定化する装置の試作だと話す。


「翻訳……あれ? ゲートの固定化装置はもう完成しているのでは?」

 未だに異世界移民の言葉を日本人は理解することが出来ておらず、その改善の為、また今後日本が異世界と付き合い続ける以上必要になってくるのがユウヒの翻訳機。その部品だと言う石柱に目を向けた女性は、興味深そうに頷くと、すぐに疑問を口にする。


「あれは所詮急造の簡易装置なので、あまり耐久性が無いんですよね」


「え」


「今設置してある場所も変更する可能性があるとかで、もっとコンパクトなのとか多機能なのとか石木さんから頼まれて、なんだか呆れてましたけど」

 既にゲートの移動と固定の成功に関してはテレビやネットで拡散され、事実や真実、真偽不明な情報もあっという間に世界中に拡散された。特に自衛隊や関係者の間では、固定に必要な装置の存在や問題なく装置が作動したことも伝えられているが、実際の装置はユウヒと兎夏が共同で作った簡易装置であり、現在はその実証データから完成品を設計している段階である。


 さらには、石木経由でもっと複雑な機能を有した装置の提案がユウヒになされ、その装置の模型を作るユウヒは呆れた様にため息を漏らす。元々は簡易の装置を作った後は国の研究機関と各企業で装置を解析して複製発展させるという話だったのだが、魔法や魔力の基礎すら解明されていない現状では手を付けられないらしい。


「なるほど、しかしすごいものですね魔法と言うのは」


「そうですね、便利ですよ? そこそこ危ないですけど」

 当然と言えば当然と言えるのだが、ならば何故最初からそういう計画にしなかったのかと呆れるユウヒは、目を輝かせる女性自衛隊員の前で簡単な道具を作って見せながら、プライドに塗れた人間の多かった元勤め先を頭の片隅で思い出し、考えることを諦めるのであった。





 残暑の太陽が中天に差し掛かっている頃、太陽の光が浅く差し込むとあるリビングでは床に敷かれた座布団の上で正座する二人が無言で見詰め合っていた。


「……」


「……」

 冷房の効いたリビングの大きな窓は開け放たれ、新鮮で湿った空気を室内に取り込み、不規則に聞こえてくる風鈴の音は実に涼しげである。が、二人の間に流れる空気は軽やかでも涼しげでもない、実に重苦しい空気であった。


「どうして駄目なの?」


「い、いや……流石に男と女が一緒に住むと言うのはどうかと思うんだよね?」

 静かに、しかし責める様な声で語り掛ける兎夏は、対面に座る自分と同じ色彩の顔をじっと見下ろし、そんな視線の重圧に苦笑いを浮かべる育兎は一般論を持ち出す。どうやら今後の事について話している二人の議題は、育兎の住む場所についての話に差し掛かっている様だ。


「家族なら一緒でもいいでしょ?」


「いや、それはちょっと……うちはほら、色々特殊だし?」

 祖父と孫、異性間とは言え一緒に暮らすのにそこまで問題になる組み合わせにも思えないが、祖父とは言え育兎の体は十代や二十代でも通る健康体、孫娘である兎夏に見せるには憚れることも多々あり、それ以外にも事情がありそうな育兎の言葉に兎夏は眉を顰めて見せる。


「おじいちゃんは私の事襲うの?」


「え、それは無い」

 祖父が濁している内容を察した兎夏は、少し怒ったように眉を上げると育兎に対して孫に性的な衝動を感じるのかと、どこか期待すら感じる声色で問いかけるも、その返事はまるで陸上短距離選手の接戦の如き速さで返され、育兎は自分の言葉に少し遅れて表情を呆れた様に歪めた。


「即答ってところがむかつく」


「いやだって、オムツも交換「みゃーー!?」ひぇ!?」

 何を言っているのだと言いたげな育兎は兎夏の祖父である。当然彼女の事を赤ん坊のころから知っているわけで、彼女に対する感情も微笑ましさこそあれど異性に感じる感情など持ち合わせていない。それ故思わずポロリと出てきた言葉に、兎夏は悲鳴にも似た大声を上げて育兎の鼓膜を劈く。


「お、落ち着け!」


「そのデリカシーの無さどうかならないの!?」

 大声と共に立ち上がった兎夏は、座っていた座布団を掴み振り上げると育兎を見下ろし赤い顔で睨みつける。


「ほら、だから一緒に暮らすのはね? おじいちゃんでりかしーないからさ?」

 今にも座布団を振り下ろし叩かんとする兎夏に、育兎は恐る恐る後退しながら中腰で立ち上がると、相手を刺激しないように、というよりも野生の動物でも相手にしているかのようなゆっくりとした慎重な動きで相手を宥め、彼女の言葉を借りて一緒に住まない方がお互いの為だと話す。


「そんなこと言ってすぐに居なくなるじゃない!」

 しかしそんな言葉には騙されないと言った表情で座布団を抱きしめた兎夏は、何かあるとすぐ姿を眩ます祖父に苦言をぶつけ、


「んー……なにも言えないです」

 ぶつけられた育兎は咄嗟に反論しようとするも、何も反論の言葉が浮かばず自然と息を止め、観念した様に肩を落として頭を掻くと困ったように笑う。どうやら兎夏の言葉に対して育兎自身色々と自覚があるようだが、彼にはどうする事も出来ない部分でもあるようだ。


「大体どこに行くつもりだったのよ!」


「それは、まぁブラザーのところかな」


「……は?」

 そんな祖父の昔から変わらない姿にため息を洩らした兎夏は、ゆっくりとした動きで床に座布団を敷きなおして座ろうとするも、思わぬ言葉に目を見開き動きを止めると、ぎこちない動きで顔を上げて目の前の真っ赤な瞳を凝視する。


「こわ!? いやほら、夕陽君が少しなら泊められるって言うからさ、ついでに住む場所探すのも手伝ってくれる人がいるらしくてね」


「……」

 射殺す様な視線に思わず本音を悲鳴の様に洩らす育兎曰く、泊る所がないのならとユウヒから短期間なら泊りに来て良いと了承を得ており、さらには住むところを探す手伝いもしてくれると、そんな約束をしたのだと言う。寝耳に水と言った表情で話を聞いていた兎夏は、その言葉の意味を理解すると無言で頬を膨らませて育兎を睨む。


「やぁそんなに大きく頬っぺた膨らまされても……」

 しかしその視線からは全くそれまでの恐れが感じられず、まるで猛る子猫に見詰められているかのような感覚に、育兎は微笑ましそうな笑みを浮かべると困ったように肩を竦めて見せる。


「夕陽君、おじいちゃんに優しすぎないかな? かな?」

 唯々小さな子の我儘を微笑ましく見ている様な育兎の姿に、兎夏の心の中の子供が不満を洩らし始め、その感情はそのまま彼女の口から洩れていく。どうやら祖父である育兎の行動を叱る兎夏の感情の中には、会ってすぐに打ち解けた仲の良い二人に対する複雑な嫉妬が混ざっていたようだ。


「まあそこはブラザーだからね! あいた!?」

 そんな彼女の感情を知ってか知らずか、どこか自慢する様に胸を張って楽し気に話し出す育兎、


「やっぱり家にかんき……引き篭もってもらった方が安心なんだけど」


「いましれっと怖い事言わなかった? その辺はやっぱり遺伝だよね」

 しかしその言葉は突然投げつけられた兎夏の座布団によって遮られ、赤いはずの目が黒く見えるほど濁った彼女の口からは、若干危険な色を孕んだ言葉が漏れ出し始め、座布団を顔から退かして胸の前で抱いた育兎は、その姿に誰かを重ね見て思わずため息を洩らすと、小さく微笑みながら呟く。


「えっ! それはヤダ……」

 そんな育兎の呟きに、先ほどまでどろどろとした光を目に浮かべていた兎夏は過剰なほど目を見開き驚くと、次の瞬間には心底から嫌そうな表情と声を吐く。


「あまりそう言う所を表に出さないようにね? 男も割と鼻が利くから、逃げられてからじゃ遅いよ?」


「うぅ」

 不穏な気配を漂わせていた兎夏に困った様な笑みを浮かべたまま話しかける育兎は、彼女の隠された感情を見抜いているのか、それとも一般論なのか、あまり不穏な気配を漂わせていたら好意を寄せる男も逃げてしまうと諭し、その事は兎夏自身理解しているのか小さく呻くと、リビングの床に膝を着き落ち込みはじめるのであった。





 一方何かと危険な女性が周囲に多いユウヒはと言うと、昼の休憩時間も終えて午後の相談会の為に机の上を軽く片付けている。所狭しと並べられていた試作品は纏めて段ボール箱に突っ込んであり、もしこの場にその価値がわかる人間が居ようものならその乱雑な扱いに卒倒しているであろう。


「む」


「どうしました?」

 そんな試作品入れの中へと残っていた試作の部品を投げ入れたユウヒは、何かに気が付くと顔を上げて鼻を鳴らす。今日の補佐役は女性であるらしく、昼休みに顔を出した女性自衛隊員より幾分年上の落ち着いた雰囲気の女性がユウヒの様子に小首を傾げている。


「お昼はカレーでした?」


「え! 匂い残ってます? 消臭剤使ったのに……」


「一瞬だけ感じたので」

 どうやらユウヒの鼻腔を僅かなカレーの香りが擽った様で、ユウヒの問いかけに恥ずかしそうに驚いた女性は、自分の服の匂いを確認しながら背中を少し落ち込んだように丸めた。


「すみません、嫌ですか?」


「え? 別に嫌ではないですよ? カレーが食べたくなったくらいで」

 消臭剤を使うほど彼女の中で気になる事だったのか、恥ずかしそうに視線を向けて問いかけて来る女性の姿に、ユウヒは特に気にした様子もなく、どちらかと言うとカレーの良い香りに食欲が湧いてしまっただけの様だ。いや、単純に空腹だからこそ僅かな香りにも気が付いたのかもしれない。


「あら? ふふふ、後で持ってきましょうか?」


「いいんですか?」

 ユウヒのどこか子供っぽく見える表情に笑い声と笑みをこぼした女性は、カレーを用意することが出来るらしく、彼女の提案にユウヒは少しうれしそうに顔を上げる。彼の中で自衛隊のカレーは美味しいと言う認識があるらしく、自衛隊が管理している異世界移民避難所の食事にも興味があったようだ。


「お昼、あまり食べられてないらしいじゃないですか、おやつに食堂から貰ってきますね」


「ありがとうございます。今日は午後の人数少ないのでおやつの時間までに終わらせますかね」

 純粋に喜ぶユウヒの姿に何か安心した表情を浮かべた女性は、ユウヒが昼食をバランス栄養食で済ませたと言う報告を受けていたらしく、元から間食を摂ってもらうつもりだったようである。これにはこれまでのユウヒの行動に原因があり、社畜時代から人の何倍も休まず働くことに慣れてしまった結果、彼は簡単に限界を超えて仕事を行って警護や手伝いの人間達を不安にさせていた。


 しかし、その仕事は日本の将来や各国の強固な繋がりを維持強化する為にも必要で、止めたくても止めることが出来なかった。その事を問題視した一部の人々は、明華と言う危険人物が動き出す前に依頼遂行中の間だけでもユウヒの健康管理を密かに行う事にしたのである。


「わかりました。それでは順番にお呼びします」

 そんな命令を受けている一人の女性は、ユウヒの顔色を確認すると一つ頷き、午後の相談会を始める為に、パイプ椅子に座りそわそわと順番を待つ異世界移民に声をかけるために歩き出す。



 いかがでしたでしょうか?


 相談会に集まった異世界人を、気が付かず魔力で脅してしまうユウヒはまた何か良からぬものを作り、オーパーツを量産していた育兎は孫に叱られる。そんな危険人物は何をやらかすのであろうか。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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