第百四十八話 戦力調査
修正等完了しましたので投稿させてもらいます。楽しんでいただけたら幸いです。
『戦力調査』
終始ニコヤカに話し合いながら、追いすがる忍者を蹴飛ばし日本に戻ってきたユウヒ。彼は早朝から家の前に停まっていた黒塗りの車に再度乗り込むと、そのまま、また別の場所へと運ばれていた。
「ご足労感謝します」
そこは楕円の大きなテーブルが中心に置かれた比較的小規模な会議室で、ユウヒが到着した頃にはすでに複数の人間が着席しており、彼は居並ぶ人物たちの服装や徽章から自衛隊関係者だとわかると、この場に呼ばれた理由を何となく察する。
「いえ、足を出してもらいましたし、大した苦労じゃないですよ」
部屋に入ってきた瞬間一斉に視線が集中し、思わず後退りそうになるユウヒであったが、眼鏡をかけた男性がその視線を切る様に出迎えた。そのおかげで後退ることのなかったユウヒは、感謝した様に少しぎこちない笑みを浮かべる。
「おう来たな」
「おう!? ど、どうも」
眼鏡の男性に案内されてユウヒが着席すると、ちょうど会議室の扉が開き石木が速足で現れた。部屋に入るなりユウヒに気が付いた石木は、小さな子供なら泣きそうな笑みを浮かべ、機嫌よくユウヒの肩を力強く叩く。
「わりぃなぁ、うちの連中がアーケードドームの件で聞きたいことが山ほどあるらしくてよ。なんだ、男心を擽られてたまらんそうだぞ?」
「あぁ・・・一号さん達かな」
ユウヒの隣に勢いよく座った石木曰く、ユウヒが想像した通りアーケードドーム内部に関する話の様で、男心と言う言葉に一号さんの偉容を思い出したユウヒは、十中八九彼女の事を聞きたいのだろうと苦笑を洩らす。
「で? ありゃ何だ」
すべて察した苦笑いを浮かべるユウヒを、隣に座る石木は身を乗り出す様に見詰めるとまるで問い質す様に問いかける。石木が迫った分だけ背中を逸らし逃げるユウヒに、周囲が生暖かい視線を送る中、ユウヒの対面に座った眼鏡の男性は小さく溜息を漏らす。
「大臣、順序と言うものがあります」
「気になるじゃねぇかよ・・・わかったわかった」
呆れを多分に含んだ声が聞こえて来た方へと視線を向け、自分の知りたいことを優先しようとする石木であったが、眼鏡のブリッジを中指で上げて調整する男性の視線に降参したのか、手を仰いでみせると自分の椅子に深く座りなおすのであった。
「それでは人も揃ったようですし、夕陽さんへの質問を始めさせていただきます」
溜息を吐きながら椅子に座る石木を見て、呆れた様な、疲れた様な溜息を吐いた男性は、周囲に視線を送ると一つ頷き話し始める。
「現在縮小が完了したアーケードドームについてですが、いくつか確認したいことが出て来ましたので、今日はごく限られた関係者に集まって頂きました。先ず前提として、現在のドーム改めゲートは安定しているのでしょうか?」
「特に問題ない様です。一度安定すると管理しやすいようなので」
石木が落ち着けば話は滞りなく進み始めた。現在のアーケードドームは、暫定的に名前をアーケードゲートに変更している。呼びづらいので現場の人間からはゲートや12ゲートなどと呼ばれるそれは、眼鏡の男性の質問にユウヒが答えた通り非常に安定している。これはすでにユウヒが現場の人間に伝えているのだが、周知の為に質問した様だ。
「消すのは?」
「そっちは全く分からないそうで」
「そか・・・」
淡々と答えるユウヒに、次の質問をしようと男性が口を開くより早く、片肘を突いた石木が体をユウヒに向けて問いかける。周囲の人間が苦笑する中、ユウヒは首を横に振り石木を筆頭に周囲は残念そうな、しかしそれだけではない微妙な表情を浮かべた。
「次に異世界側にある施設ですが、現地人に聞いたところ夕陽さんの持ち物と言う事ですがどう言った経緯で手に入れられたのでしょうか?」
小さく呟いた石木の視線を受け、眼鏡の男性は次の質問に移る。ユウヒの紹介もありスムーズに現地住民と交流を図ることに成功している自衛隊。しかしその交流の中で、異世界の周辺施設がすべてユウヒの所有であると言うことに、一部で疑問の声が出てきたようだ。
何故なら、世界樹を囲む外壁や一号さん達の住居だけでも広大であり、そんな施設を簡単に手に入れられるとは思えなかった自衛隊員達の中で、エルフ達の住む住居までユウヒの持ち物だと言われ、ユウヒが違法な手段で手に入れたのではないかと言う心配が出てきているのだ。
「手に入れたと言うより・・・作ったと言うか」
そんな不安が広がっていることを知らないユウヒは、首を傾げながら入手ではなく作ったと話す。自分で言っておきながら信じられない内容に、ユウヒは思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「・・・作った? ご自分で建てられたと言う事ですか?」
「ええまぁ・・・」
彼の苦笑いを見詰める人々の反応は二通りで、すでに資料としてゲートの先に広がる、整然とした異世界の町並みを写真で確認している自衛隊関係者たちは驚きが大半の様だが、一部はユウヒにキナ臭げな視線を向けている。
実際問題ドームが発生してからの短期間で、エルフ達が移り住むに十分な街並みをつくることなど出来るとは思えない。ユウヒ自身自分の目を疑わずにはいられない状況であるが故に、彼は特に何か話すことなく苦笑を浮かべたままである。
「・・・それではあの巨大な樹に関してなのですが、我々が近づくと現地住民がひどく警戒するそうなのです。向こうの説明を聞く限り御神体の様なものと言う認識なのですが」
そんなユウヒの表情を見詰めていた眼鏡の男性は、何か納得したような表情を浮かべ眼鏡のブリッジを持ち上げると、次の質問に移った。
周囲が男性に視線を向ける中、彼は世界樹について問いかける。どうやら名もなき異世界に簡易基地を建設していた自衛隊員は、見上げても見上げきれないほど大きい世界樹についても調査を行ったようであるが、基地建設に協力的なエルフ達であっても、彼らが世界樹に近づくとひどく警戒して近づけさせないようだ。
「ココ、世界樹ですか・・・」
御神体と言う言葉に間違いではないなと頷くユウヒは、エルフ達の警戒具合が容易に想像できたのか、少し困った様子の男性に申し訳なさそうな苦笑い浮かべ呟く。
「世界樹って神話のか?」
「大体あってる気もしますが、もっと現実的なものですかね? エルフや魔族にとっては実際に会って話せる神様の様な存在ですし、現実問題、あの樹が無くなると異世界が崩壊すると思います」
名もなき異世界の住民、特にエルフにとって世界樹とは最も重要な存在である。ただでさえ母樹が基人族に燃やされてしまったとあって、ユウヒの知り合いという自衛隊であっても不信感は拭えず、常に警戒しているようだ。
「な・・・それが事実なら確かに警戒されますね」
さらに世界の存続に深くかかわる存在という説明に、俄かには信じられない眼鏡の男性は、しかし現実問題として報告にあったエルフの警戒する様子を確認している為、深刻な表情を浮かべずにはいられない。
「会議終わったらすぐに連絡しとけな」
「はい!」
険しい表情を浮かべるのは彼だけではなく、この場に居合わせる人間の半数ほどは似たような表情を浮かべており、軽く眉間に皺を寄せていた石木は円卓の一角に目を向けると、服の内ポケットを気にしていた若い男性に指示を出す。どうやらアーケードゲート駐屯部隊の関係者のようだ。
「実際にはどう崩壊に繋がるのでしょうか?」
ざわつく会議室が少し落ち着いてくると、何事か考えていた眼鏡の男性がユウヒへの質問を続ける。崩壊や滅亡などと言われてもイメージが湧かないのは彼だけではないらしく、周囲から一斉にユウヒへと視線が集まっていく。
「詳しくは色々と難しい話なんで私も把握出来てないですけど、魔力の循環が滞ると世界が崩壊する可能性が出て来るとの事で、その循環プロセスの一つを行っているのが世界樹です。ただあの世界には世界樹自体がもう少なく、その役割を担う他の存在も居ないらしくって」
アミールに色々と世界の裏事情を聞いたユウヒは、魔力のある世界は大半が不安定な世界であると言うことを知っている。それ故、名もなき異世界もそれに該当すると考えているようで、実際に右目で世界を見て回り、住民に話を聞いて回った結果、それはより確固とした考えになっていた。
「それで滅びか・・・その樹の絶滅を防いだんだからそら信頼されるわな」
安定化には不活性魔力と活性化魔力の割合が重要であり、勝手に活性化されるより圧倒的に不活性化するほうが多い名もなき異世界で、世界樹とは正に世界を守る存在なのである。それを復活させたユウヒが、名も無き異世界でどれほど感謝されているのか、それを正確に把握できている者はこの場にいない。
「あと3本ですけどね・・・それにしても信頼ですか、まぁ良くしてもらってるかな?」
「・・・」
少なくともこの場で最も過小評価しているのは、石木から呆れたような視線を受けるユウヒ自身であろう。
石木の視線に首をかしげるユウヒを周囲が何とも言えない視線で見詰める中、気を取り直した眼鏡の男性は小さく咳き込み喉を整えると、ゆっくりと口を開く。
「えーでは、たぶんこの事が一番聞きたい人間も多いと思いますが、夕陽さんの部下だと言うあのロボット? はいったい何なのでしょうか?」
「・・・」
どうやら本日のメインディッシュであり、ユウヒが一番困る質問が始まったようで、思わずユウヒは珍妙な表情で押し黙る。それは何も答えたくないから押し黙ったわけではなく、どう答えればいいか判断に困ったが故の沈黙であった。
「俺はあれに見覚えがあるんだよな、俺もFPSエリアによくログインしてたしよ?」
沈黙を続けるユウヒを周囲が見つめる中、石木は徐に体をユウヒに向けると、片肘を机に突きながらゲームの内容を話し出す。
「クロモリプレイヤーなんですか」
ユウヒや石木がプレイしていたというクロモリオンラインとは大規模多目的オンラインゲームなどと呼ばれる少し特殊なゲームである。その最も大きな特徴は、コミュニケーションエリアと言われる場所に、複数存在する黒き森と言われるドームの奥に、様々な形式のゲーム世界が存在しているところだ。
一人自分の代わりとなるゲームキャラを作成すると、同一キャラクターでRPGもFPSも恋愛ゲームすらも、エリアを渡り歩くことで遊べるというのがクロモリのコンセプトである。そんなゲームのプレイヤーたちは、たいていホームとするプレイエリアが決まっているため、あまり行かないプレイエリアについては詳しくない。
「仕事忙しくなってからは真面にやって無いがな」
そんなゲームのプレイヤーの一人である石木がホームとしていたのは、近代から未来までの世界を銃や戦車や戦闘機、時にはロボットに乗って戦うFPSエリア。そこで、石木は報告書に上がっていた、世界樹をバックにポーズをとるロボットと、同じものを見た覚えがあると話す。
「そうですか、彼女たちのモデルは確かにクロモリFPSエリアの某ロボットです。作ったのは私が最初に迷い込んだ異世界に居た頃です」
「まだいろいろ隠してたか、まぁ良いけどな」
様々な異世界話をユウヒから聞き一喜一憂していた石木は、ゲーム内のロボットをモデルに本物を作ったと話すユウヒに、呆れつつも嬉しそうな表情を隠すことなく肩を竦めて見せた。
「作ったと言うのは俄かに信じられませんが、スペックはどういったものでしょうか? ・・・正直夢でも見ているのではないかと言う報告が、もう大量にですね」
ユウヒの話を全部とは言わずとも、半分くらいは信じているのは石木だけで、大半の人間はとても信じられないのか険しい表情を浮かべている。そんな中、同じくユウヒが巨大ロボットを作ったということを信じられない眼鏡の男性は、手元の資料に書かれた隊員からの報告に苦笑いを浮かべると、そのままの表情で質問を続けた。
「・・・」
その質問に周囲からの視線がさらに強まる中、ユウヒは目を瞑って口を閉ざす。正直どう説明しても信じてもらえないような気がしてならないユウヒは、説明内容を必死に考えているようだ。
「いいか? こっちでも観測して調べさせたが、あんなデカいのがあのスピードで動いて、さらにあの静音性能は有り得ないってことしか解らない。正直に言ってくれ、その結果で夕陽君をどうこうするなんてないから」
そんなユウヒの様子を、罰則を受けるのではないかという心配から黙秘しているように見えた自衛隊関係者たちは互いに視線を向けあうと、代表して一人が話し始める。厳格な雰囲気の男性曰く、明らかに現実離れした動きを魅せるロボットのスペックが単純に知りたいだけで、それを所持しているユウヒを法的に裁くつもりも凶弾する気もないと話す。
彼の言葉に頷き目を輝かせる者の中には女性の姿もあるが、総じて役柄的な責務より、少年のようなロマンを優先しているように見える。
「え? ああ・・・そうですね基本的な土木工事は一通り、と言うかあの場に有る物は彼女達が大半作ってくれましたので」
『・・・・・・』
目を瞑っていても感じる妙に熱のこもった視線に気が付いたユウヒは、目を開くと少し驚いたような表情を浮かべて話し出す。しかし、その内容は斜めを上を行くもので、今度は自衛官たちが声を失い会議室に沈黙が広がる。
「とんでもねぇな、で? 戦闘面は?」
見た目や動きから土木や建築のロボットとは思えず黙り込む周囲を見回した石木は、呆れ声でつぶやくと、周囲も聞きたいであろう本題を問いかけた。その問いかけに少し思い出すように考えたユウヒは、何でもないいつもの表情で口を開く。
「本気で戦ってもらったことが無いので、ただ理論上現行兵器であの装甲は抜けないんじゃないかな?」
「設定どおりかよ、実際に試してみたのか?」
何でもないような表情で、しかしとんでもない内容を話すユウヒに、周囲は思考が追い付かないのか遅れて驚きの表情を浮かべ、いち早く反応した石木は、クロモリ内でのスペックを思い出し苦笑いを浮かべて質問を続ける。
「いえ、傷つけたくはないですから試してないですね」
一号さんたちとのことを思い出すユウヒは、全力で動いてもらったことがないなと首を傾げ、石木に目を合わせると試していないと答えた。正直ユウヒの中で彼女たち最大稼働して見せたのは、世界の壁を越えた時であり、しかしそれがどう装甲に負担をかけるかわからないので、彼自身判断のしようがない。
「大臣?」
「もしだ、仮にだがそのロボットが俺の想像通りで、ユウヒが忠実に再現した場合・・・」
小首をかしげ考え込むユウヒを神妙な表情で見つめていた石木は、声をかけてきた眼鏡の男性に向かって話し出す。もし、仮に、ユウヒがクロモリ内に出てきた同一のロボットを忠実に再現した場合、どう言ったスペックになるのか考えていた石木。
『・・・』
「某国が核を何発撃っても倒せん、と言うか撃っても着弾前に撃った側が全滅する」
石木の雰囲気に周囲が緊迫した空気に包まれる中、彼はありえないスペックを話す。石木の言葉に周囲の人間が目を見開く中、一号さん達を右目で度々調べていたユウヒは、肯定するように顔を上げると、視線を右上に向けて顎を指でなでる。
「ばかな」
「あり得ません! そんな存在があり得るわけない!」
「仮だ仮、俺も頭っからは信用出来ねぇよ」
数舜の間が会議室を支配するとすぐに騒がしくなる。数人の自衛官が椅子を蹴飛ばすように立ち上がりあり得ないと声を荒げ、そんな彼らに大臣は仮の話であると話しながらも、心の中では現行の戦車では太刀打ち出来ない可能性も考えていた。
「いったいどうやって作ったのですか? 同じ物または量産と言ったことは可能なのですか?」
「あー・・・それはもう無理ですね。作れないです」
騒がしくなる会議室の中で、立ち上がりユウヒに顔を近づけ、食い気味に質問をする眼鏡の男性に、ユウヒはそれまでより少しだけ興奮したような印象を受ける男性の顔を困ったように見詰め、量産どころか新しく作ることも不可能だと話す。
「なぜ?」
「先ず何にしても魔力が足りないです。それはもうどんな手を使っても調達不可能なくらいで・・・(まぁ魔力あれば作れるってことなんだけどね・・・)」
なぜなら絶対的に魔力が不足しているからだ。それはユウヒがどう足掻いても確保できるような魔力ではなく、乙女に摘出されたような神の遺物でもなければ、ただの人間の身で確保できるような量ではない。ただ、それさえクリア出来れば作れるという事実は言わないことにしたユウヒ。
「・・・まぁどの道、夕陽は保護対象だな、別に監視とかは付けねぇが、攫われたりした時は最優先で救助されるだろう。いや、するだな」
何か隠してそうなユウヒの表情をじっと見つめていた石木は、その表情にどっかの傭兵を思い出し溜息を漏らすと、ユウヒに向かって保護対象という言葉を使う。どうやらドーム縮小から続く一連の騒動は、ユウヒの重要度を相当跳ね上げたようである。
「他国に情報を渡せないですか?」
「そう言うこった」
保護対象という言葉からいろいろ察したユウヒは、少しだけ目を細めると、ニヤリと男臭く笑う石木に問い掛け、問われた石木は嬉しそうに頷く。
「・・・いい子達なんですけどね」
そんな石木の笑みにユウヒはめんどくさそうな感情を隠すことなく顔を顰め、周囲で盛んに相談がされている一号さんについてどう対処するかの話に耳を傾けると、不機嫌そうに呟く。
「・・・まぁいいだろ、別にこいつは戦争おっぱじめようなんてしないだろから許可する。でも、変な事に使うなよ?」
ユウヒから一号さんを接収するべきや、日本に持ち込まないようにするだけで良いなどといった、所有者を無視した会話がなされる空間で、ユウヒがフラストレーションを静かに溜めていると、石木は拍手を打ち注目を集め、一号さんについて全てユウヒに任せると決定する。
『大臣!?』
予想外かつ一方的な決定に周囲の自衛官達が驚きの声を上げ、ユウヒが無言で目を見開く中、石木は睨みを効かせて黙らせると、静かに話し出す。
「・・・はぁ、どの道お前らも察してるだろ? こいつは某傭兵集団の唾付きだ、敵に回せねぇよ。俺は嫌だぜ? それに接収してどうするんだ? 扱いきれねぇだろ・・・現実をもっと見ろ」
ユウヒを溺愛する人間たちを遠回しに上げて、国としても敵に回せないと話す石木は、ロボットの接収に積極的だった人間たちに目を向けると、心底呆れた表情で現実を見ろと注意を促した。
「やっぱり・・・」「どおりで」「・・・無理だな」「日本が滅ぶ」
「・・・・・・」
某傭兵集団という言葉に疑惑が確信に変わった自衛官達が頭を抱え、わからない者たちは訝し気な視線を石木や周囲に向ける。そんな話を聞いていたユウヒは、某傭兵集団と言う人物たちを数えるように思い出しながら、途中で何とも言い難い微妙な表情を浮かべて溜息をもらす。どうやらあまり楽しい思い出ばかりではなさそうだ。
「まぁあいつらも丸くはなってたが、赤狐はいろんな意味で強化されてっからな、最善は協力関係だ」
「・・・・・・なんだかすみません」
知り合いを思い出しながら、その中でもトップレベルな問題児? である母の輝く笑みを思い出すユウヒは、疲れたように石木と眼鏡の男性に頭を下げる。少し考えただけでも問題多数な自分の友人関係に、ユウヒは改めて申し訳なくなったようだ。
「おう?」
「いえ、日本に存在するわけでもありませんし持ち出せませんよね? それに戦闘用ロボットの所持に関する法律も今の所ありませんから」
「あう、あう・・・あの子たち、土木用何ですけど」
肩を落とすユウヒに苦笑を浮かべた石木は、荒っぽい手つきでユウヒの頭をたたくように撫で慰める。そんな力強い石木の手付きに声を乱す彼の姿に、笑みを浮かべた眼鏡の男性は特に問題はないと話しいくつかの書類を仕舞う。
眼鏡の男性の笑みにほっとしたユウヒは、頭を撫で叩かれながら残念そうに呟く。どうやら理解してもらえないことにへこんでいる様だが、誰が考えても土木用だからと言われて安心できないであろう。
「おま、俺の想像通りのスペックならそりゃもう土木ロボって言わねぇよ!」
その証拠に、現状わかるだけの情報だけでも、突っ込みを入れる石木の意見に賛同しない者はこの場に居らず、不服そうに首をかしげるユウヒを見詰める一部の人間は、その背後にとある赤毛の女性を幻視して深いため息を漏らすのだった。
一方その頃、噂のロボットである一号さんはというと、
「ヘックシュン!」
何かを感じ取ったのかコックピットの中で盛大にクシャミを洩らし、顔に装着していたヘッドマウントディスプレイを大きくずらしていた。
「姉さん風邪ですか? 大丈夫ですか?」
「かな?」
機体内部の状況は外からわからないものの、何となく中の様子を察した二号さんは一号さんの足元に駆け寄り声をかける。機体内部で機器を装着しなおした一号さんは、見上げる二号さんにどこかキョトンとした雰囲気が伝わる色合いのカメラアイを向け、小首をかしげるのだった。
『・・・(ロボットって風邪ひくのか)』
姉妹たちが、今日は早めに切り上げて休もうなどと話す姿を遠目に見ていた自衛官達は、スピーカーで拡大された一号さんのクシャミとその後のやり取りに、まったく同じタイミングでまったく同じことを考えたようで、同じタイミングで顔を見合わせた彼らは不思議そうに頭を傾げたり、横に振って作業を中断させるのであった。
いかがでしたでしょうか?
ユウヒが保有する土地建物、そこに住むユウヒを慕う人々、さらには一号さんという存在の把握は、ユウヒの保有する戦力の把握でもあると言うサブタイでした。しかしユウヒと自衛隊の間では致命的な意識の違いがあるようで、それが今後どう影響してくるのかお楽しみに。
それではこの辺で、またここでお会いしましょう。さようならー




