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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百三十七話 狙われたお茶会

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『狙われたお茶会』


 広く平らな甲板を撫でる様に走り抜ける風に、ジュオ族の姫巫女が目を細め両の翼を小さく広げ涼を得るテントの下、びくびくと震える妖精とユウヒの見つめ合いに周囲に僅かな笑みが生まれていた。


「そんなにびくびくしなくても、もう怒ってないって」


「ほんと?」


「裏切りか……」

 怒っていないと妖精に語り掛け手を彼女たちに伸ばすユウヒと、心を開きかけた野生動物の様にびくびくとその手に近付くマルーンと、その背にしがみ付き不安そうな表情を浮かべるアーフ。妙な緊張感が走るやり取りを周囲が見守る中、ユウヒの雰囲気に冗談とは違う雰囲気を感じたメーフェイルは、自らもその言葉に思う所があるのか少し寂しそうな表情を浮かべ呟く。


「ふむ、それは好み以前の問題であろう」


「そうですね。ところでユウヒ殿」


「ん?」

 裏切ると言うのは好み以前の問題であるが、ユウヒにとって裏切りと言うものが特別許すことの出来ないものだと理解したアーデルとメーフェイルは、不穏な気配を感じさせる話題から話を逸らすためユウヒに声をかける。


「なにやら騒がしい様だが?」


「なんだろう? 何かあったのかな……」

 長机を囲んだ異なる者達による談話に集中して彼女達は気が付いていなかったようだが、話を逸らす話題を探して周囲に目を向けてみれば何やら護衛艦のあちこちで自衛官が慌ただしく走り回っていた。


「万が一核でも搭載されていたらすぐに逃げて間に合うか……」


「正確な着弾位置はまだ割り出せていませんからね……」


「逃げたところでなんとも」

 さらに護衛艦の艦長と異世界間の対話を補佐する政府の責任者が、深刻な表情で話し合いながらユウヒ達の方に歩いて来ており、かなり距離が離れ風も強い中での小声で聞こえるはずがないのだが、魔法によってその声を耳にしたユウヒは嫌な予感を感じるままに魔力を練り上げる。


「……ふむ【ワイド】【ワイド】【ワイド】対象をミサイルに限定し索敵範囲拡大【探知】反応……有り、これは良くないな」

 急に膨大な魔力を練り上げるユウヒに、巨山側の者達驚いた表情で椅子から腰を浮かし、アーフとマルーンはユウヒの指を両手で掴んだままぽかんとした表情で顔を上げ、見上げられるユウヒは範囲拡大の魔法に魔力を無理やり継ぎ込む様に重ね、毎日起きたら使う事にしている【探知】の魔法の対象を限定することで、よりその精度を上げた。


「マザー、質量弾の発射及び接近を感知しました。対処が必要性です」


「お? 直接影響範囲への着弾確立60%か、高いのか低いのか」

 そんなユウヒが異常の詳細を検知するのと、深き者達の艦が異常を検知してメーフェイルに報告するのはほぼ同時であった。深き者達はこちらに接近する質量弾を検知し、ユウヒはこの場に着弾する可能性のあるミサイルを【探知】のレーダー上に光点として、予測影響範囲を丸い円で捉える。


「ほう? 敵かの」


「そうですね。十中八九そうだと思います」

 両目に光を灯してレーダーを見続けるユウヒの視界には、様々な情報が流れて行き、その情報を読み解くユウヒは、上昇を続け弾道軌道を描こうとするミサイルの詳細から明確な敵意を確認したようだ。


「撃ち落としても構わないのだな?」


「どうなんでしょ? 毒とか核だと撃ち落としても厄介でしょうし」

 空を見上げ一瞬表情を曇らせる姫巫女は、しかしユウヒに目を向けニコリとほほ笑む。微笑む彼女と視線を交わしたユウヒは眉を寄せると、小さくため息を洩らしメーフェイルの確認に小首を傾げる。


「ふむ? なら塵も残さず消し飛ばすか」


「出来るんですか?」

 変な場所で撃ち落とすと日本に被害が出かねないと悩むユウヒに、呆れた表情を浮かべていたアーデルは塵も残さず消し飛ばせば問題ないと肩を竦め、見上げるユウヒに胸を張って頷く。


「射程は短いが出来ぬことは無いな」

 しかしその射程は短いらしく、アーデルの提案に難しい表情を浮かべるユウヒ。それならば別に自分たちが動かずとも日本の迎撃ミサイルで事足りるわけで、彼女の提案は本当の最終手段と言ってもいい。


「主砲を使うか、出来るか?」


「収束砲で間に合うかと」


「よしやれ」


「了解!」

 そんなやり取りをユウヒとアーデルがやっている背後で、短い言葉と素早い判断で現職の軍人たちが行動を開始していた。そのあまりに早い決断に目を見開くユウヒやアーデルに、メーフェイルは不思議そうに細い眉を上げた。


「えぇ……周囲に被害出ます?」


「射線に入れば蒸発するだろうが、効果範囲はこのテーブル二つ分と言ったところか」

 瞬く間に攻撃の許可を出してしまったメーフェイルに驚きと呆れの声を洩らしたユウヒは、もう止めようがないことを察すると攻撃の余波に着いて問いかけ、彼女たちの収束砲と言う兵器の精度に興味深そうな表情を浮かべる。


「夕陽さん、すぐにここから退避をお願いします!」


「お隣のミサイルですか?」


「っ! ……なぜそれを?」

 突然訪れた危機があっという間に回避されようとする中、速足で現れた政府の人間は退避を求め、護衛の人間も真剣な表情でユウヒを見詰めているのだが、すっかり気の抜けたユウヒは周囲と視線を交わすと、いつもと変わらぬ気の抜けた表情で現状について問いかけ、その問いかけに責任者も艦長も護衛の人間も驚いた表情を浮かべた。


「我々も感知している」


「まだ上がりきってないみたいですね」


「そこまで……」

 お隣と言葉を暈かしつつもどこから発射されたか理解し、現状も視界のレーダーで確認出来ているユウヒの言葉に、まだ情報を受けたばかりの艦長は驚きで声を失う。


「我らの収束砲で消し飛ばす故、射線に入らぬようにな」


「わ、分かりました」

 ゆったりとパイプ椅子に座り射線に気を付ける様伝えるメーフェイルに、護衛艦の艦長は若干土盛りながらも了承するとすぐにその場を離れどこかに連絡を入れ始める。


「いいのかなぁ」

 ユウヒは知らないのだが、実はすでに日本政府と深き者達の間では軍事的な取り決めがいくつかなされており、その一つに深き者達に対する直接的な脅威に対する対応許可があった。万が一他国が深き者達や巨山が標的となる攻撃が行われた場合、彼女たちは独自にその迎撃行って良いと言うものだ。


「……ユウヒは何か手はないのか?」

 その取り決めに則り動く彼女たちを後目に、アーデルはユウヒには何か迎撃方法の一つも無いのかと、当然の様に出来ると言う前提で問いかけ、この場に残った政府側の責任者はその言葉に苦笑する。


「んー……あ、一号さんの搭載武器に迎撃用の装備があったな」


「ほう?」

 いくら人知の及ばぬ強力な魔法を使えたとしても、戦略兵器を無効化する様な魔法があるわけがないと、漠然とした共通認識のもと苦笑を浮かべる彼らであったが、ユウヒの言葉にその苦笑は盛大に引き攣った。


「興味深い、どんなものなのだ」


「亜光速転移ミサイルと言うのが有って……おん?」

 ユウヒの魔法で弾道ミサイルを迎撃しようとすると、あらかじめ用意していないと先ず不可能、正確には出来ても周囲への被害を考えるとやらない方がマシな事になる。そんな中で迎撃可能なのは、ユウヒの魔法によって誕生した一号さん達ゴーレム、その武装には距離関係なく直接攻撃できるような装備があるようだ。


 亜光速転移ミサイルと言う物々しい装備の説明を始めようとしたユウヒは、前のめりになる政府関係者と自衛官の背後で静かに盛り上がる水面に気が付き立ち上がる。


「ほう? なかなか大きいな」


「収束砲発射します」

 盛上がった水面は波一つ立てることなく宙に浮くと、中から巨大な生物的特徴を持った船が現れ、上部の開口部が開くと中から長大な砲身が姿を現す。その大きさと長さに笑みを浮かべるアーデルの視線の先で、空高く飛び上がり制止した艦は砲身を垂直から僅かに斜上方に向けて止まり、頭の触手を僅かに動かしたメーフェイルの護衛は周囲に目配せすると発射を告げた。


『――――――』


 彼女が発射を告げた瞬間、砲身が輝き先端から僅かな光の線と共に複数の破裂音と爆炎が連続して発生する。線上に伸びる爆炎は瞬間的に遥か空の向こうに消えてしまいその光景を前に護衛艦にのっていた人々は開いた口が塞がらず、それは爆炎の音と光にさらされた人々共通の光景であった。


「美しい火花だな」


「結構影響出てませんか?」

 そんな中で、いつもと反応が変わらないのは深き者達とアーデル、ユウヒくらいである。アーデルの世界にも花火があるのか、彼女は空に咲く爆炎に目を細め笑い、ユウヒは背中を妖精と姫巫女にしがみ付かれながら、思った以上に周囲への影響が出ているように感じ視線をメーフェイルに向けていた。


「……元々大気内で使う装備ではないからな」


「大気内容じゃないのか……あれ? また発射した? お? もっと?」

 どうやら収束砲と言う兵器は元来大気内で使うような兵装ではないらしく、影響範囲もその想定外の運用で広がっている様だ。ユウヒの視線から逃れる様に顔を逸らす気まずそうなメーフェイル、彼女の血色がよくなる横顔にジト目を向けていたユウヒは、その視界に青文字で【撃墜!】と書かれた表示のほかに【攻撃確認!】【発射確認!】の赤文字が現れた事を確認して目を見開き呟く。





 一方その頃、ミサイル発射の報告と予測着弾範囲に巨山周辺が含まれていることを聞き頭を抱えていた石木は、新たな連絡に別の意味で再度頭を抱えながら受話器を耳に当てていた。


「そうか、大丈夫だ」

 電話を受け急に頭を抱えた石木に、秘書の女性は心配そうに手を彷徨わせるも、彼女を見上げると電話を切らずに大丈夫だと手で制す。


「異星人があっという間にやってくれたようだ」

 自衛隊内での連絡網により何が起こったのか把握したうえで石木に報告がされているらしく、迅速な連絡網によりその時間差は少なくなっているがそれでも多少情報が届くまでに時間を要する。


「ん? どうした?」

 少しでも早く情報を得るために常に通話状態を維持していると、そのスピーカーから慌ただしい声か聞こえて来た。何事か起きた気配はその喧騒から良く伝わり、スピーカーを耳に当てた石木は相手に声をかける。


「は!? また、複数だと!」

 すると電話の向こうからユウヒが感知していた新たなミサイル発射が確認された報告がなされ、さらに一発ではなく複数のミサイルが確認され、電話の向こうでは重なる様に複数の声による報告が聞こえてきていた。


「何が何でも迎撃しろ! あ!? 減ってく? ……何がどうなってるんだ」

 すでに迎撃態勢が整っており後は迎撃ポイントに至るのを待つ状況であるが、思わず叫ばずにいられない石木、しかしその叫びも日本の迎撃態勢も嘲笑うかのような事態が起き、慌てて報告を入れる相手に石木は戸惑った声を洩らし、続報を待つ静寂の中で彼は再度頭を抱えるのであった。


「おじさま……」

 十中八九異星人が、またはユウヒが関わっているであろう事態に頭を抱える石木を前に、危険が回避されたことに息を吐きつつも、目の前の叔父の胃痛を心配する秘書は、心配げな声で呟くと刺激物の少ないお茶を入れるためにテーブルに荷物を置きその場から静かに離れる。





 さて、日本近海に浮かぶ護衛艦の上でユウヒがフラグを建てた結果、活躍の機会を得た女性陣がここに複数、周囲から驚愕の視線を向けられながら全力稼働していた。


「次弾装填完了!」

 片膝を着いた状態で足を金属製の杭で地面に固定した一号さんは、冷却による湯気を上げるボックスランチャーを背中から外すと、次弾の装填が終わったボックスを肩に装着し構え、


「ターゲットロック確認完了! 転移ミサイル3番発射!」

 声高らかに発射する事を告げると、上空に向けてミサイルを異常な速さでボックスランチャーから射出する。


「な、なにが起きているんだ」


「分かりません」


「ミサイルが飛んで、消えています」

 上空に射出されたミサイルと思われる何かは、光の筋を残して空に伸びると一瞬のうちに虚空に消え去り、消えたと思われる場所では空が歪んだように波打つ。目の前で起きている現象の説明がつかない自衛隊員達は、目を見開き呆けるエルフや獣人たち異世界の住人と共に、唯々空を見上げる事しか出来なかった。


「転移環境に異常なし。転移完了時誤差1.2、誤差修正完了」


「ターゲット追加3」

 その間も、一号さん達姉妹は淡々と迎撃を単純作業の様に続けていく。一号さんの背後ではミサイルの装填作業を黙々とこなすゴーレム、反対側の眼下ではフェイスガードの様なバイザーを目元に降ろした二号さんと、両隣で同じようにバイザーを目元に降ろした小型ゴーレムの三体が周辺空間と転移カ所の環境を観測、迎撃対象を観測し二号さんに伝える。


「マーキング完了」

 受け渡された情報を纏め最適化すると必要なマーキングを行い一号さんに送信、


「姉さん行けますか?」


「大丈夫! 温まってきた! 親方の手は煩わせないよー!」

 データを受け取った一号さんは二号さんの声に元気な声で答えると、明るい調子で話しながら両目をチカチカと赤く光らせた。どうやら明るい声で受け答えしている一号さんだが、その内心は憤慨しているらしくその感情がカメラアイの点滅する光に現れている。


「次弾装填完了!」


「転移ミサイル4番発射!」

 それも仕方ないことだろう、親にも等しくそれ以上の存在であるユウヒに対して攻撃する相手など、彼女らにとっては害虫でしかなく、まだ敵基地を直接攻撃しないだけ一号さん達の理性は十分働いていると言えた。


「わけがわからないよ」


「何て報告しますか?」


「見たままでいんじゃないか?」

 次弾装填完了後即座にミサイルを発射して、新たな装弾のためにボックスランチャーを肩から外す一号さんは、このあと追加で四発ものミサイルを打ち上げる事になる。その間ずっと彼女たちを見上げていた自衛隊員達は、唯々見た儘を報告書としてあげるも上司から再提出を命じられ、三度出し直したのちに上層部からの指示ですべての報告書を直接お上に提出することになるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 若干物騒な船の上でゆったりとした時間を過ごすユウヒであったが、彼の下には騒動が絶えず、それは遠く離れた国から発射され早々に撃ち落とされた。唯では済まない事態をあっけなく終わらせたユウヒであるが、荒れ始めた波はどう動き出すかわからない。


 それでは、読了ブクマ評価感想に感謝しつつ今日もこの辺で、またここでお会いしましょう。

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