第二十三話 異なる世界の樹精霊事情 前編
どうもHekutoです。
加筆減筆修正そのたもろもろ終わりましたので、投稿させて頂きます。気が付くとやっぱり文字数が増えてしまうと言う症状の為、前後編となっておりますが、気にせず楽しんで頂ければ幸いです。
『異なる世界の樹精霊事情 前編』
名も無き異世界の森に夜の帳が落ち、光の下で生を謳歌していた生き物たちが息を潜め、夜の住人が動き出し始める頃、ユウヒは世界樹の足元に到着していた。
「はぁ・・・根元が石造りとは思わなかったが、でかいなぁ」
しかし彼の周囲には、今現在植物らしい影は一切存在せず、あるのは規則正しく積まれた石畳と石の壁に圧迫感を感じさせない高い石の天井である。
「ここは元々古代遺跡の一部なのですよ」
「遺跡?」
天井を見上げその高さと広さに感嘆の声を洩らし、さらにこの建造物の上に世界樹が根を張っていることを思い出したユウヒは、興味深げに周囲に目を凝らす。どうやらこの建造物は遺跡らしく、一人だけになった案内である男性エルフの言葉に視線を戻したユウヒは、興味深げに聞き返す。
「我々エルフは本来森の外に国があったのですが、度重なる戦争の結果、今は昔ながらの森暮らしと言うわけです」
この世界のエルフ達はその昔、繁栄と共に住み慣れた森を捨て世界中にその居住範囲を広げていった。しかしこの世界の住民はエルフだけではなく、大きく分けて繁殖能力が高く環境適応能力の高い基人族、魔法を使うことに長けた魔族、種族の特性がそれぞれに大きく異なる亜人族に、野生の動物の特徴を持つ獣人族など、様々な種族が存在している。
「基人族と戦争して負けちゃったのにゃ。ここは大昔にエルフ達の国があった場所なのにゃ」
その中でも基人族と、亜人族の一種とされるエルフは、その繁栄と拡大の早い段階で衝突をはじめ、小さな争いは時間と共に大きく根深いものへと変わっていく。その結果は、ネムがユウヒを見上げて話すように、エルフの国の敗北と言う形で終わり、今では基人族の住むことが出来ない森の奥、遠い昔から存在していたエルフの里でひっそりと暮らしているのだった。
「簡単に言うとそうなりますな、ははは」
「あ、ごめんなさいにゃ」
過去の事とは言え、他人の口から改めて聞かされた事実に、男性エルフ何とも言えない表情で乾いた笑いを洩らし、男性エルフの表情に小さく声を洩らしたネムは、申し訳なさそうに耳を伏せると、同じく申し訳なさそうな表情で頭を下げる。
「いえ、本当の事です」
「・・・なるほどね、昔もここに住んでいたのか」
頭を下げるネムに苦笑を洩らす男性エルフの目が、少しさびしげな事に気が付いたユウヒだが、あまり根掘り葉掘り聞くのも悪いかと口を紡ぐと、歩を進めながらも時折感じる人の気配や精霊の陰に目を向けながら、石造りの建造物を興味深げに観察していく。
「外に国があった頃は聖地として巡礼の場所だったのですよ」
「ほう、聖地巡礼ですか・・・」
ユウヒは、まだ小さな頃に父親に連れられて様々な国を見て回ったことで、その国の特色が出る遺跡というものに割りと興味があった。そんな経験もあり、この場所が聖地だったと言う話を聞いてさらに興味をひかれたのか、周囲を見回す視線にも思わず力が籠る。
それから十数分後、蒼と金の瞳に魔力を巡らせるユウヒと、そのすぐ後ろを静かな足音を響かせ歩くネムは、エルフの男性の案内により石造りの扉が少しだけ開かれた場所へと到着していた。
「着きました。奥でグランシャがお待ちしておりますので、後は全てグランシャに聞いてください」
どうやら男性エルフの案内はここまでのようで、人一人通れるくらいに開けられた分厚い石扉の前でユウヒに道をあけると、彼は笑みを浮かべ奥を指し示す。
「一番偉いシャーマンさんだっけ?」
「そうにゃ」
少し薄暗く奥まで確認できない扉を示されたユウヒは、隣で自分と同じように扉の奥に目を凝らしていたネムに確認するように声をかけ、ユウヒの声に気が付いたネムは、開いていた瞳孔を少し縮めて彼を見上げると一つ頷き肯定する。
「お偉いさんかぁ・・・とりあえずお邪魔しますかね」
場所は変わりとある森の廃村、その中にある朽ちかけた納屋の屋根上。
「・・・ふむ、夜行性じゃねぇのかな?」
補強された屋根の上に座るクマが見つめる森の奥では、焚火の光であろうか、ゆらゆらと揺れるオレンジ色の光が森の木々から漏れだしている。しかしその光の存在とは裏腹に、昼間見かけていた小さな人影は見当たらず、いくら目を凝らしても見つける事の出来ないその存在に、クマは一人首を傾げていた。
「どうだ?」
「うぅん、暗くて詳しくはわかんね、でも動きは無いっぽいなぁと」
丁度その時、明かりを持ったパフェが納屋の前までやって来たらしく、屋根の上に居るクマへと声をかける。静かな場所だからこそ聞こえた抑えめなパフェの声にゆっくり振り返ったクマは、首を傾げながら曖昧に返答し、またすぐに視線を廃村の外に向けた。
「そうか」
「そっちは寝った?」
今のところ問題が無いと言う事に、パフェはまだまだ始まったばかりの夜空を見上げ安心した表情を浮かべる。そんな彼女に、クマは周囲の警戒をしたままほかの女性陣について問いかけた。
「あぁ・・・リンゴまでぐっすりだ」
「株価下落待った無しだな」
現代社会の人間であればまだまだ寝る事のない時間であるが故に、クマはしっかり寝れているのか気になった様であるが、その心配は杞憂であったらしく、これまでの疲れもあり本来起きていないといけない人間までぐっすりと眠っている様だ。
「ふふ、いつもの事だな」
その事実に、クマがまたもチベットスナギツネの様な表情を浮かべると、顔は見えなくてもその口調から表情も想像できたのか、パフェは可笑しそうに小さな笑い声を洩らして肩を竦める。
「そのくせ優秀って、まぁバランスとれてんのかね」
「うちは皆一癖二癖当然だからな」
肩を竦めたパフェに対して、クマは監視を続けたまま背中を丸めるように肩を落とし、ため息交じりの何とも言えない声を零す。一方その声を聞いたパフェは、どこか嬉しそうに胸を逸らすと、輝く星々とクマの背中を瞳に映しながら誇らしそうにそう告げる。
「・・・・・・その中に巻き込まれることには不満しかないわぁ」
パフェの言葉に釈然としないものを感じた自称ごく普通の一般人であるクマは、眉間にしわを寄せると徐に振り向き、パフェに対して抗議の声を上げる。
「・・・え?」
「え?」
しかし返ってきたのは、パフェの本気で何を言っているのか分からないと言った表情と声であり、予想と違うパフェの反応とその反応が意味するところを察したクマは、驚愕に思わず小さな声を洩らすのであった。
どこかでクマが自分と他人の評価の差に愕然としている頃、世界樹の下へとやって来たユウヒは、一人の人物と対面していた。
「お待ちしておりました。母樹様のお客人」
「どうもユウヒです。えっとあなたがグランシャさんで?」
その人物は、キラキラと光を反射する金の長い髪を後ろでゆるく纏めた男性で、耳の長さとその人間離れした美しさからすぐにエルフであることをユウヒに理解させ、さらにその立ち居振る舞いから彼が例のグランシャと言われる人物だと予想させる。
「はい、この地でグランシャを務めさせていただいているリーヴェン・グランシャです。気軽にリヴとでも御呼びください」
その予想は正しかったようで、気さくな笑みを浮かべたグランシャのリーヴェン・グランシャは、胸に手を当て軽く会釈するとそう口にし再度微笑みを浮かべた。
「え、良いのかな? 偉い人をそんな風に呼んでも」
「恐れ多くて呼べないにゃ」
予想以上に気さくな対応を見せたリーヴェンの姿に、すごく偉いと聞いていたユウヒは思わずネムに目を向け問いかける。そんなユウヒの問いかけに、彼を見上げたネムは首を勢いよく横に振ると絞り出すようにそうつぶやく。
「ははは、母樹様が直々に招いた客人なのですから、畏まられてはこちらが困ってしまいますよ。それにグランシャだからと言って本来偉いわけではないのです。仕方なくエルフの代表をしている老エルフだと思ってください」
ユウヒとネムのやり取りに、元から細い目をさらに細めたリーヴェンは、軽やかな笑い声を洩らすと首を振り、ユウヒに畏まられる方が困ると苦笑を洩らすと、自分のことを老エルフと言い再度微笑みを浮かべる。
「老・・・」
「言いたいことは解るにゃ」
しかしそんなエルフの姿に、老と言う言葉はとてもじゃないが当てはまる気がしないユウヒは、その違和感に思わず眉を寄せて呟き、隣でユウヒと同じようにエルフを見上げていたネムも似た様な表情でそう呟くのだった。
「では、私が母樹様との仲介をいたしますので、どうぞこちらに」
「ん? あ、はい」
胡散臭そうな表情を浮かべていた二人に首をかしげて見せたリーヴェンは、気を取り直すと身なりを整え、奥にあるよく磨かれた木戸の奥へと二人を先導する。その際に仲介という言葉に首をかしげたユウヒであったが、リーヴェンが先に進んだことで考えるのをやめて後をついていく。
「母樹様、お客人がお見えになりました」
木戸の奥は、それまでのたいまつや魔法の光と違い白く明瞭な光で満たされており、急激に明るくなったことで思わず目を細めるユウヒと、その隣で両目を華奢な手で覆うネム。
「緊張しすぎて眠いにゃ」
「なんだそりゃ」
しかし両目を目で覆っていたネムは眩しかったわけではなく、どうやら眠気が原因であったようだ。彼女は猫が顔を洗うように丸めた手で目をこすると、眠たそうな声で小さくつぶやき、そんなネムの声にユウヒ思わず突っ込みを入れて苦笑する。
「良くおいで下さいました。古の大海の如き魔力を持ちし御方」
リーヴェンについて行きユウヒ達が立ち止ったのは、祭壇のように一段高くなった場所の前、そこで立ち止ったリーヴェンがユウヒ達に振り返ると、すぐに祭壇の奥から森を流れる小川の音のように涼やかな声がユウヒの耳へと届いた。
「お言葉を「あれ? そんなに魔力洩れてたかな?」え? まさかお声が聞こえるのですか!?」
その声の主が言葉を切ると、リーヴェンはユウヒに目を向け恭しく話し始めるが、その声にかぶせるように、きょとんとした表情のユウヒは首をかしげながら声を洩らした。どうやらこの声の主は精霊であるらしく、その声を聴くことが出来るのは、ワールズダストと同じく限られた者だけのようだ。
「あ、そういえばユウヒもシャーマンだったのにゃ。ごめんなさい言ってなかったにゃ」
ユウヒの隣できょろきょろとせわしなく周囲に視線をさまよわせていたネムは、二人のやり取りにはっとした表情をリーヴェンに向けると、そう言って申し訳なさそうに頭を下げる。
「なんと!」
「シャーマンじゃないんだけどなぁ」
頭を下げるネムの言葉に驚いた声を上げたリーヴェンは、細目を大きく見開きユウヒを見詰め、その視線にユウヒは困ったように眉を寄せて頭を掻くと祭壇を、より正確に言うならばこの場に存在する四人目の人物に目を向けた。
「そちらの若草色の綺麗な髪の女性が、えっとぼじゅ様で合ってますか?」
「御姿まで!?」
ユウヒの視線の先には、若草色の柔らかそうな髪を膝のあたりまでの伸ばした、優しげな目元が印象的な女性が立っており、ユウヒの確認の言葉にリーヴェンはさらに目を見開く。
「まぁ、まぁまぁまぁ! あぁ何というお導き、何という幸運、まさか私を見る事が出来るお方だったなんて!」
そんなリーヴェン以上に驚き、そして歓喜の声を上げたのは、世界樹の精霊である母樹であった。ゆっくりとした調子で驚きの声を洩らした彼女は、加速度的にその感情を発露させ、満面の笑みを浮かべるとまるでふわりと飛ぶように祭壇から降りてユウヒに駆け寄り、彼の両手をとると胸の前で祈るようにその両手を包み込む。
「お、おう? 何事?」
急に両手を取られ、さらに胸の前で包み込むように握られたユウヒは、急な展開に頭がついて行かず、目を白黒させながら握られた自分の手と目の前で瞳を潤ませ微笑む母樹を見比べる。
「うにゃ?」
一方、母樹の声も聞こえなければ姿も見えないネムは、急に両手を上げ目を白黒させるユウヒの姿に首を傾げ、さらにその隣で細目を全開に広げるリーヴェンを珍しげな表情で見上げていた。
「なんということでしょうか。本来精霊は清らかなエルフにしか見えないと言うのに、精霊とこれほど親和性が高いとは、ユウヒ殿は心の底から清らかなのですね」
驚きで固まっていたリーヴェンは、ネムの視線に気が付くとその目をいつもの細目に戻し、自分の心を落ち着けるように、しかし興奮が冷めない口調で今の状況をネムにも分かるように話し始め、その説明にネムはわかっているのかわかっていないのか、表情を変えることなくなるほどと頷いて見せる。
「いや、清らかとかそういうのじゃなくて、俺の目が精霊に悪戯されてだな」
目の前から、左から、ついでに右下方からと妙にキラキラした目を向けられるユウヒは、居心地の悪さを感じ表情を引きつらせると、精霊が見える理由を話し始めたのだが・・・。
「まさか・・・これは、精霊の眼を授かっているのですか!?」
「なんと!?」
「にゃぅ?」
それよりも早くユウヒの左目に気が付いた母樹は、ユウヒの両肩をつかんで彼の左目を覗き込むと、ユウヒのまさに目と鼻の先で驚きの声を上げる。その声にリーヴェンは再度目を見開き、その見開いた目にネムは首を傾げた。
「この目の色と波長は水の・・・! まだ、まだ水の大精霊様はご存命なのですか!?」
「おち、おちついて!? ちかいちかい! あたっちゃってるから!?」
ネムに見えない世界では、ユウヒと母樹がほぼ密着した状態であり、傍から見ればいつキスをしてもおかしくない距離感であった。その距離感に顔を赤くしたユウヒに、必死な表情で問いかける母樹、そしてその姿に興奮したように白い肌を赤くするリーヴェン。
「な、何が起きてるかさっぱりにゃ」
目の前で展開される混沌とした状況に、精霊が見えないネムは眉を寄せて首を傾げると、一人疎外感を感じたように小さくぼやくのであった。
いかがでしたでしょうか?
前回の世界同様、何かと精霊に好かれる体質は変わらないユウヒは、今回も精霊の事情で振り回されそうですね。そんな振り回され気味なユウヒの今後をお楽しみに!
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




