第二百二十八話 予感と言う予言
どうもHekutoです。
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『予感と言う予言』
天野家で引き籠り令が出され、妖精が家や庭を一日中飛び回り朝になるとユウヒのベッドに飛び来んで寝付いた翌日、二人の小さな妖精の行動に小首を傾げながらも、タオルケットを掛けてあげたユウヒは、ぐっすり眠り続ける妖精を横目にリビングに降りると、朝ごはんも早々に自衛隊が管理している調査ドームにやって来ていた。
「というわけで明日は休みます」
「どういうわけなんでしょう? いえ、休んで頂くのは一向にかまわないのですよ? 寧ろこちらの準備が整うまでしっかり休んで頂きたいところなのですが・・・」
完全顔パスでドームの中に入ったユウヒは、慌ただしく出てきた調査ドームの代表者と忍者を前に開口一番明日は休むと告げる。前提となる話題無しに告げられた言葉を聞き思わず問いかける男性自衛隊員は、すぐに姿勢を正すと申し訳なさそうに頭を掻きながら詳しい説明を求める様に話し出してチラリと忍者達にも目を向けた。
「是非皆さんも明日は余裕をもって過ごしてもらいたいかなと・・・」
「明日ですか? なにかありましたかね?」
男性自衛隊員同様に不思議そうな表情を浮かべている忍者達の視線を受け、ユウヒはいつもと変わらぬ表情で自衛隊にも休んでほしいと話す。
「ユウヒ、また悪い予感か?」
「怖いなぁ怖いなぁやだなぁやだなぁ」
「ホラーでござるな」
ユウヒの言葉を聞いて、男性自衛隊員が余計に困惑して眉を寄せる一方で、三人の悪友は何かを察した様でとても嫌そうに表情を浮かべ、火を見るより明らかだがとりあえず聞いておこうとジライダが問いかける。その後ろでは生気の抜けたように影の落ちた表情でヒゾウがぼそぼそ呟いており、彼の言葉に同意するように頷いたゴエンモはユウヒをじっと見つめた。
「夏の風物詩だな、じゃねぇよ。母さんから強制引きこもりを言い渡されて、俺も良くない話をいくつか仕入れてな」
まるでこれから話される内容がホラーだとでも言いたげな視線に頷くユウヒは、ノリツッコミを交えながら苦笑いを浮かべると、今回は自分の予感ではなく母親の方だと話し、それ以外にも良くない情報を耳にしたと言って肩を竦めて見せる。
「ユウヒ殿のご母堂でござるか・・・たしか」
「ユウヒ以上の勘の持ち主だったな」
「あ……オワタ?」
ユウヒから母親の話を聞いていた三人は思わずびくりと震えると、思わず丁寧な口調になって絶望にも似た表情で虚空を見詰めだす。大抵の事は笑って流す人物が発する突然の警戒はよほど恐ろしい様だ。
「良くない話と言うのは?」
「ちょっと中国のドーム跡地に詳しい奴から聞いたんだけど、そこにはとんでもない龍が住んでいるらしくて」
忍者たちの様子を見て表情を引き締めた男性自衛隊員は、ユウヒが仕入れたと言う良くない話について問いかける。それはマルーンとアーフが嬉々として話した龍についての話で、中途半端にしか聞けなかった話だけでも、その危険性は計り知れない。
「りゅう、ですか・・・それは石木大臣には?」
「そういえばまだ詳しく話してないな、あまり立て続けに心労を与えちゃ悪いしなぁ」
何が起こるか分からない不安で、すっかり石木に話す事を忘れていたユウヒは、男性の言葉でその事を思い出す。すぐに連絡が必要かと思い至るユウヒであるが、しかし短い期間でショッキングな内容を立て続けに伝えるのもどうだろうかと悩み、腕を組みながら難しい表情で唸りはじめる。
「そういう問題ではない様な・・・」
「でも外国の話だろ? 知ってもどうしようもなくね?」
「しかし、知らんのと知っているのは大分違うぞ?」
「そうでござるなぁ」
石木の心労を気にするユウヒに対して、男性自衛官は至極尤もなツッコミを入れるのだが、日々心労を蓄積している石木を知る忍者は何とも言えない顔を突き合わせながら話し合い、そんな言葉にユウヒも頷き思案していた。
「そうかぁ、後で連絡しとくか」
結果ユウヒはこの後石木に連絡することとなり、それは政府に新たな騒ぎと会議の時間を増加させることになるのだが、それはまた別の話である。
「それで、その龍はどのくらいやばい?」
ジャージ姿となっている今は連絡手段が手元にないユウヒがゲートに目を向けていると、ジライダが話題に上がっている龍の強さについて問いかけ、とんでもない龍に対しての好奇心で溢れる三人に目を向けたユウヒは苦笑を洩らしながら口を開いた。
「わからん……が、たぶん亀レベルかも? いや、それ以上かなぁ?」
「「「・・・マジか」」」
「・・・」
ゆっくり開いた口から最初に零れ出た言葉にどこかがっかりした表情を浮かべる三人であったが、ユウヒが眉を顰め悩みながら話す内容を聞くと呆れた調子で呟く。予想すら出来ないと言う龍の存在に興味を持つ忍者達も、あまりに強大な相手を前にしたくないのは一般人と同様で、四人の会話を聞く男性は、様子を見に来た同僚と共に険しい表情を浮かべるのであった。
それから数時間後、ユウヒから伝えられた情報について政府内では緊急の会議が開かれていた。あまりに急な事ですべての人間がPCを前にしたリモートでの会議となっており、大きなモニターに分割されて映る面々の顔はあまりに優れない。
「ユウヒからの懸案事項は以上だ」
「ふむ・・・」
「うぅむ・・・」
事前にその存在が疑われていた龍だけで深刻であるにも関わらず、そのほかにもいくつか気になる情報を聞かされた石木の表情は険しく歪んでいる。なにせ彼らにとって非常に心強くも恐ろしい女性の予言があったと言うのだから、集まった面々の心情は穏やかではない。
「その龍と言うのは飛ぶそうだが、日本まで飛来する能力があるのかね?」
「聞いた話だけじゃそこまで分からんが、ユウヒ曰くあるんじゃないかと言う事だ。また赤狐が外出を禁止したと言う事は、タイミングから考えても何かしら日本に影響があると言う事だろう」
突然齎された情報から高い飛行能力を有すると思われる龍であるが、日本に直接飛来する可能性はユウヒ曰く、わりと高いのではないかと言うもので、どこか違和感を感じる彼の声を思い出す石木は、赤狐が急に外出禁止を言い出したことも、これらに関係がありそうだと話す。
「影響、外出を禁止する様な……」
神憑り的な勘で幾度も日本を救った英雄である明華、その彼女が慌ただしくユウヒ達に外出禁止を言い渡すと言う行為が、非常に危険な事態の接近を告げているであろうことは、彼女との付き合いがあるものであれば考え付く事の様だ。
「まさか、中国ドームが爆発した際の様な事が起きるのでは?」
「なるほどな・・・あり得ないとは言えんな」
日本では作為的な報道によって一般にはあまり知られていない明華達傭兵団であるが、彼女たちの存在が無ければ最悪日本は存在しておらず、明華の発言は現在も政府内で予言の様に扱われている。彼女が引き籠らないといけないほどの危険となれば、以前にも起きた様な全世界的な意識喪失事件も起きかねず、その可能性に誰しも難しい表情で唸った。
「交通規制の必要がありますね」
「しかし急には……」
中国ドームの崩壊時に発生した不活性魔力の波では、直接的な死人こそ出ていないものの多くの負傷者や事故が起きており、詳しい調査によって二次被害では少なくない死者も出ている。被害の大半は交通事故などであり、同じような状況を想定するなら先ずは交通規制が必要になって来るだろう。
「今日中に出さないと間に合わないでしょうから計画運休を指示しておきます。最低でも交通機関の本数や入場を規制する方向で進めないと」
「出来そうですか?」
急に言われて出来るものではないと言いたげな男性を後目に、石木の見詰めるPCのディスプレイの中で手を上げた男性は、すぐに指示を出すと話しながら驚いた表情を浮かべる若い男性に目を向け、阿賀野の問いかけに頷く。
「本数制限なら大丈夫でしょう……経済への影響はかなりあるでしょうが」
「事故が起きるよりはマシだろ」
経済損失を考えなければいくらでも可能だと言外に語る男性に、表情を曇らせる者は多く、多少に悩まし気に眉を寄せながらも石木の様に割り切っている人間はそう多くないようだ。
「しかし航空各社が言う事を聞くか・・・」
「緊急事態だぞ?」
「しかし本当にそんなことが起きるとは限らないのですよ?」
また、電車や高速道路などの公共交通機関に関しては制御可能なようであるが、民間企業や海外企業が多い航空各社には要請しか出来ず、必ず運休してくれるとは限らない。なぜなら人間とは直面した危機に対して動けても、事前の予想予報に対しては非常に動きが鈍くなるのだ。
「そんなこと言ってる場合か、この間の中国ドームの爆発被害がどれだけ出た? どんだけ死んだ?」
「それは・・・しかし情報が」
先ほどから困ったように表情を暗くしている若い男性も、そういった懸念から言葉を濁している様で、彼は明華の予言めいた行動を信用できないのか、まるで目の前の会議が質の悪い夢のように思えていた。
「あるわけないだろ、俺らには知るすべもない異次元の話だぞ」
「ですから」
予感と言う不確定要素を元に行動することは、一般的に考えて危険しかなく、国家の運営を行うものがそんなものに頼るなど本来ならありえない。しかしこの世にはそう言った常識が通用しない世界が多数存在し、そう言った領域に触れた者は大抵が自分の考えの方を改めることになる。そのような経験を経ていない若い男性を、どこか生暖かく見詰め苦笑する石木は、自衛隊の制服を窮屈そうに着こなす男性に目を向け目で問いかけた。
「何か少しでも我々に解る情報ですか……」
自衛官らしい男性は石木の視線から何を問うているのか察すると、顎を扱きながら低い声で呟き、平気な顔で難しい注文をして来て頷く石木に小さく眉を寄せる。
「衛星写真は?」
「分厚い雲で何も見えないんですよあの山」
中国ドーム跡地に出現した巨大すぎる山は、これまでにも衛星すずらんから撮影が行われているのだが、山の頂上以外は常に厚い雲が垂れ込めており、それらに遮られた山の全貌は杳として知れない。当然単純な撮影だけではなく赤外線やレーダーなどを使った特殊な撮影も行っており、それでもなお情報が収集できていない。これにより自衛隊はこの雲が魔力などの未知の性質を持っているとして、一度はユウヒに相談しているが、直接見ないと解らないと言う言葉によって現在は匙を投げていたりする。
「むぅ」
「とりあえず協力要請を出す! 後は出たとこ勝負で逝くしかないだろ」
そう言った説明を聞いた面々はまた難しい表情で唸り、石木が眺める画面のあちこちから野太い声と溜息が聞こえて来た。それでも今は時間がないと大きな声で注意を引いた石木は、同意を求める様に行動を促す。
「石木さん、ニュアンスがおかしいのですが・・・まぁそうするしかないでしょうね、責任は私がとりましょう」
「阿賀野さん・・・」
しかし、この場で最終決定を下すのは画面の隅で苦笑を洩らす阿賀野であり、集まる視線に肩を竦めた彼は、石木の妙なニュアンスに軽くつっこむと幾分明るい調子で責任は自分がとると言って迅速な行動方針に許可を出した。
「なに、結果として事態の収拾に寄与出来れば支持率も上がるでしょ? ふはははは!」
「はぁ・・・来期もやるつもりなんですね」
その発言の中には今後の政治活動に対する計算も入っている様だが、呆れた声に対して笑う阿賀野の発言をまともに信じている者は少ないらしく、画面に映る人々の目はどこか生暖かい。
「さて? それはどうですかな」
「・・・・・・よし、とりあえず決まりだ。すぐに取り掛かるぞ」
向けられる視線の気配に片眉を上げてお道化る阿賀野に、鼻息を洩らし呆れた表情を浮かべた石木は、手を叩いて注目を集めると簡単に分担を決めて動き出す。実際に動くのは彼らの部下になるのだが、代表者が直接声をかける必要がある場所は少なくはなく、彼らはその日一週間分ほどの電話をする羽目になるのであった。
政府内部の慌ただしさが増し、その動きを嗅ぎつけた人々が様々な想像を元に動き出している頃、その日のうちに休むことを勧められたユウヒは、日の落ちた外と部屋の空気を入れ替える為に開け放たれた窓の外から時折聞こえてくる風鈴の音に耳を傾けながら、テーブルの上の通信機に目を向けている。
「わかった、何が起きるか解らないのなら念のためにポッドに籠っておくわ。あれって救命ポッドにもなるから」
「そう言えばそんな物もあるんだっけ? 見てみたかったな」
通信機となれば相手は兎夏しかおらず、ユウヒから明華の感じた勘と妖精から聞いた情報を聞いた彼女は、しばらく無言で頭を抱えていたかと思うと勢いよく顔を上げ、どこか悟った様な表情でポッドに籠ると話す。
以前にも不活性魔力から身を守るため、兎夏が籠ったポッドと言う存在を思い出したユウヒは、視線を上で彷徨わせながら兎夏の家を訪れた時の光景を思い出し、それらしいものが無かった事に対して、ただ純粋に好奇心で見てみたかったと呟く。
「・・・・・・・・・えっち」
「えぇえ!? そういうものなの?」
そんな発言に対して、通信機の向こうの兎夏は白い肌を赤く染め上げると、上目遣いでユウヒを睨み苦情をぶつけてくる。
「だって、ベッドみたいなものじゃない、寝室になんて入れないわよ」
「あぁそう言う・・・すまん、配慮に欠けた」
何日も籠ることを前提に作られたポッドは、当然寝具として高品質な造りとなっているが、敢えて彼女も触れなかったもののそこには排泄を補助する装置も搭載されており、そんなものを見られると思えば羞恥に顔を染めてもおかしくはない。
「別に、いいけど・・・とりあえず無茶しないでね?」
「善処する」
彼女の心中まで察していないユウヒは、申し訳なさそうに頭を掻きつつ、話を変えた兎夏にわざとらしく作った顔で今一つ信用なら無い返事を返す。
「そんなキメ顔で言われても……」
そのあまりにきな臭い態度を見て思わず笑い顔を背けた兎夏は、力なく睨む様な横目でユウヒを見詰めると、空気を換えようとした彼に溜息を洩らし微笑む。
「はは、それじゃな・・・おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
妙な微笑みと視線に戸惑うユウヒは、ぎこちない笑みを浮かべながら通信機に手を伸ばすと、兎夏も小さく笑いながら手を振って通信画面を切断する。
「……」
真っ暗になった通信機の画面を見ながら肩を落としたユウヒは、無言で部屋を見回すとそのままゆっくり窓の外を見上げ、
「ふぅ」
「ユウヒー!」
「ただいま」
日中と比べてずいぶん涼しく感じる夏の生ぬるい空気、そんな新鮮な空気を深く吸って大きくため息を吐いた。謎の緊張感を思い出し首を傾げたユウヒがもう一度星空に目を向けると、蚊よけの結界を突き破りトンボの様に透き通った羽根はためかせるマルーンとアーフが飛び込んでくる。
「おかえり、満足したか?」
「完璧よ!」
「もしもの時はよろしくね」
何をしていたのか詳しく聞いてないが、連日慌ただしく飛び回っていた二人の仕事は終わった様で、ユウヒの前に降り立つと額に光る汗を腕で拭いながらもしもの時はよろしくと謎のお願いを告げた。
「よくわからんが分かった」
妙な予感を感じるが、漠然とどうしようもない気配を感じたユウヒは、諦めた様な笑みを浮かべると了承する。
「よかった! 私も手伝うから泥船に乗ったつもりで居てね!」
「それ沈むだろ」
自然と笑みが苦笑いに変わっていくユウヒを見上げるマルーンは、ほっとした様に息を吐くと花開くように笑みを輝かせ、起伏の少ない胸を張って日本語で話す。最近流華から習ったらしい難しい日本語を使う彼女に、微笑まし気な表情を浮かべるユウヒであるが、その言葉がフラグの様な気がしたのか余計に引き攣る笑みで突っ込む。
「あれ? 違ったかしら・・・やっぱり日本語は難しいわね」
「練習あるのみ……ふんふん!」
「・・・ふむ」
ユウヒのツッコミにキョトンとした表情を浮かべたマルーンは、口を窄めて難しいと不満を零すと、隣で珍しく鼻息荒く気合を入れているアーフを見て、今度は太陽の様に笑って流華を探す為に飛び立つ。彼女たちが日本語を話す日も近いかと感慨深げな表情を浮かべるユウヒは、全身を使い二人でドアを開け放ち飛び出していく妖精を見送ると、肩を竦めながら窓とドアを閉めるために立ち上がる。
のんびりとした空気が流れる中、母親の警戒する何かを感じないユウヒは、漠然とした小さな不安を窓の外に吐き出すと、隣の部屋から僅かに聞こえた声に気が付き楽しそうな笑みを浮かべた。果たして彼らに何が近づいて居るのか、それはすぐにわかるのであろうか……。
いかがでしたでしょうか?
一般とは違う世界では存在するとされる予言、それを受けた日本を中心に慌ただしくなる世界では、誰が何をやらかし何が引き起こされるのか、次回も地味に何かやらかしているユウヒの物語をお楽しみください。
読了評価感想に感謝しつつ、またここでお会いしましょう。さようならー




