第百六十七話 変わりゆく世界
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂ければ幸いです。
『変わりゆく世界』
Tシャツに薄手のシャツと言うラフな格好のユウヒが、そのシャツの陰に妖精を隠しながら青果店でおすすめの逸品を購入してから数十分、帰る途中思わず自然体で冷風の魔法を使ってしまったユウヒは、自宅の玄関ホールで明華を前に簡単に何があったか説明していた。
「と言うわけなんだ」
何故か勇治に後ろから襟首を握られている明華に、一通り説明を終えたユウヒの頭の後ろには、小さな妖精が二人、その蝙蝠の様な黒い羽を小刻みに揺らしている。
「・・・・・・そんな、ユウちゃんが女を、しかもこんな小さな子を連れてくるなんて」
「いやいや、そういう範疇超えてるだろ」
苦笑いを浮かべたユウヒの説明を一通り聞き終えた明華は、突然がくりと膝から崩れ落ちた。どうやらユウヒが女を連れてきて、しかもその人物が小さな女の子と言う事に多大なショックを受けている様だが、勇治の突込み通りすでにそういう話の範疇ではない。
「大体予想してたけど、母さんも難儀だよね? てか話聞いてた?」
「おま、他人事みたいに・・・」
実はユウヒが説明をする前にも一騒動起こっており、機嫌よくユウヒの帰宅を迎えた明華は、ユウヒの腕に捕まりながら視線を向けてくる少女を認識した瞬間、なぜか用意していた包丁を手にして殺気を撒き散らしていた。
そんな明華の行動に、こちらもなぜか事前に用意していた魔法【大楯】で振りかぶった包丁を受け止めたユウヒ。勘と勘のぶつかり合いに恐怖した妖精たちはユウヒの頭の後ろに身を隠し、勇治は突然の殺気に慌ててリビングから飛び出し、即座に状況を理解すると明華の首根っこを掴み確保したのである。
「母さんだって人助けは大事って言ってたじゃん? 人助け人助け」
ユウヒもまさか大楯さんが僅かとは言え包丁に貫通されるとは思っておらず、若干の驚きはあったものの、特に怪我もなかったので気にしてないようだ。そんなユウヒの言葉に、垂れ下がった前髪の奥で暗く淀んだ瞳を浮かべていた明華は、ゆっくりと立ち上がる。
「・・・ぐすん、しょうがないわね。助けた方がいい気もするし、でもしっかり面倒見るのよ? 生き物を飼うのは大変な事なんだから」
「犬猫扱いって・・・」
よろよろと立ち上がり鼻を啜る明華は、自分の感情とは別に小さな二人の妖精を助けた方が良いと言う勘に、渋々、それはもう本当に嫌そうにつぶやくと、まるで拾ってきた犬や猫について話す様にユウヒを諭す。
「ハニーの妥協点なんだろ、ほらちゃんと立って立って」
それは小さな生き物や未知の生物だからではない、犬猫の様に扱うことで、相手が人間と情を交わせる程度に知的な女性ではないと、自分の感情を誤魔化すための、明華なりの妥協点なのである。
「・・・だっこ」
「はいはい」
そのことを正確に察している勇治の言葉に、明華は頬を膨らませるとしな垂れかかると言うよりは、頭突きをするように勇治の胸に飛び込み、そのまま子供の様に抱き上げることを要求する。
「そんなにショックか?」
勇治の首に抱き着くと、そのままお姫様の様に抱えられる明華。その姿から彼女の精神的ダメージの程度を理解したユウヒは、そこまで大きなダメージを食らう様な事かと首を傾げるのだった。
「だいじょうぶ?」
「きけんない?」
「大丈夫だろ?」
ユウヒが首を傾げたことで、その後ろに隠れていた妖精たちは自然とユウヒの後頭部から離れ、言葉の解らぬ相手からの殺気から解放されたのを確認して、ユウヒに安全を確認する。魔力切れで倒れていた時よりも顔の蒼い妖精に苦笑を漏らすユウヒに、まだ不安なのか妖精たちはユウヒの肩から離れようとはしない。
「こわかった」
「うん」
明華への説明を終えたユウヒは、小さくおじさん臭い声を漏らしながら上がり框に足をかけると、耳元から聞こえてくる声に困ったような笑みを浮かべる。彼女たちの会話は、昔から明華が絡んだ友人関係、主に女性の口からよく聞かれた言葉と全く同じであったからだ。
「だいじょうぶだよ、万が一何かあったら流石に怒るしね」
「ぎく」
「くっく、流石ハニーと俺の息子だな」
昔からユウヒに近づく女性を掃っていた明華、あまりにひどいと流石のユウヒも怒っていたらしく、今回も万が一の為に様子を窺う明華に釘を刺すユウヒ。ちらりと視線を向けて来たユウヒに、びくりと肩を震わせわざとらしく呟く明華と、くつくつと笑う勇治。
「うー、変なことしちゃだめよ!」
「なにをどうするというのですか? お母さま?」
笑う勇治に頬を膨らませ顔を赤くした明華は、愛する夫の両頬を摘み引き伸ばすと、そのままユウヒに視線を向けて怒ったように注意する。そんな明華による謎の注意に、彼女が何を考えているのか理解したユウヒは、呆れかえって単調になる声でその真意を問い掛けざるを得なかった。
「・・・きゃっ! そんな事母親に言わせようだなんて大胆! でもユウちゃんがどうしてもっていうならお母さんが実技で「寝言は寝てる時だけにしてくれー」・・・ねぇダーリン」
しかし、その問いかけに返ってきたのは、僅かな沈黙とその後すぐに顔を別の意味で赤くした明華の妄想過多な妄言であった。彼女がその妄言を言い切る前にツッコミを入れたユウヒは、押し黙た明華に目を向けることなく、二階へ上がる階段を買い物袋片手に疲れた足取りで登っていく。
「ん? 冷たくはないだろ」
そんなユウヒの背中をじっと見つめていた明華の呼びかけに、またユウヒが冷たいと言った内容であろうと想像した勇治は、明華に目を向けながら肩を竦め苦笑する。
「・・・私って寝言で変な事言ってる?」
「・・・・・・」
しかし、お姫様抱っこされながらじっと真剣な表情で勇治の目を見詰めた明華の問いは、彼が想定したものとは違い、その問いに表情を引きつらせた勇治は、とてもゆっくりとした動きで視線を逸らすと、そのままそっと明華を床に降ろす。
「え、ええ!? ちょっとダーリン!」
「ナンノコトダロウナー」
いつも以上に優しく丁寧に降ろされた明華は、まったく視線を合わせずに立ち去ろうとする勇治を慌てて追いかけ、返ってくる妙なイントネーションの声に目を白黒させる。
「ダーリンったらー!」
明らかに何か隠しており、そのことを話す気がないと言う勇治の意思を感じ取った明華は、彼の服を引っ張りながらそのまま引きずられるようにその場を後にするのであった。
男同士の秘密を守る父の姿に一瞬だけ感動したユウヒは、父の背中に不安を感じながら自室に戻っていた。
「適当に寛いでいてくれ」
部屋に置かれた小さなローテーブルに荷物を置いたユウヒは、小さなお客二人に声をかけるも、彼が話しかけるよりも早く彼女たちは背中の羽を揺らし、部屋の中を飛び回り興味深げに見まわしている。
「お外もすごい変だったけど、家の中もなんだかよくわからないわ」
「まるで古代の遺跡が蘇ったみたいだ」
部屋に入るなりすぐにエアコンのスイッチを入れたユウヒは、色々な荷物を乱雑に置いた棚からバッグを取り出し何かを探し始め、そんなユウヒを気にすることなく妖精たちは部屋を飛び回り、興味深そうに様々な物を小さな指先で突いて廻っていた。
「遺跡ね? 少し興味があるな」
「山にいくつもあるのよ」
「いつも探検しているんだ」
いくつかの袋から、何やらよくわからない石やら木を取り出しお菓子の箱に入れていくユウヒは、彼女たちの遺跡と言う言葉に反応し目を細める。ユウヒの反応に嬉し気な笑みを浮かべる二人は、とても楽しそうに思い出を語り始めた。
「そうなのか・・・ふむ、何もなければいいが」
山にいくつもあり、その日その日で探検する遺跡を変え、中には今も機能が生きている遺跡やよくわからないけど動く遺跡もあるなど、二人は本当に楽しそうに話す。そんな内容に耳を傾けていたユウヒは、興味深げな目を微笑ましそうに細めるも、小さくぼそりと不安になる言葉を呟く。
「このお部屋は魔力がいっぱいあるんだね」
一通り話し終えて満足した妖精たちが探検を再開する中、ユウヒは床に布を引きそこへ箱に入れて運んできた石や木に金属と言った物を並べていく。そんなユウヒの前にふわりと降り立った銀の瞳の妖精は、外とは違い濃い魔力のある部屋の様子が気になりユウヒに声をかける。
「ん? あぁいろいろやったからな、今からやるのはその魔力を活性、精製する装置の試作だよ」
「魔力のせいせい?」
ユウヒの部屋には、現在異世界とまでは行かずも地球上でもっとも活性魔力に満ちた場所の一つとなっていた。その理由は、自室に居るちょっとした時間でも、ユウヒが思いつきに任せていろいろな物を作った結果である。
異世界以外ではあまり合成魔法を使わないユウヒも、自室ではその箍が外れ、周囲に余剰魔力を振りまきながら実に様々なものを試作しているのだ。
「今世界中に不活性魔力が広がっているからね、その魔力を活性化させれば君らも干からびずに済むってわけだ。あとは吸収しやすく調整出来ればと思ってね」
そんな余剰魔力が滞留する部屋で新たに作るのは、部屋の魔力のおかげで体調の良くなってきた妖精たちの道具であり、それは現状魔力回復の手立てがない彼女たちにとって生命維持装置とも言えるものである。
「悪い魔力を良い魔力にするのね! すごいことだわ!」
ユウヒの説明で何を作るのか理解した栗色の瞳の少女は、ユウヒの前に着地すると、すごいと言いながら背中まである薄汚れた白い髪揺らし、飛び跳ねる様に体全体で感情を表す。
「そう言う道具とか植物は無かったのか?」
「無いわよ」
銀の瞳の少女と手を取り踊る彼女は、不思議そうなユウヒの問いかけに対して率直に答える。どうやら思い当たる節すらないようで、二人の妖精はユウヒの問いかけ直すような視線にコクコクと頷く。
「魔力は山のドラゴンが作ってたよ」
「ほう・・・」
それなら彼女たちが生きるために必要な魔力はどこから来ていたのか、そう疑問に思ったユウヒに答えを与えたのは、アホ毛を揺らす少女の一言であった。
「ドラゴンが気持ち悪い魔力を食べてくれるのよ、そしたら良い魔力が生まれるの!」
「でもつい最近寝込んじゃって・・・食べ過ぎたんだって」
彼女曰く、山には大きなドラゴンが住んでおり、そのドラゴンが悪い魔力を食べて良い魔力を作っていたと言う。しかしそのドラゴンは最近寝込んでしまい姿を現さなくなったようだ。
「悪い物食べ過ぎておなか痛くなったのね」
「ふぅん・・・・・・お、そう言えばこれ出してなかったな、食っていいぞ」
悪いものを食べすぎておなかが痛くなったのだろうと、少し心配そうに話す少女を見詰めていたユウヒは、興味深げに目を細めると、テーブルの上に飛び上がり座ったアホ毛少女にも目を向ける。そんな彼女の羽が作り出す風に揺れた買い物袋に気が付いたユウヒは、彼女たちの為に買ってきた果物について思い出す。
「い、いいの?」
「すごくおいしそうだ・・・」
精霊などと違い、肉体を持つ彼女たちは人の目にも映る。そのため彼女たちを服で隠しながら青果店で買い物をしたユウヒは、彼女たちの意見を聞くことが出来ない状態で果物を選んでいた。彼女たちの好みに合うか少し心配していたユウヒであるが、その心配は杞憂であったようで、桐箱を開けたユウヒの手元に飛び上がった二人は目をキラキラと輝かせ、口元を涎で濡らす。
「なんだっけ、桜錦? 紅祥鳳? 何か違うがまぁいいや、けっこう高いサクランボだからな」
15㎝四方の木箱の中いっぱいに入っているのは、鮮やかな赤色をしたサクランボで、一般的なサクランボより大きく、見ただけで瑞々しさと張りがあるのがわかる。
「これは・・・ふむ、全然連絡ないなぁ」
明らかに諭吉さんが数人必要になりそうな桐箱入りのサクランボをテーブルに置いたユウヒは、妖精たちがじりじりとサクランボへにじり寄る姿に笑みを浮かべながら、荷物置きから少し汚れた肩掛けバッグを取り出すと、その中に入っていたカードを手に取り僅かに眉を寄せた。
「うまうまうまうま!」
「あまあまあまあま!」
そんなユウヒの表情など気が付くわけもなく、妖精たちはそれぞれにサクランボを両手で抱えると勢いよくかじりつく。かじりついた瞬間溢れる果汁と程よい反発のある果実に目を輝かせた二人は、言語機能を著しく低下させて一心不乱に食べ続けるのであった。
「ふふ、これは服も用意しないといけないかな? まぁそれは後回しで良いとして、魔力の補充は十分してきたし、どう作るかね」
顔を果汁で汚しながら一心不乱にサクランボをかじる妖精に笑みを浮かべたユウヒは、元々薄汚れた服が余計に汚れていく様子に肩を竦め、作るものリストの項目を一つ増やす。
「コンセプトは超小型で動力は無し・・・ふふふ、今までは不可能だったがこの石があれば可能だ」
そんな彼は、バッグの中から取り出した黒い石を手の中で転がしながら、目の前に並べた素材を見詰める。少女たちに向けたものとは違う種類の笑みを浮かべるユウヒは、小さな声で呟きながら構想を練り始める。
「うまうま・・・う?」
「・・・危ない石だ」
数分後、サクランボを食べる手が少し緩みだした妖精たちは、ユウヒから漏れる濃い魔力に気が付き顔を上げる。ユウヒに目を向けたアホ毛少女は、その髪先から果汁を滴らせながらぼんやりとした目でユウヒの手元を見詰め呟く。
「ん? これか? ちょいと危ないが、使い方次第さ」
「人間が使っていた武器の元に似てる」
ユウヒの手の中には黒い石が有り、それは調査ドームから持ってきた危険な石である。どうやら彼女たちの世界にも似たような石が有るらしく、その危険性も似たようなものであるらしい。
「そうか・・・そっちにも似たような物が、はいはいもしもし?」
テーブルの上に座り膝にサクランボを抱える二人は、ユウヒの手にある小石をじっと見つめ、どこか不思議そうな表情を浮かべる。そんな二人の様子に小首を傾げたユウヒは左手首から鳴る電子音に気が付くと、手首に巻いている通信機に呼びかけた。
「調子はどう? 何か新しい発見はあった?」
「おう、妖精見つけたぜ」
不活性魔力波の影響から目を覚ましてからは、定時連絡の様に毎日一度はユウヒと連絡を取る未だ名を名乗らぬ女性。彼女はユウヒが出るなり調子を聞くと、毎日何かしらの異常を教えてくれるユウヒに何かあったか問いかけ、ユウヒは明るい声で妖精に出会ったと話して腕につけた通信機を外しテーブルに置く。
「・・・は? 妖精? あらかわいい人形ね、夕陽君もフィギュアとか買う・・・ちょっとまって! 本物じゃない!?」
「だから妖精だっていったじゃん」
急にユウヒが独り言を始めたことで戸惑う二人の妖精は、テーブルの上で膝に果物を抱えたまま置物の様に動きを止めていた。それ故、妖精たちを見せられた女性は最初精巧なフィギュアだと思ったらしく、ユウヒの意外な趣味に笑みを浮かべ、しかしディスプレイに何かしらの表示が出たのであろう、急に視線を一カ所に固定したかと思うと大きな声で叫ぶ。
「どっから! どのドームから連れてきたの!? 私のセキュリティに穴があったって言うの!?」
「いんや、どうやら中国のドームから来たそうだよ?」
叫ぶ女性に驚きびくりと震え、文字通り腰が浮く妖精たちの姿に、本物だと確信した女性は大きな声で叫ぶとユウヒを責める様に問い質す。どうやら彼女の中では、ユウヒがドームから連れ出したと言う前提が出来上がっているらしく、通信機を覗くユウヒをきつく睨む。
「どれだけ離れて・・・いえ、まぁ無くはないかしら」
ユウヒの返答を聞いても睨むことを止めない女性であったが、はたと口を止めると急に表情を暗くしてユウヒの言葉を肯定し始める。どうやら原因に思い当たるものがあったらしく、頭を抱えはじめた。
「世界の亀裂からこっちに来て爆発に巻き込まれた様だな」
「・・・完全にセキュリティの穴ね、私の失態だわ」
ユウヒの視線に目をぱちくりさせる妖精達の説明から、予想される経緯について話すと女性は顔を上げて申し訳なさそうな視線を向けてくる。完全に自らの失敗を認めた女性は手を合わせて頭を下げ、そんな様子にユウヒは困ったように笑う。
「あとは植物の成長がおかしい、不活性魔力溜まりが倍くらい増えてる。他は小さな精霊が結構増え始めたくらいだな」
「・・・どれも大問題じゃない」
「・・・あとは学校もだけど、黙っとくか」
その笑みの理由は、彼女たち妖精の存在以外にも問題をたくさん見つけた為であり、その報告を受けた女性は頭を抱えだす。この状況が容易に想像できたためのに苦笑を浮かべていたユウヒは、彼女の心的ダメージを考えてそれ以上の報告を控える。
「そっちは?」
「・・・アメリカとロシアの現象は大分絞れてきたわ」
彼女の心的ダメージ考え話を控えたユウヒは、さらに思考を逸らすために彼女の調査結果について問う。意識を取り戻してからは残り二つの巨大ドームを集中的に調査している女性は、ユウヒの問いかけに顔を上げると小さく咳払いをしながら、どこか恥ずかしそうに視線をさまよわせて話し始める。
「どんな感じ?」
問いかけによって、幾分調子を取り戻したらしい女性の姿に息を吐いたユウヒは、床の上から磨かれた木と石を拾い上げると、女性に話しかけながら魔力を練り上げ、掌の上の素材をゆっくり混ぜ合わせていく。
「えっとね・・・て、何か作業中?」
そんなユウヒの様子に気が付いた女性は、説明を止めると少し興味深そうな表情を浮かべユウヒを見詰める。
「うん、この子たちの為に超小型魔力活性化装置を作ってるとこ」
「・・・また、なんて物を」
女性の問いかけに、ユウヒはじっと掌を見詰めたまま笑みを浮かべ軽い調子で答えた。なんでもな事の様にユウヒが答える一方で、女性は表情を引き攣らせながら感心とも呆れともとれる声で呟く。
「不活性魔力がどんどん増えてるからな、その対策も兼ねて」
「・・・ねぇ、安全に不活性魔力を吸収できないかしら? そんな装置を作ってもらいたいんだけど」
女性の声に、少しは自覚があるのか苦笑いを浮かべるユウヒ。彼は何も自分の興味の為だけに様々な試作を繰り返しているわけではない。母譲りの異常な勘はユウヒに様々な事を伝え、いつも漠然とした方向性を示しているのだが、その一つに世界を侵食し続ける魔力に対する対策を求めるものがあるようだ。
ただ漠然と、しかし何もしないと明らかに良くない未来が訪れることを感じているユウヒは、そう言った方向性で試作品を作っていた。魔力の危険性については女性も理解しており、その解決につながりそうな試作をしていると匂わせるユウヒの言葉に、彼女は目を細め問いかける。
「ふむ・・・・・・。毒電波遮断装置と例の結晶を組み合わせればできるかな?」
女性の真剣な声に反応したユウヒは、小さく声を漏らすと手の中で踊る魔力の陽炎をゆっくり鎮め熟考し始めた。割と長い間を置き、手の中で光る小さな円環を夏の日の光にかざしたユウヒは、満足そうな顔で頷くと作れると返事を返す。
「・・・・・・うん、結構大きくなるけど長さ3メートルくらいで、太さは金持ちの家の大黒柱くらいかな」
少し明るい表情を見せる女性に、ユウヒは手元に手繰り寄せたノートを開き何事か書き込み始め、たまに魔力を周囲で踊らせると小さく頷く。頭の中と紙の上、さらに魔力の動きを見たユウヒ曰く、大きな装置になるものの作ることは可能と言う答えに至ったようだ。
「十分小型じゃない・・・あなたの基準が分からないわ」
「何か使うの?」
だがその想定は女性、と言うより魔法技術をある程度知る者にとっては十分小型なものであると言う。そんな彼女の常識など知らないユウヒは、小首を傾げながら苦笑する女性に何に使うのか問いかける。
「アメリカのドームが、どうも不活性魔力流出型の次元融合みたいなの。その流出に対抗するためどうしても吸収装置は必要なのよ」
どうやらその装置は、アメリカで起きるであろう災害に対抗するために必要なキーとなる様だ。
「なんぞそれ?」
名前だけ聞いてもよくわからないユウヒは、考えると言う事を放棄して大きく首を傾げて女性に問いかける。異常な物をぱっと考え作れると判断する一方で、あまり興味を抱けないことについては考える事すら放棄するユウヒに、その実態が頼れる人物に頼ると言う素直な姿勢であることに、最近気が付いてきた女性は、困った顔の口角を少しうれしそうに上げると、わかりやすく説明するために頭を回し口を開くのであった。
いかがでしたでしょうか?
異世界に侵食され変わりゆく世界で、ユウヒは変わらず周囲を驚かし生きているようです。そんなユウヒの明日はどこへ転んでいくのか、次回もお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




