第百五十七話 再臨のアミファン
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんでいただけたら幸いです。
『再臨のアミファン』
中央の淡い光以外真っ暗な空間に、三人の人影が揺れている。
「それではこれより聖戦に赴く!」
一際体の大きい男は勢い良く立ち上がると、聖戦と言う言葉を使いきつく握りしめた拳を天に向け叫ぶ。
「次こそはあの愚か者に鉄槌を下す!」
その叫びに呼応するように立ち上がった男性は、目に見える明確な覇気を背に気炎を吐く。この二人は以前ユウヒを襲い、スニールコンパニオンの四女に首を刈られたあの管理神である、彼らの頭の中にはアミールに迷惑をかけたという認識はないようで、今はユウヒへの闘志にあふれているようだ。
「・・・まぁほどほどにな」
そんな二人を座ったまま見上げる小柄な人影は、二人に聞こえない程度の小さなため息を洩らすと、まるで他人事のように注意を促す。
「やはりお前は来ないのだな」
「ああ、万が一もあるからな」
どうやら前回も参加していなかったこの人物は、今回も後方支援に徹するようで、依然と姿が一回り大きくなている二人と違い小柄な姿のままである。
「確かに後方支援も大事ではあるが・・・」
筋肉の巨漢と言う言葉がよく似合う男は、座って余計に小さな彼を見下ろし納得のいっていない表情でつぶやく。しかし、前回彼がいなければ二人の救出に手間取い、いくら依代を使っていたとは言え、これほど早く復帰はできなかったのだ。そのことを理解している大柄な男性は、あまり強く言えず気持ち悪そうなしかめっ面を浮かべる。
「まぁまて、もともとこやつは我らアミールファンクラブの会員ではないのだ。ここまで手伝ってくれただけでも感謝しなければ」
「何? おまえ会員じゃないのか」
だが、相方の男性の言葉に目を見開いた男性は、それまでの気持ち悪そうなしかめっ面を霧散させると、隣の男性と座る小柄な人物の間で視線を往復させて不思議そうに首をかしげて見せた。
「最初に話したと思うのだが・・・」
「そうだったか?」
どうやらこの小柄な人物は、アミールのファンクラブ会員ではないらしく、そのことはすでに話していたはずであったようだ。そこまで話が至るとようやくすっきりしたらしい大柄な男性は、不思議そうにしながらもそれまでとは違う爽やかな笑みを浮かべる。
「聞いてなかったな? こやつはアミール殿の知り合いだ。今回アミール殿を付け狙う不埒者がいると伝えたら斯く協力してくれたのだ」
「そうだったのか・・・すまん。感謝する」
大柄な男性に呆れた声を洩らす男性は、一度話したはずの説明を聞かせる。その説明によると、この小柄な人物はアミールの知り合いであるらしく、男性の要請に協力を快諾した人物で、元々後方支援までの話だったようで、そのことを理解した大柄な男性は頭を掻きながら謝ると感謝を口にした。
「別に感謝はいらない。気を付けて逝ってこい」
「「おう!」」
粗暴な見た目と違って意外と理性的な男性に、小柄な人物は肩を竦めると、フードの奥の濃い緑色の瞳で二人を見上げ気を付けるように口にし、激励を受けた二人は男臭い笑みを浮かべて颯爽とその場から姿を消す。
「・・・・・・」
妙なイントネーションで二人を見送り一人だけになった小柄な人物は、しばらく沈黙したままでいたかと思うと大きく長い溜息を吐き出しておもむろに立ち上がる。
「やっぱり男って馬鹿ね。こちらネルダフネ誰か聞こえる?」
やけにゆっくりとした動きで立ち上がっていたその人物は、明らかにその背格好からは考えられない高さまで立ち上がり、身に纏っていたローブをずり落とす様に脱ぎ捨てた。するとどうであろうか、先ほどまで小学生のように小柄でローブの外からでも華奢な体が分かった人物は、豊満な胸とお尻にキュッと括れた腰が美しい長身の美女となっているではないか。
「ああニル、こっちは予定通りよ・・・え? そうなの? それは手間が省けたわね」
小さなローブを脱ぎ捨てた女性は、エメラルド色のネイルが美しく細い指先で耳元を抑え話し始めると、すぐに誰かと会話を始める。彼女の耳には小さなコードレスイヤホンの様なものが付けてあり、どうやら通信機であるようだ。
「ええ、連絡は任せたわ・・・そうね、私も気になってるの」
濃いブロンドの髪を掻き上げ振り広げながら話す女性は、月桂樹の葉のように濃い緑の瞳を楽しそうに細め、淡い光の向こうで歩く男性を見つめる。
「ふふ任されたわ。え? それはダメよ、ありえたとしてもアーちゃんが許してくれたらね」
今にも舌なめずりをしそうな妖艶な笑みを浮かべる女性は、通信機の向こうから聞こえてくる騒がしい声に眉を寄せると、少し声を荒げながら通信機の向こうから聞こえる提案を一蹴した。
「えーそう言う時だけお姉ちゃん特権使うんだからぁ」
一蹴しながらも口惜し気な表情を浮かべる女性は、通信機の向こうで騒ぐ女性達の言葉に不平を洩らすと、惜し気もなく晒された裸体を長いブロンドの髪だけで隠しながら闇の中に消えていく。彼女が何者なのかわからないものの、どうやら二人の男性にただ与する者ではなさそうである。
丁度その頃、真っ暗な空間とは違い夏の日差しが燦々と降り注ぐ大型フードブティックでは、数舜前まで向日葵のような笑みを浮かべていた女性が、その表情と背後に闇を背負っていた。
「・・・ふふふ」
「どした?」
彼女はピタリと動きを止めると、暗い笑みを浮かべた口元から病みを感じる冷たい笑い声を洩らす。
「またユウちゃんに悪い虫が付きそうだわ」
「げっ!?」
急に闇を背負った明華曰く、今またユウヒに好意を寄せる人物が増えたらしく。問いかけた勇治はまたかと言った表情で苦笑いを浮かべる。一方、明華の表情を直視してしまったじぇにふぁーは、その表情からユウヒが寄せられているのが好意だけでは無く、情欲も寄せられたと気が付き思わず呻き声を洩らす。
「「・・・・・・」」
「の割には冷静だな」
後退るじぇにふぁーの背後には、身長差からこちらも俯いた明華の表情を直視してしまったファオとコニファーが、おびえた表情で彼女の腰にしがみ付いている。
「なんだか間に合いそうに無い感じがするの」
「間に合わない? 珍しいな」
明華の感じた勘では、すでに手遅れであり自分が動いたところでその思いは修正できないものであるらしく、口惜し気に牙をむく。そんな彼女の頭を宥める様に撫でる勇治は、彼女の言葉に心底珍し気な表情でつぶやいた。何故ならいつもの彼女ならば、実際にユウヒへと好意が向く前に、明華曰く汚い泥棒猫は対処されてしまうからだ。
「普通じゃない感じね・・・それと、ジェニは後で折檻ね?」
それが良い事なのか悪い事なのか判断に苦しむ勇治に、明華は戦場に立つ様な目で呟くと、先ほど呻いていたじぇにふぁーに目を向け冷たく言い捨てる。
「・・・それはかんべんしてもらいたいです」
「ママ、骨は拾うよ」
「冥福も祈る」
心臓の弱い人間なら心停止してしまいそうな視線で射抜かれたじぇにふぁーは、小さく震えると引き攣る喉から希望をか細く漏らすも、背後のファオは涙目で骨は拾うと言い、コニファーも真剣な表情で覚悟を決めていた。
「死ぬ前提とか止めて!?」
「ふふふ、冗談よ冗談」
背後から悲壮感たっぷりな声をかけられたじぇにふぁーは、縁起でもないと振り返ると小さな店員たちに声を荒げる。傍から見ると少女二人に宥められる美女という何とも珍妙な光景に、明華はクスクス笑うと冗談だと告げる。
『嘘だ!』
クスクス笑いながらも、未だ病んでハイライトの消えた瞳が元に戻らない明華に、三人だけでなく勇治も一緒になって突っ込みを入れた。それほどに今の明華は普通ではなかったようであるが、その突込みは危険なものであった。
「あら? 本当にしてほしいの? 今は手加減できないわよ?」
『・・・!?』
突込みを受け、真っ赤な三日月の様に弧を描く笑みを口元に浮かべた明華は、太陽の光のせいで燃える様に赤く見える髪を振り広げ、四人に問いかける。問いかけてくる彼女の、優し気に細められた目の奥から見え隠れする狂気に、四人は声にならない悲鳴を上げて抱きしめ合う事しか出来ないのであった。
見惚れる様な微笑みの奥に狂気を燃え上がらせる明華が、周囲の男性達から惚けた視線を独り占めにしている頃、彼女の頭の8割の占めているユウヒはと言うと・・・。
「・・・これは、またあれか」
面倒事に巻き込まれていた。
資源豊富なコンビニを目指し公園に差し掛かったユウヒは、周囲から夏休みの昼間を彩る喧噪が消えたことに気が付くと、とても嫌そうな表情を浮かべて振り返る。
「勘のいい小僧だ」
「忌々しい」
ユウヒが気配を感じて振り返った先には、二メートルを超える不自然に筋肉が盛り上がった大男と、ユウヒと変わらない身長であるがこちらもボディービルダーの様な筋肉をひけらかした半裸の男が立って居た。
「・・・誰?」
明らかに不審な人物の出現に、ユウヒは思わず後退ると頬を引きつらせながら何者か問う。明らかに以前襲われた時と同じ状況であるが、目の前の人物に見覚えのないユウヒは状況が今一わからなくなったようだ。
「もう忘れたか愚かな虫が!」
「我らを屠っておいてその言い草! 万死に値するぞ!」
そんな風に戸惑うユウヒの姿を見て、二人の男性は心底不快な表情を浮かべると唾を飛ばしながら声を荒げ、そんな二人の姿にユウヒは目を凝らし右目を淡く瞬かせる。
「・・・あ、あの時の管理神だ。見た目変わってるから分かるわけないじゃん」
金色の光が揺れる目で二人を視たユウヒは、目を見開くと小さく声を洩らしてキョトンとした表情を浮かべた。ユウヒの目には、以前襲い掛かってきた二人の管理神と同じ情報が流れて行き、少し違うところは依り代の情報に戦闘用と言う注意書きが増えていたくらいである。
「ん? そうか・・・それもそうだなすまん」
「謝るでないわ! あの悍ましい右目があればすぐわかるであろうが!」
明らかに見た目の変わった二人に思わず突込みを入れるユウヒに、大柄な男は手を打つと素直に謝りだす。その姿にユウヒが苦笑いを浮かべていると、大柄な男の隣で青筋を額に浮かべた男が声を荒げ、ユウヒの右目を睨むと悍ましいと口にして叫ぶ。
「いや、あんまり人のプライベート覗くのも悪いし」
「ウルサイ!」
しかし、過去いろいろと視てしまったユウヒは、意識して相手のプライベートを除かないように右目を制御していた。しかし、そんな話を聞く気などない男は、真っ赤な顔で叫ぶと公園に設置してあるブランコの支柱を殴りゆがませる。
「・・・存外真面目ではないか、聞いていた話と違うな」
どんどんと不機嫌になっていく男性と違い、大柄な男性はどこか訝し気な表情を浮かべ小首をかしげ小さくつぶやく。
「それで今日はどういったご用件で?」
大柄な男性に見詰められながら、居心地悪そうな表情を浮かべて要件を問いかけるユウヒ、彼の問いかけに表情を引き攣らせた男性は、足に力を籠める。
「殺しに来たに決まっているだろうが!」
「ですよね!」
そして次の瞬間、大柄な男を置き去りにし踏み出した男は、血走った目で叫ぶとバックステップで逃げるユウヒに拳を振りぬく。
「逃げても無駄だ! この辺り一帯はすでに空間をずらしてある! 誰も助けになど来れぬぞ!」
拳を振りぬく度に衝撃波が発生し、余波がユウヒの頬を鋭く撫でる。それだけで現状が非常に不味い状況であると察したユウヒは、さらなる凶報に逃げる足を加速させていく。
「マジかよ! っと、強くなってるな・・・【飛翔】【大楯】アイス・・・【濃霧】」
次々に繰り出される衝撃波に頬を引き攣らせたユウヒは、悪態を吐きながら逃げるために必要な魔法のキーワードを呟くと、一瞬攻撃に転じようとするも直観に従って濃密な霧を発生させて霧の中に自らを溶け込ませる。
「煙幕など効かぬ、フンヌ!!」
「いやいや、拳で振り払うとかおかしいだろ【ガトリング】【ロックボルト】」
ユウヒを中心に爆発的な勢いで広がりその身を隠した濃い霧であったが、霧から飛び退いた男と変わるように飛びだした大柄な男の、気合が乗った拳によって大穴を開ける様に消え去り、一気に薄くなる霧の中からは驚いた表情のユウヒが現れる。
霧の魔法を発動してからあっという間に距離を離していたユウヒは、驚きながらも異世界で回復してきた魔力を使い、地面から大量の太い締め具を生成して撃ち出す。
「美しくない魔道など消え失せろ!」
「うおっと!?」
クロモリオンライン内ではネタ扱いの魔法も、現実だと現代兵器に引けを取らない威力を発揮するのだが、そんな魔法も目を血走らせた男にとっては対処可能な範囲でしかないようで、力を溜めていた男の不可視の一撃により地面と共に吹き飛ばされてしまう。
不可視の一撃であるが、地面をえぐりながら進むその力に驚き飛び退けたユウヒの目には、先ほどまで立っていた後方、公園の外にある家がトラックにでも突っ込まれたように壊れる姿が映り、二重の意味で背中に嫌な汗を流す。
「うわ・・・これ死人が出るぞ」
「この世界に人はお前しかおらんわ!」
空中に逃げたユウヒは、拉げてしまった民家を見てその威力に恐れるよりも先に、そこに住む住民の安否が気になったようである。しかし宙に浮かぶユウヒに襲い掛かる男は、ある意味ユウヒにとって吉報を伝え、その言葉にほっと息を吐いたユウヒは気が緩む。
「くそ! 【エアバースト】ってお、おおたてー!?」
「くっ! なんと固い楯か」
正面から大柄な男、後方からは血走った目の男と言う挟撃を前に気が緩んでしまったユウヒは、咄嗟に全周囲に対して空気の爆発を展開するも、後方の男を退けられても正面の大男は揺るがない。そんなユウヒのピンチを救ったのは、意思があるようにユウヒを陰から守る【大楯】であった。
大男の唸る拳に、思わず両腕を前に身構えたユウヒを守るように現れた大きな楯は、大男の拳をその身に受けると一撃でくの字に折れ曲がり墜落していく。大男の浮かべる驚愕の表情を他所に、大楯の墜落に驚くユウヒが見た彼は、どことなく誇らしげに魔力の塵となって消えていく。
「無駄に魔力を籠め過ぎなのだ」
「次元間航行型戦艦の装甲並みだな・・・」
「マジか、これ当たったら死ぬな」
予想外の防御性能に一旦距離を置いた管理神達は、ユウヒの魔法にそれぞれ違った感想を呟き、そろってユウヒに一段上の警戒を含んだ視線を向ける。一方ユウヒはさらに上空に上がりながら、今まで傷一つ付いたことのない大楯の損傷に血の気が引いているようだ。
「今更後悔しても遅い!」
「我らが真の力の前に滅びよ軟派男!」
「誰が軟派だ!」
封鎖された空間と相手の強力な攻撃に晒され汗を流すユウヒに、二人の男は次の攻撃に移るのか力を籠める様に身構え、ユウヒは嫌な予感を感じたのか、声を荒げながらもその場から移動しようと空中で態勢を整える。
「ゴォォットビィィイムゥ!」
「!? 【緊急回避】あっつ!?」
ユウヒがその場から地上に移動しようとした瞬間、血走った目の男が叫ぶとその目から強力な光が発生し、空気を切り裂く。咄嗟に魔法の力も使い地上に向けて回避したユウヒの体を、夏の日差しなど目にならない熱が撫でる。
「ぬお!? く、雲に穴が!?」
ジェットコースターに乗っているような圧力を感じながら、地上に勢いよく降下するユウヒが見上げた空には、一条の太い光が天に昇り、その直進する線上にあった積乱雲に大穴を開ける光景が広がっていた。
「地に逃げたところで意味などない! ゴォォオオットスラァァアアッシュ!」
「き【緊急回避】ぃぃぃい!?」
緊張の連続に心拍数が上がっていくユウヒは、荒っぽく地面に降り立つと次の攻撃に備えようと態勢を整えるも、そんな暇など与えないとばかりに、今度は大柄な男が地面に杭を打ったかのようにどっしりと構えると、力の籠った叫びと共に腕を振りぬく。
遠く離れた場所で腕を振りぬく男に、ユウヒはまたも悪寒を感じ魔法で強制的に体を動かし回避行動をとると、その体を地面すれすれまで仰け反らせる。
「うわ・・・公園の木が全部切り倒されたんだけど」
地面すれすれまで仰け反ったユウヒの視界には、天地が逆転した世界で水平に切断された桜の樹が重力に引かれて倒れていく姿が映っていた。また倒れていくのは樹だけではなく、ブランコや鉄棒などの遊具も倒壊していく。
「雑魚のくせにちょこまかと」
「お前らふざけんな! 桜は日本人にとって大切な樹なんだぞ!」
周囲に盛大な被害を伴いながらも攻撃を回避し続けるユウヒに苛立ちの声を上げる男は、目を血走らせながら不可視の銃弾を空から打ち込み続けており、ユウヒは【飛翔】の力ですれすれの地面を背にして飛ぶと、倒れる樹々の間を縫う様に逃げ続ける。
ユウヒが逃げ続ける間も、倒れる桜の樹は無残に銃弾で穿たれ、遊具は拉げていく。その姿に怒りがふつふつと湧いてきたユウヒは、態勢を立て直すと魔力を体の奥から引き出しながら叫ぶ。
「知るか! 「【砂塵】」効かぬわ!」
日本人にしか分からない感性に、大柄な男が叫び踏み込むと、空にいた男も急速に降下しながらユウヒを追いかける。そんな二人から隠れる様にユウヒは、子供たちが遊んだことで地肌があらわになった公園の一角に働きかけて大量の砂埃を生み出す。
「【ガトリング】【アイスランス】」
ユウヒを管理神達から覆い隠した砂塵であるが、それも大男が腕を横に振りぬくとアッという間に振り払われる。しかしその間に次の魔法を発動し終えたユウヒの背後には、人の身の丈ほどの鋭利な氷柱が群れを成しており、アイススケートをするかのように地面すれすれを滑り後退するユウヒと入れ替わるように射出された氷柱は、二人の管理神に殺到する。
「そんな大技で当たると「【スプリット】」なっ!?」
「ぐぬ!?」
目を血走らせた男は、守りの姿勢をとった大男の前に躍り出ると不可視の銃弾で氷柱を打ち落とそうとするが、その瞬間ユウヒの放ったキーワードにより氷柱は細かく砕け、散弾銃やどこぞの対人地雷のように管理神達へと降り注ぐ。
「流石に出し惜しみは出来ないな。どうなるかわからないけど、背に腹は代えられないか・・・【氷の尖兵】【兵士の氷槍】・・・【氷原の魔】」
管理神達が突然変わった攻撃に耐えている一方、いつの間にか頬から血を流していたユウヒは、乱暴に頬を拭い出血を確認するとまるで明華のように目の奥でどろどろとした光を揺らす。負の感情が吹き出しそうになるのを無理やりに抑えた様な表情のユウヒは、いつものやる気なさげな目を鋭く細めると、暑さとは違う汗を垂らしながら三つの魔法を使う。
「時間稼ぎしたところで・・・フンヌゥ!」
「なんだ・・・今までと魔力の使い方が違う?」
三つの魔法が発動し、ユウヒに纏わりついている間にも管理神達へと氷の礫は降り注いでいたのだが、気合を込め終えた大男を中心に発生した衝撃波によってその礫はすべて消し去られ、周囲に世界が軋むような音を響かせる。
視界が開けたことでユウヒを見据える二人であったが、一本の短槍を手にして地面の上に佇む彼の姿を見た瞬間、踏み出そうとしていた足を止めてその姿を見詰めた。
「ふむ・・・リアルだとこんな感じなのか、魔力消費も思ったほどではないな」
蒼い氷の短槍を振って感触を確かめるユウヒの顔からは表情が消えており、しかしその声からはしっかりとした感情が感じられる。ただその声もどこか冷たく、それ以上に彼の瞳が冷たく刺々しい光で満たされていた。
金の右目からは温かみが消えまるで他者を拒絶するように、左の蒼い瞳は氷よりも冷たく仄暗い光を揺らす。さらに彼の周囲には白い靄が発生しており、その靄はまるで女性の幽霊のようにユウヒに纏わりついている。
「自己強化系か・・・この気配は異常だぞ、貴様本当に人か?」
「ふむ、強者の気配だな・・・」
今のユウヒからはそれまでの緊張や焦り、また怒りなどの感情が消えている様で、どこか興味深く自分の体の確認をする様に、くるくると器用に短槍を振り回す。その様子に薄気味悪さすら感じた血走った目の男は、じっとユウヒを見詰めその薄気味悪さの原因に気が付く。隣の大男もユウヒから感じる気配にそれまでと違う強者の気配を感じて表情を引き締める。
「別に強くはないさ、どう見ても唯の人だろ? しかし、どうせ死ぬならば最後まで抗うのが人だ」
そんな二人に、表情の消えた顔を向けたユウヒは、くるくると回し弄んでいた槍を両手で構えると、どこかどうでもよさそうな感情を感じる声色で強くはないと言い、声色とは裏腹に抗う意思を示しその目に狂気を揺らした。
謎の魔法により雰囲気の一変したユウヒとその変化に何かを感じる管理神達、この行動がユウヒにとって吉と出るか凶と出るか、それは神ですらわからない。
いかがでしたでしょうか?
アミールファンクラブの過激派が準備万端行動を開始したようです。一方ユウヒはまた一つ外してはいけない箍を外してしまうようです。人の身でどこまで神に近づけるのか、ぜひ次回もお楽しみください。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




