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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百六十七話 ゲート管理施設予定地

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『ゲート管理施設予定地』


 東京の空を自衛隊のヘリコプターがゆっくりと編隊を組んで飛び、地上の人々がその光景に空を見上げたりスマホを掲げること小一時間ほど、調査ゲートが設置され、様々な機材に囲まれた一角には、新たなゲートの姿があった。その他に周囲には武装した自衛隊員やツナギ姿で計測器を抱えた人々などが動き回り、ゲートの正面には光に照らされるユウヒもいる。


「あの、ちょっと増やし過ぎでは……」

 停止したアーケードゲートを見上げるユウヒの後ろには、彼が乗っていたヘリコプターの同乗し、各所と連絡を取り続けていた男性が、なぜか少し怯えたような表情でユウヒに声をかけていた。


「増やすと言いましたし必要なので」


「そ、そうですか」

 その原因は、ゲート管理施設となったコンクリートの塀の中を見下ろす様に、塀やビルなどの上で羽を休める鳥、鳥、鳥。真っ赤な目と光をすべて吸い込む様な黒い羽のカラス、少しくすんだ青色の燕、明らかに都内に居ては可笑しい巨体を持つアホウドリ、雀の群れを引き連れた羽飾りのある雀。その視線はユウヒとその周囲に鋭く向けられ、大量の視線に気が付いた者達はその異様な空気に思わず目を見開いている。


「(いつもより高圧的ね? ……嫌いじゃないけど)」

 その鳥は大半がユウヒの魔法であり、その理由はここに到着するまでの道すがらあちこちに身を潜めていたスパイやテロリスト対策なのだが、結局ここに来るまで一度もそれらの存在について知らされなかったユウヒは、若干の鬱憤が溜まっており語気に棘が混じり始めていた。


「ん? そらな、これだけされて何も無しじゃな? 問題だろ……それに必要なのは確かだし」


「(ごめんねリソースに余裕が無くて、やっぱりゲートを近づけすぎると不安定になるわね)」

 直接耳に届く兎夏の高圧的と言う言葉に肩を竦めたユウヒは、少しでも距離を開けようとする政府の案内役を後目に、後半ボソボソとした聞き取れない小さな声で話す兎夏に対して道中を思い出し呆れたような声で話す。実際に周囲の鳥の中には兎夏の作業を補佐するような鳥も居り、そのことに彼女は申し訳なさそうな声で謝罪すると、ゲートが不安定であることを伝える。


「何となく予想は出来るよな、もう少し離すか」


「(合わせるからよろしく)」

 どうやらゲートと言う異世界の出入り口は、互いに干渉しあう事で周囲の空間を不安定にしてしまうらしく、なんとなく予想していた二人は、実験もかねてゲートを少しずつ近付けては観測を行っていたようだ。その甲斐もあって安全な距離を大体把握した兎夏は、ユウヒの言葉に返事を返すとキーボードを叩き始める。


「もう少し右にずらします!」


『了解!』


 ゲート管理施設に居る人々からはまるでユウヒが動かしている様に見えるゲートであるが、実際は兎夏が遠隔制御によって動かしている為、ユウヒの声と周囲で返事を返す自衛隊の声に合わせて彼女はゆっくりとゲートを動かしていく。





 ユウヒと兎夏の連携によって最適な場所へとゲートが移動させられている頃、それら移設作戦の最高責任者である大臣は、スマホを片手に呆れた様にため息を洩らしていた。


「そうか、そんなに出て来たか」


「いいかげんどうにかしてほしいぜ」

 何が出て来たのか電話口の向こうから聞こえてくる男性の言葉に返事を返す石木は、どうにかしてほしいと言う男性の声に苦笑を洩らす。


「そう言われても、呼び込んでいる奴らを一掃したいのはこちらも一緒さ」

 どうにかしたいのは石木も同じであるらしく、電話の向こうからも石木の返事に理解を示す様な溜息が漏れ聞こえてくる。彼らが話しているのはユウヒをイライラさせていたスパイやテロリストの事であり、電話口の男性は今回秘密裏に行われた作戦の公安側責任者であった。


「はぁ、それにしてもそっちの秘密兵器はとんでもないな? うちにも出向してくれねぇか?」


「秘密兵器?」

 そんな男性は話すことは全て話し終えたのか、仕事終わりの様な溜息を洩らすと、自衛隊の秘密兵器はとんでもなかったと言いだし、公安にも寄こす様にどこか不満げな声を洩らすも、突然秘密兵器などと言われた石木は困惑した様に眉を顰める


「忍者だよ忍者、どう考えてもこっち向きだろ」


「あー……どうだろ、荒事に関しては最高の戦力だが、それ以外はどうだろうな?」

 どうやら公安の男性が言う秘密兵器とは、異世界で忍者に進化したいつものドタバタ三人組の事のようで、自衛隊内でも忍者で話が通じるようになった三人の姿を思い浮かべた石木は、何とも言い難い声を洩らすと、戦闘力はお墨付きを与えられるが公安が求める様な能力があるかは把握できていない言った様子で言葉を濁す。


「性格か? そこは教育の問題だろ」

 実際に三人の忍者は功績こそ素晴らしいものの、その性格故に方々で問題行動が目立つため、自衛隊内でもその評価がずいぶん多岐にわたり、石木もその評価に困ってすらいる。そんな性格は矯正したらいいのだ言って呆れる公安の男性に、石木は思わず失笑を含んだ鼻息を洩らしてしまう。


「……その考えは止めとけ、ユウヒほどじゃないがあいつらも化け物の類だ。お前は傭兵団の人間を誰か一人でも教育できるか?」


「…………くそ、そのレベルか。流石に無理だ」

 突然笑われた男性は少し苛立ちを感じる声で話し出そうとするも、被せてくるような石木の言葉に声を失うと、心底悔しそうに、同時に焦りを感じる様な声で悪態を吐き、熟考することなく無理だと匙を投げる。


「そういう事だ、長生きしたけりゃやめとけ」

 言葉の端々から傭兵団と言う組織に対する苛立ちと恐怖が感じられる男性の声に、石木は革張りの椅子の背凭れに背中を預けながら余計な事をするのはやめておけと忠告し、


「ただでさえ短い人生これ以上短くしたかねぇよ」

 石木の忠告を今度は何の苛立ちもなく素直に受け止めた男性は、背中を丸めたことが言葉からも伝わるような声色で話すと、もう一度小さく溜息を吐く。


「それがいい」

 傭兵団と言う組織と浅からぬ因縁のありそうな男性の返事に、石木は可笑しそうに笑いながら呟くと、そっと耳からスマホを放して通話の停止ボタンをタップするのであった。





 友人の溜息に思わず笑ってしまう石木が自らも小さくため息を洩らしている頃、ユウヒは移動させたゲートを見詰め、その青と金の瞳でゆっくりと周囲を見回している。


「どうですか?」


「……」

 いつの間にかユウヒの近くからいなくなったスーツ姿の男性、その代わりに彼の隣に立って指示の伝達を行っている女性自衛隊員は、無言で周囲を見渡すユウヒに思わず声をかけてしまう。かれこれ十分以上無言で周囲を見回すユウヒの姿に僅かな不安を感じてしまったようだ。


「(こっちだと問題ないけど……どう?)」


「ふむ……」

 そんなユウヒの回りには、いつ何が起きても良いように武装した自衛隊員も多数待機しており、真剣な表情でゲートの状態確認を行っている姿を横目に周辺警戒を行っている。そんな視線がチラチラと集まる真ん中でもう一度ゲートに目を向けたユウヒは、耳に直接聞こえてくる兎夏の声に眉を緩めると空を見上げながら小さく声を洩らす。


『…………』


 ユウヒの見せる一挙手一投足にも気を払っている自衛隊員達は、彼の久しぶりに発した様に思える声に唾を飲み込むと、調査ゲートの近くで動かす度に紫電や強烈な光、また奇妙な異音を上げていたゲートに目を向ける。


「大丈夫ですね」

 奇妙な静寂に満ちるコンクリートの塀の中、ユウヒの少し明るい声が聞こえた瞬間あちらこちらからゆっくり息を吐く音が聞こえ始めた。それでも緊張状態は維持しているらしく、自衛隊員達は姿勢を崩さず手に武器を保持したまま周囲を警戒している。大体にして問題が起きるのは気の抜けた瞬間であり、彼らもそれは良く理解している様で、僅かな心のゆとりに気合を入れ直している様だ。


「よかった。それでは装置の設置作業に入ります」

 ユウヒの傍で対応していた女性自衛官も、ほっと息を吐いて笑みを浮かべると、その表情のまま切れの良い敬礼を見せて駆け出していく。彼女の指示により周囲で息を飲んでいた作業員は一斉に動き出す。


「お疲れ様」


「夕陽君こそありがとう……ところで何をそんなに気にしてたの? 特に何もおかしいところなかったけど」

 そんな様子をほっとした表情で見渡していたユウヒは、邪魔にならない様に端の方へと移動しながら左腕に視線を向けて労いの言葉を呟く。今回の作業で最も神経を使ったのは、実際にゲートを動かしていた兎夏であろう、しかしそんな兎夏にとっては、危険な現場の最前線にいたユウヒには感謝の念しかなく、彼の言葉に微笑むとありがとうと呟く。


 そんな彼女は、一息つくためにマグカップの紅茶に口を付けると、気になっていた事について問いかけ、その問いかけにユウヒは眉を一つ上げる。


「んーなんだか精霊の姿が最近少なくてさ、今日はほぼ居ないからゲートの近くだと何かあるのかと、嫌がるんなら改善しないと色々不具合がな……」

 本来であれば、兎夏による安全確認とユウヒの確認を合わせても五分とかからない筈であったが、ユウヒは無言のまま十分以上も周囲を見回し続けており、そのあまりに真剣な表情に兎夏はどうしたのか気になっていたようだ。その原因は、ゲートの移設を始めた頃から姿を見せなくなった精霊達にあるらしく、時折空を真っすぐに飛んでいく精霊以外見ていないユウヒは、そこが気になって色々調べていたようである。


「高次生命体がゲートに影響されるってこと? 確かにそれが本当なら不味いわね」


「勘違いならいいけど、あと何か視線を感じて」

 ゲート同士の接近を精霊が嫌がるなら、色々また考えないといけないことが増えてくるであろう。ユウヒの言葉に彼の同じ結論に至った兎夏は、口を握った人差し指で押さえながら小さく唸る。そんな兎夏の声に苦笑を洩らすユウヒは、他にもどこからか注がれる視線を気にしていたようだ。


「あれだけ周りから見られていたら当然じゃない?」


「そう言うんじゃないんだよ、説明難しいけど」

 周囲を何十人もの人間に囲まれていればその視線が気になってもしょうがないだろう、しかし兎夏の思い浮べた視線とユウヒの感じた視線は別のものであるらしく、コンクリートむき出しの塀に背中を預けるユウヒは、青く晴れた空を見上げながら眉を顰め困った様に小さく唸る。


「そう……」


「まぁ視線も感じなくなったし良いんだけど、とりあえずこれで実験は成功だな」

 ユウヒのはっきりしない言葉が少し気になった兎夏は、すぐにパソコンを操作して何かを調べ始め、そんな彼女にユウヒはすでに感じなくなった視線の事を忘れる様に短く息を吐くと、明るい声で実験の成功に話題を変えた。


「そうね、今後はこの実験結果を纏めて移送マニュアルを作ってしまえば夕陽君の負担もぐっと減ると思うわ」

 今回の移送作戦は、長距離のゲート移送が可能か、可能ならどういった方法が効率的かなどと言った確認のほかに、異世界専門家やドーム専門家など多数の肩書が増えていくユウヒ無しでゲートを移送するための方法を模索する意味もあったようだ。今回の観測データによって、今後はユウヒの補助なしでもゲートの移送が可能となって来ると言う兎夏の表情はとても明るい。


「それはありがたい、仕事が増えてしょうがなかったんだ」


「次のお仕事は?」

 兎夏自身は、依頼がある度にゲート移送を行わないといけないのだが、彼女に分析できない方面の情報もユウヒの観測によって揃ったこともあり、その作業量はぐっと下がる。その事実に思わず笑みが浮かぶ彼女の明るい声にユウヒは肩を竦めると、遠くに避難していたスーツの男性に一瞬視線を向けながらため息を洩らす。どうやらユウヒにはこれ以上彼と一緒に仕事をする気は無い様だ。


「まだ準備が整わないとかで保留中の異世界移民相談室? かな」

 面倒な人間付き合いに辟易しているユウヒの次なる仕事は、こちらも人とのコミュニケーション力が問われる仕事である。現在続々と各地から集められている異世界移民、行き場の無い彼らの要望と今後について聞き取りを行い、コミュニケーションを円滑にするための翻訳道具の作成、またそれら言語の解読の手伝いとその仕事は多岐に渡り、しかしユウヒの言葉からはその大変さがあまり伝わらない。


「相談室って言われるとなんだか一気に大衆感が増すわね……」


「実際そんなもんだろ? 本当なら翻訳魔道具作って終わりにしたいところなんだけどね」

 実際にユウヒもそこまで気負っているわけでもないらしく、出来る事ならば翻訳魔道具を作って終わりにしたいと、道具の作成の方に意識が向いている様だ。


「高次生命体と対話できることって大変なのね」


「次なんかやらかしたら拳骨だな」

 それもこれも今は姿を見せない精霊達が原因であり、その事をユウヒから一から十まで愚痴込みで説明されている兎夏は、羨ましくも思うがそれ以上に大変さが上回っているらしく、モニターに映るユウヒの横顔を気遣わし気に見詰め、拳骨だと言って鼻息を鳴らす姿に苦笑を洩らす。


「……」


「ん?」

 しかしその笑い声はすぐに止み、なぜか奇妙な無言が流れる。


「それでね夕陽君……」


「んん?」

 突然に会話が切れたことが気になり左腕の通信機を覗き込んだユウヒは、酷くもじもじした様子の兎夏に眉を上げると、チラチラ視線を向けながら話し出した彼女の姿に小首を傾げた。


「忙しいのは分かるし疲れているとは思うんだけど……私に時間をくれない?」


「……それがデートのお誘いなら嬉しいんだけどな」

 どうやら忙しいユウヒにお願い事があるらしい兎夏、彼女の白い肌と赤い瞳から注がれる上目遣いに何かを察したユウヒは、悪戯気な表情で無理だとわかっていそうな声を洩らす。


「で、デート!? いやまぁそれはそれで、でも今お外出れないし……」


「冗談だよ、調査の続きだろ? なにかわかったのか?」

 明らかに面倒な頼み事であり、その内容も何となく把握しているユウヒは、慌てる兎夏に対してくつくつと笑いながら冗談だと言って彼女のお願いを言い当てる。


「……ふーん? 冗談、そう冗談なのね。ええ当たりよ?」


「どした?」

 兎夏の顔を見る限りユウヒの予想は当たったようであるが、どこか不機嫌さを感じる笑みを浮かべる彼女に彼は不思議そうな表情を浮かべて大きく首を傾げて見せた。


「なんでもないですー」


「んー?」

 何でもないと言いつつ明らかに何か含むところのある兎夏に、心底良くわからないと言った表情を浮かべるも、こういう時に深入りするとろくなことが無いことは理解しているらしく、不思議そうにしながらもそれ以上追及することは控えるユウヒ。


「手伝ってくれるの? ちょっと奥多摩まで逝ってほしいんだけど」


「ん? おくたま……え、めちゃ遠くねぇか? 区内じゃなかったの?」

 踏み込まないからと言って状況が良くなるとは誰も言っていない、マシなだけである。ユウヒの顔を見詰める不機嫌そうな兎夏は、どこか棘のある声と微妙に違和感のあるイントネーションで命令に近いお願いを口にし、その言葉にユウヒは疑問と驚きと困惑が綯交ぜになった百面相を見せる。


「……あれダミーだったの、かなり狡猾な相手ね。本命は奥多摩の山の中よ」

 じっとモニターの向こうを見詰めていた兎夏は、少し申し訳なさそうに眉を寄せると都内の調査範囲はあらかじめ用意されたダミーであったと告げ、そのダミーを用意した相手に不満を隠そうともしない。


「山登りか、わかった」


「……ごめんなさい」

 兎夏曰く、本命は奥多摩と言う事でスマホで場所を確認していたユウヒは、地図に書かれたいくつもの線に眉を上げると、ずいぶん大変な登山の必要がある事を察して小さく鼻息を洩らす。何を言いたいのか察した兎夏は、すっかり申し訳なく窄められた表情で呟く。どうやら彼女も夕陽が見る地図と同じものを見たらしく、自分が行けと言われたことを想像したようだ。


「気にすんなって、魔法使えば大して疲れないからな」


「今度、何か食べに行きましょう」

 げんなりした顔が映る通信機を見下ろし、以前に家を訪ねた時に見た彼女の姿を思い出したユウヒは、とても山登りが出来るような筋肉は持ち合わせていないだろうなと苦笑し、自分であれば魔法もあるし大丈夫だと元気づける。その気づかいに気が付いた兎夏は、何とも情けない気持ちになったのか、年上らしくお姉さん風を必死に吹かせようと食事に誘う。


「いいね、何を食べに行く?」


「夕陽君が好きな物でいいわよ、お礼だし」

 その言葉には別の思惑もありそうだが、その事に気が付かないユウヒは、小腹が空き始めたお腹を摩りながら楽しそうな声を上げる。


「お礼貰うほどの事はしてないが? そうだなぁ? 肉かな、焼肉とか」


「男の子ね」

 お礼をされるほどの事はしていないと言いながらも、まだまだ若いユウヒのお腹はその提案に抗うことが出来ず、頭に思浮かべるのは心も体もお腹も満足できる肉料理。特に目の前で香ばしい香り立ち上らせる焼肉、思わず頬の緩ませるユウヒの姿に兎夏はくすくす笑う。


「最近お腹がよく減るんだよ、やっぱりがっつり食べるなら食べ放題がいいよな」


「わかったわ、どこか良いところ探しておくね」

 通信機から聞こえて来た笑い声に頭を掻くユウヒは、最近妙にお腹が減るんだと言って食べ放題の焼肉を思い浮かべる。普段と違う楽しそうなユウヒの顔を満足そうに見詰める兎夏は、キーボードとマウスを動かしながら手頃な焼肉店を検索し始めていた。


「それじゃその為にも不活性魔力の集中をどうにかしないとな、いくつか方法は考えているから待っていてくれ」


「……そう言う所なのよね」

 しかし、彼女がユウヒと焼肉デートへ行くには一つ問題がある。化粧で隠してはいるものの、異常な勘を持つユウヒを前にしてはその意味もなく、不活性魔力濃度が上昇し続ける日本で体調不良を起こす人間が増える中、その中でも特に影響を受けやすい彼女の体調がいいわけがなく、今現在も兎夏は不活性魔力対策がされた部屋から出ることが出来ないでいた。


「なにが?」


「なんでもありませーん」

 その事実を当然の様に察して、さらにそれをどうにかすると言ってのけるユウヒに、少し顔の血行を良くする兎夏はぶつぶつと呟き、不思議そうに通信機を覗き込んでくる顔から自らの顔を隠す様に背けると大きな声を上げる。


「ふむ? (女の子の虫の居所はよくわからんなぁ)」

 彼女の反応を不機嫌と理解したユウヒは、それ以上踏み込むことなく小首を傾げ、一向にこちらを向いてくれない兎夏を無言でじっと見つめ続けるのであった。





 無言の視線に顔だけではなく耳や首まで赤くなりそうな兎夏が、カメラにクッションを投げつけている頃、調査ゲートの向こう側では移設に伴い何かしらの異変が起きないか監視していた三人の忍者が、何かに気が付き座っていた丸太のベンチから一斉に立ち上がる。


「ゴハ!?」

「ぐふ!?」

「こ、これは……久しぶりの、ふ、い、う、ち……ござぁ」


 しかし次の瞬間、大きく息を吸ったジライダ急に吐血し倒れ、その姿に驚いたヒゾウがゲートに目を向けた瞬間何かを感じて顔を押さえるとそのまま倒れて地面とキスをした。二人の反応に何かを察したゴエンモは、手で口と鼻を押さえながらゲートから目を背けると、片膝を地面について何かに抗うも、その抵抗も空しく気を失い地面に倒れ込む。


「な!? 救護! すぐに来てくれ!!」

 突如そろって倒れた三人に気が付いた自衛官は、腰に付けたガスマスクを手に取りながら救護の人間を呼び走り出す。


 彼が駆け付けた先で見たものは、吐血して倒れるジライダとヒゾウ、そして地面に【ユウヒ イチャコラ スンナ】と言うダイイングメッセージを残したゴエンモ。その姿に目を瞑り何事か考えた男性は、そっと顔からガスマスクを取り外すと近くで身構えていた仲間を呼び寄せ、突如強力なピンク色電波を喰らい倒れた三人を医務室に運ぶのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ゲートの移設も安定して出来る目途が立ち、関係者が忙しく走り回る一方で、忍者を間接的に殺しにかかったユウヒは、兎夏の願いを聞くために今度は山に行くようだ。そんな彼がまた何を引き起こすのかお楽しみに。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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