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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百四十六話 人ならざる者の趣向

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『人ならざる者の趣向』


 心配そうな流華の訪問に合わせて明華もユウヒの部屋に突入し、口を開く前に有無を言わさず室外退去処分を下された翌日、朝早くから起きて家を出た彼の姿は、まだ学生の姿が少ない高校の門前にあった。


「あれ? だいぶ早いと思ったんだがな。おはよう、今日も蒸し暑い朝だな」

 まだ開けられたばかり正門が道路の向こうに見える木下には、見上げるほど大きな狐がその体格に似合わない雰囲気を纏ってちょこんとお座りしている。そんな狐の姿を確認したユウヒは、そっと大きな影に入って狐に声をかけた。


「む……おまえは早すぎだ。私もつい先ほど来たところだと言うのになぜもう居る」


「そうなのか? まぁでもそれはそれで丁度良かったのかな? お互い待つ必要が無かったわけだしな」

 そっと気配を消して近づき、突然声をかけて来たユウヒにびっくりしたらしい狐は、ふさふさの尾を少し膨らませると気難しそうな表情を浮かべながらユウヒを見下ろす。


「よくない、瘴気が晴れて近辺なら見られている可能性がるんだぞ? お前を少しでも待たせていたらまた怒られるところだ。私の苦労を何だと思っている」


「苦労って、そんなに気にしなくていいのに……」

 尾を揺らし膨らんだ毛を戻す狐がずいぶん早く来ていた理由は、単純の上司から怒られるからのようで、ユウヒの見ていた限り怒られていないはずの狐が、またと言う言葉を付け加えた辺り、ユウヒと別れたあとげんなりした表情を浮かべる程度には怒られたようだ。その証拠に、表情を戻してユウヒにジト目を向ける顔は、それでもずいぶんやつれている様に見える。


「お前は、もう少し自己認識を改めた方が良いのではないか?」

 不思議そうに小首を傾げるユウヒを恨めしそうに見つめる狐は、言外に自分の持つ影響力の大きさを認識しろと言い、しかし言われた当の本人は全く理解していない様子で眉を寄せて見せた。


「改めろと言われてもな? 何をどう改めるのやら、まぁいいや道案内よろしく」


「まったく、ただでさえ神に近い立場であろうに、なぜこうも……はぁ」

 純粋に理解の及んでいないユウヒに悪態混じりの溜息を洩らす狐は、眉を歪めて見上げてくる顔に対して多分に呆れを含んだ視線を向ける。ユウヒの自己評価が極めて低い理由は、小さなころから傭兵団とその関係者と言う異常に優秀な大人たちに囲まれて来たことが大きな理由なのだが、そんなこと知らない狐にとっては、わざと惚けてやっているようにも見えて、思わず愚痴と溜息が口から零れ出てしまう。


「神様ねぇ? まぁ最近は近しくなってしまったけど俺自身は昔と変わらず普通の人間だぞ?」

 そんな狐の呟きが聞こえたユウヒは、呟き声の発生源を見て問いかけるも、返ってきたのは無言の狐が首を大きく横に振る姿だけであった。





 早朝の高校正門前で一人と一匹が無言の攻防を行いながらも、目的の場所へと移動する為に歩き始めている頃、こちらも早朝から活動させられている三人の忍者。


「なるほど神様について、でござるか?」

 いつもならまだ眠そうにしている彼等であるが、自衛隊の偉い人に呼ばれたらしく無理やり目を覚まし、机を挟んだ先に居る人物からの問いかけに首を傾げている。代表して声を発したゴエンモの言葉から、何やら神様について質問されたようだ。


「ああ、少し気になる話があってな。それで戦って勝てるか? どのくらいの支援が必要になるだろうか」


「……馬鹿か? 無理に決まってるだろ。まったく、ゲームでもあるまいに」


「ば!?」

 手の指を絡める様に組んで肘を机に突きながら、忍者達を見据える男性自衛官から神と戦って勝てるか問われた忍者達は一瞬動きを止めて瞬きをしたかと思うと、ジライダが代表して無理だと答える。その小馬鹿にしたような口調はとてもお偉いさんに向けて使う類のものではなく、すぐに男性自衛官の後ろに立っていた若い自衛隊員がいきり立つ。


「あぁいいって、君らは以前にも神を殺したと聞いてるのだが? 一度達成できたことなら出来るのではないかな?」

 牙をむき出す犬の様な気迫もどこ吹く風と言った様子の忍者達に目を細める男性自衛官は、後ろに立つ部下に手を振って抑える様に伝えると、以前にも神を殺したと言う情報が上がっていると、再度忍者達に問いかける。


「も、毛根は死んでない! おれの毛はまだ現役DA!」

「いやそっちじゃないでござろう」

「そのフェイク情報は誰から聞いたんだ?」


 約一名ほど頭を押さえながら妙なところに過剰反応するも、忍者達の表情は総じて非常に訝しげなものであった。彼らも正当に評価されたならば照れたり誇ったり、殴りたくなるようなドヤ顔を浮かべるところであるが、まったく身に覚えのない過剰な評価を受ければ、何か裏がありそうで警戒の方が先に来る様だ。


「以前ドーム内での協力活動で殺したと聞いたのだが」


「討伐依頼に神なんかいたか? 我は聞いておらんぞ?」

「流石にそんなのいなかっただろ、ゴエンモ何か覚えてるか?」

「そうでござるなぁ?」


 神と言う言葉で彼らが思い浮かべるのは、仏様やキリストやアマテラス、などではなく実際に会ったシルエット詐欺の神やアミール、またその上司などと言った面々である。そんな彼らの姿や力を間近で見てその脅威をよく理解している彼らは、地球に戻ってからそんな恐ろしい相手に会ったことはないと互いに首を傾げ合う。


「邪神だとか竜神だとか、向こうの国で倒し表彰もされた聞いているのだが」


「あ、あぁ……なるほどな」

「知っているのからい「そう言うのは良いでござる」……最後まで言わせろよな」


 しかし、続けて男性自衛官の口から出て来た名称を聞いたジライダは納得した様に、それでいて呆れた様に頷き、ヒゾウも理解した様だが敢えてボケようとしてゴエンモに止められる。


「何か思い当たる節が?」

 ヒゾウが敢えてボケに走ると言う事は、邪神や竜神と言った名前の相手は大して真面目に話すほどの相手ではなかったと言う事か、問いかける男性自衛官の後ろで不機嫌そうに顔を顰める自衛隊員の視線を受けながら、忍者達は困った様に肩を竦め合う。


「それは多分ご当地なんちゃって神様でござる。魔物とか動物とかそう言うのが強くなりすぎて神聖視された類でござるよ」


「なるほど、それは神ではないと?」

 どうやら自衛隊内部で忍者が倒したと言われている神は、正しくは神様と言う種族なのではなく、現地人があまりに畏れた結果として神と呼ばれていただけで、実際は魔物や動物の延長線上でしかなく、それらを倒したゴエンモは男性自衛官の質問に無言でうなずく。


「ヴィンテージ感が足りないんじゃね?」


「ん?」


「亜神と言った方が良いでござろうか、確かに人にとって脅威となる存在でござるが、神と比べると種族や生物としてのステージがまったく違うでござるよ。ガチで神様とか言う存在だと、例えば指先一つで国が消し飛んだりするでござるからな」

 なんと表現したらいいか悩んだヒゾウの言葉を聞いて眉を上げた自衛官に、ゴエンモは眉を寄せながら説明する。魔物が魔力や何かの突然変異で強大な力を手に入れ神と呼ばれることは、異世界で良くある話であるが、それが実際に神としての力を振るうには長い道のりが必要で、中には神に至った者もいようが少なくとも忍者達三人が討伐した魔物はそれに該当しない。


「……」


「少なくとも、おれらが見た神様は笑いながら小惑星規模の要塞を嬲る様に消し飛ばしてたから、勝てるとか思う時点でもう……へそで茶が沸かせるってもんだわな」

 ただ、ゴエンモとジライダの神様観も若干偏っており、その基準となっているのが乙女と呼ばれた神すら恐れる存在なのが原因である。それほど彼らにとって異世界で見た神同士の戦いは恐ろしく一方的であり、強く彼らの心に残っているのも致し方ない。と言っても彼らの認識も強ち間違いではなく、いつもニコニコしていて蟻も殺せないほど温和に見える女神アミールでも、指先一つで一国程度更地に出来てしまうのが管理神である。


「そうか、我々の想像は浅はかだったか……」

 よって、忍者達の説明に頭を抱えた自衛官の認識は間違いではなく、危機回避と言う意味ではジライダの注意喚起はファインプレイと言えた。


「まぁピンキリでござろうが、何かあったのでござるか? 戦えと言われても嫌でござるが」

 しかし何故急に神様についての話が出たのか、また面倒な仕事を寄こされてもたまらないと思いつつも、仕事なら行かざるを得ないのだろうと半分諦め気味に拒絶の意思を示すゴエンモ。ジライダとヒゾウもめんどくさげに目を細めながらお偉いさんの表情を窺う。


「……君たちの友人が日本の神と接触したそうだ。危険なようであれば君らの友人を排除する必要があると言う者達が出て来てな」


『……』


 しかし彼の口から飛び出したのは、忍者達の予想の斜め上を第二宇宙速度で飛んでいくような内容で、そのあまりの内容に三人は思わず目を点にして固まった。


「友人と言う事もあってあまり伝える気はしなかったが、最悪の場合は彼を「ばかだろ」む?」

 呆けて固まる忍者達の姿に、やはり友人を手に掛ける様な話をするべきではなかったと顔を歪めた男性自衛官、しかし彼の言葉を遮ったのは怒りや悲しみと言った感情の籠った言葉ではなく、心底呆れたような乾いた声、その声を発したジライダは呆れて肩をこれでもかと落としている。


「そういうのはユウヒに任せとけよ大丈夫だから」

「ユウヒ殿を排除とか、神様とどっこいでござる。地雷どころの話じゃないでござろう……」


 思わぬ反応で反対に自衛官の男性とその部下の方が呆ける中、ヒゾウは肩を回しながら体を起こして椅子に背中を預けると、手をぶらぶらして見せてユウヒに任せろと言い、ゴエンモはげんなりした表情で無理だと言いたげな表情でユウヒを地雷扱いしだす。


「誰だそんな事言い始めた馬鹿? そんなことになったら我はすぐにユウヒに付くぞ」


「何を根拠に」

 ジライダに至っては落としていた肩を戻しながら平気で自衛隊を裏切ると言い出す始末。彼らの豹変ぶりに少し驚く男性自衛官は、部下が怒りに任せて動く前にその体を手で制して問いかける。


「ユウヒは神様の知り合いかなり多いぞ?」

「ガチで人の友人より多いんじゃね?」

「だからそうやって地雷を踏むなでござる」


 彼の問いかけに三人は視線を合わせ合うと各々話し始めた。アミール・トラペットと言う神と出会ってから、ユウヒは神さの知り合いが一気に増え、その数は地球にいる友人の数とそれほど変わらないほどである。さらりと地雷を踏んでいくヒゾウであるが、強ち間違ってないのでバレた時の報復は熾烈であろう。


「それはこちらに牙を剥くと言う事かな?」

 そんなどうでもいい未来の話は良いとして、彼らの言葉に押し黙る上官に目を向けた若い自衛隊員は、万が一排除に出ればユウヒが神を伴い報復に出るのかと、怒りと恐れの感情で声を僅かに振るわせ問いかける。


「いやいや、ユウヒは神様と仲良くなれるスキル持ちだから任せとけよ」

「ユウヒ殿は我々より善良でござるからな」


 指一つで滅びを与えるような存在が大挙してやってくれば勝ち目などなく、恐怖を感じる暇もないのではないかと、今のうちから震えだしそうな自衛隊員に、ジライダは違うと言った表情で肩を竦めると万事ユウヒに任せてしまえと言い、ゴエンモは笑みを浮かべながらユウヒは善良だとため息を漏らす。


「あぁ言う不思議生き物は人よりずっと精神性を重要視するもんだ。それが好むって事はそう言うことだろ? あまり変に疑ってやんなよ、そういう考えは敵を作るだけだぜ?」


「……」

 なんだかんだと言って忍者と言う概念によって強化された彼らは、物事の本質をよく見ている。神と言う存在が人のどういう部分を重視しているのか、そしてユウヒのどこを気に入り近づくのか、彼ら曰く不思議生物である神の本質を少しでも見抜いていれば、余計な手出しを控えるのは彼らにとって当然と言った様子だ。


「それじゃ話は異常と言う事で」

「お疲れ様でしたー」


 もしユウヒに日本の政府が危害を加えて排除したとしても、ユウヒ自身は負の感情で簡単に動いたりはしない。そう信じている忍者達は、今までの話を全てがどうでもよい話であったかのように立ち上がると、妙なイントネーションで話の終了を告げて会議室を退出する。


 後に残った二人の男たちは、対照的な表情を浮かべながらしばらくその場を動くことが無かった。


「怪しい奴でござるな」

「しらべとくか」

「時間外労働だぞまったく」


 一方で、会議室を早々に退出してダラダラ歩いて帰る三人の黒頭巾は、真っ黒な頭巾の奥で真っ黒な笑みを浮かべながら先ほどの二人について話し合い、出ていく時に感じた違和感について調べることにしたようだ。ただ、何が楽しいのか小さく嗤い続ける三人は、道すがらずっと周囲の人間に恐怖を与えることになる。





 そんな忍者達が自衛隊施設で謎の恐怖を振りまいている頃、狐と共に妖怪や妖魔の世界とつながる場所へと向かうユウヒは、突然立ち止まったかと思うと一点を見詰め訝し気な表情を浮かべていた。


「……」


「どうした? 疲れたか? 休憩するか?」

 無言で立ち尽くすユウヒに気が付いた狐は、先導していた足を止めるとしなやかに体を振り向かせユウヒの顔を覗き込む。待ち合わせした高校からずいぶん歩いて来た二人は、その間一度も休憩を挟んでおらず、突然立ち止まったユウヒが疲れてしまったのかと狐は少しだけ心配そうに尾を揺らす。


「大丈夫だ問題ない……ただ」


「ん?」

 受姫からどう怒られたのか妙にユウヒを気にする狐は、彼の隣にちょこんと座ると、無駄に凛々しく引き締められた顔で振り向き問題ないと言うユウヒに目を見開き、またどこかを見詰めながら小さな声で呟くユウヒに首を傾げる。


「忍者に何かお礼・・をしないといけない気がしただけだよ……」

 しばし空とも住宅とも分らぬ境界を見詰めていたユウヒは、狐から見えない表情を暗く歪ませると忍者にお礼をしないといけないと言う。どうやら忍者達から漏れ出る何かを受信したらしく、風の精霊の頭を徐に撫でるユウヒはすぐにその表情を苦笑に変えていた。


「忍者とな、まだ生き残っておるのか」


「コンの考えているのとはだいぶ違うと思うけどな」


「?」

 一方、大狐こと『コン』は忍者と言う名称に目を見開くと楽しそうな声を洩らす。どうやらコンは忍者を見たことがあるらしく、それが現代にも根付いていることに関心を示した様で、なんとも感慨深げな表情を浮かべるもその顔を見上げたユウヒは苦笑を浮かべたまま肩を竦める。きっとこの大狐の中の忍者と三人の忍者とでは色々と違うところが多いであろう。


 そんな両者が出会った時どんな展開になるのか、少し楽しみになったユウヒは笑みを浮かべ先に進むべく、まつ毛が長く綺麗な目をした狐と一緒に足を前に出すのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ユウヒの行動を問題視する者が一定数居て、それらがキナ臭い動きをする中で彼は新たな問題に向かう。果たして彼は何を見るのか、そして忍者は何をやらかすのか、楽しんで貰えたら幸いです。


 読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、また会いましょうさようならー

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