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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百五十三話 集まる謎のサンプル

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『集まる謎のサンプル』


 世界中で不穏な影が跋扈し、喧噪の中で一時の平和に息つく一般人を震えさせている頃、ユウヒは各国から届いたサンプルの調査の為に人里離れた研究施設に足を踏み入れる。そんなユウヒの到着報告は政府の中枢にも届けられていた。


「わかった。緊急で連絡が必要な場合は気にせず連絡してくれ」

 テレビでも中継される議場には、大きな声を張り上げる質問者を横目に秘書から声をかかけられ返事をする石木の姿があり、そんな姿はテレビ中継にも映されている。


「大事な会議中に話を聞いているのですか!」


「ん? 何の話だったかな?」

 いつも太々しく椅子に座る石木の珍しい姿に、政治に関心のある視聴者がテレビの前で身を乗り出す中、質問者の女性は目敏く石木の姿を捉えると、それまで阿賀野に向けていた視線を石木に向け直して声を張り上げた。しかしそんな女性の責めるような声に、石木は惚けた調子で呟き眉を歪める。


「な!? 最近の海上自衛隊の活動について聞いているんですよ! 我々の手に入れた資料では活動内容とその活動費用が例年の5倍です! しかも他国の領海ギリギリまで近づくなど何を考えているのですか!」

 それまで防衛大臣の石木ではなく、内閣総理大臣の阿賀野に質問していた矛先を石木に向けた女性の言葉に、肩を竦め呆れたように鼻息を洩らした石木は手を上げ指名されるとゆっくり立ち上がって見せた。


「……どれの事を言っているのか分からんが、必要ない出動は行っていない。そんな余裕はどこにも無いからな? 出来れば10倍くらいに増やしたいが現状予算が足りないことが不満ではある」


「じゅ!? あなた方の行動が周辺国にどれだけ脅威を与えているか解っているのですか!」

 それまで何故か阿賀野に質問されていた防衛関係に話題に関して、ようやく質問対象が正常になったかと呆れる石木は、女性の言葉に何とも言えない表情を浮かべながらマイクの前に立つと、特に悪びれることなくさらりと答え、彼女が問題視する費用に関しても足りないくらいだと呟き、その言葉に女性はフリップボードを持ち上げ叩きながら声を荒げる。


「……脅威を感じていると言うがだな、我々の方が脅威を感じていると言う事を忘れるなよ? 何とかなっているのは奇跡なんだ。一歩間違えれば国の滅亡だってあり得るのが現状だぞ?」

 現在日本の海上自衛隊はドームに関係する様々な対応に上から下まで大忙しであり、整備中の船以外は大半が何時でも動ける状態か作戦行動中である。普段なら節約のためにも活動は控えられているが、今はしばらく休みなく働く艦艇も少なくない。それでも尚、国家の安全を守る手は足りず、どうにもならない事はユウヒに丸投げしているのが現状である。


「だからと言ってあなた方の行為は目に余ります! しかも目の前で攻撃されている同盟国の船を守らないなどあなた方は何のために存在するのですか!」


「日本を守るためだ。それ以上でも以下でもない」

 女性の大きな声と野次の前でも特に表情を変えない石木の言葉を聞いているのかいないのか、女性は別のフリップを取り出すと、沈没する軍艦の写真を指し示しながら同盟国守らない自衛隊に存在意義は無いと言い出す。それらの艦艇は、以前に龍を攻撃して反撃で沈んだ隣国の艦艇であり、日本は龍と敵対しない為にも攻撃も救助も行っていない。


 他国の領海に入って他国の艦艇に近付く事こそ不要な争いを生みかねず、隣国の船には無事な艦艇もあったため、石木は海上自衛隊の行動は適切だったと考えており、そう言った考えの上で日本を守るためだと話す。


「ではなぜロシアとアメリカには支援したのですか! 他国での軍事行動は問題があるはずでしょう!」

 石木の言葉を他国に不要な干渉はしないと言う意味として捉えた女性は、後ろに控える秘書から新たなフリップを受け取ると、石木に見せつける様に示し何故ロシアやアメリカに自衛隊を派遣したのかと声を荒げた。他国での軍事行動は基本的に行わないのが自衛隊であり、実際に一部でロシアとアメリカへの派遣を問題視する声もある。


「自衛隊は後方支援に徹しており何の問題もありません」

 しかし、過去にも後方支援として自衛隊が派遣された事例はあり、他国との戦闘行為を行わなければ問題ないと言うのは、今までどの政権でも何度となく行われているのだ。


「民間人を前線に出しておいて後方支援など許されないでしょ! 専門家の件は我々にも情報は入っているのですよ! どうなんですか!」

 石木の問題ないと言う言葉に眉を吊り上げ僅かに口元を緩める女性は、民間人である専門家を最前線に送りながら自衛隊は後方支援しか行わないなど、国民を守る組織としてあるまじき行為だと声高に叫び、どこから撮ったものなのか、ユウヒの姿を捉えたと思われるぼやけた写真を翳す様に指し示す。


 鬼の首をとった様な表情を浮かべる女性に、石木は深くため息を吐くと不敵な笑みを浮かべ一気に話す。


「それは答えられないな、と言うより民間人を戦わせて云々は今更だろ? 前政権は散々民間人を戦地に送っていたではないか、まぁその所為で政変が起きたわけなので感謝した方が良いのかな?」


「―――――――!!!」

 実は数年前まで日本の与党は目の前にいる女性が所属する政党であり、その政党は自衛隊を他国に派遣しないと言う公約を掲げていたのだが、各国からの派兵要請にどうする事も出来ず、日本から多数の民間軍事会社の人間を送り込んだ過去がある。その為、どう考えても女性の発言はブーメランであり、その事について嫌味を洩らした石木であるが、返ってきたのは反論ではなく言語なのか疑わしい金切り声であった。


「ふっ……日本語で頼む」


「石木大臣、それ以上は……」

 耳を押さえたくなるの様なヒステリックな叫び声に、石木は優越に笑いながら小さく呟き、議長から注意を受けると手で軽く謝罪して悠然と椅子に座り、視線と表情だけでさらに相手を煽る。そのやり取りによってその後、真面な話が出来ずに休憩に入るのだが、割とよくある光景である為テレビの前の人々には特に気にした様子はなかった。





 そんな喧噪が支配する議場とは違う静かな研究室の広い部屋の中、そこには所狭しと、しかし整然と透明なケースが並べられ、その中には厳重に梱包された様々な物品が入れられている。


「おーすごいな、綺麗に並べられてる。と言うかすごく厳重ですね」

 部屋の机に並べられた品々に目を向け歩くユウヒは、思っていた光景と違う部屋の様子に驚くと、金色の目に光を灯してケースの中身を覗き込み、金属の枠と分厚いアクリルで作られた厳重な入れ物に少し呆れたような表情を浮かべた。


「こちらに用意しているのはどれも曰く付きで、かつ早急に調べてほしいと送られて来たものなので」


「なるほど……順番あります?」

 ユウヒの目から見れば大した危険性の無い物品も、何も知らない者にとっては何が起きるか分からない恐怖の対象である。しかしそれでも早急に調べてもらわないといけない理由があるのか、それらのサンプルは各国から日本へと空輸されていた。


「奥の方から見てもらえるとありがたいです」


「奥ですね……生臭い」

 そんな中でも優先して調べてもらう必要があるサンプルは部屋の奥に並べられていると言われたユウヒは、楽しそうに頷くと足早に奥へと歩いて行くが、そこに並べられた水槽を前にすると生臭いと嫌そうに呟く。


「こちらは各地の海で発見された謎の生物です」


「ボロボロですね」

 密閉されているにも関わらず潮の香りを含んだ生臭さを放つ水槽の中には、各国で発見された謎の生物が入れられていると言うが、ユウヒの見詰める先の水槽にはボロボロになった肉の塊が浮いているだけでどんな生物だったのか一目でわかる形状をしていない。


「どれも凶悪だったそうで、各国の軍が投入された結果ですね」


「ふぅむ」

 何故それらのサンプルが原形を留めていないのかと言うと、海で発見されたその生物はどれも凶悪であったらしく、容易に捕獲できるものではなかった為に軍が投入され砲弾や魚雷により駆除されたからである。


 案内してくれた研究所の所員から説明を受けるユウヒは、金と青の瞳に灯りを灯しながら水槽の中を見詰め唸ると、その眉間にしわを寄せて静かに鼻息を洩らす。


『…………』


 ユウヒの息遣いだけが聞こえる室内、所員の男性が固唾を飲む中周囲に複数の布ずれの音が聞こえ始める。


「…………」


『……………………』


 妙な気配に気が付きつつも、特に敵意が無いため無視したユウヒは、右目の視界を奪う様に現れる文字列に目を凝らし、どんどんと流れて行く解析情報から必要なものを抽出する為、真剣な表情で右目を制御し続ける。


「あの、視線が気になるんですけど……」

 今ユウヒが知りたいのは肉片の主が一体どういった生き物であったのか、そしてそれが地球上に発生した原因である。そのほかにも何故狂暴なのか、行動原理、詳しい生態などの順に右目で視ていくのだが、彼は背中に感じる大量の視線に振り返ると、いつの間にか周囲を囲んでいた白衣やスーツの集団に苦情を零す。


「あ、ははは……すみません。皆専門家の調査と言うものが気になると言うかですね」

 ジト目で振り返るユウヒに、困った表情を浮かべる所員の男性は、専門家の視線と研究所の上司から向けられる視線の板挟みになり思わず乾いた笑いを洩らしてしまう。周囲に集まっているのはどうやらこの研究所の所員であるらしく、その風貌と案内してくれた男性の表情から結構なお偉いさんがほとんどの様だ。


「……ちゃんと調べているか疑問なんですね?」


「あ、いえ! その……」

 周囲からの視線に対して目を細めたユウヒは、ぐるりと視線を向け窺うと自分に向けられる視線に含まれた感情を察して男性に問いかけ、うっすらと笑みを浮かべるユウヒの問いかけに図星をつかれた所員達は表情を引き攣らせるも、一部は特に表情を変えることなくユウヒを見ている。


「顔に書いてありますよ? まぁ調べると言っても解剖したり電子顕微鏡で見たりするわけではないですから」

 世界を飛び回りドーム関連の事件解決に貢献しているユウヒであるが、実際に彼を目の当たりにしたことのない人間にとって、耳にする彼の能力は到底理解できずその能力は疑いすらされていた。実際ユウヒは学者の様に調べているわけではなく、神から貰った右目の力と精霊から押し付けられた左目の力でモノを見ているだけである。


「それじゃどうやって調べていると言うのだ」


「んー……魔力で見てると言う所でしょうか」

 どうやって調べていると聞かれて真面目に神の力と答えても、相手が正しく理解できないであろうことは火を見るより明らかである為、色々と誤魔化し暈す様に魔力を見ていると答えるユウヒ。


「……我々にはその魔力と言うもの自体見えないから無理ではないか」

 あまり力をひけらかしても面白い状況になる気がしない事は、これまでの経験で良くわかっているらしく、彼は返答を聞いてより険しく表情を歪める初老の男性の言葉に申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。


「近道しているだけで普通に分析するのとそんなに変わらないですよ? 後は知識量が違うだけかと」


「異世界の知識か……どこでそんなものを」

 魔力が見える世界がどういう風に見えるのか解らない男性の言葉には、苛立ちと同時に好奇心もにじみ出ており、それほど悪感情は無いのかユウヒの言葉に一応の納得はしている様だ。さらにユウヒの付け加えた異世界の知識には興味があるらしく、その知識の源について求める声が口をついてでる。


「そりゃ異世界ですよ? 今も調査ドームでどっかの教授たちが異世界の知識を求めて暴れまわってるんじゃないですかね?」


『…………』


 異世界の知識をどこで手に入れるのか、それは当然異世界であり、実際何かを調べる時もアミールの管理するワールズダストで得た知識が大いに役立っていた。


 さらに今であれば、調査ドームにて民間の協力者である大学教授が、未知に溢れる異世界で暴走を繰り返し知識を蒐集しているところである。ユウヒの言葉を聞いた研究員達は、様々な表情を浮かべ唸り声を洩らす。どうやら彼らは、現在調査ドームにて活動する教授たちに覚えがあるらしく、羨ましさと呆れと疲れが混ざった何とも言えない微妙な表情を浮かべている。


「それじゃ大体の結果をメモしていきますね? 出来れば凝視しないでもらうと助かるのですが」

 急に静かになる研究所の面々に小首を傾げるユウヒは、小ぶりなバッグの中から鉛筆と大きめの付箋紙を取り出すと、凝視しないように一言告げると両目に光を灯しながらサンプルと向き合う。自宅で大量のサンプルを調べたことで、ユウヒは慣れた手つきでメモをとった付箋紙を水槽に張り付けていく。


「……はぁ、我々の認知できる世界じゃないならいくら見ても仕方ないか」

 次々メモを書き込んでいくユウヒの姿に険しい表情を浮かべる初老の男性は、この場で最も偉い人間であるらしく、明らかに理解してメモを書いているとしか思えないユウヒに肩を落とした彼の言葉に、周囲は同じように溜息を洩らす。


「……」


「悪気はないんですよ、色々プライドと言いますか……」

 色々諦めその場をぞろぞろと後にする研究員たちに目を向けたユウヒは、彼らが室内から出てくと小さくため息を洩らし、研究所に到着後から案内を続けている男性は申し訳なさそうな顔で頭を下げる。


「なるほど」

 どうやらユウヒの存在は彼ら研究員のプライドに小さくない傷を付けてしまったようで、今回集団でユウヒを観察に来たのもその傷故の行動であったようだ。彼らの気持ちを察しているユウヒは、借り物の力に若干の後ろめたさを感じながら返事を返すと、困った様に頭を掻きサンプルの調査に戻るのであった。





 一方その頃研究所から遠く離れた月の地表では、真っ白な大地に溶け込む様な白色のアンテナが複数建ってられており、その足元では人影が一つ胸を反る様に立っている。


「よしよし、これでいつでも地球に移動できるぞ!」

 満足気にアンテナを見上げていた人影は、スタイリッシュな白い宇宙服に付いた埃を一つ払うと、地球に目を向けいつでも移動できるとヘルメットの中で声を上げていた。どうやら目の前のアンテナ郡は地球に移動する為の装置であるらしく、中央には四角いステージの様なものが設置されている。


「やぁ我ながら現地調達でこれだけのものを作れるとは思わなかったな」

 明らかに現代科学とは方向性の違う作りの施設は、彼が立つ月にある物を使い作られた様だ。とてもその言葉を信じる事は出来ないが、作った本人もまさか作れてしまうとは思っていたなかったのか、ヘルメットの中に見える口元は僅かに引き攣っている。


「ただまぁ妙に空間が不安定になっているし、転送先はしっかり設定しないと」

 そんな地球へ移動するための施設は、所謂ワープ装置のようなものであるらしく、ドームの影響なのか彼の調べによると空間が明らかに不安定になっている様で、今すぐ地球に移動するのはリスクが高すぎるようだ。


「急いては事を仕損じるというし、とりあえずは一休みするかな!」

 急いては事を仕損じると言う言葉しみじみと呟く真っ白な宇宙服の人物は、踵を返すとワープ施設を背にして歩き出す。


「それにしても、ふむ……この世界の技術力は案外高いのかもしれないな」

 歩きながらちらりと地球に目を向けたその人物は、神妙かつ小さな声で呟くと予想以上に進んだ技術を確認した地球に一段階警戒心を上げ、目の前に近付いてきたガラス張りの半地下住居の中へと消えていくのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 世界中から日々集まるサンプルを前に様々な思惑が交差する中、ユウヒは色々な意味で目を輝かせ鼻をつまみ調査を続ける。果たして国が優先してほしいと言うサンプルは何なのか、次回もお楽しみに。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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