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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百四十八話 中学校の怪談 前編

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『中学校の怪談 前編』


 中学校の門扉からそっと中を覗いていたユウヒが、学校の警備員から職質の様なものを受けてから数十分後、無事誤解の解けた彼はそれまでと打って変わったVIPな対応を受けながら学校の中に招き入れられていた。


「良くいらっしゃいました!! ささこちらに! 今お茶を淹れますからな、そこのお菓子はご自由にお食べください!」


「……えっと、その突然すみません。ご迷惑でしたよね?」

 校長室に向かう間も若い女性教員二人に挟まれ移動する事になったユウヒは、交互に笑顔で声を掛けられ、その異常に友好的な態度に困惑を覚えたが、それ以上に校長の態度が急に来た人間に対しては有りえないほど友好的な事に思わず表情を引きつらせる。


「いいえいいえ! まさか突然助けが降ってくるとは思いませんでしたよぉ。迷惑なんてとんでもない!」


「まだ何も確認してないので、ご期待に添えるかは微妙なとこなんですが……」

 ユウヒを校長室まで案内した女性は一言退室を告げるとそのまま居なくなり、勧められるままにソファーへと座ったユウヒに校長はお茶や茶菓子を用意しながら嬉しそうな笑みを浮かべていた。どうやらユウヒの事は高校の校長から聞いているらしく、ユウヒの事件解決能力を絶賛していた高校の校長によって、その期待は感情が爆発しそうなほど膨れ上がっている様だ。


「いやいやいや! 国が頼りにするほどの専門家なら来てくださるだけでも嬉しい限りで、何もないと言って現実逃避させてもらえるだけでもいいんですよ」

 引き攣った表情を手で揉んで無理やり戻すユウヒに、校長は対面のソファーに座ると体を乗り出しまくし立てる。どうやら国からの要請で問題を解決している権威ある専門家と言う認識のようで、権力に弱い日本人の典型のような男性は、遠い目をしながら現実逃避させて貰えるだけでも良いのだと乾いた声を洩らす。


「……苦手なんですね」

 そんな校長の、お腹周りの大きさに反してやつれ気味な顔を見ていたユウヒは、校長室を大きく見まわすと少し言い辛そうに確認を取る、お化けや妖怪と言った話が苦手なのかと。


「お恥ずかしながら、もうその手の話は大の苦手でして……。幼い頃にトイレで変な影を見てからと言うものトイレが怖くなり、学生時代はそう言った話題が流行った時期で、会社勤めしていたころも隣のビルが出る場所と、呪われているんじゃないかと頻繁にお祓いにも行くんですが……」


「お札だらけだな、ちゃんと効果のある物は少ない上に……あれなんて呪われてないか? 捨ててやれ」

 ユウヒの問いかけに、暑いからかそれとも別の理由なのかじわじわとにじみ出る汗をハンカチで拭う校長、彼はソファーに深く座り腰を落ち着けると、背中を丸く曲げたままぼそぼそと語り始める。


 急に独り語りだす校長に何とも言えない表情を浮かべるユウヒの隣では、心底呆れた顔で溜息を洩らしたコンが、部屋を見回し壁の至る所に張られたお札や神棚、棚に並べられた多種多様な置物にもう一つ溜息を洩らし、神棚の横に飾られたお札が呪われていると言う。


「あれかぁ」

 コンの言葉に顔を上げたユウヒは、自身も気になっていたお札に目を向けその青と金の瞳に光を灯す。そのお札からは普通の人間には見ることが出来ない黒い靄が洩れており、ゆっくりと部屋全体に立ち込め、青い瞳を通してみた校長はその靄に包まれている。


「しかも最近ではここで昼寝をすると悪夢に魘されるし、ちょっと前からは肩こりがひどくて昨日も針を打ったんですけど、学校に来ると効かなくなって……」

 二人が部屋を確認して妙な気配を漂わせるお札に溜息を洩らす間も、校長は独り語りを続けており、そんな男性から伸びてくる靄を軽く振った手で打ち払ったユウヒは、その靄が立ち込める校長の両肩に目を向けた後、コンの顔を何とも言えない表情で見上げた。


「……絶対あれだろ、元々は瘴気を封じ込める札のようだが、あれは吸い込み過ぎて劣化したか壊れたか、溜まった瘴気を吐き出し続けているぞ」

 見上げてくるユウヒの視線に気が付いたコンは大きく脱力した様に頷くと、神棚の隣に飾られたお札は劣化して本来の機能が反転していると説明し、ユウヒは納得した様に右目を強く輝かせながらお札に目を向ける。


「とりあえずそこにある神棚横の札はこちらで回収して処理しますね?」


「!? ……もしかして」

 視界を埋める様に現れる文字列を制御しながら、見詰める先にあるお札の詳細を読み解くユウヒは、早々にどうにかした方が良いと言う結論に至り、まだ独り語りを続ける校長に声をかけた。その声に導かれるように顔を上げた校長は、脂肪で丸く見える体を慌てて捻るとユウヒの指さす先にあるお札を確認し、ゆっくりとユウヒに振り返りどこか絶望感を感じる顔でぼそりと呟く。


「逆効果ですね」

 小さく短い呟きであったが、蒼い顔の校長が何を言いたいのか聞きたいのか察したユウヒはしっかり頷くと事実を伝える。


「た、高かったのに……」

 ユウヒの言葉に項垂れる校長曰く、そのお札は結構なお値段がした逸品であるらしく、チラチラとお札に目を向けては確認するようにユウヒを見詰める彼は、苦笑を向けられると諦めた様に再度肩を落とし頷く。


「効果は正しかったかもしれませんが劣化してます」


「確かに、江戸時代の物とか言っていたような?」

 一応フォローしておいた方が良いかもしれないと思ったユウヒは、右目で読み取った内容を咀嚼しながらお札の状態を伝える。元々神棚の隣に飾られているお札は、周囲の瘴気を吸い取り封じるお札であるため、校長の目利きが悪かったわけではない。惜しむらくはお札の耐用年数に関しての知識の欠如だったようだ。


「文体だけなら平安の流れだな、こんな古いものが良く残っていたものだ」

 さらに言うならば、男性にお札を売った人間の知識も足りなかったようで、コンの呟く内容の通りであれば、それこそ国宝や博物館行きになってもおかしくない品である。


「吸引と活性化だけしてあげるかそれとも……」

 そんな値段の付けられないような品物を、危ないからと廃棄してしまうのも忍びないと言った表情で頭を掻くユウヒは、校長がそっと壁から取り外し持ってくるお札を見詰めながら眉を顰めると、何とかなりそうな範囲で修繕しようと小さく呟く。


「直せるのか? あの種類は流石に私にも無理だと言うのに」

 小さな呟きだったため校長の耳には入っていないのか、神妙な表情で札を手に持ち戻って来るその姿にコンは何とも言えない生暖かな視線を向けると、真剣な表情を浮かべているユウヒに直せるのか問いかける。


「どうだろ、今回はそんな暇ないから封印して持って帰って、それから詳しく視てみるかな?」

 テーブルにそっと置かれたのは、綺麗な和紙に包まれた板のお札。歴史の刻まれた板を見詰めるユウヒは、隣から覗き込んでくるコンにどうするのか答えると、バッグの中から大きめのハンカチを取り出し手のひらサイズの水晶柱と共に包み込む。


「あ、あの……先ほどから気になっていたのですが、何か居るのでしょうか」


「あ」

 どうやら持って帰って調べる様だが、その言葉に希望を見出す校長はすぐに顔を蒼くする。どうやらユウヒと自分以外に何かいることを察したらしく、ついついいつもと変わらず話していたユウヒは思わず声を洩らし、その反応に校長の顔一面に冷や汗が吹き出す。


「む、そう言えば姿を隠していたな……どうする」


「そのままでいんじゃないか?」

 考え事をしていたが故に普通の人には見えないコンと何気なく会話していたユウヒは、左目の弊害とも言える状況に頬を掻くと、硬直したまま動かない校長と大きな狐の顔を見比べながら肩を竦め、その姿に校長は必死に虚空に目を向けている。


「……」


「唯の御狐様なので気にしないでください。ちょっと手伝ってもらってるんですよ」


「お、おきつね……さま」

 何も見つけられずに彷徨わせていた視線をゆっくりユウヒの目に合わせた校長は、無言で説明を求め、その視線から電話か何かであると言ってほしいと言う意思を感じながらも、誤魔化したところで結果は変わらなそうだとユウヒは事実を伝え始めた。明るい調子で話すユウヒの雰囲気に助けられたからか、将又妖怪やお化けではなくお狐様と言う部分がよかったのかすこし落ち着きを見せる校長。


「女神様からばつ……色々手伝う様に派遣してもらったんです。悪い子じゃないので身構えなくていいですよ?」


「おお! それは素晴らしい! 何か元気になってきた気がします」

 遠くからセミの鳴き声が聞こえるだけの静かな室内に、唾を飲み込む音が妙に大きく聞こえる中、ユウヒは若干言葉を濁しながらお狐様について語る。その言葉を反芻してゆっくりと理解した校長は、一転して目を輝かせると勢いよく立ち上がって腹を揺らしながら歓喜の声を上げた。どうやら神様=救いと言う方程式が彼の頭の中で成り立っている様だ。


「大丈夫かこいつ? それより別に気にしなくていいからな? 実際バカやったわけだし……」

 それは彼の中でユウヒを救世主たらしめる要素にほかならず、突然表情を変え天に祈る姿をキナ臭げに見下ろす狐は、校長の姿を視界から外すとユウヒに向かって気を使わなくていいと話す。


「それでは少し調査させてもらいますね」


「ええ! その入館証があればどこに入っていただいても構いません。あぁっとでも更衣室やトイレには使用中入ったりしないでください。問題になると面倒なので……」


「ははは、一応立ち入り禁止にしてらっしゃる場所を先に見ていきますから」

 コンのしかめ面に苦笑を洩らすユウヒは、バッグにお札を仕舞い立ち上がると、瘴気が薄れていく室内で幾分血色と艶の良くなった頭を輝かせる校長に一声かけて歩き出す。元気よく見送る校長の言葉に思わず困った表情で振り返ったユウヒは、事前に聞いていた怪談騒ぎで閉鎖された場所から調べていくと告げて出入り口のドアを引く。


「手が空きましたら手伝いに伺いますので!」


「どいつもこいつも怖がってそうだから期待は出来んなぁ……」

 丈夫そうな校長室のドアを開き廊下へと出るユウヒの視界の端には、部屋の中央辺りから動こうとしない引き攣った笑みの校長が見え、そんな彼の姿に呆れた様にため息を洩らすコンは、助っ人や応援は見込めないと洩らしドアからするりと廊下に抜ける。


「類は友を呼ぶのかな」

 廊下に出たユウヒはコンに肩を竦めて見せ、職員室の窓の向こうからこちらを伺う教師たちの視線を感知すると、同意するように呟き目的の場所へと歩き出すのであった。





 一方、授業中と言う事もありユウヒが大狐を伴い足音立てずにゆっくり目的地へと向かっている頃、暗く淀んだ空気に満たされた一画でじわりと蠢く影が赤い口を開く。


「この気配は……まさか」


「どうやら、奴らもこちらに出て来ている様だな」

 心底いやそうな口調でしゃべりだした赤い口に反応した蠢く影は、身動ぎするかのように揺れると何者かの接近に憂うような声色で呟き溜息を洩らす。


「よくこの瘴気の中を出て来られたわね」


「我々も出てこれたのは偶然だがな」

 そんな二人の会話を見下ろしていた瞳はその声から女性だと思われ、少し呆れたような感心したような声色で呟くと、ひらひらと何かを揺らしながら長い足を組み替える。どうやら彼らも異世界からやってきている様だがその経緯は偶然であるらしい。


「ここで邪魔されても困るぞ、どうする?」


「どうすると言うが、排除できるか?」

 蠢く影は身動ぎすると邪魔されてはかなわないと居ながら赤い口に問いかけ、問いかけられた赤い口は真一文字に口を噤んだかと思うとすぐに闇に浮かぶ瞳に水を向ける。


「腐っても神に連なる者達よ? 大人しく隠れていた方が良いのではない?」

 そんな二人の姿を見下ろす瞳の女性は、心底呆れた調子で話しながら目を細め、相手は神に連なる者だと話しながら大人しく隠れていた方が良いと忠告した。


「簡単に言うが、異界渡りも出来ない身でどう隠れろというのだ」


「それにこちらは無駄に大所帯だ、隠れると言ってもそう簡単ではないぞ」

 隠れていた方が良い言う言葉に賛同したい気配を漂わせる口と影は、しかしそれが出来れば苦労しないとばかりに大きく体を動かすと三人だけではなく大所帯であると告げ、その言葉に闇の奥が小さくざわめく様にうねる。うねる闇の中からは赤い瞳がいくつも現れその数の多さに蠢く影が大所帯と言う理由がわかる。


「連れて来るならもっと役に立つ奴を連れてくればよかったでしょうに……」

 闇の中でざわめく影のうねりはどこか申し訳なさそうに口と蠢く影を見詰め、逆に闇に浮かぶ瞳に対しては攻撃的な気配を漂わせる……が、闇に浮かび瞳が目を細め睨みつけるとざわめいていた赤い目の集団はピタリと動きを止め、息をひそめる様にその赤い瞳を閉じていく。


「我らがここに追いやられたのも、元は此奴らが余計な事をした尻ぬぐいだからな、仕方あるまい」

 息をひそめ動きを止めたざわめきに対してため息を吐く闇に浮かぶ瞳、彼女を見上げた口はジト目を正面から受け止めながら仕方ない事だと言う。どうやら彼らがここに居る理由はざわめく影が仕出かした何かが原因のようで、この場に居続ける事は彼らの本意では無い様だ。


「なんであんなことしたのかしらねー?」

 そんなざわめく影が何をしたのか、責めるような声で問い質す闇に浮かぶ瞳に、影の奥でちらほら赤い瞳が開かれるも、圧力を感じる視線にさらされるとすぐにまた閉じてしまう。ざわめく影を睨めばにらんだところが瞳を閉じ、またじわじわと開く赤い瞳を睨めばすぐに閉じてしまい、その動きに喜色の笑みを浮かべる闇に浮かぶ瞳。


『…………』


「だんまりか、まぁ予想は出来るがな」

 綺麗な黒と白の瞳の姿に呆れたような蠢きを見せる蠢く影は、何も話さない赤い瞳の集団に目を向けると少し怒気を感じる溜息を洩らしながら呟き、しかし彼らが話さない内容は想像できると言う。


「弱いくせに野心だけはあるのよねぇ」


『……』


 それはこの場にいる三人ともに理解している事であり、赤い口も不満そうに口をきつく閉じると闇に浮かぶ瞳に対して同意する様に頷いて見せる。


 真っ暗な闇の中で何者かが話し合う中、彼らの元に足音が近づく。彼らにとってまるで死神の足音の様に聞こえるそれはゆっくりとしたテンポで響いてざわめく闇に緊張を走らせ、その緊張は次第に大きくきつく引き絞られていくのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 高校の次は中学校なのかと呆れながらも、その学校の校長室から面倒事の匂いを感じたユウヒは、いつもの覇気を感じない表情と軽い足取りで立ち入り禁止区画に足を踏み入れる。その飄々とした姿が逆に頼もしく見える背中を見送った教師たちは、何を目撃することになるのであろうか……。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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