第二百五話 水の星の迷い人
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで貰えたら幸いです。
『水の星の迷い人』
ユウヒが深夜に出かけたのがばれて、正座お説教を喰らう事になった日から数日後早朝。朝日が地平線から顔を出し始め、上空に浮かぶ雲が明るく光を反射する空の下、分厚い氷のダムの上で片膝を付いて足元の氷を撫でる人影があった。
「・・・・・・うん、こんな感じだね」
その人影はユウヒのようで、もう何枚目になるのか若干サイズが大きい自衛隊の迷彩服を着こんだ彼は、金色に光る瞳の光量を下げると満足そうに笑みを浮かべ立ち上がる。
彼の周囲には精霊たちのほかに、パワードスーツから降りた深き者の姿もあり、ダムの切れ目である乾いた山の上にいくつもの物資を運んでいた。その物資はダム湖となった水の中から引き上げられており、一部は不活性魔力対策で設置されていた丸太の様な装置である。
「あの、本当にこちらを提供してもらっても構わないのでしょうか?」
そんな運搬作業を深き者たち行っている中、ダムの切り目まで氷の上を歩いて戻ってきたユウヒが集積された荷物と、そのすぐ隣に設置されたテントセットを見渡していると、ユウヒとの交渉代表となっている深き者の女性が歩み寄り、手の中を広げて見せながらどこか不安そうに問いかけて来た。
「いんじゃないかな? 作ろうと思えば作れるし、ほらさっきから運んでもらってる装置があれば作るの楽だし」
手の中にあったのは、最近ユウヒが開発した活性化魔力を保存しておける結晶の柱で、掌に収まる長さの結晶は、女性の掌の中で転がりぶつかり合うと清んだ音を奏でる。その結晶の材料は元々ロシアで採取して結晶片であるが、右目でずっと調べ続けたユウヒにとっては、すでに活性化魔力があれば自作することが出来る素材の様だ。
「・・・すごいですね」
そんな万能エネルギーである活性魔力も、現在引き上げられている丸太の様な装置があれば、その中に溜められている不活性魔力から精製することが出来るため、彼にとって現状それほど貴重なものではなくなっている。ただそれが出来るのは地球上でユウヒしかいない為、貴重である事には変わらず、事もなげに話すユウヒに女性は呆れたような表情を浮かべていた。
「ナチェリナさん、あまり悩まない方が良いわよ? こう言う規格外相手に悩んだところで、こっちには損しかないんだから、大体―――」
その呆れた表情には苦悩の色も見られ、ユウヒの左腕の向こうから状況を観察していた女性は、ため息交じりにアドバイスをナチェリナと呼ばれた女性に語る。種族や世界が違うにも関わらず、すっかり仲の良くなった女性達は、ユウヒをそっちのけに話しはじめ、
「なんとなくわかります」
「解せぬ」
そんな女性たちの言葉にユウヒはじわじわと眉を寄せて小さく呟く。
「げせぬ?」
「げせぬのー?」
かと言って、女性と言葉で戦っても男に勝ち目があるはずもなく、早々に争う事を諦めたユウヒは周囲を飛び交う精霊たちと視線で語り合い、視線に込められた感情を察したらしい精霊たちは慰める様に彼の頭をなでる。
「ユウヒ君? 魔力って言うのは普通そんな簡単に加工できるものじゃないの、わかる? それはもうかなり繊細で複雑な物なんだから―――」
「そ、そうか・・・」
しかし、争いとは片方が引いても小さな呟き一つで襲い掛かってくるものらしく、ユウヒのつぶやきが聞こえていた通信機の向こうの女性は、無知な弟に言い聞かせる様で若干棘のある声色で話し始め、如何に魔力と言うものが繊細で危険で扱いの難しいものなのか滾々と語り聞かせ、ユウヒの表情を引きつったものへ変えていく。
「そうかな?」
「ふわふわかな」
「ゆるゆるね」
いっそ通信機の電源でも落とそうかとも考えるユウヒであるが、そんなことをしても状況は悪化するだけだと思い留まると、傍らで不思議そうに話す精霊たちの声に耳を傾ける。どうやら彼女達にとって魔力とは繊細でも複雑でもないらしく、そのたとえがどこか綿菓子の様に感じたユウヒは自分の妄想に思わず笑みを浮かべた。
「聞いてるのユウヒ君」
しかしその行動は悪手であった様で、通信機の向こうからは睨むようなジト目の女性が唸るような低い声で呼びかけてきており、その声と表情にユウヒは再度顔を引きつらせる。
「せ、精霊はそうでもないと言ってるが?」
「高次生命と人間を一緒にしないで・・・」
ご機嫌斜めな表情で睨んでくる女性を見つめ返すユウヒは、何とかその視線を回避できないかと、耳元で囁かれる精霊たちの魔力談義を簡潔に伝えた。その効果は一応あったのか、ジト目から呆れ目、そこから疲れた様な表情に移行した女性は、常識のないユウヒに呆れながらも、それが仕方ない事であると再認識すると頭を掻き、溜息と共に肩を落とす。
「・・・なるほど」
「え? 何の納得?」
そんな二人のやり取りをじっと見つめていた深き者であるナチェリナは、何か納得がいったように頷き呟く。その呟きを聞いて通信機に向けていた困り顔を上げたユウヒは、今も小さく頷き続ける彼女に小首を傾げる。
「いえいえこちらの事です。装置に関しては我々が責任をもって回収します。水の中は我らが領域、手間取ることはありません」
「流石水の惑星出身だね」
ユウヒの視線にニコニコとした笑みを浮かべ答えたナチェリナは、不思議とそれまでより機嫌がいいようで、幾分高くなったように聞こえる声で水の中に水没している装置の回収は任せてほしいと話す。彼女たちが住む星は、ほぼ陸地が無い水の惑星であるらしく、そこで生まれ育った彼女たちにとって水中での活動は得意分野の様である。
「この惑星も水が多いと言う事なので、今から深層の探索が楽しみです」
「ふむ・・・しんそう、深海かぁ」
そんな彼女たちがなぜ人と変わらぬ姿で地上でも呼吸が可能な姿に進化していったのか、そんな未知の領域に思考が進みそうになるユウヒは、しかし彼女の楽しそうな表情につられたのか、深海探検と言うロマンあふれる妄想に流されていく。
「やめてね?」
「・・・」
小さな呟きと呆けるような表情に気が付いた通信機の向こう女性は、短い言葉で鋭い楔をユウヒに打ち込み、思考を中断させられたユウヒは、無言で通信機の取り付けられた左腕顔に近づけ画面の向こうでジト目を浮かべる女性を見詰め返す。
「探検してみようとか考えてたでしょ?」
「何故バレた?」
「わからいでか」
無言で、何のことでしょうか? と、惚ける様な視線を向けるユウヒに、女性は呆れた様に口を開き、その的確な予測に眉尻を落としたユウヒが少し悲しそうな表情を浮かべるも、今の彼女には効果がないようだ。
「御要望でしたら我らの探査艇を出しますよ?」
「ほう・・・」
一方、ナチェリナの方は目を輝かせており、好奇心にそわそわしているユウヒを深海探索に誘う。どうやら彼女は、いや彼女達は、異世界とは言え魂の故郷である海に強い好奇心を持っているらしく、そんな海に興味を示すユウヒに好感を抱いている様で、ナチェリナ以外にもユウヒの声に細長く伸びた耳を欹てる者は多い。
「そう言う事は後にしましょうね?」
「お、おう・・・とりまその結晶で燃料は足りるってことだし、あとはアメリカさんの準備が終われば行けるな」
しかし、そんな深海探索の約束を取り交わすよりも早く、通信機の向こうから綺麗な声なのに不思議とドスの効いた声が聞こえ、ユウヒだけでなく深き者たちもびくりと震え後退る。通信機が左手に取り付けられていることで逃れられないユウヒは、どもりながら返すと話しの路線を変更し、未だに作戦名の決まらないAプランについて話し始めた。
「あ、我々の準備も割とかかると思われるので、出来ればこちらの時間で数日は、最低でも3日ほど貰えるとありがたいのですが」
「わかった」
ナチェリナに渡した活性化魔力の封入された結晶は、深き者たちにとって重要な燃料源となるらしく、後はアメリカの準備が終われば水を流すことが出来ると、どこかほっとした表情浮かべるユウヒであったが、どうやら燃料は貰っただけではすぐに使えない様で、Aプラン開始にはもう数日必要なようだ。
「いくら急いでも住民の避難には時間がかかるでしょうから、ゆっくり待っていると良いわ」
「わかりました」
ユウヒは厄介な仕事をさっさと終わらせたい様だが、少し焦りすぎだと言わんばかりの声で話し始めた女性は、通信機の向こうからナチェリナに笑いかけ、ユウヒは今一つ理解していない表情で頭を掻いて頷くと、ダムの向こうに広がる乾いた大地と遠くに見える川を眺め大きく深呼吸をするのであった。
その後、数時間に渡って深き者が集めた物資を、自衛隊のヘリや米軍のヘリで運び出し、ユウヒがヘリの上から触手パワードスーツに手を振っている頃、遠く離れた日本のとある会議室には朝早くから日本政府の大臣が数人集まっていた。
「遅れてすまんな」
「遅かったですね?」
何かの会議のようだが、まだ始まっていないらしく一つ空いた席を気にすることなく彼らは談笑を交わしているようだが、突然扉が勢いよく開け放たれると、石木が足早に入ってくる。どうやら彼が最後のようで、特に驚くことなく石木に目を向けた大臣たちは、手を上げたり声を掛けたりと思い思いに挨拶を交わす。
「集まれと言った本人が遅れるか普通? 朝飯はお前のおごりだからな」
「ちと追加があってな、てかお前もう食べただろ? まだ食うとか糖尿になるぞ」
彼らは同じ政党の人間と言う以上の付き合いがあるらしく、椅子に勢いよく座る石木は周囲から揶揄われると眉を歪めながら肩を竦めて見せた。そんな石木は、手に持ったメモの束で汗の滲む顔を扇ぐと大きく息を吸うと鼻息を吐き出す。
「その顔はまた厄介ごとですか」
「移民受け入れの追加だ」
「またか・・・胃が痛くなってきた」
石木の表情を眺めていた日本国現総理大臣は、その表情から厄介事だと察した様で、そんな男性に石木は簡潔に伝える。移民、それは新たにユウヒからお願いされたことのようで、その言葉に男性が一人項垂れ腹を押えた。どこか神経質そうな顔の男性は、移民問題などを担当している様だ。
「この間の二部族の比じゃないから穴が開くかもな・・・」
「冗談じゃないなその顔、そいつから話してくれ」
何とも言えない表情で眉を寄せた石木は、腹を押さえる男性を見詰めると申し訳なさそうに呟き、そっとその肩に手を置く。薄手のスーツ越しに伝わる石木の体温に気持ち悪そうな表情を浮かべた男性は、顔を上げて相手の顔を見上げると蒼い顔で説明を要求する。
「おう、実はアメリカに現れた異世界の住民なんだが・・・軍隊なんだわ」
「・・・まさか」
慈愛を僅かに含んだ視線にげんなりした表情を浮かべた男性は、移民予定の相手の情報を聞いた瞬間勢いよく天を仰ぎ、周囲の人間も驚きに目を見開いた。
「彼らの受け入れなんですか、また大変ですね」
「知ってたな?」
実はユウヒのAプランの中には、異世界の住人をユウヒ側が引き受けると言う内容が含まれており、それは日本が深き者の移民を受け入れると言う事である。受け入れない場合どうするのか聞いた石木は、ユウヒが何やら企んでいる様で二言目には了承していた。
下手にユウヒが暗躍するよりはと思い、すぐに日本で引き受けると返事を返した石木であるが、彼らが軍隊であると知っていたのは石木と総理だけで、移民担当大臣は知らなかったようだ。
「ええ、総理大臣ですから」
睨まれても涼しい顔でドヤ顔を見せる総理の姿に肩を落とした男性は、続く説明を促す様に石木に目を向ける。
「だが受け入れって・・・住むってことか?」
「土地は問題ないから・・・後は世論だな」
深き者の詳細を知らない大臣たちは、一様に不安そうな表情を浮かべ、その大半は軍が駐留することによる周辺住民の不満や危険性についての様だが、深き者の詳細を知る石木の、土地は問題ないと言う言葉に周囲輪ざわつき、問題は世論と言う所で総理は目を閉じ深く頷く。
「軍隊の駐留なら土地だって問題だろ? 今から頭が痛くなる・・・」
「いや、彼らに適した土地は腐るほどあるから大丈夫だ。問題は国民が彼らを受け入れられるかだな」
「腐る?」
「詳しく」
普通に考えれば移民には当然住むための場所が必要である。それが部族単位などになれば家屋ではなく土地が必要になってくるわけだ。現在移民が決定している二部族に関しては、男性の調整により急ピッチで彼らに合わせた仮設住宅が用意されている。
さらにそれが軍隊ともなれば当然広大な土地が必要になるだろう。候補としては自衛隊の基地周辺や演習場になるであろうと、すぐに想定し始めていた男性は、腐るほどあると言う言葉に小首を傾げ、詳しい説明を求める。
「そいつらは水生生物みたいなもんでな、海の深海でも住処に出来る」
「水生の知的生命体か」
石木の説明により腐るほどあると言う言葉を理解した男性は、珍妙な表情で天井を見詰め、周囲も深き者の姿を想像して珍妙な表情を浮かべていた。どうやら彼らの想定を超えた相手だったようで、人魚? や魚人? と言った呟き声が聞こえてくる。
「俺等人間とほとんど変わらん生態だが、心理面で水の中がいいらしい、次点で衛星軌道上かラグランジュポイントだそうだ」
「・・・・・・」
だが、彼等の表情は続く説明で固まり、ゆっくりとした動きで顔を動かすと、飄々と茶を啜る総理と肩を竦める石木を凝視した。なぜなら石木曰く、彼等は宇宙に居住可能だと言ったのだ、それは彼ら深き者が軍は軍でも宇宙軍と言う事に他ならず、それは日本どころか地球上のどの国よりも進んだ技術を持っている可能性が高いと言う事になる。
「空の上は・・・目立ちますね」
「そういう事だ。あと偶には陸に上がりたいとの事だから、その際に住民と接触する上でのガイドラインが必要だろう」
絞り出すような移民担当大臣の言葉通り、海の中と違って空の上である宇宙では、その姿を見ようと思えばどこの国にも見られるため、海の中と言うのは色々と隠れるのに利便が良い。また彼ら深き者は水の中で生活するとは言え、完全に地上から隔離された生活で良いわけではなく、太陽の下に出ることも必要な様だ。
「どういう生態なんだ? 例の鳥や馬ならまだ理解しやすいが・・・水生生物」
未だ見ぬ水生知的生命体の姿を想像して、妙な表情で顔を見合わせ合う大臣たちは、下半身が馬の体であったり、両腕が鳥の様な翼である異種族への対応がまだ可愛く思え始めた。
「その辺は会ってみないとな? ただ発狂しないか心配だが」
「発狂?」
ユウヒからお願いされた石木も、まだ深き者の姿を知らず、またお願いした本人であるユウヒも、ナチェリナ達偵察部隊の面々としか直接会ったことが無いため、種族全体を把握していない。ただ解っているのは、大半がナチェリナの様な姿形であるが、彼ら深き者と言う名前が人間で例えるなら哺乳類と言う言葉くらいに大きな捉え方であると言う事であった。
「彼らのその見た目がな、中は大半が人と同じだが外はきついかもと言う話で・・・」
「そと・・・?」
またそれらをクリアしたとしても、彼等の武装に対する美的感覚が人類とは致命的に異なり、ユウヒから説明をされた石木はそこが一番気になっているところの様である。どんなに隠蔽したところで、国民に彼らの存在を説明しないと言う選択肢は存在せず、またすでに天皇陛下にも話が通っている為、陛下と深き者の対面は避けられない。むしろ天皇陛下が乗り気であることが、石木と総理の頭痛の種であった。
「向こうの技術や美的感覚は少々普通の感性からずれているらしくてな? 直視すると中々精神的に来るものがあるとかで」
「・・・見た目か、そういうのは鳥や馬だけにしてくれよ」
そんな頭痛の種を内心に押し込んで説明する石木に、移民担当の男性は大きめの溜息を洩らしながらソファーにぐったりと体を預ける。
「大変ですか?」
その疲れ切った姿から分かる様に異世界の異種族移民についてはかなり荒れている様だ。しかし、すでに天皇陛下と二部族代表の会見が滞りなく行われた後であり、いくら批判の声が上がろうと移民が覆されることは無い。
「大変だよ、馬の方は上半身が性的だとかで、フェなんとかと名乗る連中が女性に対する性差別とかわけのわからんことを言い出すし、どっかの市民団体は馬に人間と同じ権利を与えるなとか、馬や鳥みたいな家畜に移民の権利を与えるなら中東からの移民も受け入れろとかな」
にも関わらず、異種族の来訪を良く思わない人間達は声を上げ続けているらしく、女権拡張を訴える団体はカウルス族の見た目が卑猥だと、性差別だと謎の論調を繰り広げ、また市民団体を名乗る組織は下半身が馬であるカウルス達や鳥の様な翼をもつジュオ族を家畜と罵り、そのうえで中東からの移民を受け入れるべきと声高に叫んでいる様だ。
ほかにも様々な声を上げる組織は多く、一部野党の人間も受け入れを早々に決めた政府に異議の声を上げている。
「自分たちが何言ってるかわかってんのかね? そいつらより圧倒的に道徳的だぞあいつら? むしろ異世界の元王族らしいからなぁ」
一方で、日本に住む一般的な人々の反応は不思議なほどに冷静で、受け入れに対して反対の声はほとんど出ていない。なぜなら両種族は早々に天皇陛下と会見を行い、その姿はほぼ全ての報道機関によって生中継されており、その際肉声も全て届けられている。
「少し子供っぽかったですが、丁寧な対応でしたね。陛下も嬉しそうでしたし」
「夕陽の影響もありそうだが、あれは天然の気品だぁな」
また会見で交わされた会話も非常に洗練された言葉遣いであり、同時に、両陛下とにこやかに言葉を交わす両種族の代表が、異世界の王族であることも報道各社により全世界に伝えられていた。
「おめぇさんには出せんな」
「うっせ」
その為、一部放送局がいつもと変わらずアニメを放映する中、日本の大半の人間は理性的な彼らに好感を持ち、一部ではオタク共が狂喜乱舞したことで、ごく一部を除いて彼らの受け入れはスムーズと言える様だ。
「まぁ自称人権団体の事は後で考えてもらうとして、受け入れ前提で話を纏めましょう」
「そんな軽々しく決めていいのか? 大変だぞ?」
そんなスムーズな受け入れの中でも金切り声を上げる人々が、色々と問題を抱える深き者を受け入れるわけもなく、軍隊と言う事でほかの場所からも不満が噴出しかねない。それでも総理は受け入れを推奨するらしく、その言葉に思わず眉間を皺でいっぱいにした移民担当大臣は、不安そうに問い開ける。
「いいじゃないですか、むしろ利点が大きい。島国日本にとって得難い隣人でしょう。ねえ?」
「まぁな、俺も推していくつもりだったがやけに乗り気だな?」
ぬるくなったお茶を一気にあおった総理は、湯飲みをそっとテーブルに置いてニコニコとした笑みを浮かべると、ユウヒのおかげで好意的と言う報告を受けた異世界の軍勢である深き者の存在は、日本にとって利点であると語り、石木に同意を求める様に声を掛ける。石木もまた受け入れ前提で動いている為、彼の言葉に同意するも、その表情は怪訝そうに歪められていた。
「毒を食らわば皿まで、ですよ」
「・・・毒は夕陽か?」
「・・・・・・はて?」
妙に前向きな言葉に怪訝な表情を浮かべるのは石木だけではない様で、その視線を受けた総理は少し眉を上げ小首を傾げると、割と失礼な物言いでにこりと笑う。周囲はその言葉に何とも言えない苦笑いを浮かべ、石木はジト目を向ける。
「本人に言うなよ? 結構気にしそうだからな・・・あと、バレたら赤狐が切れるぞ?」
「・・・それは、墓まで持っていきましょう」
不用意な言葉を漏らしてしまうのは政治家あるあるなのか、思わず口をついて出た言葉が呼び込むであろう危険性を諭された総理は、呆れた表情でため息を洩らす石木を驚いたように見詰めると、若干血の気の引いた顔を窓の外へと背け小さく呟く。先ほどまで笑い声一つ上がらなかった室内が笑い声で満ちている頃、アメリカのどこかでクシャミが一つ放たれたのであった。
いかがでしたでしょうか?
迷い流れ着いた者たちは異世界の異端者に希望を見る。着々とユウヒの立てた計画が進行していくが、果たしてその影響はどのような変化を与えるのか、この先も楽しんで貰えたら幸いです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




