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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百五十六話 何かを探して

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『何かを探して』


 その日は陽射しが少し強いがいつもより気温が低く、ようやく秋の気配を感じられる様な空気の風が吹いていた。残暑も終わりを感じさせ、そんな空の下を人々が一息つく中、ユウヒはある現場の前までやって来たがそれ以上進めず立ち止まり、どうしたものかと辺りを見回している。


「ここだな……規制線に入るのは無理か」

 そこは前日に宅配便の貨物が荒らされた現場であり、車両はすでに運ばれた後の様だが今も規制線が貼られ警察関係者によって現場調査が行われていた。当然その規制線の中に関係者ではないユウヒが立ち入ることは不可能であり、無理をしてまで入る必要性も彼は感じていなようだ。


「周りを確認していくしかないか」

 中に入ればより詳しい調査が出来るかもしれないが、規制線の外から中の様子を伺っている時点ですでにユウヒには訝し気な視線が注がれており、職質される前に諦めたユウヒは、規制線に沿って歩きながら周囲に金色の目を向ける。


「何してるの?」


「ん? 風の精霊かな?」

 そんなユウヒの姿に目を向けていたのは警察だけではなかったようで、軽やかな声が聞こえて来た方に顔を向けた彼は、姿の見当たらない相手に小首を傾げると頬に感じる風で声の主を想像し呟く。


「えっへへ、当たり!」

 どうやら彼の勘はいつも通り冴えてるらしく、言い当ててもらえた風の精霊は明るい声で嬉しそうに笑うと、ユウヒの肩に両手をつきひょっこり顔を出す。


「ふむ、この辺で変な生き物か珍しい生き物を見なかったか?」


「変わった? 見てないかなぁ?」

 何がうれしいのか目を細めクスクスと笑う風の精霊にちらりと視線を向けたユウヒは、当初の質問に答えるべく口を開く。今回の事件でユウヒが一番気になってい件は、運搬中の荷物にあった孵化したての卵である。その話を聞いた瞬間、ユウヒの中で嫌な予感がじわりと広がり、彼の勘はその卵が唯の卵ではないと告げた様だ。


「そうか」


「何かあったの?」

 しかし、探している対象がどう言ったものか詳細に解らないユウヒの質問は大雑把なものになり、彼の問いかけに大きく首を傾げて見せた風の精霊を見詰めるユウヒは、さほど期待していたわけではないらしく、返す声も大して気にした雰囲気が無い。


「何か良くないものが海外から来たみたいでさ、問題が起きる前に何とかしようと思ってな」

 ユウヒの返事にどこか不満を感じさせる表情を浮かべた風の精霊は、ユウヒの頭に着陸すると頭の上から青と金の瞳を覗き込んでくる。いつもと違うスキンシップに不思議そうな表情を浮かべたユウヒは、頭を大きく揺らさないようにゆっくり歩きながら彼女に今日の予定を教えた。


「ふぅん? そっかー……じゃあみんなにも聞いてあげる!」

 理解しているのかしていないのか微妙な返事を洩らす風の精霊は、重さを感じさせないステップでユウヒの頭から飛び上がると、軽やかに一回転して満面の笑みを浮かべて見せる。どうやら他の精霊にも聞いて回ってくれるらしく、噂好きの風の精霊がそう言ったのであればユウヒの言葉は瞬く間に広がるだろう。


「良いのか?」


「お礼だから気にしないで!」

 しかしユウヒは特に対価を差し出したわけでもなく、またいつものように魔力を渡したわけでもない為少し不思議そうに小首を傾げ問いかけた。しかし変えて来たのはいつもと変わらぬ明るい声と無邪気な笑みだけである。


「……俺は彼女たちに何をしたんだろうか?」

 あっと言う間に空へと舞い上がる小さな精霊を見送ったユウヒは、不思議そうに腕を組んで顎に手を置くと、強くなり始めた陽射しの熱を感じながら覚えのないお礼に対して不思議そうに呟くのであった。





 日がゆっくりと頂点に向かい昇る空の下でユウヒが歩き出している頃、朝からどこかの会議室に集まる人々は腕を組んで唸る石木に視線を集中させている。


「資源開発か……」


「海外ではドームの開発が進んでいるという情報もあります」

 どうやら会議の議題はドーム内の資源開発についてのようで、積極的にドーム内部の資源開発を行っている国の情報だけを纏めた資料を用意した人々は、難しい表情で呟く石木を言葉で詰めよっている様だ。


「自衛隊で開発を進めているのではないですか?」


「政府は豊富な資源を独占するおつもりで?」

 石木の前に座り批判する様な声を上げているスーツの男たちは、政府関係者ではなく経済界の代表者たちである。彼らの言によれば、政府と自衛隊は豊富な資源が埋蔵されたドームの向こうを独占しており、それは日本の経済活動に対して著しい不利益をもたらしているという。その証拠に世界の国々では国が率先してドーム内部の開発を進めており大きな成果を出していると言うのだ。


「何の話だ? 大体開発と言うか調査はそっちが送って来た人員がやってるだろ」

 しかしそんな彼らの言葉に対して、石木は心底不思議そうに眉を寄せると、政府の資源独占を口にした男性に目を向ける。


「彼らからの報告には明らかに検閲が入っているではないですか!」


「何の話だ?」

 独占と言う言葉を口にする相手に対して訝しげな表情を浮かべる石木の言う通り、調査には民間の、しかも彼ら経済界側から送られて来た人間を採用しており、報告書に関しても民間協力者の大学教授などが直接彼らとやり取りをしている為、大学関係者から依頼されて機密が混ざってないか内容のチェックはしても、強制的に取り調べる検閲などと言う言葉はまさに寝み耳に水と言った様子の石木。


「最低限のチェックはしてますが、特に検閲と言われるような事は行っていませんが?」

 思わず隣に目を向けた石木に、担当者の自衛官は首を横に振って検閲を否定する。そんな彼の言動に石木は理解を示す様に頷くとさらに奥の自衛隊員にも目を向け、無言で何か心当たりは無いか問いかけた。


「彼らでしょうか?」

 石木が目を向けた先には陸自の人間らしい緑の制服を着た男性が二人座っており、互いに顔を見合わせると一人が彼らと言う言葉を使い口元を手で隠すしぐさを見せる。どうやらその仕草は某忍者達を現すもののようで、そのことを察した石木は訝し気に首を傾げ、もう一人に目を向けた。


「アイツらが何かやってると?」


「それは無いでしょう」

 善意による行動から本能によるお馬鹿な行動まで何かと場を騒がせる三人の忍者、彼らは今までにも何かと暗躍してはトラブルを未然に防ぎトラブルを起こしている。今回もそのたぐいの行動ではないかと考えた自衛隊員と石木であるが、もう一人の男性曰く、今回は違う可能性が高く彼らの考えを否定した。


「単純に大学関係者が趣味に走りすぎなのでは?」


「それは……」

 その理由は、彼らの報告は経済界に伝えられる前に自衛隊の関係者によって機密の確認が行われており、その事により忍者達も安全確認する必要もなく、あまり関心を寄せていない。また否定した男性も機密確認に協力している様で、民間協力者の報告書に目を通した経験から、単純に彼らが趣味に走りすぎて経済界の人間が求める様な内容が少ないのではと予想した様だ。事実彼の言葉を聞いた一部の経済界関係者は何とも言い辛い苦悩に満ちた表情で言葉を濁している。


「まぁ開発するにしても色々準備が必要だろう。俺の方に上がってきた報告にも、同じ鉄でもこっちと向こうじゃ性質に違いがあるらしいからな、資源開発するにしてもまだ早い」


「それは、今後開発はしていくと言う事ですか?」

 溜息や唸り声でざわめく目の前の光景に溜息を洩らす石木は、例え開発をするにしても入念な準備を行ったうえで検討することが大事であり、海外と同じかそれ以上の早さで開発することはあり得ないと言ってもう一度溜息を洩らす。遠回しに話はここまでと言っている石木に、経済界側からは言質をとろうと声が上がる。


「答えはまだ出せねぇよ、専門家とも詳しく話したいがお互い忙しくてな? 問題が山積みの状態で焦ってもあぶねぇだけだ」


「ならばもっと民間の参入を推進「なぁ?」はい?」

 どこか焦りすら感じる彼らの声に方眉を上げて顔を顰める石木は、現状開発の前段階に入る入らないの話をするのも早く、今も解決していない山積みの問題を何とかしないと何が起きるか分からないと話す。それでも尚、挑発的な態度で食いついてくる若い男性に、石木はそれまでのどこかめんどくさげで飄々とした態度を変貌させ、ドスの効いた低くよく通る声で若い男性の声を遮る。


「死にてぇのか? 殺してぇのか? 軍事会社の二の舞になりたいのか?」


「そ、それは……」

 言葉を遮られたことで不機嫌そうな表情を浮かべる男性であったが、石木に睨まれ彼の言葉を耳にするとその顔を急激に蒼くして口籠ってしまう。


「焦るな、たぶんだが異世界とは長い付き合いになる。先ずは調査、並行して外交で開発はその次だ」

 日本における戦後最大の戦死者は、自衛隊からではなく民間人から出ている。前政権時代に作られた法律によって民間軍事会社と言う存在が公的に認められ、海外での戦闘行為を法で縛られた自衛隊の代わりを彼らが担った時代、その過去で日本は大量の民間人を戦死させることとなった。その際に民間軍事会社の発展を促進させたのは前政権と目の前に座る経済界の代表者たちである。


『…………』


 忌わしい過去であり彼らにとって黒歴史でもある過去、その古傷を抉られるような石木の言葉に、周囲は一切の声を上げることが出来なくなり、同時に一部の人間の焦りは同じような事態を引き起こしかねないと言う事に、冷房の良く効いた会議室に詰めた人々はその背中にじわりと気持ち悪い汗を滲ませるのであった。





 どこかの会議室で企業の偉い人間が気持ち悪い汗を滲ませている頃、幾分涼しくなったとは言え、まだまだ強い陽射しの下でユウヒは嫌な予感の原因を探して額から汗を流していた。


「こっちか……」

 傍から見れば迷子か何かのように周囲を見回しているようにしか見えないユウヒ、しかしその視界には気を抜けばあっという間に目隠しになりかねない量の情報が流れており、そこから欲しい情報をピックアップしては、内容を把握し歩を進めるユウヒ。


「痕跡が少なすぎて右目でも良く解らんな?」

 しかし、神すら恐れるユウヒの右目も人の限界と言うものがあり、さらに少ない痕跡ではその精度は非常に低くなるようだ。右目をもってしても把握できない足取りを時折棒を使った魔法で補うユウヒは、額の汗を拭い小さくため息を洩らす。


「もしもし? 調子はどう?」

 今一つはっきりしない何かを探すのに魔法も首を傾げる中、大樹の日陰で休憩していたユウヒの耳に左腕から声がかかる。


「ぼちぼちだな」


「曖昧ね?」

 声の主は当然兎夏であり、ユウヒの左腕の通信機に映る彼女は、ユウヒの顔を確認すると少し心配げに眉を寄せており、返答に小首を傾げる兎夏の姿にユウヒは肩を竦めて見せた。


「痕跡が少なくてな、はっきりしない相手を探すには魔法もお手上げっぽいんだよ」


「そう言うのは人海戦術が一番よ?」

 苦労している理由を話し額の汗を拭うユウヒに頷いた兎夏は、手に持っていたマグカップを机に置くと探し物のアドバイスを口にする。


「人海戦術か、人手は全く足りないな……いなくはないが問題が起きるのは確定的明らかだから駄目だな」


「何語なの?」

 人海戦術、大勢の人間を次々投入することで仕事を迅速に終わらせる方法であるが、彼女であればその膨大なリソースを使い一気に仕事を終わらせるのだが、今はそのリソースも無く、またユウヒにはそもそもそんな方法をとるだけの人手が無い。無いことも無いがあまりにリスクが高いため、何かと自重を忘れる彼も躊躇する方法の様だ。


「一応精霊に変わったことないか聞いてはいるが、あの子たちは気まぐれだからな」


「……高位生命体を顎で使うとか信じられないわね」

 そんなリスクを恐れるユウヒであるが、精霊にお願い事は率先して行っている。何かと頼ってほしそうにする精霊の視線に負けたとも言えるが、正直ユウヒの中で精霊へのお願い事はローリスクローリターンであって、兎夏が恐れを抱く様なハイリスクではない。


「顎で使ってはいないが無邪気な子たちだからな」

 精霊と言う高位生命体の存在を詳しく知る者にとっては信じられない行動であるが、ユウヒにとって精霊は無邪気な子供とそう変わらず、兎夏との間で共通した認識は唯一気紛れと言ったところであろうか。


「子って言うけど、貴方よりずっと年上だと思うわよ?」


「まぁそれはそうなんだろうけど、見た目も性格も子供だからなぁ?」

 空を見上げれば偶に勢いよく空を飛んでいく風の精霊がユウヒの左目には見え、その姿は根本的に小さく、どんなに見た目を大人に見ても中学生程度が精々でとても自分より大人として見る事は出来ない。


「怖いもの知らずよね」

 しかしそれは彼女たちの姿をしっかりと目で見ることが出来るユウヒだからであって、姿どころか声すら基本聞く事も出来ない大多数の人間からすれば、唯一体感できる驚異的な力を前にして子供と言いきれるユウヒの姿は、怖いもの知らず以外の何者でもない。


「ユウヒ! 変なのいたよ!」


「なに?」


「どうしたの?」

 兎夏の呆れた視線に対して困った様にユウヒが首を傾げていると、彼にしか聞こえない声が空から降ってくる。子供のように高く楽しげな声に顔を上げたユウヒに、今度はその声も姿も見聞き出来ない兎夏が首を傾げた。


「精霊が変なの見つけたってさ」


「変なの……」

 ユウヒを介し、精霊が変なものを見つけたと言っている事に少し不安そうな表情を浮かべる兎夏は、虚空を見詰めるユウヒの横顔から何が起きているのか知ろうとしてじっと見つめる。


「こっち! 人が逃げてる!」


「襲われているのか?」

 風の精霊は、ユウヒの顔の前で後転するように一回転して止まると、真っすぐ一方向を指で指し示し人が逃げていると言ってユウヒの表情を真剣なものに変え、また同時に兎夏の表情も強張らせた。


「ん? 逃げてるだけだよ?」


「逃げているだけ……そうか、案内してくれるか?」

 最悪の事態を考えたユウヒであるが、どうやら襲われているわけではないらしく、その事にほっと息を吐くといつもの表情で精霊に案内を頼み兎夏の表情を引き攣らせる。


「うん! こっち!」


「空飛ぶのか……まぁそりゃそうか」

 やはり顎で使っているようにしか見えないユウヒに呆れる兎夏は、急に空を見上げて苦笑いを浮かべるユウヒに首を傾げた。どうやら案内を頼んだ風の精霊は人間らしい経路ではなく風の精霊らしい経路で案内を始めたようだ。


「……呼ばれた気がした」

 姿を隠さないで空を飛べば面倒事になるのは火を見るより明らかであり、どんな魔法を使うかユウヒが考えていると、突然ユウヒの背後から鈴を振るような声がかかる。


「いいタイミングだ! いつもの頼む」


「ふふふ、きょうえつしごく」

 その声の主は純白のドレスを纏った光の精霊、柔らかな光を振りまく彼女は、テンション高く笑みを浮かべるユウヒに目を見開くと、蕩けたように歪む口元を片手で隠し、隠し切れない両目に怪しい光を灯し揺らし喜びを呟く。


「大丈夫?」


「何が起きるか分からないから一旦通信は切っておいてくれ」

 そんな精霊の見せる危うい表情を横に、ユウヒは通信機の向この兎夏に一旦通信を切っておくことを勧める。常に最悪を想定する気質のあるユウヒの頭の中には、衝撃的な光景が広がっている事も考慮されており、そんな映像を見せられる人間を気遣うのは、彼の心の染み付いた癖の様なものであった。


「わかった。気を付けて」


「あいよ!」

 気安い返事を聞いてすぐに通信機のモニターは通信状態が切られた文字と共に黒く塗りつぶされ、それを確認したユウヒはどこで覚えて来たのか親指を立てて見せる精霊に笑いかけ、いつでも飛べるように朝一で唱えていた【飛翔】の魔法を活性化させてふわりと空に飛び上がる。


「さぁて何が流れて来たのかな」

 周囲の人間は空飛ぶ人の姿に気が付くことなく日常を過ごす中、ユウヒは光の精霊をお供に加え、風の精霊が手招きする空へと加速度的に飛び上がっていく。いったい風の精霊は何を見つけ、そして宅配されていた卵の中からはどんな命が生まれたのであろうか。



 いかがでしたでしょうか?


 風の精霊に導かれ宅配業者から逃げたナニカを追いかけるユウヒ、そして世界中で進むドーム内の開発、果たしてそれらは何の問題も無く進むのであろうか、そんな話の続きとなる次回も楽しんで貰えたら幸いです。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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