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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百三十四話 三者会談 前編

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『三者会談 前編』


 石木に念押しされて、さらに護衛のはずの自衛隊員達の良い笑顔に見守られながら二泊三日の温泉旅行を楽しんだユウヒは、その足でとある垂直離着陸の航空機に載せられ日本海近海から太平洋側にまでやって来ていた。


「初めまして、今回の会談の責任者を努めます和島です」


「あ、どうも天野です」

 巨山の良く見える海の上に浮かぶ護衛艦まで連れてこられたユウヒは、船の半分を占める広い後部甲板に降り立つなり多数の護衛に囲まれ、VIP対応のもてなしを受けながら責任者と言う細身の男性と対面している。


「今回はありがとうございます。日本海でのお噂はかねがね」


「どんな噂ですかね……」

 ニコニコとした笑みを浮かべる男性と挨拶を交わしたユウヒは、太陽の陽射しに目を細めながらどこかキナ臭げに呟く。


「はっはっは、そこはご想像にお任せします」


「むぅ」

 温泉旅行を終えてそのまま連れてこられた場所には、日本、深き者、巨山同盟会議と言う文字が風に揺れており、ユウヒがこの場にいる理由をこれでもかと示している。予想していたとは言え面倒な事には変わりないユウヒは、どこか含みのある男性にジト目を向けると、広い甲板に視線を逸らし用意された屋根だけの大きなテントを抜ける潮風に目を細めた。


「何かありましたらその都度言ってくださって結構です。天野さんの意見は最優先ですし、今回は妨害する手合いは居ませんので」


「そうですか、居たらまた太陽と繋げますね?」

 テントの裾が揺れる光景に涼を得ようとしていたユウヒは、男性の言葉に何か思い出すと、どこか暗い笑みを浮かべて振り返り、以前地球と太陽を繋げた会議の席に居たであろう男性に楽しそうな声で話しかける。


「は、ははは……」


「冗談ですよ?」

 男性と会ってからずっと感じていた違和感の正体の気が付いたユウヒの見せる笑みに、ユウヒを怒らせた会議に出席していた男性は顔から血の気を引かせて乾いた笑いを洩らす。冗談だと言っても当時の光景が脳裏に焼き付いている男性にとっては、その笑みが恐怖にしか感じず思わず生唾を飲み込む。


「嘘でござる!」

「その目は楽しんでる奴の目だ!」

「次はどこと繋げる気だ! いいぞもっとやれ!」


 そんな男性の姿にユウヒが小首を傾げていると、どこに居たのか頭上から飛び降りてきた三人の忍者がユウヒの言葉を全否定しながら新たな惨劇を煽りだす。唐突な忍者の出現に護衛が慌てる中、


「宇宙に放り出すぞすっとこどっこい」


「「「イエスノーサー!!」」」


 三人の接近を察知していたユウヒは、振り向きざまに彼らにしか感知できない濃厚な魔力を洩らしツッコミを入れ、その危険な気配を察知した三人は自衛隊員も花丸を付けるような敬礼を見せるのであった。


「自衛隊側の代表で来たのか?」

 いつもの三人の姿に肩を竦めたユウヒは手元から濃密な活性魔力を消すと、護衛の人間が何も足場の無い頭上を確認したり、忍者やその周囲を警戒し持ち場を確認して移動する姿を横目に、三人がどうしてここに居るのか問いかける。


「流石にそれは無いでござるよ、拙者らは用心棒でござろうか?」

「もしもの時に要人を救出脱出するって感じだな」

「ついでにそのもしもにはユウヒの暴走も含まれるんだぜ? 笑うしかないだろ? 死ねと?」


 基本的に調査ドームや各地のドームを活動の中心としている三人が居る事を不思議に思ったユウヒは、いつも通り思い思いに話す三人の言葉を聞いて頷くと、面白そうな笑みを浮かべて見せた。


「ふぅん?」


「ち、違いますよ!? それは一部の人間が主張しているだけで、総意ではありませんから」

 その笑みは彼の事を良く知らない人から見ると不機嫌そうな笑みにも見え、慌てた和島は言い訳の様にも聞こえる弁解を始め、その言葉に護衛の人間達は僅かに顔を顰める。


「ははは、構わないですよ」


「そうだぞ? ユウヒがおっかないのは事実だからな」

 ユウヒの存在を聞かされている現場の人間からは評価の良いユウヒ、一方で現場から遠くなれば遠くなるほどその評価は微妙なもののようで、その現実が現れている忍者達の派遣に、周囲が無言で表情を歪める中、当の本人は笑い声を上げて気にしないと言い、ヒゾウも気にした様子の和島にユウヒを恐れるのは当然で正常だと、困ったように眉を寄せながら彼の肩を軽く叩く。


「お? 喧嘩か? 今日の一発目いっとくか?」

 いつでもどこでもユウヒを呷るヒゾウは、背後から聞こえるユウヒの楽しそうな声とその声に追従するかのように聞こえて来る乾いた連続的破裂音に慌てて振り返る。


「気軽にバチバチさせんなよ!? 怖い怖い!」


「冗談だよ」

 慌てて振り返ったヒゾウが見たものは、にこにこと目を細めながら手の中で紫電の塊を弄ぶユウヒの姿と、その後方で離れて避難するゴエンモとジライダの姿であった。即座に両手を上げ降参のポーズを見せるヒゾウに、ユウヒは一瞬詰まらなさそうな表情を浮かべると、冗談だと言いながら紫電を引っ込める。


「嘘でござる!」

「天丼は基本だな」


「は、はは……」

 ちょっとでも触れようものなら即座に重傷を負いそうな電撃を発生させていたユウヒに、避難していたゴエンモとジライダは再度先ほどと同じようなツッコミを入れ満足そうに頷き、そんな一連のやり取りを見ていた自衛隊員達は冷や汗を流し、責任者の和島は乾いた笑いを洩らす。


「ほら引いてるじゃねぇか」


「ちょっとしたお茶目心なんだがなぁ?」

 どっからどう見てもドン引きしている一般人の姿を指し示しながら声を荒げるヒゾウに、ユウヒは飄々とした口調でお茶目だと言いながら肩を竦め、遠く上空から感じていた視線を見返しながらくたびれた様な笑みを浮かべるのであった。





 一方そんな視線の原因であるテレビの中継は全国放送で流されており、それは天野家のリビングでも同様である。


「ユウちゃんはどこかな~♪」


「流石に解んねぇな?」

 異世界の人々と日本人の公式な会談が一般公開されるとあって、お昼近い日本では多くの人間がテレビの前で固唾を飲んでいたが、天野家のリビングは賑やかで緩い空気が流れていた。宇宙人と異世界人と日本人と言う現実とは思えない組み合わせの会談が始まろうとする中でも、明華の優先順位はユウヒのようで、ヘリからの空撮に息子の姿は無いかと夫婦そろって目を皿にしながらテレビを見詰めている。


「もっと高画質で映しなさいよねぇ」


「やっぱ俺らも行けばよかったんじゃね?」

 そんな夫婦と一緒にその場にいるのは娘の流華ではなく、最近近所に住み始めた白猫とパイフェンの二人。白猫はどこか明華と似たような表情でテレビを見詰めながらその画質の悪さに悪態をつき、隣ではパイフェンが頭の後ろで手を組んだ姿勢のままソファーの背凭れに体重を預け詰まらなさそうに呟く。


「だめよ勘付かれて私が怒られるんだから」


「あんたでも少しは気にするのねぇ?」

 彼らが使う特殊なカメラであれば、画像処理能力も相まって一般で使う様なカメラと比べ物にならない高画質の映像が撮れ、今のように離れている位置からの中継でも顔の小さなホクロまで鮮明に映し出すことが出来る。まともに人の顔も判別できないテレビを見るくらいなら、撮って来た方が早いのではと呟くパイフェンであるがその提案は即座に切って捨てられ、その明華の姿に白猫は珍し気な表情を浮かべた。


「あぁそれはな? 昔、夕陽が口をきいてくれなくなったことがあってな……」


「無言、ニコニコ顔、静かな圧……うぅ、お腹がぁ」

 ユウヒを最優先に考える明華が、その欲望を押さえてまで優先すると言う事柄があるとするならば、そこに息子が深く関与しているのは自明の理である。


「夕陽の怒り方は姐さんとそっくりだからなぁ」


「へぇ」

 かつてユウヒを激怒させた時の記憶を思い出して苦しみだす明華を見詰めるパイフェンは、若干曇った表情でこちらも思い出しているのか彼が怒った時の姿が明華にそっくりだと話し、二人の様子を見比べる白猫は想像できないのか半信半疑の表情で相槌の声を洩らす。


「そんなところは似なくてよかったのに」

 お腹を押さえながら緑茶の入ったマグカップを口に付ける明華は、似なくていい所が似てしまった息子をテレビの画面に探しながらため息を洩らした。


「……あれは夕陽なりのやさしさなんだろうけどな」

 唯一人この場で、そんなユウヒの怒り方が彼なりのやさしさであることを理解している勇治は、ちびちびと緑茶を飲みながら胃の痛みを和らげようとする明華を横目にやさしい笑みで溜息を洩らす。


「あ! 何か出て来たわ!」

 何とも言い難いぐだぐだとした、しかしどこか温かみのある雰囲気も束の間、明華の声と共にリビングに居た彼らはテレビの前に移動し、初めて見る異世界、異星の住人を齧る着くように見始め、出遅れた明華は一瞬キョトンとするも即座に飛び上がり勇治の背中に跨りながら状況を注視するのであった。





 そんな天野家のリビングに映るテレビの向こうでは、護衛艦の甲板に張られたテントの影に隠れていたユウヒが何かに気が付き立ち上がる。


「お? 来たな」


「これが……」

 彼が立ち上がった瞬間、護衛艦の傍で水が大きく盛り上がって海中から生物的な曲線を持った宇宙船が姿を現す。事前に知らされていてもその巨大な戦艦が海中から出現すると甲板上は慌ただしくなり、武器こそ構えていないが自衛官が次々護衛対象の周りに集まり始める。


「あれ? 初見ですか? 映像は?」


「あ、あぁ……映像と生では感じるもの違うね」

 そんな護衛対象の中には、この日のために予定を変更してきた日本国総理大臣の姿もあり、驚き立ち尽くす彼の隣に音もなく近付いたユウヒは、不思議そうな表情を浮かべて問いかける。突然そばから聞こえて来たユウヒの声に少し驚いた表情を浮かべた阿賀野は、苦笑を洩らすと目の前の巨大な宇宙船を見上げながら印象が実物と映像とでは違うと小さく唸る様に呟く。


「あー確かに威圧感半端ないですよね」

 太陽と地球が直結した一見以来だいぶ距離の近付いた阿賀野とユウヒ、彼は隣で宇宙船を見上げる総理大臣から深き者達の宇宙船に目を移すと、その生物的な曲線で構成された人工物から感じる威容に頷くと、初めて見た時の興奮を思い出しもう一度頷く。


「おお!?」

 ユウヒ自身はすっかり慣れたものであるが、確かに始めてみる人間にとっては警戒心を抱いてもしょうがないと、小さく頷く彼の目の前に、今度は大きな目玉と触手の塊が姿を現し、その塊が甲板の上に降り立つと同時に周囲の自衛官たちは警戒するように後退り護衛対象を囲む。


「総理」


「あぁ、彼がこの場にいるなら大丈夫だよ」

 さらにこの場で最も守らなくてはならない阿賀野に関しては、周囲の自衛官がもっと下がる様に声をかけているが、当の本人はちらりと隣に目を向けると楽しそうに微笑むユウヒ見てほっと息を吐き、声をかけてきた自衛官に首を振って答える。


「……わかりました」

 阿賀野の視線を追い、隣で笑みを浮かべるユウヒに気が付いた自衛官は、納得した様に表情を緩めると敬礼を残し阿賀野から少しだけ距離を離す。相手がどんな相手であっても、畏縮した状態で応対すれば舐められたり見下されたりするものである。そう言った配慮の下で周囲の人間が護衛をする中、ユウヒは深き者達のパワードスーツに軽い足取りで歩み寄った。


「ナチェリナさん久しぶり、日本の近海はどうだった?」

 ぬらぬらとした艶めかしい光沢を放つ太い触手のパワードスーツに歩み寄ったユウヒは、周囲が固唾を飲んで見守る中、仲の良い友人に声をかけるような気軽い声色でパワードスーツにナチェリナさんと呼びかける。


「……よく私だとすぐわかりましたね?外部装甲には個体識別出来るものは取り付けられていないのですが」


「勘はいんでね」

 ユウヒの呼びかけに少し体を揺らした先頭のパワードスーツは、少し間を置くとすぐにパワードスーツの全面を開いて中から名前を呼ばれたナチェリナが姿を現す。姿を現すなりどこか気恥ずかしさと呆れが同居する様な表情を浮かべて見せた彼女は、パワードスーツから降りてユウヒに近付くと不思議そうに問いかけ、ユウヒの返答に対して困った様にまた微笑む。


「そうですか、この辺りの海は静かでいいですね。時々原始的な潜水艦がうろついてましたが、我々に気が付くこともありませんでしたし」


「それって静かなのかな?」

 ユウヒの勘の良さを以前アメリカでも実体験しているナチェリナは、気を取り直すと日本近海について静かな良いところだと評す。若干不穏な言葉が聞こえて思わず首を傾げてしまうユウヒであるが、ナチェリナはその姿を見て可笑しそうに笑う。


「以前居た海はどこにいても攻撃の危険がありましたから、完全交代休憩がとれたのは久しぶりです」

 元々彼女達が居たのは宇宙空間にある戦場の中であったため、襲われる心配の無い海の中と言うのはとても心落ち着く場所であり、その上しっかりと休養をとることが出来たことが彼女達の心に余裕を持たせたようだ。


「そか、もっと楽しく休めるようになるといいな」


「ええ、あ……はいわかりました」

 以前別れた時より幾分柔らかい笑みを浮かべるナチェリナに、ほっとしたような笑みを浮かべるユウヒ。彼の言葉に笑みを返すナチェリナは、返事を切るとしっとりとした髪をかき分け耳元を手で押さえ、誰かと話しているのかユウヒ以外の誰かに返事を返して部下にハンドサインも見せる。


「ん?」


「我々の最高責任者であるマザーが下りられますので、こちらで指示する場所を開けてもらえますか?」

 ナチェリナのハンドサインで一斉に動き出したパワードスーツ達に驚く周囲は、何があったのかと一斉にユウヒを見た。どうやら今回の会議に出席する代表者が甲板に降りてくるようで、その場所を開けるために移動を開始した様だが、言葉のわからない周囲からはユウヒが何かしたのではないか、深き者達を怒らせたのではないかと言った不安が広がっているようだ。


「ああ、はいはい。代表者が来るそうなので下がって場所を作ってもらえます?」


「了解です!」

 ユウヒのそばで緊張した表情を浮かべていた和島は、触手を横に広げてゆっくり広がるパワードスーツを見詰めながらユウヒの言葉を待っており、事情を説明されると心底ほっとした表情を浮かべすぐに行動を開始する。


「マザーかぁ、どんな人かな?」


「夕陽君は会ったことないのかい?」

 マザーと呼ばれた深き者の責任者が、甲板に降りるために必要な空間をパワードスーツ部隊と一緒に確保している自衛隊員達を見詰めるユウヒは、その光景に感慨深いものを感じて目を細め、まだ見ぬ深き者の代表者に思いをはせていた。そんな彼の隣には、日本側の代表である阿賀野が楽しそうな表情を浮かべ立っており、ユウヒの呟き声に反応して小首を傾げる。


「ええ、俺が会ったことあるのはナチェリナの部隊員くらいなので、それ以外の人がどんな姿なのか解らないですね。大きく分けて片手で足りるくらいの種類だそうですけど」


「そうか、む?」

 ユウヒがアメリカで出会った深き者達は、ナチェリナの部隊の者達だけで皆その特性から選ばれたことで同一種族であった。全体的にスレンダーな体系はパワードスーツと言う狭い空間でも活動がしやすく、また感覚の鋭い彼女達は索敵などに向いているのだ。そんな彼女達がパワードスーツで囲んだ円形の場所では準備が整ったのか、夏の日差しの中でも解る光球が中心に姿を現す。


「おお!」


「どうなってるんだ?」


「お、これほとんど魔法だな」

 円形に開けられた空間に現れた光球からは光の線が無数に飛び出し立体的な幾何学模様を作り出していく。どうやらその光球が作り出している幾何学模様は、ほとんど魔法と言っていい物である様で、周囲がざわつく中、静かに両目に光を灯したユウヒは興味深そうに目の前の光景を見詰める。


「魔法……」


「転移系統の魔法に似てるようですけど、ふぅむ興味深い」

 光球がなくなった代わりに光の模様の籠が作り出され、その幻想的な光景に周囲が息を飲み、阿賀野が光の魔法に小さく呟き魅入る一方で、解析を終えたらしいユウヒはそれが転移魔法だと呟くと、他にも気になる点が多いのか興味深そうに笑みを浮かべた。


「彼女が、代表だろうか?」


「そうみたいですね? 行きます?」

 そんな光の籠が周囲を魅了したのも数舜、急に眩しく輝いた光の籠は細かく砕け散り、その籠の中心にはいつの間にか青白い肌と腰まで届く銀の髪を太陽の光で青く輝かせる美女が立っている。状況から考えるに彼女が深き者達の代表であることは明らかであり、阿賀野が声をかけたユウヒに対して目を向け微笑みを浮かべていた。


「む? ふむ、エスコート頼めるかな?」


「出来れば美女のエスコートをしたいところですがね」


「はっはっは、頼むよ」

 豊満な胸を揺らしゆっくり歩き出した女性に対して思わず見惚れてしまう阿賀野であったが、ユウヒの声ですぐに正気に戻るとユウヒにエスコートを頼む。なぜなら彼の周囲の護衛はまだ正気に戻りきっておらず、この場で最も頼りになるのは仲介役も含めてユウヒしか居ないのだ。


 ユウヒの返事に足して笑い声を上げた阿賀野は、肩を竦めてさくさくと歩いていくユウヒを追いかける様に歩き出すと、平常心を保たせようと丹田に力を込める。


「えっと初めましてユウヒです」


「やっとまみえる事ができたな、異界の特異点よ」

 十歩も歩くことなく間近でマザーと対面したユウヒは、とりあえずと言った表情で彼女を見上げ挨拶を口にした。日本人よりずっと背の高い彼女は、ユウヒの事を好奇心の色が濃い単色の瞳でじっと見つめると、ユウヒを特異点と呼び笑みを浮かべる。


「特異点?」


「マザー」


「む、すまぬな……」

 急に妙な呼ばれ方をして目を見開くユウヒを見詰め続けるマザーは、脇に控えたナチェリナに突かれ申し訳なさそうに細い眉を寄せ謝罪を口にした。


「いえいえ、変わっているのは自覚してますから」

 どうやら割と失礼な発言だった様だが、当の本人は状況をよく理解してないのか不思議そうな顔をするばかりで、謝罪の言葉を受けてもどこか困ったような表情で頭を掻くばかりである。


「……そうか、第三最奥攻略艦隊の代表マザーをしているメーフェイルだ。そちらが日本の代表だろうか?」

 そんなユウヒの様子に少し考え込むマザーは、少し曲がっていた背を伸ばして豊満な胸を揺らすと所属と名を告げ阿賀野を見詰め確認する様に問いかけた。マザーと言うのは艦隊の代表の事であるらしく、メーフェイルと名乗った彼女からはそれ相応の迫力を感じられる。


「……翻訳効いてます?」


「ええ大丈夫です。初めまして、日本国総理大臣の阿賀野 誠一郎と言います」

 日本人から見ても絶世の美女と言う事もあって思わず圧倒されていた阿賀野は、ユウヒの声に再度正気を取り戻すと、日本人らしい笑みを浮かべ自己紹介を始める。彼の首には、ユウヒに作ってもらっていた意思疎通を可能にする板状のアクセサリーが下げられており、メーフェイルの表情を見る限り相互に翻訳は成功している様だ。


「ふむ、素晴らしい翻訳機だな。おっとすまない、阿賀野総理だな、私の事は好きに呼んでくれ、現状は深き者の最高責任者ではあるが、向こうでは地方の一領主にすぎないからな」

 その翻訳機の性能は思わずメーフェイルの関心を引き付けるほどのものだったらしく、腰の辺りをナチェリナに突かれると申し訳なさそうな笑みを浮かべ阿賀野に握手を求め、どこか気さくに話し始める。


「わかりました。お互い堅苦しいのは無しにしましょう。メーフェイルさん」

 それまでの、強烈な気品を感じさせる雰囲気が霧散し柔らかな笑みを浮かべたメーフェイルに、阿賀野はどこかほっとしたように口元を緩めると、彼女の手を取りにこやかに握手を交わし、その様子は中継のヘリや会議の様子を撮るため甲板に出ていた記者たちによって撮影される。


「うむ、中々良い会談が出来そうだ……ユウヒ殿とはまた別で話がしたいが構わないか?」


「呼び捨てで良いですよ? お話は構いませんけど」


「ならば後ほど我が旗艦に招待しよう」

 またその際、メーフェイルがユウヒとも握手を交わしたことで、阿賀野の時と同様にフラッシュの光が多数注がれ、そんな中でも特に気にした様子の無いユウヒは、頭に光の妖精を載せながらメーフェイルの招待に対して興味深そうな表情を浮かべた。


「それは―――」

 旗艦と言う古の厨二心をくすぐるワードに、避難していた忍者も思わず反応し、ユウヒも自身の封印された黒歴史が疼くままに返答しようとしたのだが、その声は轟音によって掻き消され、周囲が騒然とする中ユウヒの頭上に濃く大きな影が差す。


「それはちと狡くないか?」


「お?」

 勢いよく水柱の上がる爆音とともに現れたのは、もう一人の会談相手である巨山の主たる星龍。彼はユウヒ達の日陰になる様な位置に頭を寄せたかと思うと、潮の香と共に心底不服そうな声を甲板の上に吹き付けるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 日本政府と異世界人の会談が始まろうとする中、頭上から落ちてくる暗い影、今日も騒がしい日本はこの会談でどう変わり世界にどう影響を起こすのか、次回もお楽しみに。


 それでは読了ブクマ評価感想に感謝しながらこの辺で、また会いましょう。さようならー

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