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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百二十二話 思わぬ罠

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『思わぬ罠』


 ユウヒが危険物を押し付け、忍者達が恐怖しながらも自らの欲望に抗えず危険物を受け取ってから十数分後、石木は自らの執務室で険しい表情を浮かべていた。


「なに? それでユウヒは? そうか・・・わかった。すまんが人間を増やしてくれ、ユウヒが動く以上何があるか分からん」


「・・・」

 どうやらユウヒは三人と共に彼が建てたフラグ、もといレリーフに向けて移動を開始した様で、その報告を受けた石木は肩を落としながら指示を出すと、項垂れながら受話器を置く。ユウヒの休み中はいつもより平和だといいな・・・などと淡い期待をしていた彼は、立て続けになされる報告に肩を落とすと、視線を感じて顔を上げ無言の女性秘書と視線を合わせる。


「む、今あった複数の連絡を纏めるとな、ユウヒが忍者と一緒に調査ドームに向かったそうだ」


「忍者さんですか・・・調査ドームと言うと連絡があった発光現象でしょうか?他にはまた教授たちが・・・」

 じっと無言で見詰めてくる姪の視線に頬を引きつらせる石木は、彼女が何を言いたいのか察すると、椅子の背凭れに体を預けながら電話の内容を伝え、その内容に目を見開くと考え込み始める女性。訝し気な表情を浮かべる彼女は、彼等の行動から理由を推測するが、確信に至るには情報が少ない様だ。


「ああ、少し前に異常な発光が強くなったらしくてな・・・すぐに忍者の三人がユウヒを直接呼びに行ったそうだ」


「こちらの判断無くですか・・・」


「・・・どうにも忖度した連中が話を止めていたらしい」

 それもそのはず、忍者三人が発光現象の深刻化によりユウヒを呼びに行ったことは、石木も今の電話で知ったばかりである。当然女性秘書が知るわけがないのだが、その事を知っている人間はユウヒに対する対応を個人で拡大解釈した結果、指示されてもいないのに自衛隊員からの陳情を握り潰していた様だ。


「それは・・・」


「調査ドームからは催促の連絡を出していたそうだが、痺れを切らしたらしい」

 石木がそれらの事実を知ったのは、忍者たちの行動を知った直前の電話であり、女性にその事実を伝えた石木は、眉を顰める彼女に肩を竦めて見せながら机に肘をつき背中を丸める。


「それはしょうがな・・・?」


「おう、何? もうか・・・調査ドームに向かうだけだから問題はない。は? 走って?」

 石木の説明する声からは忍者達への擁護の感情が伝わり、秘書の女性も同意するように肩を落とし呆れた表情を浮かべた。そんな彼女の声を遮る様にまた電話の着信音が鳴り出し、震える携帯電話の持ち主である石木は訝しげに眉を上げると電話に出て呆れた声を洩らし、その声はすぐに驚いたものに変る。


「走って?」


「いや、お前たちは戻れ・・・はぁ、付けていた連中がユウヒを見失ったらしい」

 何とも言い辛そうに百面相を見せる石木は、不思議そうな視線に気が付くと電話を切りため息交じりに何があったか話す。どうやらユウヒの動向について連絡を入れた監視員が早々にユウヒを見失ったようだ。


「車やバイクを用意していると言う話でしたが?」


「そんな顔するなよ、電柱の上を走って行って、途中で消えたってさ・・・この間のステルスを使った可能性もある」

 監視員は前回の反省も含め、増員と装備の拡充が行われていたのだが、その結果に険しい表情を浮かべ呆れた様に声を洩らす女性。石木は彼ら監視員の肩を持つように彼女を宥め、何があったか知った女性はゆっくり目を瞑ると天井を見上げ頭を抱える。


「・・・調査ドームに向かいます」

 人間離れしたユウヒと忍者の行動に僅かな頭痛を感じた彼女は、監視員の苦労に苦笑いを浮かべると、退出するため石木に会釈した。どうやらこれからユウヒに会うため調査ドームに向かうつもりの様だ。


「あー・・・んー、ドーム内ヘは絶対に入るなよ」


「ええ、帰りの足は必要でしょ?」

 ユウヒの行動について詳細を知りたい石木も、誰かに調査ドームに行くよう指示を出すつもりであったが、彼女に行かせることには感情的に賛成できず、しかし私情を飲み込むと注意だけしていくことを了承する。


「ユウヒなら飛んだ方が早そうだがな?」


「この炎天下を走らせるのも酷だと思いますよ?」

 軽やかな笑みを浮かべる姪の姿に溜息を洩らす石木は、監視員をすぐに撒いてしまうユウヒを思い浮かべなんとなしに呟くが、女性秘書は可笑しそうな笑みを浮かべながら窓の外を見て酷だと言う。


「・・・確かに今日も暑いな」

 冷房の効いた部屋にいるにもかかわらず肌に感じる窓の外の熱、特に日が当たっているわけでもないのに暑いと感じる輻射熱は、意識すれば余計に暑く感じて石木の表情を気怠く萎えさせる。


「ドームと言うのは気象にも影響するんでしょうか?」


「さぁなぁ?」

 今年は特に暑く感じると小首を傾げる石木の呟きに、同意するように頷く女性は、それらの妙な暑さもドームが影響しているのだろうかと呟き、石木は肩を竦めるとあまり考えたくないと言いたげな表情を浮かべ机に向き直るのであった。





 そんな今年の暑さとドームの関係性について気にしていたのは彼等だけではなく、電信柱からビルの上に移動場所を変えた四人もまたその妙な暑さに疑問を覚えている様だ。


「無いとは言えないわね」


「マジカ」

「やっぱ異常気象はドームの所為なのか」


 気になったら知りたくなるのは人情、一番知っていそうな人物に心当たりのあったユウヒは、すぐに左腕の通信機を弄り兎夏を呼び出す。その結果は、全くないとは言えないとのことで、返答を聞いたヒゾウは嫌そうな表情を浮かべ、ジライダは納得した様に頷く。


「まだ調査中だけどね。でも、この程度じゃ異常気象なんて言わないわよ?」


「そうなのか?」

 まだ調査の必要があるが何かしらの影響を及ぼしているだろうと話す兎夏は、忍者たちの言葉に片眉を僅かに上げると、彼等の言う異常気象は現在の夏の暑さには当てはまらないと話し、ユウヒは興味深そうに左腕の通信機を覗き込む。


「うそだーニュースで異常気象言ってたぞ!」

「そうでござる! みんな言ってるでござる!」

「そうゲホゲホ! 休憩ついでにどっかでスポドリ買わね?」


 真っ白な髪と肌に赤い瞳が映える女性を見詰めるユウヒの耳には、兎夏の言葉に反発するヒゾウとゴエンモの声が聞こえ、何か叫ぼうとして咽たジライダからは休憩の提案が聞こえてくる。


「今の気象状況は地球にとっては誤差の範囲よ、特に異常じゃないわ」


「へー」

 無言で頷いたユウヒに親指を立てたジライダは、すぐに先頭に躍り出るとルートを変更し先導する。そんな彼の背中を【飛翔】を使って飛ぶように走り追いかけるユウヒは、兎夏の言葉に興味深そうな相槌を打つ。


「本当の異常は乾燥地帯で半年止まない雨が降って森になったり、都心で真冬に40℃の気温が何十日も続くとか、梅雨に乾燥した日しか来ないとかそういうレベルで初めて異常よ、今のはちょっとした暑い日が続いてるだけ、それにドームじゃなくて正確には魔力が悪さしている可能性の方が高いの」

 まるで見て来たかのように話す兎夏曰く、夏に気温が上がるのは地球にとって誤差でしかなく、本当の異常はもっと深刻なものであり、テレビで言われるような異常気象は異常たりえないのだと言う。


「お、おう・・・」

「魔法は、確かにありそうでござるな」

「このねーちゃん怖いな」


 ユウヒの左腕から聞こえてくる兎夏の声には妙に棘があり、まるで忍者たちを責める様にも聞こえる言葉は、大の大人である三人の忍者を怯えさせた。


「まぁそんな異常気象も神様ならチョイっとやるだけで出来るからなぁ」


「この間の雨ね、あれこそ異常気象よ・・・恐ろしいわ」

 何故か苛立ちの見える兎夏に苦笑を浮かべ、その視線を忍者に向けたユウヒは、若干距離の開いた三人の表情に何とも言えない同情めいた視線を向けると、神様の手で引き起こされた異常気象について思い出し、兎夏もその時の事を思い出して顔を蒼くする。


「ユウヒにゃ出来んのけ?」


「ん? んー・・・どうだろ?」

 神の力がどれだけ強大で、その力の前では人間がいかに矮小か知る兎夏の表情を、心配そうに見詰めていたユウヒは、ヒゾウの言葉に顔を上げると、自販機に向かって降下する忍者たちを追いかけながら考え込む。


「ちょっとやめてよ! ユウヒ君レベルの人間は本気でやりかねないから!」


「いやいや、流石に・・・な?」

「我も流石に無理だと思うわ」

「そうでござるなぁ」


 そんなヒゾウの何でもない問いかけに息を飲んだ兎夏は、余計に蒼くなった顔で大きな声を上げ、懐から財布を取り出す忍者たちに注意の声をぶつける。ユウヒならやりかねないと言う言葉に、半笑いで肩を竦め笑う忍者達であるが、兎夏がちらりと視線を向けたウィンドウには、真剣な表情を浮かべたユウヒが居た。


「ふむ・・・あれをこうして、そっちと・・・あとは魔力の供給を維持する装置を用意して、無理に収集すると周囲への影響が大きくなるが・・・まぁそこは目を瞑っていけるとこまでなら、ふむ」


「ほら!」

 ぶつぶつと不穏な声を洩らすユウヒの両目は金と青に輝き、無意識に周囲の魔力がうねる。どう考えても実行可能なので今から試してみようかと言う雰囲気のユウヒが浮かべる笑みを見て兎夏は叫び、三人の忍者は財布を持ったまま固まり顔色を蒼く染めた。


「「「ユウヒストップ! ステイステイ!」」」


 彼らは思い出す。目の前にいる人物は、本質的に思い付きや感情で周囲に甚大な被害を与え、多数の人間に影響を与えられることが出来る人間であり、さらに魔法と言う力を自在に扱うことが出来る様になった今なら、兎夏の危惧することも本当に起こしかねないと言う事を・・・。


「俺は犬か、まぁやらんよ・・・特に楽しい天気ってないし」


「そうしてくれると嬉しいわ・・・」

 ならばやることは迅速に目の前の狂人を落ち着かせ止める事、犬の様に宥められるユウヒは呆れた様にツッコミを入れると、特にずっと続いてほしい天候を思いつかないと言う理由からやらないと呟く。


 それは、ずっと雪の降る毎日が良いと思えば実行していた可能性があると言う事で、最近また自重が緩くなってきたユウヒのふわふわした表情に、兎夏は小さくため息を洩らすのであった。


「あぶねぇ地雷踏むとこだった」

「地雷が可愛く見える件」

「そうやって踏みに行くから変なことになるでござる」


 また忍者達も安心したのか盛大に溜息を洩らすと、自販機でスポドリを買って一息つきながら、自分たちが踏み抜きそうになっていたモノについていつもと変わらぬ会話を交わし、


「対忍者地雷作っとくか」


「「「やめて!?」」」


 新たな地雷をユウヒに用意させる。





 夏の陽射しによりくっきりと浮かび上がる日陰で、地雷について考え込むユウヒと慌てる忍者を、面白そうに兎夏がモニターの向こうから見つめている頃、


「というわけじゃ」


「・・・危険じゃないのですか?」

 遠く世界の壁を越えた先では、危険な行動を行なおうとしているのかアミールが不安そうな声を洩らしていた。


「特に不正な接続先ではないじゃろし、特に地雷と言うわけじゃないと思うがの?」

 どうやら世界間を繋ぐ接続線について話し合っていたらしく、不安そうなアミールに対して、真っ白少女イリシスタは眠そうな目を擦りながら大丈夫であると、特に今からやろうとしている作業は地雷の様に罠と言うわけではないと話す。


「そうですか・・・では接続してみます」


「うむ、しかし何故ここだけこうも相性がいいのか」

 二人が話し合っているのは、ワールズダストを管理するアミールの仕事部屋。大丈夫と言う言葉を信じて意気込むアミールの姿を眺めるイリシスタは、対面の椅子にちょこんと座ったまま手元のタブレットに視線を落とすと不思議そうにつぶやく。


「ワールズダストに関係する触媒があるのでしょうか?」


「それはどうじゃろうか、ワールズダストはかなり特殊じゃからの、寧ろアミールちゃんの属性的なものかもしれん」

 世界と世界を繋ぐ接続線と言う物は、関係性が濃いほど繋げやすく、まったく関係性がないと繋げるのに苦労する様で、今回見つけた場所は特に繋げやすいのだが、その理由が何なのか分からない二人は、互いに視線を仕事に集中させながら考察を述べ合う。


「そうなると相当古いものになると思うのですが、ありますかね?」


「信仰を集めるものでも触媒にはなるがの・・・例の連中がまたぞろ変なもの落としたかのぉ」

 どうやらアミールの属性とやらは、相当古いものに関係するらしく、そう言った物は基本的に管理神が厳重に管理するものであり、もし地球上にそう言った物が存在するとすれば、それは管理神の管理不十分である。


「大問題じゃないですか?」


「締め上げてみるか・・・」

 そういった古い物は大抵強力な力が宿るもので、失くしたとなれば大問題であり、引き起こした神は厳罰に処され、ユウヒと忍者達に多大な被害を及ぼした某神の様に悲惨な事になるわけで、大抵の神が無くしても自己申告することは無い。


 そんな隠蔽に走る神を調べ締め上げるのがイリシスタの仕事の一つであり、仕事の手がかりになりそうな状況に、すっと目を細めると彼女は暗い笑みを浮かべる。


「繋がりました!」


「おお!」

 それぞれに作業を進める事十分ほどでユウヒの世界とワールズダストで接続線が繋がり、無事繋がった事にアミールが歓喜の声を上げると、イリシスタも目を見開き勢いよく椅子の上に立ち上がった。


「解析開始します・・・」


「さて、鬼が出るか蛇が出るか?」

 十中八九強力な繋がりが完成すると言う前提で選ばれた場所であるが、探し当てたイリシスタも不安要素が無いわけではない為、詳しい解析結果が出るまで安心は出来ず、椅子の上に立ち上がった彼女はアミールの作業机に手をついて脇から覗き込む様にディスプレイを見詰める。


「・・・あれ? この波形パターン」


「どうしたのかの?」

 解析作業を進めディスプレイの中でいくつもの解析結果が出てくる中、ある一点に視線を固定したアミールは一瞬目を見開くとすぐに険しい表情で複雑なグラフを拡大して凝視する。その表情を不思議そうに見詰めたイリシスタは、アミールの視線を追いかけてグラフを見詰めた。


「え、そんな・・・やっぱり」


「?」

 複雑でカラフルなグラフの横にまったく同じ形のグラフを呼び出したアミールは、確認が取れても尚驚いた表情を崩さず、イリシスタは不思議そうに眉を歪める。


「対象の波形が私に一致、起点に浸透した魔力パターンが・・・ユウヒさんです。間違いないですよ、こんな魔力パターン普通ありえないですから」


「なぬ?」

 アミールが見詰めるグラフは、個々人の持つ魔力の指紋の様なもので、まったく同じパターンは早々ありえず、結論としてそのパターンを持つ人間は彼女の知る限りユウヒだけであり、特に歪な波形を持つそのパターンは見間違えを起こすようなものでは無い様だ。


「んにゃ!? ・・・不味いです!」


「なんじゃ!?」

 いくら見てもユウヒ以外にあり得ない魔力の波形パターンを拡大して見詰める驚いた表情の二人。そんな事をしている間にも接続先の解析は進み、同時に接続状況も刻一刻と変化している。そんな変化の中で何が起きたのか、突然赤い警告表示と共にアラート音が鳴り始める画面に、奇声を洩らし慌てて画面を切り替えたアミールは蒼い顔で叫び、突然のアラートに驚いたイリシスタは思わず仰け反ると、立っていた椅子から落ちそうになり背凭れにしがみ付く。


「調査用の線しか入れてなかったのに接続線が全て強制的に繋がれました! これは、こちらの世界の方にまで一気に!? あわわ、緊急切断が全然間に合わないです! 制御を奪われています!?」

 アミールたちは、まず最初に調査するのに必要な最低限の接続線を繋いで安全の確認を行った後、本格的に世界間の繋がりをゆっくり強化するつもりでいた。しかし現在、彼女が何の操作もしないうちから接続した地球側から干渉を受け、まるで侵食するように接続線の繋がりが強化されており、その速さに驚くアミールは必死に接続線を制御しようと試みるもまったく間に合わない。


「ユウヒ君は何をしたんじゃ・・・。こっち側の線を爆破遮断器でまとめて切りなさい! ウィルスなら最悪乗っ取られますよ!」


「は、はい! 爆破遮断器2番から12番セーフティ解除、安全確認完了! 爆破します!」

 ユウヒの魔力パターンが検出された場所との異常な繋がり方を起こす現状に、天を仰ぐように頭を抱えたイリシスタは、ほんの一瞬現実逃避するとすぐに表情を引き締め、好々爺としたいつもの雰囲気とは違う張りのある声で指示を出す。部屋の外から低く重い爆発音と振動が響いてくる中、果たして彼女たちは無事世界を繋ぐ線を構築することが出来るのであろうか。



 いかがでしたでしょうか?


 以前から怪しい反応を起こしていた調査ドームの魔力活性化施設の壁、そしてユウヒと少しでも早く言葉を交わしたいアミールの想いが予想もしない事態を呼び起こす。そんなお話を次回もお楽しみに。


 それではこの辺で、読了評価感想に感謝しつつまたここでお会いしましょう。さようならー

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