第百九十八話 カリフォルニア巻き
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。
『カリフォルニア巻き』
環境が一変してしまったアメリカ某所の空は、朝から発生していた黒い雲がいつの間にか消えてしまっており、膨大な水によって高地に発生した湖を太陽の光が美しく輝かせていた。
「それでは! 我々は至急戻り、ご提案頂いたプランを元に話し合いを行いたいと思います」
そんな湖に広がる水辺の一角では、直立する十体の巨大な影の前で、精霊に纏わりつかれたユウヒが満足気な笑みを浮かべている。彼の傍で不満そうな表情を浮かべる精霊たちの視線の先では、大量の触手を生やしたパワードスーツの胴体から身を乗り出した女性が、元気のよい軍人然とした口調で別れの挨拶を口にしていた。
「了解、俺も一旦戻って一休みした後また来る。それほど早く来るつもりはないのでゆっくり会議してくれ」
昼前から話を始め、太陽は頂点をずいぶん過ぎてしまうまで話し込んでいたユウヒは、彼女達異世界の住人の現状を解決するための提案をいくつか上げた様で、その提案を持ち帰る女性の表情は非常に明るく、その顔を見ただけでもユウヒの提案が彼女たちにとって良いものであったことがわかる。
ユウヒ自身も彼女達から湖の中の状況について教えてもらったことで、それらの情報を持って帰れば予定通りバカンスに入れると満面の笑みを浮かべていた。
「遥か遠き隣人に深き者を代表し感謝を・・・潜航!」
まさにwin-winを絵にしたような状況に笑みを浮かべる二人、そんな二人を精霊たちが見比べていると、ユウヒの視線に目を細めた女性が姿勢を正す。頭に生えた長い耳を背中に回し、前髪を上げるように手を額に添えた女性は、まっすぐ伸ばした背でユウヒを見下ろし感謝の言葉を口にする。
どうやらその姿勢が彼女達の敬礼の様で、ユウヒが最近自衛隊から習ったばかりの拙い敬礼で返すと、女性は口角を緩やかに上げるような笑みを浮かべ目を細めると、素早く手を下ろし大きな声で指示を出す。
「・・・」
「どした?」
「お腹痛い?」
女性の指示を受け一斉に動き出す触手を生やした3メートル超えのパワードスーツ部隊。触手の先端を水の中に付け真っすぐ浮いていた巨体は、水面に波を起こしながら後退し同時に水の中へと沈んでいく。女性の操るパワードスーツも同じように動き出し、潜航を始める直前まで開けていた胴体は、ジッパーを閉める様に下から閉まっていく。
そんなパワードスーツ部隊の一斉潜航を見詰めていたユウヒは、無言で目を顰めており、その表情に気が付いた精霊たちはユウヒの顔を覗き込んで心配そうな表情を浮かべる。
「んー・・・あの強化外骨格良いなと思って」
「え・・・」
「触手・・・」
揺れる水面を見詰めるユウヒは、精霊たちの声に小さく声を漏らすと、少年のような瞳で触手お化けに興味があると言い、そんなユウヒの言葉に光の精霊と火の精霊は引き気味の声を漏らし空中で器用に後退った。
「良いと思います!」
一方、水の精霊はユウヒの発言に賛成であるらしく、周囲でも水の精霊達が火と光の精霊相手に触手のどこが素晴らしいか力説している様だ。
「スラスターとメイン推進の両立とか、良いな・・・ふふ」
巨大な目の様に見えた部分はパワードスーツの頭部であり、高精度のカメラ、センサー、通信機、操作系などを兼ね、体を守る胴体部分は高い物理的防御を備えている。ユウヒが特に気に入っている大量の触手は、数本の細いマニピュレーター以外はすべて複合推進器で、進むだけではなく触手の向きを変えることで姿勢制御や急制動を可能にしていた。
『・・・ぽっ』
未知の装置を前にして創作意欲を擽られたユウヒは、目に好奇心を溢れさせ怪しく満面の笑みを浮かべる。見る物が見れば狂気を感じる様な表情を見上げた精霊たちは、そこで深く濃密に輝く青と金の瞳を見詰めて頬を赤く染めるのだった。
「さて、いったんバカンスと洒落込もうかな」
何事か考え込んでいたユウヒは、水面から波が消えたことを確認すると勢いよく踵を返して元気な声を上げる。やるべきことは、調べるべきことは全て完了したと軽い足取りで歩くユウヒは、突然鳴り出した通信機に小首を傾げながら帰る準備を始めるのであった。
ユウヒが焦らしに焦らした通信機に出て、米軍関係者に二度目の歓喜を上げさせてから数時間後、じりじりと暑い日差しの中でもお腹が空いてくる時間に差し掛かった日本では、石木が涼しい部屋で報告を受けて額に妙な汗を滲ませていた。
「以上、現在夕陽さんはカリフォルニアに向かっています。バカンスついでに例の件を調査してくれるそうですが・・・」
米軍及び自衛隊と連絡を取り付けたユウヒは、迎えのヘリに乗って米軍のドーム監視基地に到着後、関係者の口が塞がらなくなるような事実を伝え颯爽とバカンスに飛び立ったようで、一連の説明を終えた秘書の口元は何かを我慢するようにひくついている。
「・・・・・・異世界の超文明、しかもその精鋭部隊丸々転移だと・・・どこのラノベだ、そこは日本が中世とかに転移するんじゃないのか?」
「・・・言ってる意味が解りません」
一方、ユウヒの非常識さに慣れてきた石木も、今回の事に関しては頭を抱えざるを得ない様だ。なぜなら異世界の超文明、しかも軍隊がドームの向こうから転移して来たとなれば、最悪敵対する可能性だってあるわけで、いくらユウヒと友好的に会話を成せたとしても、色々な意味で特殊なユウヒを基準に考えるのは、一国の安全保障を担う大臣として到底無理な話である。
ユウヒが聞けば解せぬと呟き眉を寄せる様なことを頭の中で考える石木の、意味のない呟きに口元を押さえて気持ちを入れ替えた女性は、澄ました顔で石木を呆れた様に見下ろす。
「俺にも分からん・・・が、まぁ好戦的な種じゃないと言う事だからこちらから戦闘吹っ掛けなければ問題ないだろ、アメリカさんも流石に手を出さんだろうし」
「それは分かりかねますが、ただ・・・この視覚情報からの精神汚染の可能性と言うのが曖昧で」
ユウヒの報告を受け精神に異常をきたしたらしい石木は、自らの発言に呆れると、机の上に置かれた書類を手に取り、不幸中の幸いと言いたげな表情を浮かべる。ドーム跡地周辺に出来上がった広大な湖は現在侵入禁止であり、現在進行形で侵入を試みる者達は米軍の精鋭部隊によって捕縛され続けていた。それ故周辺に居るのはユウヒからの情報を周知された者達だけであり、不要な攻撃を加える者は先ず居ない。
それよりも気になるのが、ユウヒが最後に付け加えたらしい文言で、そこには視覚情報によって精神が汚染されるかもしれないので、直視は控える様に注意事項が書かれている。女性秘書にはその意味が理解できないらしく、不思議そうな表情を石木に向けて困った様に小首を傾げて見せた。
「・・・なんとなくわかる」
「え! 一体それは?」
そのどこか幼さを感じる仕草を見上げた石木は、苦笑いを浮かべるとユウヒの手書きと思われる落書きに目を落として小さく呟く。その呟きは思いのほか小さなものであったが、遠くにセミの鳴き声が聞こえるだけの静かな部屋ではよく聞こえた様で、女性は驚いたように目を見開いて石木に一歩詰め寄る。
「・・・いやまさかとは思うが、本物とは違うと思うが、しかし注意して損はないだろう」
「接触する場合は細心の注意ですか・・・」
書類の端に書かれたユウヒの落書き、何の意味も無いと思われるタコのような落書きと、ユウヒからの追記を呼んで何かを思い浮かべた石木は、自らの想像を振り払う様に頭を振ると、真剣な表情で秘書を見上げ細心の注意を促すのだった。
「なんで? いや邪神じゃないって言うけど、おいユウヒ・・・この言語はあれしかねーだろ」
秘書が視線を書類に落としてメモを取り始めると、石木は椅子を回して女性に背中を見せる。彼は書類に書かれたタコのようなデフォルメされた生物の絵と触手のお化け、さらに彼らがしゃべっていた言葉と思われる文字を見詰めると、ここには居ないユウヒに小さな声で語り掛け顔を蒼くしていく。
「あの、おじさん? 大丈夫ですか?」
「仕事中におじさんはやめろ、まったく・・・最新情報は逐一入れろと言っておけ、あと急がないがユウヒとも直接話したい」
そんな石木の表情を覗き見た女性は、メモを書き終えたペンをバインダーに挟むと、心配そうに石木の顔を覗き込んで声をかける。叔父と姪と言う関係であり、昔から付き合いがある彼女は、時折石木の事を無意識に叔父と呼んでしまう様で、そんな不意の声掛けに顔を上げた石木は、ばつの悪そうな顔で注意するも、特に怒った様子もなくどちらかと言うと恥ずかしそうに指示を出す。
「調整しておきます」
石木の表情に機嫌を良くした女性は、ニコリと笑うと礼を一つし石木の仕事部屋から退出する。
「・・・・・・はぁ」
釈然としない表情と睨む様なジト目で姪の背中を見送った石木は、椅子の背もたれに体を預けると無言で天井を見詰め大きな溜息を洩らす。何を見るわけでもなくぼーっと天井を見詰めていた彼は、机の上に置かれた書類に目を向けると、不穏な空気を感じてゆっくり眉を寄せ歪めるのであった。
石木が書類を引っ提げ、ユウヒの報告書による被害者を増やした翌日のアメリカ某所、そこには自衛隊員の男性二人に挟まれるようにユウヒが立っていた。
「さて、仕事の前に目的のブツを手に入れなければな」
「物騒な言い方せんでください」
黒塗りの車から降りてきたユウヒは、ガタイの良い男性二人の間に立ち、気合の籠った鼻息と共に不穏なセリフを吐く。ここがもし日本であれば、その物騒な言葉に反応する人間の一人や二人居そうなものだが、ここはアメリカであるため、彼らが使う日本語の意味を正確に理解する者は早々居ない様だ。
「夕陽さんが言うと妙に・・・」
右の男性に突っ込まれ、左の男性からはシャレにならないと言外に言われてしまうユウヒは、どこか不満そうな表情で二人の顔を見比べると、鼻息一つ洩らし歩き出す。
「物騒なものはそのあとだよ、先ずは美味しいカリフォルニア巻きを頂こうじゃないか!」
納得のいかない言われ様に不満を感じるユウヒであるが、現在の彼は休暇中、バカンス中である。この後危険地帯の調査が待っているが、それでも今は休暇であるため、嫌な気分になる話題はしないとばかりに歩く速度を上げると、目的のお店に向かい歩き出す。そう、現在ユウヒはドームから割と近いカリフォルニアの某所にやってきており、そのターゲットはカリフォルニアロールの様だ。
「ははは、すぐなんで・・・えっとこっちですね」
「最近は質素だったからなぁ・・・やはり日本人には米が必要だよ」
先を行こうとするユウヒを慌てて追いかけた男性は、爽やかに笑いながら手書きの地図を片手に大通りの先に見える曲がり角を指し示す。少し歩く速度を緩めたユウヒは、先行する男性の後ろを歩きながら米が食べたいと呟く。日本を旅立ちロシアに向かったユウヒは、アメリカの大地に到達するまで間ほとんど日本人らしい食事を食べていないらしく、若干の禁断症状が出て来ている様だ。
「それは分かりますね。くそ不味い米でも食べると安心感がありますから」
「確かに、あったかいごはんならなお良いのですが」
そんなユウヒの言葉に、彼の後ろを守るように歩く男性は頷き同意し、前を歩く男性も笑みを浮かべて温かい白米を欲する。やはり日本人の体はお米で出来ているらしく、三人はこれから食べに行くカリフォルニアロールに期待を膨らませた。
「それは、まぁまたの機会ですよね・・・お、あれか」
温かいごはんと言うフレーズで口の中に唾液が溢れたユウヒは、予定を変更して温かいごはんを出してくれるお店を探したい衝動に駆られるも、先ずは最初のターゲットであるカリフォルニア巻きだと初志貫徹力強く足を踏み出す。すると曲がり角を曲がった先、駐車場の奥にそれらしきお店を見つける。そこにはスシやクシカツと言ったカタカナが踊っており、ユウヒの求める料理の絵も描かれていた。
「あれですね」
「・・・」
しかし、先行していた男性が笑みを浮かべ振り返ると、そこには全くうれしそうじゃないユウヒが立ち止まっており、その姿に男性は怪訝な表情浮かべ、ユウヒの後ろを歩いていた男性はジャケットの懐に手を入れユウヒの顔と周囲を伺う。
「どうしました?」
「今って武装してます?」
懐からカチャリと言う金属質な音を洩らし近付く男性に、ユウヒは左目を青く光らせながら武器を携帯しているか問いかける。
「え? はい、最低限の武装はしてますが・・・」
不思議そうな表情を浮かべていた男性も、ユウヒの問いかけを聞くと顔を顰め、鋭く細められた目で拳銃の位置を確認してその上に手を添え頷く。
「不活性魔力、もう街中まで流入してますね」
「危険ですか?」
どうやらユウヒの青い目には街を漂う不活性魔力が見えているらしく、しかし今すぐどうこうなるほどの不活性魔力は見えないのか、背後からの問いかけに頭を横に振るユウヒ。事実彼の目には地面を這う様に流れて行く不活性魔力が見えているだけであった。
「いえ、見える範囲では・・・ただ何事も厄介なものは氷山の一角パターンが多いですから」
だがしかし、大抵の問題事と言うものは少しでも見え始めた時点で手遅れだったりする。そういった経験が過去にあるのか、いや何度も経験したような事があるらしいユウヒは、ひどく荒んだ目で周囲を見渡しながらゆっくり駐車場に足を踏み入れる。
「フォーメーションMで、それにしても休みすら儘なりませんね」
ゆっくり歩き始めたユウヒの後ろで視線を交わす自衛隊員の二人は、一つ頷き合いユウヒの後ろに下がると両サイドを守る様に歩き出す。どうやら魔法関係に対処する場合はユウヒが前面に出ることになっているらしく、男性の言葉にユウヒは後ろを見て頷くと歩く速度を少しだけ上げた。
「美味しいもの食べたら休憩してすぐ取り掛かります」
「了解です」
あまり怪しく見えない程度の足取りで歩き始めたユウヒであるが、それでも優先されるのは朝食兼おやつであるカリフォルニア巻きの様だ。ユウヒのどこかふざけた様にも見える真剣な顔に、思わず苦笑を漏らす二人の自衛隊員は、ポケットから携帯電話を取り出すとどこかへ連絡を入れ始めるのだった。
ユウヒの目にしか見えない異常が広がり始めている町の郊外では、とあるダム湖を大きく囲う様に米軍の戦車が配備され、何かの準備で人々が走り回っている。
「いてっ!?」
「こら! 弾薬に気を付けろ! 特に今回は威力の高い擲弾が多いんだからな」
しかし慌てて走り回れば当然失敗もするわけで、荷物を抱えて走っていたまだ若い隊員は、足元をしっかり見ていなかったのか弾薬の詰まった重たい箱を思い切り蹴飛ばして蹲ってしまう。だが、その場で最も心配されるのは弾薬の方であり蹴飛ばした男性は怒られるだけの様だ。
「了解!」
「くそおめぇ」
「グレ多すぎだろ」
怒られた男性は慌てて立ち上がり、目に涙を滲ませたまま敬礼し、崩れた弾薬を置き直す先輩を手伝い始める。そんな様子を見てた別の男性は、自分が抱えて運んでいる弾薬箱に目を落とし、その視線を周囲に向けるとため息を洩らす。
「仕方ねーだろ? 偵察の奴らの情報じゃ銃じゃ効果薄いってんだから」
「夢でも見たんじゃねぇか?」
見晴らしの良いダム湖の周りには、砲塔をダム湖側に向けた車両がいくつも間隔を開けて停められており、その周辺にはやはり湖に向かって土嚢が積まれその内側には弾薬庫を抱えた男性と同じように作業する人影。彼らも周囲を見渡した男性と同じ資材を運んでおり、その中身はほぼ爆発物で、それに比べて自動小銃などに使われる銃弾の在庫はそれほど多く用意されていないようだ。
「だったら集団睡眠だな」
それもこれも、ダム湖周辺の街で最初に骨と遭遇した偵察部隊の報告により、貫通性能の高い装備よりも、手榴弾や擲弾による面制圧能力の方が効果的と判断されたためで、彼らの装備する自動小銃にもグレネードランチャーと呼ばれるオプションが装備されている。
そう言った経緯があって陸軍の兵士が展開しているのだが、未だに怪しい影を見ていない者達からすればすべて眉唾物の話でしかないようだ。
「はぁやってらんねー・・・これじゃ戦場じゃないか」
「変わらんだろ? 敵がいて、守る場所がある。そのまんまさ」
それでも命令されればやらざるを得ず、予想外な場所での本番に思わず愚痴が洩れる彼らは、まだ本格的戦場を経験したことが無い様子で、出来れば最初は国外がよかった肩を竦めた。
「まさか本土の内陸でドンパチやる羽目になるとはな・・・」
自国内を戦場にして荒らす行為は、彼らにとって嫌なものであるらしく、弾薬箱を集積場所に置いた男性は背中を伸ばしながら戦車の砲塔を見上げて呟く。
「なんだ、もっとやべぇとこ行きたいのか? 俺から言っといてやろうか? ははは」
「隣はもっと簡便だ、また警戒レベル上がったじゃねーか」
そんな砲塔周りには、車両チェックをしている同僚の姿があり、視線と声に気が付いた彼は地面に立つやる気のない顔に肩を竦めると、もっとヤバイところに行きたいのかと笑いながら問う。彼らの言うヤバイところと言うのは、彼らが展開するカリフォルニアの隣にある巨大ドーム跡地の事で、ユウヒの報告を受けた米国防総省は、与えられている権限で即座に巨大ドーム跡地の脅威レベルを数段上げていた。
「ほらさっさと終わらせるぞ? いつ来るかわからないんだ、飯は食えるうちに食いてぇ」
「了解です」
そんなどこか気の抜けた緩い空気の中、事態はひっそりとしかし確実に進んでいる様で、同時刻にダム湖から数キロ離れた町で悲鳴が上がっていたが、彼らがそれを知るのはもう少し後である。
最初に感じたのは、【探知】の魔法が俺の視界に示した【敵対生物の出現確認】と言う警告表示であった。
「食えるうちに食うつもりだったんだが・・・何かフラグっぽいの立てたかな?」
慌てて探知の魔法を調整して調べたところ、どうやら少し離れたビルと民家が立ち並ぶ場所で大量の何かが現れたらしく、その場所は真っ赤な光点が密集して大きく歪な赤丸を作り出していた。
その後の動きは早く、一気に拡散し他の場所でも表れ始めた光点に俺は慌てて立ち上がり、現在は店の外まで駆け出して周囲を見回している。
「両手に巻き物もってると緊張感皆無ですね・・・」
「支払いは大丈夫です?」
両手に武器・・・ではなく、手巻き寿司を太くしたようなカリフォルニア巻きを装備した俺に、若干呆れた声を洩らす男性であるが、その表情は離れた場所から聞こえてくる悲鳴と爆発音のような大きな音に険しく歪められ、手にはすでに拳銃が握られていた。
「ええ、問題なく」
勘定は後から出て来た男性が払ってくれたようで、財布を仕舞ったその手には拳銃が握られている。確か9㎜拳銃とかいううやつだと思うが二人とも同じデザインの物であった。
「はぁ・・・まるでパニック映画ですね。連絡取れてすぐに迎え寄こすそうですが、この状況じゃすぐに来れないでしょうね。米軍も市内での戦闘に重火器が使えず困っているそうですよ」
そうこう言っている間にも周囲の混乱は酷くなっており、道路を走ることを諦めた車が駐車場を横切るように爆走しており、人々も同じ方向に逃げ始めている。また店の中に居る客も異常事態に気が付き始めたのか、逃げ出し始めたり銃を手に外を窺ったりしていた。
流石は銃社会であるアメリカと言った光景だが、俺にとっては割と懐かしい光景である。何せ父親に連れていかれた地域では、小さな子供が自分の背丈と大して変わらない銃を肩にかけていたのだから、子どもが逃げたり隠れたりしている分まだ平和な気がした。
「むぐむぐ・・・んぐ、自由交戦権は効いてますよね?」
かといって、魔力による異常であろうこの事態に、どれだけ銃が役に立つかわからない今、俺が前面に出ない理由などないだろうと、勢いよく両手のエネルギー源を咀嚼して呑み込んだが、念のために確認をとる。何せここはどっかの紛争地帯と違って真面な法律がある国なのだ、万が一捕まったら犯罪者の仲間入りをしてしまう。
「ええ、アメリカのどこでもと言う内容で許可貰ってますので」
「それじゃ狩っちゃいますね」
どうやら問題ないらしい、それにしてもよくそんな要求が通ったものである。俺がテロ行為するとか思わなかったのだろうか? いやまあやらないけど、とりあえず問題ないなら狩ってしまおう、どうにも出てきているのは湖で見つけた骸骨と同じみたいだし。なんでそう言い切れるかと言うと、魔力で強化された視界の先で車に撥ねられて空を舞う白い物体Bが見えたからだ。流石にあそこまで真っ白で細い人もおるまい。
「無茶はせんでくださいよ?」
軽い足取りで数歩踏み出し以前使った氷の大鎌を生み出す。湿度はあっても水が大量にあるわけではないので、前回より多い魔力を消費して生み出された大鎌を一振りすると、後ろから心配そうな声が掛かる。果たしてその無茶は誰の何に対する無茶なのだろうか、うん、言わなくても解ります。
「だいじょーぶ!」
物損はなるべくしないし人もなるべく傷つけない、街中で逃げ惑う人も居るからその辺は十分気にしてますから、そう心配そうな顔をしないでほしい。特に今回は遠距離攻撃や範囲攻撃を使わない予定なので・・・まぁ緊急時はその限りではないけど、それじゃ一狩り行ってきまーす。
いかがでしたでしょうか?
ただ食事に行っただけでも無事に終わらないユウヒ。骨がまた現れた様ですが無事帰れるのか、そして市民は・・・。次回も楽しみにして貰えたら幸いです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




