第一話 久しぶりの我が家
どうもHekutoです。
第一話の修正作業完了しましたので、投稿させて頂きます。少々短めですが、今後もこのくらいの長さになるように調整してみようかと思ってます。・・・気が付くと長くなってることが多いので意識してみました。
それではユウヒの第二幕第一話楽しんで頂ければ幸いです。
『久しぶりの我が家』
ここは地球の日本国、その都心から少し離れた所謂閑静な住宅地である。少し歩けば繁華街や駅もあるが、人の少ない住宅地の空気はどこか寂し気で、昼も過ぎたこの時間では生活感を感じさせる香りも希薄であった。
「・・・ふむ、一か月ぶり? いや二か月ぶりくらいかな」
そんな住宅地の中ほどに建つ一軒家の前には、その二階建ての家を見上げるユウヒが居た。門の前で家を見上げていた彼の表情には、どこか懐かしむ色が見える。
「向こうにいた日数なんて気にしてなかったけど、変な気分だな」
背中を夏の太陽に焼かれながら、眩しい日の光を反射する少し汚れた白い壁に目を細めたユウヒは、ぶつぶつと独り言をつぶやきながら、熱くなったアルミ製の門を開けて中に入っていく。
「お、開いてる・・・ただいまー」
郷愁の念により僅かに動きの速くなるユウヒがドアに手をかけると、ドアはその思いを理解していたかのようにすんなりと開き、その手応えにホッとした表情を浮かべたユウヒは、慣れ親しんだ言葉を口にしながら涼しい家の中へと足を踏み入れる。
「お! ユウヒ帰ってきぶりゃ!?」
「ユウちゃんおかえりー!!」
そんなユウヒの視界に広がった光景は、玄関扉を開けると聞こえて来た父親の嬉しそうな声と、その声色に合う笑顔かと思いきや、顔を上げた先には強襲者によりレバーをひじ打ちで打ち抜かれ、言葉の途中で苦悶の表情を浮かべる父親と、邪気を一切感じない満面の笑みと肉食獣の様な目で、自分に飛び掛かってくる母親の姿があった。
「!? 緊急回避!」
ある程度は予想していた展開であったが、自分を抱きしめんとして飛び掛かってくる母親の姿には素で驚いたユウヒ。異世界で鍛え抜かれた反射神経と、まだ僅かに効果が続いていた身体強化で咄嗟に避けた彼であったが、その動きを上回る動きを見せたのがユウヒの母親である天野 明華であった。
ユウヒ宅の玄関は割と広く、その中央左寄りに立っていたユウヒは、飛び掛かって来た明華の射程から外れるため咄嗟に右側へと飛び退き逃げる。
「なんの!」
「うな!? ちょまぐぇ!?」
それに対してすでに空中に飛び上がっていた明華は、ユウヒの動きを目で追うと、右足で思い切り壁を蹴り、空中にいながらも軌道修正を行う。さらに驚き固まるユウヒに飛びつき、その細い腕を彼の首に絡ませ、運動エネルギーに身を任せユウヒの首を中心にその背中へと半回転、そのままがっちりと両手両足でユウヒの背中にしがみ付くのであった。
「もう! 避けるなんて酷いわ!」
「!?!?!?」
所謂『おんぶ』などと言われる状態で、顔をユウヒ頬に擦り付け不平を洩らす明華であったが、それに対してユウヒは声にならない声を洩らす。
「いてて・・・いやハニー、それ完全に首極まってるから」
「・・・あ」
何故ならユウヒの父である天野 勇治が指摘した通り、明華の細腕は完全にユウヒの首を捕らえており、そのチョークスリーパーはプロも唸るほど綺麗に極まっていたのだ。
「ぐふぉ・・・久しぶりの我が家で死にかけるとか」
「あぁユウヒ無事か?」
「ごめんねぇ? 痛いの痛いのとんでけ~」
顔が蒼く染まっていく息子の顔に驚いた明華が、すぐに手を離したことで事なきを得たユウヒは、玄関の上がり框に手を付くと予想以上にエキサイティングな帰宅に肩を落とし、心配そうに苦笑いを浮かべた勇治と少しだけしょんぼりした表情の明華に心配される。
「けほ・・・父さんこそレバーに入ってなかった?」
「鍛えてるからな! それよりいつまでも玄関じゃなんだ、中に入れ」
「あぁ・・・うん」
久しぶりの家族との触れ合いで、懐かしい家庭の空気を感じたユウヒは、同時に気苦労も思い出したのか父親の輝く笑みに曖昧な返事を返す。
「ユウちゃん! 今日の晩御飯はすき焼きだからね! しかも和牛!」
「マジ!? えっと・・・まだ給料日前だよな?」
「ふっ・・・俺の諭吉一等兵は、立派に戦ったよ・・・」
それと同時に我が家の理不尽代表に振り回される一人の漢が滲ませた涙を目にし、自分が故郷に帰ってきたと言う感覚を覚え、久しぶりに感じ始めた明確な感情の動きに何とも言えない感情が顔から洩れるユウヒなのであった。
パタパタと軽い足取りでリビングに入る母親と、脇を押さえながらその後に続く父親の背を見詰めながら、数か月ぶりに我が家のリビングへと入るユウヒ。久しぶりとは言え体が覚えているのか、ユウヒは違和感なく自分の半定位置となっているリビングの長いソファーに腰を下ろす。
「・・・それで? 何をしていたのか教えてくれるんだろうな」
ユウヒの正面にある一人用ソファーに座った勇治は、明華が用意したお茶で口を湿らせると、急に姿をくらませたユウヒにその理由を問いかける。ユウヒの家族がいくら放任的であろうと、絞めるところはしっかり絞めるのは親として当然であろう。
「あーうん、まぁなんと言えばいいか・・・」
実際ユウヒもその問いかけは想定内であり、そこまで狼狽えることは無かったが、いざ問われると何と答えればいいか悩んでしまう。実際、自分の息子から異世界に行ってましたと言われて、頭の病を疑わない親は少ないであろう事は明らかである。
「大丈夫よユウちゃん、三人までなら許してあげるから」
「何の話?」
「「孫は何時生まれる?(の?)」」
しかしそんな普通で一般的な親の思考経路は、この夫婦に当てはめる事は出来ないようだ。それを証拠にユウヒが急に姿をくらませた理由が女関係、所謂痴情の縺れと考えていたらしく、理解のある両親然とした微笑みを浮かべ、同時に自分たちの願望も口にしだすどこかズレた二人。
「・・・・・・いっぺん死んで来れば?」
そんな思考が透けて見える両親に対してユウヒの返した言葉は冷たいもので、その視線はどこかの氷の乙女たちを彷彿とさせる冷徹なものであった。
「ああ! 久しぶりの冷たい目!」
「なんだ、てっきりどっかで刺されているのかと思ったんだが・・・まったく情けない」
そんなユウヒの言葉と視線に、明華は頬を赤くして興奮した声を洩らし、勇治はひどく詰まらなさそうに肩を落とすと、その背をソファーに預ける。
「くたばれエロジジイ、ちょっと人助けしてたんだよ」
「連絡も無くか?」
「携帯も無かったし、その場で直だったしなぁ」
本来なら同じ日に帰って来られるはずだったユウヒは、その負い目もあり今まで僅かながらに緊張をしていた。しかしその緊張も両親の姿に必要ないと察したのか、ユウヒはジト目で暴言を吐くと、彼等親子間でだけ許される空気を取り戻しはじめたようだ。
「ふぅん? それで何人くらいひっかけたの?」
「ひかけてねぇ」
一方母親である明華は未だに女性関係を引き摺っているのか、興味深げな笑顔を浮かべながらユウヒに問いかけ、否定の言葉にどこか納得のいかない表情を浮かべる。
「・・・夕陽には父さんの血、あまり受け継がれなかったようだな」
「うふふ、よかったわぁ・・・あなたの血が濃かったら何回捩じ切られてたか分から無いもの・・・ねぇ?」
しかし、その納得のいかないながらもユウヒが帰ってきたことでニコニコとした嬉しそうな笑顔は、不用意な勇治の言葉で底冷えするような冷笑に変わり、その顔を見なくても声色ですべてを察した勇治を恐怖で震わせるのであった。
「は、ははは・・・夕陽、お腹ぁ空いてないかなぁ? もうお昼だし外食でもするか?」
突き刺さる様な視線を隣から感じながら冷や汗を流す勇治は、打開策を求め乾いた笑いを洩らしながらユウヒに声をかけ、同時にアイコンタクトでユウヒへと救援を求める。
「必死だなとうちゃん・・・。確かにお腹空いたな、外食も悪くないけど・・・母さん俺ご飯とみそ汁が食べたい」
モールス信号の様な雰囲気で求められる父からの救援に、呆れた様な表情を浮かべたユウヒは、問われて初めて自分の空腹感に気が付くと、お腹を押さえその視線を明華に向け、久しく食していない日本の文化とも言える白米とみそ汁を求める。
「私の味噌汁が食べたい・・・ですって!? まぁ! すぐに準備してあげるから待っててねユウちゃん! うふふふふ~♪」
その言葉を耳にした瞬間、彼女は物理的な現象も引き起こしそうなほど冷たい視線を、とたん驚きに染めると、今も空に輝く太陽にも負けないような笑顔を浮かべ、目の前で嬉しそうに手を交差させて立ち上がったかと思うと、にやける口元を右手で隠しながらキッチンへと軽い足取りで歩いていく。
「夕陽・・・グッジョブ!」
「いや、そんなつもりはなかったんだけど・・・向こうじゃ白米も味噌汁も食べられなかったからさ」
ユウヒの単純な欲望は怒れる母に予想以上の効果を及ぼしたらしく、驚いた表情でキッチンに立つ明華を見詰めた勇治は、ユウヒと見つめ合うと輝く笑顔で右親指を立てて見せる。しかし当のユウヒは、状況が微妙に飲み込めない様子で首を傾げながら頭を掻くのであった。
「・・・なんだお前、海外にでも行ってたのか?」
「海外・・・なるほど、ある意味界外だな」
ユウヒ自身久しく食べてない日本の味を食べたいと言う欲求から出た言葉であり、特に他意はなかったのである。そんなユウヒは勇治の言葉に、海外でも似たような感覚になったことを思い出し、異世界旅行も海外旅行も対して変わらないような不思議な感覚を覚えた。
「パス無しか・・・やるのは良いがばれない様に気を付けろよ? あれは捕まると大変だからな」
「・・・いやおかしいだろ」
そんなユウヒの表情に、何を勘違いしたのか険しい表情を浮かべた勇治は、真面目な顔で常識から外れたアドバイスを行い、ユウヒに再度呆れた視線を向けられるのだった。
「はぁい出来ました! といっても朝の温め直しだけどねぇ」
そんなやり取りをしていると、明華がやはり軽い足取りでキッチンから戻ってくる。その手には湯気を上げる白米とお味噌汁が乗せられたお盆が持たれており、ユウヒはその視線を、真剣に首を傾げる勇治から待望の食事へと固定した。
「おお! ありがと! ・・・うん、やっぱこれだよねぇ」
久しぶりに見るその白く艶のある白米と、味噌汁の芳醇な香り、そのどちらもユウヒの感情を掻きたてるには十分であり、味噌汁を少し口にするだけでユウヒの涙腺は緩み、白米を一口食べると目尻に涙が溢れ零れそうになる。
「うえへへぇ・・・今日のユウちゃん5割増しに可愛いんだけどぉ」
至福に涙するユウヒの顔を見詰める明華は、いつも以上に可愛く見える我が息子の姿に口元をだらしなく緩め、興奮の為か朱に染まった両頬を手で押さえると終始ご満悦と言った表情でユウヒの食事する光景を見詰め続けるのだった。
「む? ・・・そう言えば、流華はバイト?」
只々幸せそうに食事をしていたユウヒは、お椀を空にすると少し寂しげに顔を上げ、目の前で鼻息を荒くする両親を見て訝しげに首を傾げると、姿の見えない妹の事を気にかける。
「あーっと、それはだなぁ・・・」
どうやら帰って来てから今まで余裕が割と無かった様で、食事で満たされた分ようやく色々と周囲に気を向けるだけの余裕が生まれたようだ。
「行方不明なの」
「・・・は?」
しかしその余裕も、苦笑いを浮かべた父親とそれとは真逆の笑みであっさり告げる母親の言葉で、脆くも消失してしまうのであった。
いかがでしたでしょうか?
と言うわけでユウヒの両親が出て来ましたが、だいぶ濃いですね。ユウヒがどこか淡泊な性格になった理由も、ここら辺にあるのかもしれません。
それではまた次回もここでお会いしましょう。さようならー