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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第一章 救出と救済

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第十六話 探す人と探される人

 どうもHekutoです。


 チェック完了しましたので投稿させて頂きます。楽しんで頂ければ幸いです。



『探す人と探される人』


 人の手の入らぬ森の奥、ぽつぽつと開けた場所の傾斜からそこが山で有る事が分かる場所では、一人の男が鼻を指で擦りながら片手に持った枝木を倒木に立て掛けている。


「・・・さてと、捜索を開始する前に確認はしとくか」

 その男とは、日本で黒色特異点、通称『ドーム』と呼ばれる場所に足を踏み入れたユウヒであり、どこかの忍者の噂で軽く出鼻を挫かれた彼は、いつも通りのやる気を感じ取れない表情で腰に手を当て、やはりいつもと変わらない独り言を零していた。


「先ずは右目の調子はっと・・・うむ、いつも通りだな、そういえば地球ではあまり使ってなかったなこれ・・・今度何か調べてみようか」

 独り言をつぶやくユウヒは、ドームに入って早々何かしらの脅威に襲われる事の無かった事にホッとしつつ、自らの異能がこの世界でも有効なのかチェックを始める。


「んーおっとと、多すぎ多すぎ・・・空気は地球の割合とあまり変わらないかな?」

 彼の手に入れた異能の一つである金色に輝く右目は、物の本質を見抜き解析することが出来るのだが、本気で使うと情報量が多すぎる為、日ごろから程々に、かつプライバシーには極力配慮しながら使用していた。


 そんな右目は彼の意志に反応して周囲の空気を解析し始め、結果は直ぐにユウヒの視界に割と大量の文字で現れ、周囲に満たされた空気が人の生命を適切に維持するのに、特に問題の無い成分で構成されている事をユウヒに伝える。


「続いて魔力は・・・あるな、詳しくはあとでいいけど心なしか薄いのかな? まぁ地球よりましか」

 さらに空気中の成分を詳しく探ると、その中に魔力と呼ばれる魔法を発動させるために必要なエネルギーも存在することが分かり、ユウヒは満足そうに頷く。しかしその全体量が以前冒険した世界よりも希薄に感じたのか首を傾げ、だがまったく魔力の存在を確認できなかった地球よりはマシだと頷き、自己完結する。


「ではネットで調べた時から気になっていたあれはどうなっているのか・・・水よすべてを映しだせ【水鏡】」

 右目の調子と魔法の元を確認したユウヒは、どこかそわそわとした感情が洩れ出しはじめた顔を引き締めると、自らの妄想を具現化する為のキーワードを口にし、手を翳した先に水で出来た薄い円盤を出現させた。


「これは・・・」

 この魔法はその名の通り水で出来たか鏡で、光の屈折を利用して綺麗に対象を映し出す。森の中で展開すると境界の曖昧な鏡は迷彩の様に森に溶け込むが、今はユウヒをしっかり写し取っており、その自らの姿にユウヒは思わず感慨深げな声を洩らした。


「おお、おおお! どっからどう見ても初期装備のクロモリジャージ! 本当だったのか・・・」

 だがこの声は別に初めて使う魔法が成功した事による声では無く、自らの姿に洩らした声だが彼がナルシストと言うわけでもない。


 主な原因は、ユウヒが今現在着ているドームに入る前とは明らかに違う服装にある。


「胸の黒い三本杉マークと、モスグリーンの生地を大きくななめに切るように入った黒のライン」

 ドームに入る前は涼しげな地味目のシャツにジーパンと言ういつもの恰好であったユウヒの姿は、ドームを通り過ぎてから全く違う、上下ともにジャージ姿へと変わっていた。割とどこにでもありそうな緑色のジャージ姿に変わったユウヒは、胸に描かれた黒い三本杉のロゴを撫でると嬉しそうに微笑む。


「学校ジャージによく有りそうなカラーリングだけど、意外とカッコイイと定評のあったこれを着る事になるとは・・・悪くないな!」

 そう、この姿こそネットで騒がれていた一部の人間だけが裸にならず着用出来ると言う服であり、同時にクロモリオンラインのプレイヤー初期装備である、通称クロモリジャージである。


 割と人気があったものの公式に売り出されることは無く、コスプレイヤーの自作位しかなかったクロモリジャージ、このジャージを実際に着てみたかったユウヒにとっては、これだけでもドームに入った甲斐があると言うものであった。


「まぁ・・・これでクロモリとドームに何らかの関連性がある事は、確定なんだろうなぁ」

 しかし同時に、クロモリオンラインと言うゲームと、ドームと言う異常事態に関連性が現れてしまい、手放しで喜ぶ心に水を差されたユウヒは、眉を寄せると腕を組んで悩まし気な表情を浮かべる。


「サーバービルはあの日テロが起きた後ドームに飲み込まれたらしいし、開発者も行方不明らしいし」

 かと言って、当のクロモリオンラインは急にサービスを停止し、その原因はサーバービルがテロリストの攻撃を受けた事により、重要施設が破壊されたからであった。さらにその重要施設も本社ビルもドームに飲み込まれており、いまさら調べようのない事である。


「何が起きてんだろうなぁ」

 流華の足取り調査のついでに調べた情報を反芻しながら首を傾げるユウヒは、妙に引っ掛かりを感じながらも、ついついその視線は水鏡に吸い寄せられて行く。


「・・・うむ、みんながリアルクロモリと喜ぶのもわかるな、ふふふ」

 そして思わず口元を緩めると、水鏡に映る自分の姿に笑みを浮かべてしまう。


「おっといけね、はしゃぎすぎちまった。早く流華を探してやんないと」

 しかしそんな自分の緩み切った表情を見たユウヒは、気を取り直すと顔を掌で軽くたたいて水鏡を解除し、


「おや? これは・・・」

 漸く出発すると見せかけて、今度は自生する異世界の植物に、その金色の目を奪われるのだった。





 ユウヒが気を取り直した先から別の事に気を奪われている頃、ユウヒを探すつもりが探されているなど知りもしない流華達はと言うと、森の開けた場所で倒木に無言で腰を掛け休憩していた。


「く、空腹がこんなにつらいなんて・・・」

 彼女達は真面に食事も摂れて居ないのか元気が無く、特にパフェはそのピンク色のジャージ越しにでもわかる健康的にくびれたお腹を押さえながら、目を瞑り驚きと悲壮に染まった声を洩らしている。


「あぁまぁ・・・パフェってお嬢様だもんね。初体験? だろうし、そりゃ辛いわぁね」


「・・・お腹が空く体験をしたことないって、すごいですね」

 そんなパフェを横目で見詰めていたリンゴは、苦笑を洩らしながらも仕方なさ気に首を振り、彼女の言葉を聞いた流華は、疲れの見える顔に何とも言えない驚きの表情を浮かべると、妙な感心の感情が湧き出る感覚を覚えるのであった。


「うな!? わ、私だって小腹が空くことはあるぞ!? しかしだな、こう何日も真面な食事が出来ないことが今まで無かっただけで・・・・・・その、そんなに特別おかしい、のか?」

 リンゴと流華の言葉が耳に入って来たパフェは、慌てて悲壮な表情を引っ込めて無理矢理に表情を引き締めると、流華達に向かって弁明を始めるも、空腹による気力の減衰と自分の過去に否定する材料や経験が見当たらないことで、言葉が次第に小さくなっていく。


「ルカちゃん、あれが正真正銘のお嬢様の生態と言うものよ、覚えておきなさいね? テストには出ないけど」


「・・・すごいです」

 そう、彼女は正真正銘の御嬢様であり、これまでの人生において極度の空腹を感じる様な経験など、ただの一度も無いのである。


「そうねぇ・・・私もダイエットとかしたことないし、断食って結構きついのねぇ」


「え? 何ておっしゃったのかしらメロンさん、あれかしら? 喧嘩売ってますの? 買うよ? 買っちゃうよ? ね? ね? ねぇ!」

 一方、メロンはとある北国の農家出身で、金銭面では一般家庭とさして変わらぬものの、こと食べ物に関しては困ることなど一度も無く、また家の手伝いで体を動かすことが日常となっていたことも有り、良く食べよく働き、田舎なので早寝早起きと健康的な青春時代を過ごしていた。


「あぁん! 止めてよリンゴちゃん!」

 その結果、体質も関係あるのかも知れないが、現在リンゴの手によって揉みしだかれている巨大な女性の象徴を生み出したのである。


「・・・・・・ダイエットしないから? そうなの?」

 一方、目の色が濁ったリンゴに揉まれ、自在に形を変えるたわわな果実メロンに目を奪われた流華は、その瞳を黒々とした絶望色に染めると、自らの胸にそっと両手を当てがい、空腹の事など忘れたかのようにボソボソと自問自答するように呟き続けた。


「・・・? ・・・おなかすいたよユウヒ」

 そんな三人の様子に、今一つ理解を示せない表情を浮かべたパフェは、お腹に初めて感じる耐えようも無い虚構感の波に思わず背中を丸めると、三人から目を放して一人小さく呟くのだった。





 一方その頃、彼女たちを救出する為にたった一人でドームに飛び込んだユウヒはと言うと、


「ほう、この茸には体の新陳代謝を強化する効果があるのか・・・でもこれは普通に使っても効果強すぎだな」

 名も知らぬ異世界の地に自生する植物たちに目を奪われ、未だに白い光る壁の近くで足を止めている。


「なんだこの半透明なゲル・・・スライムって脱皮するのか、知らなかった。ほうこれは、すごいな・・・持って帰ったら医学界にマグニチュード10レベルの激震が走りそうだけど・・・魔力が必要となると、うぅむ」

 元々知識欲が多い方であるユウヒは、右目で調べれば調べるほどに自分の中の常識が崩れて行き、その新発見の多さに歓喜するのであった。


 彼の感がまだ時間的猶予がある事を感じさせている事も、彼が足を止めている要因の一つになっているのだが、ルカは無事救出されるのであろうか・・・。そして無事救出されたとして、ユウヒの友でありギルドメンバーである人物たちは、いろんな意味で無事に帰れるのか今はまだ誰にもわからない。


「おお! こっちにも抜け殻が! ここで合成していくか、いやしかし流石に魔力は温存しないと・・・」


 ・・・少なくとも、今の彼の姿を見れば誰もが救出の成功に不安しか感じないことは、明らかである。



 いかがでしたでしょうか?


 文章量はちょい少なめでしたが、ようやくドーム内部の話が始まりそうですね、まぁいきなり立ち止まる我らが主人公なのですが・・・。


 それでは、また次回もここでお会い出来る事を願って、さようならー

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