表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

216/356

第二百十五話 騒がしい食卓

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『騒がしい食卓』


 夏の日も落ちて窓から感じていた熱も落ち着き始める時間帯、晩御飯の準備が進むキッチンから良く見えるダイニングには、熾烈な争奪戦を繰り広げた勝者であるパイフェンがユウヒの隣で楽しそうな笑みを浮かべている。


「悪かったなぁユウヒ、助けるつもりが・・・」


「いや、気にしてないよ。怪我も無いしな」

 そんな彼女は急に真剣な表情を浮かべると、隣の席に座って真顔で目の前に並べられた料理の品数を見詰めるユウヒに話しかけた。どうやら彼女はユウヒが乗る旅客機の墜落を防げなかったことを今も気にしており、怪我が無かったとは言え迷惑をかけてしまったユウヒに一言真面目に謝りたかったようだ。


 普段はさばさばした性格のパイフェンであるが、ユウヒに対してはどこか乙女心が沸き上がるらしく、謝っている今もどこかしおらしく見える。そんな彼女の姿に勇治と白猫が面白そうな笑みを浮かべる中、ユウヒは特に気にした様子もなく笑う。


「いや可笑しいからネ?」


「普通外に出たら凍傷の一つもするわよ? まぁその前にボンベ無しで何で生きてるんだか解らないけどね」


「あまりその話に触らんでください」

 とても高高度を飛ぶ旅客機の外に放り出された人間の返答とは思えないユウヒの発言に、それまで申し訳なさそうにしょぼくれていたパイフェンは、ひどく呆れた様に目を据わらせる。最悪嫌われることも覚悟していたパイフェンに肩透かしを食らわせたユウヒも、自分がおかしなことを言っていると自覚しているらしく、背後から豊満な胸を押し付けながら頭を撫でてくる白猫の手を避けながら触れないでほしいとつぶやく。


「じゃあ直接触る? アイタ!?」

 危ない事をしたと言う兄を責める様に、じっと見詰めて来る妹から視線を逸らすユウヒに微笑んだ白猫は、話に触れられないならと、直接ユウヒの素肌に指を這わせ始めた。するすると局部を目指すその怪しい指使いに目を見開いた流華が吼えるより早く、キッチンの奥から鋭いスローイングナイフ、もといスローイング菜箸が飛んできて白猫の額を鞭の様に叩いて落ちる。


「そこ誘惑しない!」


「いたた、地獄耳め」

 人種特有の白い肌の額に二本の赤い線を刻まれた白猫は、キッチンの奥から威嚇する声とそこに見える赤い目を睨むと、額を擦りながら悪態を漏らし、そんなやり取りに手の中で菜箸弄ぶユウヒは溜息を一つ零す。


「よく姐さんの前でそんな事出来るナ」


「ふふ」

 いつもユウヒに絡むパイフェンでも、この場で同じようなことをやる気にはなれず、明華から泥棒猫と呼ばれる彼女を見上げるその目には、尊敬と呆れの感情が込められており、そんな視線に白猫はニヤリと笑う。


「うー」


「あら、可愛い嫉妬ね」


「むぅ・・・」

 一方、いつもの定位置であるユウヒの左隣に陣取る流華は、兄の腕を掴み引っ張ると威嚇するように唸り声を上げており、その様子を見下ろした白猫の反応に対して不満そうに頬を膨らませると、さらにユウヒの腕を引っ張る。


「流華も今日は甘えん坊だな? なんかあったか?」


「寂しかったから独占したいんじゃない? 家族は一緒に居ないとね」


「そうだね」

 普段外では、借りて来た猫の様に素っ気ない妹の見せる内弁慶な姿に、ユウヒは普段から微笑ましいものを感じているが、今日の彼女はそれに増して甘えてきていた。妹に引っ張られるままに体勢を崩すユウヒは、彼女の様子に目を向けると不思議そうに呟き、その疑問の声に対してくすくすと笑い声を漏らした妖精たちは、薄く透き通った羽根を羽ばたかせユウヒの耳元に近づくと、流華の気持ちを明確に言い当てる。


「まぁ・・・お前らの家族も探さないとな」


「うん」

 妖精たちの言葉に理解を示す様に頷くユウヒは、慌てた様に開放される腕を上げて、流華の頭を一撫でして笑みを浮かべると、傍で羽ばたく妖精たちに目を向けて彼女達の仲間も探さないといけないと言い頭を掻く。ユウヒの言葉に目を瞬かせた妖精二人は、柔らかな笑みを浮かべ頷くと、ひらり飛んで流華の頭に着陸し、足元の頭を両手で撫ではじめる。


「しかし妖精ねぇ? なんだか現実感が無いな・・・チクんなよ?」


「しないわよ、まぁ赤狐の名前出したら誰も手出ししないでしょうけど?」


「まぁな・・・」

 妖精たちに慰められ弄られ恥ずかしがる流華の姿を眺めるパイフェンは、呆れたように呟くと白猫に目を向けて釘を射すも、彼女から返ってきた声もまた呆れたようなもので、実際彼女の言う通りユウヒのお願いで明華が囲っている以上、まともに手を出せる人間はいないであろう。


「夕陽はモテモテだなぁ・・・あいた!?」


「フー!」

 呆れを隠さない二人の視線に気が付いた明華は、その視線に向かって睨み返すと、ユウヒに纏わりつく二人を見てカラカラと笑う勇治の頭にジャガイモを投げつけて、涙目で振り返る夫に威嚇の鳴き声を上げる。


「怒んなって、ほら後で夕陽と一緒に風呂でも入ればいいじゃないか?」

 追加のジャガイモが飛んできそうな明華に慌てて両手を振って見せる勇治は、彼女の感情の方向と矛先を変えるためにいけにえを捧げた。


「そうね!」

 白猫とパイフェンが勇治の言葉に苦笑を浮かべるのとほぼ同時に、勢いよくユウヒを見詰めた明華は嬉しそうに声を上げ、その声に流華は何事か考え頬を赤くする。


「やだよ・・・」


「なんでぇ!?」

 今にも駆け出しユウヒを連れてお風呂に行きそうな明華であったが、ユウヒの真っすぐな拒絶に涙目で驚きの声を上げた。


「いや・・・貞操的な危険を感じたから」


「・・・・・・チッ」

 周囲が呆れたような笑みを浮かべる中、、何故と問われたユウヒは肩を落とすと、明華の目から伝わってくる感情にげんなりした表情を浮かべ呟く。彼の言葉に周囲は乾いた笑い声を漏らすも、明華の口から洩れる悔し気な舌打ちにその危機感が正解だと理解すると、様々な視線を彼女に向けるのであった。


「・・・なるほど、あれじゃ危機回避能力鍛えられるわけだわ」

 そんな様子を見ていた白猫は、背中を丸めたユウヒの頭の上に手を乗せると、彼の頭を荒っぽく撫でながら自分のアプローチが成功しない理由を察すして半笑いの声で呟く。


「まぁいいわ、後で耳掻きしてあげるからねぇ」


「まぁ・・・それくらいならいいけど」


「ふふふふふ」

 基本的にユウヒは、性的な攻撃を極端に避ける傾向があるが、全ては明華の行動が原因であり、逆に今の様に余計な感情が入っていないアプローチには無頓着である。それ故に今の様に頭を撫でられることに対してなされるがままであり、ただの耳掻きであれば母の気持ちを考え拒否することは少ない。


 嬉しそうにスキップしながらキッチンに戻る明華を見送るユウヒは、頭を抱こうとしてきた白猫の腕を避けると、頬を膨らませた流華の頭を妖精ごと撫でてため息を洩らすのであった。





 そんなやり取りから小一時間後、ようやくありつけた家庭の味に舌鼓を一通り打ったユウヒは、海外のドームを視て周り解った事を纏めて、みんなに土産話として話していた。その話はこの地球で最もドームの真実に迫った内容であり、世界中の国々が欲する情報で、決して土産話で話す様な軽い内容ではない。


「なるほどな、そうなると他の国でも何か起きてる可能性があるわけだ・・・あれもか?」


「うげ、仕事増えそうな予感・・・日本全然安全じゃねぇなぁ」

 しかし、この場に居る面々は荒事や裏の話に精通した人間ばかりである為、ユウヒの話す内容から今後の展開を予想して様々な表情を浮かべている。勇治は出稼ぎ先で気になる事でもあったのか顎を扱きながら呟き、パイフェンは安全な日本に退避したのに仕事が増える一方だと嘆く。


「ユウちゃんの攻撃が効くのはなぜ?」


「あー魔力に魔力をぶつけて相殺してる様な感じかな? そうすれば後は物理攻撃勝負になるから」

 一通り話し終わり口寂しくなったユウヒが、大皿に山と積まれた唐揚げに向かって箸を伸ばすと、すかさず明華に唐揚げをよそわれ、ついでに彼女が気になっていたことに関して問われる。小皿に取り分けられた唐揚げを受け取るユウヒは、ニコニコと笑みを浮かべる明華の質問に、どこかふわっとした答えを返す。


 魔法に詳しい人間が聞けば口を挟みたくなるような内容であるが、その本質は間違っておらず、ユウヒの説明に目を細める明華は何やら面白そうに笑みを浮かべ、小さく理解を示す様に呟きながら頷く。


「ほう? ならその魔力ってのは強度を上げてるわけじゃなくて保護してるだけって事か」


「そだね、あの巨大人骨は半分くらい動くために魔力使ってるから、保護の為に使える魔力は少ない方かな? まぁ総量がすごかったから割合の話をしても意味ないかもだけど」

 現在地球上に現れている異世界の生物は、総じて同じような魔力の利用方法をとっており、その一つが周囲からの様々な影響から体を保護する利用法である。


「大亀のバリアも魔力の特性って事ね・・・」

 大亀は巨大なバリアを周囲に張ることで物理的な攻撃を近づかせずに遮断し、巨大な骨の化け物は骨を包む様に保護膜を形成し防御と可動の両方に利用していた。また、テーブルの上にハンカチを布いて寝転ぶ、お腹を大きくした食いしん坊な妖精二人も、中国ドームの爆発から身を守る術として魔法の繭で身を守っている。


「少ない方って、アレって戦車砲を真っ向から受け止めたらしいジャン? もっと多い奴はどうやって倒すんだよ・・・」


「保護を突き抜ける様なより強力な質量攻撃か、いやでも再生したからやっぱ魔力を伴った攻撃かな?」

 それらの類似性から見える魔力の共通性、そう言った基礎的な事に明華の興味が惹かれる一方で、パイフェンは単純に打倒する方法が気になる様だ。今後、実戦で相手にする可能性のある彼女としては当然であり、アメリカの調査情報を耳にした身としては、戦車砲も防ぐ骨など考えたくもなく、せめて何か弱点はないかとユウヒに目を向けるも、返って来る言葉に希望は無いようである。


「・・・そんな人材希少すぎるだろ」


「自衛隊は保有してるよ?」


「なに?」

 単純に火力と言われても簡単に用意できるわけもなく、魔力や魔法を使える人材なんてそれこそパイフェンが知る限り1名しかいない。しかしユウヒは日本の自衛隊なら可能な人間を確保していると、言外に自衛隊なら対処可能だと話し、周囲は驚きの表情を浮かべる。


「・・・あ、忍者君たちね」


「なるほど・・・」

 最初にその人材に思い至ったのは明華、詳しくは聞いていないがユウヒの話を統合すると該当するのは、以前ユウヒを訪ねて来た見るからに忍者な三人しかおらず、勇治も彼らを思い出すと納得した様に頷く。


「あの三人なら普通に攻撃通るだろうし、忍術で大規模攻撃も出来るんじゃないかな?」

 神の力で無理やり進化した忍者たちは、その攻撃時に自然と魔力を利用している為、ユウヒの言うような攻撃が可能であり、また消費型とは言えユウヒ謹製の道具を用いればちょっとした災害級の魔法も使えるため、大抵の事態に対応できる優秀な人材である。


「ニンジャ! 忍者って実在するの!?」

 そんな忍者と言う人材に最も反応が良かったのはロシア人の白猫。彼女はテーブルに手を突くと勢いよく立ち上がり、少し離れた席のユウヒをキラキラした瞳で見詰め声を上げた。どうやら彼女は日本の忍者に興味があるらしく、自らが思い描く様な忍者が居ないと思っていたところに朗報を聞き興奮している様だ。


「・・・あれは、ミュータントかな?」


「すごいわ!」


「マジか、そっちの方が実在したのか・・・あれ日本じゃ無くね?」

 そんな白猫の横ではパイフェンが静かに目を輝かせており、ユウヒのミュータントと言う言葉に目を見開くと思わず声を洩らし、興奮した様に鼻息を漏らすも想像に疑問を抱き不思議そうに小首を傾げる。


「?」


「「むにゅ?」」


 一方、忍者たちが忍者をしている姿で面識のない流華は、一人話に着いて行けずきょとんとした表情で忍者と言う言葉を心の中で反芻し、忍者を知らない仲間が居る事に気が付くと妖精二人を目を向け、半分寝かけている二人に笑みを浮かべるのであった。





 そんな噂に上った忍者たちは、


「「「ブエックショーン!!!」」」


 忍者センサーに引っかかった噂電波によってなのか、盛大にクシャミを洩らしていた。


「うわ!?」


「キタナイ!?」


「あいやすまんでござる」

 丁度食事中、しかもみそ汁を三人仲良く啜ろうとしていたらしく、そのまま突然クシャミを放った三人は、思いっきり顔にみそ汁浴びる事となってしまい、周囲の自衛隊員達は飛び散る飛沫に慌てて後退る。


 日頃から鍛えられている人たちだからその動きも早く、顔からみそ汁を滴らせるゴエンモに呆れると、こちらもすぐにおしぼりが渡され、礼を述べる彼に男性自衛隊員はため息を洩らす。


「手を当ててくださいよ」


「急に来て当てる暇がなかったぜ」

「新種の花粉かな?」


 ゴエンモにおしぼりを渡した男性は、ジライダとヒゾウにもおしぼりを渡しながらみんなを代表して苦情を伝えると、苦笑いを浮かべる二人に周囲の同僚同様に肩を竦めて見せるのであった。


「ふむ、もし花粉症であるなら日本の花粉との近似性があるかもしれんな」


「サンプル採ってきます!」

 一方、日常の何気ない会話に笑い合う自衛隊の面々を見ていた大学の教授は、眼鏡にLEDライトの光を怪しく反射させると真剣な表情で呟き、傍で食事を摂っていた女性はサンプルを採ってくると叫ぶと、残りの食事を急いで掻き込みハムスターの様になりながら食堂用の大型テントから駆け出していく。


「元気でござるなぁ」

「食事ぐらい落ち着いて食えば良いものを・・・」

「じゃあ食事中にレアなアニメの再放送始まったら?」


 その女を捨てた助手の姿に、目を細めた忍者たちは近所で遊ぶ子供を眺めるような生暖かい表情で彼女を見送ると、困った様に呟く。しかしヒゾウの問いかけに顔を見合わせたゴエンモとジライダは、全てを理解した表情で振り向くと、


「「走って見に行くな」」


 ヒゾウに向かって親指を立てながら声を揃え、そんな二人にヒゾウもニヤリと笑みを浮かべながら親指を立てる。


「にぎやかですね?」

 そこからさらにアニメ談義が始まりそうであったが、背後から女性の声がかかるとピタリと話を止め振り返る三人。そこには柔和な笑みを浮かべたエプロン姿の女性が立っており、手には自分のであろうか食事を乗せたお盆を持っている。


「あ、すまんでござるな」


「ふふ、気にしてませんよ」

 どうやら彼女はこの食堂を切り盛りしている女性であるらしく、異世界に足を踏み入れて働く数少ない一般人であった。食事と言う最も重要な面でお世話になっている女性の声に、ゴエンモは申し訳なさそうに頭を掻くも、どうやら彼女に三人を責める気はないようで、ニコニコと笑みを浮かべる女性に、三人は母の様な安心感を得るのであった。


「しかしここも大分広くなったよな」

「前より随分住みやすくなったな」


「まだテントですけど、色々な機器も分解して持ち込めばいいので、人海戦術ですね」

 そんな食堂の女将と一緒にお盆をもって現れたのは、忍者三人と行動を共にしているラーメン好きな女性自衛隊員で、手にラーメンチャーハンを持った彼女は食堂施設の拡張方法について語る。


「すごいでござるなぁ」

 その方法は非常に原始的な人海戦術による荷物の持ち込みで、よく見ればテントの生地は継ぎ接ぎが多く、支柱も細かく分解できるようになっている様だ。その事実を知った三人は、今まで気にしてなかった場所に目を向け、食事を口に運びながら感心した様に頷いている。


「頑張って土地を広げてもらったからと、皆さん建設には張り切っていたらしいですね。それで、報告をしてもらってもいいですか?」


「報告書にまとめた方が良いんじゃないの?」


「それはこちらでやります」

 そんな食堂が建っているのはヒゾウが丸太を増産した場所であるらしく、その光景に呆れ発奮した自衛隊員達は対抗するように建設作業を張り切ったようだ。そんな話をすぐに切り上げた女性は、タブレットを起動させると食事を終えたらしい忍者たちに報告を促す。


「おう、遠回しにてめぇの誤字だらけ報告書がディスられてんぞ?」

「あ? やんのかごら?ミミズ文字」


 時間の節約か、それとも別の理由か食事をしながら三人の報告を纏めるらしい女性に、ジライダとヒゾウはその裏の意味を読み取り互いに不毛な喧嘩プロレスを始める。ここでいつもゴエンモが諫めるか乗って来るかするところであるが、今日は少し違うようだ。


「とりあえず拙者らで見ても詳しく解らんでござる。まぁ危険な気配はしないので、もう少し様子見したら一度ユウヒ殿に相談してみるでござるよ」


 タブレットを開いた女性に目を向けたゴエンモは、二人のプロレスを完全に無視して女性だけを見詰めると、ここに呼ばれた理由である調査内容について語りだす。


 彼らが呼ばれた理由は、ユウヒが作った試作の魔力活性化施設で発生している謎の発光現象についてであったが、現状では魔力の活性化が影響している以外の詳しい状況は判明していない様だ。


「そうですか・・・」

 そんなゴエンモが続ける報告の一つ一つに頷いていた女性は、一通り報告を受け終わると困った様な笑みをゴエンモに向ける。


「ツッコミスルー・・・だと!?」

「何て酷い仕打ちだお!?」


 すぐに報告書纏めるためキーボードを打ちながらチャーハンを口にする女性に、今度はゴエンモが苦笑を浮かべる中、完全に無視されたジライダとヒゾウはとても悲しそうな表情でゴエンモに苦情をぶつけるのだが、


「拙者・・・プリンの恨みを忘れたわけじゃないでござる」

 その苦情は何倍もの殺気となって二人に返された。


「「ひゅーひゅーひゅー?」」


 どうやらこの二人は、今晩のデザートであるプリンをゴエンモから強奪し、バレる前に二人で平らげたようで、その事に気が付いていたゴエンモは、ここで下手な口笛を吹く二人に仕返しを行ったようである。


「ふふ・・・では夕陽さんの状況はこちらで確認して連絡しておきますね」


「助かるでござる・・・してプリンは」

 そんな三人の様子に笑みを浮かべた女性は、タブレットにメモを書き込みながらユウヒへ連絡を入れておくと話し、その事に笑みを浮かべたゴエンモであるが、その視線は彼女のお盆に乗ったプリンに釘付けであった。


「ふふ」


「ですよねー」

 プリンを見詰めるゴエンモに気が付いた女性は、視線を上げた彼に笑みを浮かべ、彷徨う様に食堂の女将に目を向けたゴエンモは首を横に振られがっくりと肩を落とす。


「おま、女性から甘味を奪おうとか勇者か」

「怖いもの知らずめ、だがそこにキュンと来るー」


「キモイでござる。余りが無いか確認しただけでござろう・・・」

 女性二人から苦笑いを向けられ肩を落とすゴエンモに、ジライダとヒゾウは恐ろしい子でも見る様な目を向け、しかしその勇猛な行いに胸を押さえる。明らかにおちょくる気しかない二人におざなりなツッコミを入れたゴエンモは、一つも余りが無いというプリンに思いを馳せ溜息を吐くと、温くなった麦茶をちびちび飲みはじめるのであった。





 一方新たな仕事が増えそうなユウヒは、食後抱き着いてくる白猫が明華に襲われ床に沈むのを見送り、静かな自室に退散していた。途中冷蔵庫から麦茶の入ったポットとコップを取ってきた彼は、冷えた麦茶を一口飲むとテーブルの上の通信機に目を向ける。


「いっぱい余ってるぞ?」


「いくつ作ったのよ・・・」

 何が余っているのか、ユウヒの返事を聞いた女性は明らかに引き攣った表情を浮かべながらも、どこか期待した感情が感じられる視線を返していた。


「・・・まぁなんだ、楽しかったんだ」

 呆れの感じられる女性の言葉に視線を他所に向けたユウヒは、床に足を広げたまま体を伸ばしてバッグに手を伸ばすと、引き摺って膝の上に載せて、中から量産型魔結晶を一掬い取り出し楽しかったと呟く。


「ほんと好きね・・・おじいちゃんとよく似てるわ」


「へぇ仲良く出来そうだな!」

 一掴みで十個近い数の魔結晶を取り出したユウヒは、テーブルの上に一個ずつ並べながら、頭を抱える女性に苦笑いを洩らし、似ているという彼女の祖父を想像して仲良くなれそうだと笑みを浮かべる。


「そうね・・・。それじゃいくつか持って来てもらえるかな」


「急ぎか?」

 ユウヒの姿にどんな祖父の姿を思い浮かべたのか、懐かしさに疲れと呆れと申し訳なさが綯交ぜになった妙な表情を浮かべた女性は、目頭を少し揉むと顔を上げ、魔結晶を持って来てほしいと話す。どうやら彼女の方でも詳しく分析したいらしく、魔結晶を一個指で抓み持ち上げたユウヒは、急ぎなのか問いかける。


「・・・ゆっくり休んでね?」


「お、おう・・・じゃあ予定通りで」

 急ぎと言われればすぐにでも飛んできそうなユウヒの問いかけに、なぜか寒気を感じる満面の笑みを浮かべた女性の言葉に、ユウヒは逆らってはいけない様な気迫を感じて大人しく頷くと、魔結晶をバッグの中にそっと仕舞う。


「夕陽君・・・自分が働き過ぎって理解してね?」


「んー?」

 二人が会う予定はすでに決められているらしく、荷物を片付けたユウヒは暑さとは違う汗を滲ませながら、汗を掻いたコップを手に取り麦茶を一気に煽り呑む。その間も女性はユウヒの事をジト目で睨んでおり、彼女の視線から逃げていたユウヒは、僅かに心配する様な感情の込められた言葉に振り返ると、きょとんとした顔でゆっくり首を傾げる。


「駄目ね。手遅れだわ・・・」


「ひどくね?」

 確かに今回は良く働いたと感じているユウヒは、何も好んで働きたいと思っていないし、寧ろしばらくはゆっくり過ごしたいとも思っている。


 しかし、緊急時や非常事態の前であってもゆっくりしていたいとは思っておらず、特に自分に出来ることがあるのならば動く事は当然とも考えていた。それは生き残るために重要な事であるが、普通とは違う環境がそうさせ、異常な職場がさらに助長して生まれた一般的とは言い難い考えである事に、彼自身異常だとは全く感じていない。


 協力者の女性がユウヒの思考形態に一抹の不安を抱き、良く解らないと言いたげに首を傾げ頭を掻くユウヒ。目まぐるしく変わる彼の日常と世界の状況、この先それらはそう交わっていくのであろうか・・・。



いかがでしたでしょうか?


平和な自宅に戻ったはずのユウヒは、別の危機に瀕しつつも本当の意味安らげる日々を過ごす。しかしドームは今も地球を侵食しており、すぐにまた非日常の日々が来る事は確実である。次回もそんなユウヒの物語をお楽しみください。


それでは読んでくれる方々に感謝しながらこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ