第二十話 忍者とリア充
どうもHekutoです。
加筆減筆修正など、もろもろ完了しましたので投稿させて頂きます。今回ユウヒの出番はなさそうなサブタイトルですが、楽しんで頂ければ幸いです。
『忍者とリア充』
時は少し遡り、ユウヒが名も知らぬ異世界の森の中で、偶然猫耳少女達と遭遇し宙を舞っている頃、地球では忍者達が白昼堂々民家の屋根を跳ねまわっていた。
「忍術無しでも割と気がつかれないもんだな・・・大丈夫か一般人?」
「一般人にその評価は酷というものでござるよ」
忍者達はトレードマークの真っ黒な忍び服を身に纏い、民家の屋根から屋根へと音も無く跳び伝っているが、彼らの眼下を歩く人々は、頭上で素早く走り抜ける黒い影に気が付きもしていない様である。
「でもユウヒは、あぁ・・・一般人じゃなかった」
どうやら一般の人々では、彼らの異常な動きを感知することが出来ないようだ。その事に心配そうな表情を浮かべるジライダと苦笑を洩らすゴエンモ、二人の会話に首を傾げたヒゾウは、勝手に疑問を浮かべ、しかし納得したように手を打つと勝手に自己完結するのだった。
「またユウヒ殿のヘイトを稼ぐ発言を・・・」
「は!?」
そんなヒゾウは、ゴエンモの突っ込みを受けてユウヒの尋常じゃない勘の良さを思い出し、同時に背筋に冷たいものを感じたらしく、空中で器用に体と表情を強張らせると、蒼く染まった顔で周囲を伺う。
「・・・それでまだか?」
「もうちょっとでござる」
ユウヒの姿やもっと恐ろしい者の姿が見えないことにホッと息を吐くヒゾウに、呆れた目を向けていたジライダは、前を走るゴエンモに目を向けると退屈そうな声を洩らす。
実は彼等、東京のヒゾウ宅を出発した後、屋根から屋根へ、野に山に電柱の上にと駆け抜ける事すでに2時間以上休憩することなく走り続け、遠く離れたとある地方都市へと向かっていた。
「しかし、この体ならもう車なんていらないでござるな」
「んだなぁ・・・でも、この姿でバイクも悪くない」
そのスピードは新幹線と言わないまでも、高速道路を走る車より早く目的地までの道を走破し続けている。その事実を腕時計で確認したゴエンモは、思わず経年劣化が目立ち始めた愛車を思い出し苦笑を洩らすも、バイク好きのヒゾウは悩まし気な表情で口元をニヤつかせた。
「バイクもニンジャか?」
「なぜばれたし」
しかしその頭の中で描いていた妄想は、ジライダに即見破られてしまい、ヒゾウは真剣に驚いた表情をジライダに向け、そんな表情を向けられて驚くジライダは、どうやらあてずっぽうであった様だ。
「む、あそこでござるな」
何とも言えない表情で見つめ合う二人を背に、先頭を走っていたゴエンモは、民家が少なくなってきた道沿いに設置してある電柱の上を走りながら、ようやく見えて来た目的地に少しホッとした声を洩らす。
「おお、ここは大きなドームだお」
「ここもずいぶん巻き込まれてる感じだな」
ゴエンモの声に視線を前に向けたヒゾウとジライダは、遠くに見え始めたドームとその黒い森に巻き込まれた地に目を向け、どこかうんざりしたように目を細めた。
「でも地図だと中心部は再開発用地の広場でござるし、人的被害は他よりマシなはずでござる」
ここに来るまでも彼らはいくつもドームを目にしており、その周囲で様々な声を上げる被害者縁者の声を、普通の人より良く聞こえる耳で聞いている。彼らはこの時、目の前のドームに半分飲み込まれた民家の姿を見て、その時の声を思い出してしまったようであった。
「ネットで探しても詳細出てないんだよな、周辺住民に聞き込みしたほうが良いか?」
「そんな暇はねぇだろ? とりあえず一人でも多く早く救出だろ」
一応の情報収集をしていた彼等だが、ネットだけではその収集能力にも限界があり、実際の被害状況については解らない部分が多いのが実情である。
そんな会話をしながらも、三人は木から木へと疾風の如く飛び移りながら、待ち合わせをしている人物を探しドームへと向かう。
「む? おお、きっとあの人達でござるな」
「ターゲット確認! 迅速に背後を取る!」
「なんでだよwwwでもおk!」
目的の人物を探すのにも、彼らの目をもってすればそう時間を必要としなかったようで、三人ほぼ同時に見つけた人影に、ゴエンモが声を上げるとジライダが先頭に躍り出なが指示を飛ばし、ヒゾウは笑いながらもジライダに追従する。
「・・・依頼人脅かしてどうするのかと、でもそう言うの嫌いじゃないでござる!」
ゴエンモは、自分を置いてさっさと待ち合わせの人物の下へと走り去る二人に呆れた声を洩らしながらも、その表情を二人と同じいたずら小僧のものへと変えると、今までの速さが遊びのように感じる急加速で二人を追いかけるのであった。
そろそろお昼になろうかと言う空の下、家の基礎だけが残り寂しさを感じる空き地が、優しい風に撫でられている。そこは子供たちの遊び場だったのか、明らかに人の手が加わり変わった地形に、かわいらしいバケツやボール、秘密基地の成れの果てなどが点在していた。
しかしそんな遊び場には楽し気な声は聞こえず、その最たる理由である黒く大きな『ドーム』が、遠くからでもその威容を放ち、寂しげな雰囲気に恐ろし気な印象を与えている。
そんな地元の人間しか知らないような場所には、ここで遊ぶ子供と言うには少しばかり大きな人影が三つ存在した。
「・・・もうそろそろ時間だけど、本当に来るのかよ」
一人は短髪を逆立たせた男性で、風化して無くなった家の基礎に腰を掛け、どこか苛立たし気な感情を感じさせる目で、遠くにあっても大きく見えるドームを睨みつけている。
「わかんね、でも・・・もう頼る人なんていないんだ」
もう一人も男性で、こちらは短髪の男性と違いどこか気弱な、よく言えば優し気な目をした男性で、心配気な表情の中にすがる様な感情を滲ませながら、やはり遠くのドームを見詰めていた。
「くそ、国の奴は税金分もはたらきゃしねぇしよ!」
「ばかじゃないの? 勝手に入った人間なんて助けてくれるわけないじゃない・・・事前に注意勧告もされてたのよ?」
短髪の男性が苛立たし気な声を吐き出したのに反応したのは、少し長めのショートカットの女性で、男性の言葉に不機嫌そうな表情で棘を感じる声を発するも、その目は僅かに潤みかなしげである。
「そうだけど! ・・・助けてくれたっていいじゃねぇか」
自分の言葉を否定された男性は、女性に振り返りながら声を荒げるも、彼女の目を見た瞬間ばつの悪そうな表情で目を伏せ、コンクリートの基礎に座り直しながら小さく声を洩らす。
「・・・そうだな」
「・・・ごめん」
そんな男性の言葉に、優しい目をした男性は同意する様に呟きドームを見上げ、女性はお謝りながら涙が流れないように、やはりドームを見上げる。
「「「・・・・・・」」」
それから三人は一切声を発する事無く、様々な感情の混在する表情で、只々ドームを見続けるのだった。
しかし、そんな空気に耐えられない人影が、実は口論の始まる前からその場には存在していた。
その数、三つ・・・。
「え、なにこれ? めちゃ空気重たくてKYでも空気読んじゃうわー」
「とか言いつつちゃっかり女性の背後待機お疲れ様です!」
「・・・通報シマウマでござるか」
それは、到着してすぐに始められた口論に、出るタイミングを無くしてしまった忍者たちである。さすがにそのまま何もしゃべらないわけにもいかなくなった彼らは、女性の背後に待機していたジライダから順にそっと声を出し、自己主張を始めるのだった。
「え、きゃっ!?」
「うわぁ!?」
しかしどんなに気を使ってそっと声を出したとしても、今まで自分達しかいないと思っていた場所に第三者が居たと分かり、さらにそれが自分たちの背後だとすれば、驚くのは道理。
女性は振り返った先に佇む黒い影に本気で驚き、腰でもぬかしそうな勢いで悲鳴を上げると後ずさり、短髪の男性は慌てて立ち上がり背後のゴエンモから逃げるように離れる。
「っ!? あ、あんたたち誰なんだ・・・」
優しげな眼の男性は声が出ないほど驚いたのか、ヒゾウに振り返って後退ると、ほかの黒い影にも目を向け言葉に詰まりながらも必死に問いかけた。
「・・・我氏、普通に叫ばれた件」
「背後に黒づくめとかどう考えても不審者だしwww」
そんな彼らが見詰める先では、ジライダが本気の悲鳴を上げられ地味にへこみ、トボトボと歩き始め、その姿を可笑しそうに笑うヒゾウも、ゴエンモの居る場所へと歩き始める。
「拙者等同じ格好でござるがな、えっと・・・依頼人の桜丘さんはどちらでござるか?」
ジライダとヒゾウ言い合いに呆れた表情を浮かべたゴエンモは、頭を切り替えると三人の男女に向き直り、少しだけ高くした声で今回の依頼人を探し始めた。
「あ、忍者の! 俺です! 俺が依頼した桜丘です!」
そんなゴエンモの言葉にようやく思考が戻って来たらしく、桜丘と言う名の優し気な目をした男性は、背筋を伸ばし目を見開くと、大きな声で返事をして一歩二歩前に進み出る。
「割とイケメンなのがはらだたげふん!」
「・・・えっと、依頼内容は要救助者三名と言う話しでござったが、詳細はリアルでと言う事で良かったでござるな?」
桜丘と言う男性の優しげな目元や、すらりとし均整の取れたスタイルは一般的に見てもイケメンと言う部類にあてはまり、その事実にジライダが闇を吐きそうになるも、その言葉は即座に、営業スマイルのゴエンモが繰り出した高速の肘鉄により強制中断されるのだった。
「・・・本当に来てくれたんだ」
桜丘とゴエンモが話を進める中、もう一人の男性と一緒に、事の成り行きを驚いた様な表情で見ていた女性は、その表情のまま心の声を思わず洩らしてしまう。
「え? もしかして、疑われてた?」
「まぁ詐欺も多いしな・・・」
その言葉が出てきた理由は、現在救助を願う人に声をかける者のうち大半が金銭だけ奪う詐欺や、面白半分に冷やかす者達などであることが、最大の理由であった。しかしそんなつもりなど毛頭ないジライダは、女性の洩らした言葉に脇腹を摩りながら、僅かにショックを受けた様な表情で女性を見詰める。
「ご、ごめんなさい」
ジライダの視線と言葉で、自分が心の声を洩らしてしまっていたことに気が付いた女性は、慌ててジライダに向き直ると頭を下げて謝罪し、
「いやいや構わんでござるよ、見た目も怪しいでござるし?」
「・・・えっと」
桜丘と話しながらにこやかなに声をかけて来たゴエンモの言葉に、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「否定されない、だと!?」
「いとかなしき」
何とも言えない苦笑を浮かべる女性の姿に、わざとらしくショックを受けた表情で仰け反るヒゾウと女性を見詰めながら背中を丸めるジライダ。
「あの、これが言われてた資料・・・です」
一方そんなやり取りをしている間も、ゴエンモと桜丘の間では話が進んでおり、未だにどこか警戒した表情を浮かべる短髪の男性から、今回の救助者の資料として背格好などが解る写真を受け取るゴエンモ。
「敬語も不要でござるよ・・・女の子二名に男の子一名でござるか」
「ほうほう、これはいつの写真?」
そこには仲良さそうに浴衣を着て並ぶ三人の男女が写っており、やんちゃそうな笑みを浮かべて真ん中に立つ少年の両隣には、こちらも活発そうな笑みを浮かべる黒髪の少女と、対照的に大人しそうにはにかむ、僅かに異国の雰囲気を感じさせる金髪の少女が立っていた。
「ちょっと前にあった縁日の時のだな」
「なら見た目はこれでおk・・・しかし、金髪とな」
どうやらその写真は最近あった縁日のワンシーンであるらしく、ごく最近の物であれば見た目は同じだろうと頷くヒゾウは、金髪の少女を見詰めると首を傾げて見せた。
何故ならこの場に彼女と同じ特徴を持つ者が居なかったためで、ネット掲示板で姉弟を助けてほしいと聞いていたヒゾウ的には疑問を感じざる得なかったのだ。
「その子はハーフなの、あと私の義理の妹よ、それでもう一人が桜丘の妹さん」
「そこの馬鹿っぽいのは俺の弟だよ、馬鹿が女の子に良いとこ見せたかったのか・・・くそ」
その疑問はすぐに解決する。どうやら金髪少女とその姉である目の前の女性は義理と付ける様なプライベートが存在したらしく、その言葉に続いてそれぞれの関係性が彼らによって付け加えられていく。
「・・・・・・なんとなく把握、リア充イケメンハーレムが異世界入り、でござるな」
「瞬時に把握www」
「イケメン・・・いとにくし」
しかしそんな説明も、彼ら三人の脳内自動変換システムにかかるとあっという間にネタに変わり、さらに憎悪まで生み出したのか、写真に写る生意気そうな少年に半分冗談で暗い色の視線を向ける。
「・・・つかジライダwwさっきから言葉使いおかしいおwww」
だがそれ以上に、ジライダのおかしな言葉遣いがツボにはまったヒゾウは、冗談で浮かべていた暗い瞳を維持出来ずに笑い出してしまう。
「緊張してるのでござるよ・・・」
「ああ、ジライダのストライクゾーン、だもんな」
「ちちち、ちがわい!?」
ヒゾウの笑い声に、すべてを察していたゴエンモは生温かい視線をジライダに向けながら、彼が微妙に挙動不審な理由を遠回しに露呈させ、そのヒントですぐに納得したヒゾウの追撃は、ジライダを大いにうろたえさせる。
「え?」
「てめぇ!」
二人の口撃にうろたえ、ちらちらと女性を見ながら目を泳がせるジライダに、依頼者の女性は驚いたような声を洩らし、その隣に立っていた短髪の男性は目つきの悪い目をさらに吊り上げ、今にも掴み掛りそうな声を上げた。
「あ、あの・・・報酬の件なんですが」
しかし、赤くなった顔を隠すジライダが掴み掛られることはなく、慌てて間に割って入った桜丘の行動と言葉により、短髪の男性はジライダを睨みながらも動きを止める。
「ああ、事前に言ってある通り成功報酬で構わんでござるよ?」
今目の前に居る三人を逃せば、弟や妹を助けることが出来る可能性が限りなく低くなるであろうことは、彼ら彼女らも薄々気が付いており、さらに忍者達の出した条件も破格であることが、短髪の男性を思いとどまらせていた。
「帰ってこないかもしれないしなぁ~んちゃってwww」
「・・・やめろ、お前が言うとシャレにならんだろ」
そんなシリアス極まりない状況下であっても、ボケることを忘れないヒゾウは、頭を掻き笑いながらそんなことを洩らすが、その言葉は、顔を覆う指の隙間から眼だけ見せるジライダの真剣な声によって駄目だしされ、
「・・・あれ?」
真剣に怒られたヒゾウは、その叱られた理由を数パターン考えてどの理由でも傷つくことに気が付き、地味に落ち込むのであった。
「それでは早速行くでござるが、この他にここで行方不明になってる人について、何か情報は無いでござるか?」
「ほか、ですか?」
そんなヒゾウを置いてけぼりに話は進み、忍び装束の裾を正したゴエンモの言葉に、女性はピクリと反応を示すと訝しげに問い返す。
「えっと・・・ほらあれだ、ついでに助けてしまっても・・・かまわんのだろ?」
「! ・・・その、義理の妹の前の家族が」
「ん・・・? 何やら複雑な関係だな」
そんな女性の反応に、ようやく復活したジライダがかっこをつけるように背筋を伸ばし、流し目(笑)を向けながら気障っぽい言葉を洩らすと、女性は目を見開き潤ませ、絞り出すような声でさらなる行方不明者の情報を話し出す。
「その家族を探すために入ったんだよ・・・三人、母親とサラの姉二人だ」
「三人でござるな、他には?」
どうやら、今回のメインターゲットである三人の少年少女は、本来金髪少女サラの家族を助けるためにドームに入ったようだ。
「元々再開発地区で人はいなかったから、調査に来ていたサラの母親家族以外は居なかったはずです」
「家族で調査なう?」
「仕事の合間に家族サービスもって・・・後からサラも行くことになって・・・っ!」
さらにタイミングの悪いことに、久しぶりに母親と姉に会えると喜んでいたサラの目の前で、家族はドームに飲み込まれ、そのことがより一層サラ達をドームへ突入させる原動力になったようである。
「おぅ!? だだ、大丈夫だ! わわわわ我に任せておけばすべて問題ない!」
「ぁりがとうっ・・・」
かっこつけていたジライダは、話しながら次第に涙を流し、嗚咽交じりに説明を続ける女性の姿に素で慌てると、混乱する頭で彼女を必死に慰め元気づけた。その言葉にお礼を述べる女性の姿には、その場の男性陣すべてが目元に涙をにじませ鼻を啜ってしまう。
「お、おう・・・」
膝から地面に崩れそうになった女性を咄嗟に受け止めたジライダは、驚きで挙動不審な声を洩らしながらも、その瞳の奥にこれまでにない火を点らせていた。
「そんな装備でぐぇ」
「そこわぁ空気読むでござる」
しかし、それでも空気をあえて読まないヒゾウが余計なことを口にしそうになるも、その声はゴエンモ以外に届く前に、彼の放った割と容赦ない速度の肘鉄により封殺されるのであった。
いかがでしたでしょうか?
様々な思惑を胸に外へと飛び出した忍者達のお話でしたが、彼らは無事に依頼を達成できるのか。そしてユウヒの居るドームとは違うドームではいったいどんなことが起こるのか、こちらの展開もまた楽しみにして頂ければ幸いです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




