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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第二十五話 母樹の願いと規格外なユウヒ

 どうもHekutoです。


 修正完了しましたので投稿させて頂きます。お気軽に楽しんで頂ければ幸いです。



『母樹の願いと規格外なユウヒ』


 日本でも、ワールズダストの地でも、また名も無き異世界であっても異常な勘の良さを見せるユウヒ。しかしある特定条件においてのみ、異常な勘を示すものが此処にもひと・・・どうやら三人とも感じ取ったようである。


「・・・ユウヒがまた誰ぞ落とした予感がする」

「うはwwこれは荒れる予感しかしねぇwww」

「確かに荒れるでござるなぁ・・・この空のように」


 それはユウヒとはまた違うドームに足を踏み入れた忍者達であった。


「「荒れてるなぁ」」


 彼らの予想が当たるかどうかは定かではないものの、彼らの見る異世界の天候は盛大に荒れており、今はその風雨を避けるように大きな岩の陰に隠れながら、勢いよく流れていく雨雲を見上げている。


「ドームを抜けたら嵐でしたとか、誰得だお」

「さぁ? しかしこう荒れていては人を見つけるのも一苦労だな」


 途方もなく大きな岩が積み重なった岩陰の奥には、ユウヒが訪れた異世界の物より幾分小さな白く光る壁があり、そのことから彼らが嵐によって早々に足止めされている状況がわかる。


「ふふふでござる」


 こんな状況では、要救助者どころか人を探すこともままならないと愚痴をこぼすヒゾウとジライダ、そんな二人の背後でおそろいのジャージ姿となって忍者感の全くないゴエンモが不敵な笑い声を洩らす。


「なんだよその不敵かっこ笑かっこ閉じるな笑い声」


 背後から聞こえてきた笑い声に振り返ったジライダと、きな臭げに突っ込みを入れるヒゾウ、そんな二人に対してゴエンモは、手を後ろに隠した状態でニヤリと笑みを浮かべる。


「理由はこれでござる! なんと、よくわからないでござるがこれだけは持ってこれたでござるよ」


 笑みを浮かべたゴエンモは、きな臭げな表情を浮かべる二人の目の前に、得意げな表情であるものを取り出す。


「「・・・棒切れ?」」


 それはどこからどう見ても、何の変哲もない木の棒であり、出されてみてもよくわからいといった表情で首を傾げるヒゾウとジライダ。


「これは密かにユウヒ殿に頼んで作ってもらっていた。対ヒゾウ対策グッズでござる!」

「おれ?」

「もったいぶるなよ、ユウヒ謹製ならただの棒じゃないんだろ?」


 ただの棒を得意げに見せるゴエンモを、死んだ魚のような目で見上げるヒゾウとジライダであったが、その説明にユウヒと言う名が出た瞬間その瞳に生気を戻し、さらにヒゾウ対策グッズと言う言葉で眉を寄せる。


「ござ、これは目的の場所を示してくれる【指針】の対人特化型魔法が付与された割と頑丈な棒切れでござる」


 そんな眉を寄せるジライダの催促に、ゴエンモは一つ頷くと説明を始めた。


 この棒、ユウヒ命名『人探し棒一号』とは、ユウヒが多用する『指針』の魔法を対人限定に強化し、魔法で固くした木の棒に付与したものである。度々迷子になる方向音痴なヒゾウを探すためにと、ゴエンモが密かに頼んで作ってもらっていたようだ。


「・・・なるほど、ナイスだゴエンモ」

「ふふふでござる」


 一度はやってみたい『こんなこともあろうかと』展開にご満悦な表情を浮かべるゴエンモと、親指を立てて称賛するジライダの二人に対して、


「使い道は察したが・・・解せぬ」


 ヒゾウはと言うと眉を寄せて不機嫌そうな顔でぼそりと呟く。


「「そこは解せとけよ・・・」」


 しかしそのつぶやきは即座に二人の突っ込みにより切って捨てられ、ヒゾウは親指を立てて見せながら、心外そうな表情を緩めるのだった。





 一方、ヒゾウ同様に納得のいかない表情と声を洩らす者が此処にも一人、


「解せぬ」


「解せてくださいよぉ」

 崩れた正座、所謂女の子座りで困った表情を浮かべる女性、世界樹の精霊である母樹ぼじゅの前に、眉を寄せながら胡坐を組んで座っていた。当然ユウヒである。


 ユウヒが逃走を計った後、何とか彼を押しとどめた母樹は、立ち話だとまた素早く逃げられると感じた様で、二人を祭壇の裏に連れてくると手を一つたたき、床一面に若葉を敷き詰めたふかふかのカーペットを生み出し、腰を据えユウヒに世界樹式子作り方のレクチャー? をしていたのだった。


「まぁ冗談だが、要は魔力放出で俺の魔力を分け与えればいいんだな?」

 そんな頬を染めながらも必至に説明する母樹の姿に加虐心でも擽られたのか、ユウヒはわざとらしく怪訝な表情を浮かべて母樹の反応を一頻楽しむと、いつもの覇気を感じない表情に戻り確認するように問いかける。


「はい、その・・・ユウヒ様から溢れ出た魔力を私の体で受け止めて、私の身体を通して種を魔力で満たすのです」

 母樹曰く、世界樹の種は世界樹単独で生み出すことが出来ると言う。しかしその発芽には膨大な魔力を必要とし、その必要な魔力をユウヒに頼りたいらしい。


 しかしなぜそれをさっさと言わなかったかというと、精霊にとって魔力の要求とは言わば食料の要求とも言え、その量が今回のように膨大ともなれば大食らい、最悪は暴食のレッテルを張られかねない事であり、女性としての意識を持つ母樹にとっては言い出すのが恥ずかしかった様だ。


「・・・表現方法はまぁいいとして、それなら自然の魔力とかエルフ達から少しづつ分けてもらえばいんじゃないのか?」

 そんな魔力の要求を恥ずかしそうに説明していた母樹が、打って変わって嬉しそうに口にする『体で受け止めて』や『種を満たす』と言う言葉に、持ち前の妄想力故か少し顔を赤くしたユウヒは、誤魔化しも含めて疑問を口にする。


「それが、世界樹の種の寿命は短く一晩しかもたない上に、一定した波長の魔力でなければまともに定着しないのです」


「自然の魔力は?」


「魔素はそれなりにありますが、魔力は希薄すぎて種一つを発芽させる頃には森が枯れてしまいます」

 ユウヒの疑問の言葉を聞いた母樹は、少し困ったように眉を寄せながら説明した。


 先ず種自体はいつでも生み出せるようだが、その寿命は短く一晩の命であり、その間に発芽させなければいけない事。さらに生物の魔力を使う場合は一定の波長でなければならず、また自然の安定した魔力もあるがそれでは少なく、発芽するころには森が枯れてしまうという。


「・・・あ、活性魔力や不活性魔力ってやつか」

 この世界にも、かつて冒険した世界ワールズダストのように二種類の魔力が存在する。魔素、または不活性魔力と言われる魔法などに直接使えない魔力、一方一般に魔力と言ったらこっちを指すことが多い活性魔力、こちらは人の意志に敏感で、容易に魔法という形に加工ができる。


「あ、はいそうです。久しくその言い方を聞いてませんでしたが、ユウヒ様は博識なのですね」


「まぁ・・・ちょっとな」

 これらの知識は以前冒険した地で学んだことであり、母樹に感心した表情で見つめられたユウヒは、なんとなく懐かしくなり微笑みを浮かべるのだった。


「ユウヒ、どうなったにゃ? ここ、交尾はするのかにゃ?」

 そんなユウヒの、郷愁の念とも言える何とも形容しがたい思いをぶち壊したのは、ユウヒが精霊と言葉を交わすたびに、頭の上の猫耳をピクピク忙しなく動かしていたネムであった。


「しねぇよ!」


「ふにゃ!? いはい、いはいふゎ!(いたい、いたいにゃ!)」

 うっすらと頬を赤く染めた彼女が土盛りながら口にした言葉に、ユウヒは即座に反応して彼女に振り返ると、声を荒げて否定し同時にネムの熱を持った柔らかなほっぺたを左右に引き延ばす。


「ユウヒ様がお求めなら、私は「求めてないから!」・・・しゅん」

 この行為には照れ隠しの意味もあったようであるが、便乗したがためにユウヒに鋭く否定され肩を落とした母樹と、ほっぺたを左右に引き延ばされ目を白黒させているネムは、そんなユウヒの恥ずかしそうな表情に気が付くことはないのであった。


「はぁ、要は一晩ここで魔力を放出し続ければいんだな?」


「・・・はっはい!」

 存分にネムのほっぺを堪能? したユウヒは、彼女の柔らかな両頬から指を離すと一つ溜息を吐き、肩を落とす母樹に声をかける。その声に背筋を伸ばした母樹は、二度三度頷きながらユウヒの言葉を肯定した。


「ふぁ? な、何を言ってるにゃ! そんなことしたら普通に死んじゃうにゃ!?」

 何でもないようなユウヒの言葉に、両頬を揉み解していたネムは驚きで変な声を洩らすと、立ち上がって慌てた声を上げる。なぜなら今ユウヒが何気なく口にした行為は、この世界の住人にとってまさに自殺行為以外の何物でもなかったからだ。


「いや死なない程度に放出するから問題ないさ、少なくなったといってもそれなりに膨大らしいからな、俺の魔力は」

 立ち上がり詰め寄ってくるネムを手で制しながら苦笑するユウヒであるが、彼がこの世界に来てから感じた様に、この世界の魔力は比較的薄く、そのためこの地で生きる者達の保有魔力も総じて少ないのだ。


「少なく? まさか前は今以上の魔力が? 今漏れ出ているだけでも結構な量なのですが」

 

「なに? 漏れてる?」

 それ故、ユウヒの魔力は今の母樹にとって光り輝く太陽のように魅力的な存在なのであった。


「はい、自然回復で賄えている様ですが、基本的に魔力は濃い方から薄い方へ流れる性質があるので、それだけの魔力を保有していれば多少漏れるのは仕方ないかと?」


「そんなもんか、というわけで俺は今日ここに泊まることになったから」

 魔力が漏れていると聞いたユウヒは、一瞬魔力の枯渇と言う恐怖を感じた様だが、それも問題なさそうだとわかると、いつもの表情と雰囲気に戻りネムに体ごと向き直って軽い調子でそう口にする。


「引き受けてくださるのですか!」


「・・・ぜ、前代未聞にゃ」

 その言葉に母樹は驚きと嬉しさに満ちた歓喜の声を上げ、同時に彼女の遥か頭上では小さな樹の精霊達が小躍りしていた。一方ネムは顎が外れるのではないかと心配になるほどポカンと大口を開けると、絞り出すようにそう口にして頭を抱える。


「まぁ若干エルフの反応が怖いけどな」

 そんな二人の様子に、ユウヒは苦笑を浮かべて頬を指で掻くも、


「大丈夫です! なにかしでかしたモノは縛っておきますので」


「こわ!?」


「ひにゃ!?」

 爽やかな笑みの後、擬音に濁点が付きそうな黒い笑みを浮かべる母樹に純粋な恐怖を感じ、またその笑みは精霊が見えない者にも影響を及ぼす何かを発生させたのか、ユウヒと全く同時にネムも背筋に冷たい物を感じてユウヒの背中に隠れるのだった。





 精霊の黒さにユウヒとネムが恐怖してから十数分後、ユウヒの姿は祭壇のある部屋の外、重厚な木戸の前に複数の人影と共に存在した。


「というわけで、ユウヒ殿の妹君とお仲間が森で迷子になっている可能性があるそうなので、その捜索をお願いします」


「えっと、どういうわけなのでしょうか?」

 その人影とは、ユウヒの隣で上機嫌に話す母樹と、その言葉に首を傾げユウヒを見詰めるリーヴェン・グランシャ。


「そこは発言した本人? 本精霊に聞いてほしいところだが、種を発芽させることに協力するので、その対価として妹を探してほしいんだよ」


「な!? ユウヒ殿は死ぬおつもりですか!」

 そんなリーヴェンに対して、何でもない事のように非常識な事を言ってのけるユウヒを見て、驚いた表情を浮かべる片膝を突いたエルフ騎士達と、ジト目でユウヒを見上げるネム。


「いやぁまぁいろいろあるけど大丈夫だろってことだな」


「ぬぬ、確かにユウヒ殿から感じる魔力は相当なものですが・・・むぅ」

 自分に集まる様々な視線に少し居心地悪そうに笑みを浮かべたユウヒに対し、リーヴェンは心配そうな表情を隠すことなく、しかし今も感じているユウヒの魔力の多さに唸り声交じりの声を洩らす。


「まぁこっちは任せろ、いろいろと大変なんだろ? この世界の世界樹事情は」


「・・・わかりました。われらエルフの全力を持ってお仲間と妹殿を探しましょう」

 やる気なさげな表情ではあるが、その瞳の色に確かな自信を感じたリーヴェンは、ユウヒの言葉とその後ろで頷く母樹を見詰めると、苦悩の見え隠れるする顔を引き締めてユウヒに向き直り、感動と決意に満ちた瞳でそう確約するのであった。


「私はどうするかにゃ?」


「・・・そうだな、俺も明日また探しに行くから森とか村とかを案内してもらえると助かるかな」

 勢いよく迫ってくるイケメンフェイスに、思わず口元を引きつらせて後ずさるユウヒは、ネムの質問に少し考えると明日の案内も頼む。


「だいじょうぶかにゃ? すごく疲れてると思うけど・・・」

 しかしそんなユウヒの提案にネムはやはりジト目で、それでいて心配そうな表情で首を傾げる。実際今からユウヒが行おうとしている行為を、ネム達ネシュ族がやろうものなら必ず待っているのは死であり、心配するなという方が無理な相談であった。


「まぁ動けたらってことだ」


「・・・うん、わかったにゃ。こっちも仲間に人探しを頼んでみるにゃ。あと、もし一緒に行けなくてもそれだけは持っておいてほしいかな・・・」

 見上げてくるネムの心配そうな表情に苦笑を洩らしたユウヒが、困ったように肩をすくめてそう言うと、ネムもまたリーヴェンと同じように表情を引き締めると一つ大きく頷いて見せ、彼女もまたユウヒの妹の捜索を手伝うことを約束すると、伏し目がちにユウヒの腰に付けられた小さな巾着袋を見ながらそう付け加える。


「ん、わかった。ありがとな」


「うにゃにゃ、ユウヒは良いやつだとわかったからにゃ」

 イケメンリーヴェンの急接近には思わず後ずさるユウヒであったが、眉をきゅっと寄せた少女のやる気に満ちた表情には、何とも言えない暖かな感情を感じた。その感情は自然と彼の腕を動かし、昔妹にしていたように彼女の頭を優しく撫で、そんなユウヒの行動に目を細めたネムは、ユウヒの腕越しに彼を見上げると嬉しそうに微笑むのだった。


『・・・』


 エルフ達はそんな二人のやり取りに微笑ましげな表情を浮かべ、急に現れた母樹の客であるという人物の人となりを理解し始めた様であるが、そんな空気と対照的な存在が一人。


「はい! 話はまとまりましたね! ささこちらに、準備は万端でございます!」

 ユウヒの背後でその頬を膨らませ、明らかに不機嫌な表情を浮かべたかと思うと、大きな声と同時に手を叩いて注目を集め、明らかに作った感のある笑顔を浮かべてユウヒの襟首をつかむ母樹。


「ぐえ!? こら引っ張るな!」


「・・・あんなに生き生きとした母樹様が見れるとは」

 この場で母樹の姿を見ることが出来るのは、急に襟を引っ張られ苦しそうな声を洩らしたユウヒと、ユウヒと対面した当初と違い感情を露わにする母樹を、嬉しそうに、それでいて興奮したように見つめるリーヴェンだけである。


「引っ張るなと言っとろうが!? おぃい!?」


「・・・くぅ、お前たち! 母樹様とユウヒ殿ために全力尽くすぞ!」


『はっ!』

 感極まったリーヴェンの言葉に、声を揃え立ち上がったエルフの騎士たちは、その目に確かな希望の光を見ると、ユウヒの決死とも言える行いに報いるべく行動を開始する。


「ってなんだこの部屋は!? どこのホテルだよピンク一色にハートだらけって! しかも回転だと!? 懲りすぎd―――」


「・・・・・・ユウヒ、骨はひろってあげるにゃ」

 騎士達を横目で見送ったネムは、ゆっくりと、しかし固く閉ざされていく木扉の向こうへと小さくなって消えていったユウヒの声を聞き、ユウヒの無事を願いつつも、嫌な予感を感じたのか引き攣った表情で小さくそう呟かずにはいられないのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 母樹は割と乙女で、ユウヒはやはりどこでも規格外な話でした。若干肉食系にも見えますが、どちらかと言うと天然だと思われる母樹は無事子を成せるのか、また次回をお楽しみに。


 それではこの辺だ、またここでお会いしましょう。さようならー

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