第二百五十一話 妖怪で賑わうネット界隈
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『妖怪で賑わうネット界隈』
ユウヒの報告により昨夜遅くまで緊急の会議が行われていた庁舎の一室、誰かを待っているらしい石木はモバイルバッテリーから充電用の線が伸びるスマホを見ながら、非常にめんどくさげに顔を顰めている。
「しまったな、遅かったか……いや、今更気が付いただけとも言えるか」
彼の見詰める先には、とある大規模掲示板サイトがスマホの画面に映し出されており、そこに書きこまれた内容を読みこみ呟く石木は、自分たちの行動の遅さに悪態をつく。なぜなら、そこにはMyTuberシスコン猛が昨夜遭遇した妖怪の姿を捉えた動画のリンクが張られ、本人のコメント付きで詳細が説明されていたからだ。
「こっちの方が情報の鮮度はよさそうだな」
その動画リンクを火種に掲示板は勢いよく書き込みされ、さらに全国各地で起きている怪談騒ぎの話も集約されており、今では纏めサイト関連の掲示板も複数建てられている。現在石木は、全国で起きている怪談騒ぎの調査報告を待っているのだが、真偽不明であるものの現在待っている報告より鮮度の良い掲示板の内容に思わずため息を洩らす。
眉を歪める石木が、動きの鈍い政府と違い好奇心と軽率で作られた鮮度の良い掲示板に目を向けている頃、その一画ではあちこちから集められた怪奇現象を冷静に分析する人々がいた。構成員のほとんどが元ドーム調査員からなる掲示板内では、その時の活動を活かし怪奇現象に関して分析が進められている。
【全部】怪現象を纏める有志の会、ドーム研究所ではありません【ドームが悪い】6
0023 名無しの次郎
以上が前スレの流れだけどやっぱり何かドームから出て来たんじゃないか?
0024 名無しの次郎
ドームから出て来たならなんで日本語喋ってるんだよどう見ても神社出身じゃね?
0025 名無しの次郎
元研究員が多いからドームに絡めたくなるのは分かるし実際ドーム周辺での怪談発生率は高いのだから完全に切り離すことは不可能
0026 名無しの次郎
まぁその辺は後でも良いとして、今のところ発見例が多いのが餓鬼タイプと獣タイプだな。動画の一つ目入道はレアケースなんだが他にも女性タイプが出たと聞いたのだが情報求
0027 名無しの次郎
何するつもりだろ
0028 名無しの次郎
ナニするに決まってるだろ言わせんな恥ずかしい
0029 名無しの次郎
お巡りさんこの人です
0030 名無しの次郎
もしもしポリスメーン!
0031 名無しの次郎
みんな犯罪者に容赦なくて好き
0032 名無しの次郎
犯罪者じゃねーし! 異種族でもみんな仲良く! 日本政府も言ってるから正しい事なんだね!
0033 名無しの次郎
必死過ぎて草
0034 名無しの次郎
実際色々な異種族が移住してきているから間違いではないが、何故か彼からは邪な気配しか感じないのでお巡りさんこの人です。
0035 名無しの次郎
もしかしたらこの妖怪も異世界の移住者なのでは? と言うのはすでに日本語を話していると言う事で論破されていたけど、ならどこから来たんだろうね?
0036 名無しの次郎
実はドームは昔から地球にあった説が再浮上の予感
0037 名無しの次郎
その説を推すとは渋いな、しかしその可能性が微レ存な件
0038 名無しの次郎
それじゃ日本叩いてる奴らが納得しないのですぐ潰されるに一票
0039 名無しの次郎
あいつら何が何でもドームは日本の陰謀論を固定化したいんだな? 今回の妖怪騒ぎも日本の生物兵器の実験で実験場であるドームから逃げ出して来たって言ってるんだろ? 想像力豊か過ぎんだろ
0040 名無しの次郎
まぁ可能性の一つとしてはありだと思うけどドーム古代文明遺産説とどっこいなレベルなんだよな
怪談を楽しむ者達が妖怪の所在について議論する中で、どうしても身近な怪現象であるドームと結び付けてしまう者も多く、多少無理な話も無理やりこじつけるだけのインパクトがあの黒く大きな姿にはあるようだ。しかしその話題も次第に声の大きな者達の話題へと交わり妙な方向へと向かっていく。
一方で、そう言った妙な方向へ誘う話題について真面目に議論する者達も居た。そこではどんな突飛な話もとりあえず真面目に考えると言うスタンスらしく、そこで交わされる内容は怪談板だけではなく色々な場所で話題に上げられ話のタネになっている。
【暇人の遊び場】日本陰謀論を真面目に分析する者たちのたまり場 3
0012 名無しの覗き見研究員
ここまで伸びたことに驚愕を禁じ得ないが、ここで身に付いたのは下手な日本語の翻訳技術くらいだな
0013 名無しの覗き見研究員
長文になるともう何を言っているのか理解できないからな、某フリーな翻訳でも使っているんだろうか
0014 名無しの覗き見研究員
しかし第二次世界大戦後から帝国主義復活の為に用意していた生物兵器と言う辺りは創作物のあらすじっぽくて嫌いじゃない。ただそんなこと出来るんならドームの対応にてんやわんやになるわけないんだよな
0015 名無しの覗き見研究員
否定はいけない、どんな突拍子もない話でもそれを前提として可能不可能を判断しないといけないのだからな、まぁ不可能なものが多いからそう言いたくなるのもわかるが
0016 名無しの覗き見研究員
結局は日本を悪者にしたい人間しかいないからな、実際昔から秘密裏に利用されていたなら国の初動も変わっていただろうし、日本人が使えていたならほかの国だって使えていただろうしな、専門家だって日本から呼ぶ必要もないだろう
0017 名無しの覗き見研究員
その専門家が黒幕って話もあったが、それは割とあり得そうだよな? 実際その知識をどこで手に入れたんだよってツッコミ満載だし
0018 名無しの覗き見研究員
ほんそれ、一応可能性としては救助された帰還者同様に行方不明になって自力でなんとかした可能性が高いと言う事にしてたよな、あちらさんは異世界からの侵略者とか日本の陰陽師の家系で昔からドームを管理していたとかあったな、穴だらけだけど
0019 名無しの覗き見研究員
陰陽師と言えば、最近の妖怪騒ぎで一部界隈がにぎわっているらしいが?
0020 名無しの覗き見研究員
あそこの人間が騒ぐならガチなんじゃなかろうか? 少なくともドームで何の反応も見せなかった人間が動き出たわけだし
0021 名無しの覗き見研究員
そうなると、ドームと妖怪は切り離さなければならなくなってくるんだが、我らの暇つぶしネタをぶった切る行為は慎みたまえ研究員
0022 名無しの覗き見研究員
すまない研究員、あまりに稚拙な陰謀論ばかりで辟易していたんだ許してくれ研究員
0023 名無しの覗き見研究員
ゆるす
0024 名無しの覗き見研究員
やさしいせかいで草生える
0025 名無しの覗き見研究員
新しい苦情が上がっているぞ、今度はドーム被害者に対する賠償要求の署名運動らしい
0026 名無しの覗き見研究員
あの国のどこにもドームが無い件について
0027 名無しの覗き見研究員
日本はもう被害者全員救助完了したんだろ? まぁ五体満足時じゃないらしいが……
0028 名無しの覗き見研究員
治療は国の予算で賄うと決まってから現政権の支持率上がったんだが、必死にネガキャンしてた人達は涙目だな
妖怪が出たと言う騒ぎからなぜか妖怪は日本の生物兵器と言う話まで、紆余曲折を見せる掲示板の賑わいは、ユウヒの口から妖怪たちにも伝えられていた。
「と言う事で、我らの行動が人の世界で大きな問題となっている」
ネットの海で交わされる真偽不明な井戸端会議について聞いた妖怪たちは、一様にその表情を顰め、人の豊かな想像力とその影響を多分に受けている自らの存在について、何とも残念な気持ちになってしまったようだ。
「まさか波長の同位無しで我々の姿が見えるとはな、隠形の使える者で各里と連絡を取り合わねばならないか、それにしても迂闊だな」
そんな掲示板の賑わいは、未だに中学校の理科準備室に待機している赤肌の老人から、彼らを訪ねて来たイタチの妖怪へと伝えられ、彼は現状を再確認して深い溜息を洩らすと、今後の方針について頭を巡らせ小さな麿眉を寄せて上げる。
「確かにもう少し慎重に動いてもらいたいものだが、大方混乱した上方が誰でもいいからと確認に出しているのであろう」
どうやら妖怪たちの里と言われる異世界も、境界が緩み世界間を簡単に行き来出来るようになったことには混乱しているらしく、一時期日本がドームに対して起こしていたようなアクションを妖怪たちも起こしている様だ。
「半分はそっちの餓鬼共と同じだ」
「ギ!?」
「きにするな」
予想外の事態に慎重さより迅速さを選択した結果二次被害を出している妖怪の里、また妖怪も人も考える事が似たものが多いらしく、日本に足を踏み入れる者は役人より一般の好奇心に駆られた妖怪が多いらしく、イタチの皮肉に近くに居た餓鬼はびくりと震えると赤い肌の老人に申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「それよりその陰陽師は信用できるのか?」
気にするなと餓鬼たちに声をかける赤い肌の老人は、その視線を細めイタチに向けると、視線を向けられたイタチはそっぽを向いて話を無理やり替える様に話題を振った。
「陰陽師ではないそうだが実質やっておることは変わらぬからそれでよいと思うが、実に誠実な男であった」
どうやら彼らの中でユウヒは陰陽師と言う認識で固まっているらしく、それはユウヒが説明と訂正を行っても変わらない。何故なら彼の説明を聞いても実質妖怪たちにとっては陰陽師と大して変わらなかったからである。
「ほう?」
そんなユウヒについて誠実だと話す赤い肌の老人に、イタチの妖怪は興味深そうに麿眉を上げて目尻に皺の寄った老人に目を向けて体を少し前に乗り出す。相当その言動が珍しかったのか、彼の瞳は好奇心に駆られた餓鬼と大して変わらない輝きを見せていた。
「色も悪くない、多少移り気な色もしていたが真面な方だろう……問題は」
「問題?」
イタチの姿に少し口元を緩めた老人に変わり、その隣で聞きに徹していたマントの紳士が口を開く。何かを思い出す様に話し出した紳士は、ユウヒを悪くない色だが少し移り気でもあると言い、しかし基本的に悪くないと話す。一般人が聞いても何のことやらと、ユウヒも理解出来ないであろう妖怪特有の表現に、イタチは興味深そうに頷くと、問題と言う部分がより気になり思わず急かす様に口をついて出る。
「あの膨大な力であろうな、正直人の身に入れていられる様なものではない。常人なら消し炭になっていてもおかしくはないな」
「だが生きていたのだろう?」
赤い肌の老人と赤いマントの紳士が目を合わせる様に顔を向け、老人が話し出した内容はユウヒの保有する膨大な魔力についてのようで、それは人の持ち得て良い力ではないのだと言う。常人なら死んでもおかしくない力を保有するユウヒは、妖怪の目から見てかなり異常な存在の様だ。
「そうなのだがあの力には、我らの認識外の何かがありそうだ」
彼ら妖怪よりも高次元の存在である管理神にすらおかしいと言わしめるユウヒであるから、彼らの評価もおかしくはない。またそんな管理神も恐れる存在である乙女と言う女性曰く、少し前のユウヒは今よりも大きなエネルギーを内包しており、非常に危うい状態でもあった。
そんなユウヒの体に内包された力は、その乙女の手によって調整されており、赤い肌の老人が呟いた認識外と言う言葉は的を得ているが、彼らにその事を知る術はない。
「あれは正の力だけじゃなわよ? 一瞬だけど奥の方にあの強い光と同じくらい力強く真っ黒な負の力も感じたから、何かしらのバランスがとれているんじゃないかしら?」
「それこそ人の身に収められんぞ?」
唯々可笑しな存在として映るユウヒ、そんな彼の事をより理解している妖怪は、彼に穴が開きそうな熱い視線を向けていた花子さんの様だ。彼女曰く、ユウヒの体に内包される力は強い光の様な中にその光を真っ向から受け止める真っ黒な力も存在すると言う。
妖怪の感性は中々難しいものがありそうだが、ユウヒの体の中では真逆の力が常にぶつかり合っている様だ。
「そこは何かあるんでしょ、実際目の前にいるんだから有りえないじゃなくて有りえる理由を考えてよ」
「おまえは考えんのか……」
彼女の話に思考を放棄するように有りえないと言う男性陣は、どこか太々しく足を組み替えながら考えろと言う花子さんに呆れた表情を浮かべ、そんな視線から彼女は目を逸らす。
「私はあの魂の輝きを見ているだけで良いわ、ふふふふ」
「引き込まれるでないぞ? 今時は混血に対して色々問題が多いからな」
目を逸らしたかと思うとそれまでのどこか太々しい表情をだらしなく歪め、興奮した様な荒い息でユウヒの魂の輝きを見ているだけで良いと言い出した。どうやらこれまで彼らが話していた物は、ユウヒの魂についてであったようで、彼らの美醜は外観ではなくその魂の輝きに重きが置かれるようだ。
「さぁ、それは解らないわね。でも神の匂いもぷんぷんしているし、私も簡単に惹き込まれないわよ」
そんなユウヒの魂に好感を持つ赤い肌の老人は、花子さんの横顔をじっと見詰めてあまりユウヒの魂に惹かれ過ぎぬように忠告する。ずっと昔から人の生活圏と交わって生きてきた彼らは、時折気に入った魂を持つ人間と心と血を通わせ子を成してきた事実があるが、彼らの世界ではその事が問題化している様だ。
「……」
忠告に対して挑戦的な笑みを浮かべる花子さんに、赤いマントの紳士は何か言いたげな表情を浮かべ、その視線を老人に向けて肩を竦める。
「此奴は惚れっぽいからの」
「まったくだ」
紳士の視線に首を振って答えた老人は、緩慢な動きで彼と一緒に、機嫌よく鼻歌を歌う花子さんに目を向けると、彼女の過去の言動を思い出しながら深い溜息を吐き出すのであった。
妖怪たちがこれからの事について相談している頃、こちらは朝から連絡と情報交換をしているユウヒと兎夏、二人はいつもの様にテーブルに置かれた腕時計のような通信機越しに話しをしている。
「と言う事があってな」
「精霊は見つからなかったの?」
どうやら精霊探しについて一通り話し終えたらしく、しかし妖怪の話は出て来ても精霊の話が出てこないことに兎夏は小首を傾げて問いかけた。
「居るには居るらしいが随分引きこもり気質らしくてな、一応話を通してもらう予定だがそれにはまずあの餓鬼の集団を返さないとな」
当初の目的である日本在来の精霊を見つけることは出来なかったユウヒであるが、妖怪の里に住んでいることは彼らから確認できたようだ。しかしその精霊は妖怪たちが困ったように眉を顰めるほど引きこもり気質であるらしく、何もないのに里から出てくることはまずないと言う事であった。
「目途は?」
そんな精霊たちへの言伝を花子さん達に頼んだユウヒであるが、先ずは彼らを里に返さなければ話が進まない。当然さっさとことを進めてしまいたいユウヒは、人の目にも映る妖怪たちの速やかな帰還の為にも手を打っている。
「石木さんに頼んで自衛隊から輸送用のトラックを派遣してもらう事になった」
「大事ね」
それは石木と連絡を取り決めた方法で、人の目が少ない時間帯に自衛隊の輸送車両を中学校の校内に乗り入れ、外から見られないよう移動経路に目隠しをした状態で餓鬼達に乗り込んでもらう。そのままユウヒが見つけた社へ移動した後は、事前に目隠しなどの準備をしておいてそのまますぐに異世界に帰ってもらうと言うものだ。
話自体は簡単であるがその準備は大変で、すでに目的の社周辺は防衛省の人間が根回しに回っており、ユウヒの電話によって引き起こされた政府内の騒ぎは、政府の動向を注視する人間に大きな影響を与えている。
「まだ妖怪を公にしたくないんだってさ」
「手遅れな気もするけどね」
「そうだな……」
冷えた床に座るユウヒの後ろから聞こえてくるのは、PCの画面に映し出された某動画投稿サイトで評価を集める妖怪の目撃動画集、動画の声をBGMにスマホを弄り石木の言葉を思い出し話すユウヒは、同じくPCの別画面で怪談騒ぎの情報をチェックしている兎夏の言葉に顔を上げると、苦笑いを浮かべ見詰め合う。
二人が確認したネット上の様々な情報源からは、すでに妖怪と接触した人間の声が多数寄せられておりどこからどう見ても手遅れである。そこからわかるのは、これらの騒ぎを聞きつけたメディアが国の責任について報道し始めるまでには、それほど時間が必要ないと言う事だ。
いかがでしたでしょうか?
ユウヒが妖怪と出会うよりも先に日本各地では妖怪と一般人が遭遇していた様で、その波紋は方々に広がり大きな騒ぎとなり始めている。政府の対処は果たして間に合うのか、そしてユウヒにはどんな影響が訪れるのであろうか。次回もお楽しみに
読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー




