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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第二十六話 彼の地は今日も平常?運転

 どうもHekutoです。


 修正完了しましたので投稿させて頂きます今回は視点が変わりますが、楽しんで頂ければ幸いです。



『彼の地は今日も平常?運転』


 現在進行形で、ユウヒが世界樹と一夜を過ごしている世界でも、また日本でも無いとある異世界。名を『ワールズダスト』と言い、そこにはユウヒを主と慕う者たちが今日も畑・・・いや、植林事業に精を出している。


「姉さん、こちらは完了しました」

 人工的な気配を感じる、広大で綺麗な円形の湖に隣接する神殿。その神殿を中心に、これまた広大かつ荒涼とした大地が広がるその地では、現在多数の人影により植物の苗木が植えられ続けている。


「あ、二号ちゃんお疲れさまぁ。先に休憩しててもいいよ?」

 その規模はすでにちょっとした仕事ではなく事業レベルに達しており、それらを可能にしているのが、現在湖畔沿いに植林作業をしている一号さんを筆頭にした、ユウヒのゴーレム達であった。 


「いえ、一緒に休憩したいと思っていましたのでお手伝いします」

 ユウヒがクロモリオンラインで愛用していたゴーレムをモチーフに、有り余る魔力と妄想に任せて作り上げてしまった彼女たちは、作られた存在とは思えないその豊かな感情以上に、まだまだ秘密の多い存在である。


「ありがとう! それじゃ小さい石ころお願いね」

 そんなゴーレムの中でも、ユウヒが初めてクロモリオンライン内で作り上げた一号さんは、妹にあたる二号さんの言葉に嬉しそうな声を上げると、その巨体に似つかわしくない細やかな動きで、拾ってもらいたいと言う彼女にとっては小さな石ころを太い指で摘まむ。


「了解です」

 一号さんから手渡された石ころ、とは言えない一抱えほどある岩を両手で受け取った二号さんは、見下ろしてくる一号さんの蛍光色に光るつぶらな瞳を見上げると、ひとつ頷いて作業を開始する。


「私が来た」

 そんな風に、姉妹が仲睦まじく迫力ある植林作業を続けていると、植林事業を後押しする存在その2が姿を現す。


「モミジさんいらっしゃい! 今日はどしたの?」


「新しく植えた子に元気を分けに来た」

 それは、現在ユウヒが一夜を共にしている精霊と同じく樹の精霊であるが、内包する力は母樹のそれを圧倒的に超えている樹の大精霊、モミジである。どうやら彼女が力を貸していることも、植樹が現在の規模になった理由の一つであるようだ。


「いつもありがとうございます。姉さん、今日植えたのはどこからでしょうか?」


「えっとね、C-120から160までだから・・・こっちだね」

 小柄なモミジを見下ろしながら、軽い会釈を交えてお礼を口にした二号さんは、隣の一号さんを見上げると首を傾げて問いかける。その無機質なゴーレムとは思えない柔らかなしぐさで問いかけられた一号さん、彼女もまたどこか人間臭さ、いや幼さを感じるしぐさで今日植樹したエリアを思い出すと、指をさしてゆっくりと歩き始めた。


「ついていく、ところで活力を与えた子の様子はどう?」


「はい、ミズナさんからも分けていただいたのですくすく育っています」

 ゆっくりと歩く一号さんの隣を、二号さんと一緒に少し早歩きで歩き始めたモミジは、彼女を見上げるとそう問いかけ、二号さんは即座に回答を示す。


「そう、でもユウヒみたいにはいかないのは・・・悔しい」

 即座に返ってくる第三の存在も含めた内容に、満足げな表情を浮かべたモミジは、しかしどこか不満そうな表情を浮かべると、今は遠くに行ってしまった友の名を悔しげに洩らすのだった。


「うふふ、そこは私のマスターですから」

 そんなモミジの言葉に、二号さんは湖の中央に悠然と佇む巨大な世界樹を見ると、誇らしげな声でユウヒを称える。


「ちがいますー! 私たちの親方ですよー」


「あ、えっと、そういう意味で言ったわけではないんです姉さん」

 しかしその言葉は即座に頭上からの声に否定され、不満そうな声色で訂正されてしまう。特に独り占めするつもりでの発言ではなかったのだが、言われてみればそう聞こえなくもないことに、普段は冷静沈着な二号さんは大いに狼狽え、


「なるほど、思わず出た本音ということですねわかります」


「ええ!?」

 予想もしない方向からのさらなる追撃に、驚きの声を上げる。


「どうだった? 妹たちが聞いてきた人間らしい言い回しなんだけど?」


「使用を控えることを推奨します」


「・・・ざんねん」

 しかしその追撃は、無表情なモミジなりの小粋な冗談であったようで、首を傾げながら手応えを問いかけた彼女は、二号さんの無機質な声に表情筋を動かすことなく残念そうな雰囲気を洩らすのだった。





 一方その頃、とあるウサギ神を祭る神殿から少し離れた湖畔では、人の背丈の二倍ほどまで育った木の下で、足を投げ出して地面に座る一人の少女が、呆けたように虚空を見詰めていた。


「・・・」


「あら? ユラじゃない、どうしたのこんなところで?」


「・・・ミズナさん、ですか」

 突然後ろからかけられた声にびくりと肩を震わせそっと振り返るユラは、ミズナの姿を確認するとどこかホッとした表情を浮かべて見せる。


「そうよ? それでなにかあったの? さっきラビーナが探していたけど」

 ほっとした表情を浮かべるユラの言葉に首を傾げた彼女の名はミズナと言い、ユウヒが初めてこの世界で出会った水の大精霊であり、ユウヒの左目を青色に変えた精霊達の姉のような存在である。


「・・・着せ替えは嫌なので、却下」

 一方、ミズナの何気ない問いかけに心の底から嫌そうな顔と声を洩らしたユラは、最近新しく生まれた神の一柱である世界樹の付喪神であり、生まれる要因となったユウヒを父と慕う生後一月に満たない少女だ。


「あはは、そうね・・・疲れるものね」


「はい・・・」

 ユウヒを慕う者が多く住むこの地において、彼の娘と言うのが公式に認められている彼女は、皆から愛されている。


 特に幼い神ということもあってか、豊穣と同時に母性も司っていそうな先輩女神のラビーナには、過剰とも言える愛情を注がれており、それにより引き起こされる事態が、ここ最近ユラの頭を悩ませる問題であった。


「それで何か悩み事? ラビーナからは逃げられたんだろうし、その話じゃないんでしょ?」


「どうしてそう思うのでしょうか?」

 しかし、いま彼女が湖畔で虚空を見詰めていたのは、何もラビーナとの関係について悩んでいたわけではないようで、ミズナが言い当てた通りまた別の問題であるようだ。


「なんでって、あなたが悩んでたり考え込んでいるときって、受け答えがモミジっぽくなるのよ? 気が付いてない?」


「え、本当ですか? うぅん・・・樹の属性がそうさせるのでしょうか」

 ミズナに指摘された事実に、ユラは一瞬きょとんとした表情を浮かべ彼女を見上げると、すぐに腕を組んで難しい表情を浮かべて見せる。新たな悩みと言うほどでもないものの、見るもの触れるものすべてが新鮮な彼女にとって、この世界は疑問や不思議で溢れているようだ。


「かもねー・・・で? 聞くだけなら聞いたげるわよ?」


「・・・そうですね、実は」

 また思考の渦に嵌りそうになっているユラを見て、微笑ましさと可笑しさで笑みを深めたミズナは、足を投げ出して座る彼女の隣に屈むと首を傾げて見せ、微笑みながら彼女の言葉を待つ。


「「「じつは?」」」


 しかし、ユラの言葉を待つ者はミズナだけではなかったらしく、こっそりと枝葉に潜んでいた三つの小さな影は、ユラが口を開いた瞬間、木の葉が舞い降りるようにその姿を現した。


「あんたたちね・・・」

 彼女たちはユウヒと特に仲の良い水の中位精霊であり、ユウヒの左目を魔改造した張本人たちである。自らの好奇心に忠実な彼女たちは、ミズナが現れる前から樹の木陰で虚空を見詰めるユラに接近していたのであった。


 妹たちの出現にジト目を向けるミズナと、ユウヒ曰く小精霊達が視線を交わし合う中、ユラは我関せずと言った表情で、続きを話すため口を開き、


「実は私に妹が出来そうな予感を先ほどから感じていて」

 爆弾を投下する。


『は?』


 予想すらしていなかったユラの発言に、思わず声をそろえてしまう水の姉妹は、互いに視線を交わし合うと、その頭の中で今の発言に関して高速で思考を繰り返す。


「・・・? どうやらお父様がどこかで新たないの「ちょいまち!?」はい?」

 まさに目を白黒させているミズナに、どこか不思議そうな表情を浮かべたユラは、彼女達の状況を特に気にすることなく話の続きを始めるが、すぐにその話しはどこか狂気を感じる目をしたミズナに止められる。


「そそそ、それはどういう事!? いつ! どこでだれが言ったのそんなこと!?」

 なぜミズナがこうまで慌てるのか、答えは簡単、彼女がユウヒに少なくない好意を抱いているからだ。


「はい? いえ、予感なので・・・でも確かに命を育む何かを感じました。とても楽しみで・・・妹たちはどんな名前を付けてもらえるのでしょうか」


「これは一大事だ!」「みんなに知らせないと!」「行くぜやろうども!」


 とある理由から非常に精霊からの好意を受けやすい体質になったユウヒは、ミズナだけではなく多数の精霊を虜にしており、その感情の大小はあるものの、彼の行動は周囲に多大な影響を与える。


『おう!』


 今もユラの口から飛び出した爆弾発言を広めるべく、小さな水の精霊達は偶然通りかかった精霊も巻き込み空へと飛び立ってい行く。彼女たちが本気を出せば、瞬く間にその噂は周囲に広がり、うわさ好きな風の精霊経由で遥か彼方の地まで広がることだろう。


「・・・あんたたちは一応女性体でしょうに、いやいやそんなことより! 相手、相手は誰なのユラ!」

 ちょっとした一大事が起きそうな状況に、ユラがよくわかっていない表情で首を傾げていると、苦笑を浮かべながら妹達を見送ったミズナに素早い動きで両肩を鷲掴みされる。


「あわわわわ!? わかりませんよぉ!?」


「感じるんでしょ!?」


「わたしが感じるのはお父様のことだけですぅぅ!?」

 必死の形相で迫るミズナに体を揺さぶられるユラは、先ほどまでの知的美人然とした微笑みを絶やさなかったミズナの豹変ぶりに驚くと、ぐるぐると病み・・・もとい闇が渦巻く瞳で体を揺さぶるミズナの問いかけに必死で答える。しかし、彼女も予感を感じているだけであり、正確な情報を持っているわけではないのだ。


「くっ! 使えな・・・そうね、ここは一号さんたちに聞いた方が早いかしら、連絡をとれるかもしれないし」

 そのことに悔しげな表情と毒を吐いたミズナは、ユラから手を放すとすっくと立ち上がり、右手親指の爪を軽く噛んで考え込むと、行動方針が決まったのか湖へと降りて行き、そのまま水面を滑るように移動を開始する。


「きゅぅぅ・・・」

 そしてその場に残った者は、樹に寄りかかったまま目を回し、口から鳴き声とも呻き声ともつかない音を漏らすユラだけであった。





 一方その頃、名も無き異世界に居ながらワールズダストの地で一騒動起こす原因となった人物はというと、

「まぁ! それではユウヒ様はここにいながら違う世界のこともわかるのですね」


「いやそれはわからんが、まだ試してないし」

 ピンクで統一されたハート型のベッドの上で、世界樹の精霊と楽しく談笑を交わしていた。


「んふ? その一号様という方から連絡は来ないのですか? そんなに慕われているのであれば日に一度は連絡がありそうなものですが?」


「ああ、これって俺からの一方通行だからな」

 どうやら話の内容は一号さんたちについての事であるようで、試していないということから彼女たちに搭載された多数の機能か、もしくは連絡ということから単純に世界間での通信か何かの様である。


「それは連絡してあげたほうがよいのでは?」


「ん? んーそうだなぁ気が向いたら試してみるか」

 ユウヒの話を聞いて、母樹は彼女達ゴーレムとユウヒの間に深い愛情を感じた様で、まだ見ぬ相手が心配になったのかユウヒに連絡を勧め、その勧めにユウヒも少し乗り気になっているようだ。


「はい、その方がいいと思います」


「上手くいくかわからんがな(と言うかゴーレム召喚とか出来たらもう本格的に使えない魔法とかなくなりそうだな、妄想属性魔法恐るべし! になってしまう)」

 ユウヒの答えに満足そうな笑みを浮かべた母樹に苦笑を洩らすユウヒ。どうやらその内容は召喚であったらしく、世界の壁を飛び越えて一号さんを呼び出せてしまったら、本格的にできないことはない魔法になるなと、心の中でも苦笑を洩らすのであった。


「それで、他には何か面白い話はないのですか?」


「面白いなぁ? と言うか話していても大丈夫なのか?」

 割とさわり心地の良いベッドの上でユウヒと向き合い、眠れない夜に子供が御話をせがむような無邪気な笑顔を浮かべる母樹に、ユウヒは首をかしげながらも本来の目的は大丈夫なのか気になり問いかける。


「はい、しっかりユウヒ様の魔力は受け止めていますし、種にもちゃんと注がれてます」

 そんなユウヒの問いかけに、母樹は無邪気だった笑顔を大人の女性らしいどこか妖艶さを感じる微笑みに変えると、自らのお腹を優しくさすりながら頬を赤らめ、上目使いで笑みを深めて見せた。


「・・・お、おうそうか、それなら問題はないな」

 目の前で無邪気な子供から、妖艶さすら感じる大人の表情へと変化を見せた母樹に、思わず胸の高鳴りを感じてしまったユウヒは、声を縺れさせると視線を彼女から外して恥ずかしそうに頬を掻く。


「はい、問題ありません! これなら一人っ子の心配もないと思います」


「ひ、一人っ子?」

 しかしその彷徨う視線は、母樹の思わぬ発言により、再度無邪気な笑みを浮かべた彼女へと戻る。


「はい! やはり姉妹は多いに越したことはありませんから、一人は・・・さびしいですからね」

 どうやらユウヒから提供された魔力は、総魔力量が著しく減ってしまったとは言え膨大であるらしく、その魔力をもってすれば種は一つだけでなく複数発芽させることが出来るようだ。


「・・・そうだな、それじゃ今度は家の妹について話すか」

 そのことを嬉しそうに語る彼女の『さびしい』という言葉からは、一人残った世界樹の精霊である彼女の感情が洩れだしており、そのことに気が付いたユウヒは引きつった苦笑を優しい微笑みへと変え、話題を家族である妹の事に変える。


「はい!」

 ユウヒが微笑みを浮かべながら提案した話しに、何か感じるものでもあったのか、母樹が見せたこの時の表情が、ユウヒにはとても輝いて見えたのであった。


 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの夜が更ける一方、初めましてな人も、お久しぶりな感じになった人もいるでしょうが、前作の皆さんの今でした。これが何を意味するのかは分かりませんが、また彼女たちの話しが出た時にお楽しみ頂ければ幸いです。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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