第百六十五話 世界は荒れど変わらぬ日常
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂ければ幸いです。
『世界は荒れど変わらぬ日常』
真夏の日の下、寒いくらいに冷房の効いた喫茶店で石木と真面目と不真面目が半々の話しを終えたユウヒは、晩御飯前にちょっとした腹ごなしを終えると、夕食の時間に余裕をもって帰ってきていた。
「どれかわかる?」
夕食前にお風呂で汗を流したユウヒは、現在大量のパンが詰まれたテーブルの前で、隣に座る流華からじっと真剣な視線を向けられている。
「ん? ふむ・・・これがパン屋、これが姉さん、こっちはミカンだな」
「なんで・・・」
山脈の様に積まれた様々な形のパンは、パン屋さんに泊まった女性たちの手によって作られたもので、その中から流華は自分が作ったパンをユウヒに当ててもらいたい様で、材料も作り方も一緒であり、形こそ違いはあるものの普通なら本人達以外は見ただけで誰が作ったかわからない。それでもユウヒには誰が作ったかわかるようで、次々と作った人間を当てていく。
「そうなると、流華のはこれだな? うん、美味しくできたじゃないか」
「・・・ほんと?」
しかし、なかなか彼女の作ったパンに行きつかないことに、驚きながらも若干の不満を覚える流華は、少し不格好な向日葵型のパンを手に取り笑みを浮かべるユウヒに口元をほころばせ、一口食べておいしいと言うユウヒを恥ずかしそうに見上げる。
「初めてだったんだろ? それでこれだけできりゃ十分だ。あとは一人で作れたら得意料理って言えるだろうな」
「・・・えへへ」
上目遣いで見つめてくる流華に、小首を傾げたユウヒは十分美味しいと話し、照れて顔を赤くする妹の隣でビーフシチューをパンにつけて頬張る彼は、パンとシチューの相性に満足気な表情を浮かべていた。
「流華の手作りパン! 旨い! 旨いぞー!!」
一方、とろみのあるシチューにパンを付けて食べる彼の前では、パンの山を次々と崩していく勇治の姿があり、ユウヒが手に取った物と同じ向日葵パンをかき集めると、勢いよく頬張り旨いと叫ぶ。
「・・・それはリンゴさんのだよ」
たっぷりと注がれ表面に薄膜が張ったビーフシチューを前に、勢いよくパンを食べ続ける勇治に、流華は冷たい視線を向けて今食べているパンはリンゴが作った物だと呟く。流華の作った向日葵パンより若干細工が細かで大ぶりなそれはリンゴが作った物らしく、その呟きに動きを止めた勇治は顔色を悪くする。
「な、なに!? どれだ! どれが流華の「ラストいただきー♪」な!? ハニー裏切ったな!」
娘からのジト目にたじろいだ勇治は、我関せずと言った表情でシチューを食べるユウヒに恨みがましい視線を向けると、必死に流華の作ったパンを探す。しかしその焦りも空しく、流華の作ったと思われる最後のパンは、目にもとまらぬ速さで目の前から奪われ、勇治は驚愕の表情で明華を見詰める。
「うふふ、私のビーフシチューを蔑ろにした罰よ・・・」
「い、いや蔑ろには・・・」
そんな勇治の苦情に対し、すっかり冷たくなり膜の張ったビーフシチューを見ていた明華は、暗く美しい笑みを浮かべると、そのドロドロとした色合いの瞳に勇治の引き攣った表情を映す。
「そういえば、新学期っていつからだ?」
暗く濁った愛おしそうな目で勇治を見詰めながら、手に持った流華のパンをもぐもぐと頬張る明華と、必死に言い訳をしている情けない父の姿を眺めたユウヒは、パンの山脈のユウヒ側にまだ残っている流華の手作りパンを取りながら、隣でパン屋の手作りパンを見詰める流華に声をかける。
「私の? えーっと、四日後だよ」
「ほむ」
どうやら流華の夏休みはあと三日しかないらしく、四日後の朝は新学期初日となっている様だ。そんな現実を呼び覚ますような発言をしたユウヒは、指折り数えて答えた流華の予定に何か考える様に頷く。
「あぁあーもう夏休み終わりかぁ」
一方、突然現実を突き付けられた流華は、パンをお皿において項垂れると、不満を重い息と共に吐き出し唇を窄めた。
「いろいろ大変な夏休みだったからな」
「ほんとだよ・・・今もいろいろ大変だけど」
一般的な家庭なら旅行の一つもして思い出を作るところであるが、今年の夏はユウヒの失踪から慌ただしく時が過ぎ去り、バカンスなどの楽しい思い出を作る暇もなかった流華。ある意味で貴重な体験と思い出を作った流華であるが、出来る事ならば楽しい思い出だけにしてほしかったと言うのは、彼女の本音であろう。
「そうねぇ、きっと新学期初日は人が少ないんじゃないかしら? 飛行機とかまだ制限かかってるし、まだ警戒が完全に解かれたわけじゃないし」
「数日で落ち着くと思うけど・・・まだ二つあるからな」
「そっか・・・」
また、現在も続く警戒状態により、日本のインフラはまだ完全に回復したとは言えず、自主的に避難している人間も相当数居ると考えられ、明華曰く、新学期初めは静かなものになりそうだと言う。
「よし、新学期初日は流華に着いて行くかな」
まだ問題のあるドームが二つもあり、そのドームが何を引き起こすか分からない以上、ユウヒも家族の事を心配しており、その中でも一番の弱者である流華の事は特に気にしている様で、肩を落としながらパンを口にする彼女を見詰めると四日後の予定を決定する。
「え!?」
「うな!? 夕陽まで裏切る気か!」
少し落ち込み気味な流華を見詰めるユウヒの言葉に、流華は驚き目を見開いてユウヒを見上げ、勇治は勢いよく立ち上がると嫉妬で暗く染まった目でユウヒを睨む。
「裏切るって・・・父さんは禁止されてるだろ」
心臓の悪い人なら倒れてしまいそうな視線を向けられたユウヒは、恐れるどころか呆れた表情でジト目を浮かべ、唸り声を漏らす勇治に、その視線と同じような感情の籠った突込み入れる。
実は勇治、過去にいろいろとやらかして流華の高校半径一キロメートル内への侵入を禁止されているのだ。
「うふふ」
「ひっ!?」
それは法に触れたと言うものではなく、勇治の隣で聖母のような微笑みを浮かべ、僅かに開いた瞼の奥から極寒の視線を向けてくる明華の怒りに触れた為である。
勇治に割と甘い明華であるが、浮気に対しては殊の外厳しく、流華の入学式の付き添いで高校に行った帰り、同級生の奥様方をナンパしてお茶をして勇治が帰って時は、それはそれは恐ろしい目をした明華が玄関で待っており、その先は言わずともがなである。
「と言うわけで俺が着いていくのでよろしく」
そんな過去の物理的な傷を思い出し、震えながら着席した勇治に溜息を洩らしたユウヒは、未だ固まっている流華に目を向け半強制的に予定を決めていく。
「そ、そんな・・・高校生で保護者同伴みたいな事、恥ずかしいよ」
「あら、同級生のお母さんたちも送り迎えするらしいわよ?」
「え、そうなの?」
まるで勇治の存在など初めからなかったかのように笑みを浮かべる兄の姿に顔を赤くする流華は、高校生にもなって保護者に同伴されるなど恥ずかしいと本音の半分を呟いた。しかし、もう半分の本音に気付いている明華は、先ほどまでとは違う母親らしい笑みを浮かべユウヒの言葉を支援する。
「皆さんもいろいろあって心配なんですって、良い事じゃない」
明華もまた流華の事が心配であり、実際親同士のコミュニティでも、Jアラートが維持されている現状において子供たちを普段通り登校させることに不安を唱える者は多く、ユウヒの提案の様に学校まで付き添う親は少なくないようだ。特に夏休み明けなどの登校時には、思い悩んだ生徒の突飛な行動が見受けられるため、Jアラートはそんな親の失敗に拍車をかけていた。
「じゃあお母さんが・・・無理か」
「何故にお父さんを見たの流華ちゃん?」
そう言った明華の説明に、流華は理解を示すと最後の抵抗とばかりに顔を上げて明華に送ってもらいたいと口に、しようとして諦める。その視線は明華の隣で震える勇治に向いており、母に頼れば父が野放しになると言う事実を察した彼女には、それ以上自らのわがままを口にすることが出来ないのであった。
「そう言う事だ。まぁそのついでに俺は仕事するんだけどな」
「仕事がついでなんだ・・・ふふ」
完全に理解を示し遠い目を浮かべる流華を見てショックを受けたように固まる勇治を他所に、流華の上目遣いに対し黙して頷いたユウヒは、送るついでに仕事をすると話す。静かに頷いて見せるユウヒに、こちらも何も言わず頷いた流華は、ユウヒの言葉に少し呆れを含んだ笑みを浮かべる。
「おう、その日までに国からの依頼は一通り終わらせるから、残りは気長にやる調査だけなのさ」
「ふぅん?」
ユウヒの可笑しな優先順位と、その優先順位の上位に自分の心配があることに機嫌を良くした流華は、何でもない事の様に笑って話すユウヒの姿を不思議そうに見上げるのであった。
満身創痍のボクサーの様に打ちひしがれ椅子に深く重く座る勇治の前で、流華とユウヒが付きそいの予定を話し合い、勇治が心に追撃を食らったのは三日前。
「大臣、報告書です」
「おう、あんがとさん」
そんな一部を除いて和気藹々とした家庭と違い、難しい表情で机に向かっていた石木は、男性秘書から手渡された報告書の厚みに眉を寄せ、礼を述べながら報告書をパラパラと捲る。
「一番最初に読むんですね」
「そらな、夕陽が関わると新発見やら問題事が山の様に出るからよ、俺は面倒で面白い物から終わらせる質なんだ」
この報告書の束は、適当に重ねられているわけではなく、重要な案件が上に来るように並べられていた。それは石木も理解しているのだが、あえてその順番を無視して束から選り分けたのは、ユウヒの三日間に行った仕事の報告書である。
それらの報告書はユウヒが書いたものではなく、依頼を受けて動き回るユウヒを観察した自衛隊員の報告纏めであり、謂わば夕陽観察日記とでも言った品であった。その中身は非常に細かく、ユウヒの行動とその効果が一部の人間の監修もあってわかりやすく纏められている。
「でしたら姪御さんの苦情にも答えては?」
「そっちは俺の手に負えん・・・いくら秘書ったってぞんざいに扱ったら姉貴に殺される」
ユウヒの行う事は突飛なことが多いが、一方で確実に意味のある行動であるため、そこから学ぶことも多い。その何倍も問題が潜んでいるのだが、石木にとってはまだ自分でどうにか出来る問題であり、実の姉の娘である女性秘書のメンタルケアよりはずっと楽な仕事であった。
「その扱いに不満があるようですけどね。よく仕事の催促で連絡きますよ」
女性秘書に対して、腫物や壊れ物を扱うような節のある石木の態度は相手にも伝わっているらしく、そう言った扱いに不満のある女性は、周囲に時折不満を漏らしている様だ。今もJアラート発令後、ずっと自宅待機になっている現状が不満の様で、度々職場に仕事はないのかと連絡を入れているらしい。
「お前は娘に会いたいだけだろ・・・まぁいいけどな、あと数日だと言っておいてくれ」
「分かりました」
理解ある上司然とした雰囲気で石木と言う上司を諫める男性秘書であるが、実際は彼が早く真面な休暇に入りたいだけの話である。そのことを見透かしている石木は、呆れた表情で突込みを入れて鼻息を洩らすと、とりあえず姪の要望を聞き入れることにするのだった。
「・・・と言うかだ。夕陽の奴ここ数日働きすぎじゃないか?」
そんな姪に甘く姉を恐れる男の石木は、報告書の束の上半分からユウヒに関する報告書をすべて引き抜き、ざっと斜め読みしてしていたんだが、最後までページを捲ると目を瞑り報告書をそっと閉じる。
どうやらそこに書かれていた報告内容は、これまで受けた報告の中でも一二を争う密度であったようで、石木はその仕事量に思わず心配そうな表情を浮かべてしまう。
「調査ドーム内の自衛隊施設の敷地拡張と外壁設置完了、周辺集落との連絡道路敷設に伴う危険物処理、暴走した大学関係者の鎮圧、魔力性異常周波遮断装置の試作、効果実験、改良及び先行量産機の作成及び提出・・・異常、以上ですね」
その仕事内容とは、先ず忍者たちが伐採した切り株の除去や、すでに引き抜かれた後に残っている大穴の整地と基地の境界を示す外壁の設置。次に周辺集落との間を繋ぐ連絡路予定地の調査及び危険物の除去、これは危険な動植物や毒または魔法的物質の事である。また、マッド方向に進化を続ける大学関係者が暴走することがあり、その被害を受けそうになったユウヒは自主的に鎮圧。
「言い直した意味あるか? まぁそれにしてもよく三日でこれだけ・・・」
残りは半分くらいユウヒの趣味や憂さ晴らしも混ざってそうであるが、実際に自衛隊や政府から依頼された物の制作である。
そんなユウヒの行動に思わず異常だと口走ってしまった男性秘書は、あまり変わらないが僅かに違うイントネーションで言い直すと、呆れた表情を浮かべる石木から視線を逸らす。だが石木も今回の仕事密度に関してはおかしいと思っているらしく、報告書を再度捲りながら首を傾げる。
「明日は・・・もう今日ですが妹さんが新学期らしく、それに付き添うそうですよ?」
「なに? ・・・ユウヒがわざわざ? いやだが家族だから普通・・・」
何故ユウヒがこれほど仕事を高密度で熟したのか、それはすべて流華の登校日に付き添うためであった。男性秘書もユウヒの行動が気になって聞いてみたようで、彼の行動原理を自分に当て嵌め理解した男性は、唸り始める石木の前で何かを思い出したのか頷き目元を拭う。
「何か気になることが?」
「いや、考えすぎか」
しかし、あまりにうんうん唸っている石木が気になった男性は、ユウヒの行動に不審な点でもあったのかと不思議そうに問いかける。ユウヒの行動に何を思って悩みだしたのか分からない男性秘書は、頭を振って立ち上がり街灯が煌々と灯る外を眺める石木の背を、終始不思議そうに眺めるのであった。
そんな、石木の悩みの種製造機となっているユウヒは、次の日早朝から流華と共に高校への通学路を歩いていた。
「考えすぎじゃなかっただろ?」
「うん」
当初、勇治の愛車を拝借しようと考えていたユウヒであるが、頑なに貸すことを認めない父親の姿に呆れ、流華との話し合いの結果、早い時間に家を出てゆっくり徒歩で高校に向かうことにしたのである。
家を出た当初は早い時間と言う事もあって人も疎らであったが、高校に近づいてくるとユウヒ達と同じく保護者同伴で登校する生徒の姿が多く見受けられていた。
「まだJアラートの警戒が完全に解除されたわけじゃないからな」
「うん、いつもより賑やか・・・でも、やっぱりちょっと少ないかな」
その光景に頷く流華に、ユウヒは周囲を見回し聞こえてくる会話に肩を竦める。聞こえてくるのは親の心配そうな声と気にした様子の無い子供の空返事ばかり、そんな光景を見回していたユウヒに、流華は少し暗い声で呟く。どうやら、保護者同伴で賑わう通学路であるが、生徒の数はいつもより少ないようだ。
「そうなのか? やっぱり登校見合わせって家も多そうなんだな」
「クラスの子はどうなんだろ」
Jアラートの影響は、登校初日を迎える人々に、精神的にも物理的にも様々な影響を及ぼしているらしく、確実に新学期をいつもの様に迎える人間を少なくしていた。それは流華の心にも影を落としている様で、クラスの友達を気にする流華に、ユウヒは優し気な笑みを浮かべる。
「ふむ、三年だからなぁ・・・案外みんな来てるんじゃないか? 自分の人生がかかってる年なんだし、気にしてる場合じゃないってさ」
「あはは、そうかもね」
小さく笑みを浮かべたユウヒは、努めて明るい声で三年生なら案外気にする暇なく登校しているのではないかと話し、そんなユウヒの声に流華はクスクスと可笑しそうに笑う。
「そうだ・・・ん?」
ユウヒの気配りに気が付き少し明るさを取り戻した流華、見上げてくる彼女と見つめ合っていたユウヒは、何かに気が付くと足を止めた。
「どうしたの?」
急に立ち止まったユウヒに思わず自分も立ち止まる流華は、体を少し捻るようにして兄を見詰め小さく首を傾げる。
「・・・流華」
「なぁに?」
髪をふわりと揺らし不思議そうにしている妹の問いかけに、なぜか前方に向かって呆れた表情を浮かべたユウヒは、ゆっくりと腕を上げるとその前方を指さし、
「前方警戒」
短い言葉で注意を促す。
「へ?」
「天野さん!」
「わふぅ!?」
ユウヒの言葉にきょとんとした表情を浮かべた流華は、ユウヒの指先を辿るように前方に目を向け、そして自分を呼ぶ声を聴いた瞬間とても柔らかな双丘に包まれ謎の叫び声を上げるのだった。
「無事だったのね! 夕陽君から話を聞いた日からずっと心配してたんだから!」
「せ、先生!?」
流華の頭を包む極上の緩衝材は、彼女のクラス担任である美術教師の胸であり、自分が抱きしめられていることに気が付いた流華は、相手の顔を胸の中から見上げ驚きの声を漏らす。
流華を抱きしめ目尻に涙を浮かべるのは、彼女の担任である猫屋敷 琴音である。なぜこれほどに感情的な再会を果たしたかと言うと、流華の失踪の件はユウヒの訪問の後、琴音も明華から連絡を受け知っていたのだが、
「安否報告したか?」
「あ、忘れてた・・・」
その後、誰も彼女に流華救出成功の報告を入れておらず、校門から生徒たちを出迎えていた今の今まで、流華の安否を知らなかったのだ。そんな相手が無事な姿で登校してきたとあっては、彼女生来の性格も相まって落ち着いていられるわけもなく、感情のまま走り出し今に至る。
「ねねちゃん先生、往来なんでお手柔らかに」
「心配だったの!」
普段はキリっとした表情と微笑みを浮かべる姿で男子生徒を魅了する彼女だが、中身は割と子供っぽく、苦笑いを浮かべるユウヒの言葉にも頬を膨らませ声を荒げていた。
「はいはい、先生が生徒を遅刻させようとしてどうするんですか行きますよ」
「あ、ちょっと夕陽君強引に押さないで!?」
目に涙を浮かべる彼女はその間も抱きしめた流華を離さず、若干諦めた感のある流華はなされるがままである。しかしいつまでもそうしているわけにもいかない為、ユウヒは琴音の背中を無理やり押すと、ついでに流華を分離させながらぐいぐいと校門に向かって二人を押していく。
「ほら行きますよ、ねねちゃん先生」
「あとその呼び方は恥ずかしいから!?」
思いのほか力強く、また安定感のあるユウヒの掌で押され踊らされる琴音は、有無を言わせぬユウヒの行動に若干のなつかしさと暖かなものを感じて恥ずかしそうに身を捩る。
「先生、ご心配かけました。一応無事でした」
「もう、もう!」
しかしそれでもユウヒの手からは逃れられず、すでに諦め押されるがままの流華に頭を下げられると、またも目尻に涙を浮かべ流華の頭を撫でるのであった。
「かわらんなー・・・異常有りかぁ」
地味に魔法の力まで使って、無事を確かめ合う教師と生徒の肩をゆっくり押すユウヒは、昔と変わらぬ琴音の姿に微笑み、懐かしい校舎を見詰めるとその表情を引き攣らせる。
どうやらユウヒの目には、校舎以外の何かが映っているらしく、その何かに肩を落としたユウヒは気を取り直すと目の前の優しい光景で目を保養するのであった。彼の目に何が映っていたのか分からないが、その何かがユウヒにかかわるのはそれほど遠い話ではないのかもしれない。
いかがでしたでしょうか?
未だ異常事態に対する警戒が続く日本ですが、学生たちは長くも短くも感じる休みを終え、新学期へと挑むようです。そんな日常で非日常を満喫するユウヒの明日はどこへ・・・。次回も楽しんで貰えたら幸いです。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




