表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

195/356

第百九十四話 死の行軍

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『死の行軍』


 時は進みアメリカ巨大ドーム跡地の隣の州では、夏の明るい日差しも暮れて涼しい風が吹き抜けていた。


「来たぞ」

 僅かな民家があるだけの静かな町外れは、いつもの静かさとは少し違う静けさに満たされている。しかしそんな場所に妙な音を混ぜ込む何者かが現れた。その存在に最初に気が付いた男性は登っていた改造軍用車の屋根から飛び降りると、車両の前に出て一点を真っ白な光を放つマグライトで照らす。


「・・・はは、おい! ちょっとライト強すぎないか? 奴さん真っ白で何者か解らないぜ」


「寝惚けてるのか? だからコーヒーは濃い目にしとけと言ったんだ・・・まぁ、斯く言う俺も寝惚けてそうだがな」

 そのライトの位置に合わせて向きを変えた軍用車は、小石が擦れる耳障りな音を大きなタイヤで奏で終わると、マグライトの光を塗り替える様に眩しい光で正面を照らした。その光は強く、照らし出された場所は一面真っ白に染まり、何も見えない。


 その事に運転席の後ろから身を乗り出していた男性は惚けた声を漏らし、開け放たれたサイドドアの向こうから、ライトを手にした男性に笑われるも、笑う男の声にはなぜか覇気が感じられず、どこか空元気で胸を膨らませている様だ。


「ホラーゲーのやりすぎかしら? やっぱり和風ホラーはダメだったのよ、あれはきっと悪魔を召喚する現代の魔導書なのよ、真っ白な男の子が、あの子が来るのよ」


「そうね、すぐに帰って明るいバカゲーでもやりましょうそうしましょう。それともパーティーゲームがいいかしら? レーシングしましょう。ね? それがいいわ」

 一方、この巨大な改造軍用車ハンヴィーを運転している女性とナビゲーターの女性は、元々真っ白な肌からさらに血の気を完全に引かせ真っ蒼になっている。どうやら夏の風物詩である日本産ホラーゲームに嵌っていたらしい二人は、半笑いで責任のすべてをゲームに押し付け、今から帰って明るいゲームをやろうと声をかけあう。


「おい、双子が死んだ目してるぞ、置いてかれないうちに乗車した方がよさそうだ」


「ああそうだな、ところであれはミニガンでどうにかなるものか?」

 言うが早いかエンジンを勢いよく吹かせる女性ドライバーに笑みを引き攣らせた男性は、車両の外でマグライト付きのライフルを構えている男性に早く乗車するよう促す。促された男性は小さく肩を竦めるとライフルのライトを消して乗車する。その動きは危機に瀕した人間の動きとしては遅く、女性ナビゲーターに問いかける声は抑揚が少なく平坦であった。


「知らないわよ撃ってみたらいいでしょ! 速く逃げるわよ!」


「はいはい、置いてかないでくれ」

 その声に答えたのは、彼の声の様な胸を膨らませたナビゲーターの女性ではなく最初から空気が満たされているかのように膨らんだ胸を持つドライバーの女性。彼女は苛立ちで声を荒げると、サイドドアの中に体半分入れた状態で立ち止まり問いかける男性を急かす様にもう一度大きくエンジンを吹かす。


「それじゃ盛大に行ってみるか」

 今にも拳銃を引き抜きかねない剣幕の女性に笑って答えた男性は、いそいそと改造軍用車の天井を開くと、勢いよく方向転換を始める車両の遠心力に合わせながら大きな銃を銃座に固定し、下から渡された弾薬箱からベルトに取り付けられた銃弾を引き出し装填する。


「熱源は何もないからやっちゃって!」


「オーライ!」

 金属のぶつかり合う音を鳴らしながら準備の整った合図を出す男性に、ナビゲーターの女性は大きな声で銃撃の許可を出す。許可と同時に車両に取り付けられたライトが全て点灯して周囲を明るく照らす。その光に照らし出されたのは白い群れ、即座にその光に火薬の赤い光が混ざり、軽すぎる足音の合奏を腹に響く様な爆音で掻き消す。


「・・・・・・」

 連続する爆音は止まることなく十数秒続き、ベルト一本分の銃弾を吐き出しきると遠くなった耳に煩い静寂を与えた。誰もしゃべらない中で射撃を行った一帯を睨む男性は細く息を吐きながら、ゆっくりとミニガンのトリガーから指を外す。


 天井から体を出した男性が指を放し切った直後、天井のハッチからひょっこり顔を出した男性は、遠くなった自分の耳にも聞こえる声量で何気なく呟く。


「・・・やったか?」

 その声は静かになった空間ではよく通り、女性たちの耳にも明確に聞こえた。


「「やめてそれフラグだから!!」」


 白い群れが動き出したのと、女性二人が声を揃えて叫んだのはどちらが早かったであろうか、乾いた軽石が一斉にぶつかり合う様な音を上げた白は、伽藍洞の目に赤い光を灯して一斉に動き始める。伽藍洞なのは目だけではなく体中隙間だらけで、その姿は良く学校の理科室や倉庫で見られる標本そっくりであった。


「ははは、やっぱ隙間が多いから当たんねぇのかね?」

 骸骨・人骨・スケルトンと呼び名は色々あれど、非現実な白いそれらは骨しかないので隙間だらけ、一部砕けた個体が居る事から銃弾も効いていないわけではないが如何せん当たる部分が少ない上に、一部手足が砕けても尚動く。


「逃げるわよ!」


「ォォォオオオ」


「ァァアアア」

 車の上に身を乗り出し可笑しそうに笑う男性の声に、苛立った声を上げる女性がアクセルをベタ踏みすると、まるで反応したかの様に赤い光の群れは動き出す。


「肺も声帯もないくせにどっから声出してんのよ!」

 骸骨の集団は一斉に動き出すと乾いた足音を上げながら車を追いかけ出し、荒れ地を走る軍用車に迫る速さで走り出した集団は、後方だけでなく左右からも伽藍洞の目を赤く光らせ飛び出してくる。


「一応当たってると思うが、なんだこの量は」


「むぅ、ミニガンでは火力が無駄だな」

 どこから出しているのかおどろおどろしい声が耳に入ったドライバーの女性が恐怖で叫ぶ一方、屋根の上に上半身を乗り出した二人の男性は、軍の支給品である銃弾を盛大にばら撒いていた。


 しかし骨の集団は物量こそパワーとでも言いたいのか津波の様に現れ迫り、無駄に火力の高い銃弾が半身を吹き飛ばしても残った足で追いすがり、両足が砕けてもその亡骸を踏み越え新たな個体が姿を現す。


「まえまえまえ!!」


「イヤアー!?」

 そんな左右後方から迫っていた骨は、到頭前方からも現れ始め女性たちの視界にその健康的な骨格を晒す。突然地面から起き上がる様に飛び出してきた赤目の骸骨に悲鳴を上げた女性は、ほぼ無意識で速度を上げると瓦礫ごと骨の一団を跳ね曳き磨り潰していく。


「いやーって・・・ノーブレーキですりつぶしてんぞ」


「いいドライビングだな」

 軍用車の動きには一瞬の淀みもなく、ブレーキを忘れたかのように走る車の上で、頭を屋根の上に伏せさせ跳んできた骨の残骸から頭を守る二人の男性は、ライフルのマガジンを入れ替えながら対照的な笑みを浮かべる。


「「イヤアアア!?」」


「やっぱこのハンヴィーは失敗だったか?」


「穴なしにするべきだったなー」

 悲鳴が聞こえてくる度に飛んでくる骨の残骸は、大きく天井が開く車内にも転がり込んできており、動きはせずとも気分のいいものではない。そんな車内の惨状を無視することにした男性達は、装填を終えたライフルを構え、暴れ馬と化したハンヴィーの上で悲鳴のBGMを聞きながら基地へと帰るのであった。





 そんなリアルホラーが発生しているところから遠く離れた場所では、一人の男が地面に横たわっていた。


「・・・叫び声?」

 暴れ馬ハンヴィーから流れるBGMなど聞こえないはずだが、静寂の中に悲鳴を幻聴したユウヒは、布団にしていた防寒着を避けて起き上がる。


「【探知】・・・気のせいか」

 夏用の自衛隊迷彩服姿のユウヒは、乾いた大地の上に立ち上がると、魔法を使いながら周囲を見渡して小首を傾げた。


「さて、一眠り出来たしそろそろ調査を再開するか」

 現在ユウヒは、空高く水を噴出するドームが見えるも、すぐには水没しない小高い丘の頂上に立っている。そこはドーム跡地からほど近い場所で、近くには彼が作って自衛隊と米軍が設置して廻った不活性魔力収集装置が暗くなった空の下で輝いていた。


「溢れる水が止まらんね?」


「一方通行みたーい」


「奥まで光が届かなーい」

 ドームの跡地は深く巨大な湖になってしまっており、そこから溢れ出る水によりアメリカの大地は着実に侵食されている。遠くに見える湖を眺めるユウヒが呟くと、どこからか現れた光の精霊が交互に話しかけはじめ、その内容によると精霊である彼女達にも湖の奥は見渡せない様だ。


「そうか、元栓は断てるのかね?」

 不服な表情を浮かべ詰まらなさそうに話す精霊に苦笑を漏らしたユウヒは、体の動きを確認するように腕をの伸ばしストレッチを始め、真似る精霊たちを眺めながら誰に聞くつもりもなく呟く。


「おはようユウヒ君。今やってるけど、もう少しドームに近づけない?」


「了解・・・【飛翔】、しかし幻想的な光景だな」

 そんな問いかけに答えたのは、地上に降りてからずっと通話状態を維持していた協力者の女性であった。彼女はユウヒがドームの近くに居る事で可能になった調査と現状の対策の為、彼が休んでいる間も作業を続けていたのだ。


 またユウヒに休む様に言ったのも彼女である。現代医療のスペシャリストな傭兵を情で誤魔化すことは出来ても、心配性な協力者の女性を言い包めることが出来なかったユウヒは、常にバイタル監視をしている女性から休む様に言い渡され、自らの体を修復する事に数時間の時を防寒具に包まりすごしたのであった。


「そうね、私も是非現地で見てみたいわ」

 魔法込みで休んだユウヒの体はすっかり治っており、すっきりした表情で周囲の光景を見渡す彼の視線の先にある、乾いた大地を潤す湖には、雲の隙間から月の光が降り注ぎ、大きく揺れる水面には大きな月が映り込んで幻想的な雰囲気に満ちている。そんな光景を満喫するユウヒに苦笑を漏らした女性は、自分も現地で見てみたいと思わず呟いてしまう。


「ああ、とっても月がきれいだよ」


「・・・んんっ」

 疲れから出てしまった本音に返ってきたユウヒの返事に思わず咽た女性は、存外その思考形態が乙女の様である。


「どした?」


「言葉は選んだ方がいいわよ?」

 不思議そうなユウヒの声と表情から意図して言ったわけではないと理解しつつも、納得のいかない乙女心は、彼女の口を動かし不満を洩らしてしまう。


「何かおかしかったか? ふむ、本当にきれいなんだよなぁ違和感があるくらい」


「・・・そうなの?」

 小さな画面の向こうで頬を膨らませる女性に頭を掻いたユウヒは、水面ギリギリを滑るように飛びながらもう一度空を見上げる。そこには大きな大きな月が輝いており、その光は白く柔らかな光となって降り注ぐが、そこにユウヒは違和感を感じている様で、光を受ける様に両手を広げた。


「うん、真っ赤」

 そして呟く、月が驚くほど赤いと、降り注ぐ光は白いにもかかわらず。


「赤い月? 可笑しいわね? 大気組成は綺麗なものだけど・・・不活性魔力が影響してるのかしら」


「ありえそうだな・・・岸に何かいる」

 本来物理現象として説明が付く様な赤い月であれば何の問題も無いが、どう考えても今見えている血の様に赤い月は地球の物理現象としては説明がつかず、それこそ月が赤い塗料で染まりましたとでも言わない限り、いやそれでも無理がある。そんな異常現象を引き起こしそうなものと言えば、現在ドーム跡地周辺に溢れる膨大な不活性魔力なのだが、その影響だけが原因とも言えないユウヒは、ゆっくりと流れる水面で立ち止まると離れた場所にある薄暗い岸を睨む。


「何か・・・まだ十月にはなってないわよ? 早すぎてお菓子も用意できていないわ」


「スケルトンってやつか」

 そこに溢れていたのは、隣の州で米軍四人を追い立てていたものと同じ骸骨の群れ、ユウヒ曰くスケルトンたちである。立ち止まったユウヒの左腕に付けられた装置が数回瞬くと、どこからか小さなドローンが現れ、そのドローン越しに映像を確認した女性は言外にハロウィンにはまだ早いと嘯く。


「これも向こうから来たのかしら」


「水浴びするスケルトンかぁ・・・いや国産かもしれんな」

 気丈に嘯きながらも顔が蒼くなる女性の呟きに、異世界から水浴びに来るスケルトン達を思い浮かべたユウヒは、謎のゆるゆる空間に行き着いたようでどこか楽し気な笑みを浮かべる。しかしゆっくりと近づき金の右目で見詰めたスケルトンは、明らかに敵意をむき出しで水の中に入り込んでおり、さらに右目は彼らが地球出身である可能性が高いことをユウヒに教えた様だ。


「・・・それは不味いわね」


「とりあえずやっとくか」

 本来この世界に存在しないはずの人に敵意を持ち動く骸骨、そんな存在が闊歩していては危険極まりないと、右目と左目を強く輝かせたユウヒは、同じく瞳に怪しげな光を灯す精霊を引き連れ殺意を洩らす。


「あまりドームから離れないでね」

 音もなく加速するユウヒに、ドームから離れないように注意を促した女性は、ユウヒを起点にして動かしていたドローンを減速させる。見た目通り防御力など皆無な超小型ドローンのカメラは、魔力を練りながら低い姿勢で骸骨に接近するユウヒの背中を映す。


「了解! 死者を弔うならこれだよな【ホーリーウォーター】【アイシクルサイス】」

 ユウヒの返答を聞き終えた女性は、ドームに対する作業を再開するため通信機との接続を切る。彼女が見詰めたドローンからの映像の先では、周囲にキラキラと輝く水を打ち上げたユウヒが手を広げており、あっという間に凍り付いた水はその手の中で巨大な大鎌に姿を変えた。


「墓に帰れぇ!」

 クロモリオンライン内でネタ魔法などと呼ばれ、しかしユウヒは好んで使っていた魔法は、対アンデット魔法であるらしく、果たして現実の動く骸骨に効果があるかわからないものの、骨を破壊するだけの質量は十分ありそうで、テンションの上がったユウヒに振り回された大鎌が奏でる恐ろしい風切り音は、ドローンのマイクにもしっかり届いているのであった。





 氷の魔法を多用するのは知っていたけど、ユウヒ君ったらあんな魔法まで使うのね。


「夕陽君のレパートリーはどこまであるのかしら・・・」

 彼のクロモリデータは一部確認出来てはいたけど、多彩にもほどがあるわ。と言うか手に入れても間もない力をここまで使いこなすって、相性がかなり良かったのかしら? 入手経緯は詳しく聞いてないけど、神様は彼に合わせて力を用意したってことか・・・。


「・・・確かに綺麗ね。ちょこっとこれをこうしてっと」

 それにしてもユウヒ君の動きって綺麗なんだけど、何か武術でもやっていたのかしら? これは、かなりいい構図じゃない。


「月明りを映す水面を滑る姿と言い、振り切る氷の大鎌、飛び散る骨は浄化され水面からは水しぶきが上がり光を反射する。思わず撮影しちゃったけど、こんなの見せられたら惚れるわよね・・・」

 良い、こんな構図作って作れる様なものじゃないわ。復帰したらユウヒ君に色々頼んで・・・ってそんな場合じゃなかった。


「羨まし、私もあんな風に飛んでみたいなぁ」

 ドームの切り離し作業をしながらも、ついつい気になってドローンが映すユウヒ君の姿に目が行ってしまう。勢いよく突撃して大きく切り払うと、ばらばらに砕かれる骸骨の欠片を吹き飛ばしながら空に飛び上がり、急旋回するとまた突撃し、水飛沫を凍らせながら何度もヒットアンドアウェイで切り込む、そんなユウヒ君が作り出す青と金の軌跡を見ていると、思わず頬が熱くなるのを感じる。


「おっといけない、早く切断作業終わらせないと」

 自由自在に空を舞い大鎌を振るうユウヒ君は美しく、そんな姿に憧れのような感情を抱いてしまうも、今の私はそんなことを思う暇は無く、先ほどから何度もトライしているにも関わらず全く手ごたえの無いドームの残滓に向き直り頬を軽く両手で叩く。


「ここまでボロボロになってもまだ接続を続けるっておかしくないかな? 普通ならもう自然消滅するところよね?」

 予定ではすでに接続された異世界はこちらの次元から離れ、噴出する水も止まって然るべきなのだが、未だ水は細く長く空に突き立っており、その勢いを衰えさせる兆しすらない。


「おかしいな、これもう切れてない? ん? 何か引っかかってるの?」

 カタカタとパンタグラムの小気味よい音が響き続ける室内で、目の前の画面にはこちらのアクションに対するドーム跡の反応が、下から上へと文字の羅列として表示される。その意味を理解し繋げていくと、妙な事に気が付く。それは一言で言うなら暖簾に腕押しと言った感じで何もない事実、どうやらすでに異世界との接続は全て切り離されている様だ。何かが引っかかっている、と言う事は・・・。


「と言う事は閉じるんじゃなくて逆に抉じ開ければいいのね。こうして、こうやって、時間はこのくらいで」

 ユウヒ君に目を奪われていたこともあって見逃していたようだが、解ってしまえば対処は早い、今まで締めて閉じようとしていた先には何か引っかかっているだけで異世界と繋がる道は無く、ならば締めていた部分を全力で抉じ開ければ疑似異世界となっていた空間はこちらの次元に融合して安定化する。


「夕陽君! そこから離れて」


「どした?」

 ユウヒ君にドームと接続された多次元空間について説明した時は、目を点にしていて可愛かったが、きっと今の状況を詳しく説明しても似たような表情になるだけであろう。なので私は僅かな我欲を飲み込み簡潔に退避を促す。


「そのドーム跡はすでに接続が切れてるんだけど、何かが引っかかって世界の外側に疑似的な異世界を作ってるみたいなの」


「はぁっ! うん、よくわからんが外付けHDDみたいな?」

 それでも多少は説明しないといけない様で、水面すれすれに立ち止まり周囲の骸骨を一蹴するユウヒ君。正直動きがかっこ良すぎなんだけど、あれ完全に素でやってるんだよね。とと、そんなことはどうでもいい、すでに空間拡張弾は撃ち込み済みで起爆時間も設定済みなのだ。


「ちょっと違うけど、その空間との穴を広げて全部吐き出させるわ。何が出てくるか解らないから遠くまで離れて、起爆まであと五分よ」


「おk」

 ちょっと荒っぽいけど接続を無理やり広げるにはいい手で、ただ何が詰まっているのか全く分からないので何が出てくるかわからない。少なくとも大量の水は出てくると思うのでなるべく遠くに逃げてほしいのだが、ユウヒ君は納得した様に頷くと大鎌を大きく一つ回して笑みを浮かべる。


「そいじゃ【ワイド】【草刈り】【水刃波】逝ってこい!」

 早くと口を開きかけた瞬間、ユウヒ君から膨大な活性化魔力が吹き出して大鎌に纏わりつく。その際、彼の周囲にいくつもの光球が浮かび出て周囲を舞う様に飛び交い、不思議な反響を感じる言葉には反応して瞬いていた。


「うわぁ・・・えぐい」

 そんなユウヒ君は、男臭く獰猛な笑みを浮かべて叫ぶと、大きく大きく氷の大鎌を振り抜く。振りぬかれた大鎌からは計器を狂わせるほどの活性化魔力吹き荒れ、水面から打ち出された大量の水塊は、その一つ一つが大きな刃になって水面ギリギリを疾走し、水面から半身を出した骸骨を稲刈りの様に刈り取っていく。


 正直エグイ、たぶん人間相手でも有効だろうその攻撃は、水の中に身を屈めた骸骨すら衝撃で砕いている。地面の上に居た骸骨はもっと悲惨で、波状攻撃の様に飛んでくる水の刃でだるま落としの様に足から順に切り刻まれていく。ワイルドなユウヒ君も嫌いじゃないけど、逃げ惑う骸骨が可哀そうになってくるのでもう少しお手柔らかに出来ないでしょうか。





 協力者の女性が浮かべる苦笑の先では、高速でドーム跡地から離れるユウヒの姿があり、水面を切り裂くようなスピードで飛ぶ彼の背後では、空へと真っすぐ上る水柱が月明りを反射して青白く輝いているのだった。はたして女性の行ったドーム跡地への対応は何を起こすのか、そしてユウヒの身にどんな面白い物語として降りかかるのか、それはもうすぐわかると思われるので楽しみに見ていることにしよう。



 いかがでしたでしょうか?


 夏にしてはひんやりとしたアメリカの大地で、薄ら寒くなるホラーな骸骨と水浴びしたユウヒ。動く骸骨を倒した彼は、協力者の女性により解き放たれたドームの残滓に何を見るのか、次回もお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ