第十九話 ユウヒとネシュ族と精霊と
どうもHekutoです。
修正作業終わりましたので、投稿させて頂きました。楽しく読んで頂ければ幸いです。
『ユウヒとネシュ族と精霊と』
異変が不穏な空気を振りまく地球、そしてその異変の中へと様々な人々がそれぞれの思惑を抱き飛び込む中、妹を探すために新たな異世界へと足を踏み入れたユウヒ。彼は異世界に入って妹捜索を始めて早々、森の中でこの世界で初めて出会う原住民に襲われたのだが、
「ごめんにゃさいごめんにゃさいごめんにゃさい」
神から授けられた異能と、少しだけ違和感を感じる持ち前の性格で、その脅威を排除することに成功? していた。
「さむいさむいさむいさむいさむい」
しかし、もし彼の現状を第三者が見て居たとするならば、どう考えてもユウヒの方を悪者のであると、そう答えるであろう。
「・・・・・・ネシュ族、温帯な森に住む獣人族で体毛が薄くとても寒さに弱い」
「!? ・・・知っててこの仕打ち! 鬼にゃ! 悪魔にゃ! いやもう基人族とか関係なく魔王にゃ!」
ユウヒの魔法【アイシクルコフィン】により、無数の氷柱で出来た檻に閉じ込められた猫耳少女達は、閉じ込められて数分と経たずに降伏することとなっていた。
その理由は、今現在ユウヒが右目の力で知った事が主な理由であり、ユウヒの事を知らない猫耳少女が牙を剥いて目を見開き、驚愕の声を上げたとしてもまったくおかしくは、無いのかもしれない。
「あぁ・・・魔王もいるんだ。いやまぁ今知ったんだけどな、寒いの苦手とか」
「うそにゃ!」
ユウヒが右目を使って見詰める猫耳少女は、明るい小麦色の薄い体毛に覆われた肌を寒さで震わせながらも、ユウヒの言葉を噛み付く様に否定する。
彼女達ネシュ族と言う種族は、基本的に温帯な森や、暖かく湿度がある程度保たれた地域に住むため、体毛は非常に薄く退化しておりとても寒さに弱い。ついでにユウヒが感心して頷いた魔王などの魔族は、保有魔力により自然と防寒が出来る為、比較的寒い地域に住むことが多い。
「いやほんとだって、それでえーっと・・・俺はユウヒと言うんだがいろいろ質問していいか?」
「くっ・・・私たちは負けたにゃ、辱めは私が代表して受けるにゃ! 彼女達に手を出さないなら私を煮るなり焼くなり好きにするといいにゃ!」
牙を剥き、自然と震える仲間を守るような体勢で前に出た三毛猫少女、どうやら彼女がこの集団のリーダー的存在らしく、にこやかに話しかけるユウヒの前に座り込み悔し気な目で声を上げ、彼を見上げ睨みつけるように見詰める。
「あーうん・・・よいしょっと、ほら攻撃されなければ危害は加えんから」
「・・・ほんとう、かにゃ?」
寒さでまだ立ち上がる力の回復しない猫耳少女の必死な表情に、思わず苦笑を浮かべ頭を掻いたユウヒは、彼女の手が届く目の前に腰を下ろすと、なるべく目線が同じになるように話し始めた。その行動は少女の警戒心を少しは薄めたのか、緊張によって強張っていた耳や尻尾から少しづつ力が抜けていく。
「ほんとほんと、俺はさっきも言ったように人探しをしていてな、そう言った情報が欲しいんだよ」
「人にゃ?」
視線から警戒心が薄れたことにホッとしたユウヒは、クリクリとした三毛猫少女の目を見詰めながら本題について問いかけるも、聞かれた少女はどこか不思議そうに首を傾げて見せる。
「ああ、あとはこの辺の事について色々聞きたいかな」
「・・・悪いことはしない?」
その表情を見て、問いかけに答えてもらう前から情報が得られそうにない気配を感じたユウヒは、付け加えるように質問を増やす。その質問に対して耳をピクリと動かした三毛猫少女は、どこかユウヒの表情を伺うように背中を丸めて問いかけ返した。
「なにが悪いことに該当するのかも教えてくれれば・・・ぁ」
どうやらこの問いかけは少し警戒された様で、その事に気がついたユウヒは、異文化の習慣も聞く必要があると感じて新たな質問を口にするも、その質問はある存在の飛来により宙を彷徨う。
「うにゃ?」
宙を彷徨ったのは言葉だけではなく、ユウヒの視線も猫耳少女の上へと向かい、彼女はその視線に誘われるように上を向き首を傾げる。
<ワタシたちが教えようか?><アナタ見えてるんでしょ?><お話しもできるんだよね?>
「ん? まぁ出来るが・・・おまいらは樹の精霊でおk?」
そのユウヒの視線の先に居たのは、緑色の柔らかそうな葉を束ねて作られた服とふわふわとした緑髪を揺らし、クリクリとした緑の瞳いっぱいににユウヒを映す手のひらサイズの少女達。
<おk?><樹の精霊ってよく呼ばれる!><アナタもエルフなの? でもお耳まるいね?>
それは異世界で見た数々の精霊たちと同じような雰囲気を纏っており、そう感じたユウヒの勘はいつも通り正しかったようで、どうやら彼女達は樹の精霊と呼ばれる存在の様だ。
「ん? エルフじゃないが、ここにも精霊好きなエルフがいるのか」
また彼女達にとって自分たちを見ることが出来る代表例はエルフらしく、ユウヒの耳を触りながら首を傾げる精霊の言葉から、ユウヒはこの世界にもエルフが存在することを知って感慨深げに頷く。
「・・・ユウヒ、さん? どなたと話してらっしゃるのにゃ?」
「その痛い者を見る目は止めい、あとさんはいらん。あれだ、精霊と話してるんだよ」
慣れた感じで精霊たちと話すユウヒ、一方目の前で精霊と話し出すユウヒを見た猫耳少女たちは、揃って不思議そうに首を傾げた。何故なら、彼女達には精霊の姿も声も聞こえておらず、ユウヒは一見独り言を始めた危ない人にしか見えていないのだ。
「・・・ユウヒ、は、エルフだったのかにゃ」
しかし、リーダーの猫耳少女だけはその姿に身に覚えがあったのか、ユウヒのジト目と言葉に耳を真っ直ぐ空に向けて伸ばすと恐る恐ると言った表情で、問いかけの様な、それでいて確認ともとれる声を洩らす。
「おまえもか・・・エルフじゃないが、ちょっと前に精霊が見えて話せるようになったんだよ」
そんな猫耳少女の言葉に、ユウヒはジト目を深めると、精霊と同じことを言う少女に自分の事情を簡単に話し。少女の頭の上に移動し、同じ事を考えたことで喜びの踊りを踊る精霊に苦笑を洩らした。
「シャシャ、シャーマンの人だったのかにゃ!? あわわ!?」
精霊たちを微笑まし気に見詰めるユウヒ、それとは対照的に顔を蒼くし始める三毛猫少女は、寒さで凍えた体をさらに震えさせると絶望にも似た表情を浮かべ叫ぶ。
『はわわわわわ!?』
また彼女の言葉と感情は、伝染するように後ろの猫耳少女達の表情も蒼く染めさせ、彼女達は団子状に固まると揃って体を震わせながら、周囲で踊る精霊を見回すユウヒを凝視する。
「それも違うし、唯の・・・うん、今は無職だな」
急に態度が変わり始めた猫耳少女の反応に対し、心に僅かな痛みを感じたユウヒは、肩を落としながら自分の職業を思い出すが、そこに何もないことを再確認すると、哀愁を感じる表情を浮かべて誰にともなく寂しそうに呟く。
<ムショク?><なにそれおいしいの?><たべものなの?>
「食べたくないし、おいしくも無いな、それで何か教えてくれるのか?」
そんな中でも、空気が読めないのは異世界でも同じらしい精霊の楽し気な声に、ユウヒは懐かしさを感じて頬を緩めると、彼女らの声に耳を傾ける。
<教えるよ!><人と話すの楽しいから!><でも教えられるのはお母さんだけどね!>
「お母さん?」
そんな精霊達曰く、何事か教えてくれるがそれは『お母さん』なる人物であるようだ。
「せ、精霊様がそういってるのかに・・・ですか?」
「ん? ああ、お母さんが色々教えてくれるそうだ」
しかしそのお母さんなる人物を想像できなかったユウヒは、オウム返しをしながら、頷く精霊に首を傾げて見せる。そこへ助け舟を出してくれたのは、戦々恐々と言った表情と声で気丈にも声をかけてくるリーダーの三毛猫少女。
「それはきっと世界樹の精霊様の事にゃ・・・です」
畏れ慄く猫耳少女達に後ろからしがみ付かれる三毛猫少女の言葉遣いは、それまで以上に丁寧なものとなっていき、目を泳がせながらもユウヒに視線を合わせる表情からは、必死に敬語を使おうとしていることが良く伝わるのであった。
<それそれ!><お母さんは世界樹に居るの!><すごく大きいの!>
またその周囲では、精霊達が楽し気に正解の踊りを踊ると言う混沌とした空気を作り出しており、ユウヒは苦笑を浮かべそっとそこから目を逸らすと、
「ふむ、この世界にも世界樹の精霊がいるのか・・・まぁ、あの子は付喪神らしいけど」
自らを父と呼び慕ってくれる一人の少女を思い出し、思わず心の安定を図る。とある理由から強靭な精神力を有していた頃と違い、ダウングレードしてしまったユウヒの心には、ある程度の癒しが必要なようだ。
「世界樹は私たちが今拠点にしている村で崇めてるのにゃ! 精霊様が良いのなら私達が案内するのにゃ!」
そんなユウヒの横顔が不機嫌そうにでも見えたのか、慌てて立ち上がった三毛猫少女は、口調が元に戻るほど焦りながらユウヒに案内を提案する。
「・・・いいのか? あやしい人間なんだろ?」
「し、シャーマンに悪い人はいないにゃ!? 謝りますから氷はもう嫌にゃ!」
立ち上がった彼女の方を見上げたユウヒは、少し明るい表情を浮かべるも首を傾げ問いかけ、その表情に好感を得たと感じた少女は笑みを浮かべて頷く。
より正確には目だけ涙目であり、どうやらユウヒの手加減氷漬けの刑は、彼女達に多大なトラウマを植え付けた様であった。
「シャーマンになったつもりはないんだが、まぁいいか・・・よろしくな」
頭を掻いてため息交じりの呟きを洩らしたユウヒだが、彼女たちの提案はありがたいものには変わりなく、そのうれしい感情のまま彼女と自然な握手を交わす。
「よろしくれたのにゃ! ・・・でも、もう少しまってほしいかな、みんな寒くてまだ動けない、にゃ」
「お、おう・・・ちょっと待ってろ? すぐ焚火用意するからな」
どうやらこの世界にも握手と言う習慣はある様だが、その瞬間緊張が切れた三毛猫少女はその場にへたり込み、よく見ればほかの猫耳少女同様未だに体を震わせている。その事に気がついたユウヒは、慌てて立ち上がると焚火の準備を始め、猫耳少女達の涙腺を緩めるのだった。
一方その頃、とある光に満ちた空間には、一人の小さな少女が慌てたように飛来していた。
<おかあさぁん! お客さんが来るよ!>
その手乗りサイズの少女は、光に満ちた室内に目的の人物を見つけると、必死だった顔に花を咲かせたような笑みを浮かべて大きな声を上げる。どうやら彼女は母親に来客を知らせるために、文字通り飛んで来た様であった。
「あら・・・お客?」
しかしその報告を受けた人物はと言うと、思いもよらない報告だったのか、きょとんとしたまましばらく少女を見詰めた後、おもむろに首を傾げて見せる。
<そうお客! すごいの!>
「何がすごいのかしら?」
首を傾げて見せる女性に、少女は緑の葉で作られた服をはためかせ宙を舞うと、興奮したようにお客の説明を始めるが、女性にはその意図が今一伝わらなかったのか、今度は反対側に首を傾げて見せた。
<キジンにみえるけど魔力が溢れてるの! エルフ以上だからきっとこれでみんな助かるよ!>
「そんなに?」
女性の質問に少女が答える事で、少しずつ『お客』と言う人物像がはっきりとしてくる中、魔力が溢れているという情報に、女性は背筋を伸ばすように頭を上げると、頬にそっと手を当てながら興味深げに瞳を揺らす。どうやらこの情報は彼女の心を揺さぶるに値する情報である様だ。
<あのヒトならきっとお母さんも子供作れるよ!>
「それは! ・・・是非お会いしてみなければいけませんね」
さらに付け加える様な少女の言葉に、今度こそ女性は心を激しく動かし、その感情は表情にも表れ驚いた様に目を見開いたかと思うと、そっと静かに目を細め、来客する相手を想像しながら待ち遠し気な声を洩らす。
<ネシュが連れてくる!>
「そうですか、それでは私からもリヴに連絡を入れておきましょうね」
細めた目の奥で、静かに燃える炎の様に深緑の瞳を揺らした女性は、小さな少女の言葉に頷いて返し微笑むと、静かに立ち上がり光に満ちた部屋に唯一ある扉に向かって歩き出した。
「・・・子を成せる。今ならまだ間に合うはず、その方は絶対に逃せない。この身尽きる前に必ず私と子を作ってもらわねば」
割と広い部屋の中をゆっくり歩く彼女は、部屋から元気よく飛び出していく小さな少女を見送ると、それまでと少し違う緩んだような笑みを浮かべる。その表情は先ほどまでのものと違い、制御しきれない必死さや喜びなどの感情を見せており、どこかそれまでの冷静な表情と違い幼さを感じさせるのだった。
いかがでしたでしょうか?
この世界にもいました精霊達、彼女たちがユウヒの冒険にどう関わってくるのか、そしてネシュ族達とユウヒの関係は? と、楽しんで頂ける様であればうれしいです。
それではまた次回もここでお会いしましょう。さようならー




