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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第百九十六話 アメリカドームより流れ出た者達

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『アメリカドームより流れ出た者達』


 ユウヒの報告を受け急遽開かれた緊急会議は、大きなディスプレイを用いて多数の人間が顔を向け合い行われた。一般に人が増えれば会議は長引くものだが、その会議に関してはあっという間に終わりダム計画はユウヒの手に託される事となったのだった。


「・・・朝か」

 そんな丸投げとも言えるダム建設はその日の深夜には終わり、予定通り野宿することとなったユウヒは、予想以上に魔力を使ったことで日が完全に昇る今の今まで、湖畔となった山の上で熟睡していたようだ。火の精霊が嬉しそうに舞い踊るスウェーデントーチのような焚火の傍で、防寒着に包まっていたユウヒはむくりと起き上がり、寝惚け目で眩しそうに日が昇り切った地平線を見渡す。


「んー湖だな、地図だとこの辺りは山だし全体的に乾燥してる感じなんだが、これだけ見たら誰もそう思わないだろうなぁ」

 目の前に広がる海のように広く感じる湖と、周囲に広がる乾いた土剥き出し大地、首を回せば強い日差しに照らされた青い氷山。よく見ればその巨大な氷山のほかにも不自然な土の山などが見受けられ、それら全てユウヒが作ったダム擬きである。


「こっちに行くとラスベガス・・・まぁ賭け事は当たった試し無いからいいか、ちょっと行ってみたいけど」

 視界の端に氷山を入れながら湖を見渡したユウヒは、事前に聞いていた地図を頭に思い浮かべながらなんとなしに呟く。どうやらユウヒの視線の向こうには、世界的に有名な町があるらしく、ユウヒは少しだけ興味深そうに呟いた。


「こっちに行くとコ何とか川があるのか・・・流すならこっちとか言ってたけど、良いのかな? まだ連絡来ないし・・・待機だな」

 しかし、それほど興味があるわけでもないのか、今度は眠気眼で氷山に目を向けるとその先にあると言う川を思い浮かべ、目の前の異常な水量を流して大丈夫なものなのかと小首を傾げる。


「ちょっと散歩してくるか、水は綺麗なんだよなぁ・・・向こうの世界はどんな世界だったんだろ?」

 どうやら寝惚けていて単純に思考が纏まらないだけの様で、目をごしごしと両手こすると、すっくと立ちあがって背筋を伸ばす。キラキラと太陽の光を反射する水の透明度は高く、大量の土砂を飲み込んだ後の水とは思えず、その不思議な水にユウヒは水が存在した世界に思いを馳せながら歩き出すのであった。





 深い深い水底で、空気が洩れるような細かく小さな音が一定周期で反響する。


「座標再確認・・・不可」

 薄く開かれた大きな瞳から怪しく洩れる光は、どこからとも聞こえてくる不安げな声と同じく揺らいでいた。


「情報統合、確認最終演算」

 不確かな情報の中から真実を探していたそれは、ゆっくり瞳を開くと水面を見上げ一つの結論に至ったようだ。現在自らが、そして仲間たちが置かれている状況に一つの答え出したそれは、周囲にきらきらとした光の瞬きを洩らし宣言する


「結論『異世界』」

 現在自分たちが存在している場所は、本来いるべき場所ではなく全くの異世界であると、そう結論付けたそれの言葉は、水の中に光となって響き渡り、周囲からは不規則な光の瞬きが溢れた。


「異世界前提情報再精査」

 大きく目を見開いたそれは、大きな目の中を虹色に輝かせながらじっと動かなくなる。周囲はそれの光に照らされ、長くうねる様な影が蠢いていた。


「有力異世界人接触要請・・・了承確認」

 そんな怪しい影が踊り光が瞬いていた空間は急激に暗くなる。どうやらそれが大きな目を閉じた様で、しばらく無言の時間が過ぎたかと思うと急に声が響き渡り、その声に対して周囲から光が瞬くと、ほっとした声が響く。


「対応算定中・・・治療・慰安・空腹・苦情・・・要望過多」

 大きな目を僅かに開き直したそれは、僅かに身じろぎすると土煙を上げて熟考を開始し始めたのだが、すぐに周囲から光が瞬き始めて苦悶のような声を漏らし困った様に目を閉じる。


「条件加算再算定・・・・・・過多」

 唸る様に再度熟考に入るそれは、周囲の瞬きに合わせる様に大きな瞼を痙攣させ、一言呟くとゆっくり体を水底へと沈めていく。


「会議実施推奨」

 巨大な体を水底に着底させたそれは、膨大な土煙の中に消えて行き、それが動いたことでうねりが発生した水中では、黒い影達があちこちで慌てた様に蠢き瞬き始めた。


「疲労過多、休眠実施」

 最後にそう言い残したそれは、解けたアイスクリームに様に大きく広がる様に水底に伸び、一切の動きを停止する。


「・・・」


「・・・・・・」

 動きを停止したそれの周囲で蠢く影は、伸び切った体を突くも何の反応も示さないことに弱弱しく瞬き、するりと水中をうねり泳ぐ。動きを止めたそれの周囲に集まった影の群れから現れた瞳は、互いに見つめ合う様にくるくると周囲に視線を動かす。


『・・・・・・・・・・・・』


 しばらくの間、互いに見つめあう瞳の群れにふと哀愁の色が灯ったかと思うと、暗い空間で瞬く光が疲れた様に浮き上がる空気の泡を映し出し、それはまるで彼らの気持ちを体現している様であった。





 ここは、暗い暗い水底から遠く離れた日本の某所。


「まさかこんな結末なるとはな・・・」

 そこには暗くジメジメとした空気が重く沈んでおり、背中を丸めたジライダが頭巾の奥で悲壮な表情を浮かべている。


「・・・惜しい男を、なくしたでござる」

「運命の女神は微笑まなかったな・・・くそっ」


 ジライダの対面にはゴエンモが座っており、こちらも似た様な姿で俯き方を震わせていた。ゴエンモの震える声を聞いたジライダもまた肩を震わせると、声を荒げ椅子に座った自分の腿を殴る。


「・・・」

 悔しそうに目を瞑る二人の前には、安っぽいベッドに横たわったヒゾウ。青白い顔で静かに目を閉じるヒゾウは身動き一つせず、小さな灯りだけが三人を照らす中でぽっかりと浮き出て見えていた。


「ヒゾウ・・・安らかに眠るでござる」

「お前のDドライブ、しっかり破壊してやるからな」


「・・・・・・」

 静かに眠るヒゾウの枕元にそっと白く小さな花を供えたゴエンモは目頭を乱暴に拭い、ジライダは努めておちゃらけた様な声で冗談を零す。しかしヒゾウのツッコミは返ってこない。


「なにを、してるのですか・・・?」

 そんな一室に、一人の女性が姿を現す。彼女は彼ら忍者たちの案内役である自衛隊員で、明るい室外の光を背にし、少し乱れた髪を頬に張り付いている彼女は、目を見開いて三人に何があったのか問いかける。


「綺麗な顔だろ?」

「逝ってるんだぜ?」


 女性の声に気が付き顔を上げた二人の忍者は、物言わぬヒゾウに一度目を向けるとハイライトが無くなり濁ったような目で小さく呟く。


 ヒゾウは、もう・・・。


「そんな・・・・・・・・・それ嘘ですよね? 動いてますよ? てかその笑い顔でそんな事言われましても・・・」

 しかし、そんな忍者たちに目を見開いていた女性は、すっと目を細めると呆れた様にツッコミを入れる。なぜなら彼らの目は悲しく淀んでいたが、口元には隠し切れない笑みが浮かんでいたのだ。


「ぶふっ! www」

「おま笑うなよSAN値直送男」

「ダイスの女神に振られたでござろうに」


 仕舞いには我慢できなくなったヒゾウは止めていた空気を吹き出すと、噴火の様に唾を噴き出しながら腹を抱えて笑い出し、そんな彼にジライダとゴエンモは同じく笑いながらダメ出しを始める。


「それで? いったい何を?」

 三人で笑い転げる忍者に、部屋の空気にも負けない冷たくじっとりとした目を向ける女性は、何故カーテンを閉め切って冷やし切った部屋の中で常夜灯だけ付けていたのか問いかけた。


「やー超リアル死体ごっこは難しいな!」

「ゲームでやられたら死んだふりをすると言う縛りプレイでござる」

「尚、死んだふりも出来なかった弱卒は、次ユウヒに会った時に陳情をする係である」


 当然ヒゾウは死んでもいないし、死にかけてもいない。このお馬鹿三忍は、忍者としてのスキルもフルに使って全力でリアル死体ごっこをしていたのである。どうやらその死体役はとあるゲームの罰ゲームであったらしく、ゴエンモはタブレットPCの画面を見せながら楽しそうに笑う。尚、死体を演じきれなかったヒゾウは、さらなる罰ゲームとしてユウヒへの欲望陳情が決まったのであった。


「・・・く、くとぅるふ?」

 ユウヒの機嫌次第で酷い目に合う可能性のある罰ゲームに顔を蒼くするヒゾウを後目に、女性はタブレットPCを覗き込みゲームのタイトルを読み始める。


「にわか野郎のクトゥルフ戦記でござる」

「邪神とキャッキャうふふするテーブルトーク風のゲームだよ」

「アマチュアの作品だが、無駄に選択肢が多くて悪くなかった」


 口にしなれない言葉でイントネーションの可笑しい女性に、ゴエンモは笑みを浮かべタイトルを読み上げた。それはとある有名な邪神の話を題材にしたアマチュアの作品で、ネタを知る人にとってはあちこちでくすりと笑え、選択肢を選ぶたび振られるダイスはプレイヤーを一喜一憂させる。


「いつ持ち込んだんですか?」

 そんな玄人好みのゲームに小首を傾げた女性は、一体いつの間に持ち込んだのかと問いかけながらも、特に怒った様子もなく苦笑を漏らす。


「結構前から持ってきてたんだけどな、ちと忙しすぎて積みゲーになってたんだよ」

「多人数プレイ用でござるからな」

「一人じゃ詰まらんと言うか仕様上詰むと言うくそゲーだ」


 現在忍者たちは一仕事終えた後で、一時休暇に入っている。しかしいつ招集が掛かるかわからない為、自衛隊の宿舎から外に出られない。結果、暇を持て余した三人は多人数プレー前提と言う仕様故に積みゲーとなっていたゲームを面白おかしく攻略していたのだった。


「はぁ・・・交渉が完了したそうですよ?」

 傍から見たら本当に死人でも出たかのような迫真? の演技を交えてゲームを楽しむ忍者たちに、呆れとも感心ともとれる感情を溜息として吐き出した女性は、彼等に召集が掛かった事を伝える。


「む、出番か?」

「先ずは交渉の内容確認でござるな」


 待機中である彼らは、福岡県に発生したドーム内にてちょっとした活躍の末、異世界の人々と友好的? に接触、その後日本政府の人間が現地に入りゲート管理上の交渉を行っていた。忍者たちの出番は交渉内容如何でその内容が変わってくる。


 例えば単純にゲート周辺の整地の為人間重機となったり、交渉先の人間が出す条件や依頼に応えるため、純粋な戦闘力として投入されたり、普通の人では知覚出来ない魔力的なものに対処したりと様々で、彼らが投入される事態は大抵厄介事であるため、毎回危険手当と言う形で彼らの懐を癒していた。


「これ終わったらきゃっきゃうふふな屋台ラーメンだな」


「そちらはもうばっちりです!」

 そのおかげで彼らは気兼ねなく食にお金を使うことが出来る。今回のラーメン食べ歩きも三人の奢りであり、その事を聞きつけた女性自衛隊員が複数同行する予定になっていて、忍者たちのちょっとしたモチベーションとなっていた。


「「「・・・(趣味に走ると見境ないよなこの人、まぁ嫌いじゃないけど)」」」


 それらは彼らを日本に繋ぎとめる細い鎖であるのだが、その事を知っているのはほんの一部の人間だけ、目の前の女性もその事を知らず、知らぬが故に忍者たちに若干引かれて鎖の耐久性を下げてしまうのであった。





 深夜の日本で忍者たちが動き出している頃、明るい日の下で湖を眺めるユウヒは、目の下に隈を蓄えた人物にジト目を向けている。


「隈、目立つぞ? 人に無理するなと言うなら自分も自重しなさい」


「うっ・・・」

 左腕の通信機の向こうで呻く女性は、ユウヒに指摘された目元を隠す様に顔を手で隠すと、ユウヒのジト目に頬を赤く染めた。


「いいから寝ろ、さっきも寝落ちしかけてただろ? ベッドで寝なさいな」


「・・・・・・はぃ」

 現在ユウヒの頭上は厚めの雲で遮られているが割と高い位置まで太陽が昇ってきている。一方、日本は現在時差により深夜、朝も夜も関係なくユウヒを気にかける女性は無理が出て来たらしく、ちょくちょく寝落ちしており、そんな女性の姿を見て心配したユウヒは、自分の事は棚の上に上げて自重を促す。


 実際に無理をしている女性は、自らがユウヒに自重を求めた手前強く反論する事も出来ず、大人しく返事を返し視線を落とした。


「とりあえずは落ち着いたわけだし、今はゆっくり休んでくれ」


「ありがと、でも無茶したらダメなんだからね?」

 アメリカの了解もあり、浸水域を避難済みの地域で治めることに成功したユウヒは、一旦小休止を入れるべきであると促し、そんなユウヒに小さく笑みを浮かべた女性は、しかしすぐに目を睨む様に細めると無茶しない様にと念押しする。


「・・・善処する!」


「信用ならない奴じゃないそれ、ふふふ・・・それじゃオヤスミ」


「おう、おやすみ」

 女性の注意に頬を引き攣らせ苦笑いを浮かべたユウヒは、視線を少し彷徨わせたかと思うと無駄にさわやかな笑みを浮かべ、どこぞの政治家の様に信用ならないセリフを吐いて女性を笑わせるのであった。そんなユウヒの言動に肩の力を抜いた女性は最後に一言残し手を振ると、通信機の小さなディスプレイから姿を消す。


「無理するなぁ・・・そう思うだろ?」

 黒一色になったディスプレイを眺めたユウヒは、疲れた表情を浮かべていた女性を思い出し肩を竦めると、手元を覗き込んでいた精霊たちに声をかける。


「ふふふ」


「分かりみが深い」


「火はいらぬ?」

 二人の会話を理解していたのしていなかったのか、分かりづらい笑みを漏らす光の精霊や何が深いのか頷く水の精霊、いつもと変わらぬ火の精霊、周囲に集まりだした精霊たちにもそれは伝播して行き、ユウヒの周りは笑い声で溢れた。


 時刻はそろそろ小腹が空いてきそうな時間帯、昼には早く朝には遅いそんな微妙な時間に当初の予定を終えたユウヒは、女性に念押しされた言葉を思い出すと周囲を見渡す。


「・・・そうだな、日も高くなってきたし、遅い朝食と少し早いお昼の準備でもするか・・・温かいお茶が飲みたいなぁ」


「キタコレ!」

 朝ご飯を食べることなく一仕事終えたユウヒの言葉に対し鋭敏に反応した火の精霊は、一斉に動き出すと水辺から少し離れた場所に焚火を作り始めた。あっと言う間に散らばった小さな精霊は、その両腕に流されてきた流木を抱えると、すでに一か所に集め始めている。


『・・・・・・』


 そんな火の精霊の動きに目を向け笑みを浮かべたユウヒ。彼が何と無しに背後を振り返ると、そこには大きく開いた単色の瞳でじっと見詰めて来る光の精霊の群れが居た。


「・・・なんか寒いな? 日が弱いのかな?」


「はっ! 光集める!」

 そのドロドロと粘性を感じる視線に含まれる感情を察したユウヒは、曇り空を見上げると曇っていて少し肌寒いと呟き、その言葉にすべてを察した光の精霊は空に飛びあがり何事か始めた様だ。


『・・・・・・』


 そうなってくると黙っていられないのが水の精霊たち、実際は無言でユウヒを見つめているだけなのだが、その単色の深く淀んだ青い瞳は、諄々と自らの感情を語っている。


「ほれ、何やってんだ水汲み手伝ってくれよ」


「ふぁ!?」

 そんな瞳の群れに晒されたユウヒは、手ごろな岩を魔法で加工して作った石鍋を持ち上げると水の精霊に手招きし、当たり前と言わんばかりに手伝いを要求した。そんなどこかぶっきらぼうにも聞こえる彼の言葉に、驚いた水の精霊たちは変な声を洩らすと嬉しそうにはにかむ。


「水はたくさんあっても飲める水が無いからな、鍋に俺でも飲める綺麗な水入れてくれるか?」


「・・・張り切っちゃうんだから!」

 目の前には膨大な量の水があるとは言え、日本の水道から出てくるようなきれいな水ではない。


 無駄に透明度だけは高いが、何が入っているのか分からない水の相手は、水の専門家である水の精霊に頼むべきだろうと、どこか強い承認欲求を抱えた小さな子供のような精霊たちに笑いかけるユウヒを見て、精霊たちは鼻息を荒くする。


「ふふふ、可愛いものだな」

 音もなく飛び出しユウヒを追い抜いた水の精霊たちは、水辺を見回し何事か話し始めた。どうやらどこから水を採れば一番おいしくなるかと、人には理解できない次元の話をしている様で、その光景が子供特有の言い回しに聞こえ笑みを浮かべるユウヒ。彼のこの行動に他意はなく、完全に子供の相手をしている父兄のような心持であった。


「どれ、この辺にきれいな・・・水を・・・」

 そんな気持ちで相手にされているなど知る由もない精霊たちは、焚火に火をつけ、焚火の周囲だけ晴れにし、いくつもの水球を水辺に浮かべ、そしてユウヒの歩み寄った水面から異形を浮かび上がらせる。


「・・・」


「・・・・・・」

 言葉を失うユウヒの目の前には、成人男性が両手を広げても足りないくらい大きな単眼を持った異形が、周囲の水ごと浮かび上がっており、体を覆う無数の太くうねる触手を広げユウヒを見下ろしていた。


 つるりとした単眼にはユウヒの全身が湾曲した歪な姿で映っており、それはまるで巨大なカーブミラーを見上げている様である。触手を生やした眼球のようなそれは、見ようによっては蛸のようにも見えるが、密集した太い触手の奥には黒い胴体と思しきものも見え、その姿は見る者の精神を逆撫でして狂気に誘っているようだ。


「め?」


「おー・・・」

 どうやら水面に上がって来たそれは、精霊の持ち上げた不定形な水の塊に巻き込まれた様で、持ち上げた当の本人、本精霊たちはきょとんとした表情でその大きな触手の生えた目を見上げている。そんな異形は空中に浮く水の中でもがくと、ユウヒに向かって触手を広げじわりとその距離を縮め始めた。


「いあいあ」


「いあいあ?」

 あまりの驚きに見上げたまま呆けていたユウヒは、異形の放つ圧に対してわずかに後退るも、突然どこからともなく聞こえて来た声に眉を上げる。どうやらその声は精霊にも聞こえている様で、オウムの様に返し小首を傾げて見せた。


「いあいあ」


「・・・いあいあって確か、いやまさかな・・・【意思疎通】」

 触手を伸ばし巨大な目でユウヒを見詰める異形の言葉に聞き覚えがあったらしいユウヒは、しかしそんなはずはないと軽く首を振ると、翻訳の魔法を使い再度異形を見上げ見詰める。


「・・・いあいあ」


「えぇっと、お腹空いてるならこちらにどうぞ? 大したものは出せないけど」

 ぬらぬらとした光沢を持つ触手が水音を鳴らしながら広がり、またその異形は頭に響くような声を呟く。その声に怯えと飢餓感のような物を感じたユウヒは、引き攣りそうになる顔に笑みを張り付け声をかけた。明らかに人と違う異形を前にとる行動としては、0点通り超えてマイナス表記されそうなユウヒであるが、どうやら運命の女神はユウヒに味方した様で、


「・・・・・・!?」

 声をかけられた異形は、広げていた触手を小さく揺らすと瞳に虹色の光を瞬かせながらゆっくりと触手を引き戻し体に纏い始める。しかし、どうやらダイスの女神は小さな誤差も含めていた様で、触手の異形の周囲では次々と水面が盛り上がり始めた。


「うわぁ・・・」


「えぇー・・・」


「いぱい・・・」

 ユウヒを守るように集まってきた精霊たちは、無言で水面を見詰めるユウヒの前に現れた大量の異形にか細く驚きの声を洩らすと、相手を刺激しないようにかゆっくりとした動きでユウヒの正面から背中の後ろへと隠れ始める。


「・・・・・・」


『・・・・・・』


 満面の笑みを浮かべる頬が自然とひくつくユウヒの前に現れる目玉と触手の異形達、果たしてそれらは何者でユウヒに何をもたらすのか、きっとユウヒは間を置かずして身をもって知ることになるであろう。尚、同じころ忍者たちのプレイしていたゲームの中では、最後に残ったキャラクターが狂気に呑まれ発狂していたが、たぶん関係ない話である。



 いかがでしたでしょうか?


 到頭ユウヒの目の前に姿を現す異界からの来訪者、彼等は何者なのか、そしてユウヒは何を知るのか、この先も是非読みに来てくださいね。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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