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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百五十二話 世界の反応

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『世界の反応』


 日本人がネット上で騒げば、そこと繋がる世界中でも彼らの騒ぎを聞きつけ同様に騒がしくなる。そんな海外の騒がしさは日本の有志によって翻訳され日本人にも波のように帰って来ていた。


 これはそんな騒がしさの一部抜粋である。



【新兵器】異常大国ニッポンがまた変なものを作ったぞ3 まとめより


0001 アメリカの名無しさん

はは! いつでも日本は俺たちに驚きを提供してくれるな!


0002 国籍不明の名無しさん

やはり日本は軍国主義に戻ろうとしている。これは世界征服を始める前の準備なんだ!


0003 ドイツの名無しさん

国を言わないやつは黙ってろ! でも日本がこれを作ったとしてロボットなのか? それとも生物なのか?


0004 アメリカの名無しさん

日本ならやっぱりロボットだろ! でも俺は不満だな、どうせなら全高18メートルの巨大ロボットを作ってくれよ


0005 イギリスの名無しさん

馬鹿だなお前は、日本はもう巨大ロボットを作って隠しているんだよ


0006 フランスの名無しさん

確かにそれは同意せざるを得ない、異星人の技術も手に入れてさらに強力な軍隊になってしまう


0007 アメリカの名無しさん

宇宙人の兵器は我々の方が進んでいると思っていたのにな、精神攻撃にも耐えられないような情けない奴らばかりになってしまった


0008 国籍不明の名無しさん

異星人の技術を独占する日本はやはり世界征服を諦めていないんだ! 我々が署名し異星人の技術を世界に開示させなければ滅ぼされるぞ! 目を覚ませ! 日本を糾弾するんだ!


0009 アメリカの名無しさん

あほらしい、そんなことしたらドーム対策の技術提供打ち切られんだろ。それより仲良くして共同で技術開発した方がマシだな


0010 ドイツの名無しさん

我が国のドーム対策にも協力してもらえないのだろうか? 実績あるなら手伝ってくれよ、救助はしているけどまだ行きつけのクナイぺの親父が行方不明のままなんだ。親父の特製ソーセージが懐かしい


0011 アメリカの名無しさん

こっちもまだまだドームの影響が残っているから俺たちが先だろ? この間もヨウカイみたいな化け物がまた出たんだ。軍が出動してぶっ殺せたけどな!


0012 フランスの名無しさん

家の近所でも最近妙な影が町をうろついているらしくて怖いんだが、日本のオンミョウジを派遣してくれないか? 教会の神父は震えるだけなんだぜ? やってらんねぇよ


0013 フィリピンの名無しさん

それならこっちは歩く兵隊ガイコツが出たんだ。でも何かつぶやいたかと思ったら消えてしまっていたらしい


0014 インドネシアの名無しさん

こっちは海で化け物見たって話が最近出て来ているな、漁船が転覆する被害が出ている


0015 フィリピンの名無しさん

それは本当か? こっちも海でとんでもなく大きな魚影が現れてクジラとも違うらしくて何隻も船が沈められているんだ。なんとかしてくれねぇかな漁に行くのが何時にも増して怖いよ


0016 アメリカの名無しさん

それはお隣の国じゃないのか? まぁあいつらはそれどころじゃないか


0017 アメリカの名無しさん

西海岸にも変な生き物が最近出るらしいが、異星人の仲間じゃないかって話だな


0018 イギリスの名無しさん

本当かよ、それじゃ家のじいちゃんが漁で見たって魚影もそれなのか? ものすごくデカイ影だったって話でボケたと思っていたんだがな


0019 アメリカの名無しさん

これはあまり大きい声じゃ言えないんだが、軍が謎の生物のサンプルを日本に送るらしい


0020 国籍不明の名無しさん

また日本か、なんでいつも日本なんだ


0021 アメリカの名無しさん

俺は賛成だね、俺をあの時助けてくれたのも日本のヒーローだったからきっと何かしてくれるさ


0022 ドイツの名無しさん

日本のヒーローだと? ニンジャか? それともサムライか?


0023 アメリカの名無しさん

空飛ぶヒーローだぜ? あっと言う間に化け物を殺してくれたぜ! 俺が女なら間違いなく惚れてたね


0024 日本の名無しさん

逃げろヒーローお尻を狙われているぞ!


0025 日本の名無し号さん

むしろ掘られてしまえばいいんだ!


0026 日本の名無しさん

どこでヒーローが見てるか分からんでござるから! 書き込みは慎重にするでござる!


0027 アメリカの名無しさん

日本人のヒーローは日本人から嫌われているのか?


0028 イギリスの名無しさん

唯の妬みだろ





 どうやら妖怪の様な異形が現れているのは日本だけではないらしく、世界中で妙な生物が頻繁に現れていると言うネットの騒ぎは、どこかの忍者っぽい日本人の乱入によりその騒がしさをより増していくのであった。


 そんな騒がしいネットの海とは真逆の沈む様な沈黙に包まれるのは、日本政府の人間が顔を突き付け合わせる会議室。何かの説明がされた後と思われるスクリーンの横に立つ男性は、難しい表情を浮かべる人々の姿に思わず唾を飲み込む。


「と言う事なんですよ」


「はぁ、問題が多すぎる。流石に全部は頼めんぞ?」

 唾を飲み込む緊張した様子の男性に苦笑いを浮かべた男性は、椅子を軋ませ振り返ると話は以上だと石木に水を向け、声をかけられた石木は難しい表情で組んでいた腕から力を抜くと、そのまま大きな溜息を洩らして目の前に座る男性に目を向ける。


「そうですねぇ……とりあえずはサンプルは至急調べてもらう事にしましょう。日本近海でも同様の報告が上がっていましたね?」

 石木の言葉に苦笑いを浮かべる男性は、その視線を少し離れた場所に座る阿賀野に向け、視線を向けられた現総理は大きく息を吸ってため息交じりに勢いを付けて声を出すと、その勢いに乗ってユウヒへの依頼を一つ決めて石木に目を向ける。


「ああ、そっちのサンプルは海上自衛隊と捕鯨船に頼んで集めてもらっているから、すぐにでも届くだろう」

 どうやら何かまたユウヒに調べてもらいたい物があるらしく、それは彼に頼むことから分かる様に明らか地球のものとは思えない何かの様だ。説明がなされたらしい何かのサンプルのほかにも続々とその何かは集まっているらしく、それは捕鯨船を使わないといけないほど巨大な海の生物であるらしい。


「そちらのサンプルもこちらで一括管理させていただく予定です」


「よろしく頼む」

 どこか学者然とした男性の声がする方に顔を向けた石木は、皺の多い初老の男性に頷き了承する。どうやらすべてのサンプルは一括で管理されるようで、彼はその責任者であるらしい。


「ブラジルの件は……」

 まるで会議が終わったかのような空気が流れる部屋の中、スクリーンの横に立っていた男性は緊張で震える手に力を入れるとブラジルと言う名を呟き問いかける。


「地球の反対側だぞ? ちょっと行って調べてくれなんて気軽に言えねぇよ、ただでさえあっちは危ないっつうに、今度こそ赤狐がぶち切れっちまう」


「森林火災はそちらでどうにかしてほしいですね」

 現在ブラジルに出現したドームの周りでは深刻な森林火災が発生しているらしく、ドームとの関連性を調べてほしいとブラジル政府から要請が上がっている様だ。しかし現在ブラジルでは様々な問題が発生して治安が悪く、そんな場所にユウヒを連れて行こうものなら彼らの命は路傍の石を蹴飛ばすが如く明華に消されてしまうだろう。


「相談するのは良いがよ、隠し事されたら何も答えられないだろ」


「そうなんですよね、こちらの諜報力はだいぶ下に見られてますし」

 ましてや拡大する森林火災の中心地でドームの調査など、普通に考えても正気の沙汰とは思えず、気になった日本政府が調べた結果ブラジルから齎された内容とは全く違う情報を入手した様で、ぼやき合う石木達の表情はキナ臭げに歪む。


「まぁそう言う方針だからな、ユウヒに相談するにも色々出そろってからだな」


「それより先にやることありますからね」

 そう言った理由もありブラジルへの援助は消極的であるが、そこは日本らしいところなのか多少の援助は行っている。何より彼等には優先される課題が多く、次々に舞い込む問題を全て処理する為の余裕がほとんどないのだ。


「中東のドームの縮小はゆっくりですが進んでいる様で、やはりドームに対して何らかのアクションは行っていたようです」


「だが、多少のアクションはどこの国もやっているだろ」

 余裕がない中で優先される課題の一つは、中東のとある国から届いた救援要請で、縮小を始めたドームに関するものである。調査の結果、三国ほどではないにしろ何らかの兵器による破壊を試みたらしく、今まで異常が無かったようだがある日突然ゆっくりと縮小を始めた様だ。


「はい、だからこそ今回の縮小はこれまでとは違う異常であるかと、研究者も一様に同じような見解です」

 似たような破壊作戦を行っている国は意外と多く、しかし明らかな縮小が確認されたのは現状中東のドーム一か所であり、支援要請を受けた日本は現在他との違いを多数の研究者と共に調べている段階の様である。


「失礼します!」


「お、どうだった?」

 いくら解るからと言って、民間人であるユウヒにばかり頼るわけにはいけないと、与えられた権威に比例するプライドを持つ科学者達は、必死にドームと言う異常について研究を進めているのだが、その研究速度を嘲笑うのが異常事態と言うもの。


「測量の結果、日本の各ドームも僅かですが縮小の傾向があるようです。しかし誤差のレベルと言えなくもなく、確実に縮んでいるとは言えません」


「そうか……先にこの件で話しをしてみよう」

 ノックと共に入ってきた自衛隊員は、日本各地のドームを測量した結果を携え現れると、端的に誤差と言えなくもないが縮んでいる様だとはっきりとした声で告げ、会議室の人々の顔を一様に歪めさせる。


「また迷惑かけてしまいますね……」


「……」

 肩を落とし頷いた石木は、また依頼をしなければいけないことが決まり憂鬱な表情を浮かべると、阿賀野の声に顔を上げながら眉を大げさに上げるとゆっくり立ち上がって別室に移動するのであった。





 ユウヒがまた厄介ごとを抱えそうな会議が行われている裏で、ネットの世界ではまさにその問題のありそうなドームが話題に上がっており、一部界隈で騒がしい声を響かせている。



【ドームがやばい】全世界のドーム情報集積所18 より


0001 中東の名無しさん

以前話していた縮小の件だが確実な情報であることが確認された。軍が動員されて避難が開始されている


0002 インドの名無しさん

どこのドームだ? 中東のドームは少ないけど一個一個が離れているだろ?


0003 国籍不明の名無しさん

一番東のドームだな、他の場所は疎開どころか率先して内部に人が入っている


0004 アメリカの名無しさん

中に入って何やってるんだ? まぁこっちの奴も入ろうとしてるがな


0005 国籍不明の名無しさん

中には金になる物があるらしくて色々持ち出しているらしい、と言うか国が率先して持ち出しているみたいだ。民間人が軍に追い出された後何かやっていたのを見た


0006 ブラジルの名無しさん

俺のところも森林火災が始まる少し前に現地の人間が頻繁にドームを出入りして何かを持ち出していたな


0007 ブラジルの名無しさん

それなら知っている、何か燃料の代わりになる物を手に入れたとかで高値で取引していたな


0008 アラブの名無しさん

こちらでは鉱山に繋がっていたらしくて採掘が行われていると聞いたな


0009 トルコの名無しさん

どこからそんな情報が出てくるんだ? 金目の物を探す動きはこっちでもあるけど、これと言った情報はないぞ?


0010 ロシアの名無しさん

研究者の見解では時期的に中国のドーム崩壊が各地のドームに影響を与えたのではないかと言う話だ


0011 国籍不明の名無しさん

それならロシアのドームだって崩壊しているんだからそっちの影響かもしれないだろ


0012 国籍不明の名無しさん

ならアメリカにも責任がある。潔く罪を認めろ!


0013 国籍不明の名無しさん

それぞれで違いがあるとしたらロシアは早々に専門家と軍によってドームを処理しているし被害範囲が比較的小さい。アメリカも日本からドーム対策用の機材を搬入した上で専門家と軍によって対処したが国全域で精神汚染を発生させた。中国は自国の力だけで対処するも対処しきれず隣国に被害を及ぼした。


0014 国籍不明の名無しさん

日本は自国の利益の為に中国へ手を貸さない卑劣な国なんだ


0015 インドの名無しさん

いやいや中国断ったじゃないか、ロシアもアメリカも当初はいらないと言っていたが中国の被害を見て即方向転換しただけ。日本は助ける義理も無いはずなのによくやるよな


0016 国籍不明の名無しさん

偽善者が


0017 ドイツの名無しさん

はは、何もしないより偽善者でも人を助けただけマシだろ? 何よりどこかの国みたいに責任丸投げしたり? なすりつけたりしてないからな?


0018 国籍不明の名無しさん

やはり専門家の有無が大きい、話によれば中国から移動した龍も専門家が前面に出て対処したらしいからな、最初から頼んでおけばよかったんだよ


0019 国籍不明の名無しさん

後からなら何とでも言えるだろうが、そんな怪しい話のるわけがない


0020 ブラジル在住の名無しさん

【悲報】ブラジル日本に支援断られる


0021 国籍不明の名無しさん

うわ、マジか


0022 ブラジルの名無しさん

正確には専門家の派遣を断られただな、調査は手伝ってもらえるってよ


0023 国籍不明の名無しさん

なんだ、戦略物資をそうやすやすと渡すわけがないだろ


0024 イタリアの名無しさん

物扱いとか喧嘩売ってると助けてもらえなくなるぞ? うちはそんなことしないぞ! 来てくれ歓迎するぞー!


0024 イギリスの名無しさん

そう言えばイタリアにもドーム発生していたんだな、色々大変な時期に可哀そうに。そんな事より我が国はいつでも歓迎だ! あの海に半分漬かったドーム引き取ってくれ! あと海も何とかしてくれ!



 その後イタリアの名無しさんを切っ掛けに支援を求める声が各国の名無しから上がることになりちょっとした盛り上がりを見せる掲示板。なんてことの無い雑踏の声であるが、その言葉こそ一般人の気持ちであるのは確かである。





 そんな掲示板を果たして専門家本人は見ているのか、昨夜から妙に鼻のむず痒さを感じているユウヒは、玄関を背に早朝のまだ比較的涼しくも重さを感じる新鮮な外気を、肺いっぱいに吸い込む。


「……はいもしもし?」

 目を覚ます様に深呼吸をしていたユウヒの耳にスマホの着信音が届き、少し躊躇しながらもズボンのポケットから型落ちしたスマホを取り出したユウヒは、画面に表示された相手に少し珍しそうな表情を浮かべ電話をとる。


「ユウヒ元気か?」


「まぁそこそこ?」

 電話の相手はその声からパフェであるらしく、普段は専ら文字でやり取りする相手の固い声に小首を傾げたユウヒは、不思議そうな声色でそこそこであると返事を返す。一歩間違えれば死んでもおかしくない場所から帰ってきた後も割と危険な事に首を突っ込んでいたユウヒであるが、自衛隊の妖怪帰還作戦に参加した後はゆっくりすることが出来ていた。


「あんたは小学生か!」


「な、なんというか何を話すか忘れてしまって……」

 妖怪との出会いからすでに数日が過ぎており、久しぶりに穏やか一時をすごしたユウヒは、石木からいくつかの依頼を受け久しぶりにエアコンで守られた部屋から外に出て来たのだ。そんな彼の下に突然かかってきた電話口では、パフェの言動にツッコミを入れるリンゴの声が聞こえてきて、そのやり取りにユウヒは懐かしそうな笑みを浮かべている。


「かしなさいな」


「はぃぃ」

 いつもと違う弱気な言い訳を口にするパフェは、終いにリンゴによって電話をとられたらしく悲しそうな声を最後に気配が感じられなくなり、代わりに喉を慣らすリンゴの咳き込みが聞こえて来た。


「……」


「ユウヒ聞いてる?」


「ほいほい?」

 無言の電話口に口を寄せ声をかけてくるリンゴに、ユウヒは生温い表情を浮かべ、声質から急ぎの様である事を察すると、しかし焦らせることなくいつもの調子で返事を返す。


「いきなり用件で悪いんだけどね? 今ドームの中を開発するって言う話が一部で上がっていて、パフェが誘われているみたいなんだけど、やって大丈夫かしら?」

 ユウヒの返事に対して少し早口で話すリンゴ曰く、ドームの内部開発計画と言うものがどこからか上がって来ているらしく、そんな計画にパフェの会社も誘われているのだと言う。


「どこで?」


「中東と?」


「南米とオーストラリアだ!」

 訝しげな表情を浮かべたユウヒの問いにリンゴは中東だと答え、さらにパフェが南米とオーストラリアでもそう言った計画があるのだと遠くから大きな声を上げる。


「……駄目だな」


「あぶない?」

 どう考えても問題しかない計画に対して、さらにいつもの勘が良くないものを感じ取ったらしく、明華の様な冷たい表情を浮かべると短い言葉で返事を返し、その返事にいつもより大人しい声のリンゴが問いかけた。


「何も保証できないからな? あんだけの目にあってまだ行こうと思うのは流石にどうかと思うだ」


「まぁね?」


「やっぱりそうだよな、安全だと言われたんだが気になって」

 ドームの奥で散々な目にあっていた人間の言葉とは思えないと言った、多分に呆れの籠ったユウヒの言葉に、リンゴは同意するように返事を返す。どうやら二人ともそれほど乗り気であったわけではないらしく、しかしその話に対して何か思う所がパフェとリンゴの二人にはあったようで、困った時は必ず助けてくれるユウヒに最終判断を頼ったようだ。


「詳しく調べないとわからないけど、基本的にドームはあの状態が異常でな、いずれは崩壊する運命にあるそうだ」


「それほんと!? てか言って良いの?」


「リンゴや姉さんは信用してるし?」

 兎夏からドームの状態を度々聞いているユウヒとしては、国内であっても今は近づかないでほしいと思うのが正直なところであり、万が一崩壊に巻き込まれでもしたら悔やみきれないと心の奥に妙な疼きを感じながら、ほぼ知る人のいない情報を、スピーカーで聞いているだろう二人に伝える。


「……ん!」

 すぐにそれが非常に重要性の高い情報であると理解したリンゴに、ユウヒは信用しているから問題ないと即答で返し、リンゴは少し高いキーの声で言葉を詰まらせ、彼女の背後では何かがぶつかる衝撃音が鳴った。


「そっかー……わかった! 話はなかったことにするよ」


「それでいいのか?」

 数秒間の無言の後、いつも以上にテンションの高いパフェの声で誘いは断ると言う内容の言葉が聞こえてくる。彼女の言葉に力なく肩を落としたユウヒは、そんな簡単に決めて大丈夫なのかと少し不安げに問いかけた。


「世界で唯一の専門家の見解だからな! 参考にするには十分だろ!」


「まぁ良いなら良いんだけど……それじゃ切るな? これから仕事だから」

 会社間の付き合いは色々あるだろうと考えたユウヒの言葉であったが、しかし反響して聞こえてくるパフェに気にした様子は全くない。若干心配になりつつも、社長であるパフェの事を最終社歴社畜の自分が気にするのもおかしいと感じたユウヒは、納得することにして電話を切ると声をかける。


「む、すまないな時間をとらせて」


「それじゃ切るわね、お仕事頑張って」


「おう、ありがと」

 仕事と言う言葉に申し訳なさそうに声のトーンを落としたパフェと、楽しそうに笑うリンゴの激励に頬を緩めるユウヒは、礼を一つ残すと耳からスマホ外し息を吐く。気を取り直して玄関先から緩い階段を下りたユウヒは、目の前に停まる黒塗りの車に目を向けそこに立つ男性に目を向ける。


「大丈夫ですか?」


「はい」

 ユウヒに一声かけた男性は、返ってくる返事に満足げな笑みを浮かべると、曇り一つない黒いドアを開けユウヒを車内に誘う。


「では到着までお寛ぎください」


「今日はどこまで行くんです?」


「政府の研究所にサンプルを集めているそうですので、全て一カ所で済むとのことです」

 最近よくお世話になる高級感しか感じない弾力のシートに身をまかせ、程よい冷気で汗の滲む体を心地よく冷やすユウヒは、これから政府の研究機関に向かうらしく、運転手と黒い車はそのお迎えであった。


「よいしょっと、調べるサンプルって結構な量なんですか?」


「量は多いようですが、優先されるのはそこまで多くは無いと聞いてます」

 シートの背に沈み込む体を起き上がらせたユウヒは、ハンドルを切る男性に呼ばれる理由であるサンプルの量に関して問いかけ、その問いかけによどみなく答える辺り男性はそれなりに需要な役職の人間の様だ。


「何かあった感じですかね? 出来るだけ迅速に調べてほしいと言われただけなんですが」


「私も詳しくは……ただ海外からの急な依頼だとか」

 しかし、そんな重要な役職らしい男性も、ユウヒが急かされた理由まで解るわけではない様で、バックミラー越しに見える申し訳なさそうな目にユウヒは笑みを浮かべると、車の加速に合わせて体をシートの背に沈み込ませる。


「なるほど……」

 小さな不安がまとわりつくのを感じて小さく呟くユウヒであったが、彼の勘が特に問題は無いと告げているのを感じると、優しい運転の振動に体をまかせゆっくりと瞼を閉じるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ネットの世界で日本人が騒がしくする中、世界もその騒ぎに釣られて騒がしくなる。そんな騒がしさの原因はユウヒにどんな世界を見せるのか、次回も楽しみにして貰えたら幸いです。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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