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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第百六十九話 小さな部屋の巨大ドーム対策会議 後編

 修正等完了しましたので投稿させもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。



『小さな部屋の巨大ドーム対策会議 後編』


 一頻り笑った石木と嫌がるユウヒが会話の席に戻るのに十分近い時間が必要となった部屋で、女性にジト目を向けられるユウヒは小首を傾げながら石木の声に耳を傾けている。


「場所はそこで良いだろう。詳しい予定が決まったら連絡するし、アメリカはすぐ対応させる。それでロシアも解っているのか?」


「まだ絞っている段階ね。と言っても他二つより圧倒的に被害範囲は少ないと思うわ」

 アメリカの巨大ドームに関してはすでに動き出し、石木の中ではすでに予定が固まってきている様だ。そんな石木は、次なる議題としてロシアのドーム災害について問いかける。


 アメリカより先に救援の依頼があったのはロシアらしく、そちらに対する対応を急いでいる石木に、女性は他二つよりは少ない被害で済むのではないかと話す。


「なんでまた」


「ドームの内部数値から判断するに放出されるのが活性魔力だからよ、でも高濃度の活性魔力が地球の生態系にどんな影響を与えるか、長期的に反応するか短期間で大きな変化が起きるか・・・私の頭では何とも言えないわね」

 不思議そうに小首を傾げるユウヒに話す女性曰く、ロシアのドームが崩壊した際に溢れるのは不活性魔力ではなく活性魔力だと言う。不活性魔力は薄くても人体直接的な悪影響を与え。高濃度になればその被害は跳ね上がる。それに比べれば活性魔力は目に見えた悪影響は出ないと言うも、だからと言って元々魔力のない世界でどんな反応が出るかは、彼女の予想の外だと言う。


「対応策なしってか?」


「一番は、爆発後に魔性物質を視れるユウヒ君に行ってもらって、私がサポートすると言うのが安全かつ迅速なんだろうけど・・・」

 その魔力に対して迅速に対応できるのは女性自身であるが、魔力の見せる振る舞いを直接視ることの出来るユウヒの協力がなければそれも難しく、そのため安全性と迅速さを考えると、ロシアのドームにユウヒが直接接触する必要があるようだ。


 しかし、そこにはいくつか問題がある。


「ユウヒの存在がバレるか・・・・・・」

 ロシアに赴いたユウヒに直接及ぶ危険性もさることながら、各国が血眼になって探している日本のドーム専門家の正体がロシアにバレる事だ。一度洩れた情報はたちまち世界中に知れ渡る可能性があり、そのことがユウヒや日本にどのような事態を招くのか、予想できる範囲でも恐ろしい事になるのか、石木は思わず閉口してしまう。


「ふむ・・・今のロシアって気温どのくらいなんだ?」

 無言の石木の頭の中では荒れ狂う赤狐の怒りの炎が、難しい表情で眉を寄せる女性の頭の中では世界に翻弄され苦しむユウヒの姿が過っていたのだが、当の本人は貫頭衣を着てはしゃぐ妖精を見て和んでおり、小さく呟くと現在のロシアについて問いかける。


「え?」


「行ってくれるのか?」


「母さんが何て言うか分からないけど・・・寒くないよね?」

 その問いかけはどう考えてもロシア行きを了承するようなもので、彼の中で気になっている部分は、荒ぶるであろう母親よりロシアの気温の方の様だ。どうやらユウヒ、寒いのが苦手らしい。


「そ、そうね・・・今の季節なら平均で15℃前後ってところかしら? 私もよく知らないけど」


「ちょうどいいバカンスかな?」

 ロシアの気温について重ねて聞いてくるユウヒに、女性はロシアドーム周辺の平均気温を思い出しながら、自信なさげに返答する。その返答に、少し明るい表情を浮かべたユウヒは、陽炎が見える窓の外に目を向け楽しそうに頷く。


「まぁすぐ寒くなるだろうから、状況次第じゃ冬の日本ぐらいになるかもな」


「・・・」

 しかし、ロシアの季節にある程度詳しい石木の言葉にその表情を暗くする。本当に寒いのが嫌なようだ。


「どこかいくの?」


「ん? どうしようかな・・・」

 大きく背の開いた貫頭衣から出した蝙蝠羽をはためかせ、ユウヒの肩に降り立ったアホ毛妖精は、表情を曇らせ唸るユウヒにどこか行くのか問いかける。どうやら会話の内容がわかるユウヒの会話から察したようで、彼女の問いかけにユウヒはどうしようかと悩む。最悪の場合は気にせず魔法で暖をとるであろうユウヒも、出来るだけ地球での魔法使用は控えたい様だ。


 と言っても彼の箍は割と緩いので、状況次第では平気では魔法を使用するであろう。そんなユウヒは、一頻り悩んだ後、ロシア行きを承諾して予定を詰めるのであった。





 そんなロシア行きについての第一関門攻略は、その日の夕食前に行われることとなった。


「と言う事なんだよ」


「なるほどな・・・ふふふ」

 ロシアドームの危険性やその対策について説明し、どうしても行かなければならないと両親に話したユウヒに対して、勇治はなぜか納得したように頷いていたが、それ以上に想定外な反応だったのは明華である。


「ロシア美女だなんて、お母さん許さないからね!」


「なんでそうなる」

 今までの説明を無視した明華は、何を考えているのか必死な表情でロシア美女は許さないと叫び、ユウヒに全力で引かれていた。


「そうだなーユウヒ一人じゃ心配だから、父さんも着いて行ってあげようっ!?」

 一方、明後日の方向に思考が逝っていたのは明華だけではなく、勇治も同様にロシア美女を思い浮かべていたらしく、下心丸見えの表情で同伴を申し出るも、その言葉は彼の後ろに現れた明華の手・・・腕によって物理的に遮られる。


「泥棒白猫のところになんて、行かせないわよ?」


「イエス・・・まむ・・・ぐふっ」

 勇治の首を絞める明華の目からはハイライトが消え去り、先ずかに開かれた口から冷え切った声を重く吐き出す彼女の瞳には、ドロドロとした嫉妬の仄暗い光が浮かんでいた。


「泥棒猫・・・まぁいいや」

 よく見慣れた光景より五割増しに病んでる母親の表情と、数秒で意識を手放した父親の姿に、二人の話す泥棒猫と言う人物が気になった様であるが、どのみちロシアに行けば会えそうな気もするのですぐに頭を切り替え、いつもと変わらぬ覇気のない目で呆れた様に両親を見詰めるユウヒ。


「良くない! ロシアは危険なのよ! あっちに美女こっちに美女! あなたはお父さんの血を引いてるんだから何が起こるか、そうなったら、そうなったらお母さん・・・ロシアをもう一度、血で染めるしかないわ」


「怖いよ」

 そんな息子の呟きで目に生気を取り戻した明華は、二重の意味で床に落とした勇治を踏んづけながらユウヒに迫ると、彼の両肩を勢いよく掴み揺すりながらいかにロシアが恐ろしい国なのか、と言うよりロシア人女性が恐ろしいのかを説明する。しかしその説明を聞く限り、過去に勇治が何か仕出かしたことがすべての原因の様で、その時の事を思い出したのか、またもハイライトの消えた仄暗い瞳でぼそりとつぶやく明華。


「そう怖いのよ! ユウちゃん正気を取り戻して!」


「うぅうぅん・・・」

 彼女の瞳の暗さに怖いと呟きながらも、呆れた視線を明華に注ぎ続けるユウヒは、すぐに勢いを取り戻した明華によって再度前後に揺さぶられながら、どう言い包めるか考え唸る。


「でも、巨大ドームは何とかしないと被害が大きそうだし。最悪家族にも影響するかもしれない。特にロシアは俺が行かないと他に対応できる人がいないよ。出来ることをやらないで知り合いが傷つくのは、もう嫌だよ俺」


「ユウちゃんっ、でもぉ・・・・・・そうだ! ちょっと待ってて♪」


「へ?」

 明華の揺さぶりが落ち着いてきたのを見計らい、両肩に載せられた手を取ったユウヒは、真剣な表情で明華を見詰めてロシア行きを承諾してもらうよう説得を始める。ユウヒに手を取られ一瞬抵抗を見せようとした明華であるが、真剣な息子の表情に目を見開くと、いつもは見せないユウヒの鋭い視線に頬を赤く染めた。


 確実に勇治の血を引いているユウヒは、普段こそ覇気の無い目をしているが、一度ひとたび表情を引き締めれば父親譲りの女心を掴む色男顔になる。そんな滅多に見せない真剣な表情の息子に見詰められたならば、明華に抵抗する手段など有るわけもなく。乙女の様に頬を染めた明華は、最後の抵抗とばかりユウヒの手から逃れるとスマホを手にどこかへ消えていった。


「あ、あの笑みは・・・」


「あ、生きてた」

 恋する女と慈愛に満ちた母を合わせた様な表情で消えた明華に、ユウヒが小首を傾げていると、床から顔を上げた勇治が苦しそうに話し始める。その姿に目を見開いたユウヒは、起き上がる父の、小さめの足形が付いた背中を擦りながら彼の顔を覗き込む。


「あれは、何かやるときの・・・やらかす時の、顔・・・」

 蒼い顔で上半身を起き上がらせる勇治は、何かを伝える様にユウヒの手を握り話し始めるも、最後まで言い切ったのかそれとも続きがあるのか解らないとこで意識を手放す。ただ分かったことは、今から明華が何か仕出かすことだけであり、またユウヒにそれを止める手立ては残されてなさそうだと言う事だけであった。





 ユウヒがすべてを運命に託し明華を止めることを諦め、瀕死の勇治を寝室に引き摺って行った翌日、某所政府関連施設内の会議室。


「外務大臣も寝耳に水か・・・石木さん、何か聞いてた?」

 スーツをきっちり着た数人の男性が集まる場所で、日本国総理大臣の発言と共に石木へと視線が集まっていた。


「・・・・・・赤狐が暴走したなこりゃ」


「彼女ですか・・・」

 何かの資料に視線を落としていた石木は総理の質問にしばし熟考すると、長めの鼻息を漏らして肩を落としながら口を開き、赤狐こと明華が暴走したのだろうと謎の確信をもって答える。石木の言葉に対する反応の半分は呆れと理解、もう半分は頭の痛そうな反応で、総理の反応は前者であった。


「あれで英雄ですから、彼も頭が上がらないところがあるのでしょうか」


「そんなんじゃないと思うけどなぁ・・・まぁ向こうからそれだけ譲歩してきたってことは良い事なのか、信用も信頼も出来ないけどな」

 どうやら明華は英雄と呼ばれるだけの功績を残した人間であるらしく、そんな彼女は昨日何者かに電話をしたらしく、今現在では政府組織の中枢にまで彼女の暴走の影響が及んでいる様だ。


「それがロシアとの正しい付き合い方でしょう。守りの方はどうなんです?」

 明華が手を打ち動かされた人物とは、どうやらロシア連邦の人間であり、さらには政府に直接コンタクトをとれる人物、と言うより現ロシア大統領である。一目で曲者と分かる様な現大統領の姿を思い出す一同は、総理の言葉に小さく同意するような表情を浮かべる。


 全員の心が一致するほどの人物を動かす明華に、言葉に出来ない恐れを抱く総理は、その息子にも相当配慮が必要だと思っており、彼をロシアに派遣するための守りについて、石木へと視線を向けながら問う。


「自重しなけりゃ夕陽は歩く・・・武器庫だ。その武器庫を使用させないための守りとなりゃ精鋭が必要だろうなぁ・・・でも」


「でも?」

 しかし、その心配はユウヒへの直接的な攻撃に対する守りではなく、石木曰く歩く武器庫と言わしめるユウヒが、何らかの事態により暴走しないかと言った話である。ドーム関連以外でユウヒが動く必要の無いように自衛隊の精鋭を派遣するつもりで居る石木だが、それでも不安があるらしい。


「非現実の連続で精神をおかしくしないだろうか?」

 それは派遣した自衛隊員の精神的ダメージについてである。屈強な戦士とは言え、未知との遭遇に弱い面があるのは人として致し方ないことで、ましてや石木にとってユウヒは歩く武器庫などと言う可愛いものではなく、歩く戦略核だと思っているのだ。


「うーむ」

 まだまだ色々隠しているユウヒが、空飛ぶ戦略核搭載空母に進化しないとも言えない今回の派遣に、石木だけでなくその場にいる人間たちは一様に不安な表情を浮かべている。


「ん? ・・・もしもし、おう、おう、は? 無料でってなんで知ってんだよ、え? 赤狐から連絡って機密だからな? 解ってる? え? いや無駄なのはわかるけど、お前らのボスなんだから何とかしてくれよ・・・まぁ死ぬな」

 重苦しい沈黙が流れる事数分後、突然石木のスーツからどこか古めかしいアニメソングが流れ始めた。それは彼のスマホの着信音の様で、特に気にした様子もなくスマホを取り出した石木は、画面に映し出された人物の名前に珍妙な表情を浮かべると、いつもより低い声で話し始める。


「誰でしょうか?」


「あの傭兵団関係者でしょう」

 驚き、呆れ、疲れ、肩を落とす石木の姿に小首を傾げる男性に、総理は苦笑を浮かべながら傭兵団関係者であろうと言う。どうやらこの場に居合わせる人物の大半は明華達の事を知っているらしく、苦笑いを浮かべる彼らに、知らぬ者たちは首を傾げるばかりである。


「は? 白猫にも連絡済み? 乗り気ってそれ絶対赤狐怒るだろ、意趣返し? 骨は拾ってやるよ・・・はぁ」

 周囲から視線が集まる中、何やら不穏な事を話す石木は、電話を切ると疲れた様子で盛大に溜息を吐く。


「だれからですか?」


「・・・中国に居たはずのバイがいつの間にか日本に来てる。ユウヒの護衛は無料で引き受けるってさ」

 一瞬で4、5歳歳を取ったように背中を丸めた石木に、総理は労う様な笑みを浮かべ誰からであったんか問う。労いの視線を受けた石木は頭を掻きながら背中を伸ばすと、ロシアに行くユウヒの護衛を無料で引き受けると言う電話を、バイなる人物から受け一方的に決定してきたと話す。


「だれです?」


「傭兵団の人間ですがしかし・・・うぅん、あれが無料は怖いですね」

 人物名らしきものが出ただけで周囲に苦笑いが溢れる中、状況が飲み込めない男性の疑問に副総理は傭兵団の人間だと言い困ったように唸る。


「旅費くらい出してやるさ、監視の一個中隊付きでな」


「多すぎでしょ・・・」

 そんな唸るよな声に、石木はどこか投げやりで獰猛な笑みを浮かべると、ユウヒの護衛とバイと言う人物の監視に一個中隊付けると言う。


「解ってるよ・・・そうだな、そっちはついででユウヒの護衛に二小隊は必要か」

 しかしそれは半分冗談だったようで、一気に力を抜いてソファーの背に身を預けた石木は、真剣な表情で二個小隊をユウヒの護衛及び、ロシアで活動する上での支援部隊として用意すると話す。


「一人の護衛にそれだけ必要ですか・・・」


「そらな? ほかにも仕事はあるし・・・しかしこれでユウヒの存在がロシアにも知れたか」

 最大百人程度の人員を一人のために用意すると言うのは、確かに一見大げさの様にも聞こえるが、石木の計算ではそれでも不安があるようで、それが先ほどの中隊発言にも表れている。


「まぁ赤狐の息子と分かれば下手に手を出すこともないんじゃないですかね?」


「何とも言えんが、万が一の場合は夕陽にも自重解除オールウェポンズフリーを許可しないとな・・・進化しなけりゃいいが」

 国外にユウヒの存在が知れることを嫌がっていた石木の呟きに、副総理は苦笑を漏らすも、何が起きるか、何をやるかわからない相手と言うのは国内外問わずどこにでもいるのだ。それ故に注意しすぎることは悪い事ではない、そんな考えでいっぱいの石木は、飄々とした雰囲気で事態を解決に導くユウヒの姿を思い出すと、最終判断は彼に任せることにした様だ。





 一方、空飛ぶ核搭載空母への進化と言う事態を石木に恐れられているユウヒはと言うと、夕食の席で今日決まったことを流華に話していた。


「ろ、ロシア!?」

 一通りの説明を受けた流華は驚きの声を上げ、その声にテーブルの上の妖精は驚き、ハチミツラスクを手に跳び上がる。


「まぁすぐじゃないけど、ちゃんと帰ってくるから心配するな」


「でも・・・」


「俺は流華の方が心配なんだが? もう無茶すんなよ?」


「・・・むぅ」

 異世界から戻ってきても忙しく動き回る兄、しかしそれでも家に帰ればちゃんと会える事に安心していた流華は、二三日ならまだしも長期出張と言う名のロシア派遣には不安そうな表情を浮かべた。しかし、ユウヒにとっては自分の事よりも、思い詰めたら何をやりだすかわからない流華の方が心配なようで、そんなユウヒの言葉と視線に流華は申し訳なさと気恥ずかしさ、さらに不満の混ざった顔で口を窄め唸る。


「恩人の妹なら恩人も一緒だよ、私たちが守ってあげる」


「まかせる。防御と逃走には定評がある」

 納得のいかない表情を浮かべる流華の隣に飛び上がった栗色の瞳の妖精、彼女の名前はマルーンと言い、ユウヒに次いで優しい流華を気に入ったらしく、ユウヒがいない間は彼女を守ると元気よく話すと、手に持っていたラスクの欠片を一口で頬張り胸を張る。


 一方ユウヒの耳元で、自信満々で静かに話すアホ毛妖精は、名前をアーフと言う。彼女たちは守りと逃走に定評があるらしく、それは中国の内陸から日本まで渡って来られたことからも確かであった。


「目当ては果物だな? それともラスクが気に入ったか?」

 コクコクと頷く妖精たちに笑みを浮かべたユウヒが、少しから揶揄い気味に目当ては何だと問いかけると、二人はびくりと体を震わせる。


「・・・だって、勝手に持って行ったらダメなんでしょ?」


「お部屋で読んだ書物に、捕まったら白い服着た人間に酷い事されると描いてあった。この世界とても怖い・・・」

 ユウヒの視線に、少し恥ずかしそうに白い肌を朱に染める二人は、この国では勝手に食べ物を持って行ったら捕まってひどい目に合うのだろうと、確認するような上目遣いをユウヒに向けていた。


「そんなことは、無いと思うけど・・・」

 そんな二人に苦笑いを漏らすユウヒであるが、


「・・・あるわね」


「ありえるなぁ・・・」


「えー・・・」

 彼女たちの予想は何かを思い浮かべた明華に肯定され、勇治もその意見に同調すると何とも言えない表情を浮かべ、そんな二人が揶揄うつもりで言っているのではないと分かったユウヒは、物騒な世の中に嫌そうな声を洩らす。


「やっぱり。ルカ守る、そして私も守られる。完璧ね! ね?」


「そ、そうかな・・・(・・・かわいい)」

 三人の会話に少し顔を蒼くしたマルーンは体を小さく震わせると、共生関係の重要性を主張し、自信にあふれた笑みで流華を見上げる。


「それにこのペンダントと腕輪のお礼もある。魔力いっぱいで不自由なくお話しできるのは素晴らしい」

 マルーンの笑みが流華の心を掴んでいる一方、アーフはユウヒの肩に腰を下ろすと、両手首に身につけられた華奢な見た目のバンクルを揺らして見せながら、心底嬉しそうにユウヒを見上げ微笑む。


「力作だからな、アップデートも考えているが、それはゆっくりできるようになってからだな」

 肩に座り身を乗り出す様に見上げてくるアーフ、そんな彼女のブレスレットと首元で揺れるペンダントに目を向けたユウヒは、右目を僅かに瞬かせると満足げに頷く。しかしまだ納得は出来ていないらしく、改良することはすでに決定事項であるらしい。


「・・・(原理は解らないけど、誤差の無い無制限翻訳って・・・ユウちゃんったらさらっと戦略物資とか作るから恐ろしいわね。あとなんだか嫌な予感するし、やっぱりロシア行きは失敗だったかしら)」

 ユウヒの肩の上で上機嫌に体を揺らすアーフ、彼女の身に着けたユウヒ謹製の魔法具に目を向けた明華は無言で目を細める。ユウヒの作りだした魔法具の効果がどれほど危険で重要なものか解る明華は、その生産速度と作った本人のお気楽具合に呆れると、胸に残る不安に押し出される溜息を静かに漏らす。


「・・・」

 そんな彼女の隣では、明華が手に持ったご飯茶碗と箸に目を向けた勇治が顔を蒼くしている。なぜなら、彼女が手に持った茶碗は今にも砕かれそうな軋み音を上げており、箸はすでにひびが入り始めていたからだ。妖精に対して無意識に嫉妬している妻の姿に、勇治が明日の睡眠不足を覚悟する中、ユウヒのロシア行きが決定した天野家はゆっくりとした時間を過ごすのであった。



 いかがでしたでしょうか?


 どうやらユウヒが世界進出を始める様です。まだ時間はありそうですが、ユウヒと言う特殊な人間の存在が各国に知れ渡り始める様で、彼の影響はどういった形で出てくるのか、この先もお楽しみに。


 それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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