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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第百七十話 日本産オカルト装置

 修正等完了しましたので、今日も元気に投稿させてもらいます。楽しんで頂ければ幸いです。



『日本産オカルト装置』


 最後にゆっくりと過ごしたのは何時だっただろうか、いやまぁ大した時間は経ってないんだけど、ここにきて三日目だったか。


「何本作ったかな?」

 ここは石木さんが用意してくれたどっかの自衛隊施設内にある大型倉庫、最初来たときはまだ搬入途中だったけど、今では大量の丸太と厳重に梱包された黒い石が小分けにされて積まれた一画。ロシア行きの説明を流華にした次の日の朝、家の前に黒塗りの車が迎えが来ていたの事には妙なデジャブを感じた。


「今ので251本ですね。・・・あの、休憩しなくて大丈夫ですか? 急がなくてはいけないのはわかりますが、少しは休んだ方がいいですよ」

 そんな俺が今作っているのは、アメリカのドーム災害対策に必要な不活性魔力吸収装置、夜でも安心の吸収力とか名前を考えていたんだが全て却下されたのは良い思い出である。尚、全て却下してくれたのは、陸上自衛隊から手伝いに派遣されたと言う目の前の女性だ。最初こそ不審な目で見られていたのだが、今じゃ大分打ち解け・・・妙に心配そうな視線を向けてくることが多くなった。


「・・・そうですね。少し休憩しようかな」


「ええ、それが良いですよ、すぐに食事を準備しますので食べて寝ちゃってください」

 不審な目は初日に試作を作り上げたころには無くなっていたし、その後ちょっとした手違いで黒い石に触れた陸自の職員さんを救出したころにはどこか尊敬されている気もしたのだが、今では困った子供か弟でも見るような目である。・・・解せぬ。


「食べてすぐ寝るのか・・・不健康だが悪くない」

 とりあえず牛になりそうな行動を促されたからには抗う事もないだろう。しかし、予定数の半分をいつの間にか通り越していたのか、今まで気が付かなかったが左手がぶるぶる震えてる。これは病気ではなくマナーモードにしていた通信機の着信を知らせる振動だ。


「はいもしもし?」


「今大丈夫って・・・ひどい顔よ? 大丈夫? 無理して死んだんじゃ意味無いからね? 無理言ってる側の人間がこんなこと言うのもなんだけど、もっと自分を大切にしないと・・・」

 通信機を覗きながら声をかけると、モニターの向こう側で手を振る未だ名を知らぬ協力者の女性。今日も出来る女感を感じる鋭い目つきなのだが、何故あなたまで女性自衛官の方と同じような視線に変るんでしょうか? そんなにひどい顔だろうか? まぁさすがに無精ひげは生えてそうだけど、そろそろ魔法で剃ってしまうか・・・。


「え、そんなにひどい顔してる?」


「顔色悪すぎよ」

 ああ、顔色の方か安心した・・・もし見た目の事だったら本当に倒れているところだからな。しかしそんなに顔色悪いのか、確かに頭がふわふわして足がしっかり地についていない感覚がするが、思考はクリーンだし眠気も感じない。よく徹夜する時と同じだし、魔力だって初日に作った試作不活性魔力吸収装置改良型の活性魔力充填機のおかげで問題ない。


「まぁこれから休憩だから大丈夫」


「そう? まぁそれならいいけど・・・」

 そう思うのだが、流石に女性からここまで心配されると我儘も言えなくなる。あまり我儘を言うと女性自衛官の様な視線を向けられかねない。彼女の視線を見るに、若干手遅れな気もするが、大分ハイペースで作れているから少し長めに休憩することにしよう。決して彼女達の視線に屈したわけではない。


「それで? 何かあった?」


「そうだった、砂煙の逆転が始まったわ。ゆっくり加速すると思うから、思ったより収束するまでに結構かかると思う」


「一応は予想通りなのか」

 どうやら中国の巨大ドーム災害が折り返しを通過したらしい。折り返しなのかそれともここからが本番なのか俺もよくわからんが、全体の復旧にはまだまだ時間が必要なようだ。なんでも日本からも混乱を防ぐための支援に動く様だが、お隣は色々文句言ってきそうで問題が起きそうな気がする。


「そうね、ロシアの分析も進んでいるし、リソースの割り振りも余裕が出てきたし・・・ユウヒ君がロシアから帰ってきたら少しはゆっくりできるんじゃないかな」

 おお、それは朗報だな。中国はまだ時間が掛かるけど、日本と一緒にアメリカとロシアも動いてくれるそうだから、問題が起きても俺には特に関係ない。アメリカは今作ってるブツが設置されれば不活性魔力による被害は防げるし、残りは超大国アメリカ様が勝手にガンガンやってくれるだろ。


「そうか、じゃあそのタイミングで一度ゆっくり話すとしようか」

 あとはロシアに行って崩壊するドームを観察して問題があれば対処したらいいだけ、ゆっくりできるなら、彼女と話すついでに長期休暇でも取るかな? クロモリはプレイできなくてもリアルクロモリが存在するわけだし、一号さんや家の娘も寂しいだろうし遊びに行ってみるかな。


「そうね、こんなに助けてもらえるなんて思ってなかったから、いっぱい持て成してあげるわ」


「それは楽しみだぁね」

 持て成しかぁ日本人の心だよね、出来る女のもてなし・・・料理とか? まぁさすがにエロゲー展開なんてあるわけないし、あ! それなら明らかにオーバーテクノロジーな感じの機器とか見せてほしいな。


「・・・だから無事帰ってくるのよ?」


「このままいけば三日後にはロシア行きかな?」

 そうですね。先ずは無事に一連の問題を解決しないと取らぬ狸さんだな、今のペースなら完成まであと二日、その後休息を入れても三日後にはロシア行きの飛行機の中か、不安もあるが少し楽しみでもある。なんせ母さんが五割増しで病むレベルだからな、きっと父さんの黒歴史があるに違いない。思い出してみれば、小さい頃から世界中旅行に連れて行かれたけど、なぜかロシアは連れて行ってもらってないのはその所為かもしれない・・・。


「今年は寒いらしいわね・・・」


「温暖化と言う世界的嘘つきは許さない」

 知ってますとも・・・ネットで調べましたから、今年は例年より寒くなるのが早くて既に10度台切る日も多いって・・・おかしくない? 温暖化温暖化とうるさいくらいにニュースやらなんやらで言ってんのに寒いって。そう言えばアメリカの選挙で温暖化は嘘って言って叩かれてた人が居たな。いいぞもっと言ってやれ。


「科学的に言えば今は氷河期だからね?」


「そうなのか・・・嘘ばかりだな世界」

 氷河期なの? そりゃ逆に温めないといけないのでは、知ってはいたけど世の中嘘が平気な顔して歩いているよな。母さんも何か言ってた気がするけど、まぁ権力者が白と言えば黒も漂白されるらしいから、無駄に難しく考えるのは止めよう。


「何をいまさら、私の世界もそうだったわ」


「そうかぁ・・・おっとそれじゃ休憩してくるわ」

 あぁ世界は変われど人は変わらんのですね、どうしようもないな。む? カレーの香りがするな、そろそろ通信を切らないと、見られても別に問題はないと思うけど説明面倒だし、またあとでね。


「ゆっくり休みなさい」


「へいへい・・・姉と言うのはあんな感じなのだろうか?」

 最後に一言残すだけ残して通信が切れる。


 真っ黒になった画面に返事を返しつつ、何かと心配してくれる姿から、彼女には姉と言った言葉が似あう気がした。残念ながら俺の人生に姉代わりになるような人間関係は無いので少し新鮮にも感じる。知り合いで一番そこに近いのはメロンさんだけど、あの人はどっちかと言うとお隣の若奥様感があるからなぁ。パフェ姉さん? リンゴ姉さん? ・・・はは、ないない。





 窓を閉め切り外界から遮断された時間の解らない空間で、ユウヒが数十時間ぶりの睡眠をベッドに倒れて数秒で受け入れている頃、早朝のアメリカネバダ州某所。そこでは緑色の迷彩服を着た自衛隊員達が大量の丸太が並べられた前でアメリカの軍人達に説明を行っていた。


「以上が装置の説明となります。装置の起動後は内部タンクがいっぱいになるまで稼働は止まりません。停止した物は分解などせず速やかに自衛隊へと引き渡してください」

 彼らが説明していた物は、今は休憩に入っているユウヒが作った不活性魔力吸収封印装置W型、その先行配送分である。作る度に品質が多少変わっているようだが、その使い方もカタログスペックも変わらない。変わっているのは品質と耐久性ぐらいであろう。


「引き渡せねぇ? それは日本が技術を独占したいと言う事で構わないよな?」

 作った先からアメリカに送られている装置が纏まった量になったため、実際に使うアメリカ軍に使用方法を説明していた自衛隊であるが、そんな彼らに対して鋭い視線を向けていた短髪の男性が口を開く。


「独占ですか?」

 目を顰めるような日差しから守る程度の屋根しかないテントの中で、一見文字の書かれた丸太にしか見えない装置の説明をしていた男性自衛隊員は、突然の言葉に理解が追い付かず咄嗟に問い返してしまう。日に焼けた首元を掻きながら問いかける男性の他にも、自衛隊員に対して鋭い視線を向ける者は多く、どうやらあまり歓迎されていないようだ。


「そうだろ? 俺たちに技術を渡せばいくらでも量産することが出来るのにそうさせない。どう考えても独占の意思があるとしか思えん。上で何があったか知らねぇが納得できない話だな」


「我々にそう言った考えはありません。稼働停止後の分解は非常に危険であり、万が一分解され内部にたまった不活性魔力が漏れた場合、予備の装置を使う以外自衛隊では対処できないのです」

 アメリカの陸軍に所属する男性は、装置の使い方は説明するもその内部構造や作用、また製造方法など一切説明できないとしている日本側に対して不信感が抱いていた。その辺の話はすでに彼らの手の及ばない雲の上で話し合いが終わっているのだが、どうにも彼らはそれが納得できていないと言う。


 彼らの中ではアメリカ人こそ世界で一番優秀な人種であると言うプライドが有り、そんな彼らは日本人が作ったと言う装置を自分たちが理解できないと言う事に、甚くプライドを傷つけられたようだ。そんな彼らの言い分に眉を寄せる自衛隊員の男性は、装置破損時の危険性を考えると今の様な対応しか出来ないと話す。


「おいおい、そんな不良品を俺らに掴ませるのかよ。第一見えないもん怖がっても仕方ないだろ」


「・・・お使いになりたくないと?」

 次第に険悪な雰囲気が流れ始める中、数人の軍人が動き回る姿を横目に、目の前の男性の言い分を聞いていた自衛隊員の男性は、小さく溜息を洩らし目を細めると確認する様に問いかける。


「だから俺らがもっとしっかりしたもの作ってやるから技術情報を渡せって話だよ」

 目を細める自衛隊員に対して、挑発的な笑みを浮かべる男性の言い分は一貫して情報を渡せと言うもので、その辺もすでに上で取り決められ、装置の使用方法以外の情報は渡さないと言う事で決まっていた。しかしアメリカも一枚岩ではなく、他に先んじて有用な情報を欲する者はどこにでもいる。そう言った勢力の息がかかっているのであろう男性の言い分に、自衛隊員達は怒るよりも呆れた表情を浮かべていた。


「契約外の話ですが、なるほど今回のお話はなかったことにしたいわけですね」


「おいおい、ふざけたこと言うなよ? そんなことしたらあんたらも困るんだろ?」

 何故ならこう言った問答はすでに想定されていたものであり、そう言った状況下でどう動くかもすでに彼らの中でマニュアル化されていた。


「いえ、我々はただ人道的な規範のもと動いていますので、要らないと言う相手に無理やり押し付ける気はありません。アメリカと言う国が我々の手を払い、必要としないと言うのであれば我々は即時撤収いたします。撤収準備!」


『了解!』


 そのマニュアルによると、しつこい情報提供の強要が行われ、周囲の軍人もその行いに対して何も行動を起こさなかった場合は、何も言わずに即時撤収する事。何らかの行動が見受けられる場合は、相手側の真意を探る為に敢えて大げさな行動を見せながら撤収作業を始めると言うものであった。


「ちょっとまて!? おいふざけるなよ!」

 上官なのであろう説明を行っていた男性の声に従い、周囲の自衛隊員は大きな声で返事を返して慌ただしく広げられた装置や説明書等を片付け始め、その姿に慌てた男性軍人は、目の前に置かれた大きな丸太を持っていかれないよう思わず掴む様に動く。


 そんな騒ぎの起きるテントに一人の男性が駆け込むと、事態を確認する暇なく大きく口を開き、


「ふざけているのはお前だ!」


「中隊長!?」

 腹の底から声を出し怒鳴る。どうやら彼らの上官なのか、怒鳴り声を聞いたアメリカ軍の人々は一斉に敬礼し、周囲の動きから一拍遅れながら丸太を掴んでいた男性軍人は敬礼をして見せた。


「ドリス! お前の部隊が引き継げ、説明は聞いていたな」


「はっ! いくつか説明を求めますがよろしいでしょうか?」

 よく見るとテントの中の軍人は二つのグループに分かれている様で、最前列で話を聞いて難癖をつけていた男性のグループは総じて顔色が悪く、ドリスと呼ばれた体格の良い女性軍人のグループは、敬礼をしながらその目に呆れの感情を浮かべている。


「・・・構いませんが、そう言った事はあまり好みません」


「すまない、これは私も予定外だ」

 中隊長と呼ばれた上官の男性を呼んできたのはドリスと言う女性軍人の部隊員らしく、彼女に今後の行動を引き継がせた中隊長は、じっと見詰めて来る自衛隊員に苦虫を噛みつぶした様な、しかし必死に耐えるような表情を浮かべると素直に謝罪し疲れた様に肩を竦めて見せた。


「そうですか、では実地で再度説明するので質問はその際にお願いします」


「わかりました」

 その様子から、完全に予想していなかったトラブルなのであろうと理解することにした男性自衛隊員は、いつの間にか力の入っていた肩から力を抜くと、手を上げて部下に指示を出しながらにこやかにテントの外へとドリスを誘導するのであった。


「そいつら連れていけ! 全員再教育だ!」


「・・・大変ですね」

 自衛隊員と、何故か嬉々として丸太にしか見えない装置を担いで運ぶドリスの部隊がテントから出ると、そのテントの方から再度の怒鳴り声が聞こえ、何があったのか顔を蒼くした大男たちが連れていかれている。そんな騒動の起きている背後に目を向けた若い自衛隊員は、先を歩く男性のそばに寄ると小さな声で話しかけた。


「そうだな、まぁここで持って帰ったんじゃ、俺も顔向けできんからよかったが」


「作成者にっすか?」

 先ほどまで矢面に立っていた上官の疲れた表情を見上げた若い男性は、彼の呟く言葉に少し首を傾げるも思い当たる人物を思い出し確認する様に問う。


「ああ、報告では今も寝ずに死人の様な顔で量産しているそうだ」


「・・・一般人ですよね? いんですか?」

 若い部下に目を向けた男性はコクリと頷くと、難しい表情で少し前に報告を受けた際に聞いた装置の製作者であるユウヒの様子を伝え、その状況を想像した若い男性は目を見開き不安そうに確認する。本来守るべき一般人を、自衛隊の作戦でそんなに酷使していいものなのかと。


「・・・・・・いいわけないだろ。ん? 質問ですか?」

 先行していた部下が、妙に好意的なアメリカ軍人達に設置の注意点を伝えている姿を、どこか遠い目で見つめた男性は、たっぷり時間を使うと短く部下の疑問に答え、部下は小さな声で「ですよねー」と呟き眉を寄せる。


 そんな二人の自衛隊員がユウヒの無事をいろんな理由で祈っていると、ドリスと呼ばれていた女性がどこか軽い足取りで二人に歩み寄る。


「はい、使い方は先ほどの説明で解りましたが・・・その」

 男性の問いかけに笑みを浮かべるドリスは、使用については特に問題ないと話す。元々子供でも使える様にとユウヒは作っており、ワンアクションで起動しあとは止まるまで放置するだけで、あとの説明は破損させてはいけない部分などの注意事項ばかりである。


 そんな装置である為、特に解らないことはないはずなのだが、何故か急にそわそわしだした女性は、一歩男性に近づくと小声で話し始めた。


「こ、これには日本古来のオカルトが詰まっているのでしょうか?」


「へ?」

 それまでの軍人然とした表情は崩れ、まるで恋する乙女の様な蕩けた顔で話し始めた内容に、英語を習熟しているはずの男性は一瞬何を言われたのか分からず、まるで知らない言語を聞いたかのような表情で小さく声を洩らす。


「きれいに磨かれた丸太は神殿の柱の様な風格がありますし、きっと何かそう言った力が! この黒々としたカンジにも何か意味があるのでしょうか? 何と書いてあるかわからないのが悔しいところですね。さらには起動後に柱全体に走る幾何学模様の美しさときたら・・・魔術と科学がマッチしていてもう、もう! サイコウです!」


「えっと・・・」

 そんな男性の感情になど気付かない女性は、急激にその声量を上げながら捲し立てる様に語り始め、仕舞いには用意されていた追加の装置に抱き着き感極まった様に叫び始める。その姿に思考を停止させる男性は意味のない言葉を洩らすしかないのであった。


「隊長・・・このひと、たぶんオタクっすね」


「すみません。ドリス隊長色々拗らせてまして」

 そんなドリスの姿に色々理解した若い男性は、上官に近寄ると目の前の女性がなんであるのか伝え、彼女を装置から引き剥がそうとしている黒い肌と盛上がった筋肉が厳つい黒人男性が、その体に似合わぬ困ったような笑みを浮かべ呆けた男性自衛隊員に謝罪する。


 どうやらこの女性は日本オタク、その中でもオカルトやファンタジーに属する物に対して強い興味を抱く人種の様で、その姿を見るに相当拗らせているようだ。


「あ、いえ・・・まぁそういう意味ではオカルトかもしれませんが、日本古来とかではないと思いますよ?」


「そんな事洩らしていんすか?」

 目の前で神殿の柱の様だと語られた装置に頬ずりするドリスの姿と、部下の言葉でようやく状況を理解した男性は、頭を軽く押さえて何やら色々と飲み込むと、苦笑を浮かべて女性の疑問に答える。確かにユウヒの作った装置は現代科学的な考え方で作られているところが多いが、その核となる技術はすべて魔力使用を前提としたもので、オカルトとも言えなくはない。


「洩らすも何も、俺らも内部構造何て分からん。聞いた話だと特殊な方法を用いないと解析も分解も無理だそうだ。あと・・・大臣からなんだが、自爆装置が入ってるかもしれないから俺らも分解するなってさ」


「こっわ!?」

 これらの情報は別に洩らす等と言った事柄に該当するほど正確なものではなく、噂程度の不確かな情報なので特に話したところで問題はなく、むしろ問題なのは装置の秘匿性を上げる機構も組み込んでいると、楽しそうに石木と話していたと言うユウヒの思考の方であろう。


 十中八九自爆装置が組み込まれていると考えた石木は、アメリカで使用方法のレクチャー等行う隊の隊長に対して、密かに注意を促していた。もともと粗雑に扱う気もない自衛隊員であるが、彼の言葉を聞いた瞬間皆一様に目を見開き一歩装置から後退る。


「oh! ジバク! 自爆しますか? 流石ジャパニーズテクノロジー! 素晴らしい! 是非開発者に会ってみたいものです・・・もしやヘンケイ、変形はしませんか?」

 自衛隊員が素で驚き後退る一方でドリスは逆の反応を見せ、自爆と言う日本語は知っていたようで即座に反応すると、抱き着いていた装置を絶賛しながら男性に近付きさらなる秘密はないのかと、変形はしないのかと問いながら男性に覆いかぶさるように迫る。


「・・・こ、拗らせてんな」


「こ、この部隊の連中、似たり寄ったり、みたいですよ?」

 思わず反射的にドリスの肩を押さえた男性は、キッラキラとした純粋な目で見降ろしてくる女性に苦笑いを浮かべ小さく呟く。そんな男性の耳に、背後で背中を支えている部下からの追加情報がもたらされるが、それは良い情報とは言えない内容であった。


「ヘンケイ?」「今ヘンケイ言ったか?」「マジかよ! 日本未来に生きすぎだナ!」「トランスフォームしてしゃべるのか?」「熱すぎだろ!」


「えー・・・」

 どうやらこの部隊の人間は総じて少年の様な心を持った隊員しかいないらしく、ドリスを止めに来たはずの男性もそのほかの隊員も総じて一部の日本語に対して敏感な反応を示していた。たった一言の言葉で一気に誤情報が蔓延していく周囲の状況に、背中を部下に支えられ正面でドリスからの熱い視線を受け止める男性は、脱力しながら疲れたように情けない声を洩らす。





 しかし彼は知らない、彼女達とのやり取りが遠く日本の地で眠る魔王の、妙なやる気に火を着けたことを・・・。


「は!? 変形いいな! ちょっと最後の奴弄ろうかな! ・・・いじる・・・あぁ夢か、まだまだ作らないといけないのに最後とか・・・ふふふ、寝よ」

 そして遠からぬ未来、変形する魔力吸収封印装置と言う意味不明な物体が作られると言う可能性に、小さな変動を与えたことを、誰もまだ知る由がないのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 ワールズダストシリーズ二作目も百七十話になりました。ユウヒが異世界で得た知識と力は、異世界と混ざり合う地球を救うため世界に進出し始めた様です。この先世界はどうなるのか、そして日本から飛び出すユウヒは何を引き起こすのか、どうぞお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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