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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百三十一話 天空の城 前編

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『天空の城 前編』


 背中が焼き焦げるような光が空から降り注ぐ時刻、日本某所にて時間とタイミングが合った人間が集まり会議室で何とも重苦しい静寂を作り上げていた。


「わかった。引き続き監視を頼む」

 そんな静寂に満ちた部屋で唯一人声を発していた石木は、電話の相手を労うように一言残して通話を切断すると、自分に集まる視線を見返して息を吐く。


「……山ですか、最近は登ってないですね」


「帰って来い、いつまでも現実逃避してんじゃねー」

 力の籠らぬ視線を石木に向けていた一人である阿賀野は、そっと窓の無い壁に目を向けると、そこに悠然と佇む山があるかのような表情で呟く。どうやら彼の趣味は登山であるらしく、総理就任後めっきり行くことのなくなった大自然を思い出して現実逃避を始める。


「したくもなるでしょう?」


「まぁな……」

 それほどまでに、彼らをここに集めた原因である巨山浮遊からの中国大陸横断開始の話はインパクトが強かったようだ。


「それでどうしますか? 針路は真直ぐ日本に向かっていると言うお話でしたが?」


「どうすると言っても……なぁ?」

 この場に急遽集められた人々は、ジト目を浮かべた総理大臣の言葉に思わず苦笑いを洩らし、その苦笑いに小さな溜息を吐いた阿賀野は、石木を見ながら何か対策は考えてあるのかと問う。


「国民には伝える必要があるでしょう」

 しかし、対策方法が立てられていれば最初から説明していると言うもので、とりあえず集めた人々に目を向けながら肩を竦める石木は、目が合った男性に小首を傾げ、目の合った男性は少なくともやるべきことについて語る。


「どんな反応が返って来ると思う」


「大半は信じないのでは? 証拠となる映像がまだありませんから」

 現在中国の巨大ドーム跡地に現れた巨山は、その体を小さくしながら真直ぐ日本に向かう針路をとっており、止まることが無ければその巨大な姿を日本に住む人々の頭上に晒すこととなるだろう。それ故、黙っていて良いことなどないのだが、まだ見ぬ浮遊する山の話をされたところで、真面な反応は返ってこないと思われる。


「それに今は意識消失や体調不良者だらけでそれどころじゃないですよ」

 中国政府は突然の事による混乱も相まって現在の状況を発表しておらず、世界に目を向けても巨山の移動に気が付いている国はごく僅か、日本は独自のルートで異常を察知しただけで、詳細については杳として知れない。


「前回の事もあって政府への批判も集まってますし」


「やることはやってるんだがな」

 その上、中国軍の最初の行動で発生した不活性魔力噴出に伴う被害はまだ治まっておらず、その批判が一部から集まる中で発表したとしても否定的な意見を助長するだけである。そういった意見に、阿賀野の近くに座る白髪の目立つ男性は小さな声でぼやく。


「メディアがだいぶ呷りましたからね」


「それで? その龍と巨山はどのくらいで日本の領空に入るんですか?」

 現政権の特徴とも言えるこの気安い空気を伴った会議は、なにかある度に様々な形で開かれており、そういった行動が気に食わない人間からはよく攻撃の的にされている。また民衆を呷ることに快楽を覚える集団は、何かある度に鬼の首を取ったように騒ぎ立て、現政権の批判を声高に叫ぶ。


 そんな者達が今回の状況を知ればどう騒ぐのか、一部ではすでに情報を入手している者達もいるらしく、政府発表がなされなければ先んじて民間側から発表されてしまうだろう。それ故に、この場に集まる者達は自然と発表を前提に意見を出し合っている。


「衛星から見た様子だと、明日の早朝には日本海側から見える可能性があるそうだ。ただこれは、現在の速度のままで、かつ中国側のアクションが無い前提だな」

 そんな会議の中心物である巨山はその巨体の割に移動速度が速く、何もなければ明日の朝には隣国上空に差し掛かる様だ。


「どうなりますかな?」


「頭上を通る山を撃ち落とすとも思えんしな、ほかの国も何もせず静観するんじゃないかと言うのが大筋の見解だ」

 そんな巨山に対する各国の対応予想は、何もせず見送るのではないかと言う予想である。その予想理由は、頭上を飛ぶ巨山に向かって攻撃したところで、返って来るのは砲弾とミサイルの破片に巨山の欠片や岩塊ばかり、貴重なサンプルになるであろうがそれによる被害は計り知れず、積極的に破壊行動を行っていない相手に対して喧嘩を売る馬鹿はいないだろうと言うものだ。


「制御下に置けないのであれば、出来るのは山を放棄するくらいと言ったところなんでしょうな」


「日本としての対応は?」

 制御下に置けなければと言いつつ、現状無理であろうことは衛星から確認した映像で彼らは理解していた。壊滅と言っても何ら不思議ではない破壊の爪痕を残して移動を続ける巨山は、今のところそれ以上の攻撃を中国から受けていないのだ。


「そこはやはり専門家に……」

 そんな手に負えないものを相手に、日本はどう対応するのかと言うのがこの会議の主題なのだが、その結論は早々に呟かれた専門家ことユウヒに丸投げするような発言で、意思が纏まった様に静寂が訪れる。


「頼りすぎだろ」

 何も言葉が出てこない所為で予期せず耳が痛く感じるほどの静寂が訪れた部屋で、石木は肩を落として今の気持ちをそのまま口から吐き出す。


「じゃあ何かほかに手立てが?」


「そこはちった考えろよな」

 ユウヒにばかり頼るのは良くないと言う気持ちは、この場にいる誰もが抱くものであり、石木の言葉にも理解を示すが故に、静寂の中で彼らは苦悩に満ちた表情を浮かべていた。自衛隊然り、政治家然り、唯のとは口が裂けても言えないが、曲がりなりにも一般人であるユウヒを酷使し続けて気分の良い者などこの場にはいない。


「と言われましてもねー……」


「うーん」

 だがそれ以上に異世界と言う相手は常識が通用しないところが多く、彼らの中で最先端の異世界知識を扱えるのは、今のところ各ドームに接触する自衛隊員だけである。それでも忍者たちの足元にも及ばない現実と、目まぐるしく変わり続ける世界に状況に、会議室に集まった人々はそろって溜息を洩らすのであった。





 政府施設内で総理と防衛大臣を交えた会議が行われた日の夜、夕食を囲む天野家のリビングでは、大きなテレビがその画面いっぱいに女子アナを映している。


<以上の情報をもとに、政府の安全対策会議では日本領空へ侵入の可能性が高いとして、中国政府に対して抗議と対処を要求する旨を―――>


 そこでは最新のニュースが放送されており、緊急記者会見を行う官房長官の姿が小さなワイプに映し出されていた。どうやら会議の後すぐに記者を集めた政府は、包み隠すことなく中国から飛び立った巨山について話し、同時に中国政府に対処を要求したようだ。


「んぐ、無理言うわねぇ」

 衛星写真一つない会見に、記者だけでなくSNS上の一般人も声を大きくして政府を批判しており、ニュースを見ていた明華も口の中のグラタンを飲み込むと呆れた様に呟く。要求された中国から、やれたらすでにやっていると言うツッコミが返ってきそうな内容に呆れる明華の横では、何一つ映像や証拠が無い中で山が飛んだと聞かされた流華が頭を傾げている。


「山が飛ぶとか空中要塞だな」

 一人だけ理解が及んでいない流華の前では、山が飛ぶと言う言葉をそのまま純粋に信じて想像を膨らませる勇治が、ワクワクを隠しもしない声で呟く。


「そこは天空の城の方がロマンチックじゃない?」


「いやぁそれは色々不味いんじゃ……」

 そんな勇治の横顔を嬉しそうに見つめる明華は、要塞よりお城の方がロマンチックだと話すも、どうやら勇治はそのネーミングに恐ろしいものを感じたようだ。


「ねぇ、もし日本まで来たらどうなるの?」

 二人の会話から、自分が思っていた疑問が間違っていると気が付いた流華は、山が飛んでくると言う前提への疑問を飲み込んでユウヒに問いかける。両親に聞いても大事なところは大体はぐらかされる為、彼女の中で一番信用できる兄に白羽の矢が刺さったようだ。


「……どうなるんだ?」


「ん?」

 しかしユウヒも、遠い場所の事がわかるわけでもなく、頼れる相談役からの音信も無いため、とりあえずこの場で一番何か知っていそうな人物に声をかける。声をかけられたマルーンはユウヒを見上げるも、その口には晩御飯のブドウが丸々一粒入れられとても話せる状況に無く、必死に咀嚼して返事を返そうとする彼女であるが、つるつるとして歯応えのあるブドウの皮は、彼女の咀嚼を阻害し続けていた。


「安全そうなところを見つけて降りて来る」

 焦れば焦るほどにまったく咀嚼できなくなるマルーンを見ていたアーフは、彼女の代わりに巨山の、正確に言うならば星龍の行動について伝える。彼女たちの話から浮遊する巨山が十中八九星龍であると当たりを付けていたユウヒは、自分の考えが正しかったことを再認識すると、アーフの言葉に眉を寄せた。


「日本は狭いからそんな土地無いわよ?」


「そうなの?」

 ユウヒが眉を寄せる姿を見ていた明華は、ファーストコンタクト時より幾分心の距離が近くなった妖精たちに、難しい表情を浮かべるユウヒの考えていることを伝える。そう、中国やロシア、アメリカの様に何もない大地が多く存在する大国であればまだしも、居住可能なエリアに密集して住むしかない小さな島国日本には、巨山が下りてきて大丈夫な土地などどこにも無い。


「うん、日本は小さい国だから」


「そっかー」

 一番可能性があって北海道が候補に上がりそうだが、突然やってきてところで誰も快く許可などしないだろう。小さな国故のどうしようもない現実に、アーフは目を細めて脱力すると困った様に呟くのであった。


「ずっと飛んではいられないのか?」


「無理だと思う。昔は飛んでたらしいけど、今は力が足りない」

 そんなしょんぼりとした様子で呟くアーフに、テレビを見ていた勇治は疑問に思ったことを問いかける。ずっと飛ぶことが出来れば、洋上でもどこでも好きなところに住めそうだが、どうやら延々飛行を続けることは不可能なようだ。ただそれは現在無理であると言うだけで、本来であればそれも可能なようである。


「やっぱ燃料馬鹿食いすんのかね?」


「俺に聞かれてもなぁ……」

 昔はずっと飛んでいたと言う言葉に興味深げな表情を浮かべるユウヒは、ビールを飲みながら視線を向けてくる父の言葉に、視線を宙に彷徨わせ困った様に肩を竦めた。


「ユウちゃんお空飛べるんでしょ?」


「規模が違うし、直接見てみないと解らないけど原理も違うんじゃないかな?」

 ユウヒなら何かわかるんじゃないかと思い問いかけた勇治は、明華に視線を向けるとこちらもユウヒなら何かわかるんじゃないかと不思議そうな声で話す。実際に空を自由に飛べるユウヒであれば、そう言った事柄に造詣が深いとも思われるが、ユウヒも全てを理解して飛んでいるわけではないので何とも答え辛い内容の様だ。


「そうか、しかし頭の上を飛ばれちゃ気持ちいいもんじゃないぞ? せめて日本海のどこかに降りてもらえんだろうか?」

 ユウヒの返答にそれもそうかと納得した様に頷く勇治は、テレビに目を向けると放送内容を聞き流しながら頭上を飛ぶ巨大な山を想像したのか、珍妙な表情で眉を寄せると日本まで来ないでほしいと呟く。


「太平洋側の方がよくない? またお馬鹿さんが突っかかって来るわよ?」


「あー領有権を主張しそうだな」

 大体の人間が同じような感想を抱く様な内容のニュースに、明華は小首を傾げると落ち着くなら太平洋側の方が良いと話す。日本海を挟んで隣接する国との間に様々な問題を抱える日本、その中には領有権に関する問題もあり、何かとちょっかいを出してくる国を思い出した勇治は、呆れを多分に含んだ声で呟きビールでその気分の悪さを流し飲む。


「中国にあった山なら中国の土地にならないの?」


「それはねー」

 領有権で言うならば、本来中国が大々的に主張しそうなものであるが、そんなもっともな疑問を口にする流華に、明華はおかしそうに笑いながらテレビを指差す。これまで浮遊する巨山について一切発表していなかった中国、しかしその存在をいつまでも隠し通す事は出来ず、さらに日本に先手を打たれたことで中国政府は早々に手を打つしかない状況に陥っていた。


<速報です。今回出現した浮遊物体に対して、中国は一切の領有権を主張しないとの考えを公式に発表しました。これにより、浮遊物体によって発生するいかなる損害も中国は補償する必要が無いとのことです>


「こういう事」

 その手とは、中国軍の大規模な部隊を壊滅にまで追い込んだ謎の生物と浮遊する巨山に関して、中国は一切その存在を関知しないとすることである。それによって巨山は誰のものでもなく、それにより引き起こされる事件事故は全て自然災害であると押し通すつもりなのだ。


「誰のものでもない山が勝手に動いてあっちこっちに損害を与えてもそれは自然災害だから知らないよってことだ」


「……それってずるくない?」

 正直色々と穴のある言い訳ではあるが、巨大ドームによる被害が広がる現状においては、ある意味間違った認識でもなく、あわよくば他所に面倒事を押し付けたいと言う中国側の考えが透けて見える決定である。


 若干呆れた表情を浮かべた流華は、にこにこと笑う母親の顔を見詰めると、どうしても納得いかないのか難しい表情で呟くのであった。


「ふふ、世の中そんなものよ? まぁいろんな国から非難されるでしょうけど」


「むー」

 どんな事態でも謝ると言う事は弱者の考えであると言う風潮のある人々にとって、自分の非を認めることはあり得ない事であり、それも押し通すことの出来る力を、中国と言う国は持ち得ているのもまた事実である。納得いかない表情で流華がいくら唸ったところでその事実が変わることは無い。


「きっと大丈夫よ」


「星龍は優しいから、滅多に怒らない」

 唸る流華を心配そうに見上げるマルーンは、大きな葡萄の実をやっとこ飲み込み解放された口を開くと、大丈夫だと自信ありげに話しかけ、同じく心配そうに見上げていたアーフも星龍は優しい龍であると話す。


「それを怒らせたわけだ」


「とんだとばっちりよねぇ」

 どんなに優しい龍でも攻撃されたら怒って当然であり、優しい龍を怒らせた人々を思い浮かべた勇治は肩を竦め、明華はビールを一気に飲み干すと迷惑そうにアルコールの匂いが香り立つ溜息を吐き出す。


「お兄ちゃん? どうし……」

 酒が進み楽しそうな笑みを浮かべ出す両親を呆れた表情で見つめていた流華は、急に動きを止めたユウヒに目を向け声をかけるも、すぐにテーブルの上に置かれたスマホが鳴った事で言葉を切る。あらかじめスマホの呼び出しが鳴ることを察していたかのように、ワンコールもさせないでスマホを取ったユウヒは、通話ボタンを押してスマホのスピーカーを耳に当てる


「もしもし? はい、まぁそうなりますよね。え? 母さんですか? えーと」


「ふふふふふふふふ」

 電話をかけて来た人物は、ユウヒが出るなり要件を伝え、その言葉にユウヒはすべて察していたかのように返事を返す。どこか急いでいる様な声がスマホから漏れ聞こえてくる中、その人物は二言目に明華の機嫌について問いかける。可笑しな質問のように聞こえるがその理由も理解しているユウヒは、そっと視線を母親に向けてそこで一見機嫌良さげに笑う姿を見て頷く。


「めっちゃいい笑顔で笑ってます」

 その笑顔からにじみ出る不機嫌なオーラを視認出来たのか、小さく肩を竦めると電話の向こうの人物にもわかるように不機嫌であることを伝えるユウヒ。


「石ちゃんか?」


「そうみたいねぇ」

 そんな息子の姿を見ていた勇治は、妻の気配から相手が石木であると察して確認の意味も込めて明華を見詰めながら問いかける。肩を竦めながら返事を返す彼女は楽しそうに細めていた目を薄ら開き、赤く不機嫌そうに揺れる目で夫を見詰め返す。


「それはまぁ構いませんけど、出来る事にも限度がありますよ? え? 危険性ですか、そんなの解るわけないと、言いたいところなんですが……」


「「……」」


 夫婦が視線で語り合う間もユウヒと石木の話は進んでおり、どうやら政府の会議で出ていた通りユウヒに龍の対処をお願いしているようだ。


 そんな未来を感知していたから不機嫌になり始めたらしい明華、そんな彼女から視線を逸らすユウヒは、逸らした先で小さな友人二人に見詰められ、思わず龍の危険性に関して言葉を濁す。


「基本攻撃しないで平和的に話し合えば大丈夫だと思います。えぇ有識者がそう言ってますので、いえ以前の彼女とは違います」

 じっと見つめてくる妖精がその視線で訴えている感情を読み取ったユウヒは、小さくため息を洩らすと、龍の危険性を若干下方修正して伝える。実際それほど間違っているわけでもない内容は、前提としてマルーンとアーフの協力、そしてユウヒ自身が前面に立つ必要があり、その事を面倒だと思ったユウヒも小さな妖精の涙目には勝てなかったようだ。


「彼女?」


「……」

 一方、ユウヒと石木の電話に耳を澄ませていた明華は、ユウヒの口から彼女と言う言葉が出た瞬間目を見開いて穴が開きそうな視線をユウヒの横顔に向け、反対側からは無表情になった流華が同じようにユウヒの横顔を見詰めている。


「そっちの彼女と違うだろ」


「えぇそうですね。そっちの方がこちらも移動距離が短くて助かります。あ、それ良いですけど空いてますかね? え? あーそっちは何とも、でもだいぶ薄くなってる気はします」

 左右から注がれる圧力を伴った視線から逃げるようにアーフと見つめ合うユウヒに目を向けた勇治は、妙な視線を向けている女性陣を眺めると呆れた様に呟き、その呟きに明華は射殺すような視線を疑惑の視線にまで緩めると勇治と視線で語り合い始め、流華は急に顔を赤くすると乳酸飲料をちびちび飲んで頬の熱さを誤魔化す。


「ふぅん」


「ええ、楽しみにしてます」

 勇治と一通り語り合た明華は、一応納得したような表情を浮かべるとユウヒのスマホから聞こえて来た話し声に頬を緩め立ち上がる。


「ユウちゃぁん」


「母さんはダメ」

 ユウヒが通話を終わらせたスマホからは、龍と会うための段取りが聞こえていたのだが、その際に温泉宿への宿泊の話も上がっていた。その旅館に対して楽しみだと締めくくり通話を終わらせたユウヒは、猫撫で声で近づいてくる明華の続く言葉が出る前に短い言葉で断ち切る。


「む」

 会話を先回りして遮断された明華は不服そうに頬を膨らませ口を窄め、


「ならとうさ「駄目!」えー……」

 変わりにとでも言いたげな声でユウヒに近付く勇治の言葉を物理的に遮断する。


 どこからか取り出したハリセンで後頭部を軽快に叩かれた勇治は、しょんぼりした表情で不服の声を洩らしながら渋々椅子に座り直すと、膝の上に座てくる明華と見つめ合い無言で彼女の頭を撫でるのであった。


「ん?」


「二人は来てくれ、ちょっと龍に挨拶がてら旅行に行くことになったから」


「え!?」

 一方、どこか期待した視線をチラチラユウヒに向けていた流華は、ユウヒがマルーンとアーフに声をかけたことで驚きの声を洩らし、慌ててまた乳酸飲料をちびちび飲み視線を逸らす。


「旅行! いいわね!」


「素晴らしい提案だ」

 挙動不審な妹に小首を傾げるユウヒは、二人の小さな友人に簡単に経緯を説明し、説明を聞いたマルーンは花開くように笑みを浮かべ喜び、いつも表情が変わらないアーフも見るからに興奮した様子でユウヒの提案を称賛する。


「お兄ちゃん……」


「あぁそっちにもちゃんと付き合うよ」


「……うん」

 喜び飛び上がる妖精たちに笑みを浮かべるユウヒを見詰める流華は、思わず感情のままに兄を呼んでしまう。その声に振り返ったユウヒは、彼女との約束を思い出すと柔らかな笑みを浮かべてそっちの約束も忘れてないと笑って見せる。


「……」


「はぁ」

 約束を忘れていないと言う事に僅かな喜びを感じる反面、そうではないと言いたげな不満の表情を浮かべる流華。そんな娘の姿に何とも言えない微妙な表情を浮かべる夫婦は、ユウヒの妙な鈍さに溜息を洩らすのであった。


 自宅でゆっくりとした休日を過ごすつもりだったユウヒは、またも国の力に振り回されるようだが、果たして次はどんな出会いが待っているのか、期待と気怠さの混ざった笑みを浮かべるユウヒは、燥ぐ妖精たちを見ながら小さく聞こえないほどの溜息を洩らす。



 いかがでしたでしょうか?


 次々と日本を襲う危機的状況に度々駆り出されるユウヒ。そろそろ明華のフラストレーションが危険な気もするのだが、そんな日常の中でユウヒにはどんな未来が待っているのか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、読了評価感想等に感謝しつつこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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