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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百二十七話 彼女の予感

 おはようこんにちわこんばんはHekutoです。


 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『彼女の予感』


 ユウヒと忍者と政府関係者が、報告会と言う情報のすり合わせを行った翌日。


「周辺住民への説明と封鎖作業に数日かかりますので、すぐには無理だと思います」


「わかりました。急な提案でしたし、こちらはいつでも行ける様に準備しておきますので」

 ユウヒの姿は調査ドームの中にあった。僅かに光を灯すレリーフが彫り込まれた壁の内側で、ユウヒはかしこまった様子の自衛隊員から何かの説明を受けているのだが、


「了解しました。完了の目途が付き次第連絡いたします」


「よろしくお願いします」

 男性の説明する姿がどう考えても目上や上司に行う様なものにしか見えず、ユウヒを見つけて歩いてくる忍者達には、説明されるユウヒの顔が微妙に困っているように見える。


「材料の用意できたぞ?」

「あと黒石も箱詰めしておいたけど何すんの?」


 ドームの安定化作業時はどうしても安全の為、周辺住民には一時的に避難をしてもらわなくてはならない。しかしお願いしてもすぐに動けないのが群集と言うものであり、ユウヒの見積もりでは自衛隊の説明と封鎖作業より早く安定化の準備が終わりそうであった。


 そんなユウヒがジライダ達を扱き使っていったい何をしているのかと言うと、


「活性化装置を撤去して新しいのに変えようと思って」

 いつもの如く半分趣味の様な工作作業である。


「え? 壊れそうとか?」


「いや? 今の状態はあまり効率よくないから、本格的に黒石を燃料にする形にしようかと、安全に保管もも出来て一石二鳥だろ?」

 既にその存在理由を達成した魔力活性化装置は、新たなるひらめきを得た創造主の手によってアップグレードと言う名の魔改造を施される様だ。


「今の奴も黒石使ってなかったか?」


「ちょっと使い方が違う感じ、まぁあんなにいっぱいあっても危ないだけだし」

 不活性魔力の吸収装置などに使われている黒石であるが、放置しておくと勝手に不活性魔力を吸収して、飽和状態なると毒電波を発生させてしまう。素材としてはとても重宝するが、その特性もあって保管には神経を使う物質、それを安全に保管しながら有効活用する方法を思いついたらしいユウヒは、箱詰めされた黒石を抱えながら危ないだけとつぶやく。


「まぁ確かに、また教授がひっくり返ってたしな」

「あれが紙一重なタイプなんだろうな」


 実際外に放置されている黒石は、民間協力の教授たちが調査の為に持ち出し、扱いを間違えて気を失うと言う事を繰り返しており、接触禁止を自衛隊から言い渡された現在もそれは続いている。


「実学だよ」


「どんだけ学ぶんだYO!」

 何故か人を引き寄せる魅力がある黒石による被害を聞いているユウヒは、両開きの扉が開かれた装置の中に木箱を置くと、どこか悟った様な表情で呟き、同じ穴の狢と言う言葉が脳裏を駆けて行ったヒゾウに裏拳付きのツッコミを受けるのであった。





 それから数時間後、黒石を箱詰めしてはユウヒの下に運ぶことを繰り替えしていた忍者の三人は、採取してあった黒石をすべて運び終えると、そのまま誘引されてきた教授たちの牽制任務に就いていた。


「これで良し、あとは保護装置の確認をしたら起動させよう」

 それも、彼らに頼まれたユウヒが即席で作った保護装置が起動するまでの仕事であり、終われば長い休憩とあってか、忍者達もさぼることなく這い寄る大学関係者を縛り上げている。


「ユウヒ君そっちはどうかしら?」

 どこか憂さ晴らしの様にも見える鬼ごっこを後目に、一人作業を続けるユウヒの耳に兎夏の幾分高い声が聞こえて来た。周囲にユウヒしか居ない時はフィルミングスーツの機能を停止させ始めた彼女の声に、作業の手を止めたユウヒは工具を置いて左腕を顔の前まで上げる。


「特に問題ないかな、レリーフはすっかり光が落ちちゃてるけど」


「なんでかしらね?」

 少し傷の目立ち始めた通信機の画面に目を向けたユウヒは、暗がりに映える真っ白な髪と肌の兎夏を見詰めると、その真っ赤な瞳に向かって笑みを浮かべて口を開く。アミールとの通信を最後に光が消えたレリーフであるが、その光はより感じられなくなっており、本当に真っ暗な時だけ薄ら輪郭が見える程度になっていた。


「わからんね、向こうの世界との繋がりが薄くなってるからその所為かもしれないけど」


「何もなければいいけど・・・」

 その理由は、アミールが現在進行形で怒って保護者との通話を拒否している理由に繋がるのだが、それらの事を知る術がない二人は、対照的な表情を浮かべ合いながら唸る。


「大丈夫でしょ、それより安定化の準備はどう?」

 不安のにじみ出る表情を浮かべる兎夏に対して、気にした様子の無いユウヒは肩を竦めて見せると、休憩用に作った木箱の椅子に腰かけながら彼女の気を逸らす様に話題を変えた。


「順調よ、今日中には余裕を持って終わるわね。ふふん、次はもっと早く出来そうよ?」


「RTAじゃないんだからゆっくりで構わないんだけど・・・。うん、それじゃあ後は自衛隊待ちか」

 どうやらドームの安定化に必要な作業は、彼女の慣れもあってか自衛隊の準備より早く終りそうである。速さを求める様な彼女の言葉に僅かな不安を感じるユウヒは、出来上がったばかり魔力活性化装置兼、黒石保管庫を眺めながら暇が出来たと息を吐く。


「どうやら市民団体と言う人たちが立ち退きを拒んでるらしいわ」


「何処の市民なんだか」

 一方で一息もつけないのが調査ドームに詰めている自衛隊員達である。急遽前倒しになったドームの安定化作業により、周辺住民への説明や退避の手伝い、また新たな侵入などを防止するためのバリケード設置など仕事は多岐にわたり、その中でも一番意味がなく面倒なのが抗議団体への対処だ。


「何処の人かしらね? 少なくとも土地の所有者ではないわね、不法占拠で訴えが出ているから、すぐに強制排除されるんじゃないかしら?」


「なんだかなぁ・・・」

 難癖をつけて抗議を繰り返す人々と言うのは、いつの時代でも一定数は存在する。その大半が利権や思想などによって行動する組織に雇われた人間であり、特に現在調査ドーム周辺にたむろしている団体は、近隣の住民など一人も存在せず、そればかりかすでに犯罪行為に片足を突っ込んでおり、強制排除されるのも時間の問題の様だ。


「こっちの件もあって、自衛隊と警察が連携して全国のドーム警備と立ち退きを進めているみたい、縮小作業も加速度的に進むわね」


「忙しくなりそうだな」

 だが、それらの抗議集会も悪い影響ばかりではない様で、市民団体による度重なる抗議と言う名の違法行為に嫌気のさした世論と国は、面倒な事になる前にと協力して全国のドーム周辺への対策を加速させていた。


「さっさとこんな状況終わらせたいから頑張るわ」

 当然そうなると忙しくなるのがドームの安定化作業を一手に引き受けている兎夏である。しかし、ユウヒの協力者と言う事で周知されている彼女の仕事量は、安定化したドームが増えるのに反して減っていくため、むしろ望むところだと言いたげな笑みを浮かべるとユウヒに向かって無い胸を張って見せた。


「そだな、俺もやりたいことあるしな」


「なにかしら?」

 そんな元気を見せる兎夏に生暖かい笑みを浮かべたユウヒでるが、彼も面倒な仕事はさっさと終わらせるタイプの人間であり、同時に自分の趣味の為ならいくらでも頑張れる。それ故、やりたいことをやる暇を作るためなら、強制的な休みまで返上して働くであろう。


「・・・ひみつ」


「え、ものすごく不安なんだけど・・・」

 だが、彼のやりたいこと事と言うのは大抵自重と言う言葉の外側にある行為であり、そのことを何となく察してしまった兎夏は、楽しそうに微笑み秘密と呟くユウヒの横顔を見詰めると真面目な表情で不安を洩らす。


「なんでだよ・・・」

 素で不安を洩らされたユウヒは、心底心外そうに眉を寄せながら通信機の向こうの赤い瞳を見詰めるも、


「むしろなんでわからないのかしらね」


「えー?」

 跳ね返ってくるのは呆れた表情と言葉しかなく、画面いっぱいに映った兎夏の顔を見詰めたユウヒはどこか子供っぽく不服そうな声を洩らすのであった。


「・・・カハッ!?」

「いちゃこらしおってからに・・・」

「ラブい匂いが・・・ぐふっ」


 どこか甘い香りのする様な慣れ合いの空気は、活性化施設を囲んでいる塀の入り口にまで漂っていたらしく、運悪く中を除いていた忍者達はその空気を肺いっぱいに吸ってしまい、ゴエンモは吐血、ジライダは壁に引っかき傷を残し、ヒゾウは胸を押さえながら仲良く地面に倒れ込む。


「何やってるんだか・・・」

 その様子に、周囲の自衛隊員たちは特に慌てることなく呆れた表情を一つ浮かべると、すぐに自分たちの仕事に戻り、彼らの担当となっている女性自衛隊員は溜息を吐いて背中を丸めると、楽しそうにも見える苦笑を浮かべながら歩き出す。





 甘い空気に晒された忍者三人から、八つ当たり気味な苦情を受けたユウヒが、心底意味が解らないと言った様子で首を傾げながら調査ドームを後にした日の夕食時、


「ユウちゃん」

 凝り過ぎて時間の掛かっている夕飯の準備を突然中断した明華は、キッチンから出てくるとリビングのソファーに座ってテレビを見ているユウヒに呼び掛ける。


「ん?」


「明後日は家にいなさい」

 今リビングに居るのは明華とユウヒと流華の三人なのだが、ソファーの少し低めの背にだらしなく背中を預けるユウヒは、ソファーの背に乗り上げる様に顔を明華に向けると、間髪入れずに告げられた言葉に対して不思議そうに目を瞬かせた。


「んー・・・いいけど?」

 少し離れた場所から真剣な表情で見下ろしてくる母親に何か感じたユウヒは、どこか珍しそうに間延びした声を洩らすと、軽い返事で了承する。


「流華ちゃんも」


「え? 私、学校だよ?」

 そんな二人の様子を、リビングテーブルに寝そべりながら眺めていた流華は、まさか自分にまで言ってくるとは思っていなかったのか驚いて勢いよく起き上がると、そのまま椅子から立ち上がり眉を寄せた。明後日は平日であり夏休みの終わった流華は学校に行かなくてはならないのだ。


「明後日は休みにしまーす」


「えぇ・・・」

 普通に考えていきなり学校を休めなどと言う親がいるだろうかと、若干悩むも自分の母親が普通じゃないことをすぐに思い出すと拒否する言葉を告げるため口を開くも、そこから音が発せられる前に明華は決定事項だときっぱり言い切る。


「明後日はみんな家にいます! 反論は許しません」


「親としてどうなのそれ?」

 明華がこうなってしまってはどうする事も出来ないと諦めて椅子に座る流華であるが、しかしその口から苦情を吐き出す事は止めない。学校が大好きというわけではないものの、行けないとなるとそれはそれで面白くない流華であるが、ソファーの背に肘をついたユウヒの視線に気が付きそちらへ目を向ける。


「何かあるんだろ?」


「何かって?」

 不服そうな表情で振り向く妹の姿に苦笑した兄は、母親の行動に違和感しか感じず何かあるのだろうと話すも、家族で一番そう言った勘に鈍い流華は口を窄めてユウヒをじっと見つめ問いかけた。


「さぁ?」

 そんな問いかけに対する返事が解らないと言いたげな声と表情と言う事に、流華は珍しげな表情で目を見開く。大抵こう言った時はユウヒも何かを明確から感じ取るのだが、今回はまだ何も感じてないらしく、ただ母親の妙な雰囲気から察しただけのようだ。


「明後日は危ない気がするのよ」


「・・・しょうがないなぁ、連絡はお母さんがしてよね」

 兄妹で見つめ合う姿に頬を膨らませた明華は、二人の視線を自らの体で遮ると、ユウヒに背中を向けて明後日は危ない日だと告げる。その効果は絶大で、それまで嫌そうな雰囲気を漂わせていた流華は驚いた表情を浮かべると、納得した様に椅子の背凭れに体を預け、了承の返事と共にテーブルに置いていたスマホを手に取り弄り始めた。


「ちゃんとしておくわ、あの日って!」


「ちょやめてよ!?」

 素直に言うことを聞いて友人に連絡する流華に笑みを浮かべた明華は、くすくすと笑いながら娘を揶揄う。


「・・・男が居るんですが」

 女性同士のあられもない会話を前にいくら家族とは言え若干の羞恥を感じ、また感じてほしいと思うユウヒは、ソファーの上で体をずり落とし傾けると不平を呟く。


「ユウちゃんならいいのよ、ね?」


「べ、べつに・・・」

 そんなユウヒの言葉に対して、天野家の女性陣は若干反応の違いはあれど気にしない様で、一人気にしているユウヒは、何とも絶妙に嫌そうな表情を浮かべると、その場を離れるべくソファーからゆっくり立ち上がる。


「何ならお母さんが体の隅からすむぐー!?」

 しかし魔王めいかからは逃げられない! ゆっくり立ち上がりその場を離れるユウヒに対して即座に動く肉食動物の様に目を輝かせた明華、あとちょっとで後ろから羽交い絞めにされそうなユウヒであったが、そこに救世主が現れた。


「お兄ちゃん!!」


「はいはい、退散するよ」

 明華も驚くほどの速さで動いた流華は、勢いよく母親の背後に飛び掛かると、その背中に抱き着き片腕で首を絞め、もう反対の手で口を塞ぐとユウヒに向かって叫ぶ。目を白黒させる珍しい母親と、顔を赤くする妹のコントラストに疲れを感じたユウヒは、溜息一つ漏らしてその場を後にする。


「むむむー」


「お母さんしゃべらないでよくすぐったい、ちょ擽らないで、あん!」


「仲いいよなぁ」

 リビングを出て扉を閉めたユウヒの背後からは、今も戯れ続ける母娘の声が聞こえてきて、そのどこか艶のある声に呆れた表情を浮かべると、呆れた声で呟き階段に足をかけた彼は、


「あん♪ 流華ちゃんのえっちー!」


「―――!?」


「‥‥‥」

 さらに聞こえて来た母親のお道化た声と妹の叫び声に無言で肩を落とした。


「あ、ユウヒどうしたの?」


「下、騒がしい」

 なんとも重い足取りで階段を上り始めたユウヒであるが、その歩みを止める様に頭上から声がかかる。それは中国ドームの向こうからやってきた小さな妖精のマルーンとアーフ、彼女たちは一階の騒ぎを聞きつけやってきたようで、出くわしたユウヒの疲れた様子に気遣わし気な声で話しかける。


「なんでもないよ、仲の良い親子の戯れさ」


「ふーん?」

 未だにリビングで騒いでいる母娘の声に不思議そうな表情を浮かべたマルーンは、最近少し薄く茶色になり始めた髪をふわりと躍らせ階段を上るユウヒの背中に続く。


「それより二人に聞きたいんだけど」


「なになに?」


「なんでも聞いていいよ」

 ゆっくり歩くユウヒに纏わりつくことにしたらしい二人は、声をかけられると嬉しそうに笑みを浮かべ両肩にむずと掴まり、じっとユウヒの顔を見上げる。何がうれしいのか分からないユウヒは、少し困惑するも両頬を擽る薄い色の柔らかな髪に笑みを浮かべ話し出す。


「君らが居た場所についてなんだけど、ドラゴンとか居るんだよな?」

 石木に呼ばれて話し合った席でも話題に出した中国ドーム跡地のドラゴン、以前に少し聞いていたがユウヒ自身詳しく聞いておきたいと思ったようだ。


「星龍の事?」

 そのドラゴンは星龍と言うらしく、以前にもそんな名前を聞いた気がしたユウヒが頷いて見せると二人は楽しそうな笑顔で見上げてくる。


「ほかにも強い生物とか、特徴? 面白い現象とか」


「いいよ! いっぱい話してあげる」

 それ以外にも彼女たちが住んでいた場所の情報が欲しいユウヒの言葉に、笑顔の輝きが増す二人はタイプの違う笑みで胸を張ると、何から話すかユウヒを先導するように飛び上がって話し合う。


「とりあえず星龍ってでかい? 飛ぶ?」

 相談する声が斜め上の方に行き始めていることを感じたユウヒは、自室の扉を開けながら話し合う二人に声をかける。


「飛ぶよ? 昔空から落ちて来て大きな山を作ったの、たまにしか飛ばないけど飛ぶと山が浮くの!」


「・・・・・・ほう」

 一気に冷気が流れ出してくる室内に足を踏み入れるユウヒの脇を抜けてベッドの上に飛び込んだ二人は、ユウヒの布団から顔を出して楽しそうに話し始めた。マルーン曰く、星龍と呼ばれる龍は彼女たちが住む山を創った龍であり、山をも浮かすような飛行能力を有していると言う。


「あとね、普段は寝てるけど怒ると怖いの」


「怖いとな、まぁ怒れば誰でも怖くなると思うが」

 予想以上に高い能力を持った龍の存在に興味深げな、それでいて諦めにも似た声を洩らしたユウヒは、怒ると怖いと話すマルーンと頷くアーフに、それはある意味当然ではないかと小首を傾げた。


「凄いんだよ? 遠吠えで空の雲が消し飛んで、口から息を拭き出したら森の木が地面と一緒に飛んでいくんだから」


「あと星を降らせるよ」


「・・・隕石、流れ星か?」

 しかし二人の口から飛び出る言葉はユウヒの想像を超えていたらしく、漠然とした脅威を感じていたユウヒも、星を降らせるとまで言われるとその顔に警戒の色を強める。小石程度の小さな物が空で爆発しただけでも大きな被害を生む隕石が、地表に激突した日にはどんな被害が出るか分からない。


「空に穴が開いてそこから出てくる」


「召喚系かな? とんでもないな」

 しかもその星とは、隕石や打ち上げた岩が降ってくるわけではなく、どこからか呼び出す類のもので、その危険性を想像したユウヒは呆れた表情を浮かべ肩を竦める。


「何もしなきゃ優しいよ?」

 そんな星竜は基本ちょっかいを出さなければ優しい龍だと話すマルーン。


「山には宝がいっぱいあるんだって、人間はそれが欲しいから来る。だからすごく追い返す」


「なるほどな・・・中国不味いかもしれないな」

 しかし、一方で山の宝に手を出そうものならその怒りは熾烈なようで、アーフは話しながら最近血色の良くなってきた顔を少し蒼くしていた。その表情がいかに龍の怒りが恐ろしいか如実に語っており、ユウヒは山の資源を狙って軍を動かす中国の話を思い出して頭を抱える。


「・・・何かあるの?」


「うーん二人が居たと思われる山がこっちの世界に来てるみたいでな? そこを襲おうとしてる人間がいるんだよ」

 勝手に攻め込む人間の安否を心配したところでしょうがないが、その行動がまた周りに被害を与えても困るユウヒは、二人に現状を伝えながらどうしたものかと頭を回す。


「あぁ‥‥‥でも、大丈夫だよ」


「そうね! しつこかったら飛んで行っちゃうから」


「飛んで・・・二人の仲間は?」

 困った表情を浮かべ話すユウヒの言葉に納得したように声を洩らしたアーフは、宙に視線を彷徨わせると大丈夫だと話す。しつこい相手だと飛んで行ってしまうと話す二人の言葉にまったく安心できないユウヒは、その場合彼女たちの仲間はどうするのだろうかと首を傾げる。


「星龍が行くなら私たちも一緒よ・・・そうだ! 道しるべ出しとくね!」

「そうだね、ここは安全だ」


「みち? ちょっと二人ともどこに行くんだ?」

 どこか致命的な行き違いを感じるユウヒは、もっと詳しく話を聞きたい様子であるが、何かを思いついた二人に彼の言葉は届いていない様で、慌ただしく飛び上がるとユウヒの部屋の窓を勢いよく開け放つ。


「家からは出ないから大丈夫よ!」

「屋根の上にいる」

 ユウヒの大きな声に振り返ったマルーンは家から出ないと言って窓から風の強くなってきた外に飛び出し、アーフも屋根の上にいると一言残しそのあとに続く。


「何か解らんが変なフラグ建てたかな?」

 いつも妙なところで鈍いユウヒであるが、今回は自分が建てたフラグの気配に気が付いたようで、しかしすでに気が付いたところで遅いと言う事も察したのか、温い空気と冷たい空気が入れ替わる室内で彼は何とも情けない顔で溜息を洩らすのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 新たな安定化の準備を進めるユウヒと邪魔する人々、そんな中で突然告げられた明華の良くない予感。果たして彼らの身に何が待ち受けているのか、そしてユウヒはまた何のフラグを建てたのか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。


 それでは、読了感想評価に感謝しつつ、またここでお会いしましょう。さようならー

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