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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第二百二話 ヒーローの名は氷の死神

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんでもらえたら幸いです。



『ヒーローの名は氷の死神アイスグリムリーパー


 自衛隊員と米軍人が固唾を飲み冷や汗を流して見守る中、冷たい空気が侵食する空間では、ユウヒが巨大骸骨の脇を通り抜けて巨大な骨が折り重なった肩口に狙いを定めていた。


「よっと! 【ターゲットマルチロック】【スプラッシュ】」


「グゥオオオオ!!」

 ユウヒの大鎌をもってしても一撃で切断できないような巨大な肩は、まだ残る腕を振るう起点となっており、ほかの部分より硬く強固に出来ている様で、ユウヒの放つ大量の水による攻撃を浴びてもびくともしない。


「そぉおい! 【クイックフリージング】」

 しかしユウヒはその事を特に気にした様子もなく、勢い良く殴りかかってくる腕に大鎌を添えて滑らせながら避けると、攻撃を掻い潜ったタイミングで振り返り小さな氷の粒を骸骨の肩に放つ。


「ガッ!?」

 小さな氷の粒が当たった瞬間、ずぶ濡れになっていた巨大骸骨の肩と腕は一瞬で凍り付く。突然の事に驚いたのか叫ぶ骸骨であるが、関節部分が凍り付いたことで腕が思う様に動かせず、体を捩り上半身全体でユウヒを見上げ睨む。


「からの【氷砕き】」

 見上げ睨んだユウヒの姿は太陽を背にしており、その影は大きく鎌を振り上げた状態で止まっている。その影に恐怖を感じた巨大骸骨が逃げるよりも早く、ユウヒは急加速しながら魔法のキーワードを口にして大鎌を振り下ろす。


 振り下ろされた氷の大鎌は凍った骨に接触すると、甲高い音を上げて切り裂き進み、その傷は瞬く間に大きく広がり氷に包まれた巨大骸骨の肩ごと真っ二つに切り裂く。どうやらユウヒの使った新たな魔法は氷に包まれた物を氷ごと強制的に切り裂く効果があるようだ。


「おっし! こっちの方が砕きやすいな」

 妄想通りの効果を示す魔法の姿に嬉しそうな声を上げるユウヒは、ダム湖に出来た氷の大地に落ちて崩れる骨を見下ろしながら笑みを浮かべると、外套を大きくはためかせ空から落ちる様に振り下ろされた巨腕を避ける。


「さむーい!」


「なら離れてた方が良くないか? 【大楯】」

 外套がはためいたことで冷気をもろに受けた火の精霊は、悲鳴のような声を上げて震えると、ユウヒの服に強くしがみ付く。そんな精霊たちの悲鳴にユウヒは小首を傾げながら方眉を上げると、氷原に落ちた自らの砕けた骨を掴み投げてくる巨大骸骨の攻撃を頼れる魔法である【大楯】で受け止める。


「やだー」

 特に邪魔と言うわけでもないユウヒは、余計にしがみ付く火の精霊を見て呆れた様に肩を竦めると、正面から軋みを上げながら迫る圧力に向かって大鎌構えながら加速する。


「何が良いの・・・かね!」


「ガアア!!」

 大楯を斜めに配置し突っ込んだユウヒは、巨大な骨の拳の表面を大楯で滑るように避けると、罅の入った関節部分に大鎌捻り込む様に入れて切断した。巨腕の勢いも相まって、切断された腕の一部は千切れる様に切り離されて勢いよく飛んでいき、遠方で乾いた土煙を上げる。


「あと三本・・・浄化は?」

 辛うじて残っていた最後の左腕を切り飛ばしたユウヒは、残る右腕でバランスをとる不安定な巨大骸骨を見上げながら湖に目を向け目を顰めった。元の色がどうであったか解らないものの、何となく浄化が進んでいるように見える湖は、幾分輝いて見える。


「んーと? けっこう綺麗になったかも」


「水と光に聞かないと分からない」

 骸骨の攻撃を避けながらであるため詳しく調べられないユウヒに、襟元から顔を出す精霊たちは綺麗になってきた話すが、彼女達にも水の中までは詳しく解らない様だ。


「じゃあちっと離れるか【マルチプル】【ワイド】【チャージ】【水刃】」

 申し訳なさそうな表情を浮かべる火の精霊に、声を出さず小さく笑いかけたユウヒは、その笑みを好戦的な笑みに変えて大鎌を構えると、掴み潰そうと迫る巨大な手を背にして大きく旋回すると魔法を展開していく。


「そらよっとお!」


「きゃー!」


「あははは!」

 周囲にいくつもの水球が発生し追従するのを確認したユウヒは、体全体で大きく振り返るとその勢いのまま大鎌を振り抜く。振りぬかれた大鎌の動きに合わせて水球から発生した水の刃の数は十や二十では済まず、ほんの数秒の間に数百の刃となって目の前に迫る巨大な手を細かく切り刻み、その勢いは止まずに腕をゴボウのささがきの様に削り取っていく。


 さらに巨大骸骨の顔や胴体に向かって水の刃をばら撒くユウヒは、ジェットコースターに乗っている客の様な歓声を上げる火の精霊と共に一旦その場を離れるのであった。





 ユウヒが攻撃の手を一旦止めて小休止している頃、手に汗を握り体に力の入っていたアメリカの重鎮たちも息を吐き出して気を緩めていた。


「これは・・・なんという」


「ふむ・・・」

 深く息を吐き気を緩めながらも、力が抜けきらない表情でユウヒの戦いを映すディスプレイを見詰める人々は、誰ともなく呟く。目の前に映し出された現実を受け入れられない人々が顔を蒼くする中、アメリカの大統領は険しい表情で唸り声を漏らす。


「基本的な攻撃は巨大な鎌による切断と、水を打ち付け凍らせることで行動を阻害しているようです」

 彼らがユウヒの様子を捉えた映像を見ている一方で、別の場所では映像からわかる限りでユウヒの戦力評価がなされており、それらの分析速報を専門家ではない大統領にもわかるように話すのは、きっちりと軍服を着た若く見える眼鏡の軍人、その姿は前線で戦うよりもデスクが似合いそうな雰囲気である。


「あの骨はそんなに脆いのか? なら砲兵部隊に飽和攻撃をさせればいいのではないのか?」

 彼の説明に眉を左右不対象に歪めたスーツの男性は、大鎌で破壊できる程度なら軍による砲撃で倒せばいいと、呆れた様に問いかけて鼻息を一つ鳴らす。


「馬鹿か、そんな事をすれば衝撃でダムが決壊するだろ」


「気を付ければよかろう?」

 そんな彼の言葉に対して目尻の皺が深い男性は、軍服の上からでも分かるくらい鍛え上げられた体を膨らませ呆れた様に悪態をつくも、説明内容にピンとこない様子のスーツ姿の男性は変わらず歪んだ眉で不思議そうに首を傾げる。


「その事なんですが・・・どうもヒーローの攻撃は単純な物理攻撃ではなく、何らかの力が働いていると思われるそうです」


「なに?」

 専門外の話で理解を放棄しているように見える男性の態度に、軍服の男性は額に青筋を浮かべながら袖がはち切れんばかりに手を握りしめ、まさに一触即発と言ったその空気を換えたのは、ユウヒに関する戦力評価の説明をしていた男性。彼曰く、ユウヒの攻撃は物理法則的に辻褄が合わないと言外に告げ、何らかの別要素で破壊している可能性があると話す。


「飛んできた腕の骨を調べたのですが、C4を大量に使っても焦げ跡しか付かなかったそうで、穴を開けるのも一苦労だそうです」


「は?」

 説明していた男性は、握力を緩めた軍服の男性の声に頷いて見せると、細身の眼鏡を指先で少し調整し話し始めた。もとよりユウヒは魔法と言う謎の力を使うため、知覚外の力が働いているであろうことは彼らも当初からわかっていたが、その知覚外の力が彼らの予想を軽く上回り、すでに彼らの理解の外側であることは、飛んできた骨の調査で理解した、いや、させられた様だ。


「損傷を与えるには、現行の砲弾なら最低でもAPCRである必要がある様です。また曲面が多く跳弾する危険が高いので、直接接触させる様な砲撃は控えるべきと言う声も出ています」

 サンプルとして砲兵陣地前まで飛んできた巨大骸骨の腕を用いた結果、一般的な爆薬では焦げ跡しかつかず、多く用意していた榴弾でも同様、貫通性能を高めた砲弾による射撃でようやく損傷が見られたようで、淡々と説明する男性もその結果には信じたくないとばかりに表情を歪めている。


「ならあの鎌に秘密があるのか」


「あるいは彼自身に何かしらの要因があるものと」


「むぅ・・・」

 結論として、現行兵器で巨大骸骨を討伐するには相当量の弾薬と人的被害が必要だと算出され、その事がユウヒと言う人物の異常性をさらに際立たせた。部屋にいる人間は皆一様に黙り込み、大統領はしかめっ面で小さく唸る。


「・・・ロシアでの話は嘘ではなかったと言う事か」

 静かになる部屋で、軍関係者と思われる初老の男性は小さく呟き、その言葉に大半の人間が顔を上げて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。どうやらそれらの人々は今の今までユウヒに関する報告を信じていなかったようで、いざ信じざるを得ない状況になってもまだ信じることが出来ない様だ。


「・・・」


「大統領どうされました?」

 そんな中、大統領は変わらずしかめっ面で顎に手を添え、時折小さな声で唸っては姿勢を変えていた。その様子を見て違和感を覚えた眼鏡の男性が声を掛けると、大統領は徐に顔を上げ、ブラインドの隙間から伸びる日の光を背に真剣な表情で口を開く。


「彼にふさわしいヒーローネームは何であろうか・・・」


『はい?』


 彼の口から飛び出したのはユウヒにふさわしい通り名、ヒーローとしての名前についてであった。確かに白日の下に姿を現し多数の人の目に映った彼を隠し続けることは難しく、しかし少しでも隠すならば偽名が必要であろう。


 しかし、今ユウヒの通り名について悩む大統領の顔からはそんな他意は全く感じられず、そこにあったのはただ純粋にユウヒの通り名について悩む、少年の心を忘れない大人の顔であった。


「ヒーローなら通り名が必要であろう? やはり日本らしいものが良いかと思うが、それは向こうで付けるだろうから、ここはアメリカらしくだな」


「は、はぁ・・・?」

 語りだしたら止まらない大統領は、どうやらずっとその事について考えていたようで、周囲の呆れた空気をものともせずに楽しそうな笑みを浮かべ通り名のこだわりについて語る。


「町で市民を助けた時は黒衣を纏い死神の様であったとか」


「き、君?」

 周囲が呆れる中、細い眼鏡の位置を指で調整する男性は直立したまま大統領に目を向け、市民から聞き取った情報について話す。その様子はどこか不敵で、周囲から戸惑ったような視線を受ける彼は、テーブルに反射した太陽の光を眼鏡のレンズに反射させる。


「威容を含めて少々ヒール気味なものなどどうでしょうか?」


「・・・」

 どうやら一連の調査結果を説明していた眼鏡の男性も、大統領と同じ趣味を持つ者であるらしく、互いに同質の思考を持つが故に相手の事を理解した二人は、口元に笑みを浮かべる男性の言葉に、大統領は不敵に笑う。


「変な事を言うんじゃない!」

 急に関係のない話を始める男性に慌てた一部の人間が叱責を始めるが、


「君、解っているではないか」


「恐縮です」


「は?」

 男性が頭を下げるよりも早く大統領は彼の発言を褒め、男性は謝罪とは違う意味で頭を下げるのであった。


「そうだな・・・死神、氷の死神アイスグリムリーパーだな」


「いいですね」

 そんな男性の言葉を聞き笑みを浮かべた大統領は、すぐに顔を顰め呟くと悩み始めること一分ほど、手を叩き軽い音を鳴らすと満面の笑みでユウヒの通り名を決定し、細い眼鏡をブリッジを持ち上げる男性もその命名を聞き口元に笑みを浮かべる。


「そうであろう、そうであろう! あとは彼と共に会見をだな「駄目です」」


「・・・」

 周囲が呆気にとられる中、大統領の隣で頭を軽く抱えていた男性は、上機嫌で立ち上がる大統領を見上げると、太い釘を刺す様に鋭い声で彼の思惑を否決してみせた。その声には若干苛立ちも含まれており、無言で睨み合う二人に周囲は息を飲む。


「・・・・・・」


「ぐぬぬ・・・」

 しかしその睨み合いは椅子にどっしりと座りながら大統領を見上げる男性に軍配が上がった様で、大統領は悔し気な声を洩らすと静かに椅子に座りなおし、戦闘を再開しているユウヒに目を向けるのであった。





 自分の知らぬ場所で今後付きまとってくることとなるコードネームが決まっている頃、コードネーム:アイスグリムリーパーことユウヒは、


「おっし浄化完了だな! いくぞ【水龍ほ・・・ぶえっくしょん!!」

 巨大骸骨が大きく怯んだ隙を見て仕上げに取り掛かろうとしていた・・・ようだが、突然の生理現象により魔法の発動を失敗してしまったようだ。


「GAAAAAA!!!」

 その隙はユウヒにとって致命的な隙となり、巨大骸骨にとっては攻撃に転じる好機となった。足元を固定されていることで踏ん張る必要のない巨大骸骨は、大きく仰け反らせていた体を弓の様にしならせ、遠心力によって十分に加速の付いた腕をユウヒに向かって振り下ろす。


「ちょま!? おっと!」

 振り下ろされた腕を避けたユウヒであるがその衝撃はすさまじく、分厚い氷の大地を打ち付けるとその衝撃で周囲に転がる砕けた氷や骨の残骸を吹き飛ばす。氷の大地に浅いクレーターを作る一撃によって、残骸と同じように吹き飛ばされるユウヒは、制動をかけながら飛んでくる残骸を避けていく。


「だいじょうぶ?」


「くっそ! 誰だこんな時に噂したやつ、忍者か? 忍者だな! そうしとこう!」

 火の精霊が外套の影から心配そうに声をかけると、空に飛びあがり難を逃れたユウヒは、大きな骨の残骸を受けた影響で、くの字に曲がり湖に墜落していく【大楯】を見下ろしながら悪態をつき、すべての責任を忍者に押し付けた。これぞまさに日ごろの行いと言うものであるが、それでも割とひどい扱いである。


「忍者は嫌い?」


「処す?」


「燃やしちゃう?」

 そんなユウヒの悪態にどこから集まって来たのか、光と水の精霊はユウヒの背中にしがみつくと暗い瞳で笑みを浮かべ、火の精霊も外套の奥から仄暗い光を漏らす目で見上げながらニコニコと笑みを浮かべ問いかけた。


「処さないし燃やさないよ! 気の良い奴らだから濡れ衣でも笑って、許して、くれるさっとお!」

 あわや忍者終了のお知らせとなるところで、巨大骸骨の追撃を避けるユウヒは、忍者達について弁明を行う。フォローになっている様で地味に追撃するようなユウヒの説明に、精霊たちは目に光を戻し小首を傾げる。


「なるほど」


「あっぶねぇ・・・」

 迫りくる巨椀に大鎌をぶつけ滑らせるように避けたユウヒは、大きく突き飛ばされながらも、態勢を立て直す巨大骸骨を見下ろして息を吐く。その際妙な呟きが聞こえた気もした彼であるが、機を逃すわけにはいかないと大鎌を構え直し急降下を開始する。


「それじゃ改めて、【マルチプル】【ワイド】【ガトリング】【スプラッシュ】」

 くしゃみをする前なら隙があった巨大骸骨も、今は警戒してか隙を見せないため、ユウヒはいつもの如く力業で隙を生み出しにかかった。大量の水球を周囲に浮かべたユウヒが大鎌を軽く振ると、一斉に小さな水球が射出され始め、骨の体にぶつかった先から激しく弾ける。


「いけいけー!」


「どんどんいくよー!」

 弾ける水飛沫は次第に煙幕の様に周囲を覆いはじめ、奥が赤く光る伽藍洞のしゃれこうべの視界からユウヒの姿を隠す。そんな水球には水の精霊が跨っており、ユウヒの魔法を自主的に強化しているようだ。


「良い感じだな! ・・・【マルチプル】【フリージングショット】」

 右側に残っている腕を力任せに振るい水飛沫を吹き飛ばす骸骨であるが、水の量が量であるため完全に吹き飛ばすことは出来ず、次第にずぶ濡れになっていく。その状況に危機を感じた骸骨は新たな行動を移そうとするも時すでに遅く、ユウヒの放った氷の粒は大きく弧を描きあちこちへ飛んでいく。


「よっしいける!」


「やるぞー!」

 目的を果たした氷の粒は脆く弾け、瞬間的に周囲の水を凍結させる。体の各関節部分を中心に凍り付いた巨大骸骨は、すでに動かせる部分がほとんどなく、必死に背を動かし氷を破壊する様に腕を足元に打ち付けてはじめた。そんな姿を見上げたユウヒは、氷の大地に勢いよく降り立つと、頭上から振り注ぐ氷のかけらを気にすることなく新たな魔法を頭の中で構築していく。


「・・・縛れ【水龍捕縛陣】」


「ガアアアア!?」

 時間にして十数秒ほど、その短くも決定的な時間は、巨大骸骨からさらに自由を奪う魔法として形となる。


 ユウヒが魔法のキーワードを口にして冷たい地面に手をつくと、氷の大地を突き破り四匹の水龍が飛び出してくる。水で出来た蛇の様な四匹の龍は、巨大骸骨に纏わりつくと水とは思えない圧力で締め上げはじめ、その龍を形作っている水はダム湖から供給されているらしく、龍の出現と共にダム湖は目に見えて水嵩を下げていた。


「苦しかろう、辛かろう、たとえ藻掻こうとも過ぎた死から逃れられはしないよ・・・早々に成仏してくれ【氷化崩龍】」

 亀裂が入りバラバラに割れ始めた氷塊の上に立ち、暗いフードの奥で金色の目を強く輝かせるユウヒは、巨大骸骨に語り掛ける様に声を洩らし始め、慈愛の感情が見える表情で最後の魔法を唱える。


「GA―――!?」

 ユウヒが魔法を唱えると、一瞬のうちに水の龍はその体積を何倍にも膨れ上がらせ、骸骨諸共凍り付き巨大な一つの氷柱に姿を変え、息つく暇もなく砕け散っていく。


「やったな・・・ん? ・・・あ」


「どした?」

 巨大骸骨を封じた氷柱の粉砕の影響は彼の足元にまで及び、足元の氷塊を軽く蹴るとその反動で宙に浮くユウヒは、達成感の滲む声を零して空を見上げると、何かに気が付き顔を蒼くする。


「水の精霊!」


「はいはーい!」

 慌ててポケットから魔力を溜め込んだ結晶を取り出すと、周囲で楽しそうに歓声を上げていた水の精霊を呼ぶユウヒ。


「これでもう一仕事頼む!」


「おほー!」

 ユウヒが軽く放り投げた結晶を受け取った水の精霊は、自らの顔が映り込む結晶に目を輝かせると、変な声を洩らしながら涎を垂らす。それほどまでにユウヒの結晶は魅力的であるらしく、周囲で舞飛んでいた精霊達も集まり始める。


「津波で湖が崩壊しないように水の動きを制御してくれ!」

 そんな結晶を慌てて取り出したユウヒが察したことは、重力加速度と言う物理現象に従い落下してくる大量の氷と骨、その質量は計り知れず、どっかのタワー並みにの高さからそんなものが降り注げば、発生する波でダム湖が決壊しかねないと言う事実。


「あいあいさー!」


「わけまえよこせー!」


「わたしもわたしもー!」


「・・・ふぅ」

 ユウヒの言葉とその意思を読み取った精霊は、くりっとした瞳を輝かせ、軍人の様な敬礼を見せて飛び立ち、ほかの精霊も彼女に追従し行動を開始する。後はやる気になった精霊に任せれば問題ないと、ユウヒは深く白い息を吐き出し宙で肩を落とす。


「役に立てぬです・・・」


「ぐぬぬ・・・」

 水の精霊に任せれば後は問題ないと、飛び立つ精霊たちに目を向けていたユウヒは、傍から聞こえる声に気が付きそちらに顔を向ける。そこには赤い体と髪の毛、燃えるような色の瞳を濁らせた火の精霊が悔しそうな声を洩らしていた。


「役に立ってるさ」


「・・・」

 どうやら良い所のない自分たちの存在意義に疑問を覚えているらしく、そんな彼女たちを見詰めたユウヒは普段見せない爽やかな笑みを浮かべ役に立っていると言う。今この場に居るのは火の精霊達だけで、光の精霊は水の精霊から分け前を貰うため手伝いに出ているようで、彼の珍しい笑みを見られたのは火の精霊達だけである。


「体温めてくれてるんだろ? 気が付いてるよ、ありがとな」


「・・・・・・」

 そんな何も良い所が無いと言う火の精霊たちは、寒がってユウヒにしがみ付いている間も、ユウヒが体を冷やさないようにホッカイロの様に彼の体を温めていたのだ。戦闘中その事に気が付いていたユウヒは、一息付けたことでお礼を口にする。そんなユウヒの言葉を聞いた火の精霊たちは、濁っていた瞳に光を戻し、もとから赤い体が僅かであるがさらに赤みを増していく。


「精霊が暗い顔しててどうする? 笑ってろ、せっかく自由になったんだしな」


「えへへ」


「うふふ」

 いつも楽しそうに飛び回る精霊がしょげている姿と言うのは、彼女たちの姿を普段から見ているユウヒにとって違和感しかなく、声を掛けたことでようやく笑みをうかべる姿にほっとした表情が自然と浮かぶ。


「・・・」


「さて、帰るか」

 精霊に笑みが戻ったことで満足したユウヒは、態勢を整えると水面近くから空高く飛び上がる。先ほどまでユウヒが居た場所には、大量の氷と骨のエネルギーによって生み出された大きな波が現れるも、その波は不自然に形を変え半場で消えてしまう。


 強制的に消され岸まで到達しない不自然な波紋を見下ろしながらその場を後にするユウヒ、彼の背後では満面の笑みを浮かべる火の精霊が続いており、その瞳からは以前の様なドロドロとした光が薄れているのであった。





 一方、巨大骸骨が凍結粉砕された瞬間を目の当たりにした自衛隊員達は、一様に明るい表情で土嚢の壁から身を乗り出し立ち上がっていた。


「やりましたね!」


「ああ、これは一種の芸術だな」

 地響きのような音を上げながら足元から崩れていく巨大な氷柱は空から降り注ぐ光で輝いており、その美しい光景に彼らは感動の声を洩らし、一部は思わずスマホを取り出し写真を撮影し始めていた。


「美しい・・・」

 その中には明らかに高そうなカメラを持っている男性も居り、シャッターを切ると一言美しいと呟き、緩く吹き付けてくる冷風に目を細めている。そんな感動に打ち震えるような自衛隊達が笑みを浮かべる一方で、米軍関係者は全く別の意味で震えていた。


「これが異世界の・・・ヒーローの力か」

 呆然と言った表情で目の前の光景を見詰める米軍兵士の一人は、絞り出すような声で呟き、話に聞いていたユウヒの評価が過剰ではなく真実、純然たる事実であることを再認識する。


「隊長、迎えのヘリが来てくれるそうです」


「そうか、通信障害の件はどうなった?」

 そんな、以前の自分達の様な兵士の姿を横目に、通信機を片手に持った部下から報告を受ける男性自衛官は、一つ頷くと通信障害と言う言葉を口にする。


「一時的なものでしたから特に問題ないそうです」


「そうか」

 どうやらユウヒの戦闘中一時的に通信が出来なくなっていたようで、その通信障害が解消されたことを確認するとほっとした様に呟く。彼がほっとした瞬間背後から冷気を伴った強い風が吹き、同時に部下や同僚の声が上がる。


「おおお・・・」


「綺麗だなぁ・・・でもダム大丈夫なのか?」

 どうやら氷柱は本格的に崩壊を始めた様で、一気に崩れる氷柱の足元からは氷の煙が広がり、氷の粒がまるでダイヤモンドダストの様に輝くと、夏の炎天下の下に幻想的なサンピラーが現れた。その美しい姿に人々が国籍関係なく見惚れる中、一人の自衛隊員が水面のうねりに気が付きぼそりと呟き、周囲の人間の表情が固まる。


「・・・移動しようか」

 精霊のおかげでダムが決壊することは無いのであるが、それを知らない面々の背中には冷たいものが流れ、万が一のことを考えて彼らは慌ててその場から離れ、さらに高い場所へと歩を進めるのであった。


 巨大骸骨を討伐したユウヒの姿は多数の人間に見られ、その事が様々な場所へと波紋を広げ、その波紋がまた波紋を広げる。そんな影響を広く与えるユウヒであるが、彼にとってアメリカでやるべきことの本番はまだ終わっていない。



 いかがでしたでしょうか?


 巨大骸骨との戦闘に勝利したユウヒ、そんな彼の行動は世界に大きな波紋を生み出す。しかしユウヒの抱える大きな仕事はまだ終わっておらず、日本に帰るのはまだ先になりそうである。そんなユウヒのも物語を次回もお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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