第二百二十四話 情報交換会 前編
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『情報交換会 前編』
自衛隊員達が見詰める前で意外とあっけなく収まったレリーフの異常発光現象、実際は一歩間違えると世界ごと全滅していたかも知れないなど知りもしない彼らは、迅速に駆け付けて来てくれたユウヒを多数の隊員たちで見送った。見送られたユウヒは、すぐに帰ると思いきや簡易基地前で待ってた女性秘書に早めの昼食に誘われる。
「わかった。こっちで準備しておくからゆっくり来てくれ」
なぜか同行を求められた忍者たちは、小首を傾げるユウヒを前に奢りであると言う事にテンションを上げ、鰻と言うチョイスに軽い足取りで駆けだしたのだが、
「はぁ・・・問題だらけだな、あぁすまんがすぐに特別会議室の準備をしてくれ、あとは例のメンバーで集められるだけの人間を集めてくれ」
車の中で会議への出席を半強制的に求められると、予想される参加者に恐怖するのであった。いろいろ出来る様になっても基本小市民な忍者たちは、肩書だけでなんだか偉そうに思える面々を想像したのか、口から深い溜息を吐き出すし、特に変化の無いユウヒを恨めしそうに見上げたとか。
「そうだな、こっちの連中だけでいいだろ・・・ん、よろしく頼む」
ユウヒと忍者の同行を聞いて一安心と言った表情で溜息を吐いた石木は、そのまま会議の参加予定の人物を集め始めるも、限定された人間も全てが集まるとは思っていないらしく、詳しい人選を電話の向こうの人間に任せながら電話を切る。
「さて、何が聞けるのか・・・面白くなってきたな」
電話を切って椅子を回した彼は、入道雲が流れて行く窓の外を見上げると、ユウヒの口から何が聞けるのか、不安が大半であるが僅かに隠せない興奮を口から洩らし口角を上げて笑うのであった。
石木が見上げる明るい青色の空より少し濃く見える空の下、正確にはゆったりとした波で光が揺れる海中。
「・・・予定地点確認、透過攪乱膜維持、随時着底開始、報告要請」
ゆっくりとした動きで泳ぐ巨大で透明な何かは、その目で水面の向こうを見上げると、予定の場所への到着を確認してゆっくりと深い場所へと沈んでいく。
「・・・・・・」
「周囲索敵許可、慎重要求」
動くと僅かに境界が歪む巨大な目の周りには、こちらは速く泳ぐが故に境界が僅かに歪む何かが、発光信号を残しながら周囲を警戒するようにゆっくりと海溝の底へと沈んでいく。
「・・・・・・」
「探査部隊要求承認」
彼らは異世界からやってきた深き者達、ユウヒの仲介により安全な場所を確保した彼らであるが、まだまだ人の前に出るには危険が多いため、しばらくの間は艦隊の修繕などを行いながら静かに過ごすようだ。それでも誰かは周囲の警戒を行わなければならず、同時にユウヒの連絡を待たねばならない。
「・・・」
「要求・・・・・・感謝」
一瞬だけ海底にその姿を晒した触手の目玉お化けは、チカチカと発光信号を残すと水の中に溶け消える。最後に巨大な影が何かを要求したらしく、僅かに戸惑ったような発光現象がどこからともなく瞬くと、巨大なナニカは感謝を口にしてゆっくりと目を閉じるのであった。
また妙なフラグが建ったような気がして、ユウヒが大きな鰻の蒲焼を箸からタレの滲み込んだご飯の上に取り落としている頃、
「・・・来たか」
見晴らしのいいバルコニーが特徴の一室で、小柄な女性が窓辺に座りながらゆっくり目を開いていた。
「失礼します! 巫女様いらっしゃいますか?」
「準備は出来てる、すぐに行く」
ゆっくりとした動作で立ち上がり長い袖をふわりと揺らした彼女は、部屋の中に入ってきたスーツの女性に返事を変えすと同時に部屋を出る為に歩き出す。
「は? え、誰か先に来ましたか?」
戸惑うスーツ姿の女性の前に立つ人物は、ユウヒが大亀の上から救ったジュオ族、その王族であり、一族を纏める長であり、星読みの巫女でもある女性だ。
「星で見た。ユウヒが来るのだろ?」
「・・・なるほど、すごいですね」
目の前の女性が何時何のために呼びに来るか、星読みと言う力で予見していた彼女は、星の瞬きの様な不思議な輝きを放つ瞳でスーツの女性を見上げると、ほんの僅か口角を上げるが、感心半分疲れ半分と言った女性にはその僅かな反応を見分けることが出来なかった。
「そうだろう、我々を滅びから救った力だ」
「確かに、それではこちらに車を用意していますので」
常に微笑を浮かべる巫女は、女性の感心した言葉に口元を隠しながら、涼しさすら感じる声色で応える。
「ん、供が付く、構わんな?」
「はい、問題ありません」
僅かに感情が外に洩れる彼女は、くすくす笑う傍仕えのジュオ族女性を引き連れると、一声かけてスーツの女性に続いて与えられた部屋を出る。僅かに気温の変わる室外と部屋に張られたナンバープレートを見るに、相当豪華なホテルの一室であったようだ。
どうやらユウヒの呼ばれた会議には、ロシアから避難してきた難民である異世界の住民も参加するらしく、当然ジュオ族が出席するのであれば、馬の体と人の上半身を持つカウルス族も代表が出席するのが道理である。
「仕方ないのぉ」
「すみません、皆さんの体格にこちらの設備は対応できていなくてですね・・・」
しかし彼女たちの体格を考えると普通の会議室では対応できず、またその生活様式もあり都内に入ることも出来ず、絨毯が幾重にも敷かれたテントの中では、現在複数の人間によりパソコンとカメラが設置されていた。どうやらネットワークを使い遠隔で会議に参加するようだ。
「ははは、そうしょぼくれんでも良い。昔からよくある事じゃて」
「そう言って貰えると助かります」
担当の男性が、申し訳なさそうに頭を下げる姿に笑い声を上げたのは、カウルス達の長である長老の女性。カウルス一の星読みであり生き字引である彼女は、異世界であっても同じようなことが何度となくあったようで、周囲で不満そうな表情を浮かべる若者とはその経験が全く違うようだ。
「しかしこれが遠見の道具か・・・使い方は複雑じゃが魔道具より便利じゃな」
そんな彼女も流石にパソコンは見たことが無いらしく、同じく見たことのないカメラレンズを覗き込む彼女は、過去の知識から似たようなものを思いだして手を顎に添える。
「そちらの世界にもこういった装置はあるのですか?」
「そう多くは無いが、ある程度大きな組織になれば持っておかねばの・・・まぁワシらは昔から身軽な事を好む故、あのように大きな道具は邪魔なので持ち歩いておらんが」
「そうですか・・・」
彼女たちの住んでいた世界でも、遠方と顔を合わせて話をする道具はあった様で、誰でも使うことが出来ないとは言え組織単位ではそう珍しいわけでは無さそうだ。カメラの位置を調整しながら話を聞く男性は、それとなく探りを入れる様に指示されており、話を聞く限り彼女たちの文明は思った以上に高度なのではないかと言う思いに至る。
「現物が気になるなら作ってもらえば良いのではないか?」
「作る、ですか? ・・・流石にそう簡単には、元々この世界には無い技術ですから」
そんな男性の思惑を知ってか知らずか、どこか呆れにも似た視線を向ける長老は気になるなら作ってもらえば良いと言う。彼女の言葉に目を瞬かせた男性は、カウルス族に作れる者が居るのかとも思ったが、どうやらそうでもない様子に困り顔を浮かべると、引き攣った笑いを漏らしながら首を横に振る。
「ユウヒ殿なら作れるじゃろうて」
「え?」
だが、すぐにその目は長老の言葉で大きく見開かれる。
「星が作れると言っておる・・・まぁ今はもっと別の物を作ろうとしておるようじゃが」
「はぁ?」
男性の理解が及ばない世界の話であるが、この世界の星々はユウヒならそういった魔道具も作れると言っているらしく、傍らに置かれた星を映す水盤を撫でる彼女は、どこか引き攣ったようにも見える微笑を浮かべ男性を見詰めるのであった。
そんな星々の輝きが良く見える白い台地の真ん中では、とある人物が高らかと両手を振り上げ、無言で前方に見える青く巨大な天体を見詰めていた。
「ふ、ふふふ・・・フハハハハハハ!!」
そんな静かな時間はすぐに終わり、銀色に光るヘルメットの向こうからはくぐもった笑い声が聞こえ始め、周囲が真空でなければその笑い声は辺り一帯に響き渡っていたであろう。
「どうだチクショウ! 突破してやったぞ! ハハハハ宇宙最高! 地面最高!」
その人物が立っているのは細かく風化した塵が堆積した月の上、人類が未だ到達すれど住むことを許されていない土地には、ずいぶんスリムな宇宙服に身を包んだ人物と、その背後に大きな白亜の宇宙船が鎮座していた。
「・・・まぁ、それ以外は最低だけど」
地球を目指していたが不幸な事故に合い世界からはじき出され、それでもめげずに地球の近くまで戻ってきた彼は、感情を爆発させるように叫んだかと思えばすぐに消沈して背中を丸めて、今度はボソボソと小さな声で呟く。
「直で地球じゃないとは言え、世界の内側に入れただけ・・・まぁまぁマシだよね」
ちょっと蹴っただけでも舞い飛んでいく細かな塵が積もった大地を踏みしめる彼は、愛機の肌を撫でながらため息混じりにごちる。
「地球が見えるし離陸するにもいい位置かな? ・・・ふふん、我ながら素晴らしい軌道修正だよ」
どうやら世界の外側から直接地球に行く予定が、思わぬズレにより軌道修正の甲斐も空しく月に不時着した様だ。彼の独り言からは自分を慰める様な哀愁が漂っており、その雰囲気は彼のへの字に曲がった口元を見る限り間違っていないであろう。
「もうちょい右に行ってたら逝ってたけど・・・マジ肝冷えたわ」
さらには体力的、精神的に疲れ切っているらしく、宇宙船の装甲に凭れ掛かった彼の声は心底疲れたものである。どうやら相当な神業を披露した直後のようで、情緒の安定しない彼はその時の事を思い出して僅かに振るえていた。
「さて、とりあえず機体の修理と補給を始めないと、地球に降りるのはまだ時間がかかるなぁ」
何がどう右に行ったら駄目だったのか、常人には理解できない呟きを零してしばし地球を眺めていた彼は、両手を上げて背伸びをすると気持ちを入れ替えて歩き出す。一見問題無いように見える白亜の宇宙船も無理をさせ過ぎたのか、消耗品以外にもあちこちガタが来ている様だ。
「・・・うん、こっちは後で何とかするしかないな。修復しないと絶対怒られるよ」
腰元のポケットから取り出した小さな携帯端末を親指でぐりぐり操作した彼は、見たくないものでも見てしまったのか、一瞬声を詰まらせるとすぐに手元に現れていたホログラフィを消して端末をポケットに捻じ込む。
月の大地で宇宙船を前にして小さな人影が唸っている頃、青い地球ではうな重を完食して満足そうな顔を浮かべたユウヒ達が、どこかの建物の通路をゆっくりとした足取りで歩きながら案内されていた。
「いやぁ他人のお金で食べるウナギは最高でござったなぁ」
「まったくだ。普段なら梅でも躊躇するからな」
「ウナギのタレで我慢するからな、ご飯にかけるとうまいんだ。安いし・・・」
普段滅多に食べることのない、高級なうな重の味にご満悦な忍者たちは、ユウヒの後ろを横並びで歩きながら普段の食生活と違う時間について話し合っている。どうやら彼らの懐事情では、鰻のランクどころかその選択肢すらない様で、そんな会話が聞こえたユウヒは振り返り、先頭を歩く女性も気になってか小さく四人を振り返った。
「どんだけだよ、今時コンビニでも売ってあるだろ? スーパーだってあるし」
鰻と言う選択肢すらなく、タレをご飯にかけて我慢すると言う言葉まで聞こえて来たことに、何とも言えない悲し気な表情を浮かべたユウヒ。確かに今のご時世コンビニですら、土用の丑の日になれば鰻を売り出し、スーパーに行けばほぼ年中加工済みの鰻が並ぶ。
「は? コンビニ? あんなのウナギへの冒涜ですが?」
「我もあれなら秋刀魚の蒲焼食った方が満足できるぞ」
「スーパーの鰻も技術が無ければ意味がないでござる。拙者では美味しく用意できぬ」
しかし彼らにとって鰻とは特別な存在であるらしく、コンビニに売ってあった鰻を思い出し目を見開いたヒゾウは、表情の抜け落ちた顔で首を傾げ、ジライダも同意するように頷き秋刀魚の蒲焼の方がマシだと言ってのける。ゴエンモは困った表情のユウヒから視線を受けるも、静かに首を振ってヒゾウとジライダに賛同すると、スーパーの鰻もうまく調理できず残念なことになったと語った。
「それは・・・そうだな」
「「「だろー?」」」
忍者達が急に暑く語り始めたことに若干引いていたユウヒも、過去に食べた粉々のウナギ片が入ったコンビニのおにぎりを思い出し、否定したくても出来ずに同意してしまい、忍者達はどこか嬉しそうな顔で声を揃える。一度でも高級な鰻を食ってしまうと、中々求める物のランクを落とせない、しかし貧乏性な懐の紐は固く、そんなジレンマに囚われる四人は思い悩む。
「ふ、ふふ」
そんな四人をこっそり見ていた女性秘書の口からは、進行方向に顔を背け口を押えても抑えきれない笑い声が零れだし始める。
「おい、笑われとるやんけ」
「は? 笑われたのおまいなんだが?」
「いやどう考えても拙者ら全員でござろうに・・・」
突然前から聞こえて来た笑い声にキョトンとした表情を浮かべた忍者達は、肩を震わせる女性に笑われていることを確認すると互いに言い合いを始め、コントの様なボケとツッコミのやり取りに、彼女は我慢できずに思わず吹き出してしまう。
「・・・夕陽さんたちは、皆さん仲いいですよね」
何事もなかったかのように取り繕う女性の姿を見て生暖かい視線を向ける忍者達に、彼女はちらりと目を向けながらその仲の良さについて問いかける。特殊な環境故か相性が良かったのか初対面の時点で普通に話していたユウヒと忍者、アーケードでユウヒを見かけた三人は、もしかしたら運命的な出会いだったのかもしれない。
「まぁ悪くはないかな?」
「そこは良いと言えよ、ツンデレか?」
しかしそんな事を認めるつもりがないのか、僅かに眉を寄せて小さく唸ったユウヒは素直に仲がいいとは口にせず、妙な言い回しにヒゾウは肘でユウヒの肩を突きつつニヤニヤとした笑みを浮かべる。
「何度もショックを受けて尚仲良しとか・・・Mか」
「おいい!」
「解釈不一致でござる」
お前の気持ちは解ってるぞと言わんばかりのヒゾウであったが、返ってきた言葉は辛辣であった。確かに毎度忍者から襲撃まがいの訪問を受け、返り討ちにと普通の人なら致死量の攻撃を撃ち込む関係が、一般に仲が良いとは言い辛い。
「そうか?」
「まぁユウヒのツンデレは良いとしてだ。今回は何故我らまで呼ばれたんだ? ユウヒだけでよくねぇか?」
しかし彼らの関係はどう考えても良好であり、何を考えているのか不思議そうに首を傾げるユウヒは三人に呆れた表情で見詰められる。一般と少しずれた感性を持つユウヒの事をあまり深く考えてもしょうがないかと、話を変える為にジライダは気になっていたことを女性秘書に問いかけた。
「それが、夕陽さんから直接話を聞くなら、どうせなので情報を交換して纏めようと言う話になりまして・・・主に大臣の思い付きで」
「石木氏ぇ・・・」
「思いつきかよ」
「まぁ通常運転か?」
どうやら今回彼らが呼ばれたのは、一度これまで世界で起きている異常事態や日本で進められているドーム対策とその実態を、関係者同士ですり合わせを行いたい。と言う石木の思い付きの行動の様で、度々そう言った突然の行動が野党から批判されるも、結果として良い状況を作り出しており、政権交代を企てる者達の思惑通りにはいっていない。
「せっかく外出したし、まとめて終わるのはありがたいかな?」
「まぁなぁ?」
ユウヒがしばらく休暇に入ると言う事で、調整をしていた石木であるが、緊急事態ゆえにユウヒが外に出てきたタイミングを好機と見たらしく、関係各所から続々と人が集まり、来れない者は遠隔会議の準備を急いで行っている。ユウヒも一度に終わるなら楽だと、納得するヒゾウに視線を向けつつ、しかしその表情には、彼の言葉から伝わる印象とは少し違う感情が感じられた。
「でも、そうなるといろんな人が来そうだよね?」
そしてその会議が行われるのは、現在ユウヒ達が待機部屋へと向かっている建物の会議室である。
「そうでござるな? 今歩いてる場所も場違い感で溺死しそうでござるし」
「ばっか! 敢えて気にしないようにしてたのに現実叩きつけんなよ」
「気にしとけ、調度品壊したら貯金飛ぶぞ?」
「貯金まで飛ぶのか・・・」
傍聴等の対策がされた特別な部屋を有する施設には、品の良い調度品が壁や飾り台の上に設置されており、敢えて近づかないように意識していたヒゾウはゴエンモの言葉に嫌そうな表情を浮かべ、ジライダは真剣な表情で破産すると呟く。
ユウヒが忍者たちの貯蓄状況を心配しながら待機部屋に案内されている頃、用意された広い会議室には複数の男女がすでに会議の準備を始められ、その中にはジュオ族の姿もあり、モニターに映ったカウルスの長老と異世界の言語で会話を交わしている。
「待機部屋の方に到着した様です。いつでも会議を始められると」
「お、そうかそうか・・・まぁもう少し待とうか」
そんな異種族の姿を眺めていた石木は、背後から話しかけてきた秘書の言葉に気が付くと、嬉しそうに肩眉を上げた。その顔からはすぐにでも夕陽達を呼んで会議を始めたいと言った感情が見て取れるが、目の前の騒がしい状況に目を向けると眉を寄せ鼻息を洩らす。
「早かったですね」
「まだこっちの人間が集まり切れてないからな、早く来た夕陽にゃ悪いが」
重要人物の到着より会議の準備の方が遅い現実に、思いつきな時点で強く言えない石木は、困った表情で頭を掻くと別の会議を急遽取りやめてやってきた総理に肩を竦めて見せる。
「リモート組もまだ全員そろってないか・・・」
「急に呼び出したからなぁ・・・」
また、リモート会議用のモニターの向こうは半分がまだ空席で、集まっている人間も大半が苦笑を浮かべていた。石木の思い付きにいつも振り回される彼らは、この後の展開を想像してしまいその表情を崩すことが出来ない様だ。
「それにしても彼はフットワークの軽い、親譲りかな?」
「似なくていい所まで似てそうで俺は怖いよ・・・」
次の委員会では確実に今回の緊急招集の事を突かれ、その内容の開示を某野党が求めてくるだろうことは火を見るより明らかである。
ドーム関連については無用な混乱を抑えるために秘匿されている部分が多く、他国に様々な情報を流して利益を得たい政治家が必死に与党叩きをすることはいつもの事で、その事を憂鬱そうに思い浮かべる石木は、総理の問いかけを聞くと余計にその表情を歪めた。
「似なくて、例えば?」
「うわさ話に敏感で悪意にはさらに敏感なところ、とかかね?」
その理由は、彼もユウヒと接するうちに理解してきた事なのだが、その性格を親からだいぶ学んでいる様で、勘の良さと相まって時折赤狐を相手にしている様だと、言葉にはしないもののその顔は奥に押し込んだ気持ちを如実に語っている。
「そうですね、母はそう言うのすぐに察して退路を断ちますから」
『!!?』
そんな異常な勘の持ち主である赤狐こと明華の能力を引き継ぐユウヒも、自分の噂には敏感であり、何やら良からぬことでも言われそうだと、そっと石木の背後に忍び寄り周囲の人間を驚愕させた。一部目を輝かせている者も居るが、至近距離に近付くまでまったく気配を感じなかった彼らに対して、会議室全体に緊張した空気が流れる。
「あ、俺はそんなことしませんよ・・・」
「・・・(うそだろ)」
明華とよく似た作り笑いを浮かべ小首を傾げるユウヒは、覇気の無い普段からは考えられない様な明るい笑みと声で話し、周囲の空気を急激に下げるのであった。その後、同行していた忍者の温い雰囲気で幾分マシになった部屋で会議が始まるのにはさらに十数分の時間を必要とした。
尚、どうでもいいことかもしれないが、ユウヒの父親勇治はスニークミッションのスペシャリストであり、息子の背後に父親の姿を見た石木は、深い深い溜息を洩らして頭を抱えたとか。果たしてどんな会議が行われるのか、それはもうすぐわかる。
いかがでしたでしょうか?
鰻と言う報酬に釣られてほいほいと着いて来た忍者達、ユウヒの一声で竹から松に変更されたうな重の恩は如何程のものか、どうやら会議が始まるようである。
それではこの辺で、読了評価感想に感謝しつつまたここで会いしましょう。さようならー




