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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百三話 忙しい者たち

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『忙しい者たち』


 ユウヒが巨大骸骨をばらばらに砕き、汚染されたダム湖を浄化し、その結果ダムの水質まで著しく向上させていることに気が付かず迎えのヘリに乗り込んでいる頃、遠く離れた日本のとある暗い部屋では、PCのディスプレイの光に目を細め息を吐く女性の姿があった。


「ユウヒ君に何事も無くて良かったけど、これは色々やらないといけないことが増えたなぁ」

 不健康そうな肌の色がディスプレイからの光でより蒼く見える女性は、ユウヒに協力して様々な援護をしている協力者である。先ほどまでは戦闘中と言う事でユウヒと通話していなかったが、いつ何が起きてもいいようにユウヒの周辺環境をモニターしながらPCに張り付いてた。


「さすがに私一人じゃ手に負えないよ・・・・・・」

 流石にずっと張り付き神経をとがらせていたことで疲れの見える女性は、自衛隊と米軍の兵士に守られながら移動するユウヒの横顔が映るウィンドウを見ながら、その細かな傷が目立つ顔に眉を寄せて思わず口から洩れ出た弱音に、何とも言い難い表情で小さなため息を零す。


「と言ったところで、誰か手伝ってくれるわけもなく・・・口より手を動かさないと」

 自分以上に傷つき疲れているユウヒの横顔を見て、自分が情けなくなった女性は、頭を軽く振って気を入れ直すと、凭れ掛かっていた椅子の背から体を起こして、巨大骸骨討伐成功により必要の無くなったシステムウィンドを閉じていく。


「・・・・・・でも、無理するとまたユウヒ君に感付かれそうだし」

 作業にウィンドウを閉じた分必要なウィンドウを立ち上げながらも、ユウヒを映す画面だけは消さずにキーボードとマウスを手に取った女性は、作業を開始しようとするも突然視線を感じ手を止める。彼女が視線を感じたのは、ユウヒの左腕に付けられた通信機から送られてくる映像であり、その映像にはジトっとした視線を向けてくるユウヒが映っていた。


「な、何とか効率よく休まないと・・・こっちは自動で、こっちも自動でいいや、日本のリソースも削っていいな」

 思わず通信状況を確認する女性は、ユウヒ側に映像も音声も送っていない事を再確認すると、冷房の効いた部屋で妙な汗を流しながらごちり、休むために必要な時間を捻出するために開いていたウィンドウに自動のチェックを入れていく。


「この辺のリソース削られるのは、例の忍者君たちのおかげで日本のドームが安定して来てるのが大きいよね」

 完璧主義者の傾向が見受けられる女性は、改めて自動化の処理をしていると予想以上に日本のドーム被害が好転して言っていることに気が付き、その好転に寄与している三人の忍者について取り上げた小さなニュース記事に目を向け感心した様に呟く。


「しかも忍者君のペースを見越してなのか、小型の活性化装置を発注量より多く用意して遅延を回避していくあたり、ユウヒ君は勘と言うより未来視なんだろうなぁ・・・」

 ただその裏には、三人の忍者が活躍するペースを見越していたかの様に、必要な台数の小型魔力活性化装置が用意されており、その制作者であるユウヒの異常さを再認識した女性は、すでに視線を外していたユウヒの横顔を見詰め呆れた様に呟く。


「あのレベルとは言わないけど、協力者が欲しい・・・忍者の人は国に取られたしなぁ」

 未来視にも等しく感じられる勘を持ったユウヒの活躍ぶりがあっても足りない手に、思わず無いもの強請りをしてしまう彼女は、手早く全ての作業を終わらせ一時間半後に目覚ましのタイマーをセットすると、机から離れた場所にある大きなソファーに倒れ込み、毛布を一枚巻き込む様に羽織りあっという間に眠るのであった。





 ユウヒの視線による圧力に屈した女性が、パソコン機器の駆動が鳴り続ける部屋の中ですぐに寝息を漏らし始めている頃、


「・・・また仕事でござるか」

「もう少し休ませてくれよ・・・」

「何か倍疲れたんだが・・・」


 窓の外から朝日が射し込む部屋の中、墓場の下から這い出てくる亡者の様な唸り声を上げながら、忍者たちがのろのろと目を覚ましていた。


「はは、お疲れ様です」

 彼らがそんな呻き声を上げ、疲れたので休ませてくれと言う原因を知っている女性は、起こしに来た手前寝ていいとも言えず、ただ労いの言葉をかけるしかない。


「ほんと疲れたでござる。ヒュドラとガチンコバトルとかもう勘弁でござる」

 そんな彼らの疲れの原因は、日本政府と異世界国家の交渉によるものである。今回彼らが安定化に向かった世界には、力こそ全てと言った風潮があり、強大な魔物が闊歩する世界であった。それ故、見た目で舐められた日本の交渉団は、力を示せと無理難題を吹っ掛けられ、その結果忍者たちが奮戦する事になったのである。


「問題はこれがユウヒと一緒の時より楽な相手で、ユウヒと一緒より疲れるってところなんだよなー」

 普段お茶らけていても神様印の力をその身に宿す忍者たちは、秘蔵のユウヒ謹製アイテムをフル動員することで、毒の息を吐き暴れる巨大な多頭のドラゴンを討伐。異世界日本両国の人々に多くのPTSDを発症させて帰還、その後泥の様に眠って今に至る。


「そうなんですか?」

 それでもまだユウヒと共に戦った日々より楽であると話すヒゾウに、女性は少し驚きながら問いかける。彼女も映像で彼らの戦いを見ており、その激しい戦闘に息を飲み僅かな恐怖を感じた一人であった。


「比べたらダメだろ? あんな超次元なバトル展開、命がいくつあっても足りん。むしろユウヒの加護が無ければ消し炭になっとるわ・・・いや溺死か?」


「はぁ?」

 しかし普段の忍者達からは恐怖のきの字も感じられない為、今も彼らのスケージュール管理を行い、色々な連絡や交流を行っている。そんな彼女でも、彼らの話す内容にはまだまだ分からないところが多いようで、ユウヒと一緒に行動していた時の事を思い出し頭を掻くジライダの言葉に小首を傾げた。


「分からんでござろうな、ユウヒ殿は良くも悪くも運がすごいでござる」

「もう語彙力無くなるレベルでな」


 不思議そうな表情を浮かべる女性に、苦笑いを浮かべたゴエンモとヒゾウは肩を竦めながらユウヒに対する感想を語る。


「・・・」

 どこか不遜にも感じる言いように、何とも言えない表情を浮かべた女性を見て、忍者たちはやはり苦笑を浮かべながら布団から這い出て身嗜みを整え、床に散らばったゴミや服を退かして体を伸ばす様にストレッチを始めた。


「で、今度はどこなんだ?」

 何だかんだと言いながら準備運動を始めたり荷物を整理し始める忍者達は、頭も十分冷めて来たのか女性が起こしに来た理由を問う。と言っても彼女が彼らを起こしに来る時は大半が仕事の時であり、それ以外では気晴らしのラーメン巡りに誘うために来る程度、今日はラーメン巡りをキャンセルしていた彼らは、十中八九仕事の話だと理解していた。


「あ、はい・・・調査ドームの方で例のゲージが溜まって来たので一度確認してほしいと連絡がありました。なので一度東京に戻ります」

 気を取り直した女性曰く、日本が最初に調査地としたドーム内で、ユウヒが設置した装置のゲージが溜まって来たので、一度様子を見てほしいと言うもののようだ。


「おお、わが故郷」

「の隣でござるがな」


 設置型の魔力活性化装置には、周囲の魔力環境が解る様に目盛り付きのゲージが取り付けられており、本来ならユウヒ本人に確認してもらいたいところであるが、現在はアメリカで奮戦中の為、装置の監視もしていた魔力を感知できる忍者たちにお鉢が回ったようだ。


「同じ関東地方だから東京でいいのだよ、現に住んでるの東京なんだからよ」

「そうだそうだ、仲間外れ良くない! 端っこでも東京だ!」


 東京某所に発生した調査ドームは彼ら地元にも近いため、少しはゆっくり出来ると喜ぶ忍者たちに、女性は小さく笑みを浮かべる。


「まぁ・・・東京出身って言った方が女の子受け良かったでござるからな」

「・・・勘の良い小僧は嫌いだよ」


 そんな彼らの地元は東京ではないらしく、現住所こそ東京になっているが都心と言うわけでもなく、しかし地方では東京に住んでいると言うだけで夜の街の女性からの見る目が変わっていたようで、そんな彼らの姿を思い出した女性は、目を見開いてゴエンモを見下ろし呟くジライダに苦笑を漏らす。


「勘のいい・・・ならユウヒアウトじゃね? やられるぞ?」

「は!?」

「ジライダ―アウト―ユウヒの電気ショックけってーい」


 いつもの様にわちゃわちゃと騒ぎ、地雷を踏みながら笑い合う忍者たちの会話を聞いていた女性は、少し不安そうな表情を浮かべて口を開く。


「・・・その夕陽さんと言う人はそんなに怖い人なんですか?」


「こわい?」

「こわい?」

「うー?」


 自衛隊の上層部から送られてくる書類以外にユウヒの事を知らない女性は、それ以外の情報を忍者たちの話から補完しており、その結果として会った事のないユウヒの人物像は恐ろしいものになっている様だ。そんな彼女の問いかけに対して、忍者たちはキョトンとした表情を浮かべて顔を見合わせ合うと、小首を傾げ合って悩みだす。


「・・・?」


「「「忙しい奴だな」」」


 そんな彼らの結論は忙しい人であるようだ。事実、アミールの世界でも行く場所行く場所でトラブルを解決し、終いには世界を救い、日本に帰ってきても世界をまたにかけ忙しい日々を過ごしているのだ。


「あっちこっちで忙しなく働いてる感じだな」

「仕事をクビになったのにブラックワークとかワロス」

「また呷る、実際世界救い過ぎで否定の言葉が見つからないでござるが」


 元々仕事でブラックな業務についていたユウヒは、仕事を止めることになっても忙しい日々を送っており、その姿が忍者達には滑稽でもあり同時に不憫にも見える様だ。


「怖くないんですか?」


「普段は良い奴だよな? 偶に闇が見えるけど」

「マッドだけどいいやつだぞ? 偶に電気ショックが飛んでくるけど」

「結構我慢強いでござるよ? 勘がよすぎて悪意に敏感なだけでござる」


 それ故ユウヒが怖いと言った印象は無く、大体にして彼らが攻撃されるのは彼ら自身に問題があるため、友人関係以上でも以下でもない様だ。むしろ彼らにとっては頼りになる相手であり、恐れる要素が無いのだがその説明を聞く一般人としては恐れる要素の方が多い様だ。


「はぁ?」

 そんな忍者たちの話しに良く解らないと言った表情を浮かべる女性に、忍者たちは互いに見つめ合い肩を竦め合う。


「実際に会えばわかるだろ?」


「そうですか、でも気軽に会えるものなんですかね?」

 彼らの話で余計にユウヒと言う存在が分からなくなってきた女性に、ヒゾウは説明が面倒になったのか合えばわかると言い、女性は小首を傾げる。何せ今ユウヒは日本どころか世界にとって貴重な人材であり、その事を知る女性にとっては有名人などと同じく気軽に会う事の出来ない雲の上の人物に思えていた。


「会えんじゃね? 今頃ロシアだっけ? そろそろ帰って来るだろ」


「・・・今はアメリカだとか聞きましたね」


「マジ? 今度はアメリカのパッキン美女か・・・」

 気軽に会えばわかると言い頷く忍者達であるが、彼等も今ユウヒがどこにいるか知らず、ロシアに行くと言っていたのがアメリカに居ると聞いて驚き、色白ロシア美女の次はアメリカの金髪美女かと、忍者達の中で性豪と言う印象が定着したユウヒは、彼等の妄想の中で高笑いを上げているのだった。


「褐色or黒肌美女かもしれぬでござるよ?」

「褐色は、しばらくいらんな」

「同意」


 色白パツキン美女を侍らせるユウヒの姿を妄想して歯軋りを鳴らすヒゾウとジライダであったが、遠い目をしたゴエンモの言葉で急に顔色を蒼くすると、肩を落として褐色ならどうでもいいとため息を洩らす。どうやらアミールの世界で出会った褐色肌のトラウマは、未だに彼らの心を蝕んでいる様で、口にしたゴエンモも胸やけを感じたような表情を浮かべていた。


「何があったんですか?」


「「「聞いてくれるな(でござる)」」」


 それまでの燃やしていた嫉妬の炎が嘘の様に鎮火してしまった彼らの姿に、思わず何があったのか気になって問いかける女性であったが、三人息の合った返事に目を見開くと口を噤み、その枯れ切ったような表情を見て苦笑いを浮かべる。


「・・・わかりました。まぁ忙しいのは皆さんも一緒だと思いますよ?」

 漠然と何があったのか想像できた女性は、それ以上踏み込むことを止めると、話の流れを変える様に苦笑いのまま忙しいのは忍者達も同様であると言う。


「まぁ忙しいか?」


「だって、出発が2時間後ですし」

 彼女の言葉に小首を傾げるヒゾウであるが、彼女の続く言葉を聞くと驚きの表情で固まる。どうやら起きて二時間で出発しないといけないほど彼らのスケジュールは詰まっている様だ。


「それ早よ言わんかい!?」

「今から部屋片づけるのか・・・」

「1時間はかかるでござるな・・・」


 いくら女性とは違い、比較的身支度の時間が短い男である彼らとて、起きて二時間で出発と言うのは短いらしく、特に散らかり放題の部屋の片付けもしないといけない関係上急いで準備を始めないといけない。苦笑を浮かべたの女性に、腰を浮かしたヒゾウはツッコミを入れ、ジライダとゴエンモは遠い目で周囲を見渡す。


「頑張ってください。・・・て、手伝わないですよ?」

 数日の間ですっかり散らかった部屋は、忍者をもってしても片付けに時間が掛かる・・・と言うより、単純に片付けが苦手な彼らは担当女性に救援を望む様に真ん丸に見開いた目を向けるも、部屋の惨状を見渡した彼女は後退りながら首を横に振る。


「ぐぬぬ、今度ユウヒに片付けが楽になるアイテムでも作ってもらうか」

「汚物は消毒と燃やし尽くされそうだな」

「無いとは言えんでござるなぁ」


 拒否されることをあらかじめ予想していた三人は、すっと目を閉じてため息を吐くと、ゆっくり立ち上がり手近な荷物に手を伸ばす。申し訳なさそうな表情で入り口の扉を背にする女性が見守る中、荷物を適当に纏め片付けるジライダは困った時のユウヒ頼みを口にするが、ヒゾウの言う様に要らないものは燃やしてしまえば良いと言わんばかりのアイテムを作られそうだと笑い、ゴエンモもその言葉を否定はできないと笑う。


「・・・やっぱり怖い人のなのでわ?」

 そんな彼らの何気ない会話を聞いた女性は、微妙に引き攣った表情でユウヒの印象に修正を入れていくのであった。




「えっぷし! (・・・・・・忍者は折檻だな)」

 丁度その頃何かを感じたユウヒがクシャミを洩らしており、心配した自衛隊員からボロボロの迷彩服の上からコートを掛けられていた。そんなユウヒが遠く離れた地で片付けをする忍者への折檻を心に決めたのは、彼等の間柄では当然の帰結なのであろう。



 いかがでしたでしょうか?


 ようやく一息付けそうなユウヒと、彼の勘によって行動の方針を変えていく忙しい人々、彼等の向かう先には何があるのか、次回も楽しんで貰えたら幸いです。

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