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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百二十六話 隣国の動向

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『隣国の動向』


 簡素であるが什器の多いその部屋には、二人の男性が軍人然とした服装で向かい合っている。生地こそ夏用で薄く面積が少ないものの、そのデザインからは威圧的な雰囲気を感じられる。


「例の計画が前倒しされた」


「本当ですか?」

 徽章から目上と思われる男性は、椅子に深く座ったままデスクの前に立つ男性に呼び出した理由について話しているようだが、話を聞いた男性はその内容が信じられなかったのか思わずその真偽を問いかけてしまう。


「三日以内にドーム跡へ部隊の展開が決まった」


「・・・急ですね。部隊編成は変わらないのですか?」

 冗談など言う様な空気でないにも関わらず真偽を問う男性に対して、普通なら怒りもするところであろうが、椅子に座って男性を見上げる上官は、問い掛けたくなるのも分からないではないようで、小さく頭を縦に振って事実だと伝えると話を続ける。そんな自分の失態に気が付き背筋を伸ばした男性は、急だと呟き説明の先を促す。


「そうだ、ロシアとアメリカの現状を考えるに、跡地には危険な存在が要ると言う認識だ」


「・・・」

 どうやら彼らが話している計画と言うものは、ロシアとアメリカと言う国と跡地と言う言葉からドーム跡地についてのようで、上官の言葉に顔を引き締める男性。彼の表情を見ながら小さく鼻から息を吐いた上官は、机の上に置かれたコップで水を一口飲むとニヤリとした笑みを浮かべ口を開く。


「何、全てが敵と言う実に簡単な作戦だ。すべて殺せばいい、どうせ相手は人間ではないのだ」


「・・・しかし」

 不敵な笑みを浮かべた上官は、緊張した表情の男性に対して簡単な作戦だと話すも、言われた方はそれほど簡単な作戦だと言う認識はないようだ。


「これは救済なのだよ、資本主義に疲弊する人々を救うな。先ずは邪魔な山を制圧し陸地に平和を取り戻さない事には海の制圧も出来ん」


「はい」

 どうやらドーム跡地に対する作戦は、本来の計画に必要な手段の一つであって目的ではないらしい。言葉から伝わる不穏さによってか、それともドーム跡地で行われる作戦の困難さ故か、緊張した表情を崩さない男性は上官の話に短く答える。


「それにあれだけ巨大な山だ。どれだけの資源が眠っている事か・・・」


「・・・」

 中国の巨大ドームから出現した巨大な山は現在地球最大の山となっている。それほどの巨大な山を突然抱え込んだ中国の人間は、恐怖より先に富として見た様で、作戦と言うのはその山の資源開発なのかもしれない。





 そんな中国軍部の動きは日本にも捉えられており、人工衛星によって撮られた映像には、ドーム跡地周辺に展開する車両群がいくつも見られる。


「と言う情報が入っていてな」


「ドーム跡地の制圧ですか・・・」

 そしてより詳細な情報収集によって、彼等の作戦目標は巨山の資源開発の為に必要な基地建設と原生生物の殲滅であった。すでに核を使い箍の外れた中国軍は、強力な兵器を大量投入することですべての作戦を短期間で終わらせるつもりのようだ。


「かなりの兵力を投入するらしいと言う事は、偵察衛星からの情報でわかる。この場合どんな危険性が考えられるだろうか? 夕陽さんの意見を聞きたい」

 それらの説明をプロジェクターに映した資料と共に説明していた男性は、特徴的な制服を着ていることから自衛官のようで、ユウヒに今後考えられる危険性について意見が欲しいようだ。


「なんでしょうね? とりあえず半端ない被害が出ると思いますけど・・・。まぁ核兵器を使えば話は別かもしれませんが、仮に大亀と同じ存在が居たら核でも勝てるか・・・」

 だがそんなこと急に聞かれても見せられた資料から何か分かるわけでもなく、小首を傾げるユウヒに、一部から冷たい視線が注がれる。今にも苦言が飛んできそうな空気であるが、続くユウヒの言葉で大半の人間は顔を顰めた。


 ロシアに現れた大亀についてはこの場の人間なら最低限の資料は読んでいるわけで、当然その危険性は伝わっている。しかし核を投入しても勝てない可能性を示唆されると、一部で懐疑的な表情が浮かべられた。


「ほう? では君は自分が核以上の危険極まりない戦力を持っていると言うのだな?」


「おい!」

 それは遠回しに、ユウヒ単独の戦力が核戦力を超えると言っているようなものであるからだ。事実、誰よりも早く口を開いた男は大きく出っ張ったお腹を揺らしながら笑うと、どこか人を小馬鹿にするような表情でユウヒへ疑問を投げかけ、その言葉に含まれる意味合いを察した石木は声を荒げる。


「あー・・・そうですねぇ? 条件次第ではそうなるのかな? でも出来ないこともあるし・・・うぅん?」

 たった一人の人間にそれほどの戦力があるなど、常人であれば先ず思いもしないであろう。しかし目の前にいるのは異常の塊であり、現在彼ら地球に住まう人々に突き付けられていることも異常以外の何物でもない。


「ユウヒにその問答は意味無いと思うぞ?」


「なんだと?」

 そんな異常を常識で語ろうなどナンセンスだと、そう言いたげな表情でユウヒの背後からツッコミを入れるジライダは、机の向こうに座る男から不愉快そうな表情で睨まれる。


「そうでござるなぁ? ユウヒ殿なら地球を三度焼き尽くす事も可能でござろうし」

「おいおいゴエンモ? そりゃいくら何でもないわ」

 普段なら偉そうな人間から睨まれようものならびくつく忍者達であるが、だいぶ慣れて来たのかそれとも相手を自分より下と見たのか、いつもと変わらぬ温い空気のまま話しだす。ジライダに賛同する様なゴエンモの言葉に振り返るユウヒ、しかしすぐにヒゾウがそれは無いと言ったことで、彼はユウヒから珍しい物でも見る様な視線を受ける。


「当たり前だ! 個人がそんな力など持てるわけないだろ、君たちは口を開くな! 噤みたまえ!」

 変な物でも食べたか問われるヒゾウが小首を傾げる一方で、目の前で雑談が始まったことに苛立ちを深める男は机を強く叩くと叫びだし、そのままの勢いで立ち上がると、ユウヒの後ろに隠れる様な忍者達を指差し口を開くなと恫喝を始めた。


「だれだこいつ連れて来たの・・・」

 周囲から冷たい視線を受けているなど気が付かぬほどに激高している男を睨む石木は、周囲に問いかける様にぼそりとつぶやく。


「・・・」


「勝手に来たのか?」

 どうにも事前情報の周知が出来ていない人間が来ていることに疑問の表情を浮かべる石木は、周囲に視線を向けるも誰一人として答える者は居らず、ほかにも激高する男と似たような雰囲気の人間がいることに気が付くと、総理と目を合わせ不思議そうに呟く。


「現実を見てほしかったのですが・・・」

 そんな総理は困ったように笑うと肩を竦めながら現実を見てほしかったと言う。どうやら彼らを呼んだのは総理大臣である阿賀野だったようで、苦笑を見せられた石木は小さく頭を抱えると深い溜息を洩らし、彼の姿に阿賀野は小さく手を合わせるのであった。


「噤めと言うなら我らを呼ぶでないわ。それに当たり前とはなんだ? なぁユウヒ、あの時使ったのは太陽砲だろ?」

 一方、激高男と忍者たちの間ではフラストレーションが溜まって来ており、口を閉じる気の無いジライダは、悪態をつきながら確認する様にユウヒへ問いかける。


「そだな」


「リミッターは?」


「当然最大で撃ったよ、ステは貫通振りだけど」

 ユウヒの使った魔法名は太陽砲ではないものの、どうやらそれは通称であるらしく、頷くユウヒはさらなる問いかけに当然だと言わんばかりの表情でリミッターは最大にして撃ったと話す。


「あれでリミ最大とは恐ろしいでござるな」

「やっぱあれだったのか、でも貫通ならまだ火力出るやつあったろ?」


 大亀を倒すために自重を捨てて本気で魔法を撃ったユウヒであるが、実際は魔法こそ強力なものを選んだようだが、その影響を考えて最大限まで手加減を行っていたようだ。


 それで引き起こされたのが、強力な防御魔法をまるで紙であるかの様に一瞬で貫き、強靭な大亀の体をその動力源ごと消し飛ばし、勢い余って着弾点の大地を大きく抉り、ついでとばかりに熱でドロドロに溶かしてしまうと言う大惨事である。その資料を見ていたらしいゴエンモとヒゾウは、心底呆れた様にユウヒを見詰めた。


「FPS系ならあるけど、魔法だけだと太陽砲が一番コスパも良いし安全かなと」


「使えるんか・・・」


「たぶん?」

 ユウヒの自重はどこにかかっているのか謎であるが、まだまだ強力な攻撃手段に当てのあるユウヒ曰く、太陽砲と呼ばれたあの魔法が彼にとって一番安全で強力な魔法であることには変わらないようだ。


「ごちゃごちゃうるさいわ! 一体何が言いたいんだ!」

 ドン引きしたジライダの表情を受けて心外そうに眉を寄せるユウヒであったが、その表情は激高男の叫び声ですっと抜け落ちる。


「だからーユウヒが大亀に使った魔法はリミッターマシマシの最小威力、正確には最小範囲なんだって、あれを何もなしに撃ってたら地球貫通してるんじゃね?」

 誰にも気が付かれない刹那の間だけ無表情になったユウヒは、すぐにいつもと変わらぬやる気の感じられない表情を浮かべると、正面を向き直り睨みつけてくる激高男を見詰め、相当付き合いの長い人間にしかわからない程度の微笑みを口元に浮かべていた。


「どうだろ? まぁ元々対惑星級砲撃魔法だから、そうなるかな?」

 そんなユウヒはジライダの問いかけに小首を傾げると、正面で腕を組んだまま目を閉じ天井を見上げる石木を見て苦笑を浮かべながら、自分の使った魔法の元となるゲームの設定口にする。ユウヒの妄想魔法がゲームの設定を元にしている以上、その効果を実現する為に必要な魔力を保持しているユウヒの魔法は、確実にその効果を持つ。


「どうでござろ? 表面をこんがり焼くくらいじゃないでござろうか」

「太陽を地表に召喚するような魔法だから、最悪消滅しね?」


「そこまで引っ張ってこれないと思うけど?」

 効果を絞り手加減をしなければ、忍者たちが口にするような悲劇が起きていたかもしれないのだが、使った本人は持ち前の勘故か、それとも何も考えてないのかどこか他人事の様だ。


「石木さん、解ります?」


「あー・・・あれ、そうだったんだなと」

 一方、石木はそのゲームに汚染された頭と、ユウヒと忍者の会話で大亀に使われた魔法を完全に把握し、今更ながらに背中を気持ち悪い汗で濡らしていた。当然訳知り顔を蒼くしてれば把握しているのは周囲にも伝わるわけで、近くに座っている阿賀野総理の問いかけに顔を顰めた石木は、深く重い溜息を垂れ流すと顔を上げて疲れた様に呟く。


「あれですか?」


「多分だが、所謂ワープ的なもので太陽と地球の大気内を繋げたって事だと思うが、なんつうもんを・・・」

 阿賀野に問われた石木は、周囲から集まる視線に対して国会の壇上に立つ以上のストレスを感じながら、ユウヒの使った魔法について想像できる範囲で話し始める。彼の説明は実に正しく、それはユウヒと同じクロモリプレイヤーだからこそであった。


 ユウヒの使った通称【太陽砲】の原理は、空間転移の魔法によって太陽と指定した場所を繋げ、そこから引き出したエネルギーを相手にぶつけると言うものである。太陽の核融合で発生したエネルギーは一旦魔力に変換され、その膨大な魔力で作り出された光線は全てを消し飛ばしてしまう。


「あのくらいの威力ないと、カチカチのバリア貫通出来なかったですよ。舐めプなんて圧倒的戦力差があってはじめて成立するんですよ?」

 有害な影響を含む太陽から破壊に必要なエネルギーを取り出すクリーンな魔法は、発動に足りない魔力を補ってくれるとあって、あの時のユウヒに最も必要とされた魔法で、手加減で生み出される余剰魔力も制御に余すことなく使われ強烈な貫通力を生み出したのだ。


「それは・・・そうだな」

 ネットスラングを織り交ぜ話すユウヒの言葉に、思わず否定したくなった石木であるが、一歩間違えば死んでもおかしくない状況でとれる選択肢など、そう多くないことを良く知る彼は、それでも尚、周辺環境に配慮して戦っていたユウヒに気が付き力なく頷き困ったように笑う。


「何を馬鹿な・・・太陽と繋げる? 妄想もここまで来ると大したものだな」


「おい、こいつ追い出せよ」

 周囲の理解が追い付かない中で、最初に考えることを止めたのは激高男だったようで、石木の説明を馬鹿にして自分の常識に縋りつき現実逃避を始める彼に、石木は眉間に深いしわを寄せながら低い声で呟く。


「まぁまぁ・・・黙っていてくださいね?」


「ふん! お前の政権もおしまいかね?」

 今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気に表情を引きつらせる阿賀野は、二人の間に笑みを浮かべ割って入ると、石木を宥め激高男に黙っている様に注意する。しかしそんな注意も鼻で笑った男は、阿賀野が浮かべた笑みの中に隠れる怒りに気が付かないまま椅子に勢いよく座りなおす。


「なぁなぁユウヒ」


「なに?」

 そのままペテン師でも見る様な胡散臭げな視線をユウヒに向ける彼は、ユウヒの笑みにまったく何も感じていないようだ。そんな笑みを浮かべ始めたユウヒは、ジライダの声に後ろを向くと、方眉を上げながらどうしたのか不思議そうに返答する。


「目の前で繋げてやれば?」


「・・・太陽と?」

 ジライダの要件は何だろうかと不思議そうな表情を浮かべていたユウヒは、彼の提案が一瞬何を言っているのか分からなかったが、すぐに繋げる対象が太陽であると察して問い返した。


「その方がわかりやすいだろ?」


「あぶないぞ?」


「最小でさ」

 激高男の言い草やその姿に対して完全に怒っているジライダは、ひくひくと引き攣る笑顔で制裁と理解の両立を提案し、同じ気持ちであるらしい親指を立てたヒゾウとゴエンモに肩を竦めて見せたユウヒは、目を閉じると鼻から息を吐き出す。


「んー・・・そうだなぁ? とりあえず【遮熱壁】【セーフティゾーン】【緊急遮断】」

 息を吐き出し口元に満面の笑みを浮かべたユウヒは、しょうがないなぁと言いたげな動きで立ち上がると、石木の後ろまで逃げる忍者たちを後目に、忍者たちが先ほどまで座っていた空間に手を翳し魔法を発動させ始める。


 ユウヒと忍者達が座っていた場所は一段高い壇上の前で、誰もいないちょっとした舞台の様な壇上には、その場にいる人間の視線を遮るものは何もなく、【遮熱壁】と唱えれば空中に直径1メートルほどの透明な球体が浮かび上がり、その球体を囲うように【セーフティゾーン】が球体を作る。


「ちょ!? 夕陽何するつもりだ!」


「ちょっとだけよ?」

 【緊急遮断】の魔法により球体にうっすらと模様が現れると、石木がユウヒの背中に向かって叫ぶ。僅か数秒で何らかの準備を終えたユウヒは後ろを振り返るとお道化た様に嗤い、その表情を見た石木と阿賀野は絶句する。


「おま「開け無限を繋ぐ窓、覗くは天燃ゆる母の柔肌【継ぐ窓】」なあ!?」

 そしてユウヒは叫ぶ石木を無視して、都心のとあるホテルの会議室と太陽を直接繋いだ。


「ひぃ!?」


「これは」


「おっと、【減光】」

 繋いだ瞬間、透明な球体から溢れる爆発的な光は周囲の人間の目どころか体を焼き、しかし明るい以外の物理現象を示さない冷たい光は、僅かに会議室の人々の目を眩ましただけでそれ以上身体に影響を及ぼしていない。すぐに新たな魔法で太陽を見やすくして振り向いたユウヒの冷たい目には、泡を吹いて目を回す激高男や放心する人々の姿が映っていたのであった。





 人の手の届かない場所と地球を繋ぐ窓が都心に開かれている頃、人の手が届き足跡も付けられたが未だ人の住めぬ月の上では、宇宙船の装甲板に塗装を施していた人物が、手を止めて地面に突き刺さったタブレットに目を向けている。


「ん? またワープポイント警報? この地球って割と物騒じゃないか・・・?」

 宇宙服を着た人物は、足元にスプレー缶を置くとタブレットを手に取り、そこに表示された内容に頬を引き攣らせた。


「この反応は、魔法だな」

 タブレットを指先で叩き表示を次々切り替えると、彼はその反応が魔法であることを確認して背中を丸めタブレットを放り投げる。


「・・・よし、興味深いが準備はしっかりしよう」

 軽い音を立てて地面に刺さったタブレットをじっと見つめ動かなくなる彼は、酷く諦めが籠った溜息を洩らすと、何事もなかったかのように背筋を伸ばし明るい声で一人呟き、スプレー缶を足で蹴飛ばす様に拾う。


「度々太陽と直結させる魔法使いとか怖すぎだよ・・・」

 塗装作業に戻った宇宙服の人物は、勢いよく白亜の装甲を塗り重ねながら乾いた笑い声を漏らす。事実、ユウヒの使った魔法は事前に保護の魔法を使っていなければ大変危険なものであり、間違っても人のたくさん住む都市で使うものではない。





 ならばなぜそんな危険な魔法を使ったのか。


「こんな感じで太陽と繋げてエネルギーを魔力に変換した上で」


「ユウヒ」


「はい?」

 太陽と繋ぐ窓を閉じた後も魔法で閉鎖空間内を洗浄するユウヒは、満面の笑みを浮かべ大亀に使った魔法の説明をしているが、途中で石木に名前を呼ばれそちらを振り返る。


「怒っているならそう言ってくれ」


「はははは、そんなわけないじゃないですかー」

 普段は覇気の無い顔が特徴のユウヒが、満面の作り笑顔を浮かべ危険な魔法を使った理由は単純に怒っているから、明華とよく似た怒り方をするユウヒの姿に頭を抱える石木は、明るい笑い声を上げる彼のストレスが相当溜まっている事を理解すると、周囲に目を向け溜息を洩らす。


「嘘だな」

「煽っておいてなんでござるが・・・おこでござるな」

「死ぬかと思った」


 そんな石木の後ろには忍者達が身を低くして隠れており、石木と一緒に周囲を見渡しながら、分かり辛いユウヒの怒りの被害者に目を向けている。


 激高おじさんを筆頭に、ユウヒに対して否定的な視線を向けていた人々は大半が気を失っており、それ以外の人物たちも蒼い顔をした者が多く、逆に異世界出身者たちは興味深そうな視線を向けていた。


「まぁこう行った威力のある攻撃か、魔力由来の攻撃でないと難しい相手がいる可能性が高いです」


「例えばどんなだ?」

 また石木や阿賀野も元気な方で、普段からストレスに晒されているからか、もしくは赤狐と言う問題児の被害を受けて来たからなのだろう、説明を続けるユウヒに質問を投げかける元気は残っている様だ。


「少なくともドラゴンはいそうですかね?」


「おいおい、またファンタジーの代表だな」

 そんな彼らの質問に、怒りが幾分抜けたおかげかいつもと同じ表情に戻ったユウヒは、小さな妖精二人に聞いた話を思い出しながらドラゴンと言う言葉を使う。解りやすく強力な存在と言う事もあり創作物で多用されるドラゴン、そんなファンタジー最強の一角が存在する可能性に、石木だけでなく自衛隊関係者も目を見開く。


「中国の人が何をするか解りませんが、とばっちりを喰らいたくないです。なにせドラゴンと言うからには飛べるでしょうから・・・」


「警戒が必要か・・・」

 もしドラゴンが牙を剥き、日本に飛来するようなことがあれば真っ先に出動するのが航空自衛隊である。これが海から歩いてやって来るなら海自が第一接触者になるところだが、ユウヒの言葉に空自の関係者は難しい表情を浮かべていた。


「出来れば現地に入って調査したいところですけど、そうもいかないでしょうし」

 妖精からの聞き取りだけの情報故に煮え切らない表情で話すユウヒであるが、今の中国が日本の関係者を自国に入れるわけもなく、特に時間撒き戻し現象が起きている今は情勢不安が加速している為、入れたとしても何が起きるか解らない。


「色々と事情がロシアやアメリカとは違うからな、現状様子見しかないが準備だけはしておこう。何かあれば・・・」

 政府もそんなところに民間人を連れて行くことなど出来ず、無理にアクションを起こせば野党の攻撃以前に傭兵団から物理的に攻められかねないと眉を顰めた石木は、しかし人知を超える何かが起こった時に一番頼りになるのはユウヒであり、念を押すように問いかける。


「ええ、協力しますよ」


「・・・悪いな」

 その短い確認の言葉の中にどんな意味が含まれているか察したユウヒは、大半が母親対策であろうことを理解して苦笑を洩らす。


「私からも政府を代表してお礼を言わせてもらいます」


「いえ」

 何もなければ苦労しないが、十中八九問題が起きることは明らかな状況で、現職の総理大臣から頭を下げられたユウヒは、僅かに緊張したような、それでいて申し訳なさそうな表情を浮かべると短く返事を返し、面倒事の足音を感じたのか窓の外に目を向けると、影一つ落とさない夏の真っ青な空を見上げるのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 時には自重を忘れながらもどこか飄々とした空気を纏って困難を打ち破ってきたユウヒですが、見えないストレスは確実に溜まっている様で、思わぬところで弾けましたその姿は、どうやら母親譲りで彼女によく似ていた様です。


 それではこの辺で、読了評価感想に感謝しつつまたここでお会いしましょう。さようならー

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 大事な会議の場にゴミを連れてくる総理もだけど ユウヒが、そろそろ日本政府に「協力」をする意味が 低くなってますね 石木さんも、母親を怖がってる割には なぁなぁなので、ユウヒを甘く見て…
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