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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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222/356

第二百二十一話 休み切り裂く黒い影

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。是非楽しんで行ってください。



『休み切り裂く黒い影』


 夏の夜、エアコンにばかり頼る現代人もたまには外の重たく蒸し暑い空気を感じたくなる時がある。


「宇宙・・・それは男のロマン」

 自室の窓を徐に開け放ったユウヒもその一人、彼は窓を開けると頭上に広がる星空を見上げ、夏の大三角形くらいしかわからない星の海の美しさにロマンを感じている・・・わけではなく、実際に宇宙に出る方法を考えている様だ。


「・・・一から作るのは大変そうだな」

 どうやら宇宙船かロケットでも作る気の様だが、星空を見上げたユウヒは遠い宇宙と言う場所に向かう難しさに苦笑を浮かべる。直接魔法で乗り込もうとしない辺り、自重を忘れた彼の頭にも多少の常識は残っている、のかもしれない。


「とりあえず今はドームの安定化に役立つものでも考えるか、それとも日常に役立つものか・・・」

 自分の趣味に全力で回していた頭を切り替えると、今後さらに進める必要があるドームの安定化について考え始めるユウヒ。しかしそればかりでは詰まらないと顎を扱いて町の光を見渡すと、横道に逸れてまたよからぬことを考え始めたようだ。


「そう言えば深き者達に連絡する時に送信装置でもあった方が確実かな? なら通信機を先に・・・」

 基本的に思考の移ろいやすいユウヒが頻繁に思考を逸らす時は、大体問題を起こす時である。深き者達について政府の判断を待っている現状、特に彼らと接触する必要が無いユウヒは、しかしいつでも連絡をとれるように何か作るつもりの様だ。


「・・・ん? 何やら妙な予感が」

 机に置かれたノートを手に取って何かを書き込み始めたユウヒは、その書き込み速度上げようとした瞬間ピタリと手を止める。手を止めたまま窓の外に目を向けた彼は、また何か妙な予感を感じた様で、眉を顰めながら生暖かい空気で満たされた暗い街並みを見つめ続けるのであった。





 窓の外から蚊が侵入し、ユウヒがどたばたと格闘することになった翌早朝、調査ドームでは異世界の地で複数の自衛隊員が慌ただしく走り回っている。


「これは・・・拙いのでは?」

「拙者に言われても・・・」

「おれ何もやってねーよ?」


 そんな慌ただしい空気の中、忍者の三人はある一点を見詰めながら表情を引き攣らせていた。彼らの見詰める先にはユウヒの置き土産である、某女神を象ったレリーフが鎮座している。


「退避の許可が出ましたが・・・どうしますか?」

 神々しい光を放つレリーフに照らされる忍者達は、背後に庇った女性の声に振り返ると悩まし気に顔を顰めた。


「んー爆発とかないと思うけど?」

「そだな、どっちかって言うと何か繋がりかけてるような」

「やっぱユウヒ殿を呼んでこないとだめでござるな」


 ゆっくりと瞬く光に不安を感じる忍者達であるが、しかし彼らの勘は爆発する様なものではないと言っており、寧ろどこかと繋がりそうな空気を感じている様で、それ以上はユウヒに聞かなければ判断できないと言う。


「それが、政府から返答が・・・」

 だが現在のユウヒは強制休暇状態であり、自衛隊から政府に一報入れても接触の許可が出ない様だ。


「直接いくべ?」

「それしかないでござるか」

「次こそは奇襲を成功させねば」


 そんな女性の口籠る姿に顔を見合わせた忍者たちは、肩を竦め合うと楽し気な笑みを浮かべ直接会いに行くと言いだすも、どうやらドッキリリベンジを行うつもりの様である。


「「「くぅっくっくっくっく!」」」


「・・・」

 彼らがどんなに頑張ったところで結果は変わらない気もするのだが、そこに山があれば登る様に、彼等の衝動はジト目の女性の視線であっても抑えられるものではなかった。


「大丈夫なんですか?」


「まぁ知り合いだからグレーかな?」

 そんな忍者たちの姿を少し離れた場所で眺めていた調査ドームの責任者は、隣からかけられる部下の言葉にサングラスの奥で目を細めると、眉を僅かに寄せて肩を竦め呟く。


 自衛隊として接触するには大臣の許可が無ければならなくなったユウヒであるが、単純に友人の自衛隊員が休暇中に接触する分には特に不都合はない。若干怒られそうな行為であるが法的に制限することは出来ず、そんなグレーな行為をこの男性は容認する気満々である。


「十分な休養を与えるとかで、接触禁止にされている・・・でしたか」


「頼る相手がいないとは言え、一般人だからな」

 かと言って彼も思う所が無いわけではなく、一般人を呼び出さなければならない現状に何とも言い難い表情を浮かべる責任者の男性は、三人の忍者に休みを与える為に彼ら三人の下へ歩き出す。


「まだ傭兵なら話も変わるんでしょうけどね」


「両親がそれでも彼は完全な一般人枠だからな」

 やいやい言い合って襲撃の計画を立てる忍者に苦笑を浮かべる女性は、上司の斜め後ろについて歩きながらユウヒと言う可笑しな一般人を思い出す。飄々とした雰囲気を崩すことなくとんでもないことをやってのける姿に反して、環境以外は特におかしなところのないユウヒは、公式に一般人の範疇である。


「「「あれが一般人なんてとんでもない!?」」」


 しかしその中身はとても一般人と呼べるものではなく、責任者たちの言葉が耳に入った忍者たちは、まったく同じタイミングで振り返ると、まったく同じセリフを驚愕の表情で吐き出すのであった。





 今日も朝から世界は暑い、昨日はそんな中を兎夏の家まで訪ねたわけだが、あの後は特に何もなく、冷房の効いた部屋から出たくないと愚痴をこぼしつつ帰ってきたくらいだ。


「ユウちゃん今日はどこか出かけるの?」


「いや、予定は無いけど?」

 しかしあんなに冷房の効いた部屋に居たのに妙に肌が赤くなっていた彼女は大丈夫だろうか? 冷房の掛け過ぎで風でも引かなければいいが・・・。ところで母上はなぜ妙に怖い笑顔を浮かべているのだろうか? 予定を聞いてくる口調はいつも通りだが、その目はドロドロと濁っていてちょっと怖い。


「そうなの?」


「・・・妙な予感がするから出かけることになるかもだけど」

 俺の返答に訝しげな表情を浮かべる母さんであるが、たぶんそれは俺が今日も出かけるような予感を感じているからだろう。俺も出かけたくはないのだが、出かけるようなイベントが起きそうな予感を昨日の夜から感じている。


「そうよねー? それじゃお弁当用意するわね!」

 大体こう言う日は必ず出かける事になるのだが、その所為で母さんは朝食後だと言うのに料理をしていたのか、正直言って持ち歩くの面倒だから要らないんだけど、


「弁当? いらな「何がいい?」・・・おにぎりで」

 しかし断る事は無理な強制イベントらしい。これはいいえと言う選択肢を選んでも永遠にどうするか聞いてくるやつだ。実際最終的に根負けするのは俺の方なので、ここは早々に正解の選択肢を選ぶことにした。


「中身は何がいいかしらぁ♪」


「普通で良いから・・・」

 果たしてどんなおにぎりが出てくるのか、いつも後の楽しみと言って秘密にしながら色々入れてくる母親の背中を見詰めつつ、意味のない言葉を口にすると何とも無力な自分を再認識してしまう。





 溜息一つ残してリビングから自室に戻ったユウヒは、起床時から点けっぱなしの冷房でよく冷えた室内を見渡すと、大きく息を吸ってもう一度溜息を洩らす。


「もう少しかまってあげた方が良いのだろうか? しかし、甘やかすと危険だしなぁ・・・いいか」

 構わないと怒ったり暴走する母親の行動に、もう少し構ってあげた方が、優しくしてあげた方がいいのだろうかと考え込む彼は、明華が喜びそうな思考をすぐに捨てると、喜んだ先にある不幸を想像して今まで通りの対応を、自らに心掛けるのであった。


「・・・」

 そんなユウヒは何かに気が付くと視線を室内で彷徨わせ、無言で眉を顰めると静かな足取りで窓辺に近付く。


「・・・・・・外からか」

 夏の真っ青な空と入道雲を切り取る窓に手をかけたユウヒは、空を見上げると小さな声で呟き窓のカギを開ける。


「うへ、今日も暑くなりそうだな」

 滑車の廻る振動を手に感じながら窓を全開にしたユウヒは、吹き込んでくる重くじっとりとした空気を上半身に受けて顔を顰めると、その熱量に今日も暑くなりそうだと肩を落とす。


「とりあえず・・・【チャージ】【マルチ】【ショック】」

 農作物には嬉しい陽ざしと湿度は、ユウヒにとって歓迎できるものではなく、窓から少し離れた彼はさらに追加されるであろう来客に備えて魔力を練って魔法を手の中に収める。


「んー・・・ちょい上かな?」

 背後に感じる、エアコンの冷たい空気の混ざった生ぬるい風にじわりと汗が滲む部屋の中で、光球を掌で遊ばせるユウヒは、部屋の天井を見上げながら一人呟く。


「・・・」

 そんな状態で窓を背にすること三十秒。


「今だ突撃!」

「たまとったらぁ!」

「切り捨てごめんでござ―――」


 背後から突入の掛け声と汚い言葉づかいで黒い影が勢いよく入り込んでくる。それは屋根の上から窓に突入して来たらしく、窓枠に手をかけると反動を使って一気にユウヒの背中へ迫る。


「【シュート】」

 普通の人間なら即死させられそうな速度と鋭い手刀、しかしそこは神様印の力を女神から貰ったユウヒ。前方へと倒れ込む様に一歩踏み出すと、勢いよく振り返り手に持っていた光球を解き放つ。


「「「ぎゃああああああああ!?」」」


 ユウヒの手から解き放たれた光球を、その優れた動体視力で捉えた三人は驚愕の表情を浮かべると、慣性により前進する体でその複数の光球を受け止め・・・撃墜される。物理的な反発力で空中に制止した三人は、同時に襲ってくる強力な電撃で筋肉を収縮させると奇妙な格好で床に落ち、ぴくぴくと痙攣する姿をユウヒの前に晒した。


「なんで毎回突撃してくるのか・・・」

 何度目になるのか数えるのも馬鹿らしいと言った表情のユウヒは、床に重なり倒れる忍者を見下ろすと、ため息を一つ漏らして窓を閉める。


「・・・おのれ」

「ばけものめ・・・」

「だから無理だと・・・ござぁ」


 表情一つ変えることなく迎撃された忍者たちは、痺れる体で上半身を起こしながら恨み節で呟く。しかし体が言うことを聞かないらしくすぐ倒れ込み、一番下のゴエンモは潰されて変な声を洩らす。


「さっさと立てこのすっとこどっこい共!」


「ひでぇ」

「ぐぬぬ、この忍者ボデーがこんなに痺れるとわ・・・わけがわからないよ」

「生きてるだけましでござるに・・・あいやすまんでござるユウヒ殿」


 一向に復活しない忍者たちを金色の目で見降ろすユウヒは、いつの間に用意したのか振り上げたハリセンで黒い頭巾を被った暑苦しい頭を叩いていく。どうやらすでに立ち上がる元気は戻っているらしく、ユウヒに促されると忍者たちはのろのろ起き上がり始める。


「嫌なら襲撃するなよ」


「「「だが断る!」」」


 ぶつぶつ文句を言いながら起き上がる忍者たちに座布団を渡したユウヒは、冷たいお茶の用意された座卓に肘を乗せ座りながら呆れた様に呟くも、どうやら忍者たちに襲撃を止めると言う選択肢は無い様だ。


「OK! もう一発だな? 次は冷たいのいっとく?」


「「「サーセン!」」」


 確固たる信念? を曲げない彼等だが、掌はくるくると良く回る。にっこりと笑みを浮かべたユウヒの右手に収束する魔力を見て引き攣った表情を浮かべ頭を下げる三忍に、ユウヒは表情をいつものやる気なさげなものに戻すと魔力を霧散させる。


「それで? 何の用?」


「切り替え良すぎだろ」

 すぐに気分を切り替えたユウヒは、拝む忍者の前に座卓を押しやると、冷たい麦茶をコップに注いであげながら何があったのか問いかけ、そんなユウヒの姿にジライダは呆れた様に呟く。


「もう慣れたよ」


「ふむ、もう少し手を変えねばならぬか」

「しかし奴は強敵ぞ? どんな奇想天外な手を使えば・・・」

「普通って選択はないでござるか?あ、王道と言う意味で」


 しかし、何度も襲撃されるユウヒとしてはもう慣れたものであり、呆れた表情でそう言われた三人は、感情の消えた目を見開くと、すぐに怪しい光を目に宿してぼそぼそと話し合いを始め出す。


「いいから用件言えや」


「実は・・・ユウヒ殿が建てたフラグが回収作業に入りそうでござる」

 そんな三人に、ユウヒもいい加減飽きて来たのか、鋭く短く話を促し、そろそろボケるのも限界と察するや否や姿勢を正した三人は、代表してゴエンモが訪問の理由を話し始めた。


「・・・俺なんか立てた?」

 ゴエンモの言葉にきょとんとした表情を浮かべたユウヒは、何かやったかと本当に解らない様子で大きく首を傾げる。


「建てたじゃねぇか、トラウマ刺激しやがって」

「レリーフだよ」


「・・・あぁ、あれか」

 まったく覚えのない様子のユウヒに対してジライダとゴエンモが声を荒げると、ようやく思い出したのか彼は目を見開いて頷く。試作も兼ねて作られた大型の魔力活性化施設、色々と大型化したために安全のためと壁が作られたが、味気ないと言う理由で全面にレリーフが施されている。


「前に光ってると言ったでござるが、今は輝いてるでござる」

「爆発するんじゃないかって周辺から自衛隊が退避してるんだぞ?」

「まぁ爆発系じゃないと思うけどなー」


「ふむ、言ってみないと何とも言えんな」

 壁に施された精巧なレリーフも、忍者たちのトラウマを抉る褐色の女性達はまだ良いが、それ以外については実在する神を正確に描いている為に、何か余計な効果が生まれたようだ。


 麦茶を飲みながら話す忍者達もそれを感じているらしく、考えられる可能性をいくつか思い浮かべるユウヒは、実際に見てみないとわからないと言いつつ、それほど悪い予感はしていない表情を浮かべている。


「すぐ来てほしいでござる」


「ふむ、それじゃちょっと散歩に出かけるか」


「「「おお!」」」


 外に出かけるような予感の理由を知ったユウヒは、ゴエンモのすぐ来てほしいと言う言葉に肩を竦めて快諾し、その言葉に三人は嬉しそうに声を揃えた。


「そうだ、そろそろ無くなると思って作っておいたぞ」


「ん?」

「なんでござる?」


 そんな三人の姿に気怠い表情を浮かべていたユウヒは、何かを思い出して目を見開くと、部屋の端に押しやられていた荷物の山から一抱えほどの箱を掘り出し、座卓の上に置く。興味深そうに忍者たちが見詰める箱は、明らかにただの箱ではなく、妙な魔力が渦巻いている。


「ほれ、忍術用の護符」


「「「キタコレ!」」」


 その禍々しさに若干腰の引けている忍者達であったが、ユウヒが箱の蓋を開けると、その言葉も相まって即座に歓喜の声を上げた。箱の中に入っていた物は札束の様に束ねられた忍術用の護符と謎の黒い棒。


「攻略サイトを調べて色々再現してみた。今回は精度に自信があるので、思いっきりやっていいぞ?」


「マジか! そりゃいいな」

 束ねられた護符は上質な和紙で作られており千枚以上はありそうで、さらに精度に自信があると言う言葉に目を輝かせるジライダ。彼は束を一つ手に取るとそこから感じる力強い気配に口元を緩める。


「ありがたいでござる! 大分少なくなっていたでござるよ」

 同じく束を手に取りヒゾウに渡すゴエンモは。お礼の言葉を継げながらさっそく腰の護符フォルダーに入れていき、一枚残っていた古い護符を取り出すと使いやすいように懐に仕舞う。


「あと、もっと良いものもある」


「「「ごくり」」」


 そんな護符に夢中な三人にジト目を向けるユウヒは、彼らが務めて無視していた黒い棒を箱から取り出すと、もっと良い物だと話し、そんなユウヒの言葉に忍者は恐怖する。大体ユウヒが楽し気に新しい物を紹介する時は何かあると学習している彼らにとって、どうやら黒い謎の棒は恐怖の対象の様だ。


「なんで逃げる?」


「いや・・・ユウヒだし」 

「マッドだし・・・」

「クレイジーでござろう?」


 座ったままじりじりと器用に後退する忍者たちにゆっくりと目を細め問いかけるユウヒ。その問いに三人は互いに目を合わせ無言で意思疎通を行うと、小さく肩を竦めながら言い聞かせるように語る。


「・・・・・・せっかく得物が無いだろうと用意してやったのに」

 彼らの物言いに不機嫌そうな表情を浮かべるユウヒであるが、過去にも何度となく言われ続けたそれらの言葉に、解せぬと言いたげな感情で顔を歪めると少し不貞腐れた様に呟く。


「武器か!」

 どうやらその黒い棒は武器であるらしく、一見そうは見えないがそこはユウヒの作り出すアイテムである。どんな形であろうとユウヒが得物と言えば得物であり、ジライダが腰を浮かせ叫ぶとゴエンモとヒゾウも同じく身を乗り出し、ユウヒが箱から取り出した握りやすそうな凹凸のある黒い棒を見詰めはじめた。


「ほい、ふぁんたじっくれーざーくないー」


「ファンタジック?」

「レーザー?」

「クナイ?」


 先ほどまでの緊張が嘘のように目を輝かせる三人に呆れた表情を浮かべたユウヒは、15㎝ほどの黒い棒を親指と人差し指で挟むと、やる気の減退した声で名前を告げる。


「凄く頑張って再現した、クロモリのFPSエリア限定ネタ近接武器」

 その黒い棒の名称は、ユウヒ曰く【ファンタジックレーザークナイ】だと言う。かつてユウヒが青春を注ぎ込んだオンラインゲーム、クロモリオンラインのFPSサーバー内に存在したネタアイテムは、ユウヒの魔法と妄想によって現実、いや地球上に再現された様だ。


「あれか!」


「通常は棒だけど、魔力を少し込めれば・・・ほれこの通り」

 ジライダはそのゲーム内アイテムに覚えがあるらしく、彼が微妙な表情でクナイと呼ばれた棒を見詰めると、ユウヒは棒の半分ほどを手で握ると魔力を籠める。


「すげ!」

「どういう原理でござろう?」

「ビームじゃないのか?」


 ユウヒが魔力を込めると棒はじわりと光だし、緩やかなふくらみのある部分から光の刃が生まれ、時代劇や漫画などでよく見るクナイの形に変っていく。数秒で光の形が整うと、その姿にジライダは驚いた声を洩らし、ゴエンモ目を輝かせその原理を気にして、ヒゾウは別の作品を思い出し首を傾げている。


「光の精霊曰くレーザーらしい。短いレーザーは高出力だがすぐ拡散するようになってるから安全だよ」

 ユウヒが作ったのは、光の精霊に協力してもらう事で棒の上半分からレーザーを生み出すナイフであり、魔法の力で捻じ曲げられた物理現象によって、光を刃の形で安定させていた。


「切れ味は?」


「そこそこ、鉄板もゆっくり切れば切断できるぞ」

 本来レーザーであれば大気や障害物で減衰するまで伸び続けるものであるが、ファンタジックレーザークナイは一定の長さで固定され、その切れ味は厚い鉄板も切断するらしい。


「レーザートーチだな」


「ちょいと無駄が多かったから、エネルギーの再利用もさせてるんだが・・・その関係でキラキラ光るぞ」

 正確には切断ではなく溶断なのだが、切れるのであればどっちでも良いと言う考えのヒゾウは、類似するものを思い出しながら恐る恐る箱から黒い棒を取り出す。


「ゲーミングカラーでワロス」

「かっこよいな・・・」

「中二心を擽るでござる」


 さらに魔力の籠められた棒本体は、黒いボディに幾何学模様のラインを七色に輝かせて光の刃を展開して見せたヒゾウをキラキラと照らし、その姿に三人は興奮した様に鼻息を荒げ始める。どうやらその姿は彼らの琴線に痛く響いたようだ。


「・・・ちなみに、壊さないように使ってくれるとありがたい」

 すっかり当初の恐怖心が消えてなくなった三人を満足そうに見詰めるユウヒ、しかし彼には懸念事項があるようで、真剣な表情を浮かべると幾分低くなった声で壊さないようにと念を押す。


「そりゃな?」

「壊さないでござるよ」

「・・・なんかあんのか?」


「それに使っている魔結晶、新しく作ったやつだけど活性化魔力の保存量が半端ない事になってんだよ」

 作り手としては当然壊されたくないものであるが、そういった感情とは別に壊してはいけない理由がある。それは高性能化した量産型魔結晶がクナイ内部に組み込まれていると言う所にあった。


「・・・いかほどで?」


「長寿命化に成功しすぎた所為か純粋に破壊に使えば辺り一帯が吹き飛ぶ、一応安全装置は組み込んでるから、起動魔力の籠め過ぎで暴走させない限り安全だよ・・・」

 普通に、寧ろ手荒く扱っても特に問題はない安全設計のクナイであるが、起動時の魔力を籠めすぎると暴走を起こす仕様となっているらしく、その結果引き起こされるのは低威力核兵器並みの純粋魔力爆発である。


「なるほど・・・」

「爆発範囲は?」


 ユウヒの簡単な説明だけではよく解らないヒゾウは、理解した風を装いながら首を傾げ、もっとわかりやすく爆発範囲を問うジライダ、その隣では嫌な予感を感じて気持つ悪い汗を流すゴエンモ。


「・・・全力で逃げてね?」

 三人の視線を受け徐に目を閉じたユウヒは、右目の力で見た内容を元に計算すると静かに目を開け口を小さく開いて語る。忍者達の、不整地をレーシングカー並みの速さで走る身体能力をもってしても、全力で走らないといけないと言う言葉を受け止めた忍者たちは、


「「「…oh」」」


 全力で頭を抱えながら小さく言葉にならない声を吐き出すのであった。


 TNT換算で数キロトンの威力を秘めた危険物、果たして彼らはそんな危険物を無事運用出来るのか、そしてそんな代物を所持していることを隠し通す事は出来るのであろうか、それは未来を知ることの出来ない彼等には解らない事である。



 いかがでしたでしょうか?


 遅い夏休みを満喫中のユウヒに襲い掛かり即座に撃墜された三人、果たして彼らが呼びに来た原因となるレリーフで何が起きているのか、次回もお楽しみに。


 それではこの辺で、読了評価等皆様に感謝しつつまたここで会いましょう。さようならー

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