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ワールズダスト ~現世に現れし黒き森~  作者: Hekuto
第二章 異界浸食

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第百五十三話 とても強そうなレリーフ

 修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんで頂けたら幸いです。




『とても強そうなレリーフ』


 男性教授のカツラが発覚し、その後魔物の群れとの合流後もハッスルしすぎて優しく滅多打ちにあった教授は、自衛隊に連れられすぐそばまで近づいていた仮設駐屯地へと運ばれた。


 一方、ユウヒはその場で別れると一人樹の精霊が守る森の聖域に空からお邪魔しているようだ。


「そいじゃ回収完了っと」

 目的は現在も稼働し続けていた魔力活性化装置の回収である。到着早々に地面から装置を抜き取ったユウヒは、装置の中から小さな結晶を抜き取り笑みを浮かべている。


「ありがとね」


「ん? なにが?」

 地面から抜いた装置を槍のように肩に担ぐユウヒをじっと見つめていた樹の精霊は、穏やかな笑み浮かべながら不意にユウヒへお礼を呟き、その透き通るような声を耳にしたユウヒは上半身だけ少し振り返らせると、不思議そうな表情を浮かべた。


「あなたのおかげで森が、世界が救われたことよ。・・・まったく自覚なさそうね、ふふふ」

 特に何かお礼を言われる様なことに思い当たらなかったユウヒであるが、彼がここ魔力を活性化させた行いは、確実に精霊たちや森に良い影響を与えており、それは同時にこの異世界を救う行為でもあるのだ。そのことについてお礼を言っている大精霊は、彼の飄々とした態度を見ておかしそうに笑う。


「こっちは実験したかっただけだから、それにこれから順次魔力も増えて来るだろ」

 くすくすと笑う樹の精霊に、ユウヒは頭を掻きながら何とも言えないこそばゆい感覚を感じて苦笑を洩らすと、これからもっと魔力が増えれば今よりずっといい環境になるだろうと小首を傾げる。


「あなたが増やしてくれるんでしょ?」


「まぁある程度は面倒見るけど、世界樹があればなんとかなるんだろうけどなぁ」

 その魔力を増やすのも、これからユウヒが予定している魔力活性化施設の制作によって増える分が大半であり、樹の精霊の期待するような上目遣いにユウヒは少し悩む。


 実際ユウヒにしてみれば全部面倒を見る分には、自分の予定を考えても構わないと思っている。何せ装置を完成させれば、後は燃料を少しづつでも精霊に持ってきてもらい、装置に放り込んでもらうだけでいいのだ。しかしその燃料となる黒い石が無くなった後のことを考えると、僅かな不安が残り、出来れば世界樹の樹のように安定して魔力を活性化させる存在が欲しいとも思うのだ。


「・・・種を探しとくわ」


「あるの?」

 そう思いぽつりと呟いたユウヒに、樹の精霊は目を見開き背筋を伸ばす。どうやら彼女は世界樹を知っているらしく、この世界にもあるのか種を探しておくと話す。


「あった、ね・・・もうみんな枯れて亡くなってしまったけど、種くらいなら」

 しかしそれは過去の話であるらしく、今はもうすべて枯れてしまったという。それでも種ぐらいはどこかに残っているはずだと話す彼女の瞳は、確信しているのかやる気に満ちている。


「精霊が生まれる樹?」


「そんな御伽噺のような樹じゃないわ、空気中の不活性魔力を活性化させるだけの樹よ・・・まぁ私たちが宿れば通常よりマシになるかもしれないわね、考えとくわ」

 そんな世界樹、どうやら異世界だからと皆が皆同じようなものではないらしく、ユウヒが知っているような世界樹とはだいぶ違うようだ。それでも精霊が世界樹に宿れば効果は期待できるかもしれず、期待に精霊は鼻息が荒くなっていく。


「その時は協力するよ、ほかの世界でも育てたことあるからな」


「ほんと!? ならみんなに協力してもらうわ!」

 その鼻息は、珍しく自信ありげに話すユウヒの言葉でさらに激しくなる。二つの異世界での経験は確実にユウヒの中に自信と達観を与えており、飛び上がり嬉しそうな笑みを浮かべる大精霊に、ユウヒは微笑むと歩き出す。


「そんときゃ持ってきてくれ、それじゃまたな」


「いってらっしゃい!」

 手を振りながら歩き出したユウヒは、少し助走をつけると一気に空へ飛び上がる。高く飛び上がるユウヒが一度振り返ると、眼下では樹の大精霊に指示を受けた様々な大きさの樹の精霊が、文字通り四方八方に移動を開始しており、その動きに感づいた風の精霊がいち早く彼女たちに同道し始め、精霊の列を作っていた。





 それから小一時間後、新型魔力活性化装置を整備のために分解したユウヒは、少なくなってきた魔力の問題解決のためにまたおかしなものを作っていた。


「ほうほう、そんなことに」

「ユウヒ、フラグ乱立させてると刺されるぞ?」


「木の枝でか? 傷治りづらそうだな」

 日本とつながる白い壁であるゲートから割と近い場所で作業しているユウヒは、その作業の片手間に来訪してくる人々と雑談を交わしている。今は斧についての注文を付けに来た忍者たちに、森で何があったのか話しているところの様だ。


 正直樹の枝より包丁などの刃物の確率が高い気がするのだが、ユウヒの中にそういった認識はない様である。


「ところで、あれはユウヒ殿の新しい子分でござるか?」


「きゅ?」

 妙なものを作り続けるユウヒの周りには、なぜか森で出会った小さな魔物の姿があちこちに見られ、ユウヒ命名の【袋リス】はゴエンモに指さされ一斉に顔を上げて首をかしげた。


「このあたりが安全だから移住して来たってさ」

 この袋リス、実は迷子と群れの合流後、ユウヒに自衛隊のことを聞き安全と認識したようで、群れ全体で駐屯地周辺に移住してきたのである。自衛隊も、頭も良く危害を加えなければ比較的温和と言う説明をユウヒから受けたことで、特に拒むこともなく、動物学の教授の後押しもあって今のような状態になっていた。


「狼とか散々蹴散らしたからなぁ」


「きゅきゅ!」


「ありがとだってさ」

 さらに、この駐屯地周辺は忍者地の執拗な威嚇によって肉食の動物や魔物が近づかなくなっており、そのことも彼らが移住した要因の様だ。実際にユウヒに忍者たちのことを説明された袋リスたちは、忍者たちに好意的で、まだ【意思疎通】の効果が続いているユウヒの翻訳でお礼を言いに来ている。


「ふふん! もっと崇めるがよい! ってこらよじ登るでないわ!?」

「愛されてるな、妬ましい・・・」

「小動物にまで嫉妬でござるか・・・」


 律儀に頭を下げるかわいいムササビの様な魔物の袋リス、その姿に気を良くしたジライダは、いつもの不遜かつ尊大な態度で袋リスたちに手を広げて見せる、するとなぜか彼の体に一斉に群がりよじ登り始める袋リス。


 どうやら上る許可をもらえたと思ったらしい袋リスの行動に、慌てるジライダを見て、どこかの教授のような目をするヒゾウと呆れるゴエンモ。


「・・・出来上がりっと、あとは【魔力遮断】」

 彼らが小動物と戯れ、遠くから観察している男性教授の嫉妬を買っている間に、ユウヒが作っていた何かは完成したようだ。


「で? その衝立? 箱? はなんぞ?」


「・・・・・・瞑想部屋1号?」

 ユウヒが作っていたのは一辺が1メートルちょっとの立方体をした底の無い箱の様なもので、小さな入り口が一つ空いている。適当に作った感じの箱は、瞑想部屋であるらしく重要なのは外見より中身の様だ。


「瞑想でござるか?」


「魔力回復にメディテーションなる方法があるらしくてな、試してみようかと」

 アミールの管理する異世界ワールズダストで、ユウヒは魔法士科に通う生徒達と行動を共にした際に教えてもらったメディテーションと言う魔力回復方法を試すらしい。瞑想と腹式呼吸を合わせたような回復方法は、本来どこででも出来るのだが、なぜか今回ユウヒは専用の部屋を仮設していた。


「なんでそれでそんな部屋がいるのさ」


「ふふふ、中で魔力を活性化させるのよ」


『げっ』


 忍者達もテントでやればいいのではないかと不思議そうにするも、その理由を聞いた瞬間声を合わせて後退る。新型魔力活性化装置の爆発的な活性化光景を見ている忍者たちにとっては、活性化と言うワードが何気にトラウマになっているようだ。


「あぁ外には漏れないようにしてあるから」


「だ、大丈夫でござるか?」

 この場であの爆発的な活性化が起これば、もれなく仮設駐屯地の人々は昏倒してしまうであろう。しかし、この瞑想部屋をわざわざ作った理由はそこにあり、内部で発生した魔力が外部に漏れないよう遮断するようにできている。


「まぁ無理はせんよ。とりあえず一時間ほど瞑想してっから」

 さらに内部で活性化させる魔力の量もそう多くはなく、単純に内部を活性魔力で充満させ程度の様だ。そんな部屋で一時間ほど瞑想すると言うユウヒは、小さな出入り口に頭を突っ込み何やらごそごそ中で作業を始める。


「なら後でおやつ持ってきてやるよ、何がいい?」


「あまいのでー」


「任せろ!」

 箱に近づくも何かの気配に怯え離れていく袋リスを見て危険だと察した忍者たちは、箱から一定の距離を保ちながらユウヒに声をかけ、ジライダの問い掛けに対する返事を聞いたヒゾウは、元気な返事を返し箱の中に完全に入るユウヒを見送ると、何をもらってくるか三人で相談しながら隊長の部屋へと向かうのであった。





 ユウヒが活性魔力の充満する小部屋で瞑想を始めた頃、忍者たちが向かう隊長の執務室では、補佐役の女性から報告された内容に隊長が書類に向けていた顔を上げていた。


「調査班と連絡が付かない?」

 どうやら調査班と連絡が付かないというと言う報告だったようで、朝からいろいろ騒動を起こしている班故に色々と考えてしまっているようだ。


「はい、仮設研究室が閉め切られてしまい、中で大学の人達と何か作業をしている様なのですが、接触すらできません」


「あぁ・・・遭難ではないのか」

 しかし、連絡が付かない理由は作業部屋に引き篭もっているだけの様で、森での遭難や最悪の事態を想定していた隊長は、ほっとした表情を浮かべながら椅子に座りなおす。


「むしろそちらのほうが分かりやすいと言いますか」

 隊長にとっては怪我人や行方不明者が出ることが怖いが、補佐官にとっては今の状況の方が薄気味悪いようで、椅子に座り直し首を傾げる隊長に女性は困ったように眉を寄せる。


「お、それならユウヒに色々吹き込まれて火が付いたらしいぞ?」


「うお!? どっから現れた!」

 二人の間で何とも言えない沈黙が流れそうになった瞬間、隊長の執務机の端からジライダが顔を出して新情報を伝えた。しかし急に現れた忍者の生首に、報告を聞くより先に肝を冷やした隊長は驚き声を上げ、補佐の女性も無言で目を見開き一歩後退る。


「忍者の秘密でござる」

「まぁ抜け道作っただけだけどなぁ」


 さらにゴエンモとヒゾウが顔を出しニヤニヤとした不敵な笑みを浮かべ、ヒゾウはしれっと問題発言を洩らす。


「んなもん勝手に作るな!」

 どこに作ったのか隠し通路を用意していたらしい忍者たちに、隊長はイラっと来たようで怒鳴ると同時に丸めた書類で忍者達を叩き、それは宛らモグラ叩きゲームの様である。


「それで、夕陽さんに何を吹き込まれたと言うのですか?」

 叩かれわざとらしく頭を上下に跳ねさせる忍者たちに、補佐官の女性は抜け道の件は一旦置いておき、ユウヒがいったい調査班達に何を言ったのかと、少し興味深そうに問いかけた。普段から熱心過ぎるが故に少し問題行動の多い調査班の人間達であるが、今回の様に引き篭もってしまうことは珍しく、そのことが女性の興味を引いたようである。


「異世界の動植物が持つ驚異のメカニズムを?」

「動植物のくせにメカニズムとはこれ如何に」


 興味深そうな表情で見下ろしてくる女性に、隊長の机に顎を乗せる忍者達は目で何か相談すると、代表してヒゾウがユウヒの吹き込んだ内容を簡潔に伝えるのだが、メカニズムは機械に使う言葉であって動植物に使う言葉ではなく、ジライダが突っ込みを入れるところまで、アイコンタクトだけで相談していたようだ。


「ちなみに聞くが、どんなだ?」


「地球の再生医療に喧嘩売るような植物とか、資源問題を解決しそうな動物とか?」

 尚、あまり聞きたくなさそうだが、聞いておかないと拙いと感じた隊長の問いに答えるヒゾウの表情は実に楽しそうである。


「ほかにも面白い性質の鉱物とかも、自分の作業しながらさらっと説明してござったな」

 聞く人が聞けば値千金以外の何物でもない情報を、聞かれるがまま答えていた時のユウヒは、自分の作業の方に意識が傾いており、実にどうでもよさそうに答えていたようだ。


「・・・しばらく出てきそうにないですね」


「調査が進みすぎて報告に困りそうだ・・・」

 忍者達から齎された話に、調査班が引き篭もった理由を理解した二人は、しばらく出てこないであろうと確信すると、互いに遠い目で見詰め合い溜息を洩らす。


「あれでも結構隠してるらしいけどな」

 しかし、どうでもよさそうにさらっと答えているように見えたユウヒであるが、教えては拙いことについては話してはいないと、調査班や大学関係者が去った後に溜息交じりの声で忍者達だけに告げていた。それは何かあった時三人に動いてもらうためである。


「・・・俺は何も聞かなかった」


「うはwwひどすwww・・・でもそれが賢明だお」

 真剣な表情のユウヒから少しだけ拙い内容と言うものを聞いている三人は、何となく察した隊長の言葉に吹き出し笑う。しかし、盛大に笑っていたヒゾウが急に笑うのを止めて真剣に頷いたことが、その中身の危険性をより深刻なものであると感じさせるのであった。





 忍者達と隊長が無言で見詰め合ってから数十分後、瞑想を終えたユウヒは、どこか張り艶の良くなった頬を両手で捏ね繰っていた。


「・・・高濃度酸素カプセルってこんな感じなのかな」

 無表情で凝り固まった顔を解したユウヒは、そのまま全身を伸ばすようなストレッチをしながら瞑想部屋の感想を呟く。どうやら仕事で取り扱った事がある高濃度酸素カプセルを思い出しているようで、その目は合成作業中の目と酷似しているあたり、何か新しい物作りのネタを思いついたようだ。


「でもまずはこっちだな。満タンには程遠いけど、これなら予定より早く作れそうだ」

 しかし、ストレッチを終えたユウヒの目からはその不穏な気配は消えており、今はまだ先にやることがあると呟き、体に巡る魔力に満足気な鼻息を洩らしてやる気を漲らせる。


「先ずはチャチャっと外壁を作ってしまおう。【ストーンウォール】【ストーンウォール】【ストーンウォール】」

 すでに自衛隊とは交渉済みである関係者以外立ち入り禁止エリアで仁王立ちしていたユウヒは、最初の作業に妄想魔法を選び、手を前にかざすと一気に三度魔法を唱えた。ユウヒが魔法のキ-ワードを唱える度に、地面から大きく分厚い石の壁が勢いよく迫り上がり、三色三枚の巨大な石壁は、満足気なユウヒに影を落とす。


「ぶほwwなにごとwww」

「ユウヒ殿がご乱心でござる」

「我ならばわかる。これは魔法による性癖の発露だな! イエスまな板! ノー巨峰!」


 ちょうどその時ユウヒの下にやってきた忍者達は、声をかけようとした瞬間現れた石壁に思わず吹き出す。笑うヒゾウと困惑するゴエンモに、ジライダは自信満々の表情でユウヒの気持ちを代弁する。


「否! おっぱいに貴賤なし! って、何を言わせる」

 しかし当然ユウヒはおっぱいの凹凸についてなど考えていたわけではなく、しかしアドレナリンが溢れているユウヒは、いつも以上に陽気な声色でノリ突っ込みで答えるのだった。


「さすがユウヒ殿でござる」

「おれはおっきいに越したことないけどなぁ」

「襲ってこなけりゃな・・・」


 流れるようなノリ突っ込みに親指を立てるゴエンモと、真っ平らな石壁を撫でながら眉を寄せるヒゾウ。一方、話しながらだんだん顔を蒼くするジライダの呟きに、二人も急に顔を蒼くする。


「・・・まだトラウマなのか」


「「「当り前だ!」」」


 大きなおっぱいと言うフレーズから、かつて異世界ワールズダストで出会った超肉食系女騎士団を思い出した三人は、呆れた表情を浮かべるユウヒに唾を飛ばしながら叫ぶと、背筋をブルリと震わせた。


「ふむ・・・」

 飛んできた唾をジャージの袖で拭ったユウヒは、無言で忍者と茶色い石壁を見比べ考え込む。首を傾げる忍者たちの前で思案すること数分、突然動き出したユウヒは壁に両手を当て魔力を周囲にまき散らし始める。


「おお、石の壁がまるで液体のように」

「たーみ〇ーたー?」

「あれは液体金属でござろう」


 それは合成魔法を使うときの挙動であり、効果範囲を自分の魔力で満たす技法から合成物の規模がおぼろげに把握できた。今回作るものは相当でかいらしく、ちょっとしたログハウスくらいすっぽりと入りそうな範囲が大量の魔力で満たされ始める。


 広範囲に魔力が滞留する中、忍者たちの目の前で三枚の石壁が熱された蝋のように溶けだし、その形を変えていく。


「よしできた。固定型の魔力活性化装置を囲む外壁だよ、なかなか重厚だろ?」

 出来上がったのは、四面を3メートルはある高い壁で囲まれた屋根の無い石の囲い。その石の壁は見る者に圧迫感を与え、内部に安心感を与える。


「そうだな、レリーフには悪意を感じるが」

「クオリティが高いのが余計に腹立つわ」

「色まで変えてあるでござる・・・」


 丸みのある入り口が一つ空いた石の囲いは、魔力活性化施設を外部から守り、万が一の場合周囲の人間を守るための壁であるようだ。しかし、その石壁に彫られた精工なレリーフに、忍者達は明確な悪意を感じている様だ。


「強そうだろ?」


「いろいろとな!」

 忍者達に睨まれながら飄々とした表情で答えるユウヒに、ジライダは鼻息荒く突っ込みを入れる。


「ちなみにほかの面もレリーフあるぞ? 俺は中で装置作ってるから見てきたらいい」


「なんのレリーフでござろ?」

 石囲いの入り口を守るように彫られたレリーフのほかにも、正面から見えない三面の外部にもレリーフが彫られているらしく、悪意を感じつつも気になる忍者達は正面から大きく迂回する様に軽い足取りで歩き出す。


「あ、ユウヒこれおやつな」


「サンキュー」

 作業を続けるため正面入り口か中に入ろうとするユウヒに、ヒゾウは足を止めるとやはり正面には近づきたくないのか、ふくよかな中年のおばさんが作ってくれそうなクッキーが入れられた袋を投げて渡す。


「サクッと外装作って細かい部品は精霊たち待ちかな」

 忍者を見送り静かな囲い内部に足を踏み入れたユウヒは、クッキーを一口で頬張ると、そのクッキーの歯応えと同じくらい軽く作業を始めるため、ジャージの袖を捲る。


「ちょ、ユウヒこれいいのか!?」

「こんな外壁に神様なんて刻んでバチあたんね?」

「あそこまで精工でござると何かありそうな気もするでござるが・・・」


 そんなユウヒが地面に手を着き魔力を撒き散らしていると、大きな足音を上げながらあれほど嫌がっていた正面出入り口から中に入って来て、不安と興奮で弾む大きな声を上げて問い質し始めた。


「大丈夫だろ? めっちゃ守ってくれそうじゃん?」


「「「いやまぁ・・・」」」


 石の外壁は正方形で、入口のある面にはアミールの世界で世話になった褐色美女達蛇神騎士団が入口を守るように立つ姿、左手に回ると彼女らが崇める蛇神であるメディーナと大きな蛇のレリーフ。反対の右側に回ると姉妹神でありユウヒの守護神でもある豊穣と兎の神ラビーナ、彼女の足元には人参とキャベツとウサギが刻まれている。


「アミールは、若干嫌がるかもしれないけど、知ってる神様もそんなにいないしな」


 さらに入口と反対の壁には、細く長くふわふわした髪を広げたアミールがより精工に彫り込まれていた。石のレリーフなので、どうしても美しい金色は再現できなかったようだが、ユウヒは全力で妄想した様で非常に細かく良い出来である。


「でもあれ、微妙に光ってなかったか?」

「ユウヒ殿の作るものでござるから、魔力でも入ってるのでは?」

「何か隠し機能とかありそうで、オラわくわくすっぞw」


 ユウヒが心の中で、後で観賞しようなどと考えていると、満足気な彼を見詰める忍者達は何やら不穏な呟きを零す。


「なんか言った?」


「「「ナニモ?」」」


 しかし、この時ユウヒは忍者達が確認した事実を知らず、後で両目を使い詳しく調べていろいろなことが判明するのだが、後の祭りとはこのことである。



 いかがでしたでしょうか?


 クリエイターの拘りがふんだんに盛り込まれそうな施設が出来そうですね。少なくとも入口に関してはすでに忍者除けの魔除けが施され、三柱の神が祭られている時点でただ事ではないのですけどね。


それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー

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