第百八十三話 ダイナミック目覚まし
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで貰えると嬉しいです。
『ダイナミック目覚まし』
人は時に自らに達成できない事柄を他者に託し、託された者の中でも多くの人々の窮地を救う者の事を救世主と呼ぶ。しかし時として救世主の行いは、人々を驚愕と恐怖のどん底に叩き落すこともあり、さらに進行すると人々は思考が追い付かなくなり考えることを放棄してしまう。
「救世主は、おかしい」
「失敬な、これだけしっかりやっときゃ安全に飛び立てるだろ? しかも滑走路付きだぞ?」
そしてそんな異常人物ことユウヒは、隣に立つ小柄なジュオ族の姫に静かな突込みを受けており、しかし彼は特に反省した様子もなく眉を寄せて不満を口にしている。
「・・・おかしい」
不満そうな声と視線に顔を上げたジュオ族の姫は、ユウヒの顔を見上げると眉を寄せながら考え込むも、やはり出てくるのは目の前で見せられた理不尽と言える力の行使に対する素直な感想であり、それはこの場に居るすべてのジュオ族の心の代弁でもあった。
「不満か?」
穴が開きそうなほど真っすぐな視線に、左目がまだ僅かに輝いているユウヒは小首を傾げると、不満があるだろうかと少しだけ不安そうに眉を寄せる。その姿に周囲のジュオ族達は、胸の前で合わせていた手を慌てた様に小さく広げて、しかし何を言ったらいいのかと虚空をさまよわせ始めた。
「不満はない、けどこんなにすごい救世主なんて星は何も言ってないし教えてくれなかった」
「世界が違うんだから詳しく解らなかったんじゃないか?」
背後でわたわた慌てだす仲間たちに視線を向けた姫は、細めた目で困った様に周囲を睨むと、小さく羽先を鳴らす。その音を聞いたジュオ族達びくりと肩を震わせると大人しくなり、その姿に頷いた姫は皆を代表するように話し始める。
姫曰く不安は無いが、彼女たちが星から聞かされていた内容よりずっと強力な力に驚いただけだと話し、その言葉に周囲も必死な表情で頷く。姫の言葉と周囲の視線に対し、特に怒っているわけでもないユウヒは、ジュオ族達の視線に苦笑で返すと、違う世界の星だから解らなかったんじゃないかと言って肩を竦めて見せる。
「そう・・・やっぱりここは違う世界なの、ね」
実際はユウヒの存在を言い当てている時点で、もう違う世界とか関係なさそうであるが、その言葉は予想以上に姫の心を揺り動かしたらしく。鮮やかな赤色のアホ毛を萎れさせた彼女は、傍仕えの女性たちに気遣われながらぽつぽつと呟く。
「・・・俺には元の世界に戻してやるまでは出来ないぞ? 酷い事を言っているが事実なんでな、まぁ乗り掛かった舟だからある程度力は貸すさ」
彼女の星読みの力では、明確に今いる場所がどこであるかを指し示すことが出来ていなかったようで、漠然とした情報からある程度察していただけの状態から、確信に至る言葉をユウヒから聞いたことで、少なくないショックを受けていた。そんな彼女に対してユウヒは小さく眉を寄せると、敢えて優しい言葉を使わずしかし力強い笑みを浮かべて見せる。
「大丈夫、星はあなたが安楽の地を示すと教えてくれた。空を取り戻せば私たちはどこにでも行って見せる」
「いや、そこまでの期待をされてもなぁ・・・」
違う世界と言う言葉に総じてアホ毛を萎れさせていたジュオ族達は、ユウヒの力強い声に顔を上げると、その表情を熱っぽい瞳で見上げていた。彼らにとってまさに救世主然とした姿に見えたユウヒ。しかし姫の重い信頼の言葉にはその笑みを維持できなかったようで、キラキラと輝く瞳で見上げるジュオ族達の前で、思わず困った様に眉尻を下げるのであった。
「・・・それで、体はだいじょうぶか?」
脱出準備の為に姫を残してユウヒの周りから離れたジュオ達は、チラチラと二人の姿を気にしながらもジャンプ台へと伸びる滑走路に何かの魔法を施している。そんな周囲からの視線を鬱陶し気な目で睨んだ姫は、ユウヒの隣に一歩近づくと小さな声で心配するように問いかけた。
「ん? ふむ・・・。順調に回復してはいるな、流石周囲の魔力を強制吸引して活性化させる秘薬だな」
「それは秘密」
彼女がユウヒの体を心配するのは、目の前に広がる広大な更地を作るために戦ったからではなく、彼女が渡した秘薬を躊躇せず一気飲みしたユウヒの体に起こるであろう副作用を心配しているからだ。
秘薬の詳しい情報は秘密であるらしいが、金色に輝く右目を持つユウヒには関係なく、ジュオ族ですら知らないであろう正確な情報を読み取ったユウヒにとって、その秘薬は姫が心配するほどのものではないらしい。
「そりゃ秘密にするだろうな、下手すると死ぬぞこれ? まぁ副作用とかもいろいろ考えてあるみたいだから気にせず飲んだけど」
しかしそれはユウヒが飲むから問題ないのであって、普通なら気軽に飲めるものではないことは、調べたユウヒ自身よくわかっている。
「救世主ぐらいの力なら問題ない。でも解っていて躊躇せず飲んだのはあなたが初めてだ」
「いやな信頼と感想だな・・・」
「・・・・・・」
ユウヒの言葉に引っかかる何かを感じつつも、問題ないと思って飲ませた姫は、ユウヒから呆れた表情で見詰められると静かに顔を逸らす。どうやら問題ないと言うのはその言葉の前に「多分」と言う言葉が付く程度の様だ。
「・・・・・・ふむ。それじゃ、俺は行くけど慌てて飛び損なって怪我するなよ?」
「ジュオに飛び損なうなんてない」
そんな彼女の心の中を見透かしたユウヒは、肩を竦めながら踵を返し歩き出すと、せめてものお返しにと明らかに揶揄う様な声を一つかけてニヤリとした笑みを浮かべて見せる。その言葉に素早く反応した姫は、振り向きざまに少し強い口調で言い返し、言い終わってユウヒの表情を見ると、無言で頬を膨らませ頬を赤らめる。
「なら安心だ。ちと騒がしくなるけど防風の魔法も追加しとくから気にすんなよ」
「・・・」
音にならない溜息一つ洩らして、これから散歩に行くかのような足取りで歩き出したユウヒは、魔法を使うための魔力を周囲に洩らしながらその場を後にし、その姿を見送る姫は、上げられていた口角を重力に引っ張られるように脱力させて落とす。
「姫? どうしました?」
そのままじっとユウヒの背中を見つめ続ける彼女の目には輝く星の光が映っており、背後に御付きの女性が近寄っても微動だにしない。その姿に不審なものを感じた女性は、姫の顔色を伺う様に頭を傾げながら声をかける。
「星が嘘をついた意味が分かった」
ユウヒを見詰めていた姫は、ゆっくりと振り返ると小さく翼の先を広げながら口を開く。
「意味ですか?」
彼女の星占いは星と対話するものであるらしく、その際に彼女は星に嘘を言われたらしい。それは占いとしてどうかと思うところであるが、彼女もそう思っているらしく少し機嫌悪そうに翼が揺れているのだが、それ以上に呆れを多分に含んだ目に、側付きの女性はどんな意味があるのか不思議そうに姫を見詰める。
「ユウヒは、星より強い」
「はは、まさか・・・」
側付きの女性に小さく頷いて見せた姫は、呆れた目を空の星々に向けると、はっきりと告げた。乾いた笑いを洩らし、しかし姫の真剣な表情に最後まで言葉を続けられない側付きの女性は、星より強いと短い言葉に纏められたユウヒに目を向けると、その小さくなっていく背中を恐ろし気に見詰める。
「だから、正確な強さを把握できなかったくせに星は星食いが死ぬと言えたのだ。まったく、解らないならわからんと言えば良いものを・・・」
星が何をもってその強さを決めているか解らないものの、姫が対話する星は強すぎる相手の事は見通すことが出来ないのか、ユウヒの事は解らないが星食いと呼ばれた大亀の強さは解るらしく、それ故かユウヒが勝てると見込みで告げた様だ。
「まさか、死ぬと出ていたのですか!?」
本来予言と言っても過言ではない星読みの力も、その根源である星が正しく発言しなければ意味が無い。星の判断を例えるならば、コップ一杯分の飲み水があるか聞かれ、調べてみれば地球一つ分の水があると分かれば、その中から一杯分ぐらいなら飲み水があるだろうと言ったところだ。
星を喰らえても殺すことが出来ない大亀と対峙する相手が、星を容易く殺せるほど強くその底が見えないとなれば、そう言った答えが返ってくるのもしょうがないとも言えるが、姫はその回答を得た時に感じた僅かな星の恐怖を思い出すと、口から悪態が出ても批判する気にまではならないのか、困った様に肩を竦める。
「此奴は今日死ぬ、身を寄せ合い備えよ、防護の秘宝は全部使う、使い切って構わない」
「・・・はい!」
星が恐れるほどの人間がどう大亀を殺すのか、想像する事も出来ない姫は、いつの間にか風が吹き始めた氷の壁に目を向けると、万が一のことを考え万全の備えを指示するのであった。
ユウヒが散歩をするかのような足取りで大亀の頂上に向かっている頃、緊迫感を持続させている観測基地の作戦会議室では、丁度最新情報を各部署の責任者に通達しているところの様だ。それは周辺基地の責任者も交えており、モニターの向こうでは分割されたウィンドウに険しい男女の顔が並んでいた。
「大亀の甲羅に知的生物と思しきものを発見した。専門家と接触していることから協力者と断定する」
説明をする男性が指し示すスクリーンでは映像が切り替えられ、大亀の開けた甲羅の上に小さくユウヒと小柄な人物の姿が映し出されており、何枚もの映像を見ても争っているような姿が無いことから協力者の異世界人と断定することにしたようだ。
「突起物が消失した甲羅の上に滑走路とジャンプ台の様なものがあることから、これらは脱出路と考えられる。よって万が一の場合を考えこの脱出路周辺への攻撃を厳禁とする」
さらにスクリーンは切り替わり、拡大していたユウヒの映像を引いた画像が映し出され、そこには東京ドームがいくつか入りそうな更地が広がっており、さらにジャンプ台付きの滑走路まで確認できる。
滑走路だけでも大型の空母並みに広大な氷の壁に囲まれた更地であるが、その大きさも巨大な大亀からするとそれほど大きなものではなく、その事が余計に大亀の巨大さを際立たせていた。
「消失か・・・」
また、問題の更地が作られる瞬間も映像として捉えられており、大きく映された大亀の一部で突然靄が発生したかと思うと、次の瞬間には大規模な崩壊が発生し、次の画像では完全に崩壊した突起物の塵が風に流され、その隙間から更地となった甲羅の表面が姿を現している。
「広範囲に極低温が瞬間的に発生後、突起物が一斉に砕けて残ったのは更地・・・魔法って何でしょうね・・・」
ロシア軍から渡された消失時の映像を何度も確認していた自衛隊の小隊長は、消滅と言う言葉がよく似合う映像を前に部下の隣で小さく呟き、部下の男性は映像とデータを分析した結果を口にし、呆れた表情で顔を上げた。
「氷の壁に極低温か・・・下手すると超低温なんじゃないか?」
「さぁ? そこまで計測できないですから・・・。でも夕陽さんって氷属性なんですかね?」
サーモカメラの映像に目を向けた小隊長は、極低温と言うレベルを超えているのではないかと眉を寄せ、しかし測定範囲を完全に超えてしまっているため詳細など解らず、顔を上げた先で苦笑いを浮かべる部下の言葉に眉尻を落とす。
「ゲームみたいに言うなよ、まぁ得意なんじゃないか? 今までの攻撃的な魔法は冷気を伴う魔法ばかりの様だし」
「現実の魔法って特化優遇なんでしょうか?」
まるでゲームの話でもするかのような部下の言葉を窘めつつ、しかしそう言った思考に陥るのも仕方ないと言った表情でため息を洩らした小隊長は、これまでのユウヒが見せてきた魔法の使用傾向から、彼の得意とする魔法の種類について推測する。
「どうだろうな、まぁ得意分野を伸ばす方が威力は高いんじゃないか?」
彼らの考えは特に間違ったものではなく、少し異常なゲームであったクロモリの経験がユウヒの魔法、ひいてはその発生原理である妄想に強い影響を与えているのは事実であり、氷結属性を多用してきたゲーム内での記憶や、これまでの経験がユウヒの使う魔法の効果に様々な補正を与えていた。
しかし、何事もそう簡単なものでないのは二人の自衛官も予想している様で、ユウヒの行動にさらなるヒントは無かったか、ユウヒと接点がある部下を集めて小さな会議を開くことを決めた一方、その問題の主であるユウヒはと言うと。
「駄目だな、試したことのない魔法は威力の調整がうまくいかない」
小一時間ほどかけて大亀の天辺に到達し、休むことなく次のステップに移っていた。
「三十六発分設置したけど・・・吸着地雷魔法【スタートーター】」
とある理由から魔法を休むことなく使い、ネム達を参考にした身体強化まで使いあっという間に登ってきたユウヒは、比較的開けた甲羅の頭頂部に六つの突起が飛び出た円盤を並べている。どうやらその亀の様な物体は魔法そのものであるらしく、キーワードを呟くことによって新たに生成された物体は、ユウヒの言葉を信じるなら地雷であるらしい。
「・・・はい威力高すぎぃ」
円を描くように並べられた地雷の列の先端で、新たな地雷を作り終えたユウヒは、じっと地雷を見詰めていたかと思うと急に大きな声を上げる。
「均等に行きたいところなんだけどなぁ? ほぼ全部威力にプラス補正入ってるんだが、今日の俺殺意高すぎ問題だな」
どうやら彼が妄想した通りの威力を再現できた地雷はほとんどないらしく、その大半が想定した以上の威力を内包している様だ。作戦指揮所の一角で小会議を続ける自衛隊員たちの中では、やはり使い慣れた魔法の方が強い威力を出せるのではないかと言う結論に至っていたが、真実は少し違うのか使い慣れない魔法の威力が勝手に上がると言う現象が起きていた。
「コア上部の破壊どころかコアまで達しそうなんだが? 流石にコアの破壊まで達成しそうな魔力が発生したら起きると思って調整してるんだけど・・・やっぱ起きそうだな」
ユウヒの勘では、一度にコアまで完全破壊するよな魔法を使用した場合、準備が整う前に大亀が気が付き飛び起きると出ており、その勘は正しかったのか大亀はユウヒの魔法が設置されるたびにその眠りを浅くしている様だ。
「覚醒値は浅い眠り、チャージは半分くらい、冷却はまだ全然冷えてないと・・・さてさて何が起きるやら」
大亀のコアから一番近いところにまで到達したことにより、ユウヒの右目もその精度を上げているらしく、じっと足元を見つめ集中するユウヒの視界に様々な情報を吐き出し、その中から必要な情報を抜き出すユウヒは、大亀の現状を認識すると予測の効かない未来を前に眉を寄せ、
「設置っと・・・」
地雷を設置しながら口元には清々しいまでの笑みを浮かべる。
「たぶんこれで壊れないとしてもまた動き出すと思う・・・がさて」
設置を完了させたユウヒの視界には、【探知】の魔法による補助が機能しており、それらは何かを感知したのか黄色い文字を彼の視界に点滅させ、その点滅に目を向けたユウヒは、どこかわくわくしたような声で独り言を呟きながらその場から足早に離れた。
「よっと、もう少し調べたかったかな? こいつはいい勉強になりそうだったけど、いつまでも野放しは地球の体にも良くないしな・・・」
【飛翔】の力も使い滑り降りる様にその場から離れたユウヒは、すでに頂上が見えなくなっても尚離れ、大きめの突起を見つけるとその影に身を潜める。これから作戦の最終段階に入るらしいユウヒは、どこか未練が残る呟きを残すと目を閉じて魔法を使うための集中と妄想を開始した。
「【マルチプル】【大楯】【小盾】【防風壁】あとは【防音壁】【遮光】【インターセプター】【ボマー】【リジェクター】おっとこれは付けとかないと【完全なる断熱壁】結構消費が多いな」
十数分ほど瞑想するように目を閉じていたユウヒは、突然目を開くと大量の魔力を燐光を伴いながら周囲に洩らすと、一気に魔法を使い始める。それらはほとんどが身を守る魔法の様で、発生するユウヒを守る様に周囲を漂う。
また、すでに何度か使用されてきた水晶の小鳥が舞う中、大きな翼を広げた赤いアホウドリはすぐにユウヒの足元で翼を畳み、真っ黒な体と赤い目をしたカラスは、ユウヒを見詰めると周囲に黒く光る粒子を躍らせながら小さな突起物の先端に舞い降りていく。
「それでは亀さん、目覚めの時間だよ・・・起爆!」
数十羽の大小様々な鳥に囲まれ見詰められ、さらにこちらも複数の大楯と小盾、それに光のヴェールに囲まれたユウヒは、すっくと立ち上がり遠くで瞬く町の灯りに目を向けると、いつもとは全く違う恐怖を感じる様な静かな笑みを浮かべながら亀に語り掛け、力強く作戦の開始を告げる。
丁度その頃、自衛隊の小会議はロシア軍人を巻き込み作戦指揮所に隣接した会議室にその舞台を移していた。閉鎖された作戦指揮所と違い、大きな窓のあるその部屋からは大亀が現れた元巨大ドームを視ることが出来、本来の目的であるドームを監視する上では非常に重宝していた一室である。
「・・・!? 何事だ!」
蛍光灯のどこか寂しい灯りが照らす一室で何とも言えない沈黙が流れた瞬間、部屋を明るく染める光が窓の外から差し込み、まるで朝日が差し込んだかのような光に全員が一斉に身構え、基地司令は光源を探し窓の外へと視線を向けた。
「噴火? 亀の背中が噴火した・・・」
そこでは山の様に巨大な大亀が、背から盛大に炎が噴き出しており、まさに山が噴火したような光景にその場の全員が声を失う中、誰の口から洩れたのか分からない声は静かな部屋でよく響き、皆の耳をするりと抜けていく。
「・・・はっ!? 伏せろ! 爆風が来るぞ!」
「はっはー! 何だこりゃスゲーな!」
「ちょ!? だから毎回押し倒さなくていいって言って―――」
しかしそんな静寂も束の間、正気を取り戻した小隊長の声で軍人たちは一斉に動き出し、窓のない部屋の人間にも状況を伝えるために一斉に走り出し、無線機を片時も離さない自衛隊員の女性は、窓の外を確認しながら一斉通信で全部隊に状況を伝える。
僅かな猶予しかない中、機敏に動くのは軍人や自衛隊員だけではなく、傭兵たちも反射的に動き出し、パイフェンは楽しそうな笑い声を漏らすと、携帯を片手にどこかへと連絡していた白猫の頭を抱え込み安全な場所に倒れる様に隠れ、慌てた声を上げる白猫の声は爆音に消し飛ばされる。
「―――!!」
「―――!?」
「―――――――――」
最初に訪れたのは赤く燃え上がる光、そして長い爆発音とそれまでよりさらに明るく世界を白く染める光であった。ほんの一瞬の出来事であったがその力は周囲を恐怖に染め上げ、そして静寂をもたらした。
そんな大騒ぎを引き起こした原因であるユウヒはと言うと、
「GOAAAAAAAAAAAA!?」
「―――――・・・・・・予想とだいぶ、少し違うけど、普通に噴火だなこりゃ・・・ん?」
大亀の背中の上に居たはずが、強力な爆風に耐えられても魔力を伴った突風には耐えられなかったようで、鳥たちを伴い大空を風に弄ばれているようだ。
くるくると木の葉の様に飛ばされながらも【飛翔】の力で態勢を立て直したユウヒは、逆さまになりながら叫び声を上げる大亀の背を見詰め、徐に予想と違うと呟く。誰が聞いているわけでもないのに言い直したユウヒは、くるりと身を翻し反撃を警戒して身構える。
「レーザーが来ない? お? 頭が上がって・・・頭が二つ?」
「GOAAAAA!」
「GYUROROROOOOO!!」
しかし、彼が思っていたような反撃は一向に行われず、勢いよく起き上がる大亀の頭の数に小首を傾げ、口元には満面の笑みを浮かべた。彼が見下ろす先には長く太い亀頭のほかに、反対側から長い長い蛇の頭が顔を出す。
「ははは、名前通りなのかよ! らしい姿になったじゃないか」
どこにそんな長いものが収まっていたのか、大亀を一周しそうなほど長い首は、亀頭と同じように悲痛な叫びをあげると、膨大な魔力を噴き出すユウヒを見上げると、明確な敵と認識して鋭く睨み大口開く。
爆炎の隙間から弱点であるコアを晒した大亀を明るく輝く右目で睨んだユウヒは、その視界に流れる情報と姿に歓喜すると大亀の叫びに負けない声を張り上げ、自らの心に活を入れる。どうやらユウヒの大亀討伐はここからが本番の様だ。
いかがでしたでしょうか?
ユウヒによるダイナミックな目覚ましでした。やられた大亀は爽快な目覚めに思わず叫んでしまったようですが、果たしてまだ暗い早朝に叩き起こしたユウヒは無事で済むのか、次回もお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




