第二百六十九話 特異点接触 後編
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『特異点接触 後編』
東京都でありながら自然あふれる奥多摩、自然を存分に楽しむ者達にとっては天国の様なその場所も、
「はぁ……なんで日本の夏ってのは何時までも暑いのか」
特にその気も無い者にとっては残暑の陽射しと湿度で地獄と化す。そんな一人であるディーと呼ばれていた女性は、薄手の上着の袖で汗を拭うと悪態を洩らしながら山を登る。
「しかもべたべた、ユウを見つけたら近場の温泉にでも誘ってみるかねぇ?」
大きく開いた胸元を広げ汗ばんだ胸の谷間に風を送る彼女は、ここに来る途中で見かけた温泉マークを思い出し、どうせならユウヒを見つけて一緒に温泉に行くのも悪くないと、どこか優しい姉の様な笑みを浮かべ大きく張った樹の根を跨ぐ。
「ん? 騒がしいね……なっ!?」
歩きにくい山道を軽い足取りで登るディーは、何かに気が付き足を止めるとその場で片膝をついて地面に掌を付ける。何か異常を感じた彼女が地面から伝わる振動を調べ始めた次の瞬間、遠くでとてつもない爆発音が鳴り響き空気の振動が彼女の鼓膜どころか体全体を痺れさせる様に揺らす。
「迫撃砲かい? いや……この感じは、航空機もいないって事は地対空ミサイル? 相手はなんだろうねぇ」
体に感じる振動と周囲の状況に目を向けるディーは、傭兵としての経験から爆発の原因を思い浮かべ、その予想がこの場において有り得ないものであると理解するとすぐに樹の影に身を隠す為に走り出した。
「何が何だかわからないけど、戦闘の気配があったら撤退だったか……いったい何と戦ってるんだろうねあの子は」
大きな木の根元に滑り込み空を見上げるディーの視界には、戦闘機や軍用ヘリの姿や音は聞こえず、しかし空中で爆発しているのであろうナニカの振動は空気を伝わってくる。時折地響きも混ざる状況に小首を傾げた彼女は、戦闘を行っているのであろうユウヒを思い困った様に眉を寄せた。
「は?」
助けに行きたい気持ちはあるが、明華の言葉がある為逃げるしかない彼女は、どこかで戦っているであろうユウヒの無事を祈ると、身を低くして大きく育った草木に隠れながら移動を開始する。しかし数歩進んだ瞬間、嫌な風切り音を感じて空を見上げた彼女は、飛んでくるナニカに思わず変な声を洩らしてしまう。
「おわたた!?」
空から近づく脅威に呆けたのも一瞬、急いでその場から走り出した彼女は、終いには地面に身を投げ出す様に跳び転がり空から降って来たナニカから逃げる。
「……これは、何かの装甲板かね? 構硬い」
空から降って来たナニカは奇妙な動きで軌道を変えるとディーを追いかけるように地面を転がり、慌てて隠れた大樹にぶつかって鈍い音を立てるとその動きを止めた。彼女が大樹の影から顔を出した先に転がっていたのは、一メートル以上はある装甲板と機械の残骸。
「さ、お土産も出来たし帰るかね? 姐さんがあの感じならユウに問題はないんだろうし、中々良い漢になったみたいじゃないかい、楽しみだねぇ」
一頻り装甲板を調べたディーは、その装甲板が未知の金属である事を理解すると見た目より軽いそれをひょいと肩に担ぎ、未だ爆発音の止まない山の奥に目を向けると楽しそうなな笑い声を残して下山する為に歩き出すのであった。
一方、爆発音も衝撃音も鳴りやまぬ山の奥では、ディーが下山する間も戦闘が続いていた。
「34号機爆散確認」
お腹に抱えたすべての爆弾を吐き出し切ったアホウドリは、ユウヒが蹴り飛ばしお腹を空に向けてよろめくロボットに向けて急降下を開始、数秒でトップスピードに至ったその巨体は未だ態勢を戻せないロボットの腹に突き刺さり爆発する。
「どんだけいるんだよ! 流石にもう環境破壊とか言ってらんねぇ!!」
一機ずつ確実に破壊して行くユウヒであるが、その何倍もの速度で山の至る所からロボットが現れ戦線に加わっていく。今も新たに表れたロボットが破壊されたロボットの機体番号を確認しながら銃撃に加わり、ユウヒの小盾を一つ破壊する。
「統制射撃開始」
「っくそ! 抜かれたか!?」
環境破壊の事を考えて広範囲に影響が出る魔法の使用を控えているユウヒであったが、そんな余裕もなくなるほどの銃撃を受けて全力で後退を始めたが、大量の攻撃を前に到頭大楯を貫通する弾も現れ、その一撃で左肩が浅く裂けてシャツの布と一緒に血が宙を舞う。
「敵への損傷確認」
「統制射撃の有効性確認、継続射撃」
ユウヒの負傷を確認したロボット達は敵に対して現時点で最も有効な攻撃手段を理解すると、濃密な銃撃を行うべくいくつかの密集した集団を作って移動を開始する。緩く囲む様に動き始めたロボットを睨むユウヒは、目の奥に怪しい光を灯すと四肢を地面に着けて姿勢を低くした。
「ふっ……【大楯】【大楯】【大楯】【アクセル】【トリプルチャージ】【フリーズデストラクション】」
「魔力反応増大」
前方のロボット群を睨むユウヒは、突然笑う様に口元を歪めて歯を剥くと一気に魔法を使い周囲に濃密な魔力を吐き出し始める。膨大な魔力量に警戒を強めるロボット達であるが、その魔力以上に危険なワードがユウヒの口から出たことに気が付くことは無かった。
「面制圧したけりゃもっと数を増やせや鉄屑が!」
「対象ロスト」
加速の魔法で人の出せるスピードを超えて飛び出したユウヒは、いつもと雰囲気がだいぶ変わった言葉使いで叫ぶと、周囲に青白い三つの光球を浮かべながら急加速急制動を繰り返しロボットの群れに接近する。
「捕捉データてん【ペネトレイト】―――!?」
そのあまりの早さにユウヒを見失うロボット達であるがそこは数の多いロボット、一機でも視界に敵を捉えられその情報が共有され、あっという間にユウヒの位置が把握されるはずであった。共有情報の転送確認がされる前にユウヒは木の槍に魔力を纏わせると速度を活かしてロボットの頭部を貫き、その頭を蹴り飛ばして再度加速する。
「陣形変更A3」
急加速により近接攻撃を仕掛けてきた相手に、ロボット達は近すぎる故の死角を無くすために三つのグループに分かれてユウヒを囲もうと機敏に動き始めた。
「あぁ良い感じだ【リリース】」
一見ロボット達のユウヒを囲み圧力を加える作戦は、素早い動きを封じる意味でも効果的に思える。しかしその動きにユウヒは小さく微笑むと、冷たい視線をロボットの集団に向けながら魔法のキーワードを口にして、ロボット達の中心で槍を大きく横に一振りした。
「周辺気温急低下測定ふk―――」
槍の振りに合わせ、薄氷が割れるような音と共に青白い光球が砕ける。その瞬間何かに気が付いたロボット達であったが、何が起きたのかを完全に把握する暇なくその全身を凍結、そして液体窒素に入れた薔薇のように硬い装甲をバラバラと砕け散らせていく。
「…………くそ、まだ寄って来るな」
ユウヒを囲んでいたロボットはすべて破壊され、周囲の山林はその姿を氷原に変えてしまっており、大量の大木はどこに行ったのか、日の光で明るく晴れ渡った周囲には、ダイヤモンドダストの様に凍り付いた小さな結晶が宙を舞っている。山林と氷原の境界線からはさらなるロボットが姿を現し始めており、その姿を確認したユウヒは不機嫌そうに顔を歪めると、頬の血を拭って魔力を練りあげるのだった。
一方その頃、ユウヒを見送った兎夏はと言うと。
「……なにが起きてるのよ」
音や光、振動と言った情報は兎ロボットやドローンから齎されるため、何が起きているのか気になるところであるが、ジャミングによってユウヒやその周辺を映像で捉える事は出来ず、全く詳しい状況がわからないでいた。
「急激な温度上昇、これは爆発? 異常重力波にこっちは高出力のレーザー光?」
必死に集めた情報からは、明らか自然に起きるわけがないデータが得られ、時折ジャミングの外にまでレーザーが飛び出してきて兎夏の背中に嫌な汗を滲ませる。
「何でもないみたいに言って、嘘ついたのね……」
去り際のユウヒを思い出してユウヒの隠し事を察した兎夏は、悔し気に唸ると僅かな悲しさと嬉しさの感情を溜息にして洩らす。
「おねがい、無事に帰って来て……」
何故ユウヒが何も言わず山の奥に入っていったのか、その気持ちを十分理解出来る兎夏は額を握った両手で支えるとユウヒの無事を祈る様に呟く。
「え!? これ、ワープ反応!」
そんな彼女の願いは聞き届けられなかったのか、ディスプレイの中の気温表示が異常に下がる中、それ以上の異常を検知して警報が鳴り響く。
「地表に異常な空間の歪曲……分かった」
この警報はちょっとした異常では発報しない警報であり、この地球上の科学力では絶対に実現できない様なものの出現に反応する警報である。
「誰かがこの辺りにビーコンを打ち込んでるんだ。でもどこから、誰が……」
その警報の原因を調べた兎夏は、現在日本に広がる異常な空間負荷の理由を理解して目を見開くと、困惑した表情を浮かべる顔から血の気を引かせていく。
「もしかして、この世界でも異星人が?」
それほどまでに彼女が確認したワープ反応と言うものは問題のある技術であるらしく、現状説明がつきそうな者と言えば異星人、異世界からやって来た深き者とは違うこの地球と同じ宇宙に存在する異星人である。
「でも今まで何も、でもそうか……おじいちゃんの遭遇も突然だったって」
どんな想像がなされているのか百面相を続ける兎夏は、祖父の話を思い出してより深刻な表情を浮かべ、何か決意するように口元を真一文字に結ぶも束の間、
「夕陽君……急激な温度低下? ひゃ!?」
ユウヒを心配して顔を上げた兎夏は、ディスプレイに表示された山林内の外気温に目を丸くすると、次の瞬間いくつかのドローンが瞬く様にその映像を途切れさせたことに驚きの声を洩らすのであった。
そんな戦闘が続く山林には、兎夏を驚かした原因がその姿を現そうとしていた。
「通常空間に移動完了! 異常はな……なにこれ?」
元山林の上空に突然奇妙な歪み生じ、収縮するように縮み周囲の景色を屈折させたかと思うと光を放つ。何もなかった空間が歪んだ後に光を伴い現れたのは白いワンピースをはためかせる人物、その人影は何かを確認するように声を上げて目を覆い隠していたバイザーを外し、足元に広がる氷原に向かって疑問を洩らす。
「ちょっとちょっと!? なんで山が一部吹き飛んでるの!? しかもこの冷気わや!?」
山林に降り立つ予定が眼下に広がるのは真冬の様に冷え込み凍りつく氷原、山林をくっきり切り取ったかのように表れたその大地に驚きの声を上げる透き通るような肌の白い人は、突如突撃してきた青い鳥に奇妙な声を上げる。
<フィールドに深刻なダメージ! 回避運動を推奨>
「うそお!? 大口径の徹甲弾にも耐えるシールドアーマーだよ!? 誰が……」
ユウヒの魔法で作られた鳥は、怪しい人影を迎撃する為に飛び込むも、見えざる壁に阻まれ四散して魔力に戻ってしまう。キラキラと魔力の残滓を残す場所では、白い人が右手の腕時計から聞こえてくる音声に驚愕の声を上げ、攻撃してきた何者かを探して周囲に目を配る。
「ん?」
「え?」
氷原となり見通しの良くなった場所で何者かを探す事は特に難しくもなく、金属がぶつかり合うような音に目を向けた白い人が見たものは、無数に転がるロボットの残骸の中心で槍を無造作に掴み立つユウヒ。彼は視線に気が付くと空を見上げ不思議そうに視線の主を見詰め、見詰められた白い人は少し驚いたような声を洩らす。
「……フライングマ、ん?」
「誰がUMAだよ!」
凛とした空気の氷原に佇む血濡れの戦士と空を飛ぶ真っ白なワンピース姿の人物、まるで絵画の一部の様な光景は、しかしユウヒの心底不思議そうな言葉によって温い空気へと変わる。突然UMA扱いされた白い人は思わずツッコミを入れると地上に降り立ち、ずかずかとユウヒに向かって歩き始めた。
「これをやったの君か! なんでこんなことを、というかどんな兵器を使えばこんなになるんだよ! どっかに自走砲でも来てるの!? 冷凍弾なの!?」
「脅威対象の停止を確認」
「え? 脅威対象?」
明らかに下手人は一人しかいないと言った様子で声を荒げ捲し立てながら歩いてくる人物に、ユウヒは困った様に眉を寄せると、槍を下ろしてその人物を迎え入れる様に体の向きを変える。しかしそんなユウヒの動きは彼を狙う敵からは攻撃のチャンスにしかならず、どこからともなく聞こえて来たロボットの声に白い人はキョトンとした表情で立ち止まり周囲を見回す。
「まだいやがったか!」
「AAPCR発射」
「なんてものを!?」
壊れたロボットの残骸から聞こえた声の主は、損壊した下半身を引き摺る様に上半身を持ち上げると、背中から飛び出た太い砲身を構え重々しい装填音を鳴らしユウヒに狙いを定める。何を発射するつもりなのか、心当たりのある白い人は真っ白な肌を蒼くしながら驚愕の声を上げ、身構えたユウヒは悪寒が導くままに大楯を手に構え大きく口を開けた。
「ボマー!」
「クワァァ!!」
「自爆!?」
大きく開けた口から出たユウヒの呼び声に呼応したアホウドリは、発射される弾頭と大楯の間に体を滑りこませ爆発。その爆風に頭を押さえてしゃがみこんだ白い人は、氷と砂ぼこりで見えなくなるユウヒの姿に自爆かと驚きの声を上げる。
「【氷乱武装】【アクセル】キーーーック!!」
「脅威度測定不能」
しかしユウヒがここまで来て自爆などするわけもなく、爆発により速度を減衰させた弾頭を大楯で防いだ彼は、土煙を切り裂く様に跳び上がると、殺傷する為のブーツを氷で作り上げ、加速の魔法によって自分自身が砲弾の様になり空を見上げるロボットを貫く。貫かれる瞬間にロボットから洩れ出た声には、平坦な声ながら驚愕と悲壮感を感じられるのであった。
「うっそやろ……すとーっぷ! ストップ!」
だが、隠れていたロボットはそれだけではなかったらしくあちこちで残骸が動き始め、さらには追加のロボットが顔を見せ始める。
「マスター命令確認、自動防衛システム停止します」
そんな状況に呆けていた白い人は慌てた様に声を上げ、その声に反応したロボット達は敬愛する主人に答える様にその命令を受理、跪くとすぐに武装を機体内に仕舞い込み始めた。
「ますたーめいれい?」
「落ち着いて! お互い話し合いが必要だよ! それが文明的で平和的な先進的人類としてのマナーだと思うんだ! ね! ね!?」
そんな命令する人物と動きを止めるロボットを前に、ユウヒが何も思わないわけもなく、すぐに彼らロボットとフライングマンの関係性を理解すると、まるで般若の如く眉と目を歪め、泣く子が引き付けを起こすようなドスの効いた声で白い人に問いかけ、問いかけられた相手はあたふたと慌てながら身振り手振りも交えて平和的な対話を求める。
「ふむ……そうだな」
特に敵意の無い怯える相手に、ユウヒ自身疲れも感じていたのか大きく鼻から息を吸って冷えた鼻腔を温める様に長く息を吐くと、その提案を了承して槍を地面に突き立て戦闘の意思が無いことを伝えるのであった。
それから数分後、ユウヒとロボットの戦闘により生まれた氷原は、氷も解けてぬかるみ草木の生えない空き地となっていた。そこでは集まってきたロボット達がせっせと破壊された仲間を運び出し、砲弾で耕した地面の穴を埋めている。
「とりあえずこれでいいかな」
「器用なロボットだな」
あっという間に凸凹を均し緩い曲線を描く空き地に戻す。しかしそこには以前の様な大木はどこにも見当たらず、ぺんぺん草一本生えない不毛の大地となったままである。
「元は工作系統のロボットだからね」
「興味深い」
さらに工作系だと言うロボットは、どこからか草の生えた土の塊を持ってくるとぬかるんだ地面に敷いて行く。その光景に興味深いと呟くユウヒは目の奥で怪しい光を揺らしているが、またぞろ趣味を暴走させようとしている様だ。
「それでは改めまして、僕は育兎って言うんだ。ちょっと用事があってこの辺に隠れ家を作っていたんだけど君は何者かな? 神? 異星人? 超人? それとも高次元生命体かな?」
「ただの人間だったはずなんだが、最近呼び名が増えて自分でも良くわからなくなってきた一般人の夕陽です」
そんなユウヒに向き直った白い人は、育兎と言う名前であると口早に話すと一歩大きく歩み寄りながら何者なのかとキラキラした目で問いかけ始める。その勢いにどこか既視感を感じるユウヒは頭を掻きながらこれまでの自分を振り返りながら一般人だと告げ、
「嘘だ!!」
真っ赤な目にドロドロとした黒い気配を漂わせる育兎に全力で否定されてしまう。
<対象の心拍数等異常なし、嘘をついている様子はありません>
「こんなこと出来る一般人が居るわけないじゃないか! しかもこんな猛烈な魔力、管理神って言われた方が納得できるくらいだ!」
しかしその全力否定は、ユウヒが何か言う前に育兎の右手に付けた腕時計の様な装置によって否定される。どうやら高度なAIであるらしいその装置は、ユウヒの体の状態をモニタリングして嘘かどうかを判別したようだが、その言葉がどうしても信じられない育兎はAIと言い合いをしながらユウヒに詰め寄っていく。
「ん? 管理神を知ってるのか?」
あまりの勢いに後退りそうになるユウヒであるが、その言葉の中に聞き覚えのある言葉を確認して眉を上げ呟く。管理神、異世界と関わったことで、と言うよりもユウヒがアミールと関わった事で認識した存在である。
「……あぁなるほど、関係者か」
「まぁ色々な」
普通の人間は一生かけても関わることのない存在をユウヒが知っていると知った育兎は、何かを察した様にユウヒを見上げ疲れた様に呟き、そんな視線に色々と思い出して思わず眉を寄せて声なく乾いた笑い洩らすユウヒ。
「その表情、振り回された感じかな?」
「うーん? 間違ってはいないな」
見上げた先にある表情に眉を少し上げた育兎は、全てを察した様に目を細めると妙に温かい眼差しをユウヒに向けて問いかけ、返事を聞くと何度も頷いて見せながら腕を組んで何か考えだす。実際ユウヒはアミールにこそ良いイメージを持っているが、それ以外の管理神には色々と思う所があるのだ。
「そうか、それならちゃんと説明しないといけないね」
「俺も色々説明した方がよさそうだな」
表情に自然と出るほど二人から微妙な評価を受ける管理神であるが、育兎にとっては相当面倒な相手と言う意識があるらしく、疲れと呆れで歪められた表情でユウヒに話し合いの必要性を示し、ユウヒもまた頷いて同意する。
「少し場所を変えよう。向こうに隠れ家あるからさ」
「わかった。その前にちょっといいか?」
「ん?」
どうにも互いに似たような空気を感じている二人は、つい先ほど会ったばかりとは思えないほど互いの空気を読み合うと、育兎の隠れ家と言う場所で詳しい話をする流れに収まったようだ。ただ、ユウヒにはまだやり残したことがあるようで、歩き出そうとする育兎を呼び止めるとぬかるんだ空き地の中央辺りに歩いて行き魔力を練り上げる。
「範囲決定、成長具合調整……【グローアップ・アクセラレーション】」
せっせとロボットがどこからか土を持って来ては敷き詰める空き地を見渡したユウヒは、一つ頷くと練り上げた魔力をそっと胸のあたりに上げた両手の間に集め始め、じっくり魔法の姿を思い浮かべキーワードを呟く。
以前にも異世界で使用した経験からより効率よく、より安定して現れた緑色に光る光の玉は、周囲一帯を淡く優しい光で照らし、照らされた地面からは一斉に植物が芽吹き始める。
「……(いやいやいや、おかしいよね? なんだこの魔力。こんな量の魔力を保持するなんて人には不可能だ……どこからか引っ張って来ている?)」
まるで植物の成長を早送りで見ているかのような現象に、思わず息を飲む育兎は、右手の装置から密かに伝えられる内容に驚愕して静かに困惑していた。何かと異常なユウヒであるが、魔力に関して確かな知識がある者からすれば、異常と言う言葉すら生易しいほどで、同じ驚きは兎夏がすでに味わっている。
「よし、これでしばらくすれば緑が戻るな」
「優しいんだね」
周囲をぐるりと見渡し満足そうな笑みを浮かべるユウヒに、困惑しつつもその行いの尊さには感銘を覚えた育兎は、ニコニコと顔を綻ばせながら彼の優しさを評価するように呟く。
「ん? 唯の証拠隠滅さ」
後ろからかけられたそんな呟き声に、ユウヒは首を傾げながら証拠隠滅の為だと話す。事実そう言う意図もあるようだが、半分が照れ隠しである事は誰の目からも明らかである。
「そうか、ならその手に持ったロボットの一部も放棄してほしいんだけど」
「……」
それ故、微笑んだままユウヒを見上げる育兎だが、自然とその笑みは引き攣りユウヒの手元見詰めていた。彼の手には破壊したロボットの一部が握られており、引き摺る様に歩いてくるユウヒはそっとその目を育兎から逸らす。どうやら新しい研究材料を前に欲望を抑えられなかったようだ。
「いやいや!? そんなそっぽ向かないでよ!」
明らかにオーバーテクノロジーであるロボットは、その情報の漏洩を防ぐために工作ロボットによって回収されているが、回収が間に合わなかった部品の一部はユウヒの背中に隠されてしまう。
「技術の発展には犠牲と言うものが付きものなのだよ」
「そんな清んだ目で言うことじゃないよ!」
隠し切れない大きさの部品を軽々持ち去ろうとするユウヒは、育兎を清んだ瞳で見下ろすと諭す様に語り、不安しか感じない不穏な言葉と裏腹に清んだ目を向けてくるユウヒに育兎の盛大なツッコミをぶつけ、彼は渋々大きなパーツを手放す事になるのであった。
いかがでしたでしょうか?
強力なジャミングにより封鎖された山の中でロボットと戦闘を行ったユウヒ、彼はロボット達の主と和解し何を知るのであろうか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




