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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第百七十六話 現れるは荒ぶる大亀?

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで貰えたら幸いです。



『現れるは荒ぶる大亀?』


 夜のロシアを一瞬のうちに真昼に変え、さらにサーチライト顔負けの光量で大地を白く塗りつぶした巨大ドーム。その光も次第に収まり、サングラスの必要もない元の夜の暗さをを取り戻した観測基地周辺、しかしドームがあった場所はそうもいかないようだ。


「・・・」


「・・・・・・」

 真っ黒な森のような柄の巨大ドーム、その巨大ドームが消えた場所には、広大な森とその中央に聳える遠くから見ても大きな山。大きな山の表面は歪に尖っており、その姿はまるで剣の山の様である。


「・・・あれはなんだ」


「す、すぐに偵察部隊・・・いやドローンを」


「・・・ぁ、了解!」

 遠目から見ただけでもその異様さがわかるのは、山自体が怪しく光っている為で、誰がつぶやいたのか、絞り出す様な声に反応したロシアの軍人たちは、その場にいた責任者の言葉に慌てて動き出し、双眼鏡を手にして茫然としていた男性は慌てて森を調べるために双眼鏡を目に当てた。





 一方ユウヒはと言うと、早い段階で謎の巨大な影を観測出来ていたことで山に見える何かが山ではないことを理解した様で、謎の影が何なのか話し合っている。


「・・・山ですか」


「山じゃないですよね」


「・・・亀ですかね?」

 その動きと光の中で見えたシルエットから、大きな亀に見えたと話す男性の言葉にユウヒは頷き、周囲も賛同する様に頷く。


「確かに陸亀っぽいフォルムでしたね・・・あれに近付けます?」


「あれにですか?」

 緩慢な動きではあるが、まるで起き上がる陸亀の様にその高さを増していく影を眺めていたユウヒは、確かにトゲトゲではあるものの、その棘を抜きに考えれば緩やかにカーブした山の様な影は、陸亀の甲羅にも見えると頷き、後ろで双眼鏡を覗いていた小隊長に振り返ると近くで見る事は出来ないか問いかける。


「攻撃される可能性もあるので、出来ればあれが良いんですけど」


「あれですか」

 あれと称し、謎の光る山っぽいナニカを指差していたユウヒは、近づくならあれが良いと言いながら今度は基地の方を指差す。彼が指差した先には、航空力学によって洗練された灰色のフォルムが美しい機体が置かれており、同じくあれとつぶやいた小隊長は少し困ったように笑う。


「べ、別に俺が乗ってみたいと言う欲望・・・も割とあったりするんですけど」


「欲望駄々洩れですね・・・えぇ準備します。F35の準備!」

 何故なら小隊長が見たユウヒの表情は、これから謎の物体の調査に行く人間と言うより、面白そうなおもちゃを前にした少年のような顔であったからだ。どっかの忍者の様に欲望が駄々洩れになっているユウヒに、彼は苦笑を一つ零すとニヤリとした笑みで頷き部隊に指示を出す。


「燃料補給も完了してますから、被害確認で問題なければ何時でもいけます」


「よし、チェック終わったらすぐ飛ばす。夕陽さんに直接空から調査してもらうから安全運転第一だぞ!」


『了解!』


 小隊長の指示により慌ただしく動きだす自衛隊員達。灰色の戦闘機からは補助エンジンの音が鳴り響き、複座のコックピットの中ではなにやらゴソゴソと作業を行っている。安全運転第一と言う大きな声に、パイロットたちは背筋を伸ばし敬礼し、その視線は戦闘機を見詰めるユウヒに向けていた。


「F35・・・Bだったかな? 三人が喜びそうだ」

 アメリカによって開発され、日本によって購入後魔改造されたと言う噂のある戦闘機の偉容に楽しそうな笑みを浮かべるユウヒ。魔改造、その最も解りやすい部分の複座に目を向けたユウヒは、忍者達への良い土産話が出来そうだと考えながら、その右目を淡く輝かせるのであった。





 自衛隊が慌ただしく動き、パイフェンを物陰に捨ててきた白猫からユウヒが心配されている頃、観測基地司令の部屋の扉が少し荒っぽく叩かれていた。


「司令失礼します!」


「どうした?」

 閉めていない扉がノックされたことで顔を上げた基地司令は、視線で入室を許可すると、まだ若い男性隊員の元気な声に口元を緩め、ノートパソコンを閉じて机の前に歩いてきた部下に何かあったのか問いかける。


「自衛隊が戦闘機の用意をしてます」


「・・・自衛隊の魔改造F35か、何をするつもりだ?」

 男性の報告に眉を上げた司令は、アメリカから購入後、日本の変態達によって魔改造が施された戦闘機を思い浮かべながら、彼らは何をする気なのかと溜息交じりに呟く。なるべく日本に協力するようにと言われているため、特に止める気もないが面倒な事になりそうだと眉を寄せる彼に、目の前の若い隊員は自衛隊員から理由を説明されていたらしく話し出す。


「専門家に空からあの山の様な謎の物体を調査させるとのことで、同時に突然発生した森の調査も行うそうです」


「・・・・・・これはチャンスかもしれんな、すぐにこちらも調査機と護衛の戦闘機を出せ、準備は出来ているだろ」

 自衛隊の調査内容に目を細めた司令は、日本でも最重要人物と言える専門家が動くと言う事に、安全性の確保が出来ていると察し笑みを浮かべると、事前に準備していたらしいロシア軍の航空機を発進させるよう指示を出す。


「はい、すでに空港の滑走路に待機しています」


「全機爆装で別命あるまでは自衛隊の支援、万が一あの生物が移動を開始したら・・・」


「攻撃ですか・・・」

 書類に何かを書き込んで目の前の若い隊員に手渡した司令は、万が一の場合は攻撃も許可すると話し、そんな攻撃許可に隊員は緊張した表情を浮かべる。


「まぁ、あんな化け物が動くとも思えんが・・・」

 緊張した表情で書類に視線を落とす隊員の姿に思わず笑みが漏れる司令は、呆れた様に肩を竦めると、報告にあった山が僅かに動いていると言う話を思いだしながらくつくつと笑う。


「あの、残念な報告がその、もう一つ・・・頭が出てきました」


「・・・動くのか」

 しかしそんな笑い声も、申し訳なさそうな隊員の報告によってピタリと止まり、驚いたような表情を浮かべ顔を上げた司令の視線に、若い隊員は無言で何度も頷くのであった。





 一方その頃、厳つい顔を出した謎の物体を視ているユウヒは、そのシルエットで謎の生物の正体を、


「あぁ・・・亀ですね」

 亀であると確信する。


「長い首ですねぇ、あんなに長い首が上がると言うのもすごいもんだ」


「人工物で例えられそうにないくらい長いですね・・・もしかして富士山くらいあるかも?」

 十キロ以上先にあっても大きく見える、山の様な大亀の下から伸びてきた頭は、森の中から太く長く伸び、すでに甲羅部分より高い位置に達し周囲を見渡していた。


「全長とか確かにそのくらいありそうですね。どのくらいまで近づきましょうか?」

 その長さはすでにビルなどより圧倒的に高く、例える物が富士山くらいしか思いつかないユウヒに、パイロットの男性は双眼鏡片手にそのくらいありそうだと頷く。そんな大亀に今から近づかないといけない彼は、双眼鏡を下ろすと後ろを振り返りユウヒに問いかける。


「安全ならなるべく近く、亀の顔ぐらい見ておきたいところですけど、まぁ何が起きるかわからないので慎重にゆっくり行きましょう」


「了解しました! 旋回しつつ距離を詰めていきます」

 魔力の残光を目の周りに浮かべていたユウヒは、亀の顔が確認できるくらいまで近づきたいとしながらも、何が起きるか解らないので安全第一に行こうと話し、パイロットの男性は明るい声で小さく敬礼すると口元に笑みを浮かべた。


「そこはお任せしますし、何かあれば魔法で支援もします。最悪俺は単独で飛べるので、脱出してもちゃんと拾って帰れますから」


「魔法で飛べるんすか!? うらやましいなぁ・・・俺も魔法とか使って直に飛んでみたいですよ」

 タッチパネルを叩き計器のチェックをする男性に、ユウヒはお任せしますと話しながら、最悪自分は飛べるので脱出しても大丈夫だと冗談めかしに話す。そんな若干不謹慎な冗談に対して、男性は何を言うよりも早く魔法で空を飛べると言う事実に食いつき、空飛ぶ自分の姿を想像しているのか緩い笑みを浮かべている。


<退避完了いつでもどうぞ!>


「了解! 夕陽さん準備は良いですか?」


「問題ないですお願いします」

 そんな緩い笑みも、通信機から聞こえてきた発進許可を聞いた瞬間引き締まった真剣な表情に変わり、ユウヒからの返事に一つ頷くと機体の操作を始め、垂直離陸のために機体が動き出す。


「Jフォース1これより遊覧飛行を開始します」


「・・・おお」

 ロシアの大地を今、日本の変態技術者たちによって魔改造されたF35が飛び立つ。本来複座のありえない機種にも関わらずパイロットの後ろにユウヒを乗せ、燃料をたっぷり入れてもなぜか垂直離陸できる機体は、一路謎の大亀に向けて飛び立っていくのだった。





 ユウヒがゆっくりとスピードを上げていく機体に感動の声を漏らしている頃、大亀の足元に広がる森では、霧が森の外に流れ出ていき空に星々が輝き始めていた。


「族長、空が・・・」


「おお、これぞまさしく予言の時」

 そんな空を見上げた人影は、満点に輝く星空に目を見開くと慌てて傍にいた老婆に声をかける。声をかけられた老婆はゆっくりと顔を上げると、線の様に細めていた目を僅かに開き空を視上げた。


「ならば救世主が!」

 空の星々から何かを読み取った老婆の言葉に、歓喜の声を上げた人影は勢いよく立ち上がると、口元に満面の笑みを浮かべて老婆を見下ろす。


「悪魔からの解放は間近じゃ、選択を間違うでないぞ」


『はい!』


 気が付くと、その人影のほかにも老婆の周りには長身の人影がいくつも立っており、老婆を取り囲むように立っていた人々は、困った様に微笑む老婆の言葉に顔を引き締めると、声を揃えて返事を返し、大きな足音を立てながら外に駆けだすのであった。





 一方、星空に何かを感じている者は他にも居るようで、怪しい桃色の光であふれる部屋の上座に座る女性は、天窓から見える空を見上げ長い服の裾を僅かに揺らす。


「・・・」


「・・・」

 彼女の僅かな動きに、傍で控える袖の長い服を着た女性たちは、顔を上げて空を見上げる女性に注目し始める。


「・・・・・・星が、助けが来ます」


『・・・!?』


 あまり表情のない顔で空を見上げ続けた女性は小鳥が泣くようなか細い声で呟き、しかしその声は静かな室内よく響いた。彼女の言葉に周囲は一瞬静寂を取り戻すも、すぐに慌ただしい声と動きが溢れ始める。





 どこかで何者かが騒がしさを増している頃、大亀の調査に向かうユウヒは大亀の近くに到達するまでの間、キャノピー越しの夜空を見上げていた。


「おおお・・・確かに遊覧飛行ですね。星がいっぱいできれいだ」

 タッチパネルや計器類から漏れる光以外の灯りが消された機内で見上げる空は、ユウヒを感動させるに足る星空の様だ。


「日本と違って光が少ないですからね」


「あれがいなければもっと綺麗なのかな?」

 異世界で見た満天の星空と違い、地球の空にはユウヒの良く知る星座が瞬いており、少ない知識でもわかる星座を見つけては目を輝かせるユウヒ。そんなユウヒは、どんなに上を向いても頬に感じる怪しい光を見下ろすと、少し残念そうな声を零す。


「角度付けますね」


「あ、良い感じです」

 あっという間に十数キロ離れた大亀の近くに到達した戦闘機は、パイロットの操縦によってキャノピーから大亀を見やすいように斜めに機体を傾けたまま緩く旋回を始める。


「動きませんがあれは亀ですね」


「亀ですね・・・この辺って森だったんですかね?」

 キャノピー越しに大亀を見下ろすユウヒは、さらに酸素マスクと一緒に装備させられたヘルメットのバイザー越しに金色の目瞬かせて、眼前の亀を観察し始めた。彼が見つめる先に居る巨大な物体の姿はどこからどう見ても巨大な陸亀で、大きく伸びた首は現在大地に降ろされている。


「いえ、元々は湿地だったようですね」


「と言う事は、この森も全部異世界産か・・・いいな」

 そんな大亀が居る場所は針葉樹の森になっており、亀が大きすぎるため今一大きさがわかりにくいが、森を構成する樹々は地球の一般的な木などよりずっと大きく太い。それらの樹は異世界からやってきた樹のようで、ユウヒの質問に答えるパイロット曰く、この場所は元々広大な湿地であった様だ。


「動きなし、もう少し近づきます」


「はい・・・見えてきたな、まずは生態かな?」

 じわりじわりと大亀に近づく戦闘機であるが、特に大亀がアクションを見せないことでさらに近づくべく、パイロットは断りを入れて機体をスライドさせるように少し大きく距離を詰める。すると、次第にユウヒの視界を埋める文字の羅列もその量を増やしていき、それまで全力で使っていた右目の力を弱めた彼は、大量の情報から大亀の生態を読み取っていく。


「ん? あれはロシアの」


「多目的戦闘機」

 調査をサポートするパイロットは、ユウヒの様子を横目で見ながら大亀の周りを大きく旋回させていたのだが、レーダーで何かを捉えたらしく、後方から近づいてくる物体に目を細める。それはロシアの戦闘機群のようで、その中には最新鋭の多目的戦闘機までも見られた。


「よくご存じですね? まさか最新機まで出してくるとは思いませんでしたが・・・どれも爆装してますね」

 振り返ったユウヒの目に映った戦闘機は、現在彼が乗る戦闘機より鋭角な印象を与える機体で、その機体の情報を視界いっぱいに溢れさせたユウヒは、かろうじて読み取った内容を呟くと右目の力を緩め視界を確保する。


 その他にもいくつか形の違う戦闘機の姿があるが、そのどれもが翼の下に大きなミサイルなどを取り付けていた。


「やる気満々だな・・・まぁ、あれが動き出したらそれでも足りないかもしれないんだけど」


「え? いますごく不穏な言葉が聞こえたんですが・・・」

 右目でじっとロシアの戦闘機を見詰めたユウヒは、興味を失ったように視線を亀に戻すと、困ったような声でぼそりとつぶやく。そんな彼の小さな呟きは、インカムによってパイロットの耳へとはっきり伝わり、その内容に思わず後ろを振り返る男性に、ユウヒは酸素マスクの向こうで苦笑いを浮かべる。


「距離はこのまま維持でお願いします。亀がこっちを気にし始めました」


「!? ・・・了解です」

 目を白黒させながら、ユウヒの呟いた言葉の意味を聞こうとするパイロットであったが、今までと違う真剣な声でユウヒに指示されると、慌てて席に座りなおし表情を引き締めた。


「この距離だとまだ詳しく出ないな、本体が内部にあるのか・・・なるほど、む? ふむ・・・あ」

 それから数分の間、無言のパイロットの耳にはユウヒの呟く声が届き続け、その不穏な言葉に妙な緊張を感じる彼の視線の先で、大亀はその長い首を大きく持ち上げ始めている。その姿に緊張を感じているのは自衛隊のパイロットだけではなく、追従する様に飛ぶロシアのパイロットたちも同様であった。


「ロシア機が動き始めましたね」


「亀も動き出した。移動かな?」

 数分が数十分に感じられるような緊張の中、一部のロシア軍機がユウヒ達よりも大亀近づき始め、その動きに反応する様に大亀は山の様な体を動かし始める。


「これは、観測基地側に移動し始めましたね」

 ロシア軍の間で体の大きさから歩くことは不可能だと思われていた大亀は、その想像を裏切り大きな一歩で異世界に侵食された地球の大地を踏みしめ始め、旋回させる様に動かした体を今度は前に向かって進め始めた。


「結構動きが早いなぁ」

 その進行方向は観測基地側であると言うパイロットに、ユウヒは一つ頷きながら大亀の歩く速度を見てどこか感心した様に驚きの声を零した。


「攻撃態勢に入る気だな、高度上げます」


「はい―――」

 一方そんな大亀の動きに対して黙っていられないのがロシア軍で、万が一の場合に攻撃を許可されている彼らは、その進行を止める、もしくは阻害するため攻撃態勢に入っていた。


 どうやら十機近い戦闘機は大亀の足元狙うつもりのようで大きく上昇後角度をつけて降下していく。その様子を確認した自衛隊のパイロットは、ユウヒに一声かけると攻撃に巻き込まれない様アフターバーナーまで使って勢いよく高度上げた。


「っ!? しまった夕陽さ! ・・・ん?」


「おお、なんだか怪獣映画でも見てるみたいだなぁロシア軍VS巨大亀? 戦闘機VS大陸亀?」


「・・・流石、落ち着いてますね。大丈夫でしたか?」

 急激な上昇による圧迫感は、一般人であれば一瞬で気を失いかねない行為であり、緊急事態で思わずいつもの様に機体を上昇させたパイロットは、上昇を止めると慌てて後ろを確認する。しかし、そこにパイロットが危惧したような光景はなく、飄々とした声で眼下を見下ろすユウヒの姿に、男性は気の抜けたような声で問い掛ける


「へ? 何がです? あぁまだ安全ですけど・・・亀の後方に回ってください!」


「は、はい!」

 一方ユウヒはと言うと、急に大丈夫かと問われても何のことだか解らない様で、呆けた声を漏らし小首を傾げると、まだ大亀に大きな動きはないと笑いかける・・・ことが出来なかった。何かに気が付いたユウヒは、バイザーの奥で目を見開くと、パイロットに向かって大亀の後ろに回るように伝える。


「直撃したら風壁もたないだろうなぁ・・・【範囲拡大】【探知】」

 指示されるがまま機体を動かす緊張した面持ちのパイロットの後ろで、ユウヒは不安そうな声を洩らしながら【探知】の魔法を重ね掛けしていく。


「何があったんで、高熱源反応!?」

 大亀の頭と反対の方向で戦闘機を旋回させ始めたパイロットの男性が、突然指示を出したユウヒに何があったのか問いかけようとした瞬間、コックピット内に警報音が鳴り始め、HMDには真っ白になったサーモグラフィーの映像が映し出され、驚きの声を上げたパイロットは明るさを増していく大亀をしっかり確認するため、ディスプレイの暗視設定を切り替える。


「攻撃が基地を掠めます! すぐに連絡を!」


「こちらJフォース1! 亀より攻撃! 亀より攻撃の挙動を確認! 攻撃は基地を掠めます! 注意してください!繰り返す―――」

 通常のカメラで大亀を確認しながら機体を制御するパイロットに、ユウヒは視界に表示された情報を即座に読み解くとパイロットに伝えた。その焦りを多分に含んだユウヒの声に、パイロットはすぐに通信機で指令所となっている観測基地の自衛隊テントに事態を伝える。


「こんなのどうしようもないよなぁ・・・まぁ良いデータ頂きました。被害はなし、魔力の可活性、属性はまんま光か、精霊無しでよくこれだけの威力を・・・」

 指令所からの返答を持つことなく、大きく旋回する戦闘機のキャノピーを真っ白な光が照らし出す。


「レーザー!?」


「当たりです。光を収束させた魔法のレーザー砲ですね。指向性が完全じゃないせいかえらく眩しいな」

 大きく口を開いた大亀は、その口から真っ白な指向性の光を吐き出した。膨大な熱量を伴った光の筋は、周囲の空気を焼きながら真っすぐ進み大地を焼いていく。首を動かすことで大地に歪な直線を描いた大亀は、観測基地の際を掠めその先まで焼くと何も出なくなった口を空に向けてゆっくりと体を大地に沈める。


「ははは、これは・・・」

 収束されたとは言え大亀の大きな口から放たれた光は、家一軒くらい楽に呑み込むほどの太さがあり、光が通った大地は高熱で溶けて赤熱しており、赤外線カメラで見た大地には明るい筋がはるか遠くまで描かれていた。


「しかも悪い情報追加してなんですけど、硬そうな見た目通り物理効きません、と言うより無効です。たぶんナパームなんかも効果ないんじゃないですかね? さっきの空対地ミサイルも効いてないです」


「・・・・・・一旦戻ります」

 恐るべき攻撃力を見せて沈黙した大亀、しかもその大亀が沈黙した理由はロシア軍の攻撃が聞いたわけではないらしく、分析を続けていたユウヒ曰く、この大亀は物理的攻撃が効かないらしく、たとえ膨大な熱量を伴う攻撃であっても効かないだろうと言う。


「反して魔法や魔力を伴った攻撃は有効なので、これは俺の出番ですねぇ」

 反して魔法に対する抵抗力はほぼ無いらしく、静かな声で撤退を告げるパイロットにユウヒは目をぎらつかせながら楽しそうに呟く。


「それは・・・とりあえず戻りましょう」


「了解です。ふふ、あれは食い甲斐がありそうだ・・・どうしてやろうかな」

 金色に輝く右目で何を読み取ったのか、妙に上機嫌なユウヒの声に思わず後ろを見たパイロットの男性は、彼が浮かべる笑顔に妙な恐ろしさを感じて目を逸らすと、エンジンの出力を上げて観測基地へと急ぎ戻るのであった。


「・・・(雰囲気が変わってますけど!?)」

 これまでのどこか気怠い表情や、子供の様なわくわくした表情と違う、目元と声だけでもわかる満面の笑みを浮かべるユウヒはいったい何を見たのか。そしてやる気に満ちたユウヒは何を仕出かすのか、今はまだ誰にもわからない。



 いかがでしたでしょうか?


 光に照らし出された巨影の正体は大亀、しかも口から巨大レーザー砲を放つようなちょっぴりやんちゃな陸亀? でした。果たしてこの災害に対してユウヒはどう立ち向かうのか、次回もお楽しみに。


 それではこの辺、またここでお会いしましょう。さようならー

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